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1989-12-05 第116回国会 参議院 法務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成元年十二月五日(火曜日)    午前十時六分開会     ─────────────    委員異動  十二月五日     辞任         補欠選任      山本 富雄君     石渡 清元君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         黒柳  明君     理 事                 鈴木 省吾君                 福田 宏一君                 安永 英雄君                 白浜 一良君     委 員                 石渡 清元君                 斎藤 十朗君                 下稲葉耕吉君                 中西 一郎君                 林田悠紀夫君                 北村 哲男君                 清水 澄子君                 千葉 景子君                 橋本  敦君                 山田耕三郎君                 紀平 悌子君                 櫻井 規順君    国務大臣        法 務 大 臣  後藤 正夫君    政府委員        法務大臣官房長  井嶋 一友君        法務大臣官房審        議官       米澤 慶治君        法務大臣官房司        法法制調査部長  則定  衛君        法務省民事局長  藤井 正雄君        法務省刑事局長  根來 泰周君        法務省人権擁護        局長       高橋 欣一君        法務省入国管理        局長       股野 景親君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総局総務局長   金谷 利廣君        最高裁判所事務        総局人事局長   櫻井 文夫君    事務局側        常任委員会専門        員        播磨 益夫君    説明員        警察庁警備局公        安第二課長    渡邉 泉郎君        外務省国際連合        局外務参事官   石垣 泰司君    参考人        上智大学法学部        教授       花見  忠君        愛知県立大学教        授        田中  宏君        南ドイツ新聞極     東特派員 ゲプハルト・ヒールシャー君        法政大学法学部        教授       江橋  崇君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案内閣提出衆議院送付) ○検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案内閣提出衆議院送付) ○検察及び裁判運営等に関する調査出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(第百十四回国会内閣提出、第百十六回国会衆議院送付)     ─────────────
  2. 黒柳明

    委員長黒柳明君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い現在理事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと思います。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事白浜一良君を指名いたします。     ─────────────
  4. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案を便宜一括して議題といたします。  まず、政府から両案について順次趣旨説明を聴取いたします。後藤法務大臣
  5. 後藤正夫

    国務大臣後藤正夫君) 裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案について、その趣旨を便宜一括して説明いたします。  政府は、人事院勧告趣旨等にかんがみ、一般政府職員給与を改善する必要を認め、今国会一般職職員給与等に関する法律の一部を改正する法律案及び特別職職員給与に関する法律及び国際花と緑の博覧会政府代表の設置に関する臨時措置法の一部を改正する法律案を提出いたしました。そこで、裁判官及び検察官につきましても、一般政府職員の例に準じて、その給与を改善する措置を講ずるため、この両法律案を提出した次第でありまして、改正内容は、次のとおりであります。  第一に、最高裁判所長官最高裁判所判事及び高等裁判所長官報酬並びに検事総長次長検事及び検事長俸給は、従来、特別職職員給与に関する法律適用を受ける内閣総理大臣その他の特別職職員俸給に準じて定められておりますところ、今回、内閣総理大臣その他の特別職職員について、その俸給を増額することとしておりますので、おおむねこれに準じて、これらの報酬または俸給を増額することといたしております。  第二に、判事判事補及び簡易裁判所判事報酬並びに検事及び副検事俸給につきましては、おおむねその額においてこれに対応する一般職職員給与等に関する法律適用を受ける職員俸給の増額に準じて、いずれもこれを増額することといたしております。  第三に、一般政府職員について、今回、単身赴任手当支給する措置を講ずることとしておりますことから、判事判事補及び簡易裁判所判事並びに検事及び副検事には、一般政府職員の例に準じて、これが支給されることとなりますが、高等裁判所長官並びに次長検事及び検事長にも、一般政府職員の例に準じて、この単身赴任手当支給する措置を講ずることとしております。  これらの給与の改善は、一般政府職員の場合と同様に、第一及び第二の報酬及び俸給の改定については、平成元年四月一日にさかのぼってこれを行い、第三の単身赴任手当支給については、平成二年四月一日からこれを行うこととしております。  以上が、裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案趣旨でございます。  何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますよう、お願いいたします。
  6. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 以上で両案の趣旨説明の聴取は終わりました。  これより裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案並び検察及び裁判運営等に関する調査を便宜一括して議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  7. 千葉景子

    千葉景子君 まず、裁判官報酬等に関する法律につきまして質問をさせていただきたいと思います。  今回の法律案を拝見いたしますと、新しく目につきますところが単身赴任手当、これを措置するというところがこれまでにない新しい問題点かと思います。単身赴任につきましては、ここでなぜ突然この単身赴任手当というものが登場したのかよくわかりませんけれども、社会的にも大変大きな問題になっておりまして、単身赴任を余儀なくされている、これはいろいろな家庭事情もありますしそれから日本家屋事情、さまざまな問題があろうかと思いますけれども、むしろ単身赴任という問題はこれから解消していかなければいけない、あるいはこれが家庭生活などを脅かすものではないかというような指摘もされているような現状です。そういう中で今回、単身赴任手当というものが新しく設けられたわけですけれども、これの問題点、細かい点につきましては、これは一般職政府職員の問題として内閣委員会等でも今後論議がなされる部分かと思いますけれども、この単身赴任手当措置されるということによって単身赴任が助長されたり、あるいは単身赴任というものがこれで十分に問題が解決をされるんだと、こういうように受け取っていただいては困るのではないかというふうに思うわけです。まず最初に、ちょっとその点が気になるところですので指摘をさせていただきたいというふうに思いますけれども。  今回、一般政府職員、これについて単身赴任手当支給することになったと。これの理由と、それからこれに準じて高裁長官、それから次長検事、それから検事長にも単身赴任手当支給する措置を講ずることにしたと。これは内閣総理大臣その他の特別職職員にはこの支給措置が講じられないと思うんですけれども、高裁長官次長検事検事長、この部分には特別に措置をすることになった理由、この辺についてまず御説明をいただきたいと思います。
  8. 則定衛

    政府委員則定衛君) お答えいたします。  単身赴任することの是非は別といたしまして、今回人事院勧告に基づきまして一般職国家公務員につきまして単身赴任手当が来年四月一日から新設されるという理由でございますけれども、これは御案内のとおり、一般政府職員単身赴任手当支給いたしますのは、異なる官署の間の異動等に伴いまして単身赴任をした者につきまして単身赴任に伴う二重生活による経済的な負担を軽減する、また、あわせて家族間のコミュニケーション不足を緩和するための例えば帰宅旅費等を補てんする趣旨で設けられたものと理解しております。  一般職職員につきましては、指定職それから指定職俸給表適用職も含めましてすべてこの手当支給されることになります結果、裁判官報酬法九条一項及び検察官俸給法一条一項の規定によりまして、判事判事補及び簡裁判事並びに検事及び副検事には一般職職員の例に準じ、またその例によりまして一般政府職員と同様の趣旨単身赴任手当支給されるという法律の構造になるわけでございます。  ところで、高等裁判所長官次長検事及び検事長につきましては、その手当支給について、これまた先ほど申しました法律当該条項によりまして、特別職給与法第一条第一号ないし第十五号までに掲げるものの例に準じ、またはこれによることとされておりますところ、特別職給与法適用職員につきましては、そのほとんどの職が任用された後に異なる官署間を異動するということが現実にはあり得ないといるような理由によりまして単身赴任手当支給の対象とはされておりませず、他方、特別職給与法適用職員の中でもそうした異動があり得る秘書官につきましては単身赴任手当支給されるということになっているのであります。  そこで、高等裁判所長官次長検事及び検事長について見てみますと、こうした異動があり得る職でございます。全国に八高裁、八高検等がございます関係上そういう異動があり得る職でございますので、単身赴任手当支給する必要性が認められますので、これを支給するために今回法律改正を行わせていただいたということでございます。
  9. 千葉景子

    千葉景子君 今回の単身赴任手当につきましては、一般職給与法で見ますとその要件というのでしょうか、それにつきましては例えば父母の疾病その他人事院規則定めるやむを得ない事情による、あるいは「通勤することが通勤距離等を考慮して人事院規則定め基準に照らして困難である」、また「単身生活することを常況とする」というようなことが一般職職員給与等に関する法律では十二条の二、一項で記載をされているところでございます。それに対して高等裁判所長官につきましては、今回、「一般官吏の例に準じて、最高裁判所定めるところに」よると。それから次長検事検事長につきましては「一般官吏の例により」というようなことで、一応基準といいましょうか要件が今後定められるということかと思いますけれども、この内容はほぼ一般職職員給与法、この基準と同様な、ほぼそれに準ずるような内容で今後基準定められていくのでしょうか。それぞれ高裁部分それから検察庁部分、ちょっと御説明をいただきたいと思います。
  10. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 御案内のとおり、検察官一般職員でございますので一般職員の例に準じて行うというふうに、今委員仰せのとおり支給手続が進められるわけでございます。したがいまして、現在人事院でその支給の準則を策定中でございますが、その作業を見守った上で、それによって行っていくというのが基本的に検察官に対する支給手続あるいは要件定め方であろうと思っております。
  11. 櫻井文夫

    最高裁判所長官代理者櫻井文夫君) 高等裁判所長官関係につきましては、御審議いただいておりますこの法律案で「一般官吏の例に準じて、最高裁判所定めるところにより」支給するというふうに定められているところであります。委員からも御指摘ございましたけれども、一般官吏の場合には一般職職員給与法の第十二条の二で単身赴任手当要件定められることになるわけでございますが、この枠組み一般職給与法定められる基本的な枠組みは、これは裁判官の場合も同様であるというふうに考えられます。  ただ、裁判官の場合には各種手当がございますけれども、それにつきまして一般職基本的な枠組みは同じくしながら、支給の具体的な手続等につきまして最高裁判所規則をもって定めている場合がございます。これは、一般職給与法及びこれに基づいて定められる人事院規則定め内容も見ながら、裁判官特殊性あるいは裁判所の組織の特殊性からさらにある程度詳細な定め最高裁判所規則をもってしなければならないという場合に、そのような定めがされているわけでございます。  しかし、一般職給与法及び人事院規則でもってほぼもうそのとおり裁判官にも準用することができるというような場合には、規則というような形式をとらないで別形式の、それ以下の形式による具体的な手続定めることによって手当支給方法定めるという場合もございます。そのいずれの形になるかというのは、この後の人事院規則策定作業等も見ながら検討さしていただきたいというふうに思っております。
  12. 千葉景子

    千葉景子君 ところで、この単身赴任手当支給方法というんでしょうか、例えばこれと並びましてつくられております寒冷地手当、こういうものでありますと、それは寒冷地ということでそこに勤務することが明白でございますけれども、単身赴任手当ということになりますと、それの認定とかあるいは今度は支給を停止する場合とかさまざま問題が出てこようかと思いますが、これは具体的にはどういう形で認定とかあるいは支給決定とかはなされていくものでしょうか。今の段階でまだ十分におわかりではないかと思いますけれども、もしわかる範囲であれば御説明をいただきたいと思います。
  13. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 先ほど申し上げましたとおり、詳細につきましては目下人事院規則策定中であると伺っておりますので詳しいことはまだ決まっておりませんけれども、基本的にはいろいろな手当ての中で比較的類似しているものとしては例えば扶養手当のようなものがあり得ると思いますが、やはり一つの申告制度といったものが前提になってこういった制度が運用されていくということだろうと思っております。いずれにいたしましても、規則定められましたら十分その趣旨を見まして、適正に運用していく所存でございます。
  14. 千葉景子

    千葉景子君 それでは、この給与につきましては、今後細かい点など決定され次第、また問題があればお尋ねをさせていただきたいというふうに思います。  次に、少し死刑制度の問題につきましてお尋ねをしたいと思います。  死刑廃止を目指す「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、国際人権B規約の第二選択議定書と言われているものの決議草案が本年の三月、国連人権委員会において採択をされまして、日本政府もこの決議の合意に加わっております。そして、議定書国連社会経済理事会へ送られまして同理事会投票の結果、総会送付採択をされ、国連総会においてこの議定書審議採択がなされるということになっております。  そこで、まずこの第二選択議定書、いわゆる死刑廃止条約と言われるものの内容を、概要で結構ですので簡単に御説明いただきたいと思います。
  15. 石垣泰司

    説明員石垣泰司君) お答えいたします。  死刑廃止第二選択議定書は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、いわゆる国際人権規約B規約の第二選択議定書として作成されたものでございまして、その第一条におきまして「締約国はその管轄権内において、死刑廃止のために必要なあらゆる措置を講ずる。」とされていますように、締約国死刑廃止を義務づけることなどを内容としたものでございます。
  16. 千葉景子

    千葉景子君 この議定書に関する国連におけるこれまでの審議の経緯、そしてそれに対する日本政府対応、これについて御説明いただきたいと思います。
  17. 石垣泰司

    説明員石垣泰司君) 先ほど委員からも御言及ございましたように、この議定書案は、最初国連差別防止少数者保護小委員会から本年春ジュネーブにおいて開催されました国連人権委員会に提出されたものでございますが、その委員会ではほとんど議論がなされないままに、同議定書案について何らかの行動を起こすことを検討するよう総会に勧告するという手続的内容決議が無投票採択されました。その際我が国は、この決議死刑存置国に対し立場変更を求めるものではないと理解するとの立場表明も行ってございます。  この決議は、さらにその後五月にニューヨークで開催されました国連経済社会理事会審議されまして、ほとんど深い議論がなされないまま投票に付されまして、賛成二十七、反対七、棄権十五、我が国を含みますが、で採択されました。これに基づきまして、現在開催中の国連総会において審議が行われることになったものでございます。経済社会理事会での投票の際我が国は、死刑廃止に関する第二選択議定書の作成は時期尚早であり、各国からのコメントを踏まえ十分論議を尽くすべきであると考えるとの立場を表明してございます。  今般、十一月二十二日、この選択議定書が今次国連総会第三委員会において投票に付されたわけでございますが、その結果、賛成五十五、反対二十八、棄権四十五で採択されました。我が国は、次のような基本的考えから反対投票をいたしました。第一には、死刑廃止の問題は一義的には各国によりその国民感情犯罪態様等を考慮しつつ慎重に検討さるべきであること。第二に、死刑廃止についての国際世論の一致があるとは必ずしも言えないこと。第三に、本件議定書案につきましてはこれまで人権委員会において十分な議論が尽くされていないため、さらに十分な審議を尽くすべきであるということを理由といたしました。
  18. 千葉景子

    千葉景子君 この総会におきまして賛成五十五、反対二十八、棄権四十五と。主な国名を挙げていただきたいと思います。
  19. 石垣泰司

    説明員石垣泰司君) 今次総会第三委員会採択におきまして各国投票しました際の賛成五十五の主な内訳は、西欧諸国中南米諸国などでございます。反対二十八の主な国は米国日本、インドネシア、マレーシア、エジプトなどでございます。棄権四十五の内訳といたしましては、インド、シンガポール、ザイール、ザンビアなどでございます。
  20. 千葉景子

    千葉景子君 今、国名を主なものを挙げていただきましてわかりますように、米国反対立場をとられているようでございますけれども、西欧諸国あるいは中南米諸国賛成立場をとられている。棄権をしたアフリカ、これはまだまだ難しい問題が残されている地域性というのはわかるような気がいたしますけれども、そういう中で我が国反対立場をとっているということは極めて問題になるところじゃないかというふうに思います。  現在、死刑制度に関する世界状況、これを見てみますと、すべての犯罪に対して死刑廃止している国がほぼ三十五カ国、軍事政権下などの例外的な状況を除いて通常の犯罪に対して死刑廃止している国がほぼ十八カ国、アメリカは先ほどの総会では反対立場のようですけれども、これも州によりましては廃止をしている州もある。それから、死刑制度はありますけれども、過去十年ほどにわたって死刑が執行されていない、事実上凍結をされているような国が二十七カ国、三十カ国近く。近年はほぼ年に一カ国ぐらいが死刑廃止に向けて制度をつくっている、こういう状況です。  そういう中で、我が国は今後この死刑制度の問題について一体どういう立場で、あるいはどういう対応をしていくのかということがやはり問われてくるだろう。世界の趨勢からあるいは国際条約基本的な理念から考えても、我が国対応がこれから非常に注目をされていくというふうに思いますが、その点について日本政府としては今後この死刑制度に対して一体どういう対応をされていくのか。当分静観をするというんでしょうか、特別な対応をとらずに進んでいかれるのか。あるいは何らかの論議提起をしていくなどの行動をとられるのか。この辺について、今後の考え方について御説明をいただきたいと思います。
  21. 後藤正夫

    国務大臣後藤正夫君) ただいまの千葉委員の御質問に対して、私からお答え申し上げます。  死刑制度の存廃につきましては、国際的にも国内的にもいろいろな意見がありますことはただいま御指摘のとおりでございますが、この問題に関する世界各国の態度は大きく分かれておりまして、我が国刑事行政に責任を負います法務大臣といたしましては、国家社会における正義の維持を基本といたしまして、国民世論動向等種々の要素を総合的に勘案して慎重に判断をすべきものと考えております。  私の見ますところによりますと、国民の大多数は現在なお凶悪な犯罪を犯した者に死刑を科することは正当であるという考え方を持っているようでございます。しかも、死刑凶悪犯罪抑制の特別の効果があるということを信じている者も多いと思われる現状でございますので、これらの事情にかんがみまして死刑制度はこれを現在は維持すべきものという考え方を持っております。
  22. 千葉景子

    千葉景子君 常々お尋ねをいたしますと、この死刑制度につきましては抽象的な、現在は国民感情からしても維持していくべきものと考えられるという、そういうことが述べられるわけですけれども、ただ、この死刑制度につきましては、基本的には人権の観点、人間生命の尊重という意味からも、世界人権宣言などでもすべての生命、自由、身体の安全に対する権利が保障されている。  それから、国際人権規約などでも一挙に死刑廃止を義務づけることはできないけれども、将来廃止を目指す方向で、そしてあるいは非常に制約された厳格な条件のもとで死刑は存置すべきだと、こういう立場をとっておりますし、一九七七年の国連決議などでも、あらゆる国家において死刑廃止が望ましいものなんだというような決議もされている。そして、人権委員会におきましても死刑廃止のためのあらゆる方策というのは生命の享受を前進させるものだという考え方も示されている。世界的な人権機構あるいは考え方によれば、死刑は今後やはり廃止方向に努力すべきものだということが明確に提起をされているだろうというふうに思います。  そういう意味では、日本政府としてもあるいは法務省としても死刑問題に対してただ静観立場をとるのではなくて、何らかこれに対して、あるいは人権立場からしても、国民に対する問題提起などをやっていかなければいけない、そういう時期に来ているのではなかろうかと思うわけですが、こういう国際的な実情あるいは人権機構によるさまざまな問題提起、こういうことを踏まえて、いかがでしょうか、もう少し具体的な今後の考え方などを示していただくわけにはいかないでしょうか。
  23. 後藤正夫

    国務大臣後藤正夫君) お答えいたします。  申すまでもなく、死刑人間生命を絶つという極刑でございまして、一度執行されればこれを回復するということはできなくなるものでございますので、その執行に際しましては特に慎重な態度をとることが必要であることは申すまでもございません。刑事訴訟法第四百七十五条におきまして、死刑の執行につきましては、他の自由刑や財産刑の執行とは全く異なり、法務大臣の命令によることとされておりますのは、このような趣旨に基づくものと私は理解をいたしております。  特に、死刑の判決は極めて凶悪そして重大な罪を犯した者に対し、裁判所犯罪事実の認定についてはもとより、被告人に有利な情状につきましても慎重な審理を尽くした上で言い渡されるものであるということから、その執行命令を発する責任を持っております法務大臣といたしましては、裁判所の判断を尊重しつつ関係記録を十分精査検討いたしまして、慎重かつ厳正に対応すべきものと考えております。  そして、ただいま御指摘がございましたような国内外の世論の動向等というものにつきましても十分耳を傾け、十分そういうことも考えまして今後のあり方ということにつきましては慎重に検討すべきものと考えております。
  24. 千葉景子

    千葉景子君 世論の動向、これが大きな存置継続をする理由の一つになっております。しかしながら、世論というのはどういうことで判断をなさっているのか私もちょっとよくわかりませんけれども、本当にその世論を形成するための土壌がつくられているかどうか。例えば本当に国民死刑制度というものがどういうものであるか、それをよく熟知しているかどうか。それから世論調査するに当たっても、とかく凶悪犯罪、そういうものが起こったときに調査などがなされがちである。それから国際的な状況あるいは犯罪の生じた背景、こういうことなどがやはり十分に説明をされているだろうか。こういうことも含めて、国民世論は一体どういうものが形成をされるのかということを考えていかなければいけないだろうというふうに思うんですね。  それから、よく死刑がなくなると凶悪犯罪がふえると、抑止力があるのではないかということも理由になっているんですけれども、これも、国連犯罪防止規制委員会、ここで一九八八年に提出された報告書などによりますと「死刑の執行が終身刑よりも抑止効果があるとする科学的な証明に達することはできなかった。このような証明は将来も行われることはないであろう。全体として見ると、抑止仮説を積極的に支持する証拠は何もない。」、こういうことも言われております。  また、東京拘置所の医務官として多くの死刑囚と接した加賀乙彦氏も、その書かれた「死刑囚の記録」という書物の中で、凶悪犯罪を犯した者に対していろいろと話をしたけれども犯罪を実行する際に死刑問題などが頭に浮かぶようなことはまずなかった、それはゼロに等しいというようなことをおっしゃっています。こういうことをさまざま考えますと、いろいろ死刑を存続させる根拠とされているものは極めて理由が乏しいのではないかというふうに思います。  それに引きかえまして、今言った人権保障あるいは冤罪などによる誤判のおそれ、そういうことを考えますと、やはりそろそろこれを客観的に感情論ではなくて論じていかなければいけない、そういう時期に来ているのではなかろうか。そして、むしろ犯罪被害者などに対しては社会的にさまざまな救済をしていくなどの措置を考えていくことこそ、これから重要なことではなかろうかというふうに思うんです。  そういうことを含めまして考え方をお聞きしたんですけれども、法務大臣としてはこの死刑問題あるいは死刑の執行問題に対して一番最終的な責任者でいらっしゃるわけですね。どうされますか。今後具体的に問題が生じた場合に、法務大臣としてはどう対応されていこうとお考えですか。
  25. 後藤正夫

    国務大臣後藤正夫君) ただいま御指摘がございましたように、私が最終責任者でございます。この問題は今後、今御指摘のありましたような点をも十分念頭に置きまして検討をいたしていくべきことである、そのように考えております。
  26. 千葉景子

    千葉景子君 これはまた引き続きまして私も御論議をさせていただきたいというふうに思います。  それではもう一点、次の問題に入りたいと思いますけれども、奄美大島、ここに宇検村という村がございますが、ここで昨年来右翼団体によりまして、ここに入植された十数名の皆さん、この入植者に対する非常に嫌がらせとも言うべき街宣活動、さまざまな嫌がらせ行動が続けられております。これは昨年来続けられていることなんですが、ことし八月末ごろから再び激化しておりまして、連日、部落の中を軍歌や教育勅語などを大きなスピーカーの音で流して歩く、そして住民の個人攻撃なども街宣車で行っているなど、異様な雰囲気に今包まれていると言われております。  まず、こういう実態についてどのように把握されていらっしゃるのか、あるいは御存じであるのか、警察庁にお伺いをしたいと思います。
  27. 渡邉泉郎

    説明員(渡邉泉郎君) お答えいたします。  ただいま御指摘の、奄美大島の入植者であります無我利道場に対しまして右翼の抗議行動が展開されているわけでございますけれども、鹿児島県警察といたしましては所要の態勢で警戒に当たっておりまして、違法行為があった場合にはその都度厳正に対処し、これまでに建造物損壊、致傷事件等五件九人を検挙いたしております。
  28. 千葉景子

    千葉景子君 この経緯というのは極めて異様な状況なんですね、細かいことは時間の関係でなかなか申せませんけれども。  そもそもここは戸数が三十戸余りの部落なんですけれども、ここに一九七五年に入植者の方が十数名入植をされております。その後十年余りは大変平穏にその部落の皆さんとも交流を深めて生活を続けていたわけですけれども、一九八七年三月ごろから、これは理由は定かではございませんけれども、住民の一部からこの入植者に対する悪質な嫌がらせ、あるいは中傷誹謗を内容とするビラの配布などが始まりました。そして一九八八年の四月に、これに呼応するように右翼団体がこの島に来島する。そして、テロ・ゲリラ集団は出ていけとか、村八分にしてみんなでたたき出そうというような街宣活動を始めたわけですね。  そして一九八八年、昨年の十月には、今御指摘もありましたけれども、襲撃事件というのがございまして、内容を見ますとこれは本当に法秩序をこんな形で破壊をするというのは危険きわまりないことなんですけれども、ダンプカーで突入して入植者の住んでいる家を破壊する。そしてしかも、その際とめに入った入植者に対してそのダンプでけがをさせる。ダンプの後輪で骨盤開放骨折四カ所、肝障害など全治六カ月という重傷を負わせ、しかも道端に負傷者をほうり出して、さらにダンプカーで家を破壊する、こういう行動を行っています。  このような一連の行動に対しまして、鹿児島県の弁護士会、人権擁護委員会などからはこの嫌がらせ、追放運動というのは根底には人権侵害の疑いが強い、こういう指摘もされておりますし、また八九年、ことしの一月ですけれども、この村の村議なども含めて組織されている無我利道場解体村民会、ここがやはり誹謗中傷を内容とするビラを配布したことに対して鹿児島法務局名瀬支局に対して人権救済の申し立てもなされている、こういう実態でございます。  そして、最近の動きは寝泊り用のプレハブ小屋をつくり、これは部落の住民の家のすぐそばにこういうプレハブ小屋をつけて、そこからスピーカーで一日じゅう街宣活動をする。あるいは街宣車を使って集落内を一日じゅう走り回る。私もこの状況につきまして、現地に行きました方からそれを録音したテープをお借りいたしまして聞いてみましたけれども、これは本当に耳をつんざくというんでしょうか、大変な大きな音で街宣活動がされている。そしてその間を縫って入植者あるいは村の住民、こういう方に対して個人的にさまざまな攻撃がされているということです。  例えばひとり暮らしのお年寄り、おばあちゃんですけれども、そういう方に対して出ていけとか、あるいはヒッピーとつき合うおまえは中国かソ連に行け、出ていけなどという嫌がらせがされたり、あるいは漁業をやっている方には出歩くとそこにつきまとって軍歌などを鳴らして嫌がらせをする。その他街宣活動の中では、さきにそういう家の破壊行為などがなされておりますけれども、また家に突っ込んでやるとか、ガソリンをまいて火をつけてやるとか、あるいはおかしな格好をするな、ここから早く出ていけ、こういうような街宣活動などがなされているというのが状況でございます。  これに対して適切な措置をなさるというお話でございますけれども、実際にここまで大きなボリュームで街宣活動をする、音をまき散らす、しかも家のそばまで来て行う、あるいはガソリンをまいて火をつけてやるとか、また家に突っ込んでやるというような言葉で表現をするということになりますと、これは既に嫌がらせの域を超えて違法行為、犯罪行為にも該当する、暴行、脅迫などにも該当する行為ではなかろうかというふうに思いますけれども、いかがですか。警察庁はこういう事態について、これはもう放置をするべきものではない、違法行為ではなかろうかと思いますけれども、いかがでしょうか。
  29. 渡邉泉郎

    説明員(渡邉泉郎君) 御指摘のように、鹿児島県警察では警察官を奄美本島の方に応援派遣いたしましてこの種事案に対応しているわけでございますけれども、警察の基本方針といたしまして、違法行為があればその都度検挙する、こういう方針で臨んでおります。先ほど御指摘の騒音につきましても、騒音測定器をセットするなど、音量を測定いたしましてその都度必要な警告を発しておりますし、事件化をする方向で現在捜査中でございます。また、脅迫的な言動があった場合、当然状況によりましては脅迫罪に該当するわけでございまして、そういう観点から鹿児島県警察では現在捜査を進めております。  いずれにいたしましても、警察といたしましては、このような右翼の抗議行動等に対しましては違法行為は絶対に看過しないという方針のもとに、厳正に対処してまいる所存でございます。
  30. 千葉景子

    千葉景子君 ぜひきちっとした対応をしていただきたいと思うんですけれども、十月八日には、こういう事態を憂慮して取材に当たっている記者がこの右翼団員に殴打されたというようなことも起こっております。ただ、これにつきましては、近くに警察官の方もいらっしゃったようですけれども、とりわけて逮捕をするあるいは検挙をする、取り調べるというようなことはなく終わってしまっているということも私は聞いております。どうも対応が及び腰といいましょうか逃げ腰、見て放置をしている、静観をしてしまっているというようなことが見受けられるわけですね。住民やあるいは入植者の側においては何ら違法行為をしているというようなことはないわけですし、一方的なこういう暴行、脅迫にも当たるような行為につきましては十分に措置をとっていただきたいと思うわけです。  この入植者あるいは村のこういう状況、これにつきましてはさまざまな問題が取りざたされてはいるようです。例えば背景には観光開発とかあるいは産廃処理施設の誘致問題が絡んでいるのではないか、それとこの右翼団体が共闘をしてこういう追放運動、嫌がらせ行動を行っているのではないかというようなことも取りざたされてはおります。今回はその問題については私は深く言及はいたしませんけれども、いずれにしましても、こういう多様な価値観がある民主社会ですから、若干の生活観の違いあるいは行動様式の違い、そういうものはあろうかと思います。しかし、それを否定するというようなことになるとこれは民主社会の根底の否定ですし、しかもそれを暴力や脅迫をもって実現しよう、それを押しつぶしていこうとするのはまさに法秩序の無視であろう、こういうふうに思います。  そして、これは学校などにも波及をしておりまして、鹿児島県教組奄美地区支部、ここでは十月二十二日、こういう現在の状態を一刻も早く改善、解決するために警察など関係機関が早急に具体的な措置をとるべきだと、こういうアピールなども採択をしている状況です。これは十月ですが、もう十二月に入っております。一向にきちっとした措置がとられていないという状況ですので、これはぜひ早急な対応をしていただきたいというふうに思いますが、いかがですか。近々何らかの措置がとられるでしょうか。
  31. 渡邉泉郎

    説明員(渡邉泉郎君) 最初に、先ほど御指摘の新聞記者の暴行事件の関係でございますけれども、これは十月の八日に発生した事件でございますが、この事件は、警察といたしましては現場を警戒中の警察官五人が直ちに現場に参りまして制止をした上で、現場で事情聴取を行いましたところ、被害を受けました記者の方が自分がばかやろうというようなことを言って相手を興奮させたということで自分にも非があるので事件にしないでほしいというような言動が最初あったわけでございます。その後警察の方でお話をいたしまして、翌日被害者に再度協力を求めましたところ被害申告をするということでございましたので、所要の捜査を行いまして十月の十八日に被疑者を暴行事件として鹿児島地検名瀬支部に書類送検をいたしております。事件処理をいたしております。  いずれにいたしましても、この奄美本島における各種の右翼の抗議行動等は島民の平穏な生活を阻害するような面が多々見られますので、鹿児島県警察といたしましてはこういった島民の方が安心して住めるような環境をつくるようにと、いずれにいたしましても警告あるいは事件化ということで措置をしてまいりたいというふうに思います。
  32. 千葉景子

    千葉景子君 それでは最後ですけれども、この問題につきましては先ほど申しましたように鹿児島法務局名瀬支局にも人権救済の申し立てがなされ、早急にこういう人権侵害の状況を救済してほしい、解消してほしいという申し立てもなされているようです。これについてはまだ最終的な結論がどうも出ていないように私は認識しておりますけれども、こういう事態について、人権を守るという立場法務省そして法務局としてもやはり明確な対応をなさるべきではなかろうかというふうに思いますけれども、この点について法務省の御意見を伺いまして私の質問を終わらせていただきたいと思います。
  33. 高橋欣一

    政府委員(高橋欣一君) ただいま委員お尋ねの名瀬支局に対する申し出の件につきましては、地方法務局等の人権擁護機関で検討いたしまして、この申し出は先ほどちょっと委員のお言葉に出ました解体村民会という村民の一部の方のグループが無我利道場の人たちに関するビラをつくって配った、それが無我利道場の人たちを誹謗中傷するもので人権侵害である、こういう申し出であったと承知しております。  それにつきまして、いろいろ検討いたしましたが、このビラそのものは、これは一つの主張というふうにもとれますものですから、これだけで即人権侵害の疑いというわけにもまいらないと思っておるわけでございますけれども、しかしこういう運動がエスカレートしますと、場合によっては無我利の人たちに対する人権侵害に発展するおそれは十分考えられるところでありますので、村の人たちにそういうことにならないように人権の啓発に努めてきておるところでございます。
  34. 後藤正夫

    国務大臣後藤正夫君) ただいま人権擁護局長からお答え申し上げましたとおりでございますが、法務省といたしましては、無我利の方々の人権が侵害されることのないように、この上とも情報の収集に努めまして関係者に啓発を行いますと同時に、またそのために必要な措置をとりますよう努力いたします。
  35. 白浜一良

    白浜一良君 このたび裁判官報酬また検察官俸給等改正案が審議されているわけでございますが、この改正案が通過いたしまして、いわゆる民間ですね、弁護士さんでございますが、その民間との格差がどうなるのかお伺いしたいと思うわけでございます。私が聞きますところによりますと、初任給段階では十万円ほど違う、こういう話も伺っているわけでございますが、どのようになっているのかお伺いしたいと思います。
  36. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 弁護士さん全体の収入の問題につきましては、必ずしも私ども全部を把握することはできないわけでございますけれども、従来、その格差の問題として私どもが給与関係手当てをする必要上、日弁連に依頼をいたしまして、初任弁護士そして特に他の弁護士事務所で雇われる弁護士さん、いそ弁と称しておりますが、いわゆるいそ弁の初任給につきまして日弁連の協力を得て調査をしておるわけでございます。  そういった観点で申し上げますと、昨年の初任弁護士の平均月収額は約三十五万四千円ということになってございます。これに対しまして初任の検事、これは判事補も同じでございますけれども、基本給にいわゆる初任給調整手当を足しますと約二十五万八千円ばかりになるわけでございまして、その格差は約九万六千円ばかりになるわけでございまして、御指摘のとおり約十万円の差があるわけでございます。そういったこともございますので、四十六年に創設いたしました判検事に対する初任給調整手当の増額を図るべく平成元年度四月一日から一万四千円ばかりアップいたしまして、初任給調整手当でその格差を埋めておるわけでございますが、それにいたしましてもまだ約八万ばかりの差があるということでございます。  しかしながら、これは弁護士との名目上の差はございますけれども、弁護士さんには官舎の支給がないとか、あるいは健康保険とか年金といったような関係官吏とは違う制度、異なる制度をお持ちであるというようなこともございまして、必ずしも実質的にはその数字に出てくるほどの差はないというふうに理解をしておるわけでございます。
  37. 白浜一良

    白浜一良君 待遇面だけが原因であるとは思いませんが、最近特に検察官の方の任官者数が少ないという話を伺っているわけでございます。また、欠員がございまして補充も難しいという、そういう現状があるというふうに聞いたわけでございますが、ここ三年間ぐらいで結構でございます、検察官の方の任官数、途中でやめられた方、またその欠員補充をどうされているか、その辺の実態をお伺いしたいと思います。
  38. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 過去三年の数というお尋ねでございますので申し上げますが、昭和六十一年度の任官者数は三十四名でございます。六十二年は三十七名、六十三年度が四十一名でございます。これに対しまして、六十一年度の中途退官者数は五十三名でございます。昭和六十二年度の中途退官者は四十六名、六十三年のそれは五十五名ということでございまして、任官者と退官者の数で見ますと任官者の数の方が少ないというのが最近の状況でございます。  なお参考までに、平成元年度におきましては任官者数が五十一名に戻りまして若干愁眉を開いたところでございますけれども、来年度以降さらにまた厳しい状況であるという話もございまして、この問題につきましては私どももいろいろの対策を考えなきゃならないと考えておるわけでございます。  欠員の問題でございますが、欠員は定年退官あるいは死亡それから先ほど申しましたいわゆるその他の中途退官というものが年度の途中に常時発生するわけでございますので、欠員数というのは必ずしもその時期時期によって一定をいたしておりません。そういった観点で、十二月末現在で毎年欠員を把握いたしておりますが、その数を申し上げますと、六十一年度の十二月末現在では五十七名の欠員、六十二年度におきましては六十二名の欠員、六十三年度におきましては七十六名の欠員を保有しておるわけでございます。これは予算定員との関係における欠員でございます。そういった関係で欠員が常時あるというのが実態でございます。それを何とか任官者で埋めていくというのが一年間の作業であるわけでございますけれども、任官者数が先ほど申しましたような実態でございますので、欠員は必ずしもいつも埋まっているというわけではないという状況でございます。  これはいろいろの理由が考えられると思いますけれども、私どもはまず司法修習生から検事に任官する者をより多く採るために指導を担当する者あるいは検察庁において実務修習を指導する者、それらがいろいろ工夫を凝らしまして、真摯に根気よく後継者の獲得に努力をしておるわけでございますが、それのみでは足りませんので、先ほど申しました初任給調整手当の増額といったような面で収入面の格差の解消を図っていくということであるとか、あるいは住宅の整備をするといったような問題であるとか、いわゆる処遇面での充実強化につきましても最大限の努力をしておるところでございます。  さらに、仕事が非常に厳しい仕事でございますが、そういう厳しさの中にいろいろやはり若い者の気持ちを酌んで、任官者をふやしていくということのために、法務、検察におきましても幹部等がそれぞれいろんな機会に会議を持ちまして、そういった面の対策、対応といったものについても精力的に検討しておるというのが現状でございます。
  39. 白浜一良

    白浜一良君 ただいまも多少述べられたわけでございますが、いわゆる退官者数も多いことでございますし、人員確保が大変であると。なぜそういうことになるのかということをお伺いしたいわけでございますし、また欠員もたくさんあるわけでございますが、多少今お触れになりましたけれども、今後具体的にどのような対策を考えていらっしゃるのか、重ねてお伺いをしたいと思います。
  40. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 先ほど数字を申し上げましたけれども、結局中途退官者数というのは、ずっと過去の統計を見ますと、最近特にそれが著しくふえたということではないわけでございまして、平均して大体例年このぐらいの数は中途退官するわけでございます。したがって、問題は任官者が少ないということが問題であるわけでございます。そういったことで、私どもは先ほど申しましたが、任官者確保に重点を置いていろいろ対応を考えておるわけでございますが、最近特に任官者が少なくなっている一つの原因と考えられますのが司法試験の現実でございます。  もう既に御案内のとおり、司法試験は平均六回以上、平均六回の受験を要し、そして合格しました平均年齢が二十八・九歳というような現状でございます。そういたしますと、それから二年間修習をいたしますと三十前後で任官をするという話になるわけでございますが、社会一般から見て三十前後で初めて初任の検事になるというようなことを考えますと、いわゆる六十三定年制を持っております検事世界へ飛び込んでその年齢から若い人たちと一緒になってやっていくという点で考えますと、やはりどうしてもちゅうちょする面があるだろうということが一つ大きなファクターになっておると思います。それから同時に、大学の同期生は既にもう一般社会、他の社会へ出ればそれなりの中堅としての働きをやっておる。検事になれば初めて任官したとき、若い人と同じにとにかく一兵卒から始めるんだというようなこともございましょう。いろんな意味で司法試験が一つの隘路になっていることは事実でございます。  そういったことで、それのみで司法試験の改革を考えているわけではございませんけれども、現在三者協で協議しております司法試験の改革といったものを通しまして、比較的多くの人がより早い機会に合格する司法試験にするというようなことが実現いたしますならば、その波及効果といたしまして若い人がふえる、若い人がふえれば任官者もふえるだろうというような考え方で、この司法試験の改革にも取り組んでおるわけでございます。その他処遇面につきましては、先ほど申しましたとおり給与面あるいはその他の物質的な処遇面等におきまして種々の対応を鋭意検討するということで進んでおるわけでございます。
  41. 白浜一良

    白浜一良君 大事なお仕事でございますので、しっかりお願いしたいと思います。  もう一つ、いわゆる仕事の実態が大変厳しいというふうにも伺っておりまして、これは裁判所の方にもお伺いしたいわけでございますが、要するに勤務の実態が不規則であると思いますが、どうなっておるのか伺いたいと思うんです。例えば普通のサラリーマンで言いましたら週休二日制という流れがあるわけでございますが、そういうことの実態、またいわゆる残業で仕事をするという実態もあると思うんですが、その辺のところをお伺いしたいと思います。
  42. 櫻井文夫

    最高裁判所長官代理者櫻井文夫君) 裁判官の勤務時間につきましては、その職務の性質上、明確に例えば一日について何時間というような定めがあるわけではございません。大体は一般職員が勤務している時間と同じように裁判官も執務の体制をとるというのが通常の形でございます。  ただ、裁判官の場合はそのほかに職務の必要性に応じて、一般職員の勤務日、登庁日でない日にも執務をするということがあり得るということでございます。個々の裁判官がどの日どの時間に執務をするかということは、これはそのときどきの担当しております職務の性質あるいはその仕事のそのときどきの繁閑等によっても違ってまいります。民事の保全事件であるとかあるいは刑事の令状事件などを専門に担当しております場合には、裁判所の執務時間内で執務をすると申しますか、役所において執務をするのが中心であるということになるわけでありますが、例えば非常に大きな事件を担当しておりまして、そしてこれが終結をする、結審をする、そうしてこれから判決の起案にかかるというような場合には、自宅において深夜にわたりあるいは土曜日曜をつぶして判決の起案に専念するというような時期もございます。  そのように、そのときどきの仕事の回転がどうなっているかということにも大きく関係するわけでございますが、概して言えますことは、裁判官の場合、役所の拘束時間はそんなに深夜にまで拘束されるということは必ずしも多くはございませんが、土曜日曜をつぶしての執務あるいはウイークデーに自宅へ帰ってからする仕事というような点は、これは一般政府職員よりは多いと申しますか、そういった点に特徴がある勤務であろうというふうに思っております。
  43. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 検察官につきましては、もう委員案内のとおり、公益の代表者としての国家刑罰権の実現に努めるという非常に重要な職を担当しておるわけでございますので、その職務は数の問題あるいは時間の拘束の問題といった点では今裁判所の方から御説明があったような実態と大差ないわけでございますけれども、それにプラスして心理面と申しますか心身に与える緊張感と申しますか、そういったものが非常に高い職であるというのが特徴であろうかと思います。  そういった意味で、できるだけ土曜閉庁の休みもとれるようにいたしておりますし、祭日、休日も休めるようにあるいは夏季休暇もとれるようにと指導しておるわけでございますけれども、やはり場所によってはそれもとれない場所も依然としてございます。しかしながら全体として言えることは、そういった職務の重要性からくる緊張感と申しますか、そういった面が非常に厳しいということが一つあろうかと思います。  先ほど申し落としましたが、任官者が少なくなってきた理由の一つとして、近ごろの若い者がそういったものに耐えず、むしろ自分の好きな道に自由な時間を求めていくというような傾向がある現在の風潮から考えますと、非常にそういった点が隘路になっておるということもこの際つけ加えさせていただきたいと思います。
  44. 白浜一良

    白浜一良君 先ほども話が出ましたが、いわゆる単身赴任、今回手当が明記されておりますが、要するに一般職と比べてこの裁判官の方、検察官の方はその数が多いと言えるのかどうかということをお伺いしたいと思いますし、手当が書いてありますが、それ以外に何か単身赴任用の対策を考えていらっしゃるのかどうか。例えば官舎でも、単身で赴任された場合家族が残るわけでございますが、残られた家族はいわゆる官舎に住めるという保障がされているのかどうか、そういう具体的なことまで含めてお伺いをしたいと思います。
  45. 櫻井文夫

    最高裁判所長官代理者櫻井文夫君) まず裁判官単身赴任の実情でございますが、昨年の九一日現在で裁判官単身赴任者は二百三十名でございます。裁判官全体に対する比率は八・三%でございます。行政省庁の単身赴任状況は必ずしつまびらかではございませんが、裁判所一般職員単身赴任状況は三・二%でございますので、行政省庁の場合それに似たような数字ではないだろうかというふうに思っております。したがいまして、その比率は一般職員よりは高くなっているということが言えると思います。  これはなぜそういうことになるのかということでございますが、御承知のように裁判所は全国の各都道府県単位にございます。しかも、県庁所地のみならず各部道府県内にさらに支部がございます。それから裁判官の中の簡易裁判所判事は、その支部よりもさらに僻地の簡易裁判所に赴任する必要があるわけでございます。そういうことで、配置をしなければならない組織が全国に散らばっていて非常に数が多いということから、どうしても単身赴任の比率が高くなってくるものというふうに思うわけでございます。  私たちとしましては、とにかくなるべく単身赴任者を減らした方が好ましいことは言うまでもないわけでありますので、できる限り各人の家庭事情、個人的な事情も酌みながらその配置を考えているわけでございますが、今申しましたような裁判所の組織そのものの配置の実情から、なかなか難しい面があるということでございます。  ただいま官舎の面での配慮というお話もございましたが、留守家族を置いていきます場合に、例えば六カ月程度の範囲で引き続きその宿舎の使用を認めるというようなことをやっている場合もございます。ただこの場合も、裁判所の赴任の場合これまでの居住地を離れて赴任いたしまして、それから今度は必ずしもまたもとのところへ戻ってくるとは限らないという、そういうこれもまた一般政府職員にはない特殊性がございますので、そういった点でもなかなか宿舎の面でのそれ以上の配慮というのが難しい面がございます。この単身赴任者の負担の軽減策、特にこういった宿舎の点などにつきましては、引き続きこれからも検討をしていきたいというふうに思っております。
  46. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 検察官につきまして、単身赴任者数を本年七月一日現在で調査をいたしました結果、単身赴任者数は百七十五名でございまして、これは検察官の在職者数に対しまして約八%になるわけでございます。一般行政官につきまして本年一月十五日現在で調査された結果をお聞きしましたところ、約一万七千名ということでございまして、それは三・三%であるということでございますので、裁判官同様、検察官につきましても単身赴任率が一般行政官よりも高いという実態があるわけでございます。  単身赴任につきましては、先ほど千葉委員も仰せになりましたとおり、必ずしも家族ということを考えますと好ましいことではないわけでございまして、私どもは平生から単身赴任の減少あるいは家族帯同の促進といったことを説得しておるわけでございますけれども、裁判所からお話がございましたとおり、検察官につきましても全国規模の異動をやらなきゃならないという意味におきまして、一般行政官と比べて転勤率が非常に高いということが言えるわけでございます。これは職務の性質上やむを得ないと考えるわけでございまして、そういった意味でやむを得ず単身赴任をしている者に対して今回単身赴任手当が創設されたということは、それなりに私どもはありがたいことだというふうに思っておるわけでございます。しかし、今後ともその解消には努めていかなきゃならぬということも他方考えてはおるわけでございます。  単身赴任手当以外の手当てということで御質問でございますが、裁判所と同様、住宅の問題につきましては同様の手当てをいたしておりますほかに、例えば子弟寮を整備するとかいったような形で、安心して赴任ができるような形をとれるようにするということも一つの方策でございます。他方、やはり単身赴任者の健康管理ということも非常に大事であると考えておりますので、そういった面におきましても、今後所管庁と連携しながら単身赴任者の健康管理問題、それから特にまた家族とのコミュニケーションの増進の問題といったようなことにつきましてもさらに取り組んでいかなければならないと考えておるわけでございます。
  47. 白浜一良

    白浜一良君 最後にお伺いします。  法務大臣にお伺いいたしますが、いろいろ今実態をお伺いしましたけれども、私、先日友人の弁護士と話をしておりましたら、要するにいわゆる大蔵省とか通産省のように天下り先がないという。だからそういった面で人気がないんだという。けれども、考えてみましたら法を守る、また法によって人を裁くという非常に大事な立場で仕事をされている方であるわけでございまして、そこで非常に人員確保が大変だというそういう実態を憂えているわけでございますが、逆に言いましたら官界全体が天下りというかそういう利益誘導型の構造になっているという一方で、そういう大事な仕事が人気がないという実態を法務大臣としてどのようにお考えか、最後にお伺いしたいと思います。
  48. 後藤正夫

    国務大臣後藤正夫君) ただいま白浜委員の御指摘がございましたように、特に検察官の場合は天下りというのがないのは事実でございます。したがいまして、今後私どもといたしましても、検察官が将来安んじて職務に精励することができますようにいろいろな努力をすることが必要であると、そのように考えておる次第でございます。今の御指摘の点につきましては、私どもも十分念頭に置いて努力をいたしたいと思います。
  49. 橋本敦

    ○橋本敦君 単身赴任手当ができたということ自体はよいことであるというように言うことができるわけですが、実情として先ほどお話がありました裁判官検察官、それぞれ一般職より単身赴任率が高い。裁判官で約二百三十名で八%。その実情としていわゆる僻地支部関係、そういうところで単身赴任が多くなっているのか、実情がどうなのかという点はいかがですか。どのあたりで単身赴任が多くなっていますか。
  50. 櫻井文夫

    最高裁判所長官代理者櫻井文夫君) 単身赴任が多くなっておると申しますのは、その行き先が僻地と申しまして例えば離島であるとかあるいは本当の山間僻地であるとかということにもちろん限られるわけではございません。東京なり大阪なり大都会の裁判所に勤務しておりまして、そしてかなり離れた土地へ異動をしていく、その場合に家族の例えば子供の学校の関係であるとか、あるいは時には家を既に取得している場合とか、そういったさまざまなケースがございます。そういうケースもかなり多いというふうに考えられます。  ただ、一般省庁と違う大きな点は、やはり裁判所の場合は本庁以外、各都道府県単位のところへ出向く、一般官庁の単にブロック官庁と言われるようなところではなくて、都道府県単位のところへ行かなければならないということと、さらにその支部へ行かなければならないという、そういった点が大きな基礎的な要因、バックグラウンドとしてあるというふうに考えられるわけでございます。
  51. 橋本敦

    ○橋本敦君 裁判官の職務のそういった一般職とも違う重要な位置づけ、そういった点から転勤が多くなり単身赴任も多くなるというのはやむを得ない状況ですから、そういう職務に専念をしていただくということについて給与の面でもカバーをしようということですから、私はそれ自体はいいことだと、こう思うわけです。  しかし、単身赴任ができるだけないようにするのがこれはいいことは間違いございません。そういう意味では官舎の整備だけにとどまらず、転勤の合理性といいますか、それぞれの家庭の条件や希望もよく聞きながら適正な人事配置をしていただくように、この点は単身赴任手当てができたからいいということにとどまらないで、そういった観点から今後とも見ていただく必要があると思いますが、その点一言いかがお考えですか。
  52. 櫻井文夫

    最高裁判所長官代理者櫻井文夫君) 仰せのとおりでございまして、私ども単身赴任手当ができたために、もうこれで事足れりというふうにもちろん考えているわけではございません。できる限り単身赴任をしなければならないようなケースを減らすという方向で人事をやっていきたいというふうに思っております。
  53. 橋本敦

    ○橋本敦君 続いて総務局長にお伺いをしたいのでありますが、いわゆる適正配置ということでの地裁、家裁支部の統廃合問題であります。  この問題については、かねがねそれぞれの現地の実情を踏まえて、単位弁護士会なり地方自治体なりいろんな意見が出ておると思うんですが、総じてその統廃合についての地域の皆さんの要望としては、裁判所を従来どおり存置しておいてほしいという希望が非常に強いというように私は見受けておりますが、その点はいかがですか。
  54. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) そのとおりでございます。
  55. 橋本敦

    ○橋本敦君 今、官庁、役所の一点集中じゃなくて分散ということが一般行政官庁についても言われるし、地域の村おこし町おこしということも言われるし、地域対策という問題が一つの政治課題になっておる時期ですね。そしてまた、地家裁の統廃合という問題はその地域の住民にとっては裁判を受ける権利の保障という、そういう大事な問題であると同時に、地域振興にとってもやっぱり大事だという観点でそういった問題がとらえられていると思います。  そういう趣旨で、今後地域の実情も十分に検討しながら、答申は出たわけでありますけれどもよく意見を聞いて進めるという姿勢をぜひおとりいただきたいと思うのですが、いかがですか。
  56. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) 私どもの方といたしましても、地元自治体等を初めといたします関係機関の御意見は十分に聞かせていただこう、こういう姿勢で、この作業を始めて以来ずっと心がけてまいったところでございます。昨年の十二月に五十八の具体的な支部を出しまして、そして十二月から本年の一月にかけまして各地方裁判所家庭裁判所の所長さん方を中心に、検討対象支部管内の各自治体をくまなく回っていただきました。その他の関係機関にもくまなく回っていただきまして、客観的な状況を御説明するとともに御意見をお聞きいたしました。  十月の十七日に一般規則制定諮問委員会の答申をいただきましたので、その直後からまた十一月の中旬にかけまして地裁、家裁の所長方に再度支部管内の関係自治体をくまなく回っていただきまして答申の内容を御説明するとともに、当該支部に関します個別事情についていろいろ詳しく御意見をお聞きいたしました。その他、ただいま申し上げました二回にわたる一斉の地元からの意見聴取のほかに、それぞれ陳情等の関係で、地裁、家裁、高裁の方へ参られますし、私ども最高裁の総務局の方へもこれまでにもう六十回以上の陳情に参っておられます。その他、文書で送っていただく陳情書、決議書等を十分中身を見せていただいて、地元の意見をしっかり踏まえた適正配置、見直しをさしていただきたい、こう思っておるところでございます。
  57. 橋本敦

    ○橋本敦君 今回の問題についてはかなり大きな、広範な反対の意見の表明というのが地方自治体、弁護士会、関係者からかなり出されておりますので、一層慎重な対策をお願いしたいわけですが、見込みとして、今おっしゃったような地裁所長の説明等も大体終わって、最高裁は終局的な段階として大体いつごろを見当をつけていらっしゃいますか。
  58. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) 地元からの第二次の意見聴取につきまして、地裁、家裁の方からの報告が私どもの方にも既に上がっておりますので、それを事務当局といたしましては集約整理さしていただきまして、資料として相当膨大なものになりますので、その一部につきましては既に最高裁裁判官方にお届けして検討を願っている状況でございます。それとともに、あわせてなお陳情その他の資料が参りますので、それの集約整理をして、裁判官方に追加的にきちんとしたことをお伝えしたいということで努力している状況でございます。  そんなことから、できれば十二月に、今月でございますが、今月中に裁判官会議で規則改正の議決をしていただければと事務当局では願っております。そして、しばらくの猶予期間が必要でございますので、来年の四月ぐらいからこれが実施に移せるということになればと、こう願っておるところでございます。
  59. 橋本敦

    ○橋本敦君 慎重に扱ってほしいというお話をしておるわけですが、実務的には大体もう終局の段階に来ておるという状況が今お話にありました。  そこで、一つの私の要請でもあるんですが、日弁連とのいわゆる三者協議を通じて適正配置問題は基準づくり等いろいろ議論されてきた経過があったわけですが、基準づくりじゃなくて今度の統廃合を適正配置としてどうやるかという具体的な問題では、地域の単位弁護士会と、いろいろな意見その他が上がったり、討議があったんでしょうか。日弁連としても同じ法曹の立場でこの司法の、裁判所のあり方そしてまた地域の実情から見て、最高裁と最終的にやっぱり協議をするということを希望もし期待もし、またそういった話し合いを慎重に進めていかれる上で最高裁としても日弁連との一遍協議を持つ中で、意見を十分日弁連から聞いてもらいたいということの要望があるんですけれども、私もぜひそういう機会は最高裁としても御検討いただきたい、こう思いますが、いかがですか。
  60. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) 日弁連とはこれまで、三者協議会の機会あるいは非公式な機会を通じまして十分御意見を聞かせていただいたところでございます。例えば支部に併置されている簡裁を今回は存続させることにしたとか、あるいは甲号、乙号の区別をなくしまして地裁、家裁の裁判官会議で個々の取り扱い事務を決めていただくことにつきまして、当初私ども最高裁判所の認可に係らせるということを考えておりましたが、それをなくした点とか、あるいは家裁出張所の設置の件とか、こういった点につきまして、日弁連だけではございませんが、日弁連からの御請、御要望を踏まえまして検討させていただいたところでございます。
  61. 橋本敦

    ○橋本敦君 それはわかってるんですよ。いよいよ終局の段階ですので……。
  62. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) 終局の段階で先般、十二月一日でございますが、日弁連の執行部の方がお見えになられまして、私お会いさせていただきました。で、今回のいよいよ最後の詰めの段階で、ぜひ支部についてなくする支部は最小限度に絞られるべきだという点についての御意見を拝聴させていただいたところでございます。
  63. 橋本敦

    ○橋本敦君 いや、私の質問は、もうそれは済んだじゃなくて、もう一遍最終的に日弁連と正式の協議をやってもらいたいということについてどうかという質問です。
  64. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) 日弁連と各論の、個々のどの支部をどうするかということは日本弁護士連合会との協議にはむしろ親しみにくいことでございますし、先般、先般と申しましても十二月一日でございます、つい最近でございますが、来られまして、各論的にここが問題だ、ここを残してもらいたいという御意見があったら承りますということは申し上げたんですが、日弁連としての立場上こちらはいいけれどもこちらは残せというニュアンスになることは非常に申し上げにくいということでおっしゃいまして、数とかあるいはうんと絞れという点についての御意見を聞かせていただいたということでございます。
  65. 橋本敦

    ○橋本敦君 では、話しに行けば話は聞くということですね。
  66. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) そういう御連絡がありまして十二月一日にお見えになられまして、そしてもうやりましたので、その際に今後お話しにということではございませんで、私どもの予定も大体のところ今詰めに来て裁判官会議に資料を配っているということを申し上げましたので、あるいは裁判官会議で結論が出るまでに御意見なり御要望なりお話しにこられるということであれば、私ども来てくれるなということは申し上げません。
  67. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 裁判官報酬等に関する資料を法務省からちょうだいいたしまして、二十八ページでございますけれども、非常に等級が細かく出ております。それで、一号からだんだん、判事の方では十七号までですね、こういうふうな段階が設けられておりますけれども、これは少し細か過ぎはしないかというふうに思うわけです。これはそれぞれのいろいろな御理由があってそうなっているんだと思いますけれども、非常にわかりにくい。  それから、一番最後の方に行きまして特に気になりますのは、非常に報酬の安いことでございます。簡易裁判所判事さんの十七号等ですが、これは一体こういうような俸給でやっていけるのでございましょうか、率直にお伺いしたいと思います。
  68. 櫻井文夫

    最高裁判所長官代理者櫻井文夫君) 裁判官報酬は、その裁判官の職務の複雑、困難、それから責任の度を基礎といたしまして、裁判官の社会的あるいは年齢にふさわしい生活を営めるような、そういった点も考えて、そして一般行政官の給与水準なども勘案しながらそれに対応して決められているものでございます。現実には、それぞれの裁判官報酬といいますものは国家公務員の行政職の一定の俸給にすべて対応して決まっているものでございます。これがベースアップで上がりますときにそれに対応して上がっていくということになっているわけでございます。  例えば判事補の十二号、これは簡易裁判所判事の十七号と同じ報酬になっているわけでございますが、判事補の十二号といいますのは司法修習生を終えて最初に受ける報酬でございます。この報酬は、これに先ほど来質問がありました初任給調整手当が加わるわけのものでありますが、しかし判事補の十二号十九万六百円というこの報酬自体は、大学を出ましてそして司法修習生の期間二年間を終えまして、大学を出て三年を経過した行政官、裁判官の場合にはちょうどその年度になるわけでございますがその行政官の俸給よりはかなり高い俸給に決められているわけでございます。それぞれの受ける報酬額、号によっては低いというふうに思われる部分もあるかもしれませんが、それらはいずれも裁判官としての年数がまだそれほど経過していない時期に受けるものでございますので、一般の行政官に比較すれば我々といたしましてはかなりの程度優位な報酬にしていただいておるというふうに思っております。
  69. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 先ほど、重責を担われる検察官の任官率が低いということが非常に問題だという再再の御質問と、それに対する御答弁がございました。それをこれからどうするのだというお答えの中で、やはり司法試験の改革の問題も出ました。この際若い人の合格率が高くなってふえれば、また検察官を志すそういう方も出てくるだろうというお話がございましたが、若い人と並びまして女性というものに対する登用あるいは任用ということについてはどんな御見解でございましょうか。多くの人材を養成していくという点で、女性についてはどうお考えでございましょうか。
  70. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 司法試験の合格者の中身を見てまいりますと、最近女性合格者の増加が顕著でございまして、司法研修所でいいますと一クラス分約五十人が女性であると言われておりますが、さらにそれも最近ふえておるという実態がございます。勢い任官を希望される女性もふえてまいっておるわけでございまして、検察官につきましても毎年四、五名ないし六、七名の割で女性の検事が登用されております。現在、全体といたしまして検察官の中で約四十名が女性検事として活動をいたしております。
  71. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 一九七五年から八五年にかけましての国際婦人年の中で、立法府、行政府そして司法の場で女性がどのくらい参加をしているかということで、政府そして民間挙げてこの率及びその中での内容を豊富にするようにという運動をずっと続けておりまして現在に及んでおりますことは、御案内のとおりだと思います。しかし、女性の特に検察官への任官というのは、ほかの判事その他に比べて低いことも御案内のとおりだと思います。  その理由は、先ほど来伺っておりました仕事が厳しいということでございますとか、内容が非常に難しい問題もあるということと並びまして、今回の改正にございます単身赴任手当ということに関しまして、女性の単身赴任の場合これはまた男性と違う条件もあるかと思いますが、例えば子供の教育の問題、それから家庭責任の問題等がございますが、その辺については何らかの御配慮というか執行上の何かございますでしょうか。
  72. 井嶋一友

    政府委員井嶋一友君) 女性検事が最近ふえてまいっておりまして、私どももこの傾向は歓迎をしたいと思っておるわけでございますが、女性検事の中にはいわゆる夫を持っておられる方と、独身で仕事をしておられる方と二通りあるわけでございまして、独身の女性検事につきましては男性と同様全国的な異動といったことも行われるわけでございますけれども、配偶者を持っておられる女性検事につきましては人事上できる限りの配慮をするということで、家庭も大事であるということをよくわきまえて人事行政をやっておるつもりでございます。また、これからもそうやっていかなきゃならぬと思いますが、他方、それがまた一つのネックになっておるという事実も実はあるわけでございまして、その辺のところの調整が非常に頭の痛いところであるという現実も御理解いただきたいと思うわけでございます。
  73. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 日本政府が批准をいたしました差別撤廃条約の趣旨にのっとりまして、一つの経過措置として女性が仕事につきやすいような、そういうふうなことを常に基本にお置きくださいまして、今後お運びいただきますことをお願いいたします。  もう時間もございませんので、ほかにもございますけれども、最後に裁判所の統廃合問題についてでございます。  今回、最高裁による適正配置という趣で行われます地裁、家裁支部の統廃合についてでございますけれども、やはり末端の住民の立場からいいますと、裁判を受ける権利というか立場というものを損なうのではないかということを大いに危惧いたしております。例えば私の存じ寄りの熊本県の乙号支部につきましての御船、それから三角、また甲号支部のうちの合議事件を取り扱う庁になっておりますのが八代というところにございますが、この三庁が統廃合の対象になっております。で、八代はともかくと言うと八代に悪いんですけれども、御船、三角はいわゆる過疎地区になっております。地域住民の単なる裁判所ということではなくて、いわば法律センター的な役割を果たしているという、地域に対する非常に福祉的な役割を果たしているという面もあることをぜひお忘れいただきたくないというふうに思います。時間的、経済的にも裁判所が遠くなってしまうということが実際ございますので、件数が少ないというようなことだけでお計らいをいただかないようにしていただきたいというふうに思うわけでございます。  今、統廃合問題の進行状況その他について内容をお伺いしたいのですが、時間もないと思いますので、特に先ほど申し上げました三つの場所の中の御船という場所の支部につきましては、昭和六十三年、八八年の五月に統廃合で矢部という地区にございます簡易裁判所家庭裁判所出張所が廃止された際、その理由づけの一つとして当御船支部が近くにあるからということが挙げられておりました。それがさらに御船支部まで今回の統廃合の対象にひっくるめられるということは、住民の裁判を受ける権利を著しく狭めてしまうことではないかというふうに思います。これは全国の過疎地域での統廃合に対する共通の住民の思いではないかと思いますので、深く御配慮をいただきたいということをお願いいたします。
  74. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 答弁はよろしいですか。
  75. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 よろしゅうございますか。時間もあれですけれども、一言。
  76. 金谷利廣

    最高裁判所長官代理者(金谷利廣君) それぞれの検討対象支部の個別事情、特にただいま御船について御指摘のありました家庭裁判所出張所の問題等は十分認識いたしております。その辺を踏まえまして、ぜひしかるべき判断をしていただけるよう私どもも努力したいと思います。  基本的には相関表の位置を見ながら、それぞれの支部の個別事情を十分しんしゃくして、全体としていい判断が裁判官会議でしていただけるよう努力したいと思っております。
  77. 櫻井規順

    櫻井規順君 裁判官報酬等並びに検察官俸給等に関する法律の一部改正法律案につきましては、私のお聞きしたい点をおおむね前の質問者が質問しておりますので、重複を避ける意味におきましても省かせていただきたいと存じます。一般質問も許されるとのことでございますので、これまで二度法務委員会をやりまして、概論的なことで法務省にお考えをお聞きしたいと思います。  入国管理の関係あるいは難民問題でこれまで審議をしてきたわけでございます。その中で、私は頭の中にいつも日本の社会にあってこれから国際社会というものはどういう像、イメージ、あるべき姿というものを描いていいだろうかということを考えてまいりました。この機会に少々法務省の方から御見解をお伺いしたいというふうに思うわけであります。  社会事象あるいは我々の運動というものには二つの側面があるということを改めて非常に痛感するものでございますが、国際化の現象の中でも同じことが言えるかと思います。経済の国際化に対応して社会全般、文化、スポーツ、多面的に国際化が進んでいるわけでありまして、それに対応する形で入国管理法も資格要件を検討したり、入国基準を検討しているわけでございます。あわせて、大変な外国からの人口圧力といいますか、単純労働力の圧力といいますか、そういうものがあり、国内においてもそれをまた受け入れるというような大きな動きのある中で、いや応なく国際化が進んでいくわけでございます。国際的規範、それから憲法あるいは出入国管理法に貫かれているものを見た場合に、やはり国際条約やあるいは人権憲章、人権規約等尊重すべき面と、それから憲法でいうところの我が国の自主権というものがある中でもって、総合的に入国管理もあるいは我が国の国際化も考えられていくべきものだというふうに思うわけでございます。  そこで、三つほど私は質問をしたいと思います。  一つは、国際化の意義といいますか、国際化の積極性というものをどういうふうに法務省はごらんになっているのかということをお聞きしたいと存じます。  間々、入国管理法のとらえ方というものは、何といいますか、取り締まり、入国規制、そういうふうな面にウエートが置かれておりますが、基本的な法務省の把握として、あるいはこれはもっと大きな総合的な視野で聞くべきものですが、法務省で入国管理行政を進めていく上において、法務省にはいろんなセクションが、大局的なセクションもあるわけでございますが、これからの国際化あるいは国際化の積極性というものをどうお考えになっているのか。特に私は国内における外国人との交流、市民生活をともにするという面から、そういう国際化の積極性というものをどういうふうにごらんになっているのか、ひとつお聞かせ願いたい。私は端的に言って、当たり前のことですが、経済の発展にとっても平和というものを保障する上においても非常に大切なことだと思うんですが、どういうふうに総合的にとらえられているのか、それが一つでございます。非常に概論的で恐縮でございます。  それから、二つ目の質問は永住外国人の保障の問題です。国籍と永住という問題があるわけでございますが、難民条約、ボートピープルを検討したときに私勉強したわけですが、ベトナムの難民の方をスクリーニングにかけて、これは経済難民だと言われたらベトナムに帰国していただく。しかし、ベトナム側は受け取らない。今度はベトナム政府側の公的文書を読みますと、ベトナム政府は、ベトナム国民がどこに住むかということはベトナム国民の自由であるというとらえ方をしていて、ボートピープルとして日本に行ったベトナムの国民が帰ってくるかこないかは日本政府の意向に沿うのではなくてベトナム国民の意向に沿うというふうな見解が出されていて、改めてびっくりしたわけでございます。  問題は日本政府の問題でございますが、憲法の自主権の問題があるわけでございますから、自主権の判断に立ってお考えになっているところを聞かしていただきたいわけですが、日本においてもまた、国籍は外国人で永住を希望される方がいるわけで、この権利について基本的にどういうふうにお考えになっているかということについてお聞かせをいただきたいと思います。  それから三番目ですが、これまた大変概論的になって恐縮でございますが、日本に住んでいる、国は特定しませんが永住を希望される方、あるいは何カ月でお出になっていく方を含めまして、日本にいる外国人については基本的には人権が保障され、そして内外差別のない平等主義の観点でいろんな行政が行われなければならないと思いますし、当然もろもろの権利を享有する主体としてその外国人を保障しなければならないと存じます。  そういう取り締まりとは対照的な積極的な面で私は挙げているわけで、そうした側面を生かした外国人の扱いというものを私は強く希望するわけですが、問題はそういう側面とあわせて、今の大変な外国からの単純労働者の圧力の中で、今度は外国に向かって、日本語の教育にしても技術協力にしても外国との経済協力関係、外国において日本語教育、技術協力、そういうものについて企業進出とあわせて、一言で言えば水平的な平等の観点に立って国際関係を確立していく必要があると思うわけです。対等な外国人との国内における関係を確立する上において、国内の外国人等の扱いあるいは水平的平等という、労働省や外務省や各般にわたる総合的な調整の場というものをどういうふうに持って今後判断されていこうとしているのか、そこら辺をお聞かせいただきたい。  以上でございます。長くなって恐縮でございます。
  78. 股野景親

    政府委員股野景親君) 入国管理局としての立場から、先生の御提起になりましたただいまの三つの点についてお答え申し上げたいと思います。  第一点、国際化の意義についてでございますが、これは今般審議をお願い申し上げております入管法の改正案においても、この点を十分に踏まえた対応を法的に行いたいという所存でございます。  入国する外国人の数がふえ、また日本における外国人の活動というものが多様化しているということは、まさに国際化が進んでいるということでございますので、法的な体制もそれに見合った体制を持っておく必要があるということが基本的に私どもの考えでございますので、その意味での在留資格の整備ということ、あるいは入国審査についての手続の簡易迅速化ということをこの入管法の改正案においても大きな柱として掲げている状況でございます。また同時に、先生御指摘の市民生活という点にも十分注目をしなければいけないと思いますので、この点は日本にいる外国人が安定した生活ができるよう、入管当局の各窓口において十分そういう視点からの在留外国人に対する対応を行うということの指導に努めておりますし、そういう観点での行政サービスというものについては、今後もますます整備して拡充するという方向で現在いろいろな努力を重ねているところでございます。  それから、第二点の永住外国人の問題でございますが、これもただいま申し上げました日本の国内における外国人の方が安定した生活が営めるということを確保する上で重要な観点であろうと思います。その意味で、この日本における永住外国人の方々の生活について、入管当局といたしましてはその身分及び地位が十分安定されたものとなるよう、法的にも我々の方の体制を整備すると同時に、また実際の行政においてもその生活の安定ということについて十分配慮をした対応がなされるよう心がけておるところでございます。また、その点については、難民が日本において我が国の受け入れる要件に合致する難民として受け入れられることになった場合には、これについても十分の配慮をしていくべきものと考えております。  それから、第三点の外国人の人権の問題、そしてまた外国の方々と対等な立場での交流と協力が行われるということについての重要性を御指摘になられましたが、この点についても入管当局としても十分配慮をいたしてまいりたいと考えておりまして、その点では関係する省庁及び法務省の中におきましても、十分関係方面とは連絡をとりながら対応をしてまいりたいと思います。特に、委員指摘の総合的な対応という点は我々も極めて重要であると考えておりますので、御指摘のありました経済協力の問題を含めまして、外国から日本にいろいろな形で渡来してくる外国の方たちが日本において安定して意義のある生活ができるために、日本における入管当局としての対応を初め、関係各省庁の十分な対応が図られるということと同時に、海外における諸外国の経済社会発展が図られるように経済協力があわせて十分に行われるという、そういう視点も確保される必要があると思いますので、我々当局といたしましてもそういう視点とも十分連絡調整を保った総合的な対応ができるよう、今後とも努力をしてまいりたいと考えております。     ─────────────
  79. 黒柳明

    委員長黒柳明君) この際、委員異動について御報告いたします。  先ほど山本富雄君が委員を辞任され、その補欠として石渡清元君が選任されました。     ─────────────
  80. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 検察及び裁判運営等に関する調査は本日はこの程度とし、裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案及び検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案につきましては、他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。  それでは、これより両案に対する討論に入ります。  御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。——別に御発言もないようですから、これより直ちに採決に入ります。  まず、裁判官報酬等に関する法律の一部を改正する法律案の採決を行います。  本案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  81. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  次に、検察官俸給等に関する法律の一部を改正する法律案の採決を行います。  本案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  82. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、両案の審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  83. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  午後一時に再開することとし、休憩いたします。    午後零時四分休憩      ─────・─────    午後一時四分開会
  84. 黒柳明

    委員長黒柳明君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案議題といたします。  本日は、本案につきまして御意見を伺うため、上智大学法学部教授花見忠先生、愛知県立大学教授田中宏先生、南ドイツ新聞極東特派員ゲプハルト・ヒールシャーさん及び法政大学法学部教授江橋崇先生、以上四名の方々に参考人として御出席をいただいております。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多忙の中、当委員会にわざわざ御出席いただきまして、心から御礼申し上げます。どうもありがとうございました。忌憚のない御意見を御発表いただきまして、本委員会の参考にしていきたいと、こう思います。何とぞよろしくお願い申し上げます。  次に、議事の進め方について申し上げます。  まず、お一人十五分程度順次御意見をお述べいただき、その後各委員質疑に対してお答えいただきたいと考えております。  それでは、これより各参考人に順次御意見をお述べいただきたいと思います。  初めに、花見忠参考人にお願いいたします。
  85. 花見忠

    参考人(花見忠君) それでは、現在本院にかかっております法改正についての私の意見ということで、大きく二つに分けて申し上げたいというふうに思いますが、まず第一は今度の改正でどこまで問題が解決するだろうかということ、二番目は解決しないのはどういう問題であるか、それに対してどういうふうに将来考えたらいいかということで、同時に二番目の点は改正についての私の若干批判的な論点になろうかと思いますが、その二つについて分けて申し上げたいと思います。  まず、改正によってある程度改善が行われるだろうと思われる点でありますが、改正は私なりに大きく分けて三つあると思うんです。  第一点は、新しい在留資格の新設でございます。これは、日本経済の国際化あるいは企業活動の国際化という観点を含めまして、一応改善であるというふうに私は評価をいたしたいと思います。これも後で細かい議論が出るかと思いますので、ごく簡単にその点だけここでは申し上げておきます。  二番目、審査基準の明確化、手続の簡素化、迅速化という点でございまして、これも日本社会の国際化、国際交流の活発化という観点から一応評価ができるのではないか、少なくともこの二点は現行法と比べてかなりの改善であるというふうに私は評価をいたしております。  三番目、実はここが一番問題なんですが、この改正法が不法就労の防止について現行法に対してどういう改善をしているかということでありまして、これは大きく分けて二点あるわけですが、就労資格証明書を交付するという制度を置くという点が一つ、それから雇い主、ブローカー等の処罰、これが第二点であります。私はこの点もある程度評価をいたしますけれども、後で申し上げます残された問題点に関連をして申し上げますように、この点が非常に不十分でありまして、今度の改正法はそこにかなりの問題があるのではないか、つまり余り問題の解決にならないのではないかというふうに考えております。この点は後で若干詳しく申し上げます。  そこで、残された問題、この法改正によって解決しない問題というのはどういう問題があるかと申しますと、大体三点ございます。  第一は、一番議論が分かれるところではないかと思いますが、いわゆる単純労働者をどうするか、今度の資格のある程度の範囲の拡大によってカバーされないような種類の労働者をどうするかということであります。この点は、私は結論的に言いますと、法制度として現行法及び改正法の水準というものは主要諸外国と比べてそれほど狭くないのではないかというふうに考えております。若干細かい点でばらつきがありますけれども、少なくとも先進工業国をとってみた場合に、我が国よりも著しく広い範囲で外国人労働者を受け入れている国は存在をしないわけでありまして、大体簡単に要約をいたしますと、専門職、管理職あるいは熟練技術、教育、研究というようなカテゴリーで認めておりまして、それ以外に広く認めている国はほとんど見出すことができません。  この点が、後で不法就労あるいは長期的な政策を考える場合に私は非常に重要な点になろうかと思いますが、ILO条約を含めまして国際条約の原則、国際法の原則から申しますと、既に定着をしている外国人労働者の家族それから難民の受け入れという義務、この難民の受け入れも正確に申しますと、国際条約国連の難民条約は受け入れを国家に対して強制するような法規定はございません。しかし、一応家族、難民は例外として一定の条件のもとに国家が受け入れる義務が国際法上発生する場合がありますけれども、それ以外にはないわけでありまして、例えば西ドイツが一九七三年以降、原則として外国人労働者を受け入れないように政策が変わったわけであります。そういう意味で西ドイツの現在の取り扱いは大変閉鎖的になっておりますが、西ドイツは原則として家族と難民を除いて受け入れをしないという形に現在なっております。  このことがいわゆる国家主権に対する国際法上の制約でありまして、そのほかは国際法上の要請というのは、受け入れた外国人について自国民と同等の取り扱いをしなければならないという平等の原則、ナショナルトリートメントの原則、これが国際法上確立をしておりまして、そういう国際条約、国際法の原則から見て、現行法は著しく世界の常識から隔たったもので特別に閉鎖的であるというふうには必ずしも考えないわけであります。そこで私は、いわゆる単純労働者を現行法あるいは改正法よりも広く受け入れるべきであるかどうかということについては、にもかかわらず、つまり国際法の原則からは結論が出ない問題として、国の政策として国家主権に基づいて国が政策的判断で決定をすべき問題であるというふうに考えるわけであります。  これは一口で言えば、日本国の国益の観点からどのように考えるかということでありまして、国益というのは非常に広い観点から総合的にアプローチをして判断すべきであるという高度の政治的な判断が必要であるというふうに私は考えておりまして、これはまず日本では比較的議論がなされていない点で人口政策的な観点、それから日本で割合議論がなされている労働力政策あるいは労働市場政策としての観点、それに加えて治安、犯罪、衛生、環境、教育、社会保障といったような分野の政策的な判断が必要になってくるわけでありまして、特に私は、外国人労働者が日本に定着をするという前提で考えた場合に、コミュニティー政策、地域政策の問題として国家主権に基づく政策判断がなされる必要があるかと思います。  それから最後に、もう一つ重要な点は言うまでもなく外交政策でありまして、私は外交政策という言葉を使っておりますのは、今申し上げたような国際条約あるいは国際法の原則あるいは国際的な人権の理念というもの以外の外交的な配慮、具体的に言いますと個別的な幾つかの国々との日本関係という意味での外交政策的な配慮というものが必要なのではないか。ですから、ここでは国際的な配慮、人道的な配慮にプラスして特定国との日本の外交的な関係というものを考慮をしていく必要があろうかというふうに考えます。そういうさまざまな配慮の中で、いわゆる単純労働者、今回の法改正でカバーされていないような外国人労働者はある程度受け入れることが必要であろうかと思います。現行制度で私は可能な方法として考えれば、恐らく二国間協定、特定の国との間の協定に基づいて研修計画の形で非熟練労働者を受け入れるということが可能かと思います。  ただし、これは非常にさまざまの外交的な配慮が必要でありまして、特定国の例えば何千何万の労働者を引き受けるという協定をつけ、期限つきで日本に受け入れるという形の協定である程度の労働力不足の解消、それからそういった国々が日本に外貨獲得のために自分の国の労働者を派遣したいという要請にこたえるということが国際的な配慮、外交的な配慮として必要だと思いますけれども、その場合には日本に定着をしないという担保が必要でありまして、これをいかにするかということは非常に難しい問題で、つまり期限つきローテーションできっちり送り返すようなシステムをつくる必要があろうかと思います。そういう意味で、今度の改正は若干その点が不十分、例えば研修というカテゴリーで受け入れる場合に、現在の取り扱いでは一定の範囲を超えて、具体的には三分の一だと思いますが、現場での研修が認められておりません。こういう点についてのある程度のもう少し改善が必要なのではないかというふうに考えるわけです。  残された問題の二番目、一番大きな問題であろうかと思いますが、不法就労の点でございます。  一部には日本は不法就労の天国、不法滞在の天国であるというようなことが言われておりますが、そういう表現が妥当かどうかは別としまして、日本に入ってきた資格外活動をしている人たちあるいは期限を経過して残留をしている人たちについての取り扱いは諸外国に比べると日本は比較的緩いというふうに言われております。その結果、不法就労の数が最近急激に増大をしているわけでありまして、法制度として考えた場合に改正法でもこの点は余り改善をしないのではないか。資格外活動の形で残留する外国人労働者を厳しく取り締まるべきであるかどうかという点については見解が分かれるかと思いますが、少なくとも法制度として考えた場合に、法の建前が大きく破られている現状というものは、今度の制度つまり使用者等を処罰するという制度によって余り改善が行われないだろうというふうに考えられるわけであります。  この点は、指摘されておりますように、入管職員の数が全然ふえていないということでありまして、年間の入国者の数の増大に対して不法就労取り締まりの警備官の数が圧倒的に不足をしている。それから、細かい数を申し上げませんけれども、もう一つは当然収容施設が圧倒的に不足をしておりまして、正確な数字は私よく知りませんが、例えば全国で六百九十人の収容能力しかないというようなことが言われておりまして、そういう意味で圧倒的にこの不法就労対策が不十分であるということであります。そういう人たちの人権を十分に配慮したような取り扱いはもちろんできないわけでありまして、私の立場から言えば、こういう人たちを速やかに送り返すということが必要なんですが、これがそう簡単に実際上できないような状況があるということでありまして、この点が一つの問題点であろうと思います。  最後に長期的な問題点について申し上げようと思いましたが時間がなくなりましたので、後で御質問に関連して補足をさせていただきたいと思います。
  86. 黒柳明

    委員長黒柳明君) どうもありがとうございました。  次に、田中宏参考人にお願いいたします。
  87. 田中宏

    参考人(田中宏君) それでは、限られた時間ですけれども、法案に関する私の御意見を若干申し上げたいと思います。  まず、アジア人労働者が非常に急増している中で、この問題をどう考えるのかというときのとらえ方の問題から最初に申し上げてみたいと思いますけれども、外国人が日本で就労するということは当然のこととして日本側の雇用なしには成り立たないわけですけれども、何かあたかも外国人が勝手に来て働いているかのごとき認識が残念ながら今一般的ではないかという気がするんですね。それで、そういう傾向が高まってくると、やはり日本の社会の排外主義のようなものを助長するという点で非常に問題がある。  それから一方では、不法就労を取り締まって強制送還すれば何とかなるのではないかという考え方が先行するわけですけれども、おのずとそれには限界がある。一九八六年統計しか私は確認しておりませんけれども、法務省の側で摘発されたデータを毎年発表されますけれども、八六年段階では全体の十六・三%がかろうじて官側が摘発できた、あとはそれぞれ自分で帰国したいために入管に出頭した数であるという。新しい最近の数字は知りませんけれども、恐らくそうは大きくは変わっていない、二割程度がかろうじて官憲の側で摘発ができているという状態ではないだろうか。しかも、先ほどの花見先生のお話にもありましたように、最近法務省の電算ではじき出される集積された不法滞在の数というのは、昨今では大体十万の大台に乗ったと言われているわけで、昨年が五万七千という数字が出ていますので、この一年間に約二倍も潜っている人たちがふえている。これは取り締まりを厳しくすることで解決する問題とばかりは言えないのではないか。ある意味では、こういう状態が続くことが避けられない現実になってきているということを認識する必要があるだろう。  次に、その問題についてのもう一つの側面である労働関係。すなわち、日本側で雇用されているということは必ずだれかが雇っているわけで、そこにいかなる労働関係法律適用され、あるいはそこがどうなっているかということです。私の知る限り、労働関係法を活用してその実態なりそこにおける労働関係法規の執行が十分フォローされるという実態になっていないということが、やはり大きな問題だと思うんですね。今回の法改正はそのことには一切触れていない。政府には、残念ながら外国人の人権に関する認識、あるいは外国人労働者の人権に関する認識に大変不十分な点があるというふうに私は思います。  外務省は、「わが国における外国人の法的地位」という条約局法規課がまとめた資料の中で、外国人の就職とか均等待遇というのは適正な在留資格を持っている外国人に限られることは言うまでもないという私に言わせるととんでもない見解を公表しているわけでございます。これは本が再版されましたけれども、依然としてその見解は維持されている。  一方、管轄の労働省は、労働関係法令は不法就労であろうとそうでなかろうといずれも適用されるという、さすが外務省とは異なった見解を出していますけれども、残念ながら労働省通達と言われるものでは原則は掲げてあるものの、実務的には入管当局に不法就労があった場合には通報するということが先行していて、例えば未払い賃金であるとかさまざまな労基法関係の違反事案は入管への通報の方が先行してしまって、むしろほとんど労働行政機関が機能していないということが残念ながら言えるのではないか。  結論的には、外国人労働者の人権については十分な配慮がなされないまま、やや極端な表現になるかもしれませんけれども、外国人を虐待し搾取しても早晩入管が送還してくれれば事足れりではないか、極端な場合には未払い賃金がそのまま放置されるというようなゆゆしい事態が生じているという、こういう雇用との関係での問題点がほとんど顧みられない状態になっているということで、二つの側面と申し上げましたけれども、その二つ目の側面に大きな問題がある。  次に申し上げたいのは、入国管理行政は事柄の性質上、非常に広い自由裁量の範囲を持っていますけれども、この行政を支えている認識にも私はかねがね疑問に思うことがあるわけです。かつて法務省の高官は、外国人は煮て食おうと焼いて食おうと自由だとみずからの本の中で書いたことがあって、これは外国人の間ではいまだに非常に言い伝えられている言葉の一つなわけですね。  昨今問題になった指紋不押捺について見ましても、法律上では不押捺には刑事罰かきちっと担保されている。しかし、その刑事罰のほかに、まあ行政裁量ということだと思いますけれども再入国を認めないとか、親が亡くなって葬式に参加したいというフランス人の神父がそのゆえでもって参加できなかったという事件がありますけれども、あるいは在留期間の更新を認めない、これは不押捺に対する制裁としては明らかに過剰制裁と私は思うんです。自由裁量だから必要とあらばやっていいというのが認識だと思いますけれども、御存じのように入管法には、二十四条の退去強制事由の中に、外登法に違反した場合には禁錮以上の刑に処されれば退去強制の対象にするという基準が明示されているわけですが、指紋不押捺はたかだか罰金一万円の刑事罰、それに退去強制に結びつくような、例えば期間更新を認めないというようなことが現実には行われた。  今回の法改正には、在留資格の一つとして就学生という新しいカテゴリーが登場をしています。しかしこれは、法務省の方では八二年統計から既に就学生という概念を設けまして、その後、中曽根内閣の留学生十万人計画等も手伝って、就学生の受け入れというのが急激に拡大をしていきます。そして昨年の上海事件に象徴されるような、昨年一年間で三万五千人の就学生が入国を許可されていますね。これは当然、日本語学校の整備等を行ってきちっと在留資格を正しく運用すればそんなことは起きないはずで、それが今回の法改正で初めて就学生が法律上は登場してくる。私に言わせれば、自由裁量の手のうちで事実上就学生というのはつくられていった嫌いさえある。同じような性格のものとして留学生の数字を確認してみましても、留学生は徐々にふえていった。ところが、就学生は急激にふえているわけで、これは明らかに入管行政における不十分さが結果的には助長をしているという問題がある。そういう点でも入管行政における自由裁量の問題というのが今回の法改正の運用においても非常に不安なところであるということです。  次に、雇用者に罰則を科し、あるいは就労資格証明書というのが今回の法改正の一つの重要な特徴ですけれども、これについて最初に私が申し上げたいのは、先ほど申し上げました労働関係法令、この中には御存じのように例えば強制労働の禁止をうたった労働基準法第五条だとか、あるいは中間搾取の禁止をうたった同六条だとか、あるいは一般の社会に害を及ぼすような職業紹介を行った職安法六十三条の罰則だとか、さまざまな問題を処理するための法規範が現にあるわけです。日本法律の中で労働基準法と職業安定法は、極めて珍しい例ですけれども、国籍による差別を明確に禁じているわけです。ところが、残念ながら今の運用は、先ほど言いましたように入管先行型でいっていますので、そこで行われたさまざまな外国人労働者に対する例えば強制労働だとかそういうものについての対応が十分なされていないというのが現実なわけです。  それで、そういう形で就労資格証明書の問題等を導入すれば、従来からある在日韓国人・朝鮮人に対する就職差別を助長することになる。残念ながら、かつて労働省は外郭団体が出している労政時報という雑誌の中で、外国人の雇用を拒否してもそれは違法に当たらないというような見解を公然と述べたといういきさつがあるわけで、これは労働行政自身が外国人の人権について非常に不十分な対応しかしてこなかったということの証左だと言わざるを得ない。こういうことを放置したまま雇用者罰則だけが先行すれば、ますます労働関係法による事態の正確な把握、そういうことも後ろ向きになって、ひたすら外国人をつかまえるということで事足れりと。でも、そうすればますます事態は地下に潜るという形で、よりブローカーの手によって労働者が苦境に立たされるという問題に波及していくだろうというように思います。  さらに、今度の雇用者罰則というのは、当然のことですがすべての外国人、特に就労資格証明書も含めてすべての外国人を対象にしますので、日本に居住することが認められている在日韓国人・朝鮮人に対しても影響が出ることは必至なわけです。就職をしようと思ったときに就労資格証明書があるかないかということを新たに問われるということになりますと、当然雇い主の側はさらにそれをちゅうちょするようになるという効果が及ぶことは言わずもがなで、本来、長い歴史的な背景のある人を一般外国人と同じカテゴリーで、同じ考え方で処理してきた、その問題についてきちっとした解決をしていないままこういう形で新しい外国人労働者についての導入がそのまま法改正に結びつくというのは、従来の在日朝鮮人に対する地位の安定を放置してきた上に重なるわけですから、さらに悪い結果をもたらすというようなことが十分言えるのではないか。  新しい制度ですから、いろんな形で周知徹底することについては配慮をされると思いますけれども、私が最近経験したことで申し上げますと、先週のことですけれども私の大学の留学生が年末の郵便局のアルバイトに行ったら、留学生は二十時間以内しか働けないからと言う。昨年は何も言われなかったそうですけれども、突然それを言われた。学生は二十時間の範囲内で働くところに丸をつけて帰ってきたようですけれども、先生おかしいんじゃないかと。御存じのように、二十時間には大学の休業期間というのは含まないというふうにきちっと指示されているんですけれども、残念ながら国営企業である郵便局がその二十時間という数字だけを使ってやっているんですね。私は郵便局の側に注意を喚起して間違った運用を修正してもらいましたけれども、結果的に二十時間を超えても休業期間中ならば、年末年始二週間ぐらい入りますからその期間はその縛りがありませんので、予定どおりにアルバイトができることになりましたけれども、こういうのが現状で、八三年に閣議でせっかく決められたものがことしになって初めて国営企業の末端で、しかも誤って運用をされるというのが現実なんですね。  こういう中に、今まで認められていたものが今度は急に資格外活動を取らないと留学生はだめだと、しかもそのほかに就労資格証明書を持ってきなさいということが実施されるわけですから、恐らく霞が関で思っていらっしゃる以上に末端ではどういう混乱が起こるか、そもそも外国人の人権ということは二の次に考えてきた日本の社会の現実を考えると、やや机上の作文に終わらないかという私は不安を持っています。  日本のこうした問題を考えていく上では、どう しても国内にある排外的な体質、例えば昨今のいわゆるパチンコ疑惑の問題が出てくればチマチョゴリを着た朝鮮人の女子学生が襲撃されるという、これが何か事があれば必ず起きるわけですね。残念ながらこれを抑止するための努力を我々の社会はやってきていないのが現実で、そういう中で外国人だけに執着してそれを取り締まるということだけが強化される社会でどういう事態が起こっていくかということを考える必要があると思います。  アメリカでも雇用者罰則は八六年改正で導入されましたけれども、一方ではアムネスティーを実施し、一方では差別禁止条項を新たに設けるという形でバランスを少なくとも制度上とっているということを考えても、こういう制度を導入するときにはそれに伴うリアクションの問題を十分考えなければならない。まあ総理大臣が、僕がいじめたわけではないという発言が出てきたり、中日新聞にも大きく報道されましたけれども、警察庁の内部文書のパキスタン人の取り締まりに当たっての注意事項の中に信じがたいような人種差別的なセリフが堂々と刷られているというのが今日なんです。  公的な機関が人権擁護のために何をしてきたかといえば、私の知っている限り東京法務局が昨年の八月に発足させた外国人人権相談所があるだけですね。これは週二回午後一時半から四時まで。ところが市民レベルで、大きなところにはほとんどできていますけれども、救援センターをつくって駆け込みの労働者の救援に努力をしているわけです。ここは年中無休で二十四時間営業をしている。  名古屋のあるすの会というところでこの間調べましたら、去年一年間に三百四十七件の相談があった。東京法務局は首都東京にあって三百九件の事案を処理したと言われていますね。あるすの会の相談事項の中には、私もびっくりしたんですけれども、入管の方からしばらく預かってほしいと。で、そのいろんな連絡はどこから来たかというのを統計にとってあるのを見てみますと、一割ぐらいは入管から頼まれているんですね。その間の費用はどうなっているんですかと言ったら、その間寝泊まりをし食事を与えているけれども、別に入管から一銭ももらったわけではない、要するに市民の側がかわりに労働者の保護のために日夜手弁当で努力をしているという、そういう状態です。  労働省の出先機関は先ほど申し上げましたような実態です。確かにことしの十一月から外国人労働コーナーというのができましたけれども、入管へ通報しなさいという昨年の通達があった後ですから、私もちょっと聞いてみましたけれども、余り外国人労働者の相談所に足を運ぶ人はいないようですね。そこに行けば入管に連れていかれるのが落ちですから、相談に行くはずがないと思うんです。そういうように外国人の人権の問題を真剣に考えることを抜きにはできないだろうと。  昨日から人権週間に入っていますけれども、日本人権週間の標語はいつも部落差別、女性差別、そして障害者差別までと。昨年は世界人権宣言四十周年と言われましたけれども、外国人差別なり民族差別をなくしましょうという標語一つ法務省の正面にかからないのが現実ですね。こういう社会をどうするかということを抜きに外国人だけをとっちめる、そういう発想が先行するということは私大変ゆゆしい事態ではないか。これは日本の社会の名誉のためにもう少しバランスのとれた行政なり運用が必要ではないか。  ちょっと時間を超過しましたが、以上です。
  88. 黒柳明

    委員長黒柳明君) どうもありがとうございました。  次に、ゲプハルト・ヒールシャー参考人にお願いいたします。
  89. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) ヒールシャーでございます。  私は専門家ではないんですが、呼ばれた理由として考えられるのは、ドイツでの外人労働者の経験についての意見と、一人の外国人としての日本の状態についての見方、多分その二つのポイントが中心ですが、私もまず西ドイツにおける外国人労働者の存在、二番目にこの日本の外国人のいわゆる単純労働者に対しての政策、最後に簡単ですがこの今の法案についての意見を述べさせていただきたいんです。  まずドイツについての点ですが、例えば先ほども花見先生がおっしゃったようにドイツが今非常に閉鎖的になったということは、そのままで聞きますと非常に誤解されやすいと思います。なぜならば、西ドイツは新しい人を外から募集する政策をやめたんです。配偶者だけを許すと同時に、ほかのヨーロッパ共同体加盟国の全部の国は、一部はまだ制限がありますが、お互いに労働の自由、住まいの自由を与えていますから、だから例えば南ヨーロッパの、スペインとギリシャとポルトガルについては最近の加盟国ですからまだ制限は一時的にありますが、しかし例えばイタリーは全然制限がないんです。イタリアからは幾らでも許可なしでドイツに働きに行けるわけです。ですから、だれも外から入れないということはとんでもないことです。  むしろ外国人の労働者の人口は就業者の面でもふえる傾向があります。ですから、数としてはこれは終わったと、ほかの人を入れないようになったということじゃなくて、将来トルコとの関係も協定のベースの上に、EC並みの扱いになる予定ですが、実際にそういう協定もできたんです。失業問題が最近まで深刻だったから、今はまだ実行してないんですが、これはいずれ実行になります。そうすると、ドイツの場合は、外国人の労働者の全部あるいはそのほとんどが自由にドイツで働けるようになるわけです。その意味でも閉鎖的になったとは私は思いません。EC関係の国あるいはそれ並みに扱う国以外のところに対して閉鎖的になったんです。それはそうです。しかし、ヨーロッパ共同体のメンバーであれば大勢これからもドイツで新しく働くために入ってくることができます。  ドイツが最初に外国人の労働者を募集し始めたのは一九五五年であって、これは対象国になったのはイタリーだったんです。そのときの外国人の西ドイツの人口に占める割合は一%前後でした。だから、今の日本の状態と大体似ているわけです。現在の割合は八%までふえてきたんです。ですから今、六千二百万人の人口の中で四百八十万人が外国人である。その半分は就業者、半分は配偶者であります。それで、全体の半分以上が十年以上の滞在になったわけです。というのは、大体五年以降になりますと、場合によっては八年以降になりますと許可はもう要らない。あるいはその条件が緩和してきて、そうすると永住椎を与えたのと似たような存在になります。ですから、大体半分以上はそこに含まれております。  それで、今のような数字はみんな合法的に入っている外国人に限るわけですが、それ以外に合法的でない、というのは滞在許可もなく労働許可もないような人もあります。その数字は確かに把握してないんですが、それはもちろん彼らが登録してないからである。それで、それは今の日本の外国人の不法就労労働者に当たるようなグループです。ですから、その人だけについていろいろドイツの国内の差別問題、悪用の問題、仲介屋さんの問題が大きくいつも取り上げられますが、その数字はまあ考えられるのは大体五万ないし十万人、あるいは五十万人という数字もありますが、実際の数字は把握ができないから日本と同じような問題がそこに出てくるわけです。  というのは、法律に認めてない存在であるからどこからも保護を受けてない。差別の対象になるし、よく悪用されるようで待遇も悪い。しかし、その合法的の四百八十万人と、このグループは一番数の高いナンバーをとっても百万人は不法就労者として西ドイツにいるというような数字もありますが、それであっても合法的にドイツに滞在する外国人あるいは外国人労働者のごく一部です。ですから、その二つのグループの評価はやはり完全に違うわけです。  合法的に西ドイツに住んでいる外国人については、その最初のときにいろんな問題が大きく取り上げられたことのかなりの部分はもう解決し、あるいは解決されつつある。彼らはかなりドイツの社会に入り込みつつあります。特に、もう二世の人もできたんです。例えばトルコ人の例がよく挙げられますが、ドイツで生まれあるいは育った外国人労働者の子供としてのトルコ人は、ドイツの義務教育を受けてドイツ語をペラペラしゃべる。ドイツの労働資格を取って彼らの今もう相次いで大人になった姿勢を見てみると、これはドイツ社会との問題はほとんどなく、むしろ自分の親との摩擦がふえてきています。  というのは、親はもう中年以上の年で余り社会に入ろうともしなかった。しかし、子供たちは実際にドイツで育って普通の言葉が完全にできるとしたら、職業資格があればそのあたりの労働チャンスあるいは教育のチャンスは一〇〇%とは言えないんですが八割、九割ぐらいはあると思います。ですから、問題の中心はやはり合法的でない部分にあります。  しかし、それとあわせて例えばドイツでこの外国人労働者の扱いが問題であるということは、ドイツではその評価が全然違うわけです。  どこまでその評価が変わったかというと、最近は西ドイツの州の中のかなりの部分で、合法的に決まった期間ドイツに住んでいる外国人には、彼らに参政権というか、投票権を与えるかどうかということまでになっております。これは全国の投票権じゃないけれども、しかし例えば自治団体あたりの、自分が住むところでの少なくとも投票権は与えるべきではないかと。ドイツは連邦制で、州別にそういうような法律を決めるわけですが、実際に二つか三つかの州ではそういうような法律もできて、今は裁判でこれは憲法違反であるかそうでないかという議論を与野党の間で行っていますが、とにかくそういうところまでいったということは、やはりある程度の評価も実際に彼らに与えてきたということの証拠の一つだと思います。  それで、文化とかもちろん労働市場あるいはドイツ版の国際化というのは、ほかの人種との平和的な共存、一つの社会の中に住めるようになることです。教育の例でも、外国人がドイツに滞在しますとドイツの義務教育の対象になります。しかも、同じ学校へ通うわけです。ですからクラスの中に外国人が必ず含まれています。普通の生徒は小学校から高等学校、大学までみんな一緒ですし、学校はドイツの場合、公がほとんどですから、やはり割に社会に入らせるような機能を果たすわけです。学校のところでも最初は、例えば子供は親が来たばかりでドイツ語もまだできない場合は一時的に問題があったんです。今ドイツで育った子供、生まれた子供は全然そういう言葉の問題がないんです。  だから、教育の問題はほとんど解決したんですが、住宅の問題はかなり最初は大きかったんです。その一部はやはりマイホームの形でアパートを買うとか、あるいは社宅とかいろんな形があったわけですが、今は住宅問題も、合法的にドイツに住む外国人の場合はそれほどドイツ人と違わないと思います。  今度は日本の場合はどうかというふうに評価しますと、私は特にこの単純労働者、いわゆる不法就労者のところに絞ってちょっと意見を述べさせていただきたいんですが、そこはドイツの制度、ドイツの経験と同じようなやはり問題点が出てきました。日本の場合、特に目立つところは仲介屋の役割とかあるいは待遇の差別化、あるいは法的な立場がないから保護を受けないという問題で、私はこういう問題を例えば管理制度、入管制度あるいは労働市場管理制度だけで解決することは不可能だと思います。なぜならば、不法就労者の背景にはやはり市場の需要がありますから、それで日本で働きたい人もありますから、その二つのグループを合わせるいろいろな制度あるいはルートあるいは道がありますから。ですから私の考え方では、むしろ二つの柱に基づくような政策があるべきではないでしょうか。その一つは入管あるいは労働市場管理の強化ですが、もう一つの柱は何かの形で少なくとも一部の単純労働者を外国から入れてそれを制度化するようなことです。  それでは、どういうふうな制度にするか。いろいろなポイントが挙げられますが、一つは、日本とその外国の間で協定、条約などのベースで公の枠をつくる。もう一つは、これは大事なポイントですが、そこから人が日本へ来る前に現地で研修させる。例えば半年でも一年間でも日本の経済協力の予算から金を出して、日本で働くために準備期間を与えてコースを設けて、日本語、日本法律、労働関係の習慣などの福祉制度と今度の仕事に当たるような関連の知識の部分を教える。そうして、そういうようなコースで合格した人だけの中から何人かを例えば来年日本へ入れるとかいうことにして、それで日本側では逆に一つの窓口をつくる。  それは公の窓口であってもいいし、あるいは業種別にあるいは日経連あたりでもこれは構いませんが、そこに毎年企業のニーズを申し込んで、そして市場の需要を判断してどのぐらい次の年に外国から求めるかというふうにする。そうすると、後で受ける人も同じ窓口を経由してやはり市場に合わせる。そういう一つの責任を持つ全体の待遇などの制度をつくれば、外国から特にアジアから日本に対して大学だけじゃなくて、普通の人も来られるような制度になるじゃないか。これは日本のプラスにもなるじゃないか、評価にもなるじゃないか。それで、これは経済協力の理念に基づくことと思うし、決して悪い影響にならないのではないでしょうか。そうすると、今の制度より日本が評価される可能性は十分にあるじゃないかと私は思います。  最後に簡単に、今の法案を見てみますと、一つは制度をもう少しはっきりするような、あるいはもう一つは雇い主にも違法の場合は罰則をつける、あるいは就学の制度を認めるようなことはそれぞれ評価できると思いますが、しかし基本的な問題の解決にはならないと思います。今言ったような不法就労者の問題はそのままやはり続くだろうと私は思います。何らかの入管以外あるいは労働市場管理以外の制度を導入しないと、やはり不法就労者問題はそのままで続く、大きくなるだけだというようなおそれがあります。その関連では例えば中国の就学生の例でも見られるように、少なくとも一部そういうような方々は実際に就学じゃなくて仕事を、単純労働をねらうわけです。ですから、やはり単純労働者の一部を入れるニーズに全然こたえられないようなことになります。したがって、法案としてはいろいろ評価ができても、問題の解決にならないのじゃないかという心配があります。ですから、二つの柱、入管プラス一つの制度ということが一つの入り口になるのじゃないか。  そういうような制度では、ドイツで一つのいい例があります。これは韓国からの看護婦というような例があったのです。韓国の看護婦は、韓国で看護婦として認められてもドイツでは看護婦として認められないわけです。ですから、ドイツで彼女らを准看として使うためには、かなりの数字まで一万五千人程度の人まで最終的に入れたわけですが、彼女たちはまず韓国で一年間のコースを通って、そこで合格した人だけから何人かを選んだわけですから、さっき言ったような制度に似ているわけです。単純労働者とちょっと違いますが。しかし公の研修を、行く前にその国で行う、それは経済協力の予算から支払うという、こういうような制度は今までもドイツの国内あるいは韓国でもかなり評価されて、これは例えば自治団体の市立病院などに大きく貢献したわけですが、だから可能性はそこにもあるということが立証できたと思います。  大体そのくらいです。
  90. 黒柳明

    委員長黒柳明君) どうもありがとうございました。  次に、江橋参考人にお願いいたします。
  91. 江橋崇

    参考人江橋崇君) 私は大学で憲法や国際人権法を教えておりまして、きょうはいわば人権政策 的な観点からこの法案に対する意見を述べるとともに、法案の具体的な内容に及んでみたいと思っております。  まず一番初めに申し上げたいことは、この法案を審議するに当たって、日本における外国人就労に関する政策ということをはっきりと考えてみる必要があるだろうと思っております。どうもその場その場の対応だけに追われているのがこれまでの立法の例でありますので、それでは今日の状況には対応できないのではないかと思っております。  まず一番目に、今日日本で起きている問題の国際的な広がりというものが必ずしも理解されていないのではないかという疑問があります。日本では外国人就労の問題はいわば台風来襲型の事件として理解されているように思われます。大変だ大変だ、早くしなきゃ大変だということでありますが、しかし実態は、アジア全域で交通革命と通信革命の結果非常に人の移動が活発になったという、その面として広がっている人の移動の一部が日本にも及んできているのだということだと思います。  具体的な例で申し上げますと、フィリピンは労働力輸出政策をとっており、現に百万以上のフィリピン人をまさに労働力として海外に輸出している、そういう国であります。フィリピン政府の高官によれば、フィリピン人はまじめでよく働いて雇い主の言うこともよく聞く、海外では高い評価を得ておりますというとんでもないことを言っておりますけれども、そういう国がありますと、フィリピン人は例えばシンガポールにお手伝いさんに行く。香港にお手伝いさんに行く。韓国にも行く。西ドイツにも行く。アメリカにも行く。その一部として日本にも来ているのであります。  あるいは、玉突き現象もあろうかと思います。タイの農村地帯の女性がバンコクに働きに行く。バンコクの人は台湾あたりに出かける。台湾の女性が日本にやってくる。一種のすごろく構造になっていると思います。しかし、日本は決して上がりではないのでありまして、多くのアジア人にとって本当に行きたい上がりはアメリカであります。日本は上がりのちょっと手前にあるところかと思います。  先ほどドイツの話が出ましたけれども、ヒールシャーさんがおっしゃいましたように、ヨーロッパでも状況は同じだと思います。例えば西ドイツの場合、トルコからガストアルバイターを呼ぶ。しかし、それにかえてEC諸国の人を呼ぶ。あるいはギリシャから呼んでいたところを、ギリシャがECに入る、それに加えて今後は東ヨーロッパからも大量にやってくるとなりますと、どの外国人を限られたキャパシティーの中に入れるのか、あるいは既にドイツに来ている人をどの程度優先させるのか、そういうことの関係で新規のEC諸国外からの入国をストップするということはあるわけですけれども、それは一種の玉突き現象の中でどこから入れるのかという選択の問題でありまして、決して一国だけで孤立しようとしているわけではないのであります。そういった意味で私は、面として人口移動の問題が発生しているということをおなかにおさめて事柄に当たっていただきたいと思うのであります。  具体的に申しますと、まず第一に、アジアで非常に活発に労働力の移動が行われているときに、日本政府が突然十万人計画だ、若者やっていらっしゃいというふうに急に審査を甘くしてみたり、今度は突然締めてみたり、これは広くあげてみたり、しめてみたり、一部でそういうことが起きればその混乱はアジア全域に波及するわけであります。上海事件などはまさにその一例であったと思います。  もう一つ、日本の場合は何か日本にやってくるアジア人のことを日本というおいしいケーキに群がってくるアリのような感じで見ているというとんでもない差別があると思いますけれども、その自意識過剰になってしまうのも、国際的な広がりの中の一部のものなんだということがわからないというところからきているのではないかと思います。  さらに重要な問題点は、私が二番目に申し上げたいことでありますが、日本は要するに外国人の問題に関しては国境の外に追い出すかそれともある程度入れるかということだけしか考えていない。そこでは、アジアの一国としていわば国際的な責任、アジアにおけるさまざまな経済的、社会的な問題に関して協力し合って解決していくという責任というものが全然はっきりしていないということであろうかと思います。  例えば難民の認定の問題がございます。日本政府はかねがね難民認定に対して厳しい政府として有名であります。しかし、日本政府の行っている厳しい難民認定は、難民条約に違反していると言う人もいますけれども、大方の人は難民条約に違反していないと言います。私もそうだと思います。なぜならば、難民条約というのは結局は主権国家がお互いに難民問題に協力し合っていこうということですから、おのおのの国家が協力し合って問題を解決していこうという基本的な骨組みであります。したがって、難民は保護しようという条約上の義務は日本にもありますけれども、だれが難民なのかという難民の認定権、これは主権国家各国に分担されているわけでありますから、日本が厳しくあなたは難民でないと言えばそれまでの話ではあります。つまり、条約に違反するかしないかということがもし難民政策にとって問題だとするならば、日本政府のやっていることはセーフで、アウトではないわけであります。  しかし、日本政府のこの厳しいやり方は結果において、難民条約に加盟してから約十年たちましたが、わずか二百人を認定しただけであります。二百人のうち百五十人余りは、ベトナム戦争が終わった直後にというか、難民条約に入った直後に認定したベトナム人及びその後のインドシナ半島の人々であります。それ以外に若干名、十数名のイラン、十数名のイラク人がいるだけであります。難民条約に違反しない、難民条約を厳格に執行する、難民の認定に厳しい、それはそれで結構でございます。しかしながら、それは条約には違反していないけれども、政策として見た場合十年かかって二百人しか認めなかった国家という評価を受けるわけであります。難民条約における難民認定権というのは主権国家の裁量事項だということは、逆に言うならば、どういうふうにこの裁量権を行使するかということについて国際世論の前に常に体をさらしているわけであります。  したがって、まさに日本が問われているのは難民条約に違反するかどうかという細かなことではなくして、アジアにおける難民の発生という非常に憂慮すべき事態に日本政府としてどう対応するのか。まさに人道的あるいは人権的な視点が問われているわけでありまして、それに対する回答がゼロ、私たちは条約に違反していないからこれでいいのですと言えば、ああそうですかと言われるだけであろうかと思います。  二つ目に、国際国家としての協力の姿勢が出ていないというのは、まあ法案の審議の中で多少出ていますけれども、こういう日本にアジア人が押し寄せてくるという事柄の背景はそのおのおのの国の経済の状況及び日本との経済格差にあるわけですから、各種の援助政策などを通じて問題を根元から解決するようなそういう発想をとるべきなんであります。ところが、入管の問題というのは往々にして入管政策だけが先行して、締め出してしまえばいいじゃないかという結論に終わりそうであります。そこが二番目の問題であり、援助政策に関するダイナミックな展開というものが必要なのだということであります。  三つ目に、私の商売のことを申し上げて申しわけございませんけれども、国際的に協力をし合うというときに、日本のそれは政府だけでなくして、失礼ながら国会審議でもそうでありますが、一貫して抜け落ちるのが現在国際的に徐々にできつつある人権に関する基準というものを念頭に置いて考えるという態度であります。これがなかなか出てこないのであります。衆議院における法案の審議の議事録を読ませていただきましたけれど も、その中にILO条約のことがややかすかにかすめられている以外には、およそ問題は議論されていないのであります。  具体的な話からしますと、一九八五年、日本政府賛成して国連で外国人の人権宣言というものが定められております。この外国人の人権宣言というものは、外国人の人権を三つのレベルに分けました。一つは、およそ人間であればどんな人でも認められなければいけない権利、例えば正当な裁判にかけられたときに自分の権利を守るためにいろいろ保護が与えられる権利であるとか、あるいは拷問されないとか、そういう人間として最低限認められなければいけない権利は在留資格のいかんにかかわらず全員に認める。このレベルを一つ保障しました。二つ目に、正しく入国した正規の入国者に認める権利のレベル、例えば受け入れられた国で国内を自由に行き来する自由、これもそうであります。三つ目のレベルが、労働許可を持って入国を認められたものに認める権利のレベル。この三層にレベルを分けて、おのおの主権国家はその国に滞在する外国人の権利をどのように守らなければいけないのかということについて国際的に約束し合ったわけであります。  この外国人の人権宣言は、条約ではなくして国連総会決議ですから、法的に日本を拘束するというよりはまさに政治道義の指針であります。この政治道義の指針が、例えば法案の準備及び審議の場あたりでなぜ参考にされないどころか言及もされないのか。これは外国人から見ると極めて不思議な現象であろうかと思います。日本のような大きな国が、このような問題を議論しているときに国際的なこういう基準に全然触れないで議論している、これはまたけったいなものやと思われているだろうと思います。  ほかにも幾つかこの関係に関して資料はありますが、時間の関係で後に機会があればお話しすることとして、ここでは飛ばさしていただきます。  ヨーロッパの各国は、例えば国連におけるこういう外国人の権利を守ろうということに関して以前は大変冷たかったのであります。なぜならば、国連でこういうことを決めるとこれを盾にとって自分たちがいろいろ責められる。アジア・アフリカ諸国からそれ見ろと、あなたたちが国連で約束した決議国連人権宣言を先進資本主義諸国は守っておらぬではないかというふうに責められる、だから嫌だというのでアメリカとかヨーロッパ諸国もやや消極的でしたが、最近はヨーロッパ諸国の政府も風向きが変わってきたと言われております。  それはどういうことかといいますと、国際交流が非常に進んできますと、例えばフランス人で第三世界へ出かけていってそこで雇われている人がふえてきた。そうすると、第三世界はいろんな問題がありますから、さまざまなトラブルが起きます。フランス国民が第三世界政府なり第三世界の会社なりに雇われて出かけていって現地で働いているときに人権侵害が起きた、そういうときに先進資本主義国側としてその問題をどういう足場から発言をしようかというときに、この外国人の権利宣言を第三世界の国々と先進資本主義国がともに結んでいることから、今度は先進資本主義国、例えばフランスが、アフリカのある国においてアフリカの企業に採用されているフランス人が人権侵害されたときに、困るではないかと、このフランス人の権利は外国人の権利宣言によって守られているんだという形で、いわば外国人の人権宣言を足場にして第三世界における自国民の雇用における人権侵害を防止したいと最近ヨーロッパの政府は考えるようになってきているわけであります。  今日日本は、日本に来ている外国人よりは海外に出かけて働いている日本人の方がはるかに数が多いのでありまして、そういう人々の人権、先行きいろんな国ですからいろんなことがありますから、そういうときの人権などを少しでも考えれば、日本国内においてもあるいは国外においても、こういう国際的な基準に沿った形でお互い人権を認め合っていこうというようにしておくことの方が、自国民に対する責任という意味でも私は大事だと思っていますが、残念ながらその議論はなされていないのであります。  次に、政策的観点ということでもう一つ、国内政策との関連についても一言申し上げたいと思います。  よく言われることですが、入管法だけで突出するなということであろうかと思います。その点につきましては、入管法と外登法の関係を整理する必要があるだろう。外登法をあるときは入管法とは別の外国人の国内処遇法だと言い、あるときは広い意味での入管法だと言い、使いたいときは使い、使いたくないときはお蔵にしまうというような対応をこれまで日本政府はしてきていますが、どうもそれはぐあいが悪いという意味で、入管法と外登法の関係を整理すべきだということ。  二つ目に、ヨーロッパ諸国がそうなのですが、社会保障、社会政策、社会福祉が細分化されてきて外国人にも適用するケースがふえてきますので、どういうタイプの外国人にはどこまで保障するのかということを詰めて考える必要があるだろう。  三つ目に、今度の改正によって出入国管理基本計画というものがつくられるということでありますが、私はこれを基本的に疑ぐってかかっております。まず第一に、今まで日本政府日本国内に在留する外国人の生活実態についてまともな調査をしたことすらない。こんな政府出入国管理基本計画を立てるといっても、どのようなデータに基づいて立てるのだろうか。戦後四十年、日本政府が在日韓国・朝鮮人の日本社会における権利状況あるいは差別の状況等についてなさった実態調査がもしあるとするならば、お見せいただきたい。そういう日ごろからきちっと事情を把握しようとしているところでない限り、出入国管理基本計画なるものはたちまちのうちに外国人労働力動員計画になってひとり歩きしてしまうだろうと私は思っております。  四つ目に、先般の難民事件で明らかになったことでありますが、入管法に関する国内政策というものは、自治体にしわ寄せをしてはいけないということだと思います。二つの点があると思います。  一つは福祉サービスですけれども、現に外国人が東京などにも大量にいますので、行き倒れだとかいろんなことがあります。医療の面一つ考えても、自治体は現に行き倒れてしまった外国人を、あなたは不法滞在だから権利がないと言っておっぽり出すわけにもいきませんから、どうやってその人に医療サービスを与えるのか、そしてその費用はだれが負担するのかということで四苦八苦しているわけであります。入管当局の方は国境を通せばいいと言うと怒られますが、実際には外国人の福祉を考えると現場の各自治体が大変なわけでありまして、自治体の抱えている問題点がそこに出てくるかと思います。  さらに、外国人が日本に入ってきますとどうしても住み分けという現象が起きます。日本人も外国では固まって群れて日本人村という悪口を言われながら住むのと同じことでありまして、外国人も住み分けが起きてきます。そうすると、思いがけない地域に思いがけぬ数が集まる。一つの例として中国残留孤児があったかと思います。中国残留孤児はおのおの出身のふるさと、長野とかそういうところに行きましたけれども、結局その中でうまいぐあいにいかなくて、東京に出てきた。東京都庁に中国残留孤児がみんな来て、住宅を世話してくれと。ついに東京都の公営住宅はパンクしました。パンクした末、神奈川県と千葉県に残留帰国者が流れていくようになったということでありまして、住み分けが起きる以上、日本のどこかの地方自治体に集中的にこういう外国人管理の問題、外国人処遇の問題が登場してくるということはやむを得ないことになるんだと思います。そこにしわが寄らないような形の政策を展開していただかなければいけない。  つまり、以上を取りまとめて言えば、出入国管理政策という観点からすると、もう少し全体的な 政策に対する目配りが法案の審議の過程で必要だったのではないかというふうに私は考えておるのであります。  時間がありませんので、いわば目次を述べる程度になってしまいますが、以下、多少ほかのことについても触れておきたいと思います。  まず第一に、法案の中身の問題に関して申しげますが、研修生及び就学生の問題に関してはいろんな問題があろうかと思います。具体的な法の中身のことは先行きの機会に任すとして、私の基本的な考え方を申し上げますと、私はいわゆる単純労働者の導入は不可避、避けて通れないと思っております。現に、既に都心における外食産業であるとか夜勤などは外国人によって担われているわけでありまして、これを全員追い出すということを言われたのは聞いたことがありません。また単純労働者、つまり今日ではアジア人は安いから雇うという非常に問題の多いことがあるんですが、そのうちに日本国民並みの賃金を払ってでも採用したい、あるいは場合によっては日本国民よりも優遇するから来てもらいたいという事態にもなるだろうと思っております。これだけお金を出しているんだからいいじゃないか、雇いたいという圧力もそれだけ強まると思います。  そして三つ目に、あの大工の手不足みたいな解決方法は困るという問題があります。御承知のとおり、大工さんに関しては数が非常に少ないということで、東京を中心に建設会社等がいわば高い賃金を出して地方から引っこ抜いてくる。そのために、地方の方では大工不足で家が建たない。場所によっては半年とか一年待たされるケースがふえてきております。つまり、今日私たちは建設労働者不足という社会問題を、私たちが家を建てたい、商店を建てたい、そういう個人のいわば気持ちあるいは希望を半年延ばし一年延ばしすることで何とかやりくりをつけているのであります。  家の問題に関しては、そういうことで建設労働の不足を日本の地方の方にしわ寄せをする格好で何とかカバーされていますが、こういう現象はもうだんだん我慢の限界に達してくると思うんです。各種の事柄に関して現に労働力がない、そのために仕事が進まないということになれば、やはり雇えという圧力は強くなってくるんだと思います。長期的に見た場合、単純労働力の導入は不可避である。不可避だという結論がまず最初にあったとしたら、どのようにしてなだらかに抵抗なく、かつ日本国内でも問題なく、やってくる人々の人権にも支障がないような形で問題がつくっていけるのか、そういうふうに発想を転換していただきたいというふうに私は考えているのであります。  今回の法案の審議の中で、先行きについて入れるか入れないかはわからないけれども、現在は入れないと、それは結構でございます。ある日突然、もうたまらぬから入れるというふうに言えばまたまた大混乱が起きるのでありまして、先行きどっちみち入れなければいけないんですから抵抗感のない形で入れる、それがいわばヨーロッパ型の先行きの展望なしに入れた結果大混乱したことから得るべき我々の教訓なのであって、ヨーロッパでは労働者を締め出しているんだという架空の結論が得るべき教訓ではないと私は思っております。  時間が超過しますので、一番最後のところは一言だけ言っておきますと、もう一つ、私はこの手の問題に関しては日本国内の教育と啓発活動が極めて重要だと、この問題を抜きにして国民合意を云々したりすることは不用意のきわみだと思っております。  以上、とりあえず私の意見、はしょってしまって申しわけございませんが、終わらせていただきます。
  92. 黒柳明

    委員長黒柳明君) どうもありがとうございました。  以上で参考人の方々の御意見の陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  93. 清水澄子

    ○清水澄子君 今、各参考人の皆様方から大変有益な御意見を伺いまして、今後の入管法の討議の中で十分私たちも配慮してまいりたいと思いました。  その中で、まず花見先生にお伺いをしたいと思うわけです。  今、いろいろ今日の入管法なりこれまでの入管行政の欠点という問題またはそこで欠けているものということで、在日外国人に関する管理の面はあるけれども人権という面が非常に不足しているし、また他の政策上からも不足しているという問題が多く出されました。そういう中で、花見先生の場合は、今回の入管法の改正については一定の評価ができるという評価をなさいましたわけですけれども、日本に単純労働者という形で資格外活動をしている労働者を認めていくということは日本の国益の観点からそれは余り芳しくないという、そういうお話もなさったと思うんです。それらは入管法ではなくて、むしろ国の全体の労働市場の問題とかそういう政策という意味でもあったと思いますけれども、常に国益という観点から考えられているこの入管法の欠点または行政の問題点、そういう意味から見まして、人権という立場からはどのようにお考えになるかということをお伺いしたいと思います。  と同時にもう一つは、やはり労働法令関係は、たとえ不法就労と言われる方であってもそれは人権を保護される、そういう労働関係法令が日本にはございます。その取り締まりという面と人権という面で、これらについて日本の労働法令の運用というものの実態がどのようになっているかということをどう考えておいでになるか、この二つについてお伺いしたいと思います。
  94. 花見忠

    参考人(花見忠君) お答えいたします。  まず第一に、いわゆる単純労働者を受け入れるかどうかという点については、私は今度の法律は今まで非常に制限的であった資格に新しい資格を付与して少しく拡大したという点を評価するというふうに申し上げたわけでありまして、単純労働者をどの程度今後受け入れるべきか、どういう形で受け入れるべきかということについては、国益の観点から判断をすべきであるというふうに申し上げたわけであります。その国益というのは、私は非常に広い意味でさまざまな観点から国益を判断しなければならないということを申し上げたわけで、その中には人権配慮、国際的な理念に基づく人権の配慮というものが当然含まれているというふうに了解をしておりまして、ですから、私は日本の国益と国際的な理念とか人権に対する配慮というものが対立するものというふうには考えておりません。日本国は、国際社会において国際社会の一員として発展をしていくために、国際的な理念、人権の配慮というものが極めて重要であるということは当然のことであります。  ただし、そのことから無制限に日本に来て働きたいという外国人を当然受け入れなければならないという結論は、国際法の観点からも国際法理念の観点からも出ないだろう。むしろ、無制限に引き受けることはどこの国もやっておりませんし、日本がもしそれをやればかえって入ってきた人たちの人権、今ほかの参考人の方からも御指摘がありましたように、現在不法就労者で入ってくる人たちの人権が全く尊重されていない状況があるわけでありまして、そういう状況がますます拡大をするだけであります。ですから、そういうことは避けた方がいいのではないかというのが私の考え方であります。  いわゆる単純労働者をどの範囲でどのように受け入れるべきかということについては、一つは、何人かの方の御指摘もありましたが、労働力不足の問題がありまして、労働力という観点からも、既に一部の仕事については外国人が実際に働いているのでそれを無視することはできないだろうし、それから部分的に発生している労働力不足に対応するために、外国人労働者を単純労働者を含めて受け入れるべきであるという議論があるわけですが、現在の労働力不足は、これまで政府の政として閣議了解で、いわゆるかなり制限的な現在の政策を三回ほど確認をされておりまして、昭和四十二年と四十八年と五十一年に確認をされているわけでありまして、恐らく四十二年当時の方が現在の労働力不足よりもかなり深刻な労働力不足があったわけで、その時点でも結果的に外国人労働者を受け入れる必要は全くなかったわけであります。  そういうことから考えますと、現在の労働力不足というのは極めて部分的なミスマッチに基づいて生じているものであって、これに対してそのために外国人労働者を導入する必要はないのではないか。ほかの対処方法、例えばそういうところの労働条件を改善する、あるいは経営合理化をすることによって対処のできる問題であるというふうに考えるわけでありまして、私は、我々の非常にコンビニエントな社会というか、生活のしやすい社会、現在の日本状況を維持するために外国人労働者を導入して、彼らを低賃金、悪い労働条件で使うことによって日本の効率を維持するという考え方はとるべきではないのではないかというふうに思うわけであります。  さて、にもかかわらず実際に不法就労を含めて外国人が入ってき、かつ定着をするわけでありまして、これは国際労働力移動、どなたか御指摘になりました国際労働力移動という現実から見ても避けることができないわけであります。私が指摘しましたような入管行政の問題点を改善したにしてもこれは限度があるわけでありまして、完全に不法就労が日本に入ってくることあるいは定着することを防ぐ方法というのはないわけで、したがって現実に働いている人たちの労働条件を守りかつ人権を守るということはこれは当然必要であります。  既に皆さん御承知のように、日本の現行法は労働基準法を含めてすべての法律で国籍に基づく差別は禁止をされておりまして、理論上はすべてその適用があるということであります。ですから、これを実際にどうやって適用するか、これが非常に私は難しい問題だと思うんですね。つまり、一方で違法の状況というものがあるのに対して、その人たちをどうやって保護するかというのは大変やりにくい問題でありまして、何人かの方が御指摘されましたように、労働省の取り扱い、労働省当局は非常に困難な立場に恐らく立っているというふうに考えるわけであります。  労働省も国家機関でありますから、法務省との関係において違法入国者が存在をする以上はこれは通報する責任があるのは国家機関として当然のことでありますが、ただ、例えば外国人労働者相談コーナーというのが全国で六カ所ほど設立をされているわけですが、これとの関連においては労働省は必ずしも通報はしないという通達を出しております。これは実際にどういうふうに行われているか私はよく知りませんけれども、必ずしも労働省は常にその不法就労取り締まりの立場ばかりに立っているわけではないということであります。ですから、理論的には若干難しいことになりますが、これは非常に単純なことでありまして、例えば違法残業にも割り増し賃金を払うという原則、これは疑いがないわけでありまして、それと同じように考えれば、その違法就労についても労働法規が適用になり、かつその人たちを保護しなければならないというのは疑いの余地がないわけであります。  結局、そういうふうに考えますと、問題は例えばそういう労働基準法などの諸法規を守らないような事業所に外国人労働者が雇われるということが問題でありまして、それをなるべく避けるような手段を考えていかなければならぬし、そういう行政の運営が必要であろう。今度の改正法で、これは私ちょっとよくわかりませんので条文を読んだ限りにおいて申し上げますと、従来存在しました入国を認める段階における法務大臣と労働大臣の協議が落とされて、そしてもう少し一般的な、入国管理に関する協議手続が労働大臣の方から法務大臣に申し入れて協議をするという制度に変わったわけでありまして、どうも、今までもそうですが、そういう労働条件の保護の立場にある労働省が、この入国管理についての関与というのが必ずしも十分になされないような状況なのではないか。改正法は、私は条文を読む限り、むしろその点では後退をしたのではないかというふうに考えております。
  95. 清水澄子

    ○清水澄子君 ありがとうございました。  花見先生は、さっきちょっと言い残された長期的なところはお話しいただかなくてよろしいですか。
  96. 花見忠

    参考人(花見忠君) もしお許しいただければ申し上げたいんですが、これは非常に簡単なことでありまして、先ほど申し上げましたように、この問題はさまざまな政策的な観点からの判断が必要でありまして、現行制度で欠けておりますのは、今申し上げた例えば労働省の関与というような問題についても、各省庁間で十分に協議をしてこの問題に長期的な政策を立てるという仕組みが必ずしも十分にできていないのではないか。今度の改正法で計画を立てるということになっておりますのであるいはこれが可能かもしれませんけれども、ちょっとよくわかりません。  この条文が何を意味するのか私は必ずしもよくわかりませんが、問題は、例えば国際条約のことを私が申し上げたのは、国際条約で出てくる結論というのは非常に限定されたところであって、それから先が問題であって、それは非常に高度の政策的な判断が必要でありますから各省庁の英知を動員した高度の政策的判断が必要であって、日本現状は必ずしもそれをする十分な仕組みがないのではないかというふうに思っております。そういう意味国家百年の大計を考える、例えば人口問題なんかの観点からの議論というのはほとんど行われてないわけでありまして、そういう点を私は長期的に考えるべきであるということを申し上げたかったわけでございます。
  97. 清水澄子

    ○清水澄子君 ありがとうございました。  次に、田中先生にちょっとお尋ねしたいと思います。  さっき、この入管行政における自由裁量の問題というお話がありました。私どもも非常にこの入管法には法務大臣の裁量権の乱用があるというのはよく聞かされているわけです。それらがどういうふうに今までも弊害があったのか、それと今回の入管法の改正案との関係で何が問題になっているかということについて、まずお伺いしたいと思います。    〔委員長退席、理事白浜一良君着席〕
  98. 田中宏

    参考人(田中宏君) いろいろなことがあると思いますけれども、一つは、今回の在留資格の全部手直しをされた中に定住者という従来法律にはなかった概念が登場しています。この具体的な中身がどういうことになるのかというのは必ずしもはっきりしませんけれども、まず考えられることは、先ほどちょっと私が触れました在日韓国人・朝鮮人の三世以降の子孫の在留資格というのが結局はそこに落ちつくだろうと思いますね。  そうすると、これは現在の法制度ですと三年以内で法務大臣定めると言われる裁量の範囲にゆだねられるということですけれども、歴史的な背景から考えても、親よりも子、子よりも孫という形で、世代が下っていくとかえって地位が不安定になるということが結果的に引き起こされている。これなんかもどう考えるのか、裁量の範囲で三年以内でやるんだということだと思いますけれども、非常に私は問題だと思うんですね。なぜきちっとした在留を保障するというように、歴史的な背景と在留実態が全然違うわけですからそういうものをきちっと定めるということはできるはずですけれども、今回のあれでは定住者という言葉で、内容的には三年以内。例えば十年とかあるいは特に期限を定めずに子供は無条件で在留を認めるというようなことは、やる気になれば簡単にできるはずなんですね。期限を三年以内にしておくと、それがどう運用されるかというところで非常に当事者にとっては不安になってくる。  それから、先ほどちょっと時間の関係で省略しましたけれども、若干アムネスティーと言われる——今回の議論でも衆議院段階の議事録をちょっと拝見すると何回か出てきているようですけれども、既に長く日本に滞在している潜在居住者と言われる人たちがどれくらいいるかというのは事柄の性質上だれにもわからないわけですね。しかし、既に二十年とか三十年たっている人が突然発見されるとか、あるいは御本人の方から事情があって当局に出頭するというようなことはいまだにあるはずです。戦後実は四十年以上たちますけれども、日本の入管行政の中で、長期化した居住者の人権を考慮してアムネスティーを与えて人権保護のためにステップを踏み出すということは一度も行われていないわけで、ここらあたりも裁量ということでそれをいい方向に使えばそういう解決というのはできるはずです。  現実にそういう人たちは、私も若干事例を知っていますけれども、例えば交通事故に不幸にして遭った、そうすると警察官が現場に急行する前に自分がどういう被害を受けていようとまず立ち去るということが第一条件ですね。そういう悲惨な状態になる、あるいは非常に劣悪な労働条件で酷使されるというようなところに立たされても、入管に伝えられるよりはましだということで、どんな過酷な条件も甘受せざるを得ないという信じがたいような事態を結果的に引き起こすわけです。  確かに法に触れている者ですから、そういう者を救済する必要はないというのは一つの考え方でしょうけれども、諸外国が再々そういうことを導入しているということは、ほかでもないその人たちの人権問題を考えればかえられないということで、国家の法に触れた者だけれども逆に救済をして、むしろ人権保護に資する、そういう裁量というのは、四十年の歴史がありますけれどもまだ一度も使われていない。  それからもう一言申し上げると、今回の改正案で若干私が気になっていますのは、従来の十八種類の在留資格が今回二十八種類に細分化され、よりさまざまなカテゴリーを設けることによって、単純労働はともかく、それ以外のところはできるだけ門戸を開放していこうというように言われているわけですけれども、先ほど私は、就学生の在留資格が早い時期に統計上まず登場して、それから今回の法改正で初めて在留資格として法案に盛り込まれるということを言いましたけれども、実は昨年末発表された在留外国人統計の中には、法務省の実務的な処理では家事使用人というカテゴリーが初めて登場したんですね。二年前に同じ統計が出ていますけれども、それにはそのカテゴリーはない。今回は登場している。ところが、なぜかその家事使用人というカテゴリーは今回の法案の在留資格としては出てこない。  ですから私に言わせると、ちょっと変な言い方ですけれども、第二の就学生というのか、在留資格として表には出ないけれども、統計上ではちゃんと区分けができるように法務省の手のうちではきちっと押さえられている。それで、家事使用人というのは、統計を調べてみますと八百八十九という数字が出てきますね。今回表に出てきた在留資格のもう一つの新しいものの中に医療というカテゴリーが出てきます。在留外国人統計で医師というように区分けされているのは四百二十四ということで、家事使用人の半分なんですね、今のところ。これは法律の表に出てくる。ところが、それを上回る数は実はその他条項の中に潜ったままになっている。ここらあたりにも、自由裁量という妙な言葉遣いをしましたけれども、どういう基準で一体在留資格の区分けをしたのかというその考え方というのが必ずしもよくわからない。何か手のうちで自由になるというところで、もちろん余り細かくやると行政が難しいという問題はあると思いますけれども、しかしもう少しその点についてはきちっとしておく必要があるんじゃないか。  特に今回は、私は一つの改善だと思いますけれども、審査基準を省令で公開する、これは今まで全くわからなかったわけですが、それは一歩前進だと思うんです。しかし家事使用人が今のような形でその他の中に含まれてしまうということになれば、家事使用人というカテゴリーについては、少なくとも審査基準を明らかにすることはもう法務省もなさらないでしょうし我々にもわからないということで、非常に細かいことですけれども気がかりなところがあって、もう少し行政のガラス張り化というか、そういう点で考える必要があるのではないかという気がします。
  99. 清水澄子

    ○清水澄子君 それでは、やはり田中先生に。  先ほどいただいたレジュメの中に、五の中で終わりの方に「内外人平等元年」と書いてありますね。そしてそれが「例えば一九八二年以前」と、これはどういう問題ですか。
  100. 田中宏

    参考人(田中宏君) お答えいたします。  先ほどちょっと、非常に長期にわたって潜在している人の人権のためにアムネスティーをやるということが全然行われていないということを言いましたけれども、今日問題になっている外国人労働者の不法潜在、これに一気にアムネスティーを与えるということについては、いろいろな議論の余地があると思うんですね。しかし、もう少し長く考えた場合に、戦後四十年たって、人によっては三十年とかそういう形で潜在化しているケースがあり得るはずで、法務省は少なくとも自主的に申し出た人のデータ等でいまだにそういう人たちがいるということは十分御存じだと思いますけれども、私は今回の法改正で、今回の法改正はどちらかというと外との関係で考えていかざるを得ない問題が出てきて行われる法改正だと思いますので、したがってその潜在居住者の救済ということをある年限を基準に思い切ってやったらどうだということを申し上げたいと思っていたんですね。  ただ、いつの時点で切るのかというのは具体的に考えると非常に難しい問題で、私がそこで考えたのは、例えば一九八二年というのは日本における外国人行政にとって私の認識では内外人平等元年である。なぜそう申し上げたかというと、この年の一月一日に御存じの難民条約が日本国について発効いたします。効力を発することになって非常に目についた変化としては、社会保障における国籍条項が原則的に撤廃されます。したがって、それまでは幾ら税金を納めても児童手当がもらえなかった外国人、これは在日韓国人・朝鮮人も入れば難民も入ります、これらの人たちに八二年一月一日から児童手当支給が行われるようになりました。そのことに象徴されるように、日本の社会でともに暮らす同じ人間として、お互いに支え合って暮らす社会保障制度の中で初めて内外人平等が実現されたという点で、私の認識では日本の外国人の法的地位の問題を考える上で内外人平等元年に該当する。  そうしますと、潜在居住者の救済ということ考えた場合に、一九八二年の一月一日以前に、あるいは前の年の十二月三十一日というふうに申し上げた方がいいのかもわかりませんが、既に入国をしている人については、この法律ができた段階でみずから申告をされれば、在留を許可していわゆるアムネスティーを与えると。そのことによって、戦後の混乱期に別れ別れになった在日韓国人・朝鮮人の家族が、家族再会を願って密航とい形で日本に入ってそのまま二十年たっている、あるいは三十年たっているというような人たちがいまだにいると言われているわけですが、この人たちを日陰の存在じゃなくて人間として扱うための救済を行うと。  この段階ですと、法務省の資料でも不法就労の摘発というのは二千を切っている非常にまだ少ない段階ですから、今日議論されている不法就労者を大量に救済するということには及ばないわけですから、八二年という歴史的な内外人平等元年を基準に、それ以前に既に潜在化している人を救済するというようなことは思い切ってやるべきではないか。そこらあたりから外国人の人権について裁量というものを逆にプラスに使って、そういうバランスのとれた入管行政の新たなる出発を私は期待したいというようなことを考えているわけです。
  101. 清水澄子

    ○清水澄子君 もう一つだけお伺いいたします。  一番最後の六のところの上から二番目と三番目なんですが、二番目のところに東京法務局に外国人人権相談所があると、しかしこれは東京だけだということと、それからその後に労基局の相談コーナーがあるということですが、こういう公的なところに駆け込んで人権を救済されている例と、それからその下にあります市民の救援センター、これは二十四時間年じゅう無休ということになっていますけれども、この市民の救援センターではどういう案件が扱われているのか、それと公的ないわゆる人権救済の窓口とのどんな大きな違いがあるのかということについてお話しください。
  102. 田中宏

    参考人(田中宏君) 公的な機関は、ここでは東京法務局の人権相談所を申し上げましたけれども、恐らくこれ以外に若干あるとすれば、自治体レベルで行政相談のような形で外国人の相談に応じようと。例えば東京都は労働経済局の管轄かと思いますけれども、相談所のようなものを設けているようですし、最近では自治体レベルで、まあ私に言わせると国が十分なことができないというのかやっていないので、より住民に近いところにある自治体としては背に腹はかえられないということで努力がやや始まってきたと。  労働省の管轄のところでは、労基局がことしの十一月一日から全国六カ所の労働基準監督局に外国人労働者相談センターなるものを設置したんですけれども、私もちょっと聞いてみましたけれども、やはり外国人が訪ねてくるということは非常に少ない。これはPRの仕方にも問題があると思いますけれども、一つは先ほどの意見の中でもちょっと触れました昨年の一月に出た有名な労働省通達、それが読みようによってはひたすら入管に情報提供するということが力説されたような印象さえ受ける通達になっていますので、これは当事者から考えれば、あそこに行けば入管に連絡されるのが落ちだというように考えるのは私は無理からぬところがあると思うんですね。  その点で一番最初のボタンのかけ違いが労働省行政に私はあったというふうに思うんです。これからこれをいかに回復していくかという、本気でそれをおやりになろうとしているのかどうか必ずしもよくわかりませんけれども、そういう点で先ほど花見先生が通報義務の問題を出されましたけれども、少なくとも私の知っている限り東京法務局の外国人人権相談所は明らかに通報しないということを外国人に約束して店開きをしたわけですね。したがってあそこでは、そこの若干のデータも見ましたけれども、在留資格上問題のある人が相談に来たということが記録に明らかに載っています。  私も名古屋の法務局の担当の方とちょっと懇談をしたときに聞きましたら、これは職務上の守秘義務と一般的な国家公務員の職務上知り得た犯罪というか、法違反に関する通報義務のバランスをどう考えるかということで、結論的には守秘義務を優先させると。別な言い方をすれば、告発義務なり通報義務というのはある種の免責措置をとると。そういうことをして初めて外国人が不安なしに相談に行けるということになるわけですから、その点では一般論としては公務員の告発義務というのは縛りがかかりますけれども、しかし人権にかかわる問題に関してはやはり守秘義務を優先させて、安心して相談に乗れると。これは余り告発義務を強調しますと、自治体の窓口の職員だってこれは地方公務員で同じような縛りがかかっているわけですから、公務員は職務上知り得た場合には一切何もできない、できることは通報することだけだということになりますので、その辺はもっときちっとした配慮をしなければならない。  一方、市民の場合には、これは全く手弁当で個個人が、グループなり支援のグループが運動しているわけですから、ここにはさまざまな事例が持ち込まれて、中には未払い賃金の問題を持ち込まれる。ところが、従来のあれですとうかうか労働基準監督署に行けませんので、私もこの間ちょっと事情聴取したところでは、そこの代表者の名前で雇い主に内容証明郵便をぶつけて支払いを督促するというような手だてをとって、ごく一部でしたけれども回収されたというようなことも聞いていますけれども、考えようによっては公的機関がやってもおかしくないようなことを一生懸命やっている。  それから、ひどいときは、本人たちが虐待されたりして、警察に行けば助けてくれると思って警察に行ったら、そのまま雇い主のスナックに逆戻しされたと。また逃げ出して救援センターに来たと。そこで救援センターでいろいろ聞いたら、実は警察に行ったら、すぐマネジャーを電話で呼び出して、それで身柄を引き渡した。命からがら逃げ出したのに、そういうていたらく。これは名古屋にあった具体的な事例ですけれども、ちょっとぞっとするようなことに、それでも身を張って努力をしている。  そういう人たちから聞いた話で私も非常に残念だと思ったのは、これは大阪空港の入管で起きたようですが、帰るとき見送りにそういう人が行くということもあるわけですね、市民運動をやっている人たちが。そこで入管の職員からかなりばり雑言を浴びせられて、あたかもお前たちが不法就労を助長している——まあ考えようによってはそれは不法就労者を救援する人たちというのは役所の側から見るとけしからぬというふうに現象的にはなるかもしれません。最近は難民が急にふえたりして入管局の方も職務が手いっぱいですから、係官の中には多少感情的に穏やかでない人がいたりしたというようなこともあるでしょうけれども、その件については市民運動の方で担当課長に会ってかなり厳重に注意をしたというか、そういうことについては反省を促したというような話を聞いていますけれども、そういう形で入管の人から場合によっては悪態をつかれながらでも、現実に痛めつけられている人たちが無事に本国に帰れるようにあらゆる努力をしている。  本当にみんな少しばかりのお金を集めて、だれもお金をくれるところはありませんので、やっている。もちろん、ある数の人たちを受け入れればその宿泊先から食事のことからみんな市民が世話をしているというのが現状で、なぜ公的な機関が手を差し伸べるということができないのか。出てくる公的機関といえばいつも取り締まりの公的機関だけが表に出てくるという、やや現象的な説明になったかもしれませんけれども、私は決して特殊ではなくてそういう事態があるということを御承知おきいただきたいと思います。
  103. 清水澄子

    ○清水澄子君 ありがとうございました。  では次に、江橋先生にちょっとお伺いしたいと思います。  先ほど入管法だけで突出するなというふうにおっしゃっておられましたけれども、単純労働者と言われているそういう労働者、それは今どこの国でもブルーカラーの職場では単純労働者はいろいろ相当数に上っている。日本でも経済が発展してきますとだんだんそういう、それはいいことではないですけれども、やはりなかなかやりたがらない仕事というものができてきて、どうしてもそこにはそういう労働力が必要になってくる。そういう中で、今度は単純労働者を受け入れないということになるわけです。そして、一方ではそういう人々を受け入れたときの企業を処罰する、事業主を処罰するという、そういう法になっているわけですけれども、この法のもとで処罰をしたことでどういう実効性が上がるとお考えになるでしょうか。
  104. 江橋崇

    参考人江橋崇君) 先ほどはしょって御説明いたしましたけれども、日本におけるいわゆるブルーカラー的な単純労働に従事する人が不足しているということについて、外国人の受け入れはいろいろ社会問題等が発生するから、むしろ国内におけるもっと別の形の労働力を見出すか、あるいはロボット等機械化によって物事を解決すべきだという御意見があります。それで問題が解決するならば、私ももちろんそれがいいことだと思っております。  ただ、実際のところを見ますと、それは日本国内だけ考えればあるいはそういうことが可能だというふうにも考えられるかもしれませんが、どこの国をとってみてもそれがうまくいった国はないという現実の重みというものを私は感じるわけであります。  それはアメリカであるとかあるいはヨーロッパのような先進資本主義国がそうであるだけでなくして、私昨年とことしと中国に滞在しておりましたけれども、例えば中国の北京の町並みを掃除しているのは、あれは全部中国国内での非合法就労者でございます。中国の場合は戸籍の制度があって、当局の許可なしに大都市に移住することはいけないんですけれども、実際には北京の人は絶対にああいうことをしない。そこで、市当局が地方に出かけていって呼び寄せてくる。その人たちは、日本的に言えばホームレスの人たちであります。上海にしても同じでありまして、上海の建物は日本の企業も随分投資していますけれども、あそこで建築労働をしている人の半分以上は地方からの出稼ぎ、つくっている会社も広東、深センの会社が進出してきて、上海以外の土地の労働者を集めて上海で建物を建てているという不思議な構造になっています。  つまり、先ほどタイのことを申しましたけれども、アジアの国々も含めてどこの国でも、もちろんいわゆる三キ労働と言われます、日本でも大工仕事の前の建物を壊して建築現場を整理する仕事、あれを日本人でやってくれる人がいればいいんですけれども、ロボットでできればいいですし、女性でする人がいる、高齢者でする人がいればいいんですけれども、現実にはいない。その現実にはいないというところの重みから私は出発すべきだというふうに思っているのであります。そして、そういうところで外国人の労働力を募集する、使わなければいけないという現実の重みがそれだけ重いものだとするならば、いわゆる雇用者処罰の制度の導入というものは、一歩間違えるとその中での立場の弱い者あるいは比較的正直な者、比較的良心的な者をいわば弱い者いじめして、たくましい者あるいは巧妙な形を考え出せる者にとっては別に処罰の実効性が上がらないのではないかというふうに思っております。  つまり、入国における審査基準の厳格化とかあるいは不法就労者のチェックとか、それをしていくとそれは結局は弱い者いじめに終わって、新しい形の不正規就業をつくっていくのではないか、そのことが私は一番怖いと思っています。そういった意味において、雇用者処罰の問題というのは、迂遠なようですけれども外国人労働者に対する人権問題の啓発であるとかさまざまな形の施策とうまいぐあいに組み合わせていかないと、実効性が上がらないというふうに判断します。今回の入管法の改正は私、入管法突出型だと言いましたけれども、その突出型という中には結局それに終わるのではないかなという危惧の念があるということであります。
  105. 清水澄子

    ○清水澄子君 それからもう一つ、江橋先生が入管法と外登法の関係を整理すべきだとおっしゃったんですが、今在日外国人ということで問題になっているのは外来外国人ですよね、最近の。それとそれからやっぱり植民地支配による在日朝鮮人・韓国人という歴史的な関係から、日本に住んでおられる在日外国人の地位と市民的な権利、これらが入管法の中で一つに扱われているということの問題点を非常に感ずるんですが、これらについてどのような整理の仕方をすべきか。非常に大きい問題で済みませんけれども、少し簡単に述べてください。
  106. 江橋崇

    参考人江橋崇君) お答えいたします。  私の基本的な考え方として、行政庁は一つの国益のもとで共通の立場に立つことも大事ではありますけれども、こういう事柄の場合には例えば出入国管理当局は出入国管理ということでしっかりやっていただきたい。しかし、他の先ほど来出ております労働省であるとか厚生省であるとか地方自治体などは、入管に協力するというよりは自分の持ち場の仕事をしっかりするというふうに割り切って、いわば立場性、旗印をはっきりさせた方がいいのではないか。諸外国においてもそうそう簡単に行政庁が入管当局に通報するという制度はそんなにはないと私は思っております。  大体どこの国でも行政庁は自分の仕事の旗印をはっきりさせているものだと思うんです。日本の場合、そうした場合国内にいる外国人の処遇の管理の基本が今日のところ住民基本台帳法じゃなくて外国人登録法でありますので、あれは外国人にとっても重要な法律だと思っております。かつては、判例などでも外国人登録法のことを外国人管理というふうに言ってきましたけれども、最近の判例では、外国人登録法というのは日本国内にいる外国人に対する行政サービスの基礎データの法律なのであるというような理論も展開されているやに聞いております。したがいまして、そういう立場で外国人登録法というものを見て整理する必要があるだろうと思うんです。  判例で具体的に問題になったケースは、密入国者に外国人登録法上、登録義務を課していることが問題になりました。密入国者ですから、役場に行って登録しようとすれば、入港地とか上陸した場所とか在留資格とか何も書けませんので、たちまち密入国であることがばれてしまう。その場でもってそれを入管当局に通告されれば、ほとんど密入国の自首をしに行くようなものではないか。それが憲法三十八条の不利益供述の禁止との関係で問題になったわけでありますが、最高裁判所の判例も、外国人登録法というのは国内における外国人処遇の法律である、入管法というのはいわば国境における入国管理の法律だ、両者は違うんだということを基本的なベースにして外国人登録法三条の合憲性を説いたと思います。  そこがポイントなんでありまして、やはり私は外国人登録法を使う際にはそれとして純化すべきだ。そして御指摘の在日韓国・朝鮮人等、戦前からの歴史のある人々に関しては、日本にその方々がいらっしゃってその方たちに対して行政サービスを展開する基礎法として外国人登録法を適用するのは当たり前でありまして、一部にはそれをさらに住民基本台帳法とつけちゃえという意見もあるかと思いますが、それは立法政策の問題ですので、今日の現状においては外国人登録法に基づいて行政サービスをするということは当然のことだと思います。いわば永住権なりの方々の場合はそちらに集中すべきなのであって、それをあたかも外国人として入管法のところに引きずり出していって、やってくる外国人と一緒に扱うということはおかしなことになってくるだろうと思います。    〔理事白浜一良君退席、委員長着席〕  一言だけ、余り抽象的な話ばかりしていると申しわけないかと思って、具体的な話ということで一つだけと思いましたのは、例えば退去強制の問題ですけれども、先ほどドイツの話がありましたけれども、ドイツの場合でも五年、八年という節目で在留外国人退去強制を厳しくしていることがあります。例えばそういうところも、日本の場合在日韓国・朝鮮人に関してはもっと出入国管理法から切り離すことによって、退去強制は直接ありませんけれども、いわゆるつい最近やってきた外国人と同じように扱うことから生じてくる権利の不安定化を防止すべきだ、もっと安定して日本国内で生活ができるように配慮すべきだというふうに考えているのであります。
  107. 清水澄子

    ○清水澄子君 ゲプハルト・ヒールシャーさんにお願いいたします。  先ほど、外国人受け入れをもっと公の窓口をつくって、責任を持ったそういう行政制度が必要だとお話しになりましたけれども、ドイツではどのようなシステムになっておるのでしょうか。例を述べていただきたいと思います。
  108. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) 私が例として挙げたような看護婦関係の場合は、自治団体が共同で組織をつくったんです。だから看護婦、准看のために全国の自治団体を代表して事務局を設けて、特殊な仕事なわけですから、それを通して人を整理して監督したんです。一応合わせた段階で、市立の病院だとしますとこれは公のところですから、公のところが雇用者になります。そうすると当然、法律を守って監督するようなことも雇用者であると同時にするわけです。だから、ドイツ側に渡った段階でドイツ側の国内の公のところに移って、完全に公のコントロールの中でやったわけです。そこでは法律のもとに公の場の仕事を監督するようになったわけです。これはアイデアとして、看護婦以外のようなことでも、例えば私も関西で経営側の方々、特に建設関係の方々と話したこともありますが、建設業者でも何かそういうような組織があって、それを通していけばそういうことは可能だと、そういうような返事も受けていますが、ドイツの場合は全体の協定の下にあったから、そこは公の場が監督して不法就労者の問題として残らなかったわけです。
  109. 千葉景子

    千葉景子君 きょうは、四人の参考人の皆さんに貴重なお話を伺いまして、ありがとうございます。今後の法案審査に、あるいは私たちがこれからの外国人の皆さんとの共同の社会を考えていく上でも、大変貴重な御意見をいただいたと感謝をしているところでございます。  そこで、何点かぜひ御意見を伺わせていただきたいんですけれども、四人の参考人の皆さんの御意見を伺いまして、一つ私は共通点があったような気がいたします。花見先生からも、今回のこの入管法の改正によってとりわけ不法就労といいましょうか、その単純労働の問題というのは解決にならないのではないか、そういう御指摘をいただきました。それから田中先生からも、今回の法改正それだけでは我が国の外国人差別、そういうものを含めて基本的な問題は解決されないという御指摘もいただいております。またヒールシャーさんからも、入管制度等だけでは解決はやはり不可能ではないか、二つの柱でこれから政策を考えていくべきだという御指摘もいただきました。そして江橋先生からは、日本における外国人就労の政策、これは根本的にやはり長期的な観点に立ってまず考えていかなければいけないという御指摘もいただき、私もこの皆さんの御意見を含めまして、何か入管法だけで問題を解決しようとする態度は改めなければいけないのではないかと感じているところでございます。  そこで、順次お伺いしたいというふうに思うんですが、江橋先生にまずお伺いしたいと思います。  一つは、やはりそういう長期的な基本的な政策、こういうものを考えるに当たって、なだらかに抵抗なく人権保障をしながらの解決の方法を考えていかなければいけないということですが、今回は突然というんでしょうか、不法就労単純労働者については雇用者に罰則を設けて取り締まっていこうというような改正が打ち出されているわけですが、この罰則で取り締まろうとするやり方、これがどんな問題点をもたらすか、あるいはこれが効果がありいいことであるのか、あるいは問題点を残すと思われますか、その辺についてまず一点お伺いをしたいと思います。
  110. 江橋崇

    参考人江橋崇君) 不法就労の雇用主を処罰するということは、ILOの条約などでもうたわれたこともありますし、ほかの国でも採用されたことがある考え方であろうかと思います。ただ、私は日本の今日の現状というものはそういう状況ではないのではないかというふうに思っているわけであります。  一つには、外国人を採用することの必要性というものについては、経営者は非常に身にしみてわかっている。特に人材倒産とか、そういうことが言われる状況ですのでそこはわかっているんですけれども、外国人を採用することの弊害あるいは害悪、そういったものについてはわかっていないのではないか、そしてわかっていないというのは実感としてつかめないということだと思うんです。そして、かつては外国人労働者というのは何しろ安いということで雇われておりました。最近でもそういうイメージでアジア系の人々を見ている人もあるやに思います。  数年前、姫路や大和にある難民センターの職員は、難民センターの三カ月、大体六カ月の日本語の研修を終わって出ていった人の就職先を確保することに走り回らなければいけなかったという求職難の時代がありました。センターの周りの中小企業の人のいい社長さんに頼み込んで何とか採用してもらう。それと同時に、センターで出している機関誌などにその社長さんの顔を大きな写真で写して、協力してくれる人というふうに一生懸命PRしたり表彰したりして、何とか難民の人の仕事先を見つけていました。  今はにわかに難民求人難で、テレビで伝えているところでは、難民一人に七十件から八十件、職が来るという全体的な労働力不足、そしてアジア人は安いとなれば不法就労も就学生も難民の区別も何もなしで、要するにアジア人は安いということでアジア人に対して求人するという企業がふえてきている。その辺は、どうも私は、決してアジア人の問題に関して理解が出てきたんじゃなくて、そこに行けば安いのがあるという、そういう非常に安直な考えで経営者が考えているんじゃないかということが心配なんですが、そういうのは依然としてあるにしても、だんだん事態は変わってくるだろうと思います。つまり人材、労働力そのものが足りないということになれば、どうしても日本人並みの賃金を払うんだということになる。  経営者としてはそこそこいわば人間として扱っているんだという自覚はあるわけで、自分たちが差別することなく扱い、相手方が喜んで働き、そして日本では一部でアジア人が集まると犯罪率が高まるとかいろんなことが言われますけれども、実際においては具体的なそういう数値は出てこないんで、宣伝は別として実際に生活してみるとそんな悪くない、そういう生活関係ができ上がってくると、そのところで処罰することは悪いことなんだと言ってもなかなかそれは説得力がないのではないか。それにかわって、日本ではイメージが何しろ悪いことだ、こういうことをしているとドイツのように国が滅びる直前までいくみたいな、そんなようなイメージだけが振りまかれているのでありまして、それではなかなかきちっとした問題の解決にはならないだろう。まして、今度はそのイメージに処罰と刑罰をつけていわば国策を守れということでありますけれども、それはなかなかうまくいかないのではないかと思うんです。  ただ、先ほど言いましたように、非常に良心的なあるいは遵法精神に富んだあるいは非常に気の弱い経営者がいれば、その人たちは雇用を差し控えることになるだろう。あるいは、これを機会に在日韓国・朝鮮人で採用されている人の方にまで影響が及ぶことはあるだろうと思いますが、しかしそれは結局は労働力不足という圧倒的な迫力の前に別の形の就労、いわば潜りの就労という形を生み出していくのではないか。そして、たくましい経営者は改正される入管法の網の目をくぐり抜けて、処罰を何とか通り抜けるあの手この手をたちまちのうちに考え出すだろうというふうに私は思っております。そういった意味で、処罰は効果が上がらないのではないかというのが私の考えであります。
  111. 千葉景子

    千葉景子君 それからもう一点お尋ねしたいんですが、先ほど出入国管理基本計画、これについては大変疑問である、これがうまく内容のある計画ができるとは思えないという御指摘がございました。これに関連いたしまして、国際的な人権基準、こういうものも今回の審議の中では十分に審議の対象になっていないということで、私も大変恥ずかしい気がするわけですけれども、こういうことも頭に置きながら、入管法を突出させるだけではなくて、今後まず私たちが取り組まねばならぬ部分というのは率直に考えられて一体どういう部分だと江橋先生はお考えになられますか。
  112. 江橋崇

    参考人江橋崇君) まず、今でも緊急にというか、なるべく早くなるべく深く必要だと思うのは、やはり日本における外国人の生活実態の調査だと思います。調査がなければ何事も発言ができないというのは、私は正しいと思っております。その際には、最近やってきたアジア人の調査、これは大変難しいところがあります。西欧諸国でも不法就労の人の実情を把握するということにはいろんな意味で苦労をしながら調査を行っている。もちろんもっと専門的に何人もの人を配置していますけれども、それでも苦労をしていると思います。  ただ日本の場合、私がもう一つ懐疑的なのは、そのもう一つ手前に、何十年も前から日本に居住している在日韓国・朝鮮人の問題に関して一度も調査してこなかった国が何で急にこういうことができるんだろうかという疑問があるということなのであります。したがって、在日韓国・朝鮮人に関しておくれている部分も含めて、日本に居住している外国人の権利状況あるいは差別が本当にないか、人権侵害が本当にないかという、そこのところの状況調査というものを取り急ぎ行って、実情を見てみる必要があるだろうというのがまず最初に手をつけるべきことかと思います。  それと、出入国管理基本計画そのものについては、先行きこれを実行する際に入管法の問題だけが突出しないような形の仕組みというものは、まだなおなお幾らでも考える余地のあることだというふうに思っております。
  113. 千葉景子

    千葉景子君 それでは、次にヒールシャーさんにお伺いをしたいと思います。  ドイツでも新規の労働力の受け入れを制約するようになったというお話でございますけれども、ただ私が伺っているところによりますと、ドイツでは新しい人を受け入れないと同時に、あるいは自分の国へ帰国をしようとする人には帰国奨励金とか、あるいは帰国してからの当座の生活を保障できるような手当てなどをしているということを伺っているわけですけれども、このあたりの実情を少しお話しいただけませんでしょうか。
  114. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) 外国人の帰国促進というようなプログラムがあったんですけれども、これは一時的なことだけであったんです。それは一九八三年から鎮静期間を設けて翌年、一九八四年の六月までしか有効してないんです。というのは、この一時的な期間の間にこのプログラムを利用したいという申請があった人に対して普通の手当以外の金を、一時金を払って帰国を促進するような方針があったんです。この法律はもう有効はしてないので、期限も切れました。  普通は、外国人でもドイツ人でもそうですが、福祉制度に対して払った掛金、例えば年金制度のところですが、例えば被雇用者から自営業者に変わった人がもう将来年金は要らないとなると、実際に払った金を戻してもらうような制度があります。同じように、例えば外国人はもう国へ帰るつもりですから、自分の今まで積んだ権利が後で年金をもらうようなところまで足りないとすれば、じゃ、これを払い戻してもらいましょうという、そういうような申請制度は今でもあるのです。これは別に外国人の帰国促進とは全く関係がないので、だからその促進制度は一時的に一年半だけあったわけです。ですから、あとはドイツ人並みのような待遇になります。
  115. 千葉景子

    千葉景子君 それから、ドイツにおきましては、一定滞在をした外国人の方には自治体の投票権なども付与するような方向が考えられているというようなことでしたが、これは今後定着といいましょうか、そういう方向に現在あるのでしょう
  116. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) これは今国内政治の一つの大きなテーマですが、ドイツの連邦制度の中で与党は、全国で与党であっても各州では必ずしも与党ではない、野党の立場にもあるわけです。それで、実際に州の半分ぐらいでは、例えば社民党が今全国で野党でありながら半分の州ぐらいでは与党である。一部では社民党だけで州の与党政権をつくって、一部では自民党、ドイツ版の自民党、小さい政党ですが、との連立内閣も州によってあります。だから社民党単独の州政権と社民党と自民党の連立政権の場合があって、今の段階で四つの州ぐらいではその法案、あるいは法律ももう実際にできたようなことになったんですが、それぞれ条件がいろいろあります。  例えば、だれでも最低何年かの期間ドイツに住んだ、例えば五年間あるいは八年間、あるいは国籍の一部だけ、例えばECの加盟国の国籍を持つ外国人だけ、あるいは相手国でもそういうような制度のあった場合、ヨーロッパの一部の国には今でもそういう制度がもう実際にできているわけです、北欧の一部とかスイスでも、何らかの外国人に対して。とにかく、そういうような全体の流れはヨーロッパあちこちに出始めているんです。  ドイツの国内問題としては、連邦政府の与党であるキリスト教民主同盟はそれに反対する立場をとっている。だから、最高裁と別に憲法裁判所がドイツにもあってそこに今訴訟を起こしているわけですが、そこはまだ決めてないんです。ですから、その法律は憲法違反であるかないかという国内問題はこれから当分の間続くと思いますが、傾向としてはヨーロッパの中でドイツはむしろ先駆けではなく、ドイツも今その傾向に乗っていきつつあるという段階です。それで、とにかく社民党、自民党あたりはもうそうすべきだと。特に今度ヨーロッパの統合になりますと、少なくともヨーロッパのほかの加盟国の国籍の、ある期間住んでいる人に対してはお互いにもう全体として与えるべきではないかと。そうすると、労働のためにほかの地域からドイツへ来た人、そしてある期間、例えば五年以上あるいは八年以上ドイツに滞在した人に対しては、少なくとも自治団体における参政権は与えるべきだという傾向がかなり強くなったことは間違いない。  最終的に憲法裁判所がこれは憲法違反でないということで国籍と別に自治団体に限った選挙権を与える可能性があるかないかということはまだ決まってないわけです。
  117. 千葉景子

    千葉景子君 ありがとうございました。  じゃ、ちょっと田中先生にお尋ねをさせていただきます。  先ほどからの田中先生のお話の中で、長期に日本の国内に滞在しているそういう人たちに対するアムネスティーの問題が御提起されましたけれども、これは先生の御存じの範囲で結構でございますが、こういう例とか諸外国における取り扱い例とかございましたらぜひお聞かせいただきたいんですが。
  118. 田中宏

    参考人(田中宏君) 私も手元にそんなに詳しい資料を持っていませんけれども、外国人労働者との関係で比較的新しいところでは、有名なアメリカの八六年改正、これは御存じのように、先ほど私も言いましたが、アムネスティーとその差別禁止を盛り込むと同時に雇用者罰則を持ち込むという、そういう重要な法改正のときの政策の一つにアムネスティーが入った。それからフランスも、ミッテラン政権ができた段階でほぼ似たような趣旨措置をとって、不法滞在している外国人の救済の措置をとったということが言われています。  それから、これは私が薄々覚えているのでは、オーストラリアだとかカナダあたりでも、ある一定の期間たつとどうしてもさっき言いましたように潜在化した人というのは非常に悲惨な事態になることが十分予想されますので、例えば病気になったときにお医者にかかれるかどうかとか、時と場合によってはちょっと他人の保険証を借りて何とかとか、いろんなことが行われているようです。そういう問題を解決するためにこれといって得策はどこの国にもないわけですから、いずれの国においても違法者を救済するというのは非常に抵抗があると思いますけれども、結局私の理解では人権に免じてやはりそういう措置をとるということが結構あちこちで行われている。  私が一番気がかりなのは、日本は戦後一度もそれをやってないということで、それをぜひ今回のような法改正のときにはお考えいただけないか。それで私は思いつきで八二年という年号を出しましたけれども、「内外人平等元年」というのは、先ほどヒールシャー先生のお話に、ドイツでは帰国した後の問題で例えば年金の積立分を持ち帰らせるとか、これは特に奨励法とは関係なしに、一般的に外国人であろうとドイツ人であろうと、途中で勤め人から自営に変わればなるし、帰国する人は持って帰れる。ところが日本の場合には、日本の国内にずっと住んでいる外国人でさえ年金法からずっと除外をしてきたわけですね。それが八二年にやっと法律が変わった、そういう記念すべき時期を我々は持っていたので、こういうときにやっていただきたい、そんな趣旨で申し上げました。
  119. 千葉景子

    千葉景子君 それでは、花見先生にお伺いをさせていただきたいと思います。  花見先生は労働関係の御専門でもあろうかというふうに思うんですけれども、これまでも外国人に対して労働関係法律、これは労基法あるいは職安法また派遣法等の適用が当然なされるはずであります、法律の建前上は。しかしながら現実の問題としては、外国人労働者の雇用に関してこういうものが実効が上がっているのかどうか、大変疑問なところもございます。それにプラスして、今回は不法就労者を雇用すること自体を処罰するという問題も絡んでくるわけですが、今後この不法就労に対する今回の改正での処罰の問題と、そして片方ではそういう不当に雇った中での労働関係法規の違反、こういう問題については、先生はその問題点とかあるいは今後の方向、どんなふうにお考えでいらっしゃいますか。
  120. 花見忠

    参考人(花見忠君) その御質問趣旨は非常に広いことをおっしゃっているんだと思いますので、ちょっとどういうふうにお答えしていいかよくわかりませんが、まず不法就労が非常にふえている原因というのは、もちろんプッシュとプルと両方の要因がありますが、諸外国から日本に流入することのメリットというのはこれはもう当然非常に大きいわけでありまして、そして日本の周りのアジアの諸国には失業と低収入の人たちがたくさんおりますので、これは当分こういうプッシュの要因というのは続くと見なければならないと思うんですね。ですから、恐らく単純労働者を受け入れないという政策を現在のまま維持したとしても何らかの方法で入ってこざるを得なくて、先ほど申し上げたように、例えば観光ビザで入ってきて実際に就労している人たちを把握して帰国をさせるということが現在の体制では実際上非常に難しいであろうということが最大の問題であります。  雇い主を処罰するというのは今度の法律で導入をされたんですが、これはヨーロッパでは比較的早くからこういう制度があって、先ほどどなたかが御指摘になったようにアメリカが八六年に導入をしまして、これはやっぱり必然の傾向である。何らかの形で労働許可に条件をつけるような制度をとっている限りは、使用者を処罰しなければその法律の実効性は上がりませんからこれはせざるを得ないことであって、今度の改正はむしろ遅きに失した。従来、共犯とかなんか、幇助とかいうような解釈で処罰ができるかどうかという議論はありましたけれども、今度は正面から可能になったということで、それは一つの進歩だと思うんですが、しかし同時にそれを実行するための処置が全然変わっていないということがやっぱり問題でありまして、ですから余り私は効果が上がらないのではないかというふうに思っております。  そこで、そうすると事実上不法就労が処罰規定が入ったにもかかわらず実際には行われざるを得ないし、それから一般指摘されておりますように、より潜った潜在的な形で、潜在的な形になるということはかつ劣悪な労働条件の場所に集中をするだろうということ、そして労働法規違反が法律的にはあっても、実際にそれを把握する、いわんや例えば基準法違反その他の法律違反で処罰をすることが非常に難しくなるだろうということは言えるわけで、ですからその辺をよく考えて、今度の改正法では問題が解決しないので、長期的にこの問題をどうするかについて検討する必要があるだろうというふうに私は考えております。  そこで一つの方法は、ですからもう一つそのプル要因の方、日本の一部の産業、一部の地域における極度の労働力不足ですね、特に三キと言われるような労働条件の悪い職場に人が不足しているという状況を何とか処理をしなければ、問題が解決しないのではないか。そのために唯一考えられる方法、つまり先ほど申し上げたような国内で処理をする、技術革新とか労働条件をよくするとか経営の合理化とかいうような方法で処理をする以外に、外国人を仮にもし活用するとすれば研修計画であろうと。研修計画については、今非常に不足しているようなところは技術研修ということでは余り意味がないような部門なので、研修というのは実は非常に名目に流れやすいので、その点を十分に配慮していかなければいけないだろう。  特にこれは現在の研修計画でもそうですけれども、実際に必要な労働力不足が起きているような中小零細企業のところには恐らくまず研修計画で外国人労働力が配置される可能性というのは非常に低いわけで、むしろ大企業に行っちゃうわけで、多分研修計画を実施する立場からいえば、労働条件が比較的よくておかしなことが行われないような大企業に研修計画をやってもらった方が問題は起きないわけですから、そこのところの兼ね合いというのは非常に難しいと思います。ですから、私は解決の方法は簡単ではないというふうに考えます。
  121. 白浜一良

    白浜一良君 きょうは参考人の皆さん、本当にお忙しいところを貴重な御意見を賜りましてありがとうございました。  もうるる御意見を拝聴いたしましたので、重複を避けまして簡略にお伺いをしたいと思いますが、ヒールシャー先生にお伺いいたします。  先生、先日大阪に行かれまして、フォーラムで講演をされました。新聞に掲載されておりましたが、問題が大きくなっていない今のうちに日本は適切な対策を決めるべきだという趣旨の話をされておりました。今回入管法の改正でいわゆる在留資格というのが変わったわけでございますが、先生どうでしょうか、これはわかりやすくなったでしょうかどうか、御意見をお伺いしたいと思います。
  122. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) この資格がわかりやすくなったことの面はもちろん評価できると思いますが、中心的に私は問題としてそのまま残っていると思うのはやはり不法就労者の問題だと。それで、これはこの法律改正によって解決する道は私には見えないわけです。問題の中心はそのまま残っているわけです。  例えば留学生は留学生として日本へ来れるわけですが、就学生、研修生も来れるんですが、いろんなそういうような条件を見て、例えば就学生の場合はどういう目標で実際日本へ来るかというと、やはり収入をもらって生活したい、それでできるだけの収入を持って帰りたいということで、目標は就学よりお金と日本の経験、あわせて考えるべきだと思いますね。そういう就学の建前と実際の本音の目標を見てみると、やはり今の改正の法案が成立になってもそういうような実態は続くわけです。  それで、もう就学でもない、観光ピザで入ってきた人、後で就業に変わる人にとっても、別にそれは解決になるわけではありません。それはどういう仕事をする人かといいますと、一方はレジャーの関係、サービス関係の店の店員とか、一方は中小企業のところに働くあるいは工事現場で働く人。彼らは適当な資格を持ってはいない。しかし、実際に働いている人に対しての政策としては、むしろ雇用者がそういうような人を使いますと罰するぐらいの新しい部分があります。それ以外は私はとにかく見えないわけです。もちろん、この法案を十分に勉強したわけではないんです。ワンマンオフィスで新聞記者をやっていまして時間的な制限がありますから。しかし基本的にこの不法就労者の問題をこれで解決することは、私はとにかくこの法律では不可能だと思います。
  123. 白浜一良

    白浜一良君 それで、重ねて先生にお伺いいたしますが、先ほど単純労働者の件でいわゆる制度化が必要だということ。私も本当にそう思いますし、それともう一つはいわゆる日本語教育、日本の文化、風習の学習というのは当然日本に来るまでに現地でしっかりやるべきだと、日本もそのために力を入れるべきだと。私も本当にそのとおりに思うんですけれども、実際問題、既に日本にはたくさんの日本語学校があるわけでございまして、悪質なものもございます。このいわゆる日本語学校の現状に関しまして、先生ほどのように思われますか。
  124. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) やはり学校にはちゃんとした学校もありますが、形だけの学校もあります。いろいろ報道されたり自分で聞いた話もありますが、両方とも、というのはちゃんとした学校でもそうでない学校でも一致していることは、別に公の監督がないことですね。どういう者がそこに行くか、どういう条件で何をするか、ほとんど監督されていないのが実情らしいです。ですから、だれがそこの学校で勉強するか、あるいはそうでないか、実際はそこに一度行くだけであとは仕事現場に出かけるとか、こういうような法のコントロールのないような制度のかわりに、例えば外国でまず、あるいは国内でももちろんできるわけですが、公のコントロールの下に何か就学あるいは研修させる方がずっといいじゃないか。しかし、国内でしますともう実際は外国人が全部希望した人が来ることになりますから、それよりもっといい制度は、行く前に外国で何か制度をつくって、そこで必要な研修をさせるとしたらどうだというアイデアですね。それも、実際にアジアの国々、日本へ一番希望者の多い国を見てみますと、みんな大体先進国ではない、発展途上国のような立場でありますから、そうすると経済協力の予算の対象にもなることが可能ではないでしょうか。  例えばドイツの看護婦以外のもう一つのおもしろい例もあったんです。それは昔の日本からの炭鉱労働者の例です。一九五〇年代に制度的に日本政府との協定によって研修のコースがあって、彼らはそれによってドイツへ行った。もちろん例えばドイツ側の労働組合からは文句が出て、外国人を導入しますと、特に待遇の違う場合に導入しますと、ドイツ労働者の労働条件に悪い影響を与えるおそれがあった。  それに対しては、じゃ彼らを例えば研修生というような普通の労働者と違うような資格で入れるとすれば、そうすると待遇もある程度まで違うようにしていいんです。当時のドイツと日本の給料、賃金はかなりの格差があったから、研修生の収入でも当時の日本から来た、もう国内で炭鉱労働の職場がなくなった人にとってはプラスがあって、ドイツでは研修生の形ながら経営側としては労働力ももらって、それで研修生の形だから待遇は違うわけで少し安く導入できるし経営側もプラスであって、それで全体の制度からもやはり一つの窓口をつくってその監督の下にあった。だから住宅なども面倒を見て、それで普通の福祉制度などに全部加盟してもらって、健康保険とかそういうようなところもちゃんと契約ベースで法律の枠内にありました。ですから、全体としては公の枠内あるいは公の監督の下に行ったわけです。  これは日本が当時石炭政策を変えたという結果でして、急に専門職の失業者が出たという特殊な条件下ですから、私さきに韓国の看護婦の例の方を適当に第三世界の例としては挙げたつもりですけれども、日本の場合もやはり公の枠内に一つの業種、例に挙げた一時的に炭鉱労働者に来てもらうような制度も、関係者に私も日本へ後で戻った際に会って調べたこともありますが、大体としてこれは非常に評価が高かった、別に例えば差別問題とかそういうことは余りなかったということを、私にとにかく話してくれた人がかなりありました。
  125. 白浜一良

    白浜一良君 ただいまも話が出ましたが、日本人の炭鉱労働者の受け入れが実際なされたわけでございまして、そのほかにもいわゆるトルコ人を初めたくさんの外国人労働者を受け入れられたわけでございまして、先ほどからお話があったとおりでございますが、そういう面でドイツはそういう受け入れの先行した国であるわけでございますが、先ほども話がありましたように、いわゆる合法的な就業者、それが四百八十万人ですか、いらっしゃって、その方のお話は少し既に出ておりますけれども、例えば住宅がどうされているか、賃金格差があるのかないのか、またいわゆる年金、医療保険等、実際全く同じように扱われているのかどうかということをお伺いしたいんです。  もう一つは、いわゆる不法労働者もいらっしゃるわけでございまして、つかみにくいとおっしゃっていましたけれども、そういう方のそれぞれの待遇はどうなっているんでしょうか。
  126. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) 合法的な一番数の多い外国人労働者のいろいろ待遇条件などを見ますと、まず公の条件というのは年金、健康保険とかそれは全くドイツ並みです。区別する可能性もないわけです。というのは、例えば月給に応じてどのくらいの割合を経営側が払うか、どのくらいを被用者が払うか、そういう制度的待遇ですから、だから例えば病気になって入院したときは別に料金はかからないとか、そういうような制度は同じですし、年金制度もドイツにいる限り全く同じです。  ところで、外国に後で帰りましても、二カ国間の協定によってどういう形で年金をもらうかという年金の条件が達成すれば、基本的にはドイツの場合は十五年働いて初めて普通の年金がもらえるような最低の年金の制度ですが、これは外国人でもドイツ人でも全く同じで、月給からの掛金の高さと長さによって計算するわけです。  それで賃金ということになると、合法的な場合はドイツの賃金はその具体的な職場に合うようなベースで普通は決めるわけです。そこで、二つのポイントがある。一つは職場に対してどの給料があるか、もう一つは仕事をする人がどういうような職業資格を持つかあるいは求められているかと。そこで、例えば外国人が別に資格がないと、そうすると単純労働者に当たるような月給になりますが、例えば職人の資格がありますと職人としての給料あるいは月給になります。外国人の労働者で普通の勤めに出る人がかなり労働組合のメンバーでもあるわけですね。ですから、外国人を差別するようなことは合法的な人であれば非常に難しいと思います。  ドイツでの労働条件の待遇としては、職場職場別にどういう給料をもらうかが決まっていますから、問題があるとすればどの資格を持つかどうかで、十分な資格を持たない、例えばいつも働いていて試験を受ける時間がないとかあるいは言葉が十分でないとか、特にかなり前に入ってきた人で働くだけで自分の資格を改善するような努力の余裕もなかった人が、結果として単純労働者として残る傾向があります。それは一つの問題ですが、ところが言葉ができるとしますと、やはり専門工とかマイスターも大分おります。例えば自動車メーカーに行きますと、必ず工場には外国人がたくさんいますが、それは単純な組み立て工だけじゃなくて、やはり責任を持つ親方もたくさん外国人でおります。むしろ外国人の単純労働者をうまく使うにはその外国人と同じ国籍のマイスターあるいは職人の責任者を使った方がいいというようなことがかなりあります。  それで、もう一つは、さっきも言ったように、教育制度が大きな役割を果たすわけです。外国人は、子供がドイツ人と同じような学校へ行きますと、それがやはりその社会に入り込む一つのきっかけになります。子供の親の間にいろいろそこで社会的な結びつきができるわけですね。  一番問題になるのはやはり住宅です。これはさっきも清水先生がおっしゃったかあるいはもう一人の参考人の方がおっしゃったか、どうも一つの村になるような傾向がやはりあります。例えば、トルコ人の一番目立つような違いは、自分の村に行くというか、あるいは一つの地域に、都会の中の一つの区に集中するような傾向があります。これにはプラスとマイナスがあります。例えば日本の例だと中華街みたいな存在ですが、ベルリンの有名なトルコぶろ街、トルコ人の店の多いところは、別にトルぶろという意味じゃなくて、それこそ一つの観光のポイントにもなっているわけです。ですから、必ずしもマイナスではないわけですね。お互いに外国に住みながら互いの親しみもあるし、生活もやりやすい。特に都会の場合はそうであります。  だから、その場合は例えばアパートで一つのブロックはほとんどその外国人が住むようになるとか、ドイツ語がうまくできる人でそれほど目立たないような生活をする人の傾向としては、ドイツ人の中に入り込んでその村を離れて生活するというような、両方があります。例えばイタリア人とかあるいはほかの外国人でも、言葉がよくできる場合はそうです。ですから、言葉は一つのポイントだと思います。教育は制度として公がほとんどですから、余り差別がない。就職も資格によって、給料も資格によってです。資格をもらうには、やはり言葉が一つの大事なポイントです。  一番困っているところはやはり合法的でない不法就労者で、これはドイツの国内でも大きな話題になって、一つのベストセラーの本もそれで出たわけですし、テレビ番組にもなったのです。そこで一つの誤解を生んだのは、この本で実際に対象になったのは不法就労者だけなのに、それがその本の中にどこにも具体的に書いてない、例えば前書きにも。そうすると、全体の外人の労働者がこの待遇を受けたというような印象を与える危険性があった。実際にそういうようになったんです。これはあくまでも不法就労者に限るような問題であったんです。特に遠い国、例えばスリランカとかインド、バングラデシュから、だれか仲介屋さんがいろいろ金をもらってパスポートを取ってやって、私はあなたをドイツで仕事につかせますとかいろんな約束をして、それで現場に行きますとどこかの下請みたいなひどい条件で働かされて、権利もない、自分のパスポートもない、滞在許可もない。だから、悪用もいろいろできるわけです。  このベストセラーになった本によって、当局側も仲介や、下請のような企業も随分告訴をして実際にかなり判決も出ましたので、少し改善したこともありますが、相変わらずこの問題が残ることは残るんです。しかし、問題の大きさは少し減ったんじゃないかということも言えます。特に、彼らに対しての労働市場でのチャンスも少なくなってきました。なぜならば、最近は東ヨーロッパ、東ドイツから入ってくるような人に仕事を与えるような傾向ですから、そうするとどこか遠い外国からの言葉もできない人に仕事を与えるというチャンスはほとんどないんです。だから、それによってドイツ系以外の、ヨーロッパ共同体以外の不法労働者の勤めのチャンスは大分減ってしまうんじゃないか、この二、三年のうちに大分様子がそこは変わってくると思います。
  127. 白浜一良

    白浜一良君 重ねて最後に一間だけお伺いをしますけれども、不法就労の問題がずっと問題になっておりまして、日本でも十万人いると言われおりますけれども、要するに、今回の改正入管法ではこれらがなくなるというように思えない。逆に、雇用者またあっせん業者の罰則規定ができたということで、アンダーグラウンドでもっとそういう劣悪な労働を強いられる不法就労者が出現する、そのように考えているわけです。  前回の委員会で私質問したんですけれども、これは重要な人権問題でございまして、政府にもいわゆる人道的な処置が必要であるということを申し上げたわけでございますが、この点に関しまして若干御意見を伺いたいと思います。
  128. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) 一つは、もちろん公の監督の実際の状態ですが、やはりどのぐらいの人を使うかとか、日本人に対してさえも例えば女性の差別的な労働条件とか、あるいは中小企業でどれほど労働基準法に従うようにするかというような監督も不十分ですから、どうして外国人についてまで十分な監督ができるかと、私には疑問があります。ですから、非常に総合的な政策を考えないとなかなか、この不法就労者の問題だけじゃなくて、例えば在日朝鮮人問題も含めて十分なその対策もとらなかったのに、どうしてこの問題が、一つの過渡期にその就学生を認めた形で、あるいは少し制度を簡素化してあるだけで解決できるかと、私は不可能だと思います。やはり総合的なアプローチが必要じゃないか。  それで、日本のそういうような人に対しての待遇は、やはり外国での評価との結びつきもあります。ですから、人権問題そのもの、日本人自身に対しても差別の条件がかなり残っているわけですが、もちろんそれは外国でも一部問題になったんです。外国人に対した場合は、当たり前のこととして最初から外国では悪い評価になるわけです。ですから、その意味日本のためにもこれはできるだけ力を入れて直すべきではないでしょうか。それで、相手国のほとんどが発展途上国であるとしますと、やはり経済協力の予算を大きく使うというのが一つの救う道ではないでしょうかというような考えを持つようになったわけです。
  129. 橋本敦

    ○橋本敦君 限られた時間ですので端的にお尋ねをいたしますが、最初に田中先生にお伺いしたいと思います。  ジュリストで「不法就労と不法雇用」というのをお書きいただいておりまして拝見をしたわけですが、一番最後の結論として、「”鎖国”でもしないかぎり労働者の流入は防ぎきれないとすれば、「不法就労」を摘発する入管当局と、「不法雇用」から外国人の人権を守る労働行政機関というバランスは、少なくとも確保しておく必要があろう。」、こういうようにおっしゃっているわけです。  現在、外国から来た労働者の実態は、労働条件にしろ住居にしろ医療にしろさまざまな問題があって、本当に憲法を全面的に適用するという立場人権感覚として貫かれていない状況があることは、いろいろ御指摘を先生もなさっておるところであります。そういうことで、現在の状況はこのバランスがとれているとは思えないわけですが、まして労働行政が労働保護行政に徹しないで逆に入管行政に偏って、入管法違反に当たると思われる事実が認められれば情報提供、通報制度、こうなっておりますから、ますますもってバランスが欠けておる現状があるのではないか。それに加えて、今度の改正で雇用主を含めた罰則強化という方向がとられて、単純労働の禁止という方向が一層強められるならば、このバランスはますます先生の御提言の意思に反して欠けていく状況が一層出てくるのではないかというように危惧しておりますが、先生の御見解はいかがでしょうか。
  130. 田中宏

    参考人(田中宏君) 今までもある程度申し上げましたけれども、もう少し今の問題を敷衍いたしますと、従来からもう私の理解では労働行政の側に非常に問題があると。ところが、そちらの方はさしたる改善もされないまま入管法のサイドで罰則が導入されるということになると、ますます労働行政とのバランスが崩れてくる。これは単にバランスだけの問題じゃなくて、労働行政の側が十分機能しないと、現在の単純労働と呼ばれている、あるいは三キ労働と呼ばれるところでの就業状態の正確な把握が逆にできなくなるだろう。  入管の場合には、恐らく行政庁の性格上対象は外国人ですから、外国人をどう取り締まるかという観点からいろんなことが行われると思いますので、そうすると例えば労働力の需給関係がどのようにひずみが生じてそこに外国人労働者が吸収されているというような実態については、恐らく入管行政というのは体質的に関心がないわけですね。外国人に着目して、それを言葉は悪いですけれどもつまみ出すという感覚でどうしても作業が進められますので、先ほど来入管への情報提供の問題を私も指摘しましたけれども、恐らく現在の入管行政にもう一つ先ほど私の出した裁量との関係で問題があるとすれば、しからば、入管当局が昨年ですと一万四千人の不法就労を摘発したという統計発表がありますけれども、一体その一万四千人が雇用関係ではいかなる状態にあったのか、そこにいかなる労働関係法規違反があったのかということには一般的に関心がやっぱり入管当局はないと思うんですね。  労働省は出先機関に対して入管への情報提供を促していますけれども、しからば逆に入管の方が摘発した外国人の就労状態の中に労働関係法規違反がある、例えば未払い賃金がある、強制労働があるというようなことを発見しても、外国人をつまみ出すことが目的ですから、それの権利回復とか例えば未払い賃金をきちっと清算させる、これは入管当局は恐らく職務上できないというか、あるいは法律の運用、適用について十分な知識なり経験を持っているとは思えませんので、当然労働行政機関との連携が必要になってくるわけですね。ところが、それがどの程度なされているのか。一万四千人について労働関係法規違反がどういう実態であるのかというのは通常の新聞発表では知ることができないわけですね。  そういう観点から見ると、今度のような法改正でいきますとますます入管突出型が強化されてきて、労働関係法規が網をかけているであろう雇用関係、そこに潜在しているあるいはそこに存在している問題状況、三キ労働と言われている周辺に存在しているだろう問題状況というのがますますわからなくなってくる。  報道等でしかよくわかりませんけれども、警察と入管当局が例えば情報を入手して踏み込みをするというようなことが時々報道されますけれども、そのときに、果たして所管の労働基準監督署が同行して——そこにある労働実態、就労実態に労働関係法規の側から見てどういう問題があるかということは、これは労働行政機関でないとわからないと思うんですね。  労働行政機関と入管とが具体的な情報を入手して踏み込むとき、連動して労働基準のアングルから問題の所在を指摘する。そうすれば当然未払い賃金なり強制労働なりの実態が労働省のアングルからわかるだろう。例えば、恐らく入管当局は不法就労者を摘発し強制送還するに当たって、必要最小限度の事情聴取をして調書を作成していると思いますけれども、その調書の中には恐らく労働関係法規からの聴取というのはどうしてもなおざりになる。しかし、その情報がどの程度労働関係機関が別途のアングルから事情聴取するときに役に立っているかどうかというようなこともよくわからないわけで、私が申し上げたいのは、先ほども御紹介いただいたジュリストの最後に一言書いたことを敷衍すれば、逆にバランスが崩れる方向に、今でも相当バランスがとれてないと思いますけれども、ますます入管突出型になるという点ではかえって憂慮する。  先ほど言いましたように、労働関係法規にはそれぞれ罰則もきちっとあるわけですね。そうすると、例えばその罰則を活用してどうしてもやっぱり網がかけられない、現在の労働関係法規ではいろいろ法律上の不備がある、そのどうしても労働関係法規で網がかけられないところで漏れたところを例えば入管でフォローするというのなら、まだ整合性があると思うんですね。ところが、現実問題として、例えば労働者派遣法で公衆道徳上有害な業務、これを派遣の対象にするということは禁止されているわけですけれども、その条項が十分発動されているかどうか、これは言われるようにリクルーターが非常に多いと言われておるわけですね。ところが入管が外国人をつかまえるというのが先行しますと、逆にそこの部分の実態把握がますますわからなくなってくるということでは、今回の法改正というのは逆にマイナスの側面さえある、バランスの観点から見ればですね、と申し上げられるんじゃないかと思うんです。
  131. 橋本敦

    ○橋本敦君 次に、江橋先生にお伺いしたいと思うんですが、確かに御指摘のように人権の観点からの問題提起をもっと積極的にやる必要があるというのも私ども痛感いたします。今日の外国人単純労働問題が先生おっしゃるように避けて通れない問題だとして、この国際的な広がり、あるいは国際的にも協力し合って解決するそういう姿勢を進めながら、先生がおっしゃるような人権の観点からの合理的な施策を将来進めていくという展望に立つならば、どういうことが可能でどういうことが必要なのか、そこらあたりの御見解いただけるならばお伺いをして、質問を終わりたいと思います。
  132. 江橋崇

    参考人江橋崇君) まず、最初の意見のところで申し上げましたことですけれども、日本の場合決定的に欠け落ちているのは外国人の人権を守るための教育及び啓発の活動だというふうに思います。それなしには物事はうまくいかないということでございます。  あと具体的なことを申し上げますと、まず第一に、今度の改正を通じて政府出入国管理が非常にガラス張りになるんだというふうにおっしゃいますが、実際に実現しているのは入国の部分について基準が明確になる等透明度が増すということであって、出国の部分、それは同時に強制退去の部分でもございますけれども、そこについては手当てが講じられていないというところに人権上問題があるかと思います。実態は密室での作業ですのでつまびらかではございませんが、伝えられているところでは、日本にやってきてまだ日本語修得等も不十分のような人の場合でも必ずしも十分な通訳のサービスなしに取り調べが行われ、帰国後現地でそういう人に会って話を聞くと、何か起きたかわからない、捕まって気がついたら飛行機に乗せられていたので、一体自分はどうなったかわからないというような声を時々耳にいたします。そういった意味で、出国の部分及び強制退去の部分手続をはっきりさせる必要があるだろうということ。  及び、政府として行わなければいけないことのもう一つは、今のこととも関係しますが、滞在中要するに日本制度がわからない、日本がどういう権利を自分に保障してくれているのかわからないという人たちが多いわけですから、何らかの形で日本の国の政府というものは、取り締まるだけでないというなら、人権も守るというなら、その人権を守るという日本政府の意向が本人に伝わるように、もっとその人間の理解できる言葉でのサービスというのが各方面で必要ではないかと思います。現状はしかしながらむしろ逆でありまして、不利益はすべて外国人にかぶせられているかと思います。  日本の場合、特殊の問題として、入国の段階ですけれども、難民認定法上難民の資格認定について本人の立証を求めております。本人の立証を求めておりまして、例によって七日間ということが長いか短いかという御議論が法案の審議の中でもなされたと思いますが、例えば日本政府に向かって何かを依頼する、自分を難民として認定してもらいたいというときに、本人が立証せよ、日本政府側は受けて立って、日本政府が理解でなければその理解できなかったということの結果をすべて本人の方にかぶせる。もっと具体的に言いますと、本人が十分に自分を表現する能力がなかったり、あるいは本人が自分のことを証明する資料を持っていなかったりした場合、すべて責任はそちらにかぶせるというそういう発想というものはほかのところにも出てきているように思います。つまり、日本に来たなら日本語がわかって当たり前だというそういう思いがどうしても強くて、日本語に関するサービスもろくすっぽ行われていないところが多々あるのではないかと思います。したがって、その意味で退去強制の部分に関しては緻密に一度検討してみる必要があるのではないかということが一つございます。  それともう一つは、社会保障の関係の外国人への適用もチェックし直す必要があるだろうと思います。イギリスはサッチャー首相のもと、どちらかというと非常に厳しく外国人を排除しているんだというふうに言われていますけれども、実情は必ずしもそうではなくて、特にイギリスの場合は外国から人がやってきたときに、イギリスの公的な費用で賄われている社会保障のお世話になりませんという一札を入国するときに入れさせられるケースがあるんですけれども、それとか入国審査が厳しいというのを聞くといかにも締め出しているようですが、先ほど来申し上げていますように、イギリスも外国人が大量に入ってくることは困ると思っていますので何とかなだらかにしようなだらかにしようとはしていますが、そういうおどろおどろしい仕掛けは別として、実際のところは社会保障の制度も住宅のサービスとかそういうものについても随分開放されていまして、ある地域に一年以上居住しているという証明を持っていけば国籍を問わずに地方自治体を通じて住宅の提供が受けられるとか、いや正確に言うと住宅提供を申し込める、順番がありますけれども。それと、あるいは医療サービスも居住していれば受けられるとか幾つかの社会保障制度が、福祉サービスなどが外国人に在留資格を問わずに開放されているわけで、その辺厳しい厳しいと言われているヨーロッパ諸国からもなお学ぶべき点は多いのではないかというふうに思います。  そういった意味で、今回の法改正がそういった人権方面でのいろんな制度の拡充のきっかけになるのなら、それをもってよしとすることではないのかなというふうに私は思っております。
  133. 山田耕三郎

    山田耕三郎君 甚だ勝手ですが、時間の制約を受けておりますので私の方から四人の参考人の先生方に一問ずつ御教授いただきたい点を申し上げさしていただきます。終わりました時点で各先生から御意見を御開陳いただければ大変ありがたいと思います。  まず最初に、花見先生にお願いをいたします。  ことしはアジアの各地から例年に比べて多数のボートピープルの来航が見られました。政府は、難民と偽装難民とに区分をして、偽装難民は強制送還を決定しておりますが、それはまだ緒にもついておりません。しかも、世界世論は強制送還には反対であり、どこで住まおうと難民自身の選択にゆだねるべきだとの意見が大勢のようであります。そんな中で、来年の春を迎えて本年前半の再現なしといたしません。そんなことになれば、今の入管の施設や人員やさらには語学の対応では全くお手上げだと思いますけれども、ちょっとお門違いの質問かもしれませんが、そんな状態にはならないのかどうか、お考え方を承りたいと思います。  二つ目は田中先生ですが、故正入管法は外国人労働者に関する今日的な問題点の解決には余り役立たないのではないか、それよりも在留の韓国・朝鮮人に対する就職差別の助長や法的地位のより不安定化に通ずるのではないかと私は心配しておるものです。そういったことに対しての先生の御見解をお尋ねいたします。  次は、ヒールシャーさんにお尋ねをいたします。  単純労働者問題の解決には法規制と二国間協定の併用による対応が必要だと花見先生は御指摘をなさいました。さらにヒールシャーさんも、やっぱり法による解決だけでは困難、二本柱が必要である旨の御指摘をしておいでになります。そういったことが出ます原因は、やっぱり今ドイツでお困りになっておることがあるからだろうと思いますけれども、特にどういった点で不法就労者の問題について困っておいでになりますのか御教授をいただきたいと思います。  最後に、江橋先生にお尋ねをいたします。  故正入管法と国内法との関係、例えば入管法と外登法との関係を整理すべきだとの御指摘に対する質問に答えて、外登法が在留外国人に対する行政サービス法としての意見も出てきておる旨御発言ありましたように記憶をいたしますけれども、現実の問題として、これによる規制を受ける立場の方々から見れば、到底サービスなど理解はできない問題だと思います。私自身も入管法と外登法とは互いに補完をしながら、在留韓国・朝鮮人の権利を抑圧する道具になるのではないかとさえ心配をしておるものですけれども、そういった心配は杞憂にすぎないのかどうか、先生の御見解をお願いいたします。  以上でございます。
  134. 花見忠

    参考人(花見忠君) 難民の点について簡単に私の考えを申し上げたいと思いますが、これは言うまでもなく日本国が難民条約に基づいて、先ほど申し上げたように受け入れる義務はないんですが、国際的な道義的な義務としてあるいは政治的な義務として受け入れるべき難民というのは政治的難民でございまして、最近中国から、多分中国から来ている難民の大多数は実質的には経済難民ということでありまして、それを判断するのをどこでやるかというと結局法務省でやらざるを得ない、入管でやらざるを得ないわけでありまして、その判断が仮に妥当であれば、つまり政治難民でないということであれば当然にこれは受け入れる必要はないし、私は受け入れるべきでないと思っています。  それはなぜかといいますと、もし経済難民であるならばこれは移民労働者あるいは出稼ぎ労働者と全く同じでありまして、先ほど就学ビザの問題も出てまいりましたけれども、今日本に来ている大部分の就学生というのは実は出稼ぎ労働者、実態はそうです。私は、そういうことで何かディスガイズされた、つまりそういう格好をとって入ってくれば受け入れてしまうというやり方をやることによって起きる弊害というのがむしろ大きいわけで、これは経済難民だって出稼ぎ労働者であるという実態を把握して、それについてどう対処するかというやり方で対処すべきであって、難民だという名前で来たから非常にかわいそうだからというか、ボートで来たからかわいそうだ、条件が悪いから救ってやらなければならないというような、そういう安易な人道主義的な考え方でこの問題に対処すべきではないというふうに考えております。
  135. 田中宏

    参考人(田中宏君) お尋ねの在日との関係で若干感じたことを申し上げますと、今回特に就労資格証明とかという制度が新しく導入されると、先ほど申し上げましたように在日韓国人・朝鮮人の就労のときの障害がふえるという、これは明らかに拡大をすることになるわけですね。外国人が働けるか働けないかということについて社会全体が非常に関心を持つような制度が法的に導入されるわけですから。  先ほどちょっと郵便局の年末アルバイトのことを言いましたけれども、なぜそういうことが郵便局でことしになって、八三年の閣議で決められた基準が誤解されてことしになって現場におりてきたかというのは、世の中が外国人の就労について非常にセンシティブになってきた。で、国の方も法律をいじろうとしている。そこで国営企業の一つである郵便局では去年までは二十時間のことは言わなかったけれども、ことしから二十時間を持ち出してきた。そのときに、先ほど言いましたように全然お門違いというのか、閣議で確認された内容を誤って適用して、すんでのことで留学生が不利益を受けることになりかねなかった。このことは非常に小さなことですけれども、考えようによると在日の人たちが今後の就労の機会を得るときに必ずぶつかるであろう網がかけられたことになるわけですね。そういう点でこれは非常に大きなマイナス要因があるだろう。  特に日本では公的な機関が外国人の就労について非常に消極的な態度をとっているわけです。私は、今の外国人労働者の議論の中では専門的な知識を持っている人はそう問題ないという議論でほぼ一致しておりますけれども、しからば日本の大学を卒業して小中学校の免許を持っている在日韓国人・朝鮮人が教員になろうとするときに日本政府はどういう方針をとっているかというと、外国人はだめだと。辛うじて文部省の考え方と異なった考え方を持っている幾つかの自治体が採用しているのが現状ですね。したがって、単純労働でない分野でさえ外国人はだめだという議論です、さまざまなところで。  御存じのように、国家公務員法も地方公務員法も欠格条項の中に日本国籍を有さなきゃいけないという縛りはないわけです。少なくとも立法段階では国籍による制限はうたっていないわけですね。それを非常に抽象的な当然の法理というような理屈で、自治体が教員なり職員を採用するときに実際には制限をしているというそれが一方の実態ですから、ましてや私企業が朝鮮人を差別することについて何らの行政指導も規制もないわけです。恐らく、まあ私が会社を経営していれば、もしそういうことを政府から言われれば、そんなことを言っても政府みずからが朝鮮人は学校の先生になれないと。免許を持っていたってだめだと。今度の法律だと就労資格証明書は多分出ると思います。だけれどもだめだと。そういうのがふえていくわけですね。そういう状態の中で何で私企業である私が雇わなきゃいけないんだと、こういう事態になっているわけですから、この就労という、人間が生きていく上で非常に重要な生存権にかかわる問題を簡単に網をかけて締め出していくという側面がふえてくるというのは非常にゆゆしいと思うんですね。  外国人を雇うときには面倒な問題が起こる、できるだけ避けた方がいいと、そういうおもしがかかるわけですから、そういう点でその在日問題への影響というのはもっと真剣に考えて、先ほど江橋先生言われたように、差別をなくすための具体的な努力、むしろ公的な機関が率先してその排外主義を返上するための努力をこそしなければいけない。なのに、むしろ今回はマイナスの役割さえ果たすのではないかという感じがいたします。
  136. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) 二つのところで不法就労者、特に問題があると私は思います。一つはやはり人権問題ですか、本人たちの。やはり全然法的な立場がないから、差別とか悪用されるとかあるいは犯罪にかかわるような可能性も大いにあります。それで二つ目のところは、やはりそれにかかわる日本についてのマイナス評価だと思いますね。彼らは別に悪い目標で日本へ来るということは何もないのにこんなに扱って、それで人権も守られてないような、そういうような条件で人を使うから安い製品をつくれるとか、何か非常に日本に批判的な評価をしようと思えばその種になるとか。ですから、私はやはり日本はこれはできるだけ改善すべきだと思います。しかし一方、こういうような人たちにも一つぐらいの枠の中で窓口をあげてやるということがあれば、どちらもある程度まで改善できるんじゃないかと。だから、人権と評価、日本の評価と人権の実態の問題がポイントだと思います。
  137. 江橋崇

    参考人江橋崇君) 外登法と入管法との関係について先生の方で御印象を持たれたとしたら、私の物の言い方に問題があったのかなと思って反省をしておりますけれども、私が申し上げたかったのは、一九八二年以降特に日本はさまざまな社会保障の制度を在日韓国・朝鮮人にも適用するようになりました。その際に、基礎的なデータというものはどこからとってくるのかというと、外国人登録法からとってくることになるわけであります。それのみならず、自治体では例えば教育であるとかあるいはごみの収集であるとかあるいは上下水道の配置であるとか、さまざまな行政計画を立てる上で外国人住民がどの程度いるのか、つまり自治体の行政サービスの対象としての外国人住民がどの程度いるのかということは不断に調べておかなければいけないことであり、そのデータは、外国人登録法からとるし、また実際の執行もそれに基づいてなされるのだということを申し上げたかったわけであります。  それで、最近全国各地の自治体では、御承知のとおり外国人登録は個人別に編さんされておりますので、それでは行政需要との関係でうまいぐあいに計算がいきませんので、改めて家族単位に、自治体の独自の作業として家族単位の域内の外国人の名簿をつくって、それと住民基本台帳に基づく家族単位の日本国民のデータとを足して総合的な施策を展開しているように聞いております。  で、私としては、そういうある意味では外国人登録法は非常に権利を保護する上で大事な法律でありますので、本日の議論関係ないことを申し上げると申しわけないんですけれども、例えば指紋押捺等々かつての治安管理的な側面が残っていて、先生おっしゃるとおり人権抑圧に使われたり、少なくとも人権抑圧ではないかという印象を持たれることは遺憾である。そういった意味で外国人登録法はもっとすっきりと、日本にいる外国人に行政サービスをする基礎データのための法律だと、住民基本台帳と同じような立場まで徹底してしまった方がよいのではないかというのが私の理解でございます。
  138. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 江橋先生にお伺いしたいと思います。  先ほど御意見の中で、本法審議の中で人権政策的な観点から外国人就労に関する政策を考えるべきということを言われたと思います。国際的に協力し合うべきこのときに、入管法審議に際し人権に関する基準等の問題が出てこないということが非常に残念だというふうにもおっしゃられたと思います。そして八五年、国連で外国人の人権宣言が定められたというふうな御発言があったと思いますけれども、外国人労働者問題に対する国際的な基準というものは今そのかかわりでどうなっているのでございましょうか。
  139. 江橋崇

    参考人江橋崇君) 外国人労働者の権利保護の問題というのは、どこかの条約で一〇〇%確かな回答があるというものではない。むしろ、世界各国が協力し合いながら、次善な回答はどこにあるのかというのを探している状況だと思います。ヨーロッパの場合には、ヒールシャー参考人も言われましたように、EC統合という中でEC規模での基本人権に関する宣言がことしの五月、EC議会で可決されました。また、それと別に社会権憲章と称して労働基本椎を中心としたものも今つくられている。サッチャー首相は反対していますけれども、おおむねつくられる方向だと思います。そういうふうに地域的にまとまりがついているかと思います。  国連の規模では、今までちょっと発言の機会がなくて省略したんですけれども、この際ちょっと説明させていただきたいと思いますが、一九七九年から国連には外国人労働者の権利のための宣言をつくる作業部会がつくられておりまして、今日約十年間作業を続けてきております。それは、一九八五年につくられた外国人の権利宣言のいわば姉妹版でありますが、今度は条約であります。単なる会議の宣言ではございません。その国連作業の進んでいる事柄は、そのタイトルを申し上げれば、すべての移民労働者とその家族の人権宣言というものでございます。ここに、すべてのと、英語でオールという言葉が入っているのは、先ほど来出てきている不正現就労の人も含めて、まさにすべての外国人労働者には権利が保障されるべきだというレベルと、いやそうじゃない、正式の労働許可を持っている人間に保障される権利のレベルがあるんだという両方があります。二階建てになっておりますので、その意味ですべてのというのを頭につけた。  それともう一つ、労働者にとっては研修であるとか、あるいは出稼ぎもそうですけれども、家族の問題は大きな問題ですので、家族のメンバーとりわけ子供の権利の問題を配慮しようということで、すべての移民労働者と家族の人権宣言というものになっているかと思います。これが国連で最近の一番新しいものでありますけれども、現在審議は実体的な規定を終わって、ほぼ手続面に入った。最近、国際的な条約でよくありますように、先般通りました子供の権利条約もそうですけれども、委員会をつくってそこで各国から報告を求めて、外国人の権利に関する状態をお互いに協力して改善していこうという方向に進んでいるように国連関係者には聞いております。  現在、そういう作業が行われておりまして、まず伝え聞くところでは、日本政府も約十年間その会議には欠席をしていたそうですが、ことしに入ってからは会議に出席するようになったということですので、事柄は条約草案段階ですから国会審議になじまない、日本政府の外交的な専権の範囲内だということになるかもしれませんが、でき得れば私は国会等におかれましてもこの問題に注目されて、まさに国連という場を使って行われている外国人の労働者の権利の保護のための国際的な基準づくりでございますから、それに積極的に参加する中で、悩みは各国とも多いんですけれども、何とか積極的な方向を見出すというのに日本政府としても貢献することが一つの手法ではないかなというふうにも思っております。
  140. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 人権政策的な見地からということでお伺いいたしますけれども、外国人労働者の問題につきましては、低賃金、強制労働、売春、中間搾取などなど人権侵害にかかわる問題が非常に多く存在いたします。  そこで、お伺いしたいのですけれども、研修の制度でございますけれども、これは単純な作業に労働する人たちを原則入国禁止ということになっておりますが、これの脱法的な手段として運用されている例もあると聞きます。これについての御見解を伺いたい。  それからもう一つは、新設でございますが、企業内転勤の制度でございますが、これは同じくいかがなものでございましょうか。
  141. 江橋崇

    参考人江橋崇君) 先ほどヒールシャー参考人も申し上げたかと思いますけれども、日本の限られた入管当局の力をもって日本の民間のとりわけ企業活動に絡むバイタリティーというものを抑えつけるということは大変困難だというふうに私は思っております。したがって、入管法制度上例えば単純労働は認めない、そのかわりに研修を認めると言った瞬間に、研修の方に大量に単純労働が流れ込んでいくことになるだろうと思います。そしてまた、じゃ研修もだめだ、今度は企業内転勤なら認めるということになれば、今日の日本の経済力からすれば海外に支店をつくって、それも名目だけの支店をつくって、そこで採用した形にして日本に送り込んでくるということは十分可能だと思います。  最近問題になっているのは例えばタイのケースでございますけれども、タイに一応全く別のタイの会社をつくってそこでタイの労働者を採用して、そこに労働契約があるわけでございます。続いてそのタイの会社とタイの会社の労働者の間で研修契約が結ばれまして、その研修契約というのは日本に行き、行った先の人が指定する場所で研修することというほとんど白地の研修契約でございます。そういう契約を結んで日本にやってきて、東京でいわば派遣会社のところから派遣されるというケースになってきております。確かに研修ですから、ブローカーの手によって密入国しあるいはオーバーステイになって働く場合に比べれば責任の所在は若干明白ではあります。しかしながら、採用されている側にしてみると、形が研修であるのかどうかということにかかわりなしに、結局自分は日本に働きに行くのだ、ただ手続がややこしくなっただけだという形になっていくのではないか。それが私の恐れていることであります。  それは先ほど来出ている就労資格証明書もそうですが、例えばイギリスやアメリカは先ほど出ましたように社会保険のナンバーを入国したときに国からもらい、そのナンバーでもって登録することによって就職が可能なんですけれども、そういう制度をとっている国でも例えば友人のナンバーを借りて就職するなんというケースはざらにざらにあるそうでございます。最近ではイギリスで社会保険のナンバーを借りて他人に成り済まして就職していたところ、病気になって病院に行ってそのナンバーを示したところたまたま本来の持ち主がある持病にかかっていて、病院の方でその本人が来たと思いましたので、薬を勝手に調達して出したために何も知らないで飲んでしまった、その身がわりの人が死んでしまったという事件がありました。それをきっかけに社会保険のナンバーで外国人の就労をチェックしようという制度が果たしてどこまで機能しているのかという議論が今起きているというふうに聞いております。  日本でも、恐らく就労資格証明書をつくれば他人に成り済ますとか、にせの証明書が出回るとか、職を求めるあるいは人を欲しがる民間の活力というものは、そう簡単に法律をつくっておさめたからといって何とかなるものではない。したがって、私としては余り無理に無理を重ねた制度をつくるよりは、もっと教育とか啓発とかを織りまぜた全体的な施策を展開する中で、なだらかに問題を軟着陸させていくということを考える方が結局は現実的なんではないか、こんなふうに考えているということでございます。
  142. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 同じ問題につきまして、花見先生、御見解を承りたいと思います。
  143. 花見忠

    参考人(花見忠君) 研修の問題ですか。
  144. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 研修と企業内転勤でございます。
  145. 花見忠

    参考人(花見忠君) 企業内転勤について最初に申し上げますが、これちょっと誤解されているようなんですが、この新しく認められた資格は企業内転勤で、しかし実際にできる活動というのは技術の項あるいは人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動ですから、日本企業が外地で人を雇って単純労働者を日本に回してくるというような企業内転勤は当然ここには入らないので、その心配は全くないというふうに私はこの改正法を理解しております。それが第一点です。  それから、企業内研修のことはもう先ほども申し上げましたとおりでございまして、二国間協定で相手国に十分責任を持ってもらって、一定期間経過したところで帰国が可能なような処置をとった上で、先ほどヒールシャーさんの方から御指摘がありました日本と西ドイツがやったような形ですね、あれは原則として全部日本に帰国をしております。そういう二国間で責任を持った形での研修計画が一番望ましいのではないか。ただし、日本を取り巻いてかつ日本に単純労働者を送りたい国々がそういう責任を持った行政ができる国であるかどうか非常に問題でありますし、それからもう一つは、先ほどちょっと申し上げたように、ある幾つかの国に認めた場合にほかの国からの要求が出て、外交上非常に難しい問題が生ずるだろう。ですからそう簡単ではないけれども、これは一つのアイデアであろうというふうに考えております。
  146. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 田中先生に、先ほども多少お触れになったと思いますけれども、いま一回この疑問に答えていただきたいと思います。
  147. 田中宏

    参考人(田中宏君) 研修のことですか。
  148. 紀平悌子

    ○紀平悌子君 はい。研修です。
  149. 田中宏

    参考人(田中宏君) 研修については、御存じのように公的な機関が管理している、外務省なり通産省なり外郭団体が扱う半公的な研修あるいは半官半民的な研修、それから最近私企業による研修というのが非常にふえてきていて、研修の受け入れの数というのがどんどんここのところ肥大化してきているという現実があると思うんですね。  研修の場合には、いわゆる座学と違って現場で実学を勉強するという側面がありますので、現実には働いているのか研修を受けているのかというのは物すごく見方が難しいと思うんです。かなり今度審査基準等を活用されて、いろいろな研修を施す側に関するチェック、それから研修を受ける側の経歴なり資質なりのチェックを恐らく具体的には審査基準の中で取り入れられると思いますけれども、一般的にはやはり外国人労働者の受け入れについての基本的な政策決定が単純労働を受け入れないということだけで進んでいきますと、結局ここが一つの受け皿として使われていくという危険性は十分にやっぱりあるというふうに思います。どうしても公的な形がかんで、なおかつ二国間協定なりあるいは事前研修、例えば来日前にしっかりした研修をするというような形でないと、本来の研修としての実を上げるというのは非常に難しい問題だと思うんですね。原則論を高く掲げて、あとほかの資格で何とかやりくりしていこうとすると、どうしても必ず無理が出てくる。私は研修というのは非常に無理が出る危険性をはらんだ在留資格として非常に気になるものの一つで、果たして今のような単純な日本側だけのシステムで十分機能するかどうか。やはり、二国間協定的なアプローチをしないと、実の意味での研修としてやるのには相当ひずみが出てくる危険を持った在留資格だというふうに思います。
  150. 櫻井規順

    櫻井規順君 たくさんの御意見と御忠告を賜わりましてありがとうございます。私は四人の先生に一問ずつ、たくさん聞きたいことがあるんですが、一間ずつお聞かせいただきたいというふうに思います。全部最初に言わせていただきます。  花見先生に、この出入国管理法の問題は私は法務省だけでなくて外務、労働、文部、いろいろな分野にかかわる問題で、連合審査になじむような問題ではないかと思っております。縦割りで物を考える傾向がありましたわけですが、花見先生いろいろなところにタッチされ総合的にお考えをお持ちなのでお聞きするわけですが、縦割りではなくて各省にわたるような総合的な視点で見て、一言何か御提言をいただけたらというふうに思うわけであります。  それから田中先生に、一九八二年内外人平等元年、こうお話しなんですが、現時点で特に社会保障上の問題あるいは教育の分野もさっき出ましたけれども、なお内外人平等主義の観点に立って著しく立ちおくれている分野は何なのかということを御指摘いただけたらと思います。  もう一つ欲をかきますと、この管理法、規制的な側面が非常に強いわけですが、発想の転換にとって何が必要か、一言御提言いただけたらというふうに思います。  それからヒールシャー先生に、これもちょっと暴言で恐縮でございますが、西ドイツの場合にトルコ人を初めEC外、EC内にいたしましても外国人の労働者の方が低賃金労働者、あるいはそういうような一つの地域社会をつくってある程度、人口の比率でしょうか、八%という外国人の就業率のようでございますが、どうもその原因は入国をほぼ自由にしたという経緯がこういう事態をもたらしたものであり、それが失敗だったのではないかということを、随分失礼な言い方なんですけれども、今西ドイツの経験から思うんですが、その辺はどうだったのか、お聞かせいただけたらと思います。  それから江橋先生に、さまざまな宣言あるいは人権規約等を見まして、どうも宣言規定に終わっておりまして国内法とのリンクが非常に弱いわけでありますけれども、国内法でこういう人権宣言あるいは人権規約を国内法として整備することは無理なのか。あるいは諸外国、OECD加盟国のような先進国でそういう国内法として基本法を、外国人のありようを規定した国内法の整備というものはないのかどうなのか、その辺をお聞かせいただけたらというふうに思うわけでございます。
  151. 花見忠

    参考人(花見忠君) この問題は、社会のあり方あるいは国のあり方にかかわる問題でありますと同時に、日本でいえば日本文化のあり方にもかかわる問題でありまして、官庁でいえば労働省、法務省以外に文部省、厚生省、建設省、通産省、経済企画庁、そういう数々の官庁がかかわるような問題の政策に関連があるわけです。これを先進諸外国の場合で見ますと、これはどこの国でも基本的には内務省の管轄で伝統的に来たわけで、特に移民国家では内務省の中の移民局みたいなところが主として管轄をしていて、戦後にこれは人口政策というよりは労働力政策として重大化したのは、戦後の西ドイツを中心にヨーロッパ大陸の国々で、そういった国々では大体雇用省、日本の労働省に相当するような雇用省、労働省がだんだんこの問題に関与するようになってきまして、アメリカも連邦労働省が関与するようになってきました。  そういう世界的な動きを見ると、それから日本現状では、やっぱり労働力政策としてのこの問題はかなり重要でありまして、私は、先ほどからいろんな議論が出ておりますが、二つの観点ですね、つまり労働市場的な配慮とそれから労働者保護の観点、この二つが大変重要でありまして、もう少し労働省がこの問題にタッチできるような仕組みが望ましいのではないか。そういう前提で、例えば雇用許可制みたいなものを労働省の研究会、調査会では提唱したわけですけれども、ああいう制度というのが一つ長期的には考えられるのではないかというふうに思うわけです。  いずれにしろ、私はそういう諸官庁を超えたレベルで高度の政治的な判断を立てて長期的な政策をつくるような仕組みが望ましいというふうに考えおります。
  152. 田中宏

    参考人(田中宏君) それでは、残された問題でどういうことがあるのかという御質問なので、私の感じていることを若干申し上げます。  教育の問題と雇用、労働の問題というように大きくは申し上げられるのではないかと思います。教育に関しては、先ほど江橋先生もおっしゃられましたけれども、やっぱり啓発、啓蒙がほとんどなされてない、要するに外国人に対する差別の問題ですね。一つ気がついたことで申し上げますと、文部省を越えて総理段階で設置し、二十一世紀を目指す教育といって行われた臨教審が膨大な報告書を出しました。私も斜め読みでしたけれども拝見して一番驚いたのが、外国人に対する差別、例えば朝鮮人に対する差別を学校教育の中でどうしていくかということが一言半句触れられていないんですね。  教育の国際化ということはしばしば言われますけれども、それはほとんど留学生の受け入れとせいぜい帰国子女をどうするかというところでとまってしまうというのが残念ながら今の現状で、文教行政における立ちおくれというのは著しいものがあるというふうに私は思います。恐らく、世界にいろんな問題がありますけれども、日本ほどみずからの出身を隠すために二つの名前を使って外国人が暮らしているという国はそうないと思うんですね。これがごく一般的になっているわけです。  帰国子女の問題、これは日本人にかかわる問題ですから臨教審も大変関心を持っていろんな意見を述べられましたけれども、実は文部省の学校基本調査報告を見ると、帰国子女の数というのは大体一万人なんですね。日本の小中高に在学する外国人児童生徒数、これは約十万人います。しかし、文部省には帰国子女教育担当の部局はありますけれども、外国人の子供の教育を担当する部局は全くないのが現状ですね。  そして最近出てきた問題というのは、例えばこれはたまたま私はテレビを見てさもありなんと思ったんですが、難民の問題を扱ったケースですけれども、これはいわゆる偽装難民と言われる問題じゃなくて、日本に定住を許可された難民の子供が学校でいろいろいじめられる。帰ってきてお母さんに日本の名前をつけてくれといって泣いたというんですね。これは朝鮮人の子供がずっと味わってきたことを、今新しい難民が同じことを味わっているんです。帰国子女は学校に行くと変ジャパ、変な日本人ということでいじめられるから学校へ行かなくなっちゃう。これは私は日本における外国人の問題を非常に象徴する問題で、ほとんど国政レベルで取り扱われていない問題だと思います。  それからもう一つは雇用の問題で、先ほど教員採用のことを出しましたけれども、江橋先生も何度かお触れになりましたように、戦後四十年、国人の状況に関する公的な調査は全くありません。私の知っているもので恐らく最も正確でなおかつ重要な情報を提供してくれたと思うのは、地域の国際化というのかあるいは民際外交を唱えられた、神奈川県で行われた外国人の在留生活実態調査があります。そこにさまざまな項目がありますけれども、雇用状況というのか就業状況に関するデータが発表されています。これによると神奈川県全体では約一割、一〇・六%の人が自営業に携わっている。ところが、そこに住んでいる韓国人、朝鮮人、中国人、これを対象に行った調査ですが、それでは四一・六%が自営業で生活を営んでいる。いかに日本での就業機会を奪われているか。  つまりこの奪われていることに関して、例えばさっきの教員採用というのはまさに国家が締め出す側に回っているわけですね。大体小中高の先生が百万人ぐらい今日本にいるんですけれども、文部省の意向に反して自治体が独自に採用した外国人の教員の数というのは、正確なことはわかりませんけれども、恐らく三十人とか四十人という数です。これを文部省はあってはいけないというように言ってはばからないのが実態なんです。そこで教育が行われるわけですから、排外主義がどんどん肥大化していくわけです。そして、最近のようにやれ偽装難民が来た、やれ最近変な外国人が来ているということでどんどん排外的な風潮が高まってくるという意味で、私は非常にゆゆしき事態だと思います。  もう一つ、今回の法案について特に注文とおっしゃられましたので一言つけ加えますと、先ほど触れましたやはり潜在居住者の救済という、私は八二年というのを思いつきで提案しましたけれども、これを申し上げた理由は、入管局という役所の性格はありますけれども、そこも外国人の人権を考えて新しい政策を打ち出したと。取り締まるだけではなくて、非常に惨めな状態に置かれている人についてはやっぱり人権に免じて行政が譲歩するということもやるんだという、それを天下に示すために諸外国でも再々採用されてきたアムネスティーをこの際実行するということによって、入管局が外国人の人権に配慮しているということを実をもって示していただきたい。  以上。
  153. ゲプハルト・ヒールシャー

    参考人(ゲプハルト・ヒールシャー君) ドイツの政策は失敗かとお聞きになったわけですが、私は失敗とはとんでもないと思っています。失敗の面もあったんですよ。失敗の面は、例えば労働力を輸入しようと思って、人間が入ってきたんですね。これはだから最初のアイデアとはちょっと違うんです。ですから、人間に伴う、いろいろなれるまでの問題があります。例えば、最初はイタリア人を呼んだんですが、そのイタリア人の問題は完全に消えてしまったんです。社会に大きな貢献をして、いろんな分野で多様化してきた。これはだれも評価するわけです。その後は、例えばギリシャ人とか、一番目立つのはトルコ人です。トルコ人は合法的だけでも百五十万人程度おります。この合法的にドイツで働いているトルコ人の中で、これは全部低賃金であるということはとんでもないですよ。いろんな仕事をしていますし、自営業もします。ドイツ人と同じように仕事をしますと、全く同じような待遇で働けるわけです。若い人は若いドイツ人と同じようにモーターバイクに乗って仕事に通うとか、同じ学校に行っていて、そんなことは失敗とは私は思いません。  むしろ、本当の意味の国際化についてドイツ人に大きな教訓を与えたわけですね。違う人ともやはり生活が一緒にできる。特に教育制度でそれがわかったわけです。一緒に学校に通って、後で一緒に仕事をする。私の学生時代の下宿の大家であったドイツの大工さんが、彼は大きな企業の監督になって、彼の仕事の現場で一番いい労働者は二人のトルコ人だと。もう長年そこにいて、彼は監督の次の責任が重いところにおりますが、非常に仕事を一生懸命する。スペイン人もそうですがポルトガル人も最初のうちは難しいので、言葉がもちろん最初は壁であったんです。言葉がうまくできますと、資格制度のような社会であれば、どのぐらい時間がかかるかという問題はありますが。  トルコ人の特殊な一つの部分は宗教が完全に違うという面があって、そうするとその背景からこの社会に入りたくない、仕事をするだけで生活したいという立場で入ってくる人が一部にあります。しかし、例えば二世のところになりますと、子供たちはまた逆の立場で、やはりドイツの社会に入ってできるだけ一緒に歩きたいという、むしろ親との摩擦が出始めるです。これはドイツの映画のテーマにもなったわけですが、実際に外人の労働者を描いた芝居のショーまでもできた。トルコ人は別の文化から来ましたからもっと時間がかかってもっと工夫も要ったわけですが、これは失敗だとは私は全然思いません。
  154. 江橋崇

    参考人江橋崇君) 国際的な立場で考えるということをもう少し国内的に具体化できる方策は何かというお尋ねだと思います。  そういうせっかくのお尋ねなのに最初に条約のことを持ち出して申しわけございませんけれども、現在世界各国で広く認められている人種差別禁止条約に我が国はいまだ加盟しておりません。例えばあの条約、それも微妙な段階でストップしたままになっておりますが、別に原則として絶対加盟しないという政府のお考えでもないと思います。あの加盟批准方が促進されれば、日本国の場合は条約はすなわち国内法上の効力が与えられますので、一つの足がかりになろうかと思います。ただし、その条約に加盟してもやはり一番大事なところが抜けているのでありまして、それは国内において外国人の実情を調査し、外国人の権利をきちっと擁護するための行政組織というものに関する部分は抜けるわけであります。そういった意味からしますと、例えばイギリスで人種関係法という法律がつくられ、そのもとで人種平等化委員会という行政組織がつくられて、調査及び現状の善改及び啓発活動に当たっている。その活動実績などは我が国にとっても大いに参考になることではないかと思っております。  ただし、日本の場合一つだけ気をつけなければいけないのは、ヨーロッパ諸国の場合には一九七○年代以降民間における差別の問題を何とかしようということでいろんな機構が考えられているやに思いますが、日本の場合はまず行政それ自身が改めていただかなければいけないという課題が余りにも多いということだと思います。  きょうの最初のころに出ました最近発見されたパキスタン人差別捜査の問題が一つの例かと思いますが、警察庁がつくった捜査用の参考資料の中で、パキスタン人に関して証拠が出るまで徹底的にアラーの名にかけてうそをつくとか、パキスタン人には疥癬——皮膚病の一種ですが、疥癬を持つ者が多いから留置する際と取り調べ終了後は必ず手を洗う必要があるとか、独特の体臭のため取り調べ室、留置場が臭くなるとか、まあ随分手ひどい典型的な人種差別的な発言がなぜこういう行政の中で行われるかということは、私非常に悲しいと思うんです。しかし、これらはいずれもまだ物の考えだから許されるところがあるかもしれません。しかし、新聞では報道されていないんですけれども、実はこの文書の中にもう一段階ショッキングなものがあります。こういう記述でありました。  宗教上豚は汚いものとしており、豚肉は決して食べない。豚肉を豚肉でないと言って食べさせて、後でそれが豚肉と知ったときは非常に怒ると。これは単なる表現の問題でなくして、日本の行政当局がイスラム教徒に豚を食わした。それも、豚でないと言って食べさした。後でまた、実はおまえは豚を食ったんだよとこう言った。これだけのことをした場合、これはもう国際世論どころか、これは先月末のことでありますが、来年の国連等々の委員会では恐らくこのことは大いに取り上げられて、日本政府はまたまた国際的な評判を落とすのではないかと私は憂慮しているのであります。  これは表現の問題でなくして、現に食べさしてしまったわけですから一段階罪は重いのであります。こういうことをしている。こういうことをしている政府は、あるいは捜査当局もそうでしょうが、まずみずから改めるという姿勢を相当強く持った国内的な取り組みをしていただかないと、とても民間における人種差別あるいは外国人差別を何とか人権を守る方向で改善したいというふうにはなかなかいかないのではないかという意味で、日本政府にお願いしたいこと期待することは非常に多いというふうに私は考えております。  以上でございます。
  155. 黒柳明

    委員長黒柳明君) 以上で参考人に対する質疑は終わりました。  参考人の方々に一言御礼申し上げます。  本当に長時間にわたりまして貴重な御意見をちょうだいいたしまして、まことにありがとうございました。委員会を代表しまして厚く御礼申し上げます。  本案に対する審査は、本日はこの程度といたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時三分散会