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公述人(
北野弘久君) それでは、時間の
関係もありまして
三つの問題について
お話をしたいと思います。
第一は
消費税問題でありまして、
消費税法で規定いたします
消費税は学問上の
一般消費税であります、いわゆる
大型間接税に該当します。
日本は
国家財政収入のほとんどを
租税収入に依存するという
租税国家、シュトイエルシュタートの
体制をとっております。
日本国憲法の予定する
国家体制も実はこの
租税国家体制でございます。
日本は
経済的には、基本的には
資本主義経済体制を前提とすることになります。最近の
東欧諸国等の
動きを見ましても、
日本はこの
租税国家体制を恐らく永続的に、半永久的と言っては
言い過ぎかもしれませんが、維持していくものと考えております。
租税国家におきましては、
租税の取り方と
租税の
使い方、つまり広い
意味での
税金問題の
あり方が実質的には
憲法政治の中身を決定するということになります。
人々の
生活であるとか人権であるとか、
日本の平和の問題も実質的には
税金問題の
あり方によって決まると言っても決して
言い過ぎではありません。
租税国家では、
人々が
税金問題を通じまして
政治の
あり方、つまり
税金の取り方と
使い方を民主的にコントロールすることが期待されておるのであります。
消費税は、本当の
納税者である
人々、
担税者の
皆さんを各人の
意思とは無
関係に
租税法律関係から形式的にも排除してしまう
税金であります。私は、
人々は自己の
意思とは無
関係に
租税国家におきまして法的に
植物人間の地位に追いやられるということを言っておるのであります。これは決して
差別用語ではありません。
このように見ていきますと、
消費税の定着、そして拡大というものは、
日本の
租税国家あるいは
日本の
憲法政治を変質させるおそれがあります。そして、このような形で
消費税問題というのは単なる
税金問題ではないということに御注意願いたいと思います。それは
日本の
租税国家の危機の問題につながる問題であります。
消費税について申しますと、このような
租税国家における重大な本質的な問題のほかに、
皆さん御存じの
憲法の
議会制民主主義の初歩的な要請に反するという重大な問題がございます。
消費税を強行成立させました国会は、御承知のように
大型間接税は導入しないということを
国民に公約しまして当選されました議員を主体とするものでありました、これは
衆議院の話でありますが。
その後、各種の
地方選挙であるとか、あるいは昨年七月の
参議院選挙等におきまして
国民は、
消費税はノーである、あるいは
消費税はまず廃止すべきであるという審判を下しました。本年二月の総
選挙におきましてもそのような審判は下されておると私は見ておりますんですが、自民党は、一方におきまして
選挙の過程におきまして
人々を惑わすようなわけのわからない、私から申しますとわけのわからない
消費税の見直し案を
国民に発表しました。他方におきまして
消費税問題を総
選挙の争点から外すような戦略を用いたのであります。それにもかかわらず、自民党の得票率はわずか四六%にすぎなかったのであります。したがいまして、この前の総
選挙におきまして
消費税問題が
国民から信任されたということにはなりません。私としましては、
日本の民主主義を守るために、何としても
消費税を廃止していただきたいと考えるのであります。
もし自民党の
皆さんが
消費税を本当に見直したいというのであるならば、次のようなことを
国民に公表すべきであります。まず第一に、免税点を五百万円に引き下げる。二番目に、簡易課税、限界控除の制度を廃止するかまたは大幅に縮小する。三番目に、伝票式に切りかえる。四番目に、逆進性を緩和するために伝票式を前提としましてゼロ税率等の制度を導入する。第五番目に、対消費者、消費者に向かってはむしろ外税方式を今後とも徹底する。そして第六番目に、税率は一五%に引き上げますということを
国民に発表すべきであります。これは一たん廃止した後で、この恐るべき
消費税の見直し案を
国民に問う必要があると考えておるのであります。
昨年の大蔵省の計算によりますと、導入時の計算でありますが、竹下税制
改革では二兆六千億円の減税超過をもたらす、歳入不足をもたらす、これは少な目の数字だと私は考えておりますが、加えまして民間の専門家
グループの計算によりますと二兆円ないし二兆五千億円の
財政の自動支出増をもたらす。それに税務職員一万人以上をふやす必要がありますので、徴税費の増大などを考える必要があります。そうしますと、三%では私たちの計算では数兆円の歳入不足となります。三%では一円も福祉に回す金は出てきません。
消費税を本当に福祉目的税にしたいというのであるならば、最低限度、国の
予算の社会保障費十一兆円をもカバーしなければなりません。数兆円の歳入不足分、そして社会保障費十一兆円をカバーするためには、
消費税率は最低一五%に本年からも引き上げる必要があります。
消費税収入の約四割が地方自治体に還元されるという現行制度を前提にしますと、一%で二兆円の税収計算を行ったとしますと、どうしてもこのように一五%にしなくちゃならないことになってきます。
自民党の見直し案はこの恐るべき本当の見直し案を覆い隠すものでありまして、
国民に
消費税の恐ろしさを忘れさせようとするものであると私は考えております。
四十一年前にシャウプ教授は、
日本が間接税に傾斜した
租税国家となることに対しまして大変な危機を
感じられまして、警鐘を発しておられます。
政治後進国であり、九九%以上が中小業者という
日本経済構造の特殊性は、私はある
意味では資本主義のすぐれた面を示すものと考えております。つまり自由競争の原理を活性化させるというそういう
意味では非常にすぐれた面だと考えておりますが、この
二つの
日本社会の特殊性からいきまして、
消費税をまともに
日本社会に適用した場合には大変恐ろしいことが起こるであろうと考えております。今のところ、いかなる型の
大型間接税も
日本社会に合わないと考えておるのであります。後に述べますように、
大型間接税を導入しなくても二十一世紀の
日本の
租税国家を展望することができます。
以上が
消費税問題でありますが、第二の問題としまして土地税制について簡単に触れておきたいと思います。
四月二十日から五月の初旬にかけまして
ドイツを含む
ヨーロッパ等に調査に行ってきました。その辺のことも確認した上で申し上げたいと思いますが、
日本における土地価格の異常な高騰というものはこれは常識で考えられないことでありまして、
ドイツの学者に申しましたらみんなびっくりして、本当かということを盛んに言っておりました。決して土地の需要と供給の
関係から生じているものではありません。地価高騰の原因、土地の私物化、商品化、土地投機、スペキュレーションを容認し、むしろそれに拍車をかけてきたのは
政治であります。
欧米社会では、土地は社会公共のものであるという土地公有権の思想が定着しております。これは資本主義法の思想であります。社会主義法の思想じゃありません。資本主義土地法の思想であります。土地所有権者の私の権利、プライベートライトと言っておりますが、私権は、現にその者が居住なり職業従事なりに必要な限りの範囲の土地利用をなし得るにすぎない。その者の一定の生存権的財産のみが人権として保護されるというのが資本主義土地法の
考え方であります。この
人々の生存権的財産を確保するために、むしろ非生存権的財産である投機的な財産等に対しましては国または地方公共団体の実質的な管理下に置くべきであるというのが欧米社会の土地法理論であります。
私たちは、
日本国憲法もこのような土地公有権の理論を採用していると考えております。
実は、マッカーサー
憲法草案におきましては、この土地公有権の思想を明文で規定するドラフトもございました。各地域にふさわしい土地利用計画、都市計画を設定しまして、各土地利用区分ごとに
日本国憲法の土地法理論に適合する土地税制を含む土地
政策を区別して適用すべきであります。
憲法の意図する土地税制は次のようなものになります。
第一に、法人、個人ともに所有期間、保有期間ですね、長短を問わず、地価高騰前の一定の基準日における適正価格までの土地の譲渡所得分、譲渡益分に対しましては総合累進課税を行います。適正価格を超える譲渡所得部分、つまり超過利益分に対しましては、これは社会公共に還元するという
意味で一〇〇%の課税を行う。
二番目に、固定資産税等につきましては、土地を生存権的財産、投機的財産、資本的財産等に区分しまして、区分したところで各別の課税の仕方
を適用していくことになります。
一定の生存権的財産につきましては非課税にするという、これは
憲法の要求でありますが、非課税、またはもし課税するとするならば、生存権的財産は売却をしませんので、譲渡をしないことを前提として利用するだけでありますから、資本主義法の理論としては利用権の価格しかありません。利用価格、あるいはユースバリューと言っておりますが、
経済学では収益還元価格という言葉で表現する価格でありますけれども、それを課税標準としまして低い税率で課税する。一方投機的財産につきましては、これは不動産業者の商品としての土地であるとか企業が買い占めた土地であるとか高級別荘地等を指すんですが、そういう投機的財産につきましては、実勢価格、実際の不動産取引価格を課税標準としまして、しかも保有できない、キープできないほどの禁止的な高税率を適用する。そうするとぱっと地価が下がります。だれも土地を商品化する者が出てこなくなる。そして資本的財産、これは大企業の事業用の敷地等でありますが、これは事業の継続が必要でありますので
二つの財産の中間程度の負担を課す。こういうふうに区別して課税の仕方を考えなきゃいけない。
現行法のもとでも、各自治体は固定資産評価条例におきまして、一定の生存権的財産については
憲法が要求するような利用価格で評価することを適法に定めることができるというのが私の税法理論でありまして、これは明年からも可能であります。
三番目に、
金融緩和とともに、企業の実質税負担率が非常に軽いということが金余り現象をもたらしておりまして、土地の仮需要の増大、そして地価上昇に拍車をかけてきたのであります。そこで土地税制という観点からも、すべての不公平税制の典型である
租税特別措置の全廃を行うべきである。それから法人税率等の累進税化、私は法人税につきましては一五%から五〇%の累進税化を行うべきだと考えておりますが、を行う。
四番目に、法人所得の計算上、土地を取得した場合に借金をしましたその借金の利子の損金算入の大幅な規制を行う。一部現行法では特例として規定されておりますが、それを全面的に導入することを検討する。固定資産税等の保有税の支払い分についても法人所得計算上の損金算入の規制を考えるべきであるということであります。
五番目に、所得に表現されない隠れた担税力をつかまえるために財産課税をもっと整備するということでありまして、さしあたり国税として土地と株式、これは
日本の
政治の恥部でありますが、土地と株式等に限定しまして、これは表現された財産ですから隠しようがありません、大企業に対しまして限定財産税を毎年課税する。課税標準は基準日の、毎年の一定日の時価であります。
個人の資産家につきましても、一定の生存権的財産以外の土地と株式。個人の場合は住宅地等の一定の生存権的財産を除外します。農地等も除外しますし、中小零細業者の事業用の敷地であるとか、中小企業のオーナー社長が持っておる自社株の持ち株、こういったものは生存権的財産でありますから、一定の要件を決めてそれは除外します。それ以外の土地、株式等の一定以上のものを持っている者について限定財産の税を毎年課税する。こういう形で、これからは二十一世紀に向かって所得課税と財産課税とをセットにしたところで直接税の公平論を考えなきゃいけない、こういうことであります。もしこの限定財産税を直ちに導入できない場合には、
皆さん御存じの、企業を
中心に土地増加益税というものを早急に導入するということを考えるべきだと考えております。
第六番目に、相続税につきましても一定の生存権的財産については非課税にするか、あるいは課税するとしましても利用価格による課税を行うべきであります。課税最低限の引き上げだけでは対応できないということであります。相続税は金持ちの財産でありますから、ネズミ小屋を残したといっても東京では相続税が大幅に変わってくる危険性があります。
七番目に、目下一部で論議されております市街化区域内の農地に対する固定資産税、相続税のいわゆる宅地並み課税論でありますが、現在の土地行政を前提とする限りは私は地価の高騰の抑制にならないと考えております。むしろかえって地価が高騰するであろうと考えております。農業をやめましてせっかく放出されましたダイヤのような農地が、現行の土地行政を前提とするなら新しく資本のえじきになるだけでありまして、地価高騰をもたらすだけであります。
それから食糧の確保のほかに、都市環境の保全であるとか、防災等の観占…からも、現代においては整備された、秩序化された、整序された都市農園というものは大都市の基本施設として不可欠であるということを申し上げておきたいと思います。
第三の問題、
最後でありますが、時間が少なくなりましたので大急ぎで申しますが、二十一世紀の
日本の
租税国家の
あり方をどうするかということについて、簡単に申し上げておきます。
第一に、さきにも述べましたところですが、
租税特別措置の全廃を行う。
二番目に、法人税等の累進税化。
三番目に、所得課税と財産課税とをセットにしまして直接税制度の抜本的整備を行います。財産課税につきましては、大企業、大資産家については、さっき申しました土地と株式等を
中心に抜本的に財産課税を整備する。
四番目ですが、所得課税においては、
憲法の最低
生活費非課税の観点から、基礎控除等の課税最低限を大幅に引き上げます。また、物価にスライドしまして減税する自動物価調整税制を整備いたします。これは、
日本社会党も大分前に法案を用意しているのでありますが、ぜひこれを実現させてほしいと思います。財産課税におきましては、一定の生存権的財産は非課税にする。または課税するとしましても利用価格で課税するということを考える。
五番目に、以上のように、今後とも所得課税、財産課税の直接税を
中心としまして
日本の
租税国家を維持していく。間接税は個別
消費税の枠ので直接税を補う
税金、補完税として位置づけて備いたします。その際、例えば自動車等はもう衆化しておりますので、大衆車はむしろ免税点以下にするという形で、消費の実態に適合するような形で個別
消費税を抜本的に整備する。
六番目ですが、税の
使い方についても、
納税者、
国民が法的にコントロールすることができるようにするために、税の
使い方についても、それなりの法律の基準を整備いたします。それからさらに、
納税者が税の
使い方についても訴追できるように
納税者検査請求であるとか
納税者訴訟の制度を導入いたします。この制度は不公平税制、不公平税務行政についても適用することができるようにいたします。つまり、
納税者が
税金の
使い方、取り方について法的にコントロールできるようにする、こういうことであります。
七番目に、ますます重要になってきます健康保険
財政であるとか年金
財政につきましては、福祉
憲法の
考え方に従って現在の独立採算制の建前をやめまして、一般財源、一般の
税金によって賄う建前に基づいて
日本の年金
財政等をどうするか考えていただく。
それから八番目ですが、高齢化社会論から
大型間接税の導入の必要性が一部において主張されておりますが、二十一世紀においては子供の人口はふえないというふうに人口学者は言っておりますし、一方、医学の発達によって六十歳、六十五歳以上の人もみんなぴんぴんしておるということで、
自分の熟年時代を豊かに生きるためには生涯働いてもらう。そして、直接税である目に見える所得税、財産税を納めてもらう。この直接税の方が
人々のタックスライフを豊かにする、こういうことであります。それから、二十一世紀は戦争の危険は全くありません。軍事費を大幅に縮減していただく。そして、税源配分の構造でありますが、
憲法の地方自治、福祉国家、平和国家の理念に従って地方の分権国家をつくっていただく。そ
のためには、現在の中央集権的な
租税国家体制をやめていただく。
税金は、できるだけ市町村で取っていただきまして、そして余ったものを都道府県に持っていく、そして余ったものを国へ持っていくという形で現在の税源の配分構造を変えていただく、こういうことで分権国家をつくっていただきたい、こういうふうに考えるのであります。
御清聴どうもありがとうございました。(拍手)