○国務大臣(後藤正夫君)
民事保全法案につきまして、その
趣旨を御説明いたします。
現行法におきましては、仮差押え及び仮処分、すなわち民事保全の命令手続については民事訴訟法第六編に、その執行手続については民事執行法第三章にそれぞれ
規定されております。民事訴訟法第六編は、明治時代に制定されたものでありますが、
規定が簡素に過ぎるため実務の取り扱い上各種の不便を生じておりますとともに、判決手続によって審理がされる場合におきましては、裁判に至るまで相当の長期間を要し、特に迅速な処理が要請される民事保全の制度の
趣旨に十分にかなっているとは言えない実情にあります。また、
現行法では、仮処分の執行
方法及び効力についての
規定が十分でないことから、実務の取り扱い上各種の不便を生じているのみならず、適切な仮処分の効力が必ずしも確保されない場合があります。
そこで、この
法律案は、民事訴訟法第六編と民事執行法第三章とを統合した民事保全の手続法としての単行法を制定し、当事者の手続上の地位を実質的に保障しつつ、命令手続の審理の適正迅速化並びに仮処分の執行
方法及び効力の確立を図る等、民事保全の制度の
改善を図ろうとするものであります。
以下にこの
法律案の要点を申し上げますと、第一は、命令手続の審理の適正迅速化を図ることであります。すなわち、
現行法では、保全命令の申し立てについての審理については、
一定の場合に決定手続によることが許容されているものの、判決手続によることを原則としており、殊に、保全命令に対する不服申し立てについての審理は、すべて判決手続によるものとされておりますが、審理の迅速化を図り、もって民事保全の制度に対する
国民の信頼を確保するため、これを改め、すべての手続を決定手続とするものとしております。決定手続においては、口頭弁論による審理、審尋による審理、
書面による審理のうち、事案の性質に応じて適切な審理方式を選択することができることとなり、審理の充実を損なうことなくその迅速化を図ることが可能となるのであります。しかし、保全命令に対する不服申し立ての手続におきましては、当事者双方の主張及び立証の機会を確保する必要がありますので、口頭弁論または当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を開かなければならないものとし、審理の終了に当たってはその終結を当事者に告知しなければならないものとしております。また、審理の充実及び迅速化のため、当事者の事務の補助等をする者に事実
関係につき陳述させることができる制度、受命裁判官に審尋を行わせることができる制度、証人等の尋問につき交互尋問の順序を変更することができる制度、保全命令に対する不服申し立ての事件において
参考人等の審尋を行うことができる制度等を設けるものとしております。
第二は、利用頻度の高い仮処分につき、その執行
方法及び効力を明確化するとともに、その
改善を図っていることであります。まず、不動産に関する権利についての登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分については、その執行として処分禁止の登記をするものとし、債権者は、その被保全権利に係る登記をする場合には、原則として、処分禁止の登記におくれる第三者の登記を抹消することができるものとするとともに、これにより本来抹消されるべきでない登記を抹消された第三者が速やかに救済手段を講ずることができるようにするため、債権者は、第三者の登記を抹消する場合には、事前にその第三者にその旨の通知をしなければならないものとしております。また、不動産に関する所有権以外の権利の設定登記請求権等を保全するための処分禁止の仮処分については、その執行として処分禁止の登記とともに保全仮登記をもするものとし、債権者は、保全仮登記の本登記をすることにより、処分禁止の登記におくれる第三者の登記を抹消することなく仮処分の
目的を達することができることとしております。次に、物の引き渡しまたは明け渡しの請求権を保全するための占有移転禁止の仮処分につきましては、公示を伴うその執行が行われた場合には、債権者は、債務者に対する本案の債務名義に基づき、仮処分の執行後に占有を取得した第三者に対して、原則としてその物の引き渡し等の執行をすることができるものとするとともに、これにより本来その執行を受けるべきでない者に対して執行が開始された場合には、その者が速やかに救済を受けることができるようにするため、決定手続による簡易な救済
方法を設けることとして、当事者間の利害の
調整を図りつつ、この仮処分の効力の充実を図ることとしております。
第三は、保全命令の発令手続及び執行手続につき、解釈を統一し、新たな制度を設ける等の
規定の整備をしていることであります。すなわち、
一定の要件のもとに仮処分命令において解放金を定めることができること、不服申し立てに伴う執行停止等の裁判をすることができること及びいわゆる断行の仮処分が執行された後に不服申し立てに基づき仮処分命令が取り消される場合には、その決定において原状回復の裁判をすることができること等としております。
なお、この
法律の制定に伴い、最高裁判所規則の制定及び
関係政省令の整理等所要の手続を必要といたしますので、その期間を考慮いたしまして、この
法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとし、また、民事訴訟法及び民事執行法等の
関係法律の所要の整理をし、必要な経過
措置を定めております。
以上がこの
法律案の
趣旨であります。
何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。