○
参考人(
五十嵐敬喜君)
五十嵐です。
御
承知のように
土地問題が激化しまして、その端的な矛盾が
社会的弱者といわれる
人たちの
住宅を直撃しているという
状況にありまして、国会が先頭に立って
住宅問題について取り組もうとしている姿勢については、非常にいいことだし、これをぜひ強化していただきたいと思っております。
ただ、
住宅問題を考える場合に今非常に重要なことは、いつまでに、どこに、どのくらいの
値段で、どの
程度の量の
住宅が
建設されるかということがはっきり
国民の前に明らかになることが非常に重要だと思っております。そうでないと、よく
新聞等で報道されますように、ちょっと
割安感の
住宅、
マンション等が出ますと、いわば何千倍もの抽せんになりまして即日完売というような
状況が続いているというのは、ある
意味でいうと匡なり
自治体なりの
住宅プログラムというものが目に見えないために、衝動買い的な
意味も含めて買わざるを得ないというような
状況が毎回毎回繰り返されるんじゃないかというふうに思います。こういう
状況を打開するためには、今言いましたように、いつまでに、どこに、どの
程度の
値段、賃貸の場合にはどの
程度の
家賃で
分譲の場合にはどのくらいの
値段で、どのくらいの量が
建設されるかということがはっきり明示されることが非常に望ましいというふうに思います。
この観点に立って今回提案されている
法案を見ますと、いわば今回は
住宅供給に関する法的な
対応というふうに理解いたしますけれども、
住宅を考える場合に若干押さえておかなければいけない
前提というのがあるかと思います。残念ながら今回の
法律では
住宅供給一辺倒になっておりまして、そのもとの
部分が手当てされていないというふうに
感じます。
一つは、
住宅についてはっきりと
国民の居住にアクセスする権利ということを認めるべきであるということが第一であります。今回の
住宅供給プログラムでいきますと、
値段あるいは
供給の
責任主体というものが明示されておりませんので、いつまでも
高額物件が出回っていて、いわば一番本当に
住宅に困っている
住宅弱者という人に対する
住宅の見通しが見えてこないという問題があるのではないかというふうに思っております。
二番目は、今の
本吉参考人も言われましたように、
住宅供給といいますとどんな
住宅でもいいというわけでありませんで、都内では最近
ワンルームマンション等のいわば質的に非常に劣る
住宅がばっこしておりまして、こういうものだけがふえるというのも非常に困るかと思います。
ワンルームマンションについては
政府の定めている
住宅建設計画の
最低水準もほとんど満足していないというような
状況でありまして、こういうものだけが出回るというのも困る。そういう
意味で言いますと、
住宅については
住宅の
内外環境にかかわりますけれども、
一定の
水準というものを保つ
住宅が
建設されるべきであるということが第二番目であります。
第三番目には、どんな
住宅がたくさんできても、いわば各人が支払える
範囲を超えますとこれは
意味がありませんで、いわば
家賃なり
分譲価格なりについての
一定の適正な
範囲というものが設定される必要があるだろうというふうに思います。
四番目には、せっかく
住宅をつくる場合に劣悪な街区を形成しては将来の禍根になりますので、その
地域コミュニティーなり
地域環境を向上させるようにつくらなければいけないというふうに思います。こういういわば非常に
地域特性にかかわる
住宅プログラムをつくる場合に、いわば国の
全国的視野での
トップダウン方式でできるかどうかということになりますと、必ずしも
地域特性にうまくいかないということがありますので、いわば
自治体が第一次ランナーといいますか第一次
責任者になってそれを背後から国の方で支援するという、
自治体の
計画権限あるいは
財源というものを第一義的に保障する必要があるだろうというふうに思います。
最後に、
住宅にしろ
地域環境にしろすべてはその
地域住民の問題でもありますので、そういう
住宅計画に
住民参加が図られなければいけないというのが私の
住宅に関する
考え方であります。
この
法案を見ますと、そのうち
住宅供給の
プログラムだけはできるようには思いますけれども、その他の問題は全部欠落しているというところに非常に大きな
問題点があるだろうというのが第一点であります。
第二点は、今回このような
法律をつくらないと果たして今言ったような私が考えます
住宅というものが提供できないのかどうかということになりますと、やや
法律家の目から見ましてあしき
法律主義といいますが、そういうことがはびこっているように私は思います。
具体的に申し上げますと、
住宅に関する、特に
建設に関する
法律として現在のところ三本ございます。
一つは御
承知のように
住宅建設計画法というものであります。第二番目は、一昨年制定されました
大都市地域における
優良宅地開発の
促進に関する
緊急措置法というものでございます。第三番目は、今回ここに提案されております
大都市地域における
住宅及び
住宅地の
供給の
促進に関する
特別措置法というものであります。これがいずれも、今時間があればその「目的」というものを全部読み上げてもよろしいのですけれども時間がありませんので省略いたしますが、いずれも
国民の生活安定に向上するように
住宅建設計画を立てるという
法律でありまして、これらの
法律は一体どこが違うのか
法律的によくわからないという
状態になっております。
そもそも、
特別措置法と
臨時措置法というのは一体何が違うのかということもよくわかりません。同じようなほとんど区別のつかないような
法律をたくさんつくって何が変わるのかがまたよく見えないということがあります。この
関係で、
住宅建設それ自体にとっても少し整理をして、ちゃんとした
プログラムに一本化したらどうだろうかというのが第一点であります。いわばこれはいわゆる
住宅に関する
公的プログラムの上位に立つ法だと思いますけれども、これを具体的に実施する
法律として今回提案されています
都市計画法なり
建築基準法の
改正が出てくるのですけれども、これがまたいかにもわけがわからないというふうな
状態になっているかと思います。
例えば、
今本吉参考人から言われました、
住宅地の
高度利用地区計画というのが特に
市街化農地というものを対象として今回新しく
建築基準法等の
改正によってできるのですけれども、
参考までに、この間
参議院建設委員会調査室から私のところに送られましたその文章というものを読み上げますと、これが一体理解できるかどうかという問題を若干申し上げたいと思います。
要旨という形でその
要旨がまとめてあるんですけれども、例えば二十六ページに「
建築基準法の
改正」というのがありまして、その中に
容積率の割り増しの
部分というものの定義がございます。若干読み上げますと、これはほとんど
日本語じゃないんだろうというぐらいのことなんです。
地区計画の
区域(
住居地域、
近隣商業地域、
商業地域又は準
工業域内であって、
地区整備計画においてその全部又は一部を
住宅の
用途に供する
建築物に係る
建築物の
延べ面積の
敷地面積に対する
割合の
最高限度が、それ以外の
建築物に係るものの
数値以上で、かつ、第五十二条第一項第三号又は第四号に掲げる
数値以上その一・五倍以下で定められている
区域のうち、
地区整備計画及び第六十八条の二第一項の
規定に基づく条例で、
建築物の
延べ面積の
敷地面積に対する
割合の
最低限度、
建築物の
敷地面積の
最低限度及び
道路に面する
壁面の位置の
制限が定められている
区域に限る。)内にあるその全部又は一部を
住宅の
用途に供する
建築物については、
当該地区計画において定められた
建築物の
延べ面積の
敷地面積に対する
割合の
最高限度を第五十二条第一項第三号又は第四号に掲げる
数値とみなして、同条の
規定(
容積率による
制限)を適用する。これが一体何のことを指すのかというのはだれもわからない。これを
皆さん方が審議なさってこれを可決するといったって、
皆さん自身がわからないものを
国民がわかるわけがない。したがって、適用されるわけがないという
感じになるんだろうというふうに思います。
なお、これは
要旨でありますので、これを具体的に法文で見ますと、
建築基準法の六十八条の三というのがあります。ここからずっとそれが
条文になっています。それを全部集めますと、実は
建築基準法というのはここに持ってきましたけれども、これは
建築基準法関係法律です。これぐらい厚くなっております。これがまた何ページかふえるという形になっていまして、
法律専門家でもほとんど解読不可能というふうな
状況になっているのが今のシステムであります。
これは今
高度利用地区だけを申し上げましたけれども、その他の
条文一切についてこういう形になっていまして、これにまたいろんな
施行令とかついてきますとほとんど理解できない。
趣旨は了とすべきところもあるんですけれども、何か
法律体系全体で見ますと、
迷路の中の
迷路、
ジャングルの中の
ジャングルをちょこちょこやっているというような
感じに今至っているのではないかというふうに思います。
ちなみに、こういう
制度をつくりまして、さらにこういう
事業要綱みたいなのをつけて、いわば
税財政的援助も図るわけですけれども、これにまたついてあります
参考資料の七十ページを見ますと、「
住宅・
宅地供給の
現状」というのがありまして、
市街地の再
開発と
市街地住宅の
供給促進に関する
事業の
一覧表というのがついています。これを見ますと、これも何十もありまして、実はこれだけではありませんで、運輸省やその他の
関係を集めますと膨大な、本一冊ぐらいになります。よくこれだけのネーミングを思いつくと思うぐらいのたくさんの要綱があります。
ちなみに読みますと、これが理解できるかどうかということです。
一つは、「
市街地の再
開発事業等」、
市街地の再
開発だけを見ましてもここにありますように、
市街地再
開発事業、優良再
開発建築物整備促進事業、
市街地再
開発緊急
促進事業、都市拠点
開発緊急
促進事業、都市再
開発関連公共施設整備促進事業、複合空間基盤
施設整備事業というふうにあります。これが一体理解がつくかどうか。さらにこの
大都市新法に関連しましても、これはもう可決されたのかどうかわかりませんけれども、また幾つかの
事業がこれにくっつけられるということで、ネーミング、よくこれだけの名前を考えつくと思われるほどの
事業要綱が並ぶという
状態であります。
つまり、
趣旨は了とするところもなくはないんですけれども、
法律の体系を見ますと、
法律も要綱も、その他計画という言葉も実はたくさんの
法律の中に全部入っていまして、どれがどの計画かさっぱりわからないという
状況にありまして、
ジャングルの
状態に入っている、病膏肓といいますか、そういう
状態になってきているんじゃないかというふうに思います。
これを総括的に見ますと、
一つの省、
一つの局、
一つの課、
一つの係ごとぐらいに
法律があり要綱がある。
一つ一つについてはその担当者はよくわかるでしょうけれども、ほかの人から見るともう全然わからない。したがって、
政策効果も全く目に見えてこない。
自治体も、それから施工業者の方も、市民の方も、国の
施策について全くわからない、
ジャングルの中ということだけになるんではないかというふうに私は思います。
端的にこの原因を法的に見ますと、要するに
規制緩和に基づく誘導策というものについて
政府の
政策が全く一貫しないということにあるんだろうというふうに私は思います。
建築基準法及び
都市計画法の
関係だけ申し上げますと、
規制緩和は中曽根内閣以来ずっと一貫してとられた
政策でありますけれども、まず第一に行ったのが一般的な
用途地域の
改正というのを行いました。これが
規制緩和であります。次に、特定街区、総合設計、
高度利用地区、一団地都市
施設などの個別
制度の
規制緩和を行いました。なお、市街化調整
区域についての
規制緩和も行っております。さらにこれで足りないということで、
昭和六十二年に皆さんも御
承知のように
建築基準法の一般的
改正を行いました。さらに、これでも足りないということで六十二年に再
開発地区計画あるいは沿道
整備計画あるいは集落
地区計画というような
規制緩和のシステムを
導入しました。さらに今回、
住宅地高度利用地区、
用途別何とか
地区というものをつけ加える。一体どこまで何をやろうとしているのか、ネーミングだけがふえてきてさっぱり
政策効果も上がらないということを何回も何回もやっているのではないかというのが率直な感想です。
もっと言いますと、
建築基準法のもともとの
趣旨、あるいは
都市計画法のもともとの
趣旨と異なる、一般的に
都市計画用語でいいますとポストモダンと言われておりますけれども、モダンな近代的な
都市計画の中にポストモダンみたいなものを接ぎ木している。接ぎ木しているうちに、全然その内容が読み取れなくなったというのが今の
状態ではないかというふうに私は思います。
そこで、簡単ですけれども、抜本的提案というものをひとつ行っておきたいというふうに思います。
こういう混乱した
ジャングルのような
状態から抜け出すために、
住宅に関する先ほど私が申し上げましたような基本理念というものをはっきりしたような
住宅基本法というものをここで提案すべきではないかというふうに思います。つまり、全体が病んでいるときに、いわばそのおできのできた
部分のところだけを切開したり、ヨードチンキを塗ったり、ばんそうこうを張ったりするんじゃなくて、基本的にまず
住宅とは何かということをはっきりさせるために
住宅基本法というものを制定すべきであるというのが
一つです。
第二番目は、これを実施する個別法というものについて、もうちょっと抜本的な
プログラム改変を行うべきである。その大きな
法律の中に
都市計画法なり
建築基準法があると思いますけれども、これを従来のシステムのままにしていいかどうかについては根本的な反省を加えるべきだろうと私自身は思っております。特に、
住宅については
地域特性というのが非常に偏って出てきておりますので、やっぱり第一次の
住宅に関する
都市計画のプランナーは
自治体であるということを
住宅基本法の中ではっきりさせよう、それを担保するシステムとしての
都市計画法の全面的
改正を行うべきであるというのが第一です。
具体的に申し上げますと、先ほど
本吉参考人も言いましたように、
日本の場合にはよく
都市計画システムについて一段階計画、つまり都市の基本目標がないままに
用途、容積、建ぺい率等のいわば
数値でぽんと出してくるという形になっていますから、しかも
用途地域が非常に甘いということもありますので、いわば二段階計画、つまり
本吉参考人の言いましたドイツ型の二段階計画に変えて、都市の基本
方針を定める基本計画とそれを実施するための
都市計画という形に、二段階にしたらいいというのが第一です。
第二は、例えば
容積率というものが非常に都市の形成について重要な
意味を持っておりますけれども、現行
容積率を
前提にいたしますと、その半分あるいは三分の二ぐらいまでは従来どおりの
建築確認システムというやつでいいと思います。
政策的に三分の一にするか二分の一にするかはまた考慮する余地がありますけれども、一部従来のものを維持して、残りの三分の一なり二分の一については
自治体の専有にする。ややフランス型に似ておりますけれども、
自治体の専有にする。つまり空間の公有化を図りまして、そこでその
自治体の定めた計画に乗っからないと
建築を認めないという形に、容積を一部
土地所有者の自由、一部
自治体の自由という形に転換すべきではないか。そうしますと、今言っているような
規制緩和のシステムは全部この
一つの
法律でくくることができるということであります。なお、非常に優良なプロジェクトについては、何も
建築確認とか
都市計画のシステムにこだわりませんで、全く別なシステムで
建築確認
部分も外して自由に計画を立案してもいいというような
制度に変えていく必要があるだろうというふうに私は思います。
こういう抜本的な
住宅基本法と、それを担保するための
法律改正の展望の中で、
一つお願いがございます。それは最近、
本吉参考人も言われましたけれども、
自治体を
住宅困難というのが直撃しておりまして、
東京都を初めとしまして、
東京都の幾つかの区では
住宅実験というものを行っております。その中で、世田谷区とか中央区では
住宅条例というものをつくりまして
自治体なりに
住宅に
対応しようというふうにしているわけですけれども、この中で一番困っているのが、要するに権限と
財源が全くないものですから、ほとんどの
規定がプロパガンダ
規定にならざるを得ないということがありまして、現実的に効果が上がるかどうかについては非常に危ぶまれている
部分も相当ございます。そこで、国の方としましては、こういう
自治体の
住宅実験について、
東京都からも国の方に要望が出ておりますけれども、それを全力を挙げて支援するという形に回っていただきたい。
そういう
住宅実験を重ねているうちに、個別的な
部分については個別条例で、普遍的
部分については
住宅基本法と結びつけて、ぜひ近い将来に
住宅基本法を制定していただく。
住宅基本法を制定した上で、その観点から抜本的に従来の個別
制度を全部改変していくという形で
住宅法体系というものをつくっていただけないだろうかということでございます。
ありがとうございました。