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参考人(
稲田俊信君)
稲田でございます。
ただいま
河本先生から
中小企業と
小規模会社を
中心とした
お話がございました。実は私もこの
最低資本金ということを
前提としてきょうここで
お話ししたいと思いまして、一応
自分なりの原稿をつくってまいりましたので、これを
中心として
お話しさせていただきます。
まず、今回の
改正の
中心というのは、ただいま申しましたように
小規模会社のいわゆる
法制度の確立という面と
整備という面にあるということは、もう御
承知のとおりであろうかと思います。この場合に一番出てまいりましたのが、やはりこの
最低資本金制度であろうということができると思います。ただいま
河本先生の方からも
お話がありましたように、一体いかなる
最低資本金制度、
最低資本額というものが妥当であるかということが一番問題にされているわけであります。
ここで考えなければならない事柄は、この
最低資本金というものが一体本質は何なのか、しばしばこの
資本金というものをいわゆる大
企業で使われる、あるいは
会計学において使われるようないわゆる
資本金というふうにとらえ、こういうとらえ方でいきますと、
債権者保護という面が非常に前面に出てくる。これはいわばその
資本金の額に当たる
財産を常に
企業は確保しなければならない、こういうところから申しますと、
会社債権者、いわばその
会社と取引する者についての担保的な効力をこれによって果たされる、こういう形で説かれているわけであります。実は、
商法の
規定における
資本というのは、まさにこういうような
債権者保護ということを
前提としたところの
金額でとらえられている、こういうふうに言うことができるかと思います。
これに反して、実は
有限会社法におけるところの
資本というものの考え方というのは、実は御
承知のように、これは十三年に
有限会社法が制定されたわけでございますが、この第九条に、
出資というものは一万円を下ってはならないと、こういう形で制定の段階から
最低一万円を
出資しなさい、こういう形で
有限会社法はでき上がってきたわけでございます。これを考えますと、
有限会社というものを
利用するには少なくとも
昭和十三年当時におきまして一万円
出資しなければならない、これはもう
最低の
金額として要求されるもの。当時の
商法ではこういうことはございませんで、むしろ一株が五十円、それで七人の
発起人があればできる、こういう
形態ででき上がってきたわけですから、ここではもう
最低資本金という
最低の
出資額というものは全く
規定されていなかった。
このように考えていきますと、
有限会社法におけるところの
最低出資額一万円というのは一体どういう
意味を持っているか、これは今
河本先生も
お話がありましたように、まさに
有限会社を
利用するための
対価、いわば
有限責任会社の
制度を
利用して
企業活動を行う、そうした場合に自己の
出資においてのみ
責任を負えば足りる、こういう形ででき上がっている
企業を、これを
利用するための
対価として
最低出資しなければならない、こういう
利用に対する、砕けた言葉で言いますと
使用料というような形で
最低資本金額というものが初めから設定されていた、こういうふうに考えることができると思います。
さて、実は私、
資本金が一万円というものが現在の物価に直した場合にどのぐらいになるのかということをいろいろな試算で、いろいろな方面で
検討されているんですけれ
ども、一つの例証といたしまして十三年の
有限会社法ができ上がった当時の
有限会社法の
解説書がございました。これは
大橋先生がお書きになった
解説書なんですけれ
ども、その定価が一円二十銭であります。ほぼその同じ本を考えてみますと、大体二千円前後というのが現在の価格ではなかろうか。これを一円二十銭で割ってみますと千七百、千六百六十六と、こういう
数字が出てくるわけですけれ
ども、何か十三年当時の一万円というのは現在の千七百万円ぐらいに当たるのかなと、こんな感じがするわけです。十三年当時は非常に高い
金額をもちまして制定されたんだなということをその本から換算いたしまして考えたわけであります。
さて、そこで問題となりますのは、このような千七百万というような
最低資本金額を
有限会社法に現在課すということは一体どうなのかという問題が出てくるわけでありますけれ
ども、御
承知のように今度の
改正案は、この
最低資本金額につきまして、
株式会社は一千万、それから
有限会社については三百万。本来
最低資本金額というものがなかった
株式会社においてこのような一千万円というものを
最低資本金として掲げなければならなかったということは、これは現状から見ていきますと、非常に異常と思えるほどのたくさんの
企業形態が
株式組織をもって経営されるに至った、これはいわば
最低資本金額が
有限会社と比べてなかったということを
利用してこの
株式制度形態をとってきた。実はこの結果いろいろな弊害が出てくる。例えば
株式会社でありますと、
株式を
発行してこれは少なくとも市場に乗せてその中で
資本を調達していくという本来の目的があったはずでありますけれ
ども、これが小さい
企業に
利用されるともう初めから
株式などというような
観念すらない
企業がたくさん出てきてしまった。こういう
中小企業と
小規模企業が
株式というものを
利用する時点になるならば、これについてもいわゆる社員の
有限責任というものを
利用するためには、やはりここに
最低資本金制度というものを取り入れなければならない、いわば
有限責任形態をとって
企業活動をやる限りにおいては
最低ここに
出資しなければならない
金額というものを
株式会社にも設定しなければならない、こういうことになったんではなかろうか、こういうふうに推測されます。まさに現在のような
株式会社制度というものが存在する限りにおいては、依然として
有限会社のみに
最低資本金制度を設けただけでは足らず、やはり
株式会社に設けない限りにおいては異常な数が出てきて、本来的な
会社制度というものとどうもかけ離れたものが出てきてしまう、こういうようなところから
株式会社にも
最低資本金制度というものをつくらなければならなくなってきた、こういうふうに考えることができるかと思います。
さて、そうした場合に、同じ
有限責任制度をとる
会社でありながら、
片方は一千万円、
片方は三百万というのは一体どうして出てくるのか、こういう疑問がわいてくるわけですけれ
ども、これは
株式会社というものは本来多くの人々から集めてきた
資本というものを
前提として経営される、いわば
株式会社の方が大きい
組織形態である、それに対して
有限会社の方は少々小
規模的な、
株式と比べるならば小
規模的なもの、こういう我々の持っているところの
既存の
観念というものが、いわばこれは
社会感覚と言ってよろしいかと思いますけれ
ども、そういう
感覚が
前提として存在するのでこのような一千万、三百万というような形で分かれてきている。これは
河本先生から既に御指摘があったわけですけれ
ども、最近は御
承知のように一億円近い
有限会社が
設立されるようになってきて、その
規模的な面でも
有限会社と
株式会社の
観念というものが
実務界ではだんだん解消されてきているというふうに考えてもいいんではないか、こういう
現象が最近起こりつつあります。しかし、これはまだ固定化したものではございません。こういうようなところから、大小の区分というものが
感覚的にも
社会感覚にある限りにおきましては、ここにやはり
一定の差を設けたところの
最低資本金制度というものを取り入れなければならないということになろうかと思います。
さてそこで、一千万、三百万というのが現在の
経済観念からいって妥当であるかどうか、今
河本先生は国際的と言われましたけれ
ども、こういう国際的に見ても妥当かどうかという問題がございます。しかし、
現実に存在する
企業というものを今回の
改正のように同時に同じ
資本金を埋め合わせていこうということになりますと、実は
既存の
会社の
経営者が持っている
観念というのは新しくつくる
企業家と少々違う
観念を持っている。 実は私も
中小企業庁の
改正案に対する
意見をまとめるときにお手伝いさせていただいたわけですけれ
ども、その中のいろいろなデータを見ましてもこれが出てまいります。とりわけ出てくるのは、我々は長年低い
資本でやってきたけれ
ども、他人には迷惑かけてないんだ、
債権者にも支払いを遅滞したこともない、我々は一生懸命努力しているんだ。にもかかわらずここへ来て
資本金を高くされるということは、非常に何か悪いことをしていたというような
感覚になるんだ。しかも、それが高い
金額に置かれた場合には、我々はそのためにまた個人的な資金をつくってここに繰り入れなければならない、こういうような声が出てくるわけであります。
そうしますと、こういう
感覚というのはこれは無視することができない
現実の
感覚でございますので、
株式会社というものに対する大
規模であるということの
観念というものを大事にするとするならば、ここに
一定の
金額に対する妥協的なものを見つけ出さなければならない。最初に出されたのが二千万であり、現在かけられているのは一千万ということは、少なくとも
中小企業庁の委託に基づく
調査などを見てもわかりますように、多くの
企業者がほぼ達成できるであろうということの
予測、これは六〇%前後から七〇%にわたっているわけですが、こういう
予測のもとに一千万円であるならば努力してまあこれを達成することができるであろう、こういうようなところで
株式会社の一千万というのが出てきた。これと比較いたしますと、
有限会社というものが三百万円になったのも、こういう
金額が一応妥当かなというように私は思います。
少なくともこのように設定した限りにおいては、
既存の
株式会社もまた新設する
株式会社もそのような
資本金額をもってぜひ達成していただきたい。また、達成するに当たりましては、いろいろな
法制度の面ではもちろんのこと、やはりこれに対する
税金という面でもこれを援助するという形で
中小企業が適応できるような法というものをつくり、それを遵守するというような
方向にぜひ向けていただきたい、こういうふうに私は思います。
なお、そのほか幾つかございますけれ
ども、例えば
設立に対する
適正化に関する
条文等は非常に精緻をきわめたところの
条文の
改正案が出されておりまして、これらについては別段
異論もありません。また、
中小小規模会社を
前提としたところのいわゆる
株式譲渡制限のある
会社の
株主の
支配権の変更を伴わないような
保護政策もきめ細かになされている。
ただ、一点これは問題になりますのは、いわゆる
経理の
公開に関する問題につきましては、
片方では
有限責任というものを
利用する限りにおきましては
経理の
公開というものによって
自分の
財産を明らかにし、適正な形で経営しているということを明らかにするという
制度の
必要性というものはあるのではないか。いろいろなこれに対する
悪用等についての問題もあるかもしれませんけれ
ども、みずからが適正な
規模で適正な
方法をとりながらやってくれるならば何らこれを隠す必要はなく、むしろ
公開することによって第三者に対しても迷惑を
自分たちはかけないということを明らかにしていただきたい。 この
意味におきまして
経理の
公開についても早急に
改正の
方向でひとつ
検討していただきたい、こういうふうに思われます。