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参考人(
山本恒夫君)
筑波大学の
山本でございます。
教育学系に属しておりまして、生涯
学習論、
社会教育学等の講義を担当しております。よろしくお願いいたします。座って失礼させていただきます。
それでは、私の
意見を述べさせていただきます。
私は、最近の国民の生涯
学習への関心の高まりとか、あるいは
学習活動の
活発化というような
状況を見まして、今回のこのような
法律がつくられることにつきましては
賛成でございます。その理由を申し述べてみたいと思います。
その
一つは、国民の
学習要求と
学習活動が多様化してきておりまして、それへの対応が必要になってきているということでございます。
昭和六十三年に、NHKの放送
文化調査研究所が
日本人の
学習関心調査というのを行っております。これは二十歳から七十九歳の国民を対象にするものでございます。それによりますと、
学習率は四五%でございました。その報告によりますと、一%が約八十五万人と計算しているようでございますので、
日本人で
学習をしている二十から七十九歳の方というのは約三千八百万人と推計されます。もちろんサンプリング誤差がありますからぴたっとした数字ではありませんが、大体そのぐらいと推定されます。その調査を見ておりますと、
学習が非常に多様化してきております。
一つは、
学習内容の多様化でございます。人気のありますのは、例えばお花とかゴルフとか編み物等々ですが、そういう人気のあるものでも
学習率は二、三%ぐらい。二、三%ということは、百人いると二、三人しかいないということでございます。
学習率が低いように見えますが、そうではありませんで、そういう項目が非常に多くて、その調査だけでも約三百項目以上に分散しているというような
状況でございます。そういう
状況をとらえて多様化と呼んでいるわけでございます。
それからもう
一つは、それだけではなくて、
学習方法面でも多様化してきております。その調査の場合には
学習方法をいろいろ挙げておりますが、十九種類にも分散しております。それを見ますと、個人で
学習する者が非常に多くなっております。例えば、本、雑誌というようなもので勉強している人、これが三割、テレビが一七・一%とか、新聞、テープ、レコード、社会通信
教育、ラジオ、ビデオ等々、これは個人で勉強するものでございますが、そういう個人
学習の手段、方法、形態が非常に多くなってきておりまして、それを合計しますと六三・六%でございます。それから二番目がグループ、サークルによるものでございます。趣味、
スポーツ等、グループ、サークル、クラブをつくって
皆さんいろいろ
活動をなさっておりますが、それが二六・三%、その次が
学級、
講座、あるいはセミナー、講習会等でございまして、内訳は
カルチャーセンターが一一・七%、公的な
学級、
講座が八・八%でございます。合わせて二〇・五%。ただし、
カルチャーセンターは、
カルチャーセンター等で
民間のセミナー、講習会が入っております。それから四番目が個人教授でございまして、これが一一・二%、一割ということでございます。合わせると一〇〇%を超えますが、これは一人で二つの手段、方法をとっている人もいますのでそうなります。
こういう
状況を見ておりますと、従来の
体制では対応できないものが非常に多くなってきております。例えば、先ほどの
民間の
カルチャーセンター、あるいはセミナー、講習会、専修
学校、
各種学校とか一般
行政の
事業などでございますが、そういう
関係のものが多くなってまいりました。また、それで
学習している人がふえてきますと、従来の
社会教育の側だけではうまくその辺との連絡調整等々ができないというようなことが起こってくるわけでございます。それが一点でございます。つまり、そういうことのためにそれに対する対応が必要だということでございます。
それから二番目は、
学習要求が強くても
学習できないでいる
人々がおりまして、その
人々への対応が必要でございます。今申し上げましたNHKの調査によりますと、具体的に
学習したいことがあるという方は五八・五%、すぐにでも
学習してみたいと思うことがある人は五八・五%でございます。もちろん、今
学習している人も入っております。先ほどの
学習している人という四五%を引いて計算いたしますと、単純に見ましても約千百七十万人の人が
学習したいけれ
ども学習できないでいるという
状況でございます。誤差がありますから、まあ一千万人ぐらいと見てもいいわけでございますが、そういう
方々が
学習したくても
学習できない。理由は、忙しいとか、あるいは費用がかかるとか、身近なところに
施設がないとか、
講座等々の時間、時期が適当でないとかいろいろあるわけでございます。
それで、その
学習希望を持っている
方々の
学習方法、形態等についての希望を見てみますと、一番今国民が関心を持っておりますのは、
カルチャーセンター、セミナー、講習会でございます。これを希望する人が二六・五%でございます。その次が本、雑誌等でございまして、二六・〇%でございます。第三位がグループ、サークルで二四・八%、第四位がテレビで二〇・九%、第五位は個人教授で一二・八%、第六位が知り合いと一緒にで一二・五%、
学級、
講座は第七位でございまして、一一・四%でございます。これは公的な
学級、
講座でございます。
こういう
状況になっておりまして、国民の
学習に対する関心とか
要求というものを生かしていくとすれば、やはりまたここでこれへの対応が必要になってくるわけでございます。そういう
状況に対応していくためには、どうしても生涯
学習推進体制の
整備というのが必要になってくるのではないか。しかし、それに対する法的な裏づけが今のところございません。そういう
推進体制の
整備ということを強力に進めていくためには、やはり
推進体制等の
整備に関する
法律が必要ではないかと
考えている次第でございます。
次に、それでは具体的に生涯
学習を
振興する上での課題につきまして申し述べてみたいと思います。
まず第一は、今のような
学習活動とか
学習要求の多様化というのがあるわけでございますが、それに対応していくためには、よく言われておりますように
学校教育、
社会教育あるいは
文化活動等々の有機的
連携が大変重要になってくると思います。多様化しました実態というのをよく直視しまして、生涯
学習関連施策とか
施設が
連携、協力してそれらの対応策を打ち出す必要があると
考えるわけでございます。
それにつきましては、例えば具体的に言いますと、
学習者が自分で自分の興味、関心に合わせていろいろな手段、方法を選んで自分のメニューをつくっていくというような
学習メニュー方式というのを最近打ち出しているのでございますけれ
ども、その場合には
学習者に選んでいただくメニューをつくる必要がございます。このためには、先ほど申し上げましたいろいろなところが
連携をしなければなりませんで、その
連携があって初めて
学習者が自分の興味、関心を生かした
学習をしていくことができるということになるわけでございます。ですから、どうしてもその辺の
連携が重要になってくるというわけでございます。それが大きな課題の
一つでございます。
第二番目としましては、
行政の役割としまして、国とか
都道府県、
市町村の
推進体制の
整備が重要な課題としてやはりあると思います。特に、生涯
学習推進についてのいろいろな調査をしたり審議する機関の設置が望まれると私は
考えております。今回の
法案ですと生涯
学習審議会というのが入っておりますが、それらがそういうことになるかと思います。
こういう調査、審議する機関というのはどうして必要かといいますと、第一に挙げました
連携、協力のあり方を検討してその方向を打ち出すということをどこかでやらなければならないからでございます。それが一点でございます。
それから、当然のことでありますけれ
ども、生涯
学習については、これは広く
社会教育だけではなく
学校もあるいは他の
行政機関も
民間機関も
学習者も含めて、何かの審議する機関をつくり、そこで調査、審議する必要があるというふうに
考えるからでございます。従来からの審議機関ですと、今のような幅広い層を含めることはちょっと不可能なのではないかと
考えてそのようなことを申し上げるわけでございます。それが二番目でございます。
第三番目の重要な課題としましては、
地域における生涯
学習の
振興のためには、
都道府県がさらに
市町村支援の役割を強化する必要があると
考えております。これも大きな課題と思っております。
学習活動、
学習要求の多様化ということに対しましては、
一つの
市町村で対応できないことが多くなってきております。当然、広域
サービスが必要となってきていると思うのであります。例を挙げますと、例えば
学習情報の提供ということを最近は言うのでありますが、
学習者とか
学習希望者が求めているのは、広域の
学習情報でございます。自分の住んでいる
市町村だけではなくて、隣近所あるいは時には遠く離れたところの情報まで求めております。そういう需要に対応するためには、やはり
都道府県レベルの
市町村支援の役割を強化する必要があるのではないかと
考えております。
それから第四でございますが、第四の課題としましては、公的機関、
施設の生涯
学習支援のことは当然でありますけれ
ども、それの強化をしなければならないのは当たり前でありますが、さらに
民間教育事業の役割を拡大することも重要ではないかと思っております。先ほど言いましたように、
カルチャーセンター等
民間のセミナー、講習会等で
学習したい人というのは非常に多いわけでございます。これにどう対応していくのかということも
考えなければなりません。
それからもう
一つは、生涯
学習における
地域格差の拡大を防ぐ必要がございます。これは生涯
学習の
振興が言われたときからあちこちで指摘がなされておるわけですが、どうしても条件のいいところが充実されてきまして、条件の悪い
地域はそのまま取り残されるということになりかねない。具体的に言いますと、大都市というのは
人々の方からしますと
学習機会に恵まれているわけでございます。小都市あるいは町村に行きますと非常にそういう点では恵まれないということがございますので、その格差を防ぐということのために私は
民間教育事業の役割を拡大する必要があろうかと思っております。
民間教育事業が公的機関、
施設と協力して役割分担をしていく、なるべく
地域格差を生じないようにしていくということがあってもよいのではないか。もちろんその場合には営利に走っては困るわけですから、今回の
法案を見ますとその点のチェックがなされているようですので、そういうチェックをしながら
民間の
教育事業等々にも一役担っていただいていいんではないか。
学校でも公立の
学校と私立の
学校があるわけでございますから、もっと入っていただいていいんではないかということでございます。それは、今回の
法案ですと
地域生涯
学習振興基本構想ということになっておりますが、その点について私は
賛成でございます。
以上四点、課題という点を挙げてみたのですが、
最後に、生涯
学習振興への期待を申し述べて終わりたいと思います。
生涯
学習の
振興というのは、漸進的アプローチで進めていただきたいと思っております。これは、生涯
教育の
考え方が
日本でいろいろ検討されるようになったときから言われていることでありますが、一歩一歩充実を図っていく、そのためには地味でも結構ですから基盤をしっかりつくるところから始めていただきたいというふうに
考えております。この
法案はそのような第一歩であろうかと思っておりますが、この
法案がすべて生涯
学習を
振興するときのいろいろな条件を
整備するというものではないと私は
考えておりまして、第一歩であろう。したがいまして、今後、次々と生涯
学習振興方策が打ち出されてくることを期待いたしております。
以上でございます。