○貴志
委員 古都保存法にいたしましても明日香村の法律にいたしましても、要するに歴史的な文化を大切にしようという発想から生まれた法律であります。そういう
意味からいいますと、ここに住んで千数百年の間農業をやっていてくれたからこそ、この明日香村との
境界線で明確にわかるような良好な保存
状態が続いておるわけです。この人たちのおかげです。この人たちのおかげで守り得たこの風土をさらに延長して残していこうというのでありますから、ここで当然また
協力してもらわなければならぬ。その
協力は、過去の
協力、現在の
協力、さらに未来永劫にわたる。そういう
協力に対して、まるで何の
関係もない
地域を、類地であれば、近傍であれば、そこを参考にすればそれでいいのだという、そういう物の
考え方が私には納得ができないわけです。しかも、この六十年以後の
土地狂乱の中で、その近傍類地といえ
ども地価がかなり上がっておるはずであります。奈良県全体で去年とことしで五〇%上がっておるわけです。そういう
状態にもかかわらず、買い入れ価格はそれほどの変動が見られないというのは一体なぜだろうか。さまざまな疑問があります。
これから法律が
改正されて十年延長されます。この法律運営の中で、従来の鑑定によって地元の住民の憤激を買うような、また、地元の皆さん方が、せっかく皆さん方が
計画を建てて実行しようとするその施設の
土地を、提供を拒む、こんな価格では売れない、そういう
実態があることをぜひ踏まえて、これからの
実施に
当たりましては現実に即応して、また、この今日までの歴史と未来にわたるこれからの保存運動というものを
考え合わせて、文化的価値、今日までの
協力度、そういうふうなものはぜひ積算の中に加えておかなければならぬ、強い意見を申し上げておいて、次の問題に移りたいと思います。
次は、官民
協力の問題について少し申し上げておきたいと思います。
歴史的風土保存のために参考になると思いますので、和歌山県におけるナショナルトラストの運動に触れながら意見を申し上げ、質問をいたしたいと思います。
天神崎は紀伊水道に面し、黒潮の影響を受け、海岸の海食台となった岩礁はやわらかく平らで、そこには海の生物五百種も生息し、南の海のサンゴ礁にも匹敵すると言われております。このように天神崎は、その位置や地形さらに岩質までが天然の恵みとなってすぐれた景観となり、自然生物の宝庫となったわけでありますが、その背後にある森がこの自然のバランスにまたとない役割を果たしておるのであります。潮風に強い樹木が海岸に近いところに自然生えし、その奥には通常海辺に育たないという雑木が生い茂っております。この森によってろ過された雨水がプランクトンを育てる栄養豊かな清水となってこの天神崎に注がれます。このように、大自然の摂理の中で天然の生物学教室としての天神崎が息づいておるわけです。
この天神崎の背後地の森が自然公園として保護地区に指定されているのは当然でありますが、この規制が行われる前に取引があったということで不動産業者の別荘などの
開発が行われようといたしました。そのとき立ち上がったのは地元の人たちであります。そして、天神崎を守れという声は瞬く間に
全国に広がり、その拠金によって
開発寸前、時価によってその予定地を買い戻すことに成功いたしました。時に
昭和五十一年九月のことであります。かくて天神崎は日本最初のナショナルトラスト運動として脚光を浴びることとなり、六十一年には自然環境保全法人の認可を受けることになります。しかしながら、買収できたのは全体の二割でありまして、残り八割は早急に買い取らなければならない。事実、
開発を
目的とする立木伐採事件が先日も起こっておるわけであります。
ここで、本題の明日香保存の問題とこの天神崎を守る住民運動とをダブらせて少し考察をしてみたいと思います。
第一番目は、天神崎の自然が破壊されるとの地元民の悲痛な呼びかけが日本全土に広がり、国民世論の結集として資金が集まり、業者との合意を得て買い戻すことに成功したわけです。ここでは地元住民が主体で
全国の人々がそれを支えた、底辺からの盛り上がりが主体でありました。
これに対して明日香村の場合は、もちろん財団の設立や国民世論の盛り上がりがある中で古都保存法ができ、またこの明日香の法律が生まれましたが、先ほど来、減反の問題、農業の問題あるいは地価の問題、
土地の買い取りの問題など、住民との
連携の面について幾つかの実例を申し上げましたが、この地元住民の
協力、盛り上がりといった点についてはどうも十分に機能していないということが大変な問題であると私は思います。どちらかといえばこの明日香村の場合は官制の保護が先行していると受け取れるわけであります。
それから二番目には、天神崎につきましてまたもや第二の危機が訪れております。先ほど申したように、立木の伐採という形で
開発がまたもや行われようとしております。そういうことに対して、規制の面について、もちろんこういう住民運動にこたえる強い姿勢の規制が必要でありますし、資金の面からいいましても
行政側の対応がいまいちであったように私は思うわけです。せめて資金調達のために個人や企業への呼びかけに
行政も
協力するなり、
行政自身が出資の額を増額するなど、民間の運動と連動する道は幾らもあると思います。
私がここで言いたいのは、文化の保存も自然の保存も、物と対比する心の問題であります。その心を後世に引き継ぐためにほ、縦の糸すなわち
行政と、横の糸すなわち民間や地元の運動とうまくかみ合わなければならないと思います。もちろんそのために金も要ります。イギリスのナショナルトラスト運動がすっかり国民に定着している姿や、イギリスが芸術家を支えるための
予算だけでも三百五十八億という
予算を組んでおります。我が国の現状はそういう点と対比いたしますと大変お寒いわけでありまして、到底文化国家日本と大声を出せない
状態ではないでしょうか。
私は、この法律に血を通わせること、それは天神崎のナショナルトラスト運動に学ぶということもぜひ必要ではないか。申し上げたように、明日香の文化や天神崎の自然など、日本人全体の心の財産でありますから、ぜひとも地元の犠牲を最小限にとどめていくという
行政側の配慮がなければ、本当の
意味でのこれからの文化や自然の保存はあり得ない。明日香の歴史文化というものは、現状では過去と現在を一本の釣り糸で結んでいる程度にすぎないと思います。これをより合わせて大きなきずなにしていくためには、これから我々現在に住む者の大きな責務としての
仕事があるだろうと思います。官民
共同の運動が実るようにともにやっていかなければならぬと思います。
この件については、長官とさらに環境庁の方から御意見なりお答えを賜れば幸いでございます。