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参考人(
中桐伸五君) では、私の方から指曲が
り症の
仕事との
関係と、治療の現状と、それからこれからの
公務災害認定の問題についての
意見を述べさせていただきます。
話をわかりやすくするためにきょうはパネルを持ってきましたので、今問題になっている指曲がり症という病気がどういう病気であるかということを、まずこれで、余り時間がございませんので、簡単に説明させていただきます。(パネル表示)
指曲がり症は、手の指の骨と関節の病気であります。手の指の関節には非常に難しい医学的な名前がついておりますけれ
ども、話をわかりやすくするために、つめ先の方から教えて一番近い方の関節を第一関節、そしてその次を第二、第三というふうにこれから呼びたいと思いますが、今問題になっている指曲がり症というのは、この手の第一関節と第二関節、場合によってはこの第三のところまで症状があらわれてくるという、いわゆる手の骨と関節の形が変形してきて、最後ひどくなりますと関節が動かなくなる、その間に
痛みがあって
仕事がやりにくいというふうなことが起こってくる病気であります。
この方は
公務災害の
申請を出されている方ですが、親指を除いて四本の指全部の第一関節が曲がっております。それから、小指だとか人さし指だとか、そういうところに第二関節の変形も見られます。これは横から見た写真でありますけれ
ども、こういうふうにくの字形に曲がってまいります。ひどくなりますと、曲がったままで伸びないという状態になります。
こういう病気がどういう形で起こってくるかということなんですが、これはわかりやすく軽い段階から、その次、だんだん病気が重くなるという絵をかいております。要するに、手をよく使う
仕事をする方の場合に、例えば昔だと農民の方だとか、あるいは洗濯をする方、そういう
仕事をしている方にあったと言われているわけですけれ
ども、この関節のところを見ていただきたいんですが、関節の間に軟骨というのがあるんですけれ
ども、そこが外から力が加わってくることによりましてだんだんはれてきまして、それがひどくなってくるとこういうふうに余分な骨が出てきまして、ある
部分は骨が非常に破壊されてくるという状態で、先ほどの写真のような状態になりますと、こういうふうに骨と骨の間がひっついてしまうというふうな状態になってくるということですね。そういう形で重症化してくる。それをレントゲン写真で見ますと、ちょっと近くの方しかわかりにくいと思うんですが、この辺は正常な関節なんですけれ
ども、このあたりはもう骨と骨、関節の境目がはっきりしない、ひっついてしまっているというふうな状態なんです。そういう状態が起こってくるわけです。
さて、この病気が非常に多発をしているということがわかったのは、実は岡山県下のある給食センターの調理員の方が会議を開いたときに、ある調理員の方が、私の指はこのようになっているけれ
どもこれは
仕事と
関係があるんではないかという問題を提起されまして、私がその
調査の担当をいたしまして、全国の四万人を超える調理員を対象にいたしましてまずアンケート
調査を行いました。それから、さらにアンケート
調査に基づいて健康診断、直接指の診察を行いまして、もちろんレントゲン写真も必要な場合には撮るというふうな検査を行いました。その結果、約一割強の調理員の方が、これはもう勤続年数だとかそういったものによって多い少ないが出てまいりますが、私が
調査した時点では一割強の調理員の方が今の指曲がり症という状態に陥っているということがわかったわけです。
その次にこの
調査で私
どもが目的にいたしましたのは、この指曲がり症が
仕事と
関係があるかどうかという問題であります。その点で私
どもの考え方としましては、
一つは、同じ女性の方で、同じ年齢の方で、同じ自治体に働いている
事務職員の方に協力をしていただきまして、女性の方ですと家事
労働をされますね。その家事
労働は同じように家でされるわけですけれ
ども、家事で昼食をつくったり、家事の
仕事をいろいろされるのは同じなんだけれ
ども、給食調理員の場合には職場でも手を使って給食をつくるというところが違うという
条件で、要するに同じ自治体で働いておられる同じ年齢の
事務職員の方と比較をすることがこの職業病、これが給食の
仕事によって起こっているかどうかということを裏づける
一つの証拠になりますので、
事務職員の協力を得て
調査をいたしたわけです。そうしますと、給食調理員の場合には約五倍、結果の数字では調理員の場合が一三・五%で
事務職員の場合が二・七%という結果が出てまいりまして、五倍多発をしているということがわかりました。かつ、曲がっている指の数も調理員の場合には二・五四本なんですが、
事務職員では一・六というふうに、重症度も調理員の場合がひどいということがわかりました。これでまず
公務起因性の
一つの根拠が得られました。
さらに、これだけでは不十分ですから、今度は年齢が同じである。加齢、年をとってくると関節が弱くなってくるという異常が起こってくるということはこれはよく理解できることですから、そういう年がどう影響するかということを外して考える。そのためには、同じ年齢の調理員でありながら
仕事の勤続年数が違うという調理員の検討をいたしました。そうしますと、同じ年齢ですから年齢の要因はもうありません。勤続年数が長くなってくる、例えば七年以上、私
どもの
調査で七年以上になってきますと、勤続年数が短い方に比べて今の症状が多発をするということがわかりました。これが第二の根拠であります。
第三番目は、勤続年数だけではなくて、今度はその調理員の方が一人当たり今幾ら給食をつくっているか。学校給食の給食数をそこに働いていらっしゃる調理員の方の人数で割りますと、一人当たりの調理員の方がつくる給食数が出てまいります。この給食数が多くなればそれだけ
仕事量が多いということですから、そういうことで給食数との
関係で見てまいりますと、大体単独校とセンターというふうに分けてまいりますと、単独校、
一つ一つの学校に給食調理場がある、そこでは約二百食を超えてまいりますと指曲がり症がひどくなる。それからセンター、要するに幾つかの学校に
一つの給食調理場から給食をつくって配送する。そのセンターになりますと三百食を超えてくると多発をする、こういう結果が出てまいります。
以上、
事務職員と比べると家事
労働は同じようにしている女性の方ですけれ
ども、給食調理員は給食というものをつくるために
事務職員と比べて多発をしている。それから勤続年数が長くなってくると、年齢を横に置いておいて検討してみますと、勤続年数が長くなってくると指曲がりがふえてくる。それから調理昌一人当たりがつくる給食数がふえてくると指曲がりがふえてくるという結果が出てまいりまして、以上の結果から私
どもは医学的に検討した結果、これは
公務に起因する、要するに給食調理
業務に起因する職業病であるという結論を得るに至りました。
そのほか私
どもの
調査以外にも岡山大学の整形外科教室が協力した
調査あるいはその他名古屋大学が行った
調査あるいは三重大学が行った
調査によりましても私
どもが
調査したと同じような指曲がり症の発症率を確認いたしておりますから、私
どもが
調査しただけだとそれは
一つの
調査機関が担当した
調査だから普遍性が問題になるかもしれませんが、私
どもが
調査した後いろんなところが
調査した結果によりましてもよく似た
調査結果が得られておりますので、非常に再現性が高いということで、私
どもの得た結果は非常に普遍性を持った結果ではないかというふうに考えております。
それで、私の次に
皆さん方に
お話ししたい問題は、こういった指曲がり症の
調査をしてみてわかることは、この病気は一日にしてできた病気ではないということでありまして、七年、八年、十年、十数年かかって指が曲がってまいります。したがいまして、その間にいろんな
経験もされております。人によっては
医者に行って治療を受けている方もいらっしゃるわけです。しかし多くの方のお
話を聞いてみますと、この病気は余り
医者が関心を持っていない病気でありまして、痛いと言うと
痛みどめを打つ。先生、これだんだんだんだん
痛みとともに指がちょっと形が変わってくるんですけれ
どもというふうに言いますと、
医者はいや、今は痛いけれ
ども、これが曲がってしまうと
痛みが取れるからそれまで我慢しなさいというふうな形で多くの
医者が
対応しているんですね。
曲がってしまった方は今度、先生曲がってしまったんですけれ
ども、ほかの同僚と同じように
仕事をしていると物を落としたり、指の曲がっていない同僚と同じようにスピーディーに
仕事をしようとするとうまくいかない。どうもおくれをとる。非常に悩んでおる。それで
医者に
相談する。先生、実はこういうふうに指が曲がって
仕事がうまくいかないんですけれ
ども何とかならないでしょうかと言ったら、しょうがないな、これは治す方法がないから君は調理員をやめるしかないなとこう言って、要するに調理員をやめさせたりなんかしまして、やっぱり今の
医者が本当にこの病気に対して真剣に取り組んでこなかったということが私
どもの今までの
経験ではっきりしてまいりました。
これはいけない、
医者としてはこの問題について真剣に取り組まなきゃいけないということで、実は白紙の状態で、手探りの状態で、今まで整形外科のお
医者さんの大半の方が冷たく曲がってくるまで我慢しろ、曲がってきて深刻な状態になったら
仕事をやめるしかないというふうに言ってきたのでは困るので、それじゃ
医者じゃないじゃないかということで私
どもがいろいろ今試行錯誤しております。
その結果、まだ最終的な結果は十分得られておりませんけれ
ども、中間的には、初期であればいろいろ治療を講ずる、
痛みを取って運動して、温めて運動して、あるいはちょっと曲がってきている人はちょっと夜引っ張るというふうなことをやりながら、かつ
仕事の作業軽減をする。非常に
痛みがひどいときには、その状態が悪いわけですから、ちょっと休んでもらうというふうな
仕事の対策と医学的な治療をうまく組み合わせますと初期の場合には効果があるということがわかってまいりました。
そうしますと、安心して治療ができるということが必要であります。また安心して治療と同時に、注射や
痛みどめや、あるいは温める物理療法やそういったものと同時に
仕事の対策をやることが非常に重要であるということがわかった。そうしますとこれは先ほど言いましたように病気の発症
実態は
公務起因性が明らかだというふうに私
どもは医学的に判定を下しておりますから、これは一日も早く
公務災害の
認定をしていただきたい。そうしますとこれから今痛くて困っている方も
救済することができますし、その
人たちが
公務災害の
認定がおくれることによって病気がもっと悪くなって、現代の医学では最終段階になりますともとに戻す方法がありませんので、
痛みは少し減るかもしれませんけれ
ども、もとに戻らないわけです。ですから、もとに戻らないような人をこれからたくさん出さないためにはこれは
公務災害として迅速に
認定をしていただきたい。
またさらに、この
公務災害の
認定をしていただくもう
一つの意義は、病気をこれから出さないようにするための職場の改善、これをやっていくためにも
公務災害の
認定というのは第一歩であるというふうに私
ども考えております。