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阿部(昭)
分科員 官房長官、大変お忙しいところ時間をやりくりしていただいて、ありがとうございます。
〔
主査退席、
鈴木(宗)
主査代理着席〕
実は、戦後問題と言われる問題として、あの戦争のときにソ連に抑留されて強制
労働をさせられた
人たちかたくさんいるわけであります。こういう皆さんの問題とかあるいは軍人軍属等の恩給欠格者であるとか、そういう戦後問題というものがございますけれ
ども、私は、あの戦争のときに台湾人元
日本兵、この皆さんの問題についても実は深い関心を持って、国会の中では超党派の議員の集まりをつくっていろいろなことをやってまいりました。そういう長い経過の中で、お忙しい
官房長官に若干お伺いをしたい、こう思って御無理をお願いをしたのであります。
実は、ソ連抑留の皆さんの問題については、御
案内のように、今、国を相手取って裁判が行われております。この裁判は、昨年の四月に東京地裁におきまして第一審判決が出ました。そして、第一審判決を子細に読んでみますと、こういう
指摘をしておるのであります。「第二次大戦は、参加当事国の数が多いこと、戦火の及んだ地域が広いこと、兵器の進歩と大量殺りく手段の使用、国を挙げての戦争態勢、国土の戦場化などによつて、多くの国の
国民に多大の惨禍をもたらし、
我が国においてもあらゆる種類の戦争損害を
国民の各層に生ぜしめることとなつたが、原告らソ連長期被抑留者の被った損害も、さきに認定したとおり多大なものがあり、帰国後の社会復帰が意の如くにならなかつたこととあわせて、これを通常の戦争損害とは異なるとする原告らの主張には、
理解できる点もないではないが、諸
外国の例にみるように、立法のみによつて解決されるべき問題であるといわなければならない。」こういう
指摘をしておる。つまり、今申し上げました判決文のある部分ですけれ
ども、その前に、
イギリスはこのようにやった、あるいは
フランスはこのようにやった、
アメリカはこのようにやったといういろいろな、つまり戦時捕虜の問題である、その捕虜をどのように処遇したかということの各国でやった立法例を判決文の前段に長々といろいろ書いてあるのであります。
私は
官房長官にお伺いいたしたいのは、さっき申し上げました台湾人元
日本兵の皆さんも
日本の裁判に、当時台湾人を
日本の軍人として戦場に動員をして、多くの人が死んだ、あるいは負傷した、この皆さんに償いをしろ、こういう訴えであります。第一審はこれを棄却いたしました。第二審もまた棄却をしたのであります。ところが、棄却をした第二審の判決を見ますと、主文は棄却でありますけれ
ども、
日本の
立場からいえば、台湾人の元
日本兵に対する政治的道義的人道的責任というものを非常に強く
指摘したのであります。台湾人元
日本兵の場合、裁判そのものは今最高裁に訴えられておる。
しかし、
日本の
政府及び国会は、特に国会ですけれ
ども、御
案内のように、台湾人元
日本兵のために法律をつくって、今台湾とは国交がございませんから、向こうの紅十字会と
我が国赤十字との間にいろいろな
調査その他をやって、現在この皆さんにお見舞い金という形での償いをして、
相当程度進みました。もう一年くらいでこれは大体決着つくのではないかと思いますけれ
ども、同じようにこの問題も、法律上でいえば、この判決で
指摘するように、今の
日本の法律によって、戦時中の捕虜として、この皆さん何も戦争を放棄して捕虜になったのではないのであります。戦争が負けた後にほとんどの皆さんがあの酷寒のシベリアに引っ張っていかれたのであります。引っ張っていったソ連の側との
関係は、御
案内の鳩山
内閣時代の日ソ共同宣言、日ソ双方間の取り決めの中で、国と国との
関係では相互にそのことは問わないということになってしまっている。でありますけれ
ども、この皆さんは相当長期の間あの酷寒のシベリアで強制
労働、そしてその皆さんは、この判決でも
指摘していますように、戦後の社会復帰という面でも相当の障害を持った。だからこそ、この判決でも言うように、他の
一般の戦争被害と同じように見るわけにいかないという主張は
理解ができるけれ
ども、今の法律ではどうにもならぬ、こういう判決なんであります。
御
案内のように、今
政府は、戦後問題はすべて終わりだという態度をとっている、この間の平和何とかというので。しかし、私は、
一般常識的にいうと、事はそう簡単ではないと思います。例えば、さっき申し上げました軍人軍属の恩欠連盟と言われる皆さんの問題、私の記憶では、この間の選挙の前の選挙のときに、自民党の大勢の議員の皆さんは、議員立法で、いろいろな中身はあるのでありますけれ
ども、一人頭それ相当のお見舞い金か償いか何かをするというのを議員立法の条文までつくって多くの
関係者に配付をして、選挙では自民党大勝利をいたしました。私
どももまた、恩欠連盟なり全抑協の問題に対して、この自民党の皆さんの配付された議員立法の案とかなんとかに対して異論を持つ野党ほどこもないのであります。みんな大賛成。みんな集まっておるのでありますから。しかし、それは銀杯一個、書状一枚、今、あと平和事業の財団でいろんなことをやるとおっしゃっていますけれ
ども、その中身は、少なくともこの間の選挙の前の選挙のときの性格と相当違ってきておる。これな
ども、
関係者や外から客観的に見ておりますと、やはり政治に対する不信を深くした
内容のものだ。私は、この判決の趣旨よくわかるのですよ。言わんとするところはわかるけれ
ども、現在の法律では無理だ、したがって、
アメリカや
イギリスや
フランスやその他の世界のたくさんの国々はこういう新しい法律をつくって、戦時捕虜の問題、これをちゃんとこのようにやったんだ、だから
日本の場合も、そういうことでもない限り現行法では無理だというのが、この判決の
指摘しておる
一つの側面ですね。
私は、きのう法務大臣に対しても同じようなことを――法務大臣は今その全抑協と呼ばれる皆さんと裁判で争っておるのですからね、その当事者なんですよ。ソ連抑留の皆さんが原告で、法務大臣は被告なんです。そういう
立場でありながら、政治家としてどのようなお考えを持つかということをお伺いしたのでありますが、法務大臣は、争いの当事者でありますけれ
ども、確かにこれは政治ですから一筋縄ではまいらぬけれ
ども、何らかのことをやってあげるべきものと個人的には強く痛感しておる、こう申しておられました。
忙しい
官房長官においでをいただいたのでありますが、今私が申し上げましたことに対して、
官房長官の政治家としてのお気持ちというものをぜひお聞かせ願いたいというふうに思うのです。