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佐藤(泰)議員 ただいま議題となりました
公立幼稚園の
学級編制及び
教職員定数の
標準に関する
法律案につきまして、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。
我が国の未来を担う幼児が、心身ともに健やかに成長することは、国民がひとしく願うことであります。この幼児のうち、四歳児並びに五歳児につきましては、今日既に九九%が幼稚園または保育園に通っているという現状にあります。さらに、国民の三歳児に対する就園要求も高まっているところであります。私立幼稚園連合会が、昨年発表した基本構想の中で、「幼児教育は、すでにその高就園率の故に国民教育化している」と提言していることからも、重要な指摘として受けとめられるべきであろうと考えます。
ところが、幼児教育をめぐる行政は非常に立ちおくれていると言わねばなりません。例えば、現在、
学校教育法を受けて幼稚園について具体的内容を定める法令は、昭和三十一年に公布された「幼稚園設置基準」しかないと言っても過言ではありません。これでは、幼児教育は「片手間に行われる」ものにすぎず、到底「国民教育」と呼ぶことはできないのであります。
幼児教育がこれまで
私学にのみ負担をかけてきたのも、片手間行政のために国並びに地方公共団体の責務が放棄されてきたからではないでしょうか。幼児教育が
学校教育法に規定される
学校教育であるなら、すべての幼児に門戸が開放されるべきものであります。しかるに「保育に欠ける」とされる幼児は厚生行政の「保育所」の対象になっています。幼稚園でも保育所でも「延長保育」が要請されている今日、この保育・教育の一元化も急がれるべきであります。その他、保育・教育の内容の
充実、施設の地域的偏在の解消、父母負担の格差の解消、教職員の労働条件の
改善など、幼児教育行政の抜本的な
充実が緊急に求められてきているのであります。
したがいまして、幼児教育の
充実に向けて、必要な法
整備が急がれねばなりません。本
法律案は、こうした幼児教育をめぐる多くの課題のうち、
公立幼稚園において「一
学級当たりの幼児数は何人が適当なのか」、「教職員はどのくらい必要なのか」ということについての見直しを行い、これを省令から
法律へと格上げしようとするものであります。
さて、現行の「幼稚園設置基準」は、昭和三十一年に公布されて以来、数次の改正を経てきておりますが、最も肝心な「
学級編制基準」は何ら改正されておりません。すなわち、一
学級の幼児数は「四十人以下を原則とする」ということであります。
幼児教育における
学級編制基準の「四十人」というのは、明治三十二年の幼稚園保育及設備規程で「保母一人の保育する幼児の数は四十人以内とすること」と定められたのであります。一方、小
学校の
学級規模は、明治三十三年の小
学校令に基づく文部大臣が定める規則で「七十人以下」と定められました。この小
学校の
学級規模は、間もなく完結する第五次
教職員定数改善計画では「四十人以下」となりますが、幼稚園におきましては依然として「四十人」のままであります。それどころか
文部省の「一、二名程度の増加は認め得る」という指導により、「四十人を超える」過大
学級が多数存在している現状であります。これでは明治時代より後退していることにさえなるのではないでしょうか。幼稚園の
学級規模については早急に見直しが必要と考えられます。
では、一体どの程度が適正な
学級規模であろうかということになります。さきの明治時代の小
学校の
学級規模と幼稚園の
学級規模の比率を今日に当てはめますと、小
学校の「四十人
学級」は幼稚園では「二十二人
学級」に相当します。厚生省所管の「保育所」の場合は、保母の配置基準は三歳児の場合で「幼児二十人につき保母一人」、四歳児、五歳児については「幼児三十人につき保母一人」となっており、現実にもおおむねこの基準で
学級編制が行われております。さらに西欧諸国に目を転じますと、一九六一年の国際公教育会議では就学前教育について「教師一人当たりの幼児数の
標準は二十五人を超えないことが望ましい」と勧告されております。事実、多くの国で幼児教育の
学級規模は二十五人程度となっているのであります。こうした点から、また幼児の発達段階としての三歳、四歳、五歳の差は大きな差があるという認識からも、本
法律案では「三歳児
学級は二十人以内」、「四歳児、五歳児
学級は二十五人以内」としたものであります。
なお、現行の「幼稚園設置基準」でも「
学級は、同じ年齢にある幼児で編制することを原則とする」ことになっております。しかし現実には、基準に「原則」という文言があることにより、三歳児から五歳児までを一緒にする
学級が二十一
学級もあるなど、例外措置が容易になります。現在「異なる年齢で編制する
学級」は全国で四百六十一
学級ありますが、
学級編制基準を「四十人」から「二十五人」「二十人」に変えたこととも相まって、その数は当然より少なくなるわけでありますから、この際「異なる年齢で編制する
学級」を廃止することが望ましいと考える次第であります。
次に、
学級編制に伴う教職員の配置基準でございますが、現行の「幼稚園設置基準」では「園長のほか、各
学級ごとに少なくとも専任の教諭一人を置く」こととしております。しかし同時に第五条第三項で「専任でない園長」の存在を認め、同条第二項では、専任教諭は「特別な事情がある場合は、
学級数の三分の一までは、専任でさえあれば助教諭でも講師でもよい」こととしております。このため、まず、
公立幼稚園六千二百三十九園のうち、専任の園長はわずか二千二百十人にすぎず、多くは小
学校・中
学校の校長との兼任となっており、中には
高校の校長が幼稚園の園長を兼ねるという事例さえ出ております。また、現行基準では「一
学級に一人の専任教員」でよいため、
公立幼稚園の一万七千五百九十五
学級に対する専任教員(教諭、助教諭、講師)の数は二万二千二百一人にすぎず、教員が年次有給休暇を消化することさえも難しく、病休もとれない実情があります。こうした中で「延長保育」の要求が強まり、
障害児の受け入れ要求も非常に高まってきております。まして教員が「四週六休」を行えば担任教員がいなくなる
学級が出てくることになります。
教員の実情がこのような現状ですから、「幼稚園設置基準」では、養護教諭、事務職員については「置くように努めなければならない」と定められているにすぎません。このため事務職員は、現在二百七十六人にすぎず、養護教諭に至ってはわずかに三百二十六人が配置されているにすぎません。また、その他の職員が二千五百九十七人いることになっており、恐らくこうした職員には給食調理員なども含まれ、事務、用務の兼任者も含まれているものと思われますが、それでも教員以外の職員が配置されている
公立幼稚園は全園の半分にも満たないのが現状であります。これでは、新しい「幼稚園教育要領」が「幼児一人一人の特性に応じた教育」をうたっても、その
実現はおぼつかないと言わざるを得ません。ここに幼稚園にも教職員の定数法が必要な理由があるのであります。
次に、本
法律案の内容の概要を御説明申し上げます。
第一は、この
法律の目的を定めたことであります。
公立の幼稚園に関し、
学級編制の適正化及び
教職員定数の確保のために、それぞれの
標準について必要な事項を定め、もって幼児教育の水準の維持向上に資することを目的といたしております。
第二は、
学級編制の
標準を定めたことであります。三歳児
学級の編制は二十人、四歳児及び五歳児の
学級についてはそれぞれ二十五人といたしております。なお、異なる年齢の幼児で編制される
学級は設けないものといたしております。
第三は、
教職員定数の
標準を定めたことであります。その一は、園長を一園に必ず一人置くほか、教諭等の数は
学級数の一・五倍とし、
障害児を受け入れる幼稚園については必要な加算を行うことといたしております。その二は、養護教諭等、事務職員及び
学校用務員については、一園につきそれぞれ一人を置くこととし、また給食を実施する幼稚園については、
学校栄養職員及び給食調理員を置くことといたしております。その三は、教職員の長期研修など、特別な事情があるときの加算措置を定めることといたしております。
第四は、施行期日であります。この
法律は、平成四年四月一日から施行することといたしておりますが、
学級編制の
標準及び
教職員定数の
標準に関しましては、今後の幼児人口の減少等を考慮して、五年間の年次計画で実施することとし、それに必要な経過措置を定めることといたしております。
以上が本
法律案の提案理由及び内容の概要であります。
何とぞ十分御審議の上、速やかに御賛成くださいますようお願い申し上げます。