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参考人(
半田良一君)
半田でございます。私は
京都大学農学部で
林業経済、
林業経営等々の研究をしてまいりましたが、現在は岐阜県にあります
中京短期大学に勤務いたしております。
私は、五つの点にわたりまして
意見を述べさしていただきたいと思っております。
まず第一に、
森林、
林業、
山村という
三つの関係から見ましたこの
保健機能が注目されるようになった背景でございます。世界的に
森林の
保全ということが注目されておりますが、
森林は適度の
利用活動を行うことによって
保全の実が上がるものであります。ところで、その
利用の内容というのは、経済の
発展あるいは
生活様式の
変化に伴って変わってまいっておりますが、大まかに申しますと、燃料
利用から用材
利用、そこへ近年アメニティーの
提供、この
法律の言う
保健機能と申しますのは、アメニティーと同じ意味で
考えております、と変わってきております。いずれにしましても、
森林に対しましては
生産力を高め、
国民の求める福祉に役立てるという視点から適切な
管理区分を行って、その上で、
保全の枠内で
森林施業の内容を改善し高度化するということが基本的方向であると思います。
一方、
山村の
立場から申しますと、恵まれた
森林を
対象にした
生産活動によって所得を上げるようなシステムをつくるということが
活性化のポイントであります。
生産活動の分野としましては、
木材の販路を開拓すること、次にキノコなどの特用林産物を導入すること、第三に、
森林の
保健機能を生かしてレクリエーションの場を設定
管理するということが重点であると思います。
第二番目に、
保健機能の意義ないしはアメニティーに対する需要の背景について申し上げます。以前は、人々はいわば身の回りの自然の中から無意識のうちにアメニティーを享受して暮らしておりました。観光など意図的にアメニティーを求めるという行為は特殊なことというふうに
考えられておりました。しかし、経済が
発展し大
都市へ
人口が集中し
生活環境が悪化いたします。また、社会
生活におけるいろんな緊張が激しくなります。総じて
都市生活のひずみに伴って、アメニティーを日常の
生活圏の外部へ出て意図的に求めるような行動様式が一般化するようになってきたと思います。その求める
対象は、いわば人工的な
都市空間の対極にある自然であります。そして
森林というのは、その自然の中で最もポピュラーな存在であります。
森林に代表される自然と接するということは、勤労者にとってはみずからの労働力を再
生産する上で、また青少年にとりましてはバランスのとれた
人格を涵養する上で、さらに高齢者の場合には
安らぎと生きがいの場を見出すという意味で現代の社会に不可欠の要素になっておりますし、今後ますますその重要性を増していくことと思われます。
もっとも、
保健機能と申しましてもその具体的内容はさまざまであります。
森林に対して何を求めるかということも、例えば
利用者の年齢あるいは個人
利用か集団
利用かという
利用形態によって違いがあります。しかし、
森林は単に休息の場を
提供するというだけでなく、大なり小なり活動の場あるいは
創造の場という要素が求められていると思います。こういった
ニーズに対応するためには、
森林そのものだけでなく
施設と一体化したものであることが望まれます。
翻って、自然ということについて若干申し述べたいと思いますが、学術的に価値が高い貴重な自然があります。例えば原生
環境保全地域あるいは自然公園の特別保護地区等であります。これらは人為を加えずに将来に残すべきものであります。したがって、公共的
管理のもとに置く必要があります。ここに言う
保健機能の
利用増進の
対象からはこれは区別すべきものであります。さらに広域的な景観としての自然を
保全することも重要であります。こういった広域的な
森林景観の
保全もまた公共的
管理の
役割である。
森林計画制度などが今後ともその
役割を果たすことになると思います。
しかし、そういった広域の
森林景観の中の個々の
森林あるいは
森林団地につきましては、一定の公共的規制のもとで特定の
保健機能を求める需要者、それと
森林所有者が
施設の
整備等適正な
森林施業を媒介として結び合いまして、
機能の高い
森林をつくり出して
提供する、そういった関係の設定が可能であると思います。また、その試みが
地域活性化の
契機になっている事例は既に少なくないところであります。
次に三番目に、従来の
山村振興施策と特別措置法の施策との関係でございます。一九七〇年代から
林業に関する諸施策は
地域振興的な色彩を次第に濃くしております。その中に、
森林の
保健機能を
利用して
地域振興に結びつけようといった構想も見出されます。例えば第二次の
林業構造改善事業に始まりました
森林総合利用事業は代表例でありますし、
山村振興事業の中でも
森林を
利用したレクリエーション
開発は積極的に取り上げられております。
しかし、従来こうした施策は概して
施設の
整備が中心でありました。
修景施業といったこともありますが、それは
施設の周囲のせいぜい数ヘクタールの単位の
森林にとどまっておったと思います。もちろん
施設型の
レクリエーション施設が
山村振興の上で効果が大きいということはこれは事実でありますが、しかし
森林を生かすことに力点を置き、
森林をベースに置いて比較的小型の
施設と有機的に結びつけるといったレクリエーションについては、例えばドイツなどに比べまして
日本の場合には未
発達であります。これを成功させることにおいて
保健機能は一段と
増進することが期待されます。すなわち、
森林所有者をパートナーとすることによってそういった
施設と
森林との一体的
整備の受け皿をつくり出すということ、これがこの特別措置法の
趣旨であると思います。したがって、この
法案は
森林に対する
国民の
ニーズに対応するという意味と、
山村の
地域振興に資するという意味との両方で時宜を得ているというふうに
考えます。
そこで、この特別措置法の意義でありますが、これを総括的に次の
三つの点で評価したいと
考えております。
第一に、
森林施業と
施設整備の、一体的な
開発のための
制度的受け皿を初めてつくり出しているということであります。第二に、
森林所有者またはその委託を受けた市町村あるいは
森林組合が所有ないし
管理する
森林の
保健機能の
開発に能動的にアプローチできる枠組みをつくっているということであります。これによって、懸念されますデベロッパーによる大
規模な
開発あるいは
森林破壊に歯どめをかけることになると思います。第三に、
森林所有者が
開発を実施する過程において
も、
森林法に基づく
監督権限を行使することによって臨機応変に規制を加えることができるという点であります。
以上のように、この
法案の内容につきましては評価するものでありますが、ただ
法律の運用に対しまして若干希望したい点がありますので、それを最後に、五番目に申し述べたいと思います。
その第一は、
保健機能というのはそもそも精神的な価値でありますから、人によって評価のばらつきが大きい点であります。ですから、特定の
森林の
機能増進計画を樹立するに当たりまして、
開発か
保全かといった対立が超こる可能性があります。ですから、
計画を樹立する際には
森林所有者だけでなく
地元代表者、市町村、
森林組合などの関係者が十分に話し合いまして、結びつくようないわば合意と協力に基づく推進体制をつくることが大切であります。言葉をかえれば
地域ぐるみの
取り組みを指導してほしいと思います。都道府県もまた広域レベルでこの種の
施設の適正な配置を保つように常に目配りをして、
計画策定段階から指導を行ってほしいと思います。
第二番目に、今申し述べたことと関連いたしますが、
保健機能森林の
運営主体としましては、市町村が直接当たる場合、
森林組合が当たる場合、あるいは
地域、例えば
集落が当たる場合などが多く
考えられます。しかしながら、例えば
集落というのは一般的には法
人格を持っていないという限界があります。また、市町村は公共団体の性質として収益
事業まで手を出しにくいといった限界もあります。したがって、そういったいわば
地域の
管理の責任に当たる
三つの集団がそれぞれの能力を高めるとともに、お互いに連携しまして適切な
役割分担をしていくことが大切であると思います。いわば
地域マネージメントのためのシステムの
整備ということであります。
第三番目に、業者と同じようなやり方で
保健機能の宣伝活動を行って客を集めようとしても、これはなかなか難しい点があると思います。それから、
都市住民の
ニーズにうまく対応していくためには、不特定多数の
都市住民に対して情報活動をするというよりも、むしろ特定の
地域あるいはグループとの間で一種の縁組関係をつくるような形がむだが少ないのではないかと思います。
今
都市住民の間では、
山村を
理解し
山村と
交流しようというムードが着実に醸成されていると思います。これをうまく引き出していくためには市町村や
森林組合が窓口になり、例えば姉妹協定などを結んで各種のプロジェクトを持ちたいと思います。こういった関係が成り立ちますと、
保健機能というものの
提供からさらに
都市住民と
山村住民との
人間的な相互
理解に進み、両者の共存のきずなは強固になると思います。今のことを反面から申しますと、一般的にリスクが大きいと言われますレクリエーション
事業の需要面の基盤を安定させ、また時には
利用者側の注文をも取り入れまして、
保健機能提供の内容を一層高度化することができることと思います。こういった
山村と
都市との結びつき、縁組に行政は積極的な支援をしてほしいと思います。
最後に四番目に、現在一部のデベロッパーの間、また一部の自治体の間でも根強い観光
開発期待のムードがある、これは事実であります。特に総合保養
地域整備法が施行されましてこの方、
政府の施策が全体として大型観光
開発の推進にあるような受け取り方がされ、危機感と期待感とが交錯しているという世相であります。この
法案をよく読めば、こういった大型
開発とは縁がなく、むしろそれを抑制する内容のものであるということはよくわかるわけでありますが、ただ保安林の伐採や林地
開発の許可制が緩められているという一点をとらえて
開発に道を開くものと早合点されるおそれも事実として存在すると思います。法のねらいは、あくまでも
森林の
保健機能を
地域振興に結びつけようとする
地域住民の自発的な創意と努力、これをプロモートするということにあると
考えておりますが、その
趣旨を
政府レベルでも機会のあるごとに明確にし、いわば思惑による混乱を引き起こすことのないように注意をしていただきたいというふうに思います。
以上、私の
意見をつたないまとめ方でありますが、取りまとめて陳述させていただきました。総体的に申しまして、ただいま述べましたような理由から、この
法案につきましては積極的に賛成するという
立場でございます。
どうもありがとうございました。