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1989-11-28 第116回国会 衆議院 法務委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成元年十一月二十八日(火曜日)     午前九時三十分開議  出席委員    委員長 戸塚 進也君    理事 逢沢 一郎君 理事 井出 正一君    理事 太田 誠一君 理事 保岡 興治君    理事 坂上 富男君 理事 中村  巖君    理事 河村  勝君       赤城 宗徳君    石渡 照久君       稻葉  修君    小川  元君       大塚 雄司君    佐藤 静雄君       佐藤  隆君    塩崎  潤君       二田 孝治君    谷津 義男君       稲葉 誠一君    清水  勇君       山花 貞夫君    冬柴 鉄三君       山田 英介君    滝沢 幸助君       安藤  巖君  出席国務大臣         法 務 大 臣 後藤 正夫君  出席政府委員         法務大臣官房長 井嶋 一友君         法務省民事局長 藤井 正雄君         法務省刑事局長 根來 泰周君  委員外出席者         警察庁刑事局捜         査第一課長   山本 博一君         法務大臣官房審         議官      濱崎 恭生君         大蔵省証券局企         業財務課長   中川 隆進君         大蔵省証券局業         務課長     水谷 英明君         最高裁判所事務         総局民事局長         兼行政局長   泉  徳治君         参  考  人         (東京大学名誉         教授)     三ケ月 章君         参  考  人         (弁 護 士) 原井龍一郎君         参  考  人         (弁 護 士) 森井 利和君         参  考  人         (弁 護 士) 上条 貞夫君         法務委員会調査         室長      乙部 二郎君     ───────────── 委員の異動 十一月二十八日  辞任         補欠選任   上村千一郎君     石渡 照久君   木部 佳昭君     佐藤 静雄君   塩川正十郎君     谷津 義男君   戸沢 政方君     小川  元君   西岡 武夫君     二田 孝治君 同日  辞任         補欠選任   石渡 照久君     上村千一郎君   小川  元君     戸沢 政方君   佐藤 静雄君     木部 佳昭君   二田 孝治君     西岡 武夫君   谷津 義男君     塩川正十郎君     ───────────── 十一月二十四日  民事保全法案反対に関する陳情書(第六号)  刑事施設法案の廃案に関する陳情書外一件(第七号)  在日韓国人法的地位待遇向上改善に関する陳情書外一件(第八号)  地方裁判所及び家庭裁判所の支部の存続に関する陳情書外五件(第九号) は本委員会に参考送付された。     ───────────── 本日の会議に付した案件  民事保全法案内閣提出、第百十四回国会閣法第四〇号)      ────◇─────
  2. 戸塚進也

    戸塚委員長 これより会議を開きます。  内閣提出民事保全法案を議題といたします。  本日は、本案審査のため、参考人として東京大学名誉教授三ケ月章君、弁護士原井龍一郎君、弁護士森井利和君、弁護士上条貞夫君、以上四名の方々に御出席いただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  参考人各位には、御多用中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本案について、参考人各位には、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願いいたします。  次に、議事の順序について申し上げます。  御意見の開陳は、三ケ月参考人原井参考人森井参考人上条参考人順序で、お一人十分以内に取りまとめてお述べいただき、次に委員からの質問に対しお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を受けることになっております。また、参考人委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきを願います。  それでは、まず三ケ月参考人にお願いいたします。
  3. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 三ケ月章でございます。  私は、現在弁護士をいたしておりますが、長年民事訴訟を研究してまいりました者といたしまして、また、この民事保全法案検討と取りまとめをしてまいりました法制審議会民事訴訟法部会部会長としての立場から、この法案意味するところについて申し述べたいと存じます。  民事保全制度は、明治二十三年に、若干の手直しをいたしましたものの、ほぼドイツ制度をそのまま継受したものでございまして、以後抜本的な改正をしないまま推移してまいりまして、今年で九十九年になります。この制度の導入以来、解釈実務におきましては、我が国の文化、社会経済体制に合わせた独自の運用が工夫されてまいりましたが、これにも限界があり、法的安定性の面から、法でより詳しく規定することが長く望まれておりました。また、現在におきましては、技術革新社会経済体制発展が目覚ましく、現行法のような判決手続原則とするという制度では、こうした社会情勢から生ずる紛争解決に柔軟に対処し、迅速な裁判をすることができなくなってきているというのが実態でございまして、この点につきましてその改善を求める声が、国内はもとより、後でも述べますように、アメリカなど世界主要各国からも上がってきているところでございまして、看過することができない状況になっております。  そこで、今回の改正は、我が国の九十九年間にわたる長年の経験の蓄積を大幅に取り入れ、ドイツ法を基礎としながらも、これとは異なる我が国固有制度とし、現在及び将来の社会経済体制の変化に柔軟に対応することができるようにするために、決定手続を全面的に採用し、審理を充実した上、迅速な裁判をすることができるようにした ものでございます。これによりまして、我が国国民一般のみならず世界各国からも信頼される訴訟手続、特にこの保全手続を設け、この裁判社会紛争解決手段として十分機能するようにしたことが今回の立法の最大の特徴でございます。  なお、このたびの民事保全法案のような全面的な決定主義採用したこと、また、民事保全制度につきまして単行法を制定するということは、私の承知しております限りでは、世界主要各国法制でも恐らく初めてのことではないかと思われ、画期的な試みであると考えております。  さて、最近の民事裁判の現状を見てまいりますと、社会経済体制発展に伴って権利関係はますます複雑化し、紛争が多く生じていると思われるのでございますが、その割に国民裁判による解決を求めていないのではないかと危惧され、いわば国民裁判離れ現象が出てまいっているように見受けられるのであります。我々の世界ではこうしたことを俗に司法の危機と言っておりますが、このことは、裁判所のみならず弁護士会も含めた法曹界全体がよほど意識的に改善に取り組みませんと、今後二十一世紀に向けてますますその度合いが深まるおそれがあると考えております。国民民事紛争解決手段としての裁判に何を求めているかということは、要約いたしますならば、それは充実した審理をした上に迅速な裁判をするということでございましょうが、現在の訴訟手続では、この要望に決して十分にこたえていると言うことはできないというのが私の考えであります。  このことは、民事保全を含みますすべての民事裁判全体について要請されるところでございまして、最も重要なかなめであります民事本裁判手続についても近い将来検討を加える必要があると考えておりますが、まず、この本案裁判の前提ともいうべき民事保全手続改正することが急務であると民事訴訟法部会考えたわけであります。民事保全制度は、本裁判による紛争解決を円滑ならしめるために行う暫定的裁判であり、財産あるいは不安定な地位の早急な保全を図るのが制度の本旨でございますから、性質上迅速な裁判をしなければならないわけでございますが、現行法建前のもとでは、本案裁判と同じ判決手続で行うというのを建前としております。したがって、こうした手続によった事件裁判遅延化は顕著でございます。これでは何のための暫定的裁判かということになり、国民民事保全においてすら裁判による解決を避けるというふうに動いていくおそれがありますので、まず、この手続を抜本的に改正し、二十一世紀社会要請にこたえ得るようなものにし、国民信頼を確保する必要があるというのが私の考えでございます。  ところで、現行法制度では、命令を発する手続は、判決手続決定手続が組み合わされた形になっております。ここで使われる判決手続は、本案裁判審理手続と同じ厳格な手続でございますから、迅速性に欠け、常に一つの審理方式しか許さないというもので、多少硬直的なものと言わざるを得ません。この手続民事保全に取り入れなければならない必然性は実は必ずしもないのでございまして、たまたま十九世紀に制定されましたドイツ法律がこういう形をとっていたのがそのまま我が国に入ってきたというにすぎないと考えられるのでございます。  これに対して、決定手続というものは、その手続内で、口頭弁論もできます。口頭弁論審尋書面による審理という複数の審理方式を内蔵しておりまして、事案の内容の軽重や事件の進行の程度に応じまして、これらの審理手続を組み合わせて選択し、事案の個性に合わせて柔軟に対処することができ、ひいては迅速な裁判期待できるわけでございます。ただ、決定手続というと、従来の何となく漠然とした観念では、迅速ではあるがずさんな手続で、拙速な裁判であるというイメージをとかく持たれやすいのでございますが、実際には必ずしもそうではなく、証人尋問もできますし、口頭弁論も行うことができ、制度自体にいわばこのような審理充実化のための手続を内蔵しているものでございます。  また、民事訴訟法上の一般手続のこういう特徴のみならず、さらに、審理のより充実化のための制度を加えまして、また、当事者手続上の地位を実質的に保障する制度をこれにつけ加えますことによりまして、審理を充実させた上裁判を迅速に行う手続となるわけでございまして、民事保全法案はこのような点につきましてきめ細やかな手当てをして、十分な配慮をした上で決定手続を全面的に採用したものでございます。したがいまして、決して拙速に陥るということはないと立法に関与した者としては確信しております。  また、最近におきましては、知的財産権訴訟等につきまして、アメリカを初めとする世界主要国から、この民事保全制度を含めた日本の民事裁判は遅くて機能していないのではないかという指摘を受け、我が国制度改善が強く要求されているところでもございます。我が国が手をこまねいておりますと、ますます諸外国の風当たりが強くなり、国際的にも孤立化し、国際関係が悪化する一因ともなりかねないという意味におきましても、民事保全法案改正は現在の時点において重要な意味を持つものであると考える次第でございます。  なお、この民事保全法案は、これ以外にもう一つ重要な問題を解決しております。それは、原則として、裁判の一回性を保障することを法制化したことでございます。我が国民事裁判では、訴えの提起により、当事者恒定する、固定と考えてもよろしゅうございますが、要するに一たん訴えを起こしましたら途中で当事者変更を認めない、これが恒定でございますが、そういう制度を設けておりません。したがいまして、相手方目的物を他に譲渡してしまいますと、その譲り受けた者をさらに裁判相手方とせざるを得ないことになりまして、紛争がいつまでも解決しないことになってしまうわけでございます。これを解決するために、我が国では実務処分禁止仮処分占有移転禁止仮処分というものが考案されて大いに利用されているのでございますが、現在はすべてこれは解釈で行っておりますので、その要件及び効力が必ずしもはっきりせず、一部の点では効力が過大であり、他の点におきましては逆に効力が弱過ぎるということで裁判がなかなか一回では済まないという現象が生じており、これでは裁判制度を利用する意味が半減し、裁判に対する不信につながり、国民裁判に対する信頼を失いかねないという問題が生じております。  そこで、民事保全法案は、この問題を解決した上に、これらの仮処分、すなわち処分禁止仮処分占有移転禁止仮処分要件効力を明確にし、さらに、正当な権利を有する第三者手続上の保護につきましても手当てをして、双方の利益の均衡化を図っております。これにより、原則として裁判の一回性を明確にして国民信頼を確保するとともに、その効力を明らかにしたことにより係争物件でありましても取引が安心してできるようにして、経済取引を活性化することにも資することになると信じます。  以上のとおり、民事保全法案は、今後の我が国司法発展のためにまず一歩を踏み出す重要な法律でございまして、将来の手続法全般の見直しのためにもぜひやり遂げなければならない改正であると信じております。国会におかれましては、この趣旨をぜひとも御理解していただくようにお願い申し上げる次第でございます。
  4. 戸塚進也

    戸塚委員長 三ケ月参考人、ありがとうございました。  次に、原井参考人にお願いいたします。
  5. 原井龍一郎

    原井参考人 原井龍一郎でございます。  私は、日弁連の推薦によりまして、法制審議会民事訴訟法部会委員として、本法案立案段階での審議に参画してまいりました。また、それと並行して、日弁連司法制度調査会及び私の所属しております大阪弁護士会司法委員会におきまして、法制審の毎回の審議事項につきあらかじめ討議を行い、その結果を法制審での審議に反映させるよう努めてまいりました。それらの会議での議論と、私の約三十五年に及ぶ民事弁護士としての経験を踏まえまして、本法案に関する意見を申し述べさせていただきます。  本法案趣旨につきましては、提案理由説明の中に第一ないし第三として簡潔に述べられておりますが、そのうち最も重要な意義を有するのは、第一の保全命令に関する審理及び裁判はすべて決定手続によるという、いわゆる決定主義採用したことではないかと思われます。私は、この決定主義採用保全事件に関する裁判実務に必ず好ましい影響をもたらすものであると確信いたしております。その理論的、制度的根拠につきましては三ケ月参考人の御意見に譲り、私は専ら民事弁護士として当事者立場に立っての実務上の観点から、その理由を申し述べたいと思います。  まず、保全命令申し立て段階審理についてでありますが、現行法においては、この段階審理方式口頭弁論審尋及び書面審理の三つとされ、そのいずれによるかは裁判所裁量にゆだねられております。そして、口頭弁論による審理が実施された場合には裁判は必ず判決により、これ以外の場合には裁判決定によるといった仕組みになっております。  これに対し本法案の定めるところでは、申し立て段階審理方式としては、同じく口頭弁論審尋及び書面審理の三方式が予定され、そのいずれの方式によるかについても裁判所裁量にゆだねているのでありまして、その限りでは現行法と全く異なるところはありません。ただ、審理がどのような方式によって行われた場合でも、つまり口頭弁論を開いて審理がなされた場合も含めて、その裁判は常に決定でなされるといった一点において現行法と異なることになるわけであります。  それでは、現行裁判実務口頭弁論を開き判決裁判をしている例がどれくらいの割合かと申しますと、これは極めて少数というのが実情でありまして、昭和五十四年から五十八年の五年間の司法統計によりますと、全申し立て事件の一・七%ということになっております。したがって、申し立て事件のうちの大部分については決定手続採用による影響を問題とするまでもないということになるわけであります。もちろん、そうだからと申しまして、現行法のもとで少数ながらも判決事件が存在したという事実を軽視してよいというわけではありません。従来、申し立てにつき口頭弁論による審理が行われてきた事例はほとんど例外なく仮の地位を定める仮処分事件であります。仮の地位仮処分では、仮処分申請の帰趨が直ちに当事者の命運を決定づけるような深刻な事案が少なくないことによるものと思われますが、実はこのような案件についても近年では、口頭弁論にかえて当事者双方立ち会いのいわば口頭弁論的審尋を開くという裁判実務の傾向が顕著になってきております。  なぜ口頭弁論を開かずにこのような形の審尋が行われるかと申しますと、現行法では一たん口頭弁論を開いてしまうともとには戻れず、審理が全面的に厳格な口頭弁論方式に縛られてしまって、保全処分の特質である迅速性が失われる結果を避けることができません。そこで、内容的には口頭弁論に近い実質を保持しながら、手続的には柔軟性を持たせて審理迅速化を図り得る双方立ち会い審尋という審理方式実務の知恵として生み出され、定着してきたものと考えられるのであります。その結果、大阪地裁では、過去十年間保全命令申し立てにつき口頭弁論が開かれた事件は一件もなく、東京地裁においてもそれに近い状況であると聞いております。  もっとも、このような実情にあるからといって、本法案において口頭弁論による審理の道を閉ざしてしまったわけでは決してありません。むしろその逆でありまして、決定手続における口頭弁論には、一たん開いても必要がなくなればいつでも審尋に戻し得るという特徴がありますから、例えば証人調べを実施する等必要なときにだけ口頭弁論を開き、それ以外の審理審尋によるといった柔軟な取り扱いも可能となるため、裁判所としては現行法におけるよりもかえって口頭弁論が開きやすくなり、あるいは双方審尋にかわってこれを活用する実務が生まれてくるのではないかとの期待も持てるのであります。  以上のように、申し立て段階審理決定手続化は、現行実務実態を踏まえ、その長所を生かして立法化したものということができるわけでありまして、当事者に対する手続保障を決して弱めるものではなく、むしろ口頭弁論の活用など現行実務以上に機能的かつ本格的な審理が可能となるのではないかと、その運用期待をかけている次第であります。審理決定手続化複雑事案の切り捨てにつながる等の非難があるやに聞いておりますが、本法案はむしろ複雑な事案につき迅速かつ適切な審理をいかにして実現するかを目的として構想されたものであり、そのような非難は全く的外れではないかと考えられるのであります。  次に、保全命令に対する不服申し立て審理についてでありますが、現行法では保全決定に対する異議申し立ても、事情変更等理由とする取り消し申し立ても、すべて口頭弁論に基づき判決をもって裁判がなされることになっているわけであります。そのため実務実情は、たとえこれらの不服申し立てをしても、その審理のペースが本案訴訟とほとんど変わらないことになるため、速やかな裁判は到底期待することができず、これらの不服申し立ては、誤った保全命令を受けた債務者救済手段としての機能をほとんど失うに至っていると申しても決して過言ではないのであります。そのため、さきに申しました司法統計によりましても、異議申し立ては全保全決定の二・四%、仮処分決定だけで見れば六・二%といった低率で、その利用度が非常に低いことが示されているわけであります。  そこで、本法案では、不服申し立て審理方式口頭弁論に限定せず、参考人尋問をなし得る双方立ち会い審尋を明文化し、事案に適した機能的かつ柔軟な審理手続を実現し、誤った発令に対する債務者の迅速な救済を可能にしようとしたものということができるのであります。もちろん、不服段階審理は、その性質申し立て段階に比して慎重性の比重が大きいことは申すまでもありませんから、審尋手続については一段と当事者手続保障に意を用いております。また、裁判理由についても、判決と同等の理由記載を義務づけて、裁判質的低下を招来しないよう配慮されておりますが、この理由記載の明文化は日弁連の強い要望に基づくものであります。したがって、不服申し立て段階審理決定手続化は、債務者の迅速な救済目的とするとはいっても、慎重性要請が基底に存する以上、安易、軽率な審理が許されないことは当然で、またそのための手続保障も設けられているわけであり、申し立て段階で相当な審理の上認容された決定が、不服申し立てにより簡単な審理で安易に取り消されることなど、法曹の実務感覚からしても到底考えられないところであります。  また、不服申し立てに付随した保全決定執行停止の規定を新設したことにつき批判意見が存するようでありますが、これは限定された例外的な措置として最高裁判例により認められていたものを明文化したものであり、その性格はまさに非常的救済措置であり、軽々に許されてよいものでないことは指摘されるとおりであります。ただ、従来執行停止が認められた事案は、無審尋で誤って発令され、その誤りが明々白々といった事案がほとんどで、申し立てにつき債務者審尋が行われた事案では執行停止の余地はまず考えられないでしょうし、今後もそのように運用されるべきであると考えております。  以上のほか、不服申し立てにより保全決定が取り消された場合の原状回復命令とか占有移転禁止仮処分第三者に対する効力の問題など、論議の対象となっている問題が幾つかありますが、既に与えられました時間が参っておりますので、後ほど御質問ございましたらお答えさせていただくことにいたしまして、私の意見陳述を一応終わらせていただきます。
  6. 戸塚進也

    戸塚委員長 原井参考人、ありがとうございました。  次に、森井参考人にお願いいたします。
  7. 森井利和

    森井参考人 弁護士森井です。  民事保全法案は、これは当然仮差押え仮処分に関する法案です。しかし、仮差押え仮処分を全く同列に扱うこともできませんし、また、仮処分の中にもさまざまな類型があります。その中には、不動産の処分禁止仮処分だとかあるいは占有移転禁止仮処分といったもののほか、特に労働事件で多く用いられております地位保全仮処分賃金払い仮処分があります。これらのさまざまな仮処分類型は、その事案に応じた審理方法裁判方法が基本的にはこれまで選択されてきたと言っていいだろうと思います。  民事保全法案審理方法を柔軟なものにするとされています。確かに制度としてはそのようになっているかもしれません。ところが、民事保全法案によって、これらの事案性格に応じた審理方法裁判方法選択が果たして現実に保障をされるのかどうか、これについて私は大きな疑問を持っています。特に最近の東京地方裁判所労働部実務運用やあるいは最高裁判所事務総局の編集をしました「労働訴訟審理について」という資料、そして裁判官の書いた論文を見るとき、かえって実務運用が硬直化するのではないかという疑問を強く持ちます。この点についてやや詳しく述べたいと思います。  労働事件についての仮処分手続は、仮処分の中ではやや特殊な位置を占めてきました。労働者が解雇された場合、この解雇を不当であるというふうに労働者が主張するとき、労働者側は多くの場合仮処分手続選択をしてきました。地位保全賃金払いを求める仮処分を申請するわけです。そして、比較的容易に判断できる場合には審尋手続によって、容易に判断できないような場合には口頭弁論手続によって判決がなされてきました。通常、双方の主張が真っ向から対立をしておりますため、通常の民事仮処分よりは時間がかかり、また書類も多くなってきます。比較の問題として言えば、通常の仮処分よりは本案訴訟に近いものとなっていました。そして、もし解雇が無効であると判断をされた場合、地位保全賃金払いが命じられてきます。賃金払いが命じられていく場合に、それは毎月の賃金額を本案判決確定まで、あるいは本案の一審判決があるまで支払うよう命ずるという内容が通常でした。この地位保全賃金払い仮処分は、幾ら本案化して長期化するとはいっても、やはり本案訴訟よりも早期に結論が出されてきます。もちろん労働者側が勝訴することも敗訴することもありますけれども、地位保全賃金払い仮処分は、不当に解雇された労働者にとっては最大の救済方法です。そして、これは通常民事仮処分とはやや異なる、一つの仮処分類型考えられてきました。仮処分命令を出すためには、解雇が無効であるということは当然の要件の一つですけれども、もう一つの要件である仮処分の必要性については、労働者が解雇され、生活に困っているということで必要性の要件は満たしていると判断されてきました。つまり、仮処分のそれぞれの類型に応じた必要性要件考え方がされていたわけです。  ところが、実は昭和五十六年ころからこの実務運用が一部の裁判所で変容をしてきました。その内容は、第一には原則として口頭弁論を行わないで審尋手続だけで判断をするという傾向です。第二には、解雇が無効であると判断をしても地位保全命令を出さず、賃金払いだけを認めるという傾向です。第三には、賃金払いの内容についても、仮払いをする賃金を最低限どの程度の生活費が必要かという観点から減額をします。その上、期間を半年とか一年しか認めないという傾向です。これは従来の取り扱いとは真っ向から対立するものでありますが、そのうちにだんだんこういうような裁判例がふえてきました。  また、昭和五十七年一月には「新・実務民事訴訟講座第十一巻労働訴訟」が刊行をされます。ここには裁判官が多数執筆をしており、このような傾向の論調を持つ論文を書いています。そして、後ほどわかったことですが、この時期、最高裁判所労働事件担当の裁判官を集めて裁判官協議会、裁判官会同を開いていました。昭和五十六年十月には中央協議会、昭和五十七年六月から七月にかけては各高等裁判所管内で裁判官会同が開催をされます。ここで議論をされた結果が後に労働関係民事行政裁判資料二十九号「労働訴訟審理について」という裁判所の部内資料で、ここには先ほど裁判所の一部にあらわれた傾向として申し上げたことが記載をされています。  例えば、「労働仮処分事件につき、本案化傾向を避けるため、どのような方策を採っているか。」というテーマの「協議の結果」としてまとめられているものの中に、次のような部分があります。  「労働仮処分事件の場合も、通常の民事仮処分事件の場合と同じように簡易迅速な仮の救済制度という性格に徹した審理のあり方に近づけていくということが裁判所にも要求されるようになってきている。」「仮処分の暫定的な仮の救済制度という性質を強調していくと、最も純粋な労働仮処分の姿というのは、例えば、解雇されたために収入の道を失った労働者が他で収入を得る道を探すのに必要な期間だけ、その生活に最低限度必要な金銭上の救済を与えるといった形のものになってこよう。つまり、例えば、六箇月とか一年間という短期間に限って賃金の仮払を認めるといった内容の命令が最も仮処分らしい仮処分だということになってこようかと思われる。」、このように記載をされています。  これは、労働仮処分について、その事案にふさわしい審理方法裁判内容を選択しようというのではなく、硬直的に通常民事仮処分と同一化しようとする考え方であります。  そのほか、判例時報の一二七〇号には、東京地方裁判所労働部に在籍をいたしました裁判官が書いた論文がありまして、このような傾向が述べられています。  ところで、民事保全法案審理迅速化を図るためにすべての手続決定手続に純化しようとしています。通常民事仮処分をモデルとする限り、この法案の問題点はそれほどはっきりはしません。しかし、通常民事仮処分とはその審理方法も判断方法も異なったところがありました労働仮処分に、民事保全法案を硬直的、画一的に通常民事仮処分と同一に適用するならば、事案性質に応じた適切な審理方式選択するという立法趣旨は生かされないことになります。労働仮処分を通常民事仮処分と同列に考えていくべきであるという考えを持っている裁判官は、この法案を前提とするとき、ますます硬直的、画一的に労働仮処分運用することでしょう。現に、今でさえそのような傾向が一部にあらわれているのです。  そこで、こういったような予想される弊害を除いて、法案立法趣旨である事案性質に応じた適切な審理方法選択することを可能にするためには、私はこれから述べますような修正を加えていく必要があると考えています。  第一には、賃金払い仮処分については、必要性の推定規定を置くという点です。つまり、賃金全額を本案判決確定まで、あるいは本案の一審判決まで支払う必要があると推定をするという規定を置くのです。もちろん、賃金請求権があることを前提にしてのことでありますから、解雇が有効な場合にはそもそもこの推定規定は働く余地はありません。また、推定規定ですから、反対の立証をすることによって推定を破ることができますので、実務が硬直化するということもありません。  第二番目に、地位保全の必要性の推定規定を置いて、その効力を明文で規定をするのが妥当だろうと思います。解雇が無効であると判断されても、地位保全まで認める必要がないという見解の根拠の一つとして、地位保全は任意の履行を求める仮処分であり、強制力がないという点にあります。しかし、使用者に対して直接の強制力がなくても、実効性のある仮処分とすることは可能です。  この法案提案理由説明に、利用頻度の高い仮処分について、その執行方法及び効力を明確化するということが記載をされています。地位保全仮処分もまた利用頻度の高い仮処分類型です。また、この地位保全仮処分効力については、特に後の裁判所を拘束するかという点について実務が混乱をしていました。そこで、地位保全仮処分が使用者及び後の仮処分を担当する裁判所を拘束するという規定を置いて、その効力を明確化すればいいのではないかと考えております。そうすれば、解雇が無効と判断された場合、効力がはっきりしない仮処分であるから仮処分の必要がないとして地位保全を認めない理由もなくなります。そこで、地位保全の必要性があるとの推定規定を置く。とすれば、実務が混乱をすることもありませんし、硬直的な実務運用を避けることも可能になってきます。  第三番目に、現に硬直的、画一的な実務運用が一部で行われ、それが裁判官会同等を通じて広まりつつあるという現状から、法案趣旨である事案性質に応じた適切な運用期待しているという点を明確にする必要もあるだろうと思います。  第四点として、この法案におきましては、仮差押え仮処分の申請人、つまり債権者だけの審尋によるか、それとも相手方である債務者も呼んだ双方審尋によるか、あるいは口頭弁論によるかの決定裁判所の判断に任せられることになっています。ところが、権利仮処分段階で実現してしまうようないわゆる満足的仮処分については、もし一方だけの意見決定が出されては、もし誤っていた場合、相手方に与える打撃は大きいものがあります。そこで、このような満足的仮処分については債務者意見を聞くことを原則とするのが妥当であると思います。  第五番目に、この法案では、物の引き渡しだとか金銭の支払い仮処分で命ぜられた場合、その仮処分が異議で取り消されたときには、それを利息つきで返還することを命じなければならないとなっています。しかし、仮処分異議もまた簡易な手続でありまして、決定手続によって行うというのが民事保全法案ですから、これもまた仮の裁判であります。本案裁判判決手続によって審理をされた場合に、やはり異議の方が間違っていたということは大いにあり得ることです。そこで、必ず返還を命じなければならないとするのは少し行き過ぎでありまして、異議を担当した裁判所が返還を命じることができるとすることにとどめておけばいいのではないかというふうに考えております。  第六点の問題といたしまして、執行停止については、明白な事情があるというふうに限定をすべきであるというふうに考えております。  そのほか、十一条、六十二条につきましても問題があるというふうに考えておりますが、ここでは意見は省略をいたします。  最後に申し上げたいことは、法案の提案理由にもありますように、事案性質に応じた審理方式、判断方法を保障する手だてを講じていただきたいということです。裁判官に対して全面的に委任をするのではなく、仮差押え仮処分制度事案に即した運用がされるよう法律を整備していただくことを要望いたしまして、私の意見陳述を終えさせていただきたいと思います。
  8. 戸塚進也

    戸塚委員長 森井参考人、ありがとうございました。  次に、上条参考人にお願いいたします。
  9. 上条貞夫

    上条参考人 弁護士に登録以来今日まで三十一年余り、私は専ら労働裁判労働事件にかかわって仕事をしてまいりました。その中で見聞きした具体的な事案を振り返りながら、法案にはたくさんの問題点もありますけれども、時間の関係で一点に絞って意見を述べる次第であります。  最大の問題は、口頭弁論原則と例外を法案は逆転させました。ここであります。実例を二つ、複雑な労働仮処分事件地位保全仮処分について指摘したいと思います。  一九五八年、ある解雇事件が起こりました。その社長が相手に言うには、君を解雇しないと親会社からうちの会社がつぶされる、あの委員長を首切れという圧力があるからやむを得ずということだったのであります。こちらは驚きました。労働者にとって、その会社とさらにその奥にある親会社の内部関係がどういう話し合い、からくりなのかさっぱりわからないわけであります。事実論においても、また法律論においても大変複雑な事案でありました。東京地裁労働部は、当初公開の法廷で、審尋の中で証人尋問を行い、やがて口頭弁論に移行して、判決まで提訴から約半年であります。請求棄却。問題は、この控訴審の手続であります。私がこの事件を申し上げるのは、私が弁護士になって初めて担当した事件であるので印象は強烈でありますが、控訴審の口頭弁論で初めて会社側証人に対する十分な反対尋問の結果、つぶれる瀬戸際ではなかったという根本問題がようやく解明されました。原判決取り消し、請求認容の判決であります。主文は、従業員として取り扱い、本案判決確定に至るまで賃金相当額を毎月支払えということであります。この口頭弁論手続がなかったら、このような入り組んだ解雇のからくりを解明することは不可能であった、そのことを改めて思う次第であります。  ちなみに、この事件、会社は引きませんでした。高裁で負けても最高裁に特別上告、これが棄却。そして、起訴命令申し立てによって一審から最高裁までもう一回、一審、二審、三審。本案判決確定まで、解雇から十三年を要したわけであります。相手が引かない、こういう場合、労働者はやめるわけにいきません、生活がかかっていますから。その長い長い裁判を辛くも支えたのは、生活を支えたのは、本案判決確定に至るまでというこの高裁の仮処分判決であったわけであります。これが地位保全仮処分の最低の権利保障としての効用であります。  もう一つ、一九七六年、企業ぐるみの集団暴力を受けた一人の女性が解雇されました。何人かの男性と一緒に解雇されたわけですが、問題は世間の目の届かないビルの中、いわば密室の中の集団暴力です。芝信用金庫というところで起こった事件であります。みんなで取り囲んで、ばばあ、気違いとなじる、ぞうきんを口にこすりつける、肩を殴る、腕をつねる、頭を書類でたたく、退社時刻になっても帰さないで、さらには階段から突き飛ばすという事実。ついにこの女性は相手方を告訴しました。これに対して会社は、そういう事実は全くない、事実無根の告訴で名誉、信用を失墜した業務妨害と言って懲戒免職にした。この仮処分手続の中であります。金庫は驚くことに全面否認をいたしました。問題にされた暴力を振るった従業員たちは、彼女とは席が離れていて、あるいは外出していてそばにも寄っていないのだ、全くのうそ、でたらめな告訴だというのが仮処分審理の主張であり、また、金庫側の山ほど提出した陳述書の繰り返された事実の指摘でありました。これは全くのうそなんですが、その事実関係を一点の曇りもなく解明したのが、これは審尋手続ではありましたけれども、大事なのはここなんです、公開の法廷における審尋手続、そうして、とりわけ対質尋問を含む交互尋問が集中して行われました。さらに、彼女が暴行を受けておる最中、服の中にひそかに入れて必死の思いで録音した現場のテープが再生されました。審尋手続口頭弁論に近いこういう形で実際に尋問権が保障され、そうして、極めて早期に真実が解明され解雇無効の決定が下ったわけであります。  要するに、当事者の主張が鋭く対立している事実論、法律論の複雑なケースは労働事件には数多いわけであります。複雑で、しかし密行性を要しない事件では、口頭弁論かあるいはそれに近い審尋、つまり公開の法廷、直接口頭で、そして人証に対する尋問権、これが運用の中で実績として残されてきた地位保全仮処分の経過であります。それでも——これも重要な点であります。それでも初めから本案裁判を起こすよりははるかに時間が早く済む。これもまた実務の常識でありました。労働者とすれば、多少時間はかかっても、つまり、書面審理よりは時間はかかっても、不当な兵糧攻めから本人と家族を支えるために、即効性を持つ唯一の制度としてこの仮処分をよく利用してきました。そこでは迅速性とともに中身に立ち入った充実した審理が必要で、あるいは口頭弁論、あるいは口頭弁論に近い審尋、この二つの典型例を申しましたけれども、こういう実績が行われてきたわけであります。  先ほど森井参考人も指摘されましたように、ところがこの数年来、これに対して妙な状態が現実に首都東京の東京地裁から始まってまいりました。内容は、先ほど森井参考人が述べたところを時間の関係でそのまま引用いたしますけれども、要するに、裁判所部内で、仮処分は本来権利保全のための手続であるにもかかわらず、これは仮の暫定的な制度だということを強調する。だから、認める場合でも、賃金本案判決どころかごくごく短期間に値切る。先ほど森井参考人も引用されました昨年の判例時報一二七〇号のある裁判官の論文は、私たち、これは人間の言葉かと目を疑ったわけでありますが、こう言っています。「解雇撤回活動に熱心のあまり、これに明け暮れ、多額の解決金の支払いを要求するなどして妥協を知らない場合は、まるで闘争資金を援助するかのごとき様相を呈する」。賃金を認めるとこうなると言うのです。「本案判決確定に至るまでの期間認容する仮払いの必要はない」ということまで言っている。こういう傾向の中で今回の保全法案が提出されました。  私は、前回二十一日の審議の中で泉最高裁行政・民事局長が、いや、この裁判官協議などと本法案は関係ない、これは動機にはなっていないと言いますけれども、動機になったかどうかはさておき、現実にそのような本来の最低限度の生活の窮迫を救うために機能してきた、審理方式についても実績が定着してきたその仮処分方式を、今回の法案は、次に端的に指摘しますように、吹き飛ばすわけであります。そういう傾向とそれから一連の司法部内のこの動きとはぴったりと合っている。ここを無視して、私はこの法案を抽象的に論ずることはできないわけであります。  前回二十一日の法案審議の中で、藤井法務省民事局長は、命令申請段階の九条、それから異議申し立て不服申し立て、不服手続段階の三十条にかかわって次のようなことを述べられました。時間の関係で結論を要約いたしますと、要するに命令申請の段階では証人尋問はおろか参考人の尋問すらしないということ、専ら書面審理プラスアルファの審尋。この審尋たるや、これは公開を必要としないというのが商事法務研究会の、恐らくは法務省当局の意向をそのまま反映していると思われるNBL誌の本法案の解説に載っているところであります。  それからもう一つ、不服申し立て段階の三十条。なるほど口頭弁論または審尋とあります。ここでも、民事局長の話で私もなるほどそうかと思ったのは、口頭弁論を開いても、本法案特徴は、一回は開くのだと、一回はというところを強調されました。これは印象的でしたね。つまりぱっと開いて、国民立場から見れば、問題の複雑事案については中身に立ち入った審理が欲しい、ようやく裁判の扉が開かれたと思ったらぱっと閉じられる。この程度にしか法務省当局は考えていないことがわかりました。  先ほど私は二つの例を挙げましたけれども、原則的に口頭弁論制度があったからこそ、複雑事件では口頭弁論かあるいは口頭弁論に近い審尋によって初めて事件の真相が解明されたわけであります。法案のようにこういう手続がいずれも保障されなくなるとき、例えば、親会社の圧力というカムフラージュのもとに不当解雇したり企業ぐるみの集団暴力を公然とうそで塗り固めるような社会的強者に対して、労働者の正当な権利仮処分手続によっては到底救済されないことになります。支配力を持ち、財産と証拠資料を独占する社会的強者のための絶好の武器にしか使われないことは、私は三十余年の経験からここは厳しく指摘するわけであります。それは恐らく労働事件に限らず公害、建築紛争等についても同様の事態、社会的強者のために利があり、社会的弱者が決定的に不利益を受ける、そういう制度に転化していくことは目に見えているのであります。  次に、法案は、口頭弁論を開かないいわば軽い決定手続仮処分手続の主軸に据えました。そこから取り消しについても、現行法での必要的口頭弁論の規定を改めて、審尋だけで取り消し可能となりました。二十九条であります。これは問題であります。せっかく保全された権利がこうしていとも簡単に取り消される。それは権利保全という仮処分制度の崩壊を意味するわけであります。  最後に、改めて今回の法案は、現行法の基本構造を、つまり口頭弁論原則、そして急迫の場合には口頭弁論を経ないで決定でできるというこの基本構造を逆転させる総則規定の第三条、ここに最大の問題があるわけであります。  過日、自由法曹団労働問題委員会民事保全法案修正要求を文書にまとめ、これを公表し、そして関係者各位にお送りいたしました。本日ここに持参しております。時間の関係でこの内容についての詳細は省きますけれども、一点だけ述べますと、まず最大の問題の第三条、この任意的口頭弁論は、これはこのままでは到底納得できません。ここに同条二項を追加する、つまり「事案性質、内容が複雑であり、もしくは執行により重大な結果をもたらす仮処分事件については、前項の規定にもかかわらず、口頭弁論を経なければならない。ただし、急迫な場合にはこの限りでない。」まずもってこれが根本的な修正で、ここが法文に明記されない限り、私はこの法案は廃案とされるべきだと思うわけであります。念のためにこれは皆さんに資料を配付いたしますが、この三条のほかにも自由法曹団労働問題委員会では数々の問題点について、ここは最小限度修正が必要だ、これがない限りこの法案は廃案とすべきだという見解が述べられております。  その余の、三条以外の問題点について、私もこの自由法曹団労働問題委員会の修正要求の見解に一致した見解を持っていることを付言いたしまして、私の意見といたします。
  10. 戸塚進也

    戸塚委員長 上条参考人、ありがとうございました。  速記をとめて。     〔速記中止〕
  11. 戸塚進也

    戸塚委員長 速記を起こして。  以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。     ─────────────
  12. 戸塚進也

    戸塚委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。逢沢一郎君。
  13. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 自由民主党の逢沢一郎でございます。  参考人の先生方には、きょうはお忙しい中お出ましをいただきまして、本当にありがとうございました。私に与えられた時間がわずか十五分ということでございますので、早速質問に移らせていただきたいというふうに思います。  まず最初に三ケ月参考人にお伺いをするわけでございますが、私ども一般の複雑な裁判手続に素人な人間、一般国民と言ってもいいかと思うわけでありますが、いわゆる裁判というと、公開の法廷における審理でありますとか判決というものをまず頭の中に思い出すわけでありまして、決定手続というふうなものには余りなじみがないというのが正直言って率直なところではなかろうかと思います。  民事手続の全般にわたって見た場合には、紛争性があって内容の重要な手続にはどの程度決定手続が利用されているのか、あるいはまた、そうした中でこの民事保全法案はどんなような特徴を持った手続となるのか。いわゆる一般の素人に対して、こうなんだといったようなことで的確にお答えをいただきたいというふうに思います。
  14. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 ただいまの御質問にお答え申し上げます。  確かに現在の裁判というもの、ひいてそれに国民が持っておるイメージといたしますと、裁判というのは公開の法廷で口頭弁論を経てするものだというふうな考え方が非常に強いわけでございまして、それは旧憲法にも裁判の公開の規定というのがございますし、それは新憲法にも引き継がれていることは御承知のとおりでございます。  これはしかし、十九世紀の憲法には多くそういう公開の法廷、口頭弁論判決手続というものを保障することが公平な裁判保障そのものであるという考え方が強かったわけでございますが、二十世紀になってまいりますと、憲法の保障も、決して公開の法廷で判決でやることが公平を保障する唯一の手段ではなくして、むしろ事案性質に応じたいろいろな裁判の形態の中で、どれによったら一番実質的に公平かつその目的に応じた裁判がなされるかということを保障することこそが大事であるというわけで、むしろ裁判はそういう実質的な保障にと移っていく傾向があるわけでございますし、日本もまた、憲法の保障の条文の外ではございますが、単なる普通の訴訟と違いました新しい手続がどんどん出てまいります。例えば破産手続が出てまいります。更生手続が出てまいります。いろいろと家事審判の手続が出てまいります。こういうふうな手続につきましては、実は全部が全部と言ってもいいくらいこれは判決でやるという方針は捨てておりまして、日本の現行法におきましても全部決定手続が進出してきているわけでございます。  ただ、その決定手続というふうな中の手続保障が弱いという面がございますので、それぞれの決定手続の中で、この手続での決定手続はここいら辺までのところの保障が必要であろう、これはここら辺までしなければいかぬではなかろうかというふうな形で、いわば個別化してまいるというのが世界立法の動向でもございますし、日本の立法の中にも少しずつそういう形の動きが出てくるわけでございまして、日本の司法手続も、判決手続と公開の法廷だけ保障していればこれでいいんだという考え方だけではもはやいかなくなってくる時代ではないだろうか。  そういう面から見ますと、例えば既に出ました民事執行法もその決定手続でございますが、その中にもいろいろと執行抗告というふうな新機軸が出ております。また、今回の中でも保全手続というものに対応いたしましたいろいろな審理の弾力化と不服申し立ての個別化ということがなされておりまして、私は、むしろ今回の民事保全法のそういうふうな態度というものは手続法全般世界的な流れに沿っているものである、こういうふうに信じておるわけでございます。
  15. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 先生は先ほどの意見陳述の中で、今回は将来に向けての第一歩なんだ、そういう趣旨のことをおっしゃったわけでございますけれども、今回の民事保全法案というのは将来の我が国民事裁判手続の動向の中で、そういう大きなレンジの中で見た場合に、一体どういう意味合いを持つのか、あるいはどんな位置づけに当たるのか、そこのところをお伺いいたしたいというふうに思います。
  16. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 これも非常に大きな問題でございます。  私も、大きな訴訟手続全般の流れは、現行法建前よりはもっと諸外国の立法が既に実現しておりますように弾力化し個別化し、むしろ審理の実質を確保するように進んでいくべきであろうと思いますし、その点では将来民事訴訟手続全般もやがて見直しをしないことには、先ほど私述べましたように今日本の裁判は日本だけの問題ではなくなりまして、国際交流が激しくなってまいりますと、法的な交流の一環として諸外国からもいろいろと違いが指摘されるようになってまいりますことは必然だと思います。そういうことからまいりますと、民事手続全般の近代化、見直しということは避けられないと存じますが、これは何と申しましても大問題でございまして、まずそこから手をつけるというふうなことにつきましては、かなりの準備期間とそれから検討が必要でございます。  これに比べまして、ここの、そこにいくまでのつなぎと申しますか、暫定的な権利保護を図る制度というふうなのがまさにこの仮差押え仮処分でございまして、そういうふうなところでは、むしろ本案手続について今申しましたように要求されるであろういわば新しい動向というふうなものをもっと大幅に拡充しつつ、そうしてそれを取り込んでいくことが法的な制度のバランスから申しましても十分可能な分野でございまして、そういうふうな面でやはりこの民事保全手続は将来の民事訴訟手続を弾力化していく場合の一つの大きなステップになり、先例となり、ここでいろいろと築き上げられた経験というものが必ずや今後の民事訴訟手続全般の大きな弾力化の動き、あるいは、もう少し申しますならば世界の普遍的な流れへの接近というものについて大きなステップになるのである、立法に参画いたしました者としてはそう確信している次第でございます。
  17. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 ありがとうございました。  それでは次に、原井先生にお伺いをいたすわけでございますが、先生は日本弁護士連合会のいわば代表選手というお立場法制審民事訴訟法部会委員として長い間御活躍をいただいたわけでありますし、特に今回の民事保全法案検討について深くかかわっておられるわけでありますが、率直なところ、弁護士会の先生方のいわば意見というものが十二分に今回の法律改正の中に生かされているのか、あるいは、弁護士会というお立場として今回のこの法律改正をどういうふうに眺めておられるのか、率直なところをお伺いをいたしたいというふうに思います。
  18. 原井龍一郎

    原井参考人 ただいまの御質問にお答え申し上げます。  先ほどの意見陳述でも申し上げましたように、私は日弁連の推薦によりまして法制審議会の委員として準備会、小委員会、部会と六十回を超える審議に参画してまいりました。そして、日弁連におきましてはそれに対応いたしまして司法制度調査会の中に部会を設けまして、それと同じ回数その審議事項についてあらかじめ検討して、私が法制審議会の会議に臨むといったことを丸四年間継続してまいったわけでございます。それで最終的には、法案要綱に対しまして司法制度調査会としては大綱においてこれに異議はないという意向を表明されましたので、私はそれを法制審議会の方へお伝えしたということになるわけでございます。  しかし、会議審議の過程におきまして、特にこの審理裁判制度決定手続化につきましては当初弁護士会の内部では相当消極的な意見が多かったように思います。それは一つには、現在の民事訴訟法における決定手続というものが非常に付随的な位置づけであるということで手続規定もほとんど設けられておらない、したがってそれは非常に粗雑な、簡易な手続であるという印象が非常に強かったということ、それからまた、決定手続というものは非常に職権的で行われるのではないかという疑問、さらに、まだ初期の段階ではこの民事保全法の改正が志向する方向が余り具体的に示されておらなかったということで、この改正検討事項について法務省が各界に照会をいたしました段階では、全国各単位会の中でこの決定手続化に賛成の意向を表明したのは東京弁護士会ただ一会のみであったという状況でございました。  しかし、審議が進みましてこの改正の方向が次第に具体的に明らかになってくるにつれまして、やはり決定手続、特に審尋手続の中において手続保障をどれだけ充実させるかということがポイントであるという認識が行き渡りまして、日弁連司法制度調査会の中の傾向も、その審尋手続の中身が充実されれば決定手続化もいいのではないかといった方向が次第に顕著になってまいりました。それで、日弁連の最終意見書をまとめる段階におきましては、先ほどもちょっと触れましたけれども、決定における理由記載の義務づけ、未特例判事補の関与の排除、それから審尋手続の内容の充実、この三つを条件といたしまして、決定手続化について必ずしも反対ではないという意見書を提出したわけであります。さらに最終段階におきましては、それらの日弁連要望が実質的にはほとんど入れられたということで、日弁連としてはこの改正に異議はないという意見を表明した次第でございます。
  19. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 続いて、もう一点だけお伺いをしたいわけでございますが、今回の民事保全法案命令を発する手続にいわゆる抜本的な改正を加えているわけなのですけれども、労働仮処分のような複雑な事件民事保全手続から排斥をしてしまうのではないかといったような声でありますとか、裁判そのものが拙速に陥るのではないかといったような声が一部かもしれませんけれどもまだまだ残っているようにも思えるわけでありますが、裁判実務上の観点からとらえてみた場合に一体どういうふうにこの部分についてお考えになっておられるのか、お伺いをいたしたいと思います。
  20. 原井龍一郎

    原井参考人 お答え申し上げます。  先ほどの意見陳述でも申し上げたのでございますけれども、特に申し立て段階審理におきまして三つの方式口頭弁論審尋書面審理がございますが、それをどのように事案性質に応じて採用していくかということは裁判所裁量にかかっておるわけでございます。そして、特に迅速化を生命といたしますこの保全事件におきましては、手続が非常に硬直したものである場合はそれだけ審理がおくれる。三ケ月参考人も申されましたように、この保全事件においてはその事案に応じた柔軟な審理手続ということが絶対的に必要でございまして、殊に現行法に比べましても、この法案のもとにおきましては、例えば口頭弁論にいたしましても裁判所としてはその方式採用しやすい。森井上条参考人口頭弁論が排斥されるというふうな御意見でございますけれども、私は、むしろ運用によってその逆の方向ということを望み得るのではないかと考えておるわけでございます。したがって、これは複雑事件が排斥されるというよりも、複雑事件についてより柔軟な適切な審理が行われるようになるということを、私は実務家として期待をも持ち、また希望も持っておる次第でございます。
  21. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 大変ありがとうございました。  時間も迫っておりますので森井参考人に一点だけお伺いをいたしたいと思うのです。先生は弁護士として一般の民事事件にもかかわっておられるということでありますが、一般の民事事件の観点から見た場合に、今回の民事保全法案では処分禁止仮処分でありますとか占有移転禁止仮処分について規定を設けて、仮処分第三者に対する効力をきちんと明確化をしているわけなのですけれども、この点について先生のお考えを簡単にお伺いいたしたいと思います。
  22. 森井利和

    森井参考人 処分禁止仮処分について第三者に対する効力を明確化しているという点についてですが、私、その意図といたしましては賛成であります。ただし、問題は、その第三者意見を述べる機会を保障されるかどうかという点であります。第三者意見を述べる機会を十分保障されていくということであれば、その効力の拡張自体につきましては私は異議はありません。
  23. 逢沢一郎

    ○逢沢委員 ありがとうございました。
  24. 戸塚進也

    戸塚委員長 坂上富男君。
  25. 坂上富男

    ○坂上委員 三ケ月先生、いつもいつも御苦労さまでございますが、この民事保全法というのはドイツ法律は相当取り入れてありますか。
  26. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 私が申し上げましたのは、明治二十三年にできました現行法のときは、多少手直しをいたしましたがドイツ民事訴訟法をほとんどそのまま取り入れております。これに対しまして、やはりドイツと日本とでは法律家の数も違いますし裁判というものの考え方も違います。日本の裁判の中で仮差押え仮処分が、これはここにいらっしゃる原井参考人の事務所の吉川大二郎という保全処分の非常に偉い実務家であると同時に学者でもある先生がいらっしゃいましたが、その先生がくしくも言われましたことは、ほかの裁判手続はもうほとんど遅くてしようがないけれども、わずかにそれを支えている唯一の柱がこの仮差押え仮処分制度である、というぐあいな形で日本では運用されてまいりましたものですから、おのずから日本特有のいろいろな創意工夫というものが、このわずかの条文をもって規律される仮差押え仮処分制度の中に持ち込まれてまいりました。  したがいまして、いわば日本人の知恵とでもいうべきそういうふうな蓄積とドイツの現実の運用との間にはかなり違いがあるのは当然でございまして、現在の時点で民事保全制度を立案いたしますとするならば、かつて明治の中ごろにドイツの行き方を取り入れたのとは違いまして、日本の十分の蓄積された経験を盛り込むという形の立法になるのが自然でございまして、そういう意味におきましては、このたびの民事保全法の中にドイツ法影響を直接参考にしたという部分は非常に希薄になってまいりまして、ドイツ離れは非常に進んでおる。これは恐らくは今後の日本の民事手続法全般の大きな流れになるだろうと思いますが、そういうふうな点の一つの端緒になっていると思うわけでございまして、その意味におきましては、ドイツ法離れする反面に、日本が積み上げた占有移転禁止仮処分のことであるとかあるいは処分禁止仮処分であるとかあるいは執行停止の規定であるとか、こういうものをむしろ取り込んできた、こういうふうに私は観測しておるわけでございます。
  27. 坂上富男

    ○坂上委員 複雑事件と言われておりますが、三ケ月先生と原井先生にお聞きしたいのですが、ドイツでブロックドルフ原発の執行停止といいましょうか、仮処分による停止がありました。先生方、これについて御意見いかがでしょうか。本当に原発をドイツ裁判所はぴたっととめるのですね。しかも、私らはその弁護士に会ってきたのですが、二十日ぐらいでとめちゃうのですね。どんな資料でとめたのだろうかと思ったら、私たちが書いておりまするところの準備書面程度のものでとまっているのですよ。また、行ってみて、私ら、裁判官に会った。気楽に会うのですね。それから、法廷でジュースや、ビールは出なかったですが、なんかを並べまして、それで僕らと懇談をするのですね。これは行政裁判所というのでしょうか、あるいはそれとの区別があるのか私は余り勉強してないのでわからないのですが、本当にびっくりしたわけでございます。  こういう意味におきまして、原発の停止は複雑事件だろうと思うのです。私も新潟で原発停止の仮処分を出しているのです。仮処分といいますか原発建設の停止の仮処分申請を出しているのですが、これはうんもすんもありませんが、こういうような複雑な事件は今度はこの法案によって出しやすくなるのでございましょうか。三ケ月先生、いかがでございましょうか。
  28. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 どのぐらいの事件が複雑で、どのぐらいがそうでないかわかりませんのですけれども、そういうふうな形、今先生のおっしゃいましたような訴訟のプロセスを私は必ずしもよく存じておりませんが、そう簡単にわずかの書類でもって二週間か三週間で原発をとめるというふうなことがひょいひょいと飛び出る裁判がいいのであろうか、それともそれだけの事件でありますならばもう少しじっくり時間をかけて、国の政策等々もかみ合わせながら十分な判断をした方がいいのであろうか、これは国民裁判に対してどのようなイメージと期待を持っているかということによって違ってくるわけでございまして、ドイツ人はあるいはそれで納得しているのかもしれません。しかし、もし日本でそういうことをしたならば、これは非常に大きな不安をかえって国民の間に巻き起こすのではなかろうか。ドイツでこうやっているからそのとおりの方がいいのではないかとは私は直ちには鑑定、判定できないのでございます。  ただ、今申されましたことの中の一点は、複雑な事件だからといってだらだらいつまでも、特に仮処分保全処分段階でだらだら引っ張っているようでは国民はかえってがっくりするのではないだろうか、それならやはり、本案のがっちりしたものはともかくとして、保全段階では保全制度から期待される密度と迅速性をもって処理していくというのが保全本案とのバランスからいって適当ではなかろうかというふうに考えるわけでございまして、仮にそういたしましても、原発をとめるかどうかという複雑な事件になりましたら、今の制度のもとにおきましてもまた新しい制度のもとにおきましても、必ず口頭弁論を開くなりあるいは審尋をするなり両者を組み合わせるなり、まあ反対尋問はたくさん出てくるなり、こういうふうな形の運用にならざるを得ないのではないだろうか。逆に、もっとうんと簡単でいいものは、本当にまさに保全制度趣旨に応じまして、むしろ本案が後に控えておるわけでございますから、どんどんとやる。こういうふうにいわば難しい事件と簡易な事件というふうなもののふるい分けというふうなことが進んでいき、それを我々国民が監視してかじをとっていくならば、ドイツとはまた違った非常に日本的な仮処分制度運用の基礎が築かれるではなかろうか、私はこう考えておるわけでございます。
  29. 坂上富男

    ○坂上委員 原井先生、いかがでしょうか。
  30. 原井龍一郎

    原井参考人 今三ケ月参考人が申されましたところとほとんど同様でありますけれども、私はドイツ裁判実情についてはほとんど存じておりませんし、また先生の申されました事件についても、内容についてそう詳細に承知しておるわけではございません。しかし、もし日本で同様な事件が提起されました場合に、今三ケ月参考人も申されたところでありますけれども、申し立て段階におきましても、先ほど私が申しましたが、口頭弁論方式が恐らく裁判所としては選択され、また、日本の裁判所の多くの裁判官が非常に誠実にこの事件審理に取り組まれるであろう、そして、こういった価値観の対立の非常に顕著な事件につきましては余計に誠実に取り組まれるであろう。したがって、こういった事件ドイツにおきますようにそういった短時日で命令が出されるといったようなことは、私ども実務の感覚としては、日本においてはあり得ないのではなかろうか。しかし、かといって日本の裁判におきましてこういった問題が、裁判所がその審理を回避するとかそういったことは、私は今までいろいろ公害事件などにも関係してまいりましたけれども、裁判所は非常に公平な立場において事件の解明に当たるという立場を貫いておられますので、私といたしましては、やはり同様な立場裁判所としてはこの審理に当たられるであろう、かように考えております。
  31. 坂上富男

    ○坂上委員 今のお話でございますが、参考人のお話の中には、日本でこれをやったら混乱するんじゃなかろうかというようなお話もありますが、私はドイツへ行きまして非常に合理的だなと思ったわけでございます。  今言ったように原発の是非、危険性というようなものについてはそれほど判断しないで、いわば仮処分執行停止の部分でございますから、電力事情の必要性を判断しているのですね。今そんなにせっぱ詰まっていない、したがって今とめたからといってそれほど国民に深刻な影響を与えない、これでとめているのですね。私は本当にびっくりしたのです。びっくりというか、感銘したのでございますが、そんなようなやり方です。日本だともう真正面から、いや原発に反対するやつは冷房を使うな、冷蔵庫を使うなみたいな話がよく出てきております。だけれども、ドイツというのはそういう点では大変合理的で、ここ三、四年はこの原発をつくったからつくらぬからといって電気が不足するということは想像できないから一応とめます、こういう話で、私は大変感銘を受けたわけでございます。  やっぱりあれじゃないでしょうかね、私たち国民が求める、例えば水俣病あるいは、スモンはほぼ解決をいたしましたが、筋短縮事件、こういうような事件も、少し損害金を仮に払いなさいという仮処分なんていただけないのが現状ですね。それで水俣病の諸君でも筋短縮の諸君でも、いわば薬害の被害者でございますが、本当に生活に困りながら裁判を続けているわけですよ。こんなようなものもいわば損害金支払い仮処分なんて出していいんだろうと思っているのですが、私たち日本の裁判では不可能な状態なんでございますが、こういうようなのもやっぱり民事訴訟法改正になりましたらだめでございましょうか。いかがでしょう、両先生から。
  32. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 仮処分でそう簡単に金を払えということが、仮に被害がこうであるからそれで払えと言って、例えば私企業を相手に金を払わしめるということがいいのであろうか悪いのであろうか、これはまさに見解の分かれるところではなかろうか。私も、ある大きな公害事件で上告まで参りまして、やっと上告で逆転の和解を確保いたしました。これは前に金を取られちゃった、数百億の金を取られたのですが、それをとにかく放棄するという形で和解したわけでございます。裁判所は、やはりその場合に金を返す義務があるんだ、しかし強制執行で取り上げることはしないという形の和解になったわけでございます。そういう事件があるということは、やはりまだ必ずしも判決が決まってない時点において、現実のその給付をそうひょこひょこ命ずることが果たして正義に合致するのだろうか。  これは恐らく見解の分かれるところでございましょうし、世界観の問題でございますが、私は、やはり裁判というものは最終段階で決まった場合にはだれもこれに従わなければならない、本案判決が確定したならば従わなければならぬけれども、やはり仮の段階、仮執行の段階であるとか仮差押え仮処分段階におきましてはまだまだ司法は謙抑であってしかるべきではないか、またそれの方が国民大多数の信用を得るのではないか、私はそういうふうに考えております。
  33. 原井龍一郎

    原井参考人 先生が被害者救済立場から、そういう非常に温かいお気持ちで問題提起をされたであろうということはよく理解できるわけでございますけれども、私は、裁判というものはやはり客観性がなければ国民の究極なそれに対する信頼は得られないというふうに考えております。国民はいろいろな立場、いろいろな考え方の方がおられるわけでございますから、裁判というのはやはり客観的な、社会的に広く信頼を得るだけの客観性を持つことが必要であろうというふうに考えております。  したがいまして、そういった事件におきましても十分その申し立て理由、必要性を含めて裁判所仮処分の申請をされたならば、裁判所というのは、先ほども申しましたように、公平な目でそれについて判断を下される。しかし、もしどうしても被害者救済ということについての緊急性が高い、しかし、裁判の上では非常に問題があるという場合には、例えば公害健康被害補償法のような行政的措置で、そういう行政的な制度を設けて被害者救済を促進するといったことが、社会制度としてはバランスのとれた考え方ではなかろうかというふうに私は考えておる次第です。
  34. 坂上富男

    ○坂上委員 ちょっと今度は別の質問でございます。  仮の地位を定めていただきまして地位保全していただいた解雇事件、しかしながら、これは確かに任意履行だからしなくてもいいんだ、給料だけくれておけばいい、こういう経営者の立場が相当あるわけでございます。  そこで、今度は御質問申しませんでした森井先生と上条先生にお聞きをしたいのですが、そんなような形で賃金だけくれて就労させない、そこで問題がありました就労請求権、これをこの場合どういうふうに仮処分の中で、この法案の中で見たらいいのか。というのは、私は就労請求権というのは、何かあるんだとかないんだとかいろいろ学者の先生もおっしゃっていますし、判例も、私も余り勉強していませんからわかりませんが、ややあいまいのようでございますが、私の経験からいいまして、これもある銀行ですが、地位保全命令が出た、賃金をくれた、そこで何をしているかといいますと、あなたはここへ座ってちゃんとしていなさい、みずからを修養しなさい、こういうわけでございます。人間これほど苦しいことはないわけでございます。しかも、四六時中、勤務時間そこにちゃんとしているのです。だから小説なんか読んでいるわけにはいかないのですね。  そんなようなことがよく我々の実務の中であるのでございますが、こういう問題に対する解決の方法はあるのでしょうか。また、今の法案との関係においては、この就労請求権を出さなければ、やらなければ、そこの銀行はこれに応じないのですね。やっとその命令をいただきましてから仕事をさす、これは銀行の電話交換の方です。そんなようなことがあるのですが、こういう部分は、先生方いかがでございますか、両先生、ひとつ。
  35. 森井利和

    森井参考人 今の、例えば地位保全が出ながら使用者がその履行をしないという事案でありますけれども、現在の裁判所考え方では、残念ながら就労請求権を一般的には否定をしています。したがって、一般的に就労請求権が否定をされるからには、恐らく現在の裁判所では、ごく例外的な場合を除いては、就労させるというところまでを命ずる仮処分はしないだろうと思います。そして、この民事保全法案もその点を全く解決はしておりません。ただ、私が考えますのは、先ほども少し申し上げましたけれども、地位保全仮処分効力法律で明確化することによって、一定程度そういった状況は解消される余地があるのではないかというふうに思っています。  といいますのは、一つは、地位保全仮処分が出されることによって後行の裁判所を拘束していくという規定を設けたと仮定をいたします。そういたしますと、一回、地位保全仮処分が出されます。そして、賃金払い仮処分が出されます。ほかの労働者賃金の上昇なり、あるいは一時金なりを支払われたと仮定をします。そこで、その上昇をした賃金あるいは一時金の仮払いを求めて第二次仮処分をその労働者が申請をしていった場合に、その解雇の有効か無効かを判断するまでもなく、地位保全をされているということを前提に第二次仮処分が命じられてくることになるでしょう。  それからもう一点、その地位保全仮処分に使用者が拘束されるということを法律で規定をしたと仮定をいたします。その場合に、使用者はその地位保全仮処分に応じなければいけないということになります。ということは、労働力を受け取らなければならないということになります。そうすることによって、いわば間接的に就労を受け取るように追い込んでいくということは、一つは可能な方法ではなかろうかなというふうに考えております。
  36. 上条貞夫

    上条参考人 先生の御指摘になりました就労請求権については、理論上いろいろな議論がございます。ただ、この法案は、直接その問題に対して答えを与えておりません。  むしろこの法案の問題は、現在の制度のもとでも、賃金払い仮処分そのものについてこれを削ろう削ろうという、そういう裁判所の動きが東京地裁を中心に始まって、先日の二十一日の審議の中で安藤委員も指摘されましたけれども、名古屋管内では東京のその影響が、先ほど引用したこの論文をもとにしてさらに広がろうとしているという、解雇された労働者がどんなに家族を含めて生涯苦しみを受けるかというその事実に目をつぶって、まるで闘争資金を援助するかのごとき様相を呈するから削れという、これが今の現状でございます。  こういうことに対して、私は先ほど、少し古い例ですが、山恵木材事件の最初の主文を引用しました。あの主文は今でも覚えておりますが、まず第一項は、会社はこの申請人を従業員として取り扱い、毎月幾ら払えと、こうなんですね。当時は、従業員として取り扱いという主文あるいは解雇の意思表示の効力を停止するという主文、いろいろ工夫されておりました。つまるところ、要するに職場に戻せということなんです。これが仮処分の本来の意味なんです。  ですから、文献を調べてみますと、例えば柳川コート、柳川真佐夫裁判長が率いたあの初期の地裁労働部ですが、これはまずもって、この任意履行であろうとも、とにかく地位保全仮処分を出す、それの上でなおかつ聞かなければ賃金の即時執行力を持った仮処分を出す、こういう使い分けもされていたというくらい、当初からもともと労働者の、とりわけ不当に解雇された労働者地位を確保するための即効性を持った唯一の制度として実務運用され、定着してきたこの仮処分制度の中で、地位保全する、つまり職場に戻すということに対する努力は、いろいろな方面から議論が重ねられていた。当初の段階では裁判所もいろいろ工夫していたという事実をまず申し上げる必要があろうかと思います。  そういう経過に対して、今度の法案を見ますと、さっきも申しましたように、もともと口頭弁論で時間がかかるから審尋手続、しかし審尋手続でも拙速ではいけないというところから、口頭弁論に近い審尋の中で、公開であり、人証の取り調べを行ったという尋問権の保障もある中で、少しずつ実績がつくられてきた、そういう実績を今回の法案は、今回の法案の定める審尋、あれは九条と三十条を対比してみて、この間の藤井局長の答弁を聞いてはっきりするわけですが、そういう従来の口頭弁論的審尋は認めない。ですから、ますますもって労働者仮処分命令を請求し、それを得る、そのこと自体が大変困難になります。  最近よく聞く例ですが、東京地裁などで、裁判官がちょっと書類を見て、この事案仮処分には無理だ、これは本訴でやりなさい、こう言ってふたをするというケースをよく聞きます。そういう現状があるのです。そこにこの法案でありますから、したがってこういう法案が通った場合には、かつて仮の地位保全する、その主文の法的意味をどう構成するか、職場に戻すということをどのように理論構成するかという裁判実務を含めたいろいろな理論的な努力ははるかかなたに押しやられて、とにかく労働者にとって、社会的弱者にとっては、今までやれていた手続口頭弁論的審尋手続、これが一切できない。尋問権の保障もない。くどいように繰り返しますが、まともな要求が仮処分という手続で守られなくなる。  なぜかといえば、口頭弁論原則としていたからこそ口頭弁論的審尋という手続もまさに合理性を持ち、だれ一人異論がなかったわけであります。逆転させた場合には、口頭弁論はまず開かない。こうなった場合の権利保障がまことに希薄になるということについて、先ほど意見を申しましたけれども、今の非常に重要な仮の地位、本来これなんです。解雇無効なら無効で職場に戻す、その点についての、この仮処分命令を得る手続自体に、まさに従来の実績を全く否定する司法資料二十九号とか、先ほどの判例時報の論文とか、そういうものが出回っている。  もう一つ申します。広島の有名な第一学習社というところなんです。最高裁の判決で負けてもなお従わない、職場に入れない。先生の御指摘のように、地位保全、仮の地位を認める、地位を認めるというこの要求は、当然私は就労請求権はあると思っておりますけれども、しかし理論的にも実践的にもさらに深めなければいけない。そのことはさておきまして、その大事な問題に議論がいく前の、もともと命令がまともに出るかどうかというその段階で、それからまた、さっき申しましたようにあっさり取り消されるという問題、こういうところで仮処分制度の根幹が揺るがされようとしている、これが法案の大問題であります。そのように区別をして私は考えております。
  37. 坂上富男

    ○坂上委員 実務家の原井先生と上条先生にまたお聞きしたいのですが、原井先生の今のお話を聞きますと、かえって複雑事件の切り捨てにはならないとおっしゃっておられるわけでございます。それから、上条先生は、複雑事件、例えば労働者地位保全問題などは今でさえもそういうおそれがあるのに、この法律ができるとますます切り捨てになるおそれがあるとおっしゃって、いわば真っ向から対立をしたと言っても過言でないと思うのですが、原井先生いかがでございましょうか。
  38. 原井龍一郎

    原井参考人 この法案が成立いたしました場合の複雑事案仮処分申請についての審理がどうなるかということ、これはもちろん法案が成立いたしましてから後の具体的な事件を通じて、裁判所及び当事者を代理いたします弁護士、それぞれの事件処理の過程を通じて次第に新しい法律のもとでの実務が形成されていくということでありますけれども、予測といたしましては、先ほど上条参考人は、例えば不服段階審尋においても審尋は一回限り、切り捨てだ、したがって取り消しも非常に簡単になされるようになる、また当然申し立て段階においても、現在の民事訴訟法原則口頭弁論である、ところがそれが逆転した、したがって今まで形成されてきた口頭弁論による審理、あるいは口頭弁論的な双方立ち会いの審尋といったものが切り捨てられていくというふうに予測しておられるわけであります。  しかし私は、現在形成されました申し立て段階のいわゆる口頭弁論的審尋参考人審尋、場合によっては公開の法廷で証人尋問にごく酷似した形での尋問が行われるといった実務、これはほとんど労働事件を通じて形成されたということは間違いないところであろうかと思います。しかし、現在の民事訴訟法のもとにおきまして、申し立て段階においてそういった形の審尋ができるといった規定は全くないわけであります。また、通説的な見解といたしましては、審尋と申しますのは、事案の内容を明確にするための意見陳述の機会を当事者に与える、そして当事者に口頭もしくは書面でもってその事案の内容についての説明を行う、そういったことが審尋性質として通説的には言われておったわけであります。したがって、当事者以外の第三者、今度の法案では不服段階では参考人という名称を使っておりますが、口頭弁論であれば証人、これが審尋段階でそういった第三者を取り調べるということは、審尋の本質からしてむしろなし得ないところなんだというのが通説でございました。しかし、労働事件は、特に被保全権利あるいは必要性の疎明が非常に難しい、相当な証拠調べを必要とするということで、労働者側の代理人の先生方の非常な努力によりましてそういった形の審尋が行われるという裁判実務が相当広く形成されてきたというのが現在までの実情ではなかろうかと思います。  したがって、現行法制度のもとですらそこまでの審尋、これは事件性質がそれを必然ならしめたのか、代理人の先生方の努力がそこまで裁判所を動かしたのか、私はどちらとも断定いたしかねるところでありますけれども、事件実態審理の必要性が、そういった審理を必要とするということを裁判所が納得すれば、当然今度のこの法案のもとでは審理のなし得る幅というのは、先ほど申しましたように口頭弁論審尋書面審理、これは全く裁判所裁量にゆだねられておるわけであります。しかも、申し立て段階におきましては、従来では口頭弁論を開けばもとに戻れないために審理が非常に長期化するというおそれのために、裁判所はむしろ口頭弁論を開くことをちゅうちょしておりました。それが一つは口頭弁論的審尋を生んだ基盤になったわけでありますけれども、今度の新法が成立しました場合には、この口頭弁論を開くことが非常に容易になるということもございまして、審理がどういった状況になるか、どういった実務が形成されてくるかといったことは非常に幅広い可能性を持っておる。そして、私は今までの労働事件についての審理の傾向からして、複雑事案が切り捨てられるというようなおそれは全くない、かように私は考えておるところでございます。
  39. 上条貞夫

    上条参考人 通説というものが、審尋手続の本質は何であるかという議論、それはおやりになったらよろしいと思うのですね。今まで議論はあったかもしれませんが、こういう法案審議する場合に一番大事なことは、今、現行法審理実務がどこまで到達しているか、それが合理性を持っているかどうか、この現状認識がまず出発点の少なくとも一つにならなければいけないわけだと思うのです。原井先生も認められるように、口頭弁論的審尋、これは約三十年と言っていいでしょうか、少なくとも二十年以上にわたって戦後現実に東京地裁はもとより多くの各地の裁判所採用され、効果を上げてきました。そして、必要によってはその口頭弁論的審尋から口頭弁論に移行するという手続、ここでも典型的な山恵木材の例を私は最初に申しました。これ自身非常に柔軟に運用されてきたことは事実であります。こういう実績は、今回の例えば九条、そして三十条の規定とこの間の藤井民事局長の答弁とセットにして見ますと、こういう今までのような審尋手続は本来の審尋という手続に比べれば異例なので、要するに新しい法律はそれは認めないということなんですよ。  私、この間傍聴しておりまして、ははあ今度の法案というのは、従来実務が築いてきたこの審尋労働事件地位保全仮処分について口頭弁論的審尋を開いて結論を出すことについて、経営者側も労働者側裁判所も異論はなかったのです。私、三十年以上弁護士をやっておりましてこの種の事件専門にやっておりますけれども、異論は聞いたことないのです。それを一切簡単に、そして労働者口頭弁論を開いて慎重にやれと言ってもやるなということをはっきり書いてあるのが、この間の二十一日の審議でも坂上先生が指摘されたようなあの最高裁主導の裁判官協議の中身なんです。だから、その実績をずっと削ろうとしてきている。  そして、慎重な審理について、とうとい実績であると私も思いますが、講学上は審尋の本質なるものは非公開である、人証の調べはしない、物の本には書いてあるかもしれません。しかし、現実の運用は、とりわけ極めて複雑な労働事件仮処分で何が適正な判断を保障する道筋か、それは裁判所の努力も、それから当事者の努力もあってこのような公開の、そして人証の取り調べを行う、反対尋問権、尋問権の保障を現実に行う、そして本案の訴訟よりも早い、こういう手続が既に定着をしてきていたのですね。法案を提出する何年か前から最高裁の部内に、先ほど来問題になっておりましたあの二十九号の都内資料によって、当事者が慎重な審理を望んでも、とにかく簡単に、仮なんだから簡単にやれ、そして賃金保障もそれは半年や一年で我慢しろ、闘争資金の援助をすることはないとまで言い出す途方もない、事実を無視した裁判官まであらわれるに至りました。これがまた地方に蔓延しようとしている。こういう時期にこの法案が出てきた。     〔委員長退席、逢沢委員長代理着席〕  そして、この間傍聴して政府側の答弁を聞きました。繰り返しますが、九条、そして三十条、この申請段階審尋双方聞くという保障は条文にどこにもありませんよ。それから、仮に聞いたとしても、それならば参考人の取り調べはするな、しませんというのがこの間の藤井局長の答弁です。まして今までやってきたような公開の保障が一体どこにあるか、これは条文上どこにも出てこない。そして、条文を解説したNBL誌によれば、本来審尋は非公開であって公開の必要はないという解説がなされている。  こうなりますと、今坂上先生の御指摘のあった従来の審理方式がどうなるかということについて、わざわざ従来のこういう非常に合理的な、意味のあった実績を切り捨てる、もう全く書面審理プラスアルファということだけにいわゆる審尋手続を狭める、そこで料理してしまう、はっきり言えば。だから、結論はそれは簡単にいくでしょう。書面をちょっと見て、これはだめだよ、したがって本案でやりなさい、こういう甚だしく人権を無視した裁判官の言動が最近あらわれておるようですけれども、既にそういう事態が生まれているのです。それを加速することにならないか、こういう点ですね。まして口頭弁論という言葉が、条文のこの審理に出てくる三十条、今までは必要的口頭弁論でした、取り消すのが。これは保全された権利を取り消すのですから、慎重な審理が当たり前なんです。わざわざそれを口頭弁論または審尋としました。そして、この藤井民事局長の答弁によれば、これは参考人に対する尋問権はあるのだよと言っていますけれども、しかしその審尋にしても、こう言っています。口頭弁論にしても審尋にしても、取り消し段階ですね、一回は開きます、後は書面審理ないしは一方の審尋に戻れる、ここが強調されていたというこの答弁を私はここでもう一回申し上げたいと思うのです。  ですからこの法案は、なぜこういう全体の法案の体系になってきたかといえば、私がきょう陳述いたしましたように、口頭弁論原則とし、しかし急迫な場合には例外としてそれを経ない、別の手続であり得る、この原則と例外を逆転するという三条を総則に置いたということが全部に論理的な影響を与えていることも先生御承知のとおりであります。  ですから、こういう状況の中で、実際に労働事件地位保全仮処分がなされていった場合、私は三十年の経験で言いますと、はっきり申し上げますけれども、これは外形を整えることのできる、それだけの社会的な力と事実を押し隠すことのできるそういう不正な権力——先ほど芝信用金庫の事件、山恵木材の事件を申しました。山恵木材では、本案が一審から最高裁まで全部解雇違法なのですね。ですから、そういうはっきりした事件でも、なかなか当初の段階では、陰に隠れたところ、会社と会社が恐らくは結託をして圧力を構成したのだろう、しかしそれは直接は追及できない、それを追及できたのがまさに高裁での口頭弁論だったのです。  こういう手続が、口頭弁論は開いてもこれはやがて決定手続にちょっと戻る、一回だけは開きます、しかもこれは、九条と三十条を対比しますと、九条の段階、つまり命令申請段階ですね、これはとても、この間の民事局長の答弁を聞いていますと、法務省当局は、口頭弁論などは、それは開くこともできるという建前にはなっているかもしれませんけれども、開かないのを原則にして、そしてしかも審尋参考人の事情聴取もやらないという解釈ですね。だから一審のこの仮処分段階口頭弁論を開くなどということは、実際問題として、この法案が通った場合、こちらが要求しても裁判所ではまず受けてくれないでしょう。まして裁判所は、地位保全仮処分賃金の支払いについて、これをまるで闘争資金の援助とまで悪罵を投げつけ、人間性を無視した発言をしながら、とにかく仮処分の実績を切り捨てよう切り捨てようという嵐が吹き荒れ始めてきているところの法案なんです。  先生の御質問に対して少し説明がくどくなったかもしれませんけれども、この法案は、現実に、この従来の貴重な実績を、審尋という点についてはむしろこの実績を消すという明文を置いた、そして口頭弁論を開かない原則を総則に設定した、そこから取り消しについても必要的口頭弁論が消えた。こうなると権利保全、この仮処分、まして複雑な、とりわけ権力を持たず力も非常に弱い社会的弱者の立場にある労働仮処分にあって、だれが得をしてだれが損をするか、これはまともに権利を主張する労働者が分厚い権力の壁に阻まれて、しかも仮処分制度が利用できない、そこを承知でまたまた人権侵害が広がるでありましょう。私はそこまで見通して断言してはばからないのです。  見方によっては、これは整理解雇自由法案だとまで言われるおそれが少なくともある。首を切っては、今までだったら、審理手続で一審の段階から、口頭弁論は開かないまでも、この口頭弁論的審尋手続、さっきの芝信用金庫の例ですね、これでやりました。それが今度、もう原則的に口頭弁論を開かないということになれば、またそういう実績が吹き倒されるということになれば、裁判は、いつでも実力と権力の壁ではね飛ばすことができる。皆さん御承知のように、あの芝信用金庫のような、あの山恵木材のような、そしてあの第一学習社のような、日本の場合にはあのような経営者が実に多いのです。それはむしろこの法案をチャンスに労働者に対する基本的な人権を侵害する権利侵害をやってくるのではないか。それを許してはならないと私たちは考えております。
  40. 坂上富男

    ○坂上委員 恐縮でございますが、もう時間がございませんので、簡単に短くお聞かせをいただきたいのですが、この民事保全法で最も残虐性というのでしょうか象徴しているのが三十三条の原状回復裁判でございます。取り消した場合は利息をつけて金を返しなさい、それを命じなさい、こう言って法律は規制をしているわけでございますが、これは本当に仮処分段階で、仮処分が取り消された、こう言って果たして原状回復の裁判まできちっと法定的にやらなければならないのだろうかということに非常に何か厳しさといいましょうか、そういうものを私は感ずるのですが、三ケ月先生、この部分はいかがでございましょうか。それから森井先生、いかがでございますか、この部分。
  41. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 ただいまの点でございますが、労働の賃金の仮払いという点でおっしゃっておられますけれども、この条文はもっと全然別な、一般の平等なあれの場合でも、何か金を払えというふうな形のあれをも射程距離におさめておるわけでございます。そういうときに民法の原則といたしましては、例えば契約が解除になったときに、今まで支払ったものを返すときには利息を払って返せというのが民法の五百四十五条の二項にございまして、全般の議論を、いろいろなケースをやって、そしてやはり何か払えと言ったものが取り消されて不当利得の関係になったときの後始末として民法に歩調を合わせればこういう形になるんだろうな。しかしながら、おっしゃるように、賃金払いというふうな局面に限定して考えますと、それは場合によりますと非常に酷な場合もあるのかもしれないな、そういう点は私も感じないではないのでございます。  しかし、余りここのところを緩めてしまいますと、そうするとやはり非常にあくどい者が、金をとにかく取り上げちゃって、返すときにもうそれを、ぐずぐずしておると、じゃもらった分だけ返せばいいだろう、これで果たしていいと、すべての場合にそう言い切れるかな。この辺は十分にひとつケースケースで、私はこれは多少立法の余裕のあるところではなかろうか、もうちょっと大所高所からの御議論をなさった上でやっていい問題だと思いますし、また、今の段階でありましても、恐らく運用上は、そういうむしろ利息を払ってまで返せというのが非常に労働事件などでやりにくかったら、むしろ返せとなかなかかえって言いにくくなる面もあるのかもしれないな。その辺のいろいろプラスの効果、マイナスの効果というふうなものもございますので、その辺は一般法としては法制審議会の議論、そういう議論いろいろございましたが、まとめましたものとしてはこの辺のところで、原案で皆さんの御同意をいただいた、こういうことでございますが、いろいろこの辺につきましては見解が審議段階でもございました。
  42. 森井利和

    森井参考人 今の点でありますけれども、まず異議の裁判によって結論がひっくり返った場合に、必ず受け取ったものを返さなければならないということになりますと不合理が生じてくる場合が多くあります。といいますのは、この異議の裁判もこれまた仮の裁判にほかなりません。証人尋問を経て詳しい訴訟手続を経た上であれば、場合によってはこの異議の裁判が誤っていたという判断が出される可能性もあります。そういたしますと、異議の裁判によって結論がひっくり返った場合に、必ず原状回復をしなければならないというのは、これはむしろ硬直的な処理だろうと思います。  それから、特に解雇された場合を念頭に置いて考えますと、不合理な結論になってきます。といいますのは、仮に裁判所が解雇を無効であるというふうに判断をいたしまして、賃金払い仮処分及び地位保全仮処分を出したと仮定をします。その場合に、使用者がその仮処分命令に従いまして労働者を就労させたとします。したがいまして、賃金労働者はその地位保全仮処分によって受領をいたします。ところが、この場合に、その地位保全仮処分及び賃金払い仮処分が異議によって労働者側の負けということになったとします。この場合に、恐らく実際に労働者は就労をしたわけでありますから、その対価として受け取った賃金は返さなくていいだろうということになるだろうと思います。ところが、もし地位保全仮処分なり賃金払い仮処分が出まして、使用者がそれを守らずに就労できなかったと仮定をいたします。この場合に、もし異議段階労働者側が負けたと仮定をします。この場合に返さなければならないということになりますと、もし地位保全仮処分命令に従った使用者は返還を請求することができない、地位保全仮処分に従わなかった使用者は返還を請求することができるという極めて不合理な結果を招くだろうというふうに思います。
  43. 坂上富男

    ○坂上委員 どうも先生方ありがとうございました。この法案の成否はどうなるかわかりませんが、仮に成立をいたしましても先生方の御意見解釈の上で、運用の上で生かされることを期待をいたしまして、先生方に感謝を申し上げ、質問を終わります。ありがとうございました。
  44. 逢沢一郎

    ○逢沢委員長代理 冬柴鉄三君。
  45. 冬柴鐵三

    冬柴委員 公明党の冬柴鉄三でございます。参考人には、きょうは貴重な意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。  さて、今回の改正の眼目といいますか大きなものに、オール決定主義採用されたという点があるということは、参考人の御発言の中からも、また今回の改正の説明の中にもそのように書かれております。決定審理方式が三つほどメニューが示されているようでありますけれども、これは発令段階不服段階で違うようでありますけれども、この三つの差異と申しますか、実質的な差異をわかりやすく御説明をいただきたいと思うのであります。三ケ月参考人からひとつどうぞよろしくお願いいたしたいと思います。
  46. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 決定手続における口頭弁論と申しますのは、判決手続における必要的口頭弁論、これは判決でしたら必ず口頭弁論を経なければ判決できないという形になっておりますので必要的だということになっております。決定手続の場合には任意的口頭弁論というので、決定をするにつきまして口頭弁論を経るか経ないかは裁判所に任されておるというので任意的口頭弁論ということになるわけでございます。しかし、任意的と書いてあるから全然しないというわけじゃございませんので、先ほどのいろいろのお話にございましたように、既に現行法のもとでの労働仮処分の場合には、任意的口頭弁論という形を利用して現実に口頭弁論が行われてもきたわけでございます。口頭弁論になってまいりますと、皆さん御承知の普通の口頭弁論と同じように、やはり任意的であれ必要的であれ、口頭弁論口頭弁論でございまして、民事訴訟法に定めるところの口頭弁論手続によってなされるわけでございます。  これに対して審尋と申しますのは、これは今までの民事訴訟法の中には根拠条文が非常にわずかしかございませんので、どういうようなことかと申しますと、これは弁論を補充するために非公式に当事者意見を徴するということでございまして、決定手続でなされる場合には、決定手続ですから任意的口頭弁論を開かない限りは非公開でございますから、したがってまた審尋も非公開で行うことができるし、その審尋なるものは証拠調べではございませんので、いわば当事者の言い分を補充するというか、釈明を聞くというふうには使えますけれども、当事者の主張をいわば証拠として使うという場合には一つの限界があったというわけでございます。そういう場合には、やはり証人尋問とか鑑定とかという形の方式を使わなければならない。審尋は、今までの議論といたしましては、あくまでもこれは当事者の言い分を明らかにする趣旨で、当事者の弁論を補充するものである、したがって、これは非公開でもよろしい、こういうことになっておりますが、今度の審尋の場合には多少その辺のところを、第三者的な要素を持つと今までは問題があってできなかったと思われるところのものまで多少広げている点で、新しい審尋に踏み出しているという面があると思います。  書面審理と申しますのは、これはそういう書面を見まして、そしていいか悪いかを決めるということでございまして、大体これまでの決定手続の多くは、何といいますか、特に非訟事件みたいなところでございますと口頭弁論を開くまでもないわけでございますが、しかし同時に、同じ決定でも、例えばこういう当事者の利害が対立するような場合にはやはり書面だけでは足りないというふうな面がありまして、いろいろ審尋が補充的に使われてくる、こういう可能性がございますが、建前といたしましては、書面を調べてわかった場合にはそれでよろしい、こういうのが書面でございます。  そういうようなものをいろいろと組み合わせているわけで、事案が非常に大事なものであったならば初めから口頭弁論を開くこともできるし、それから、初めは書面審理だけやるが、異議段階になってまいりましてやはり問題が新しく出てきた場合には、同じ裁判所が異議に応じまして口頭弁論を開き直して、そして反対尋問もするし、あれもするという余地も出てくる、こういうような形で、いわば幾つかの方式事案に応じまして振り分けたというのが今回の民事保全法の長所であろう、私はこういうふうに考えておるわけでございます。
  47. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ちょっと私わかりにくいのは、三十条で「当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日において参考人又は当事者本人を審尋することができる。」というこの「審尋」と、それから任意的口頭弁論によって開かれる「弁論」と、実質的にどんなに違いがあるのでしょうか。三ケ月参考人にお聞きします。
  48. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 やはり任意的口頭弁論といいましても、人証になりますと、これは訴訟法の手続に従ってやらなければなりませんから、規制が非常に複雑でございますね。あるいは宣誓をしたり、呼び出し状をあらかじめ送付したり。ところがやはり審尋ということになりますと、内容は、このたびは参考人審尋ということになりますと、確かに真相はどうなんだということを確かめる一つの手段にも使えることは使えますけれども、それが口頭弁論におけるような厳格な証人尋問手続というものからは解放されておる。確かにこれを余り本案の訴訟なんかで簡単にひょこひょことやられたんでは、これは困るわけでございますが、非常に迅速性というふうなことの要望される事態におきましては、そういうふうな形で一歩、そういうふうな心証の形成に役立つような資料をも参考人として審尋できるようにする、これが今回の立法の一つの大きく踏み出した点でございます。今までも実務でこれは要望されておりながら、根拠規定がないじゃないかということで非常にぎくしゃくしておりましたものに道をあげた、こういう意味があるわけでございます。  私は、将来の問題といたしましては、もしどうしてもこれで非常にあいまいだという場合にはいつでも口頭弁論に移行できるわけでございますし、証人尋問もできるわけでございますし、それは裁判所事案の軽重判断をしながら使い分けていく、そこからおのずから一つの新しい保全の伝統が形づくられていくということを期待しておるわけでございます。
  49. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ちょっとしつこいようですけれども、この保全の場合は疎明ですね、証明じゃなしに。ですから即時取り調べという要件からすると、第三者を調べる場合に証人として即時取り調べるわけですから、あらかじめ呼び出し状を送るということは即時取り調べという要件からは外れるように思うわけですね。そうしますと、口頭弁論を開いた場合、法廷に来廷をさしてそこで宣誓をする、書記官が立ち会う、調書をつくる、そういう形で、もちろん証人調べは交互尋問の方法によってやるけれども、今回そのやり方は変更もできるということになってきますと、任意的に開かれた口頭弁論における疎明の方法としての証人調べと、当事者双方が立会して行う審尋ですね。確かに審尋でしたら公開の法廷ではしなくてもいいのかもわからないと思います。それ以外にどんなことに違いがあるのかなという点がちょっとわからないのです。こんなことを二つつくる必要があったのかなというところに行き着くのですけれども、その点はどんなものでしょうか。
  50. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 やはり口頭弁論ということになりますと、いかに保全といいながらも、それは確かに在廷証人が多い場合、多いでございましょうが、在廷証人でなければならぬということにもならないわけでございます。したがいまして、そういう口頭弁論というふうな形でやれということしかないわけでございますから、そこのところに、保全の具体的な事件との軽重あるいは非常な緊急性というようなことを考えますと、やはり裁判所としては当事者の言い分だけではちょっとわからぬのだが、しかしこの人はどういうことを考えているのか、具体的な条件とか、おれはどうも当事者に聞くよりはこの人に聞いてみたいなという、裁判所がそういう心情、気持ちをお持ちになることが非常にしばしばあると思うのです。そういうような場合に、審尋という形で、そういう形での疎明を確実にしていくための資料を広げる、そういうプラスの意味がある。これがございませんと、いやしくも当事者の息のかかった者以外の者でひとつ事情を知りたいという場合になってまいりますと、必ずこれはもはや人証でいかなきゃならぬ。硬直化する。現にそういう硬直化の批判が実務家の間に非常に強かったわけでございます。そういう趣旨でメニューをそろえてある。  それで、いろいろな段階があると思うのですね。審尋の中にも、非常に口頭弁論に近い審尋もあるし、非常に書面審理に近い審尋もある。逆に任意的口頭弁論は開いてみたものの、やはり先ほど申しましたように順序を変えたりなんかする余地もあるということになりますと、非常に審尋に近くなってくることもある。しかし、やはり厳として口頭弁論における証拠調べと審尋というふうなものとの間では、今言いましたような生い立ちの違いがございます。それをうまいぐあいに振り分けていく、これがやはり手続の硬直化を防ぐというか、先ほど私が冒頭に述べましたように手続法の大きな流れというものに沿っているというふうに私は考えているわけでございます。
  51. 冬柴鐵三

    冬柴委員 そのようにおっしゃいますと、この三十条というのは第三節の「保全異議」の中に規定をされておりますので、この三十条というのが発令段階のいわゆる申し立てを受けたときにこの方式が使えないことになってしまうのではないか、そのように理解するわけですが、そう理解して誤りがないのかどうかということと、それではその発令段階審理方式当事者双方立ち会い、立会の審尋期日を開いて参考人または当事者本人の、まあ当事者本人はいいです、審尋ですから。参考人審尋をすることができないというふうに読んでしまうわけですけれども、そういうことにしなければならなかった実質的な理由というものは那辺にあったのか。三ケ月参考人ばかりで恐縮ですが、御説明をいただきたいと思います。
  52. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 一つには、やはり仮処分、仮差押え審理でございましても、申請段階と異議段階と申しますか、既に表に出ちゃってからの審理のやり方とはずっとこれまでも違っておりましたし、やはり密行性の度合いというふうなことも、仮差押え仮処分における密行性の要請ということもございます。したがいまして、余りのっけから便利だからじゃんじゃんやれといいますと、そうすると仮差押え仮処分の中には非常に秘密を要する、相手方が少し知ったならばすぐ対応されちゃってどうにもこうにもならなくなるというふうなものもございます。やはりこれは発令段階までは十分に、とにかく今までだってめったに発令段階までの間に審尋をしたり証拠調べをする例は、先ほども申しましたように労働事件の一部というふうなところにかなり限られた面がございまして、一般のあれのところで発令段階口頭弁論をしなくても、先ほども原井さんの言われましたように非常に少ないわけでございますので、その辺でやはり申請段階におけるところといたしまして、どうしても必要があってこれはできないというのでは困るから、じゃ任意的口頭弁論でいくかということでございますし、あるいは従来民事訴訟の認めていた審尋というところで賄えるところまでは賄っていく。しかしながら、審尋段階でもやはり証拠調べ的なものが必要だという事例でございましたならば、余りこれは軽々に使わない方がいいのじゃないかというふうな、これは大変議論をした結果こういうふうな形に落ちついたことでございます。
  53. 冬柴鐵三

    冬柴委員 そうすると、原井参考人にお伺いをしたいわけですが、私も大阪弁護士会で長く弁護士をやっておりましたので、大阪における申請段階における審理方式というものが、これは特異なものなのかは知りませんけれども、当事者が英知を絞って築き上げてきたものがあります。  例えば、職務執行停止、代行者選任の仮処分とか日照阻害の、これは建築基準法の一部改正法以降随分少なくなりましたものの、このような工事続行禁止仮処分とか労働事件仮処分等は、従来口頭弁論というよりも、審尋ではありましても当事者が、私どもが申請した人については私どもが外部速記という元裁判所の速記官をやっておられた方をお願いしまして、そして、その人たちが速記をとって、その費用は申請した当事者が払う。それで労働事件の場合、当事者が割り勘で払うとかそういうようなことを先に決めて、口頭弁論じゃなしに審尋方式で、申請段階にここで言う三十条に相当するような慣行というものを築き上げてきた実績があると思うのですね。  これは先ほど原井参考人がおっしゃった一・七%以外の数字でありまして、司法統計上はこれは口頭弁論を開いた中には入りません。しかし、そういう事案は私は随分たくさん扱いましたし、そういう慣行がこの改正によってどうなるのかなという心配をするわけです。これは先ほど森井参考人上条参考人が言われたところにも若干通ずるのかなとも思うのですけれども、今回の法改正とそのような慣行とはどういう関係に立つのでしょうか。その点につきまして原井参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
  54. 原井龍一郎

    原井参考人 ただいま冬柴先生、大阪地裁での従来の実務慣行を取り上げて御質問を提示されたわけでございますが、まさに大阪地裁におきまして、申請段階審理におきまして双方立ち会いの口頭弁論的審尋の中でいわゆる第三者の取り調べということが行われてまいったということはおっしゃるとおりでございます。そして、法制審議会の段階におきましての審議におきまして、申請段階審尋において第三者審尋を行うべきであるという意見ももちろんございました。その意見があるということは改正試案の中に注記されております。そして、私もジュリストなどに、申し立て段階審理において、一般ではなくて少なくとも裁判所双方を呼び出しての審尋を行うということを決定した事件に限っては、これはもう密行性は破れておるので、その必要性が認められるならば第三者の取り調べ、いわゆる第三者審尋を行えるようにする方が、これは先生のおっしゃる審理のメニューの幅を広くする方がより柔軟に、しかも従来の口頭弁論に比して、既に実務慣行として少なくとも大阪地裁で行われているような第三者審尋方式を明文化するということは、柔軟な審理を実現する上においてむしろプラスではないかということをジュリストにも書きましたし、また、法制審審議の中では終始その議論を展開いたしまして、その点の相当な議論を繰り返してきたわけでございます。  また、日弁連の中におきまして司法制度調査会でその議論をいたしました。私のように大阪地裁実務になれております者は、しかもその実務が至極スムーズに、また債権者側、債務者側いずれの側の代理人にとっても全く抵抗なく受け入れられておる、そしてその審理の結果が、審理方式として非常に柔軟性を持った迅速な審理がなされておるということを実際に体験しておる者にとりましては、やはり申請段階審理において第三者審尋を行うことのメリットというものを非常に意識するわけでございますけれども、そういった慣行のない、御経験のない弁護士にいたしますと、申請段階でそういった第三者審尋をやるのは行き過ぎである、むしろ、その必要がある場合は口頭弁論でやればいいではないかといった議論もございまして、日弁連司法制度調査会の中でも必ずしもそれは統一した見解にはなっておらなかったという事情がございます。  それで、法制審議会におきましてこの申請段階第三者審尋の可否ということが最後まで一つの大きな問題、検討事項となったわけでございます。先ほど私審尋というものを通説はこうだろうというふうなことを申しましたが、本法案のもとにおきます審尋と申しますのは、従来用いておりましたそういった当事者に対する釈明的な審尋とは実は相当性格が異なりまして、いわば口頭弁論ではない、口頭弁論よりは簡易な一つの審理方式、単に事情を聞くということではなくて、簡易な証拠調べを含む一つの審理方式の体系であるというふうに性格が本法案の中では変わってきておるかと思います。そこで、そういった意味で、これは審尋という同じ名称を用いておりますので、冬柴先生もおっしゃいましたように若干わかりにくいところがあるというわけでございますけれども、実は審議の過程では、例えば保全審問であるとか、何とか別のネーミング、決定手続にふさわしい一つの新しいネーミングをしてはどうかといった議論もなされたわけでございますが、審問と申しますと、これはまた職権的な糾問手続的なニュアンスも何か含められているようなこともございまして、結局使いなれた審尋ということに落ちついたわけでございます。  しかし、そういった一つの審理方式の体系としてあれした場合に、殊に申請段階におきまして広くそういった第三者手続をすべての事件について認めてしまうということは、かえってこの第三者審尋ということが事件の一般的な審理方式として広がり過ぎやしないか。もしそういうことになった場合、殊に申し立て段階におきましては何と申しましても迅速性要請ということが一番強いわけでございますので、余り門戸が広がり過ぎますとかえってその迅速性要請にもとることになりはしまいかという議論も非常に強くあったわけでございます。不服段階になりますと、これはより慎重性が加わってまいりますのでそういったことはございませんけれども。  それで、ただ先ほども申しましたように、既にこういった第三者審尋を行う申し立て段階双方立ち会いの審尋が相当広く実務として定着してきておるという現実も一方においてございます。その辺をどう調和させて立法するかということが最後まで非常に最大の難問になったわけでございますけれども、この第九条に「釈明処分の特例」という規定がございます。これはあくまで釈明処分としての規定でございまして、証拠調べではございませんけれども、「当事者のため事務を処理し、又は補助する者で、裁判所が相当と認めるものに陳述をさせることができる。」という規定、これは審議の終わりの段階で提案されてきた条項でございますけれども、事実、申し立て段階審尋第三者について陳述を聞く必要があるのは、ここにありますような「当事者のため事務を処理し、又は補助する者」、当事者と相当密接な関係を持ち、当事者立場にある、事案について一番よく事情を知る者というのが大多数でございます。したがいまして、これは釈明処分でありますけれども、なされた陳述がやはり審理の全趣旨として証拠資料の中に入ってくるということもございますので、実際申し立て段階において大方はこれによって賄い得るのではなかろうか。そして、または、「裁判所が相当と認めるもの」という裁判所裁量にはある程度幅のある問題でございます。事案に応じてこれを適切に運用されるということによって、申し立て段階第三者審尋の必要性というものは実質上これによってほぼカバーし得るのではなかろうかという考え方はあり得るわけでございます。  その辺を日弁連司法制度調査会でもいろいろ議論いたしました結果、決して満足できるものではないけれども、しかし立法技術的にはいろいろの問題点もある、したがって、こういった条項も入れられたことでもあり、申し立て段階審尋において実質非常に重要な第三者についてはその陳述を求めることも可能であるということで、日弁連司法制度調査会におきましては、この条項が入ったことによって一〇〇%満足はし得ないまでも、この決定手続審理として審尋の内容も相当充実を見たということで同意するに至ったということでございます。
  55. 冬柴鐵三

    冬柴委員 またよき慣行とかができるだろうとは思いますけれども、この程度にその点はいたしまして、次にもう一点だけ、大事なことですのでお伺いしておきたいと思うのは、占有移転禁止仮処分の問題でございます。一回性という問題からも効力が拡張されることが望ましいと私は思うわけでございますが、この法文で問題はないのか、六十二条ですね、その点について、時間も差し迫っておりますので、ひとつこれも原井参考人から簡潔にお願いしたいと思います。
  56. 原井龍一郎

    原井参考人 占有移転禁止仮処分第三者に対する効力の問題につきましては、これまた相当議論があったところでございます。法制審議会におきましても、また、日弁連の中におきましても、専ら議論されましたのは果たして第三者に対する効力の拡張の規定がこういう形でいいのかということでございまして、と申しますのは、試案の段階で公表された内容によりましても、仮処分執行後第三者仮処分の執行を知って占有するに至ったものということで、それで仮処分後の占有者、これは知って占有したものと推定する、推定でございますので、その推定を覆す立証をすることによって第三者はこの仮処分効力に基づいた本案判決の執行を排除することができるという形になっておるわけであります。  しかしながら、仮処分後の占有者というのは果たしてそういう保護に値する占有者であるかどうか、殊に占有屋と言われる占有者は債権者に対抗し得る実際の権原を持っておらない、しかるに仮処分後の仮処分を知らずに占有したのだという抗弁でもってこの判決の執行を排除できる、それはむしろ正義に反するではないか、むしろ従来のこの仮処分に対する非常なまどろこしさと申しますのは、仮処分当事者恒定効に基づいて本案判決について承継執行文を取ろうとしても、その承継の事実を文書でもって裁判所に立証しなければいかぬという関係で、そこに非常に難点があったわけでございます。そこをクリアしようということがこの条文になったわけでございますが、しかし、それが実質そういった不正義を許す幅が残るという方向でむしろ議論がなされておったということで、その点につきましては今度のこの法案においても六十三条にその点抗弁事由が明記されておりまして、必ずしも満足しておるわけではございません、むしろ仮処分効力はもっと強めるべきだというのがどうも実務の感覚であろうかと思っております。
  57. 冬柴鐵三

    冬柴委員 せっかく森井参考人上条参考人にお越しいただきましたのに、私からお尋ねする時間がなくなってしまいました。まことに申しわけないと思いますけれども、後の安藤委員にそれはお譲りいたしまして、私の質問はこの程度で終わります。
  58. 逢沢一郎

    ○逢沢委員長代理 安藤巖君。
  59. 安藤巖

    ○安藤委員 日本共産党の安藤巖でございます。  きょうは参考人の先生方、早朝からお出かけいただきまして貴重な御意見を拝聴させていただきまして、ありがとうございました。私の時間、非常に絞られておりまして、全部で十五分でございますので、参考人の先生方に御意見を拝聴するのは、勝手でございますが、そして失礼でございますが、大分絞り込ませていただかなければなりませんので、その点、前もって御了解をいただきたいと思います。  まず最初に上条参考人にお尋ねをしたいと思うのですが、先ほど来、労働者権利を守るためには、地位保全仮処分申請事件において口頭弁論が必要だ、もしくはそれに準ずる審尋が必要なんだということを強調されまして、大分理解を深めておるところでございますが、この法案にはほかにもいろいろ問題点がありまして、これまでもこの委員会でいろいろ議論がなされてきておるところでございます。  そこで、それもまた全部お尋ねをするわけにまいりませんけれども、先ほど来問題になっております三十三条の原状回復の裁判の関係でございます。これも労働者権利を守るという点につきましては、地位保全仮処分賃金の仮払いを受けた、それが異議の裁判で取り消された、あるいはさらには原状回復ということになって、仮払い賃金を受け取ったときから利息をつけて払わなければいかぬ、しかもこれは裁判所の方がそういう原状回復を命じなければならぬ、こういうような規定になっておるのですが、その関係について私はこれは問題があるなというふうに思っているのですけれども、上条参考人のその点についての御意見を聞かせていただきたいと思います。     〔逢沢委員長代理退席、井出委員長代理着席〕
  60. 上条貞夫

    上条参考人 三十三条の原状回復は先ほど来議論がなされておりまして、まだ本案判決が決まっていない仮処分のレベルの段階で全部原状回復をさせるということはどういう立場に立ってみても不合理だと私は考えております。まして労働者地位保全賃金払い仮処分の場合に、満足的仮処分という部類に賃金払いは講学上入れられております。しかし、実務を見ますと、仮に賃金が全額払われたとしても、あの人は解雇されたと、今の日本では解雇されたその当事者と家族、妻と子供がどれくらいつらい、苦しい思いをさせられるかという状況が遺憾ながら現実としてあります。そして、本人がもしも営業マンであれば、復職までの何年かの間に顧客との接点がなくなります。技術者であるならば、日進月歩する技術についていけなくなる。こういう不利益を全部総合してみますと、単に賃金が全額払われているということは社会的な意味で決して満足ではないのであります。この事実をしっかり踏まえる必要がある。しかも、それがなくてはもう生活できない、生活を辛くも支える唯一の糧である賃金、しかも、これは後に残りません。費消されます。当たり前のことなんです。それを、まだ本案判決が決まる前に、仮処分段階の異議の段階で、しかも、これは必要的口頭弁論じゃなくなりましたから、あっさり取り消される、その段階でなおかつ返せ、これは幾ら何でも不合理きわまる。こういう条文は削除されるべきだと私は考えております。  ちなみに、二つ経過を振り返ってみますと、昭和五十九年五月に法務省民事局参事官室がまとめた、五十八年十月十七日付をもって参事官室から各界に対して意見照会をした記録があります。「仮差押え及び仮処分命令及び手続に関する検討事項」についての裁判所からの回答を見ますと、この原状回復についてどうかという質問、これは何の原状回復なのか、金銭までかどうかという点については質問段階で入っておりません。ですから、これはあいまいなんですが、回答の方では、結論賛成の意見でも、これは給付物、給付した物の返還に限定されるべきだというふうにかなり限定をして答えているというのは、ぎりぎりの生活を支えるために使って、辛うじて生きてきた、そんなところまで返せということは不合理だという判断が前提にあっての裁判所司法部内の回答だったと私は思います。  もう一つ申しますと、明治二十三年につくられた、これは本案判決の仮執行宣言の場合ですと、百九十八条の二項に、本案判決変更の場合は返還、原状回復を「命スルコトヲ要ス」という条文があります。これは本案判決手続にこういう条文があって、しかし、同じときにつくられた保全処分の仮差押え仮処分の項目には明確に区別をして、この種の条項は入っていないのです。ですから、これは仮処分が暫定的な権利保全なんだ、本案判決確定に至るまでの権利保全という制度趣旨から、常識的にこういう区別がされたのだろうと私どもは理解しておりました。  いずれにしましても、この三十三条というのはそういう問題があります。この前民事局長は、これを裁量的にすることは一つの選択肢であると先生の質問に答えられました。しかし、労働者にとって明確な不利益を及ぼすことは明らかなんだ、それはもう削除以外にないと私は考えております。
  61. 安藤巖

    ○安藤委員 この三十三条の関係につきましては、利息をつけないで返還、あるいは今お触れになりましたように、「しなければならない」のではなくて「することができる」というふうに裁判所裁量的な余地を残すような修正をしたらどうかというような意見があることはあるのですが、今お伺いしますと、それだけでもまだ不十分である、やはり削除だという御意見だと承りました。  そこで次に、これも先ほど終わりのところで議論になったところですが、第六十二条の占有移転禁止仮処分効力の関係です。  私も前にいろいろ経験したことがあるのですが、企業が企業閉鎖ということで労働者を全部解雇して追い出すというようなときなんか、これが相当使われたり使おうとしたりということで労働者の職場を奪う、さらに言えば、労働者の団結権とか争議権にもこれは関係があるのではないかというふうにも思うのです。この法案がこの条文のままに通るということになると相当大きな影響があるのだろうなと思うのですが、この点については上条参考人はどういうふうにお考えでしょうか。     〔井出委員長代理退席、委員長着席〕
  62. 上条貞夫

    上条参考人 二十一日の本委員会の質疑の中で、藤井民事局長は、占有移転禁止仮処分の公示の前から占有している労働組合には適用がないのだということを答弁されました。しかし問題は、実際の争議を想定してみますと、要するにこれは張り紙一枚なんです。ある朝行ってみたら占有移転禁止の張り紙がしてあった、そして自分が当事者になっていない、しかし実際に会社が倒産して行く場所がない、もうそこに一定の範囲を占拠して、そして実際に団体交渉あるいはいろいろな権利を守る運動を展開するという、これは労働組合法上の権利に当然含まれるわけでありますが、そういう場合にこの条項は、その公示の後に立ち入った、占有した者については、これはだれであろうと一律にこれを追い出すという効力を求めるということになっております。  私は、この条文のすべてをけしからぬと言っているわけじゃございません。確かに占有屋というのがございます。転々とその占有の主体が変わる、これについては確かにこの六十二条は意味を持つでありましょう。しかし、我が国の法体系は、市民法だけではなくて労働法との体系が絡んでおります。もともと法体系の違う、しかしどこかの接点で絡む、この絡むところについては特例を設けるというのが立法のあり方だと私は考えるわけであります。  例えば、先生も御承知のように、労働組合法一条二項は、外形的に刑法に触れるような行為であった場合でも、それが労働組合の行為としてなされた場合、正当なものについては刑法三十五条の違法阻却のあの条項を媒介にして特例が制度化されるわけです。ですから、この六十二条についても、ここは労働組合については適用除外ということを法文上明記すべきであろうと思います。そうでないと、憲法上の権利に基づいて、そして組合法上の権利を行使して部分的な占有をしている、それだけの争議団に対して、占有屋、地上げ屋あるいは暴力団と全く同じレベルに律する法律のままに通ってしまいます。これはまことによくない、明確な適用除外を設けるべきだというのが私の意見でございます。
  63. 安藤巖

    ○安藤委員 時間が迫ってまいりました。最後に、三ケ月先生にお尋ねしたいと思うのです。  先ほど来この法案が、仮処分事件のまず申請段階では、それ以後でもそうですか、審尋でやる場合、みんな決定でいくのがまず原則だというようなことで、それが裁判がずさんになるのではないかとか拙速になるのではないかというような御批判もあるかもしれませんがとおっしゃって、しかし、それも口頭弁論をすることもできるし、充実した審尋をすることもできるのだしということで説明をなさっておられたのですが、これはずさんじゃない、拙速じゃないというふうに一般の国民の皆さん方にアピールすると言ったってアピールのしようもないのじゃないかという気がします。  そこで、例えば今度の法案の第十六条には、理由の要旨で足りるとかいうのがあります。ですから、こういうような場合、やはり口頭弁論を経た場合は、決定であっても理由の要旨ではなくて理由をきっちり書くべきではないかとかいうような議論もありますし、私もそう思うのです。  それから、第一条の関係では、「内容に応じて適切な審理を行ない、民事保全裁判を受ける権利を侵すことがあってはならない。」というのをやはりつけ加える必要があるのではないかとか、あるいはこれは十一条の関係ですが、証人尋問のときに順序変更して、簡単に言えば裁判官が中に割って入って、これから私がやるんだとかいうふうに訴訟指揮ができるというようなことになっております。こういうようなものも、大分職権主義的になる、それが拙速、ずさん——ずさんとまではいかないのかもしれませんが、そういうような批判を受ける理由の一つになってくるのではないかという気がするのですが、その辺のところはどういうふうにお考えでしょうか。
  64. 三ケ月章

    ○三ケ月参考人 私が先ほど申し上げましたのは、今までは判決決定選択が認められていたのに、決定に絞ったということが非常にずさんになるのではないかというふうな意見を起こしやすいということを述べたわけでございますが、決定というふうなものだけに絞ったということになりまして、しかもその中にかなり判決的な要素をつぎ込んでおるわけでございます。ですから、審理の実質といたしましては、十分国民にも説得ができることではないだろうかというふうに私は考えております。  それから、理由でございますが、なるほど当事者側としてみれば、理由は詳しいほどいいに違いないのですが、実は私も、初めは大学で教えていたのですが、弁護士などをやってまいりますと、やはり判決理由裁判理由というものを書くのでおくれるということが非常にございます。そこで、そういうような場合に、理由を書くのでおくれるので、もうあしたからでもやりたいというのがおくれるということがいいのだろうか。それとも、裁判理由を付するというふうなことは大原則でございますが、前にも申しましたように、この仮差押え仮処分は、いわば後ろに本案手続が控えておる、それの一つの保全のための手続でございますから、そこのところでははっきりと本案保全とのいわば違いというものが裁判運用についてもあらわれるのがしかるべきではないか。先ほどの審理の弾力性もそうです。順序変更するというのもそうでございます。そういうふうなことで、この理由の要旨を示せば足りるということでも、どの辺まで書くかということは大変問題でございます。これは恐らく事案審理、もう理由を示さぬでも今までのようにぽんと、書面から見て明らかだというのが仮差押えなどにつきましては非常に多いと思うのですが、そういうような場合には簡単でいいのじゃないか。それから、逆に今度は、きょうの委員会で問題になっております非常に複雑な問題というものにつきましては、書面だけで足りるというのじゃなしに、いやしくも仮処分であろうと、なぜこんなことをしたかについてはある程度の詳しさが必要であろう。  その辺のところの全体を最大公約数的にすれば、こういうふうに決定でも理由はちゃんと付するんだ、ただし、口頭弁論を経ない場合は理由の要旨を示せば足りるというところがいいところではないかということでございまして、元来は、余り保全命令申し立て裁判について理由を付するというと、かえって角を矯めて牛を殺すことにもなりかねない、迅速性、密行性を非常に重視せざるを得ない一面のある一般の保全処分というものを眼中に置いて考えればそういうことになるのじゃないか、こういうように考えておるわけです。
  65. 安藤巖

    ○安藤委員 ありがとうございました。  時間が参りましたので、これで終わります。
  66. 戸塚進也

    戸塚委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人各位におかれましては、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  午後一時三十分に再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時十四分休憩      ────◇─────     午後一時三十分開議
  67. 戸塚進也

    戸塚委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所民事局長兼行政局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  68. 戸塚進也

    戸塚委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。      ────◇─────
  69. 戸塚進也

    戸塚委員長 民事保全法案について質疑を続行いたします。坂上富男君。
  70. 坂上富男

    ○坂上委員 ちょっと民事保全法に対する質問を最初にやらせていただきます。ほかの省庁からお願いをいたしたわけでございますが、すぐ終わりますので、しばらくお待ちをいただければありがたいと思っております。  まず、最高裁の方にお聞きをするのでございますが、いわゆる複雑民事事件と言われる仮処分仮処分になじまない、こういうようなことで裁判を受ける権利が侵されるというような心配はありませんでしょうか。
  71. 泉徳治

    ○泉最高裁判所長官代理者 お答えいたします。  今度の民事保全法は決定主義をとっておりますけれども、その中で任意的口頭弁論採用しております。したがいまして、簡易迅速性にすぐれました審尋手続証人尋問等を厳格な手続で行います口頭弁論を適宜組み合わせることによりまして、複雑困難な事件もこれまで以上に迅速適正に運用されるものと確信いたしております。
  72. 坂上富男

    ○坂上委員 ぜひひとつそのようにお願いをしたいと思います。  それからいま一つは、民事保全事件運用に当たりまして、特に労働事件の場合、労働者や労働組合の権利が侵害されるというようなおそれはないのでございましょうか。特に心配いたしますのは、結局のところ簡単に立入禁止等の仮処分が出る場合、それからまた、労働者や労働組合の方から解雇等の救済を求める場合におきまして、どうも仮処分になじまない、さっき言ったのと同じような形で、具体的に労働事件等が、特に労働者救済という部面からこの運用権利侵害されることはないのだろうかと危惧をしておりますが、いかがでしょうか。
  73. 泉徳治

    ○泉最高裁判所長官代理者 労働事件の中でも特に複雑な地位保全仮処分などの事件でございますけれども、これなども、先ほど申しましたように任意的口頭弁論を適宜活用することによりまして、立証の難しい事件はそちらの方で処理できますし、また、それほどでもない事件でありますと、審尋手続を十分に活用することによって迅速な処理ができるかと思っております。  それから、もう一つ御懸念のあります使用者申請の仮処分労働者側の意向が無視されるのではないかという御質問でございますけれども、これも、これまでも使用者申請の仮処分申請事件につきましては、ほとんどの場合債務者審尋を行っております。この慣行は、今後も新保全法のもとにおきましても維持されるものと思っておりますので、その点の御懸念も無用かと思います。きょう午前中の参考人意見を私も拝聴しておりましたけれども、実務で慣行化している公開の法廷における審尋手続というものができ上がっているが、それを切り捨てることになるのではないかという御意見もございましたけれども、むしろ今回の任意的口頭弁論というものは、そういうものを認知といいますか、立法化するという面も持っているのではないかと思いますので、私どもは、これまでと同様といいますか、これまで以上に労働事件についても適正な裁判ができるものと考えております。
  74. 坂上富男

    ○坂上委員 最高裁、お帰りになっても結構でございます。  今度は法案の二十五条、仮処分解放金。民事局にお聞きをいたしますが、この「保全すべき権利」というのは係争物に関する仮処分なんでございましょうか。それから今度は、「債権者の意見を聴いて、」とありますが、こういうような場合は、仮処分解放でございますので、やはり同意を必要とするのじゃなかろうかと思いますが、いかがでございましょうか。
  75. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 法案の第二十五条にございます「保全すべき権利」といいますのは、係争物に関する仮処分における被保全権利をあらわしているものでございます。仮の地位を定める仮処分は、法案の二十三条二項に規定しておりますように、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため」に必要があるときに発することができるわけでありまして、この場合には、金銭の供託によって債権者のした仮処分目的が達せられるというふうには考えられないわけでありますから、その性質上、仮処分解放金をこの場合につけるということはおよそ考えられないというふうに考えております。  これは例えば法案の第一条をごらんいただきますと、係争物に関する仮処分においては「本案権利」と表現いたしております。仮の地位を定めるための仮処分におきましては「本案権利関係」という表現をいたしております。これは二十三条の一項と二項でもそのように使い分けをいたしておるわけでありまして、「権利」というふうに表現している場面におきましては、これは係争物に関する仮処分を指しているんだということを法文上は明らかにしているつもりでございます。  したがいまして、係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分と両方を並べて規定するときには、例えば十三条でございますとか三十八条にございますように「保全すべき権利又は権利関係」と両者を並列しているわけでございます。そういう点からいたしまして、この二十五条は、係争物に関する仮処分のみを念頭に置いているということは明らかであると考えております。  それからもう一点、二十五条の中に「債権者の意見を聴いて、」とあるのは、債権者の同意を要求すべきではないかというお話のように承ったわけでありますけれども、この仮処分解放金は、保全すべき権利が金銭の支払いを受けることをもって行使の目的を達することができるときに限って付することができるのでありまして、この要件の存否などを客観的に判断する必要がある、その判断資料の提出などの機会を債権者に与えるために、意見を聞くという規定にしているわけであります。これを必ず債権者の同意がなければならないというふうにいたしますと、これは債権者の恣意を許すことになるわけでございまして、これではかえって当事者の公平が図れないということになるのじゃないか、債権者の意見を聞くことによって裁判所が適切に判断をするものであると考えております。
  76. 坂上富男

    ○坂上委員 それでは、今度は第二十七条でございますが、「保全命令の取消しの原因となるべき事情及び保全執行により」云々と、こうありますが、ここでこの「及び」はこの「事情」と「損害」の二つを必要とする、こういう意味だろうと思いますが、いかがですか。
  77. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 両者を必要といたします。
  78. 坂上富男

    ○坂上委員 さてそこで、今までの議論を聞いておりまして、こういう質問は大変素人っぽい質問でございますが、どうなんでしょうか。仮差押えは従前とほとんど変わりがないだろうと思うのでございますが、係争物、あるいは仮の地位でもいいのでございますが、仮処分は出しやすくなるんですか、あるいは出しにくくなるんですか、どっちですか。
  79. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 この法律案の趣旨は、緊急の必要に対処するための仮処分というものが迅速に、かつ、充実した審理のもとに出せるようにするという考えのもとに立案をされたものでございまして、現在の法律で大変不備である、そしてまた、場合によっては非常に長期間を要するような審理構造になっているものを合理化するというねらいがあるわけでございます。したがいまして、この法律が適切に運用される限り、適切な仮処分が適時になされ得る、それが容易になるというふうに考えております。
  80. 坂上富男

    ○坂上委員 取り消しあるいは停止等はいかがでございましょうか。
  81. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 これまでの実務の上で、仮処分、要するに保全処分の取り消しというものにつきまして、必ず口頭弁論を必要とするというふうに定められておりまして、そのためにどうしても本案審理と同じ手続を要することになる関係上、勢い、取り消しの手続あるいは異議の手続自体が本案と同じような歩調でもって長期間を要するような傾向にございました。これでは、誤った保全命令が発令されたときに、債務者に対する救済のあり方としては甚だ不都合であるわけでございます。したがいまして、異議あるいは取り消しの手続の面におきましても、債務者地位に十分配慮いたしまして両当事者の公平を図る、誤った仮処分がなされた場合には、それが速やかに取り消されるような手続上の手段を講ずるという配慮をなしているものでございます。
  82. 坂上富男

    ○坂上委員 次に、今度は第三十七条の起訴命令徒過による取り消しについてでございます。  従前は、口頭弁論を開く、そして口頭弁論終結時までに訴えの提起がなされれば取り消しにならないということであったわけですが、この間も御質問があったので確認をしてもらいたいのですが、今回は、起訴命令が発せられる、そして期間を徒過した、そして徒過によるところの取り消しを申請いたしますと取り消しになる、こうなるのでしょうか。
  83. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 これまでは、起訴命令に定められた期間内に本案訴えが提起されなくても、その起訴命令に従わなかったことを理由とする仮処分命令の取り消し訴訟の口頭弁論終結時までに訴えが提起されれば、結局取り消しを免れるというようなルーズな運用がされておりました。これでは、起訴命令に定められた期間を遵守しない債権者の利益が過度に保護されて、迅速な紛争解決という理念に合致しないと考えられますので、改正法案におきましては、訴えを提起したという書面の提出を命じまして、その期間内に書面が提出されないときには速やかに保全命令決定手続で取り消せるようにするというのがこの法案のねらいでございます。
  84. 坂上富男

    ○坂上委員 次に、三十八条の事情変更による取り消し、その次の三十九条の特別事情による取り消しなんですが、これは従前の規定と内容は変わりはないのでしょうか、何かどこか変わっているのでございましょうか。
  85. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 事情変更による取り消し及び特別事情による取り消しにつきましては、従前の手続判決手続によることとなっておりましたものを、すべて決定手続によることに改めました以外に格別変更を加えておるものではございません。  ただし、管轄裁判所につきましては、この改正法案においては、本案の係属する裁判所保全命令を発した発令裁判所、この両者を同格にいたしまして、債務者選択にゆだねて当事者の便宜を図っているという点が違いとして挙げられようと思います。
  86. 坂上富男

    ○坂上委員 民事保全法の方はまた後刻質問させていただきまして、大蔵省と警察庁に緊急の質問をさせていただきたいと思いましてお願いをしたわけでございますので、この段階質問をさせていただきます。  まず警察庁の方でございますが、坂本弁護士の行方不明の事件についてでございます。  これは先般も質問をさせていただいたのでございますが、全く神隠しに遭ったような状況で、一体どういうふうになっているのだろうかという私たちの心配が大変大きく広がってきておるわけでございます。また、日弁連あるいは横浜弁護士会も、坂本氏救出のためにあらゆる努力を払われておるようでございます。また、警察庁とされましても全力を挙げてこれの捜査に当たっていることも私たちは知っておるわけでございますが、一体その後どのような進展を示しているのか、国民の前に明らかにしていただきたいな、こう思うわけでございます。同僚である弁護士としての立場、それからまた一般の国民といたしましても、この問題はどうなっているんだろうという心配が全国津々浦々までも行き渡っているようにも思えてならないのでございます。警察庁からその後の捜査の進展の状況をひとつお教えをいただき、かつ、これから私たちの方も少し見守れば何とか解決が図られるのでございましょうか、その辺できるだけひとつ、捜査捜査と言わないでお答えをいただければありがたいと思います。
  87. 山本博一

    ○山本説明員 お答えいたします。  お尋ねの弁護士一家失踪事案につきましては、十一月十五日に公開捜査に付しますとともに、十七日には百二十名の体制をもちまして捜査本部を設置いたしまして、現在も引き続き現場付近の不審人物それから不審行動等の有無等につきまして徹底した聞き込み捜査を行っております。また、失踪者坂本弁護士の取り扱い事案をめぐる紛議等につきましても所要の捜査を行っております。さらには公開捜査によります情報収集と、この裏づけ捜査等につきましても現在強力に推進しておるところでございます。  ただ、現在までのところ残念ながら弁護士一家三人の行方は判明しておりませんが、公開捜査に付しまして以降、これまでに全国の警察や民間の方々から約五十件に上る関連情報が寄せられているところでございまして、これらをも参考にしながら現在捜査を鋭意進めておるところでございます。今後におきましても、あらゆる可能性を考えながら全国捜査を強力に推進し、本失踪事案の早期解決を図ってまいりたいと思っているところでございます。
  88. 坂上富男

    ○坂上委員 警察庁に本当に救出方、事件の解明方を期待をいたしたいと思いますので、ひとつ頑張っていただきますことをお願いをいたします。  その次は大蔵省の方でございますが、さきのリクルート事件の際も、いわば証券取引の問題といたしましていろいろの問題が指摘をされ、議論をされ、そしてまたこれに対する改善が行われようとしておるわけでございます。  今回発生をいたしました大和証券の粉飾決算疑惑についてでございますが、まず、大蔵省とされましてはこの事案についてどの程度内容を把握をされておるのか、お答えをいただきたいと思います。
  89. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  先生御指摘の事案につきましては、私ども概略承知をしておる段階でございますけれども、大和証券におきまして社内の体制が変わって後、昭和五十六年に社内で内部点検をやっております際に、五十年代前半に営業上の問題から約百億円の損失が生じているということと、これが簿外処理の状態になっているということが判明いたし、その後昭和五十九年になりまして、保有株式のいわゆる益出し、含み資産の利益を出すことによりまして、この簿外損を整理するということを行ったということでございます。
  90. 坂上富男

    ○坂上委員 そこで、これを大蔵省が探知したのはいつですか。
  91. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答え申し上げます。  具体的な日時はちょっと記憶してないわけでありますけれども、最近になって、この簿外処理と関係いたします三協エンジニアリングという会社の捜査の過程で、そういう捜査を受けたということとあわせて、今申し上げたような事実を私ども聞いたところでございます。
  92. 坂上富男

    ○坂上委員 その聞いた日時は、ことしの六月でございませんか。
  93. 水谷英明

    ○水谷説明員 それはもっとずっと後になって、最近であったと記憶いたしております。
  94. 坂上富男

    ○坂上委員 最近というと、この十一月という意味でしょうか。
  95. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  今申し上げました三協エンジニアリングの当該被疑者が逮捕されたのはたしか十月の上旬であったとおぼろげでありますが記憶するわけでございますが、その少し前であったというように覚えております。
  96. 坂上富男

    ○坂上委員 そうすると、これは粉飾決算であるということを確認をしたということですか。それとも、これから問題になりまするところの百億円に上る損失保証とでも申しましょうか、この欠損を知ったのが十一月、最近、こうなりますか。どうですか。  新聞の報ずるところによりますと、ことしの夏、この夏というのは六月、大蔵省は知っているはずだ、こういうような報道もなされているようですが、どの部分ですか。粉飾決算の報告なのか、それとも損失保証の報告なのか、どっちですか。
  97. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  最初に申し上げました概略の事実関係について承知をいたしたということでございます。
  98. 坂上富男

    ○坂上委員 そうしますと、具体的に聞きますが、粉飾決算である、こういうことは確認したのですか。
  99. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  これから大和証券より事情聴取等を行い、証券取引法上のいろいろな問題点がないかどうか詳しく調査してまいりたいと考えているところでございます。
  100. 坂上富男

    ○坂上委員 これから調査をしたい、こう言っているのですが、大蔵省はどう確認をしているかという質問をしているのです。これからどうするかという質問などしていませんよ。私の質問をよく聞いて、長く要らぬですから、ぴたっと答えてください。
  101. 水谷英明

    ○水谷説明員 現時点においては、法律上の違反かどうかというようなことについて判断を下すほど事実関係を承知しておりません。
  102. 坂上富男

    ○坂上委員 私の質問は、大和証券に粉飾決算があったかなかったかということを現段階において確認をしておりますか、こういうことです。  それから、損失保証による欠損を起こしたのか起こさなかったのか、これはどうなっていますか、こう聞いているわけでございます。これは否定なら否定で、きちっと言ってください。
  103. 水谷英明

    ○水谷説明員 現段階では、最初に申し上げましたように、概略の事実関係について承知しているところでございまして、今後、先生御指摘のような問題点を念頭に置きながら、詳細に事実関係を聴取してまいりたいと思います。
  104. 坂上富男

    ○坂上委員 具体的にどの程度の確認手続をしたのですか、調査手続をしたのですか。例えば、いつ、どういうこと、こういうのをきちっと答えてください。
  105. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  繰り返しになりますが、現段階では概略の事実関係についてそのあらましを聞いただけでございまして、今後詳細にそういう事実関係を調査してまいりたいという考えでございます。
  106. 坂上富男

    ○坂上委員 では、別の角度から聞きましょう。  損失保証というのをいたしますと、これは証券取引法違反に当たると思いますが、いかがですか。
  107. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  証券取引法五十条では、証券会社またはその役員もしくはその使用人に、次に掲げる行為を禁止しております。その一つに、顧客に対して「損失の全部又は一部を負担することを約して勧誘する行為」というのが定められております。
  108. 坂上富男

    ○坂上委員 それから、欠損が百億円出たわけでございますが、これは有価証券報告書の虚偽記載に当たる、これについては大和証券も認めているわけでございますが、この点は大蔵省はまだ確認できていないのですか。そうして、これは証券取引法のどういうところに違反をするのですか。そして、これに対する処罰等はどうなっているのですか。
  109. 中川隆進

    ○中川説明員 お答えを申し上げます。  今の御指摘の点でございますが、御承知のとおり、証券取引法のいわゆるディスクロージャーという観点から申し上げますと、有価証券報告書なりあるいは半期報告書等があるわけでございますが、これらにつきまして重要な虚偽記載といいますか、数字上の間違い等があります場合には、証券取引法の百九十七条に基づきまして、今申し上げましたとおり、「重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した者」に対しましては罰則規定がございます。
  110. 坂上富男

    ○坂上委員 この罰則規定は時効になっていますか、なっていませんか、大蔵省。本件の場合ですよ。
  111. 中川隆進

    ○中川説明員 御指摘の大和証券はもちろん上場会社でございます。有価証券報告書等を継続的に提出しているわけでございますが、どの時点の有価証券報告書にどういう形の記載があったかということについて正確に把握いたしませんと何とも申し上げられないわけでございますが、これに関します時効は一応三年ということでございます。ただし、今申し上げましたとおり、どの時点の有価証券報告書の記載にどういう問題があるかということは正確にはまだ把握しておりませんので、何とも申し上げかねるところでございます。
  112. 坂上富男

    ○坂上委員 私は素人ですが、申し上げましょう。いいですか。とにかく百億円の欠損金が出たというのですね。しかもそれは五十六年ごろ調査をいたしましたらそういうようなことが出ておって、そこで何とかこれを隠そうとした、こういうようなことがあるわけですね。したがいまして、百億円の欠損というのは今日までもずっと続けられているのじゃないですか。それで、有価証券報告書の中にはそのことは全く最初から終わりまでなかったような記載になっているわけでしょう。そうだといたしますと、去年なのかことしなのかわかりませんが、そういう報告がある。それをもとにいたしまして有価証券報告書の虚偽記載、こういうふうになるのだろうと思うのでございます。だものですから、これは時効なんというのは全く成立していない、こう思っているわけでございますが、どうですか。
  113. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  先ほど私どもが承知している事実関係を申し上げましたのですが、繰り返しになりますが、五十六年に社内で点検をしたときに発見いたしましたという営業上生じた損失、五十年代前半と言っておりますが、五十年代前半に損が生じたということと、それが簿外になっておったという事実がわかったということでございまして、五十九年になって簿外の損を含み資産の益出しで埋めたということでございます。どうも簿外の処理のようでございますけれども、その時点で一応損は埋まったというように承知しております。
  114. 坂上富男

    ○坂上委員 損は埋まっても、有価証券報告書の虚偽は変わりはないのじゃないですか。どうです。
  115. 中川隆進

    ○中川説明員 お答えを申し上げます。  今の御指摘でございますけれども、新聞報道等でございますと、五十九年の十一月に御指摘のような処理が行われたと承知しているわけでございます。そういたしますと、その直後に提出されました財務諸表といいますか有価証券報告書と、六十年三月期、これは半期でございますが、証券会社の決算は当時は九月決算でございましたが、六十年三月期、六十年九月期というのがその後でございますが、そのときに処理をしていたといたしますと、そのときの有価証券報告書の記載状況はどうであったか、こういうことが問題になってこようかと思いますけれども、詳細につきましては、ディスクロージャーを担当します私どもとしましては、これから証券会社等からよく事情を聞いてみたい、こういうふうに思っているところでございます。
  116. 坂上富男

    ○坂上委員 いいでしょう。  さてそこで、今有価証券報告書の虚偽性についてお話があった。いま一つは、今度は損失保証でございます。これについては全く見当もついてないのですか。もう相当程度進んでいるのじゃないですか。大蔵省、どうです。
  117. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  先ほど申し上げましたように、いわゆる損失保証、損失を負担することを約して勧誘する行為というものは証券取引法で禁止されておりまして、私どもはこういうことのないように従来より証券会社を厳しく指導してまいっておるわけであります。  今回の大和証券の行為につきましては、そういう具体的な損失保証を約した勧誘があったのかどうかという観点から事実関係を正確に把握してまいる必要があると考えておりまして、今後そういうことを念頭に置いて厳正に調査をしてまいりたいと思っております。
  118. 坂上富男

    ○坂上委員 どうですか、今度はあなた、これから欠損金を調査すると言う。どの程度見当がついているのかということを聞いているのだけれども、はっきりお答えがない。  さっきお話しのとおり、有価証券報告書は虚偽性があるということが答弁で大体わかりました。  もう一つは、損失保証によるところの欠損が出ているのだ、そしてこれをこういうやり方で穴埋めをした、こういうようなことが言われているわけでございます。しかしながら、大蔵省はまだ確認をしていない。しかし、今言いましたような虚偽性から、その部分は粉飾決算だということは出ているのじゃないですか。これはどうですか。
  119. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  五十年代前半の営業上の行為から生じた損失を簿外にしているということ自体、証券会社の営業姿勢とか証取法上に何らかの問題があったのではないかというようなことを推測することも可能だと思うわけでありますけれども、その辺につきましては正確な事実調査を行った上で判断をいたしたいと考えております。
  120. 坂上富男

    ○坂上委員 早急にしてもらわぬといかぬです。  そこで大蔵省、証券会社がこんなことをしていたと報告があるまでわからないのですか、監督官庁として。これは四年間も放置していた、こう書いてある。だがこれは、大和証券も大和証券ながら、大蔵省の監督についても問題があるのじゃなかろうかと思いますが、いかがですか。きちっと指導監督しておれば、こういうことは発覚するのじゃございませんか。どうですか。いや、とてもじゃないがそれは不可能なんですということになるのでございましょうか。どうなんですか。
  121. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  証券会社の経営の近代化という問題につきましては、私ども証券当局といたしましてはかねてより十分意を用いて厳しく指導してきたつもりでございますけれども、今回御指摘のようなことが仮に証取法違反あるいはそれの疑いのあるようなことがあったということは甚だ遺憾なことだと考えておりまして、私どもといたしましても、今後ますます自戒いたしまして、こういったことが二度と起こらないようにさらに厳しくいろいろな指導を行ってまいりたい、こう考えております。
  122. 坂上富男

    ○坂上委員 課長さんですからこれ以上の答弁はあるいは無理かもしれませんが、もう少しきちっと答弁できる人をお願いしたい、こう言っているのです。あなたで不服だというわけじゃないのですが。いいですか、もう今後こういうことのないようにと、こうおっしゃるけれども、あなた方が監督をし指導をしておればすぐ発見できたであろうに、うちらの方の能力が少し足りませんでしたから、四年間も検察庁から調べられるまでわかりませんでした、こういう答弁のようです。しかし、二度とこういうことをさせません、こう言っている。これは矛盾なんですよ。もし二度とさせないという確信があるのだったら、四年の間にこういうことがあるということはわかったと思うのです。どうもあなたの答弁は矛盾ですよ。どっちなんですか。いわゆるあなた方の指導監督が悪くてこうなったのか、あるいはそうおっしゃってもそれは不可能なんです、しかしまた本人によく教育し、よく言い聞かせて、二度とこういうことのないようにさせます、これだけでしょうか。どっちなんです。
  123. 水谷英明

    ○水谷説明員 ただいまも御説明したとおりでございますけれども、これまでも証券会社の経営の近代化ということに対しては私ども十分努力をしてきたつもりであったわけでございますけれども、こういう事件を一つの反省材料にいたしまして、今後ますます努力をいたしてまいりたい、こう考えております。
  124. 坂上富男

    ○坂上委員 大和証券は野村証券さんに次ぐ第二位になったという。第二位になるためにこういうこともあったと言われているわけでございます。日本で有数の証券会社。善良な国民の皆様方は、わずか千株あるいは二千株、その上がり下がりによって少しはもうかった、損した、こういうようなことでいろいろと国民の皆様方が一生懸命に株の売買をしているわけです。それが大口であればもうかる、したがって大口の取引をしていただければ会社の業績が上がる、そのことのために損失保証いたします、こうなってくると、証券行政なんというのは根本的にここに問題があるんじゃないですか。しかもこれは二番目の大会社だ。こういう大会社が百億の欠損をこうやってごまかして、粉飾して国民の目をくらますなんということは到底承知できる問題ではないと思うのです。やはりこれは大蔵省が大きな責任を負わねばならぬと思うのです。一体大蔵省はどういうことを指揮監督するのですか。どういうことを証券会社について調査しているのです。今言ったことは国民の率直な声ですよ。もう少しきちっと御答弁いただきましょうか。
  125. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  先生御指摘のように、株式の保有が大衆化と申しますか、大勢の方が株式を保有されるようになった現在の証券市場というものを考えますときに、その担い手である証券会社というものがそのことを十二分に自覚した行動をしなければならない、またそういうことをしていくことが証券市場の信頼をつなぎとめることだということで、私どもそのことは大変に重要なことだと認識しております。今後とも行政指導の面で、例えば私ども大蔵省の監督はもちろんでございますけれども、各社の内部のチェック体制あるいはお客さんに対する正しい啓蒙等、各般にわたって努力してまいりたいと考えております。
  126. 坂上富男

    ○坂上委員 あなたの御答弁で承認するわけにはいきません。  ちょっと今度は観点を変えまして法務省刑事局にお伺いをいたします。  この問題を担当した元常務をお調べになったようでございますが、これは御答弁いただけますか。
  127. 根來泰周

    根來政府委員 この件は、いきさつを申しますと、三協エンジニアリング株式会社というのがございまして、この会社につきまして法人税法違反の事件がございました。法人税法違反の事件というと、いろいろ売上除外等の件があるかどうかということを調べるわけでございますが、大和証券から三協エンジニアリング株式会社にいわゆる迷惑料と称しまして億単位の金が行っておったわけであります。その億単位の金が売上除外になっておりまして、結局脱税になっておったわけでございます。どういうわけで迷惑料が行っているかということを調べましたときに、先ほどからお話のありました損失といいますか、大和証券のこうむっておる損害を三協にかぶせまして、三協に安く株を売りまして、その株を三協が高く売りまして、その差額で損失を充当したという事実を発見したわけでございます。  そういう経緯でございますから、当然調べた経緯ということは、どういう人を調べたということについてはお察しいただけるかと思いますけれども、問題の元常務という方はどういう方か私も承知しておりませんので、調べたかどうか私からは申し上げる点でもございませんし、また、今申し上げることもできない事柄でございます。
  128. 坂上富男

    ○坂上委員 精いっぱいの御答弁をいただいてありがたいと思いますが、さらにまたお聞かせをいただきたいと思います。  問題は損失保証でございますが、検察庁からお調べを受けたと思われる元担当常務は、インタビューの中では、一生懸命の余りついつい損失保証になったのだ、「いろんな事情で結果的にそうなったようなことじゃないですかねえ。」こう言っているわけです。インタビューでも認めているのですね。捜査の中でもこれを認めている、こう言われていますが、いかがですか。
  129. 根來泰周

    根來政府委員 先ほど来御説明いたしましたように、検察庁としては、損失保証という言葉の意味でございますけれども、あらかじめ損失ができたときには補償しますという約束をしてこういう債務といいますか損害を生じたというふうに考えるのか、あるいは事の成り行き上こういう損失を生じたというのか、その辺については検察庁としては犯罪に直接関係することではございませんから、そう突き詰めて調べていることではないと思います。したがいまして、私どもの立場として、果たして初めから損失保証という契約があってやったことか、そうでないのかということは申し上げられない事柄であると思います。
  130. 坂上富男

    ○坂上委員 局長、損失保証というのは背任罪を構成するのじゃないでしょうか。いかがでしょうか。
  131. 根來泰周

    根來政府委員 これは先ほど来大蔵省からもお話がありましたように、また委員からも御指摘がありましたように、相当昔の話でございますから、調べましても、いずれにせよ仮に背任罪ということになりましても時効の話になりますから、検察庁はそこに焦点を当てて調べていたということはないと思います。
  132. 坂上富男

    ○坂上委員 おっしゃるとおりだと思うのです。ただ、私はこういう損失保証について罰則規定のないのはなぜかということを考えてみたのですが、これはやはり特別背任になるから、背任罪に当たるから、これについては証券取引法上の処罰規定でなくして、刑法の処罰規定になるのじゃなかろうか、それは背任罪、こういうようなことがあるから、ここで担保されているのじゃなかろうか、こう実は思っているわけであります。  特に、損失保証というのは大変なことでございまして、商売してあなたの方が損したら私らの方で補てんしますよというわけでございますから、手数料よりもやはりちょっとは多い損害だろうと私は思うのです。だから背任だろう、こう実は思うのですが、これはどうですか、局長。今抽象的な言葉でございますが、ただ時効、これはわかっているのです。でありますけれども、やはり事の性質としてはこういうようなことでございますから、こんなような損失保証をし、百億にわたるところの損失補てんをした、こうなりますと質としては相当悪質な事案だろうと私は思っているのです。ただ、たまたま時効になっている、こうなのではなかろうかと思いますが、いかがでございましょうか。
  133. 根來泰周

    根來政府委員 御承知のように、こういう犯罪、犯罪といいますかこういう事柄についてどういう法文の刑罰の適用があるかということを考えました場合に、商法上の特別背任罪あるいは刑法の背任罪というのはあると思います。しかし、特別背任罪にしろ背任罪にしろ、自己または第三者の利益を図りあるいは本人を害する目的をもってという目的犯ということを言われているわけでございます。したがいまして、仮にこの損失保証ということを俎上に上げました場合に、そういう目的があったかどうかということを事実関係に即して調べなければ何とも言えないことでございますので、損失保証即特別背任罪あるいは背任罪に当たるということはちょっと断言はできない事柄ではないかと思います。     〔委員長退席、井出委員長代理着席〕
  134. 坂上富男

    ○坂上委員 大蔵省、大和証券というのはどうなのですか、これは新聞の報道ですが、いつごろから証券業界では第二位に躍進したのですか。しかも躍進の理由は、こういう損失保証というようなことによって無理をして仕事を受けた、これが大きな原因なのだ、こう言われていますが、どうですか。
  135. 水谷英明

    ○水谷説明員 申しわけございませんが、何年度からいろいろな面での第二位になったかというのを今手元に持ち合わせておりませんけれども、証券会社が業界内の順番というか、競争をする余り証取法に違反する、あるいは証券会社の経営の健全性を損なうということは、最も市場の担い手としての信頼を損なう行為でございますので、そういうことはあってはならないこととして事あるごとに指導もしてまいったわけであります。今後ともそういう点については十分配意してまいりたいと思います。
  136. 坂上富男

    ○坂上委員 さて大蔵省、さっき申しましたとおり、いわば損失保証、それに伴うところの損失の補てん、こういうことをやるということは、やはり、今言ったようなストレートにはならないといたしましても、商法上あるいは刑法上の背任罪に当たる、なる場合がある、そういう事案でございまして、そこから見てみますると、本件の事件は過去の事件であった、しかも前の事件であったといたしましても相当悪質な事案ではなかろうか、こう実は私は考えます。したがいまして、こういうようなことに当たりましての処分というものはやはり厳正でなければ、特にいわゆる私たち一般庶民が株に対する信頼というものをまたそんなところから失うのではなかろうか、こうも思っておるわけでございます。いわゆる庶民、善良な国民立場から見てみますると、この責任は相当大きいと私は思っておるわけでございます。大蔵省、いかがですか。
  137. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えします。  有価証券の売買取引に係りまして損失を負担することを約して勧誘する行為、いわゆる損失保証をやるということは、取引の公正の問題もございます。また一般投資家との公平という問題もございます。また証券会社の財務の健全性を損なうということもございますので、証券取引法でかたくこれを禁止しているようなことでございます。こういった行為の違反があったかどうか厳正に調査の上、対処してまいりたいと考えております。
  138. 坂上富男

    ○坂上委員 大蔵省、四年間あなたたちがこういうことを見つけ出せなかったということ、監督上の責任というのはどうお考えになっていますか。
  139. 水谷英明

    ○水谷説明員 お答えいたします。  私ども、本件を含めこういう事案の発生はみずからも厳しく反省材料としてさらに努力をしてまいりたいと思います。
  140. 坂上富男

    ○坂上委員 少し時間が余っておるようでございますが、区切りもようございまして、また保全質問に入るのも少し間が抜けているような感じもいたしますので、私の方では五分ぐらいでしょうか余っておりまするが、質問をこれで終わらせていただきたい、こう思います。ありがとうございました。
  141. 井出正一

    ○井出委員長代理 中村巖君。
  142. 中村巖

    ○中村(巖)委員 まず第一に、民事保全法関係について、どうしてこれが単行法になってしまったのかということについてお聞きをしたいと思いますけれども、民事訴訟法というものは、私どもが当初勉強した限りにおいて、執行関係を全部含んでそれを民事訴訟法ということで、裁判手続、執行関係、保全手続も含めたものを民事訴訟法として理解をする、こういう勉強を受けたわけでありますけれども、その後、執行手続について法を改正するという段階民事執行法という単行法をおつくりになって、その段階ではこの保全関係は民事訴訟法の中に残留をしておったわけですが、その後、また今回民事保全法として独立の単行法として出される、こういうことになったわけでございます。何か民事訴訟法全体の体系として統一的に理解をするという点からいうと、こういうふうにばらばらの単行法にしてしまうのはいかがなものかという感じがいたすわけでありますけれども、これについて、どういう観点からこういうことになってしまったのか、あるいはまたそれに関してどういう論議があったのかということをお聞かせいただきたいと思います。
  143. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 昭和二十九年に法務大臣から法制審議会に対しまして強制執行制度についての改正を要すべき点の諮問がございまして、それ以来強制執行法関係の検討が断続的に続けられてきたわけでありますが、昭和五十四年に成立をいたしました民事執行法の段階で、このいわゆる保全処分に関する手続のうち保全命令の執行手続の部分だけが取り出されまして民事執行法の中に取り込まれました。  しかしながら、仮差押え仮処分は、これは確かに形式的には発令手続とその執行手続とに分かれるわけでありますけれども、これは非常に密接な関係がございまして、両者相まって債務者や利害関係人に効力を及ぼすものでありますので、双方手続を同一の法律で統一して定めるのが相当だという考え方が強うございまして、そういう関係から、当時民事訴訟法の中に残りました仮差押え仮処分の発令手続について改めて昭和五十八年以降、法制審議会民事訴訟法部会検討をいたしました際に、民事執行法の中に取り込まれました執行手続も加えて一つのまとまった法典とする。さらに、特に仮処分につきましては、単に仮処分の発令及び執行の手続を定めるだけじゃなくて、仮処分の執行がその後の本案の債務名義による執行にどのように結びつくかということまで明らかにする必要がある。これはつまり仮処分効力の問題でございますが、そこまで含めて規定をすることが望ましい。これは現行法には欠けている部分でございます。この三者を一体といたしまして民事保全法という単行法にまとめ上げたわけでございまして、これによりまして民事訴訟の一つの前駆手続である保全処分について発令から執行そして効力に至るまでの統一的な法典ができ上がった、これで一つの近代的な法の体裁をなしたというふうに言えるのではないかというふうに思っております。
  144. 中村巖

    ○中村(巖)委員 そうすると、やがて今度民事訴訟手続そのものも改正するということになるのかどうかということと、そうした場合に、前段の裁判手続訴訟手続、それが改正され場合に、それはどういうふうになっていくかということ。つまり民事訴訟法はやはり民事訴訟法という名前になっていくのか、それは一つの本案裁判手続法というふうな格好で名称を初めとして変わっていくのかということをお伺いしたいわけで、民事訴訟全体の体系としてはやはり民事保全法も民事執行法も全部含めた、裁判手続法も含めたものが民事訴訟法という、講学上はそういうことになるのだろうと思いますけれども、前段の裁判手続の方はどういうふうになっていくわけでしょうか。
  145. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 民事訴訟法のいわゆる判決手続につきましても、これが現代の社会に適合するように迅速にして適正な裁判を実現できるような手続法の形成を目指して改めて検討を始めなきゃならない、これはこれから先の課題であるというふうに考えておりますが、その姿がどのようになるかということはこれからまさに始めることでございまして、今、名称がどうであるか、そしてまたその中に包含される分野がどれだけであるかということはちょっと私からは申し上げかねるところでございます。  ただ、この民事保全法が成立いたしました段階考えてみますと、民事訴訟法民事執行法、そして民事保全法といういわば三部作と申しますか、そういうふうな広い意味での民事訴訟全体を通ずる法律の体系ができ上がるわけでございまして、それは将来のことを私、何とも申し上げるわけにはいきませんけれども、今のような体裁というのはある程度永続的に存続してもよろしいのじゃないだろうかというような考えでおります。
  146. 中村巖

    ○中村(巖)委員 今回の民事保全法の基本的な考え方は、出しやすく取り消しやすい、こういうことであるということを伺っておるわけであります。出しやすいということはそれは必要なことではあるわけでありますけれども、取り消しやすいということになりますと、仮処分なり仮差押えというものが何か極めて不安定なものになるというような感じがしてならないわけでありまして、従来の私どもの考え方では、仮処分、仮差押えといえどもかなり確定的なものであった、そうふわふわ浮動しているようなものではなかったというような感じがしておったわけであります。今度は、出しやすいのはいいけれども、取り消しやすいということになると、何というか、ほんの仮、もともと仮差押え仮処分でありますから仮でありますけれども、仮の姿が全く軽い形での仮ということに本質的に変わってしまうのではないかな、こんなような感じがしまして、例えば命令をもらっても、それは若干の疎明でもあればぱっと出しちゃって、そしてその後で今度はちょっと異議があって反対の疎明が若干あればまた取り消しちゃう、こういうことで何か不安定な感じになるわけですが、その辺、今までの保全命令に対する考え方と今後は変わっていくのではないかということについてはどうお考えですか。
  147. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 確かに私ども、この法案特徴をあらわすために、出しやすく取り消しやすいということを申し上げたことがございます。これは民事保全手続はその性質上、その発令手続におきましてもそしてまたその後債務者が求める取り消しの手続におきましても迅速に裁判がなされるべきであるという要請がございまして、これは本案裁判よりもより一層その要請が強いものだと思います。この要請に適合したような、これをより徹底させた制度にしなければならないということをいわば一般向けにわかりやすい象徴的な言葉としてそういうふうな表現を用いたわけであります。しかし、このような表現が、今委員からお話がございましたように、発令するときも拙速でよろしい、そして、間違っていたならばひょいと取り消せばよろしいというような印象をもって受け取られるとすると、こういうキャッチフレーズを用いたことは必ずしも適切でなかったということになろうかと思います。  私どもにおきましては、この民事保全法案は、審理を充実した上で迅速にやるということを目的として改正するものだと考えております。決して発令も取り消しも拙速をもってよしとするという考えではございません。そのためにいろいろな手続上の措置を講じているわけであります。発令が迅速になされると同時に、その保全命令によって権利を害される債務者の側にも十分な救済手続を与えなければならない。これが今までの制度におきましては、異議の手続でも取り消しの手続においても、口頭弁論を開いてやらなければならないために本案と同じような足並みでしか行われない。このことは債務者救済にとって非常に欠けるところがあるのではないか。そこを是正するために、取り消しの手続も迅速に行えるような手だてを講じるということを法案の中に盛り込んでおるわけでございます。
  148. 中村巖

    ○中村(巖)委員 仮差押え本案化しているということはないのでしょうけれども、仮処分というものが本案化しているという現象は一部にはそれはあるのでしょうと思います。しかし、一般的に言えば、本案化して長期間かかるというようなこういう現象は一般的にはないわけで、多くのものが即日なりなんなり命令が出るという、こういうことになっているわけですから、そこのところでさらに迅速にやるんだなどということを言われると、拙速というかそっちの方へつながってきてしまうような感じがして、例えば、比喩は悪いですけれども、刑事訴訟で逮捕状なんか簡単にとれる。それと同じようにぱっと簡単にとれるというようなことになってしまって、あとはそれは異議の手続で若干慎重にやればいいのだ、こういうふうな考え方になるのではないかというような危惧があるわけでございます。そういう意味で、私も長いこと弁護士をやってきましたけれども、今までの仮差押え仮処分に対する観念と頭を切りかえなくてはならないのかな、こんな感じがしますけれども、そういうことはない、従来と同じだ、ただ手続を若干改善をしただけだ、こういうことなんでしょうか。
  149. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 今回の改正の最も特徴的な点が決定主義にあるということは、かねて申し上げているところでございます。裁判所における仮差押え仮処分審理におきまして、実際には仮差押命令は、もうほとんど一〇〇%決定手続でやる、仮処分命令におきましても、判決手続によって行われているのは極めてわずかであるというのはもう委員御承知のとおりであります。決定手続によるものと判決手続によるものとを比較してみますと、例えば仮処分事件決定手続によるものと判決手続によるものとあわせて全体として見た場合には、一月以内に八〇%が処理されている。一年以内に九七・五%が処理されているにもかかわらず、その仮処分事件のうち判決手続で行ったものだけを取り出してみますと、一年以内に処理されたものは五一%にしかならない、半分は一年を超えているというような非常に顕著な違いがございます。これは、不服申し立て事件、つまり、異議あるいは取り消しの事件についてもやはり同様でございまして、ここではすべて判決手続によることになっておりますが、一年以内には仮差押え事件では六六%、仮処分事件では五六%しか処理ができていないという状況でございまして、判決手続によるということによる審理の遅延の状況というのは、数字の上では極めて顕著であろうと思われます。     〔井出委員長代理退席、委員長着席〕  そこで、改正法案におきましては、すべて発令手続から異議、取り消しの手続に至るまで法律上も決定手続にすると同時に、当事者手続保障についての十分な手当てをいたしまして、審理に遺憾のないようにするということをねらっているわけであります。これは今までの裁判所における審理実態を踏まえ、かつそれに債権者、債務者双方立場を顧慮した手続を加味するというものでございまして、今までの手続審理の上で若干異なるところは出てまいりますが、それは審理を迅速にかつ充実をして行うという目的のために設けられたものでございます。
  150. 中村巖

    ○中村(巖)委員 そこで、今審理期間に関するパーセンテージのお話がいろいろありました。パーセンテージでおっしゃるから判決手続によったものが何%、かなりのパーセンテージが一年以上かかるというようなお話になるわけでありますけれども、これは実数でどういうふうになるのかということになると、私の感じとしては、実数ではほとんどそんな長くかかっている事案なんというものはないのじゃなかろうか、こういう感じがするわけでございます。  そこで、そういう統計というものはどういう形で存在するのかということをちょっとお伺いをしたいのです。例えば仮差押え仮処分事件審理期間について、今六カ月以内とかあるいは一年以内、こういうことをおっしゃっておりますけれども、これがそれこそ十日以内で命令の発出手続が終わっているのか、あるいは二週間とか、そういうような細かい審理期間に関する統計というものが存在をするのでしょうか、しないのでしょうか。
  151. 泉徳治

    ○泉最高裁判所長官代理者 お答えいたします。  仮差押え事件の統計というものはございませんが、これはもう既に中村委員十分御承知のとおり、大部分が申し立てから十日以内には全部片づいているわけでございます。  仮処分事件につきましては審理期間の統計がございます。それによりますと、口頭弁論を経ない事件でございますと平均いたしまして一・五カ月で審理されております。それから、口頭弁論を経ましたものは平均十六・二カ月、約一年四カ月かかっております。これは昭和六十三年の地方裁判所におきます仮処分事件全体の統計でございます。
  152. 中村巖

    ○中村(巖)委員 それは平均の統計ということではわかりましたけれども、では、仮処分事件でも一カ月なら一カ月以内、あるいは十日か二週間以内、そこで終わる事件というものがどのくらいあるのか、そういうことはおわかりになるのですか。
  153. 泉徳治

    ○泉最高裁判所長官代理者 同じく昭和六十三年度の地方裁判所におきます全仮処分事件審理期間別のパーセンテージを申し上げますと、十日以内に処理されましたものが六三・九%、一カ月以内に処理されたものが七六・八%、三カ月以内に処理されたものが八九・〇%、六カ月以内が九四・三%、一年以内が九七・四%、二年以内が九九%、こういうふうになっております。
  154. 中村巖

    ○中村(巖)委員 六カ月以上かかった仮処分事件というのが、今のお話によると約六%存在するという、こういうことになると思うのですね。六カ月以内が九四%、六カ月を超えたものが六%ということになると思うのですけれども、その種の事件の、六%の事件というのは特別難しい事件だから六カ月以上かかっていると思うのですが、その事件の内容は、どういう種類の事件が六カ月以上かかるということについては、何か統計がございましょうか。
  155. 泉徳治

    ○泉最高裁判所長官代理者 その点の統計はございますが、今簡単にまとめておりませんで、先ほど申しました平均審理期間で若干御説明させていただきたいと思いますが、仮処分事件の大部分を占めますのは不動産に関するものでございますが、これは平均審理期間一・一カ月でございますので、大部分が迅速に行われていると思います。時間がかかりますのがその他の仮処分でございまして、これは平均いたしますと三・一カ月でございます。その中でも時間がかかっておりますのが不作為を求める仮処分でございまして、これで四・五カ月、それから金銭の仮払い地位保全仮処分、これが四・〇カ月でございますので、この辺の事件が長期間継続しているものの種類かと思っております。
  156. 中村巖

    ○中村(巖)委員 そうなりますと、法務省の御提案の理由の中で、保全事件本案化している、しているとおっしゃるけれども、本案化しているという事例がないわけではないけれども、本案化しているのが常態であるというようなことはないのじゃないかというふうに思うわけですね。いわば、今のお話でも不作為を求める仮処分、不作為を求めるというのは、例えば建築続行禁止とかそういうようなことなのでしょうけれども、それとか賃金の仮払いを求める労働関係の仮処分だけが長くなっておって、それ以外はほとんど極めて短期間に解決をしておって、本案訴訟に比べると何分の一かの期間で済んでいる、こういうことになるのじゃないでしょうか。
  157. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 これは時代とともにいろいろと変化もあると思いますし、また裁判所の方の審理の上でもいろいろと工夫をなさっていることだと思います。この本案化が言われておりますのは、特に判決手続でもって審理がなされた事案についてそういう傾向が顕著である。そのことが先ほど申し上げました審理期間に端的にあらわれているわけでございまして、そういう傾向があって、仮処分審理が長期化することを何とか回避しようという実務上の努力が、判決手続よりも決定手続で柔軟に対処しようという審理方式を生み出していったのではないかと思います。
  158. 中村巖

    ○中村(巖)委員 今の点について、最高裁判所は何かございますか。
  159. 泉徳治

    ○泉最高裁判所長官代理者 仮処分事件本案化してないかという点でございますけれども、確かに中村委員御指摘のとおり、大部分の事件はスムーズに行われているわけでございますが、やはり口頭弁論を経ました事件が、先ほど申しましたように平均して十六・二カ月かかっている、この点が大変問題かと思います。それから、口頭弁論を経ない事件が一・五カ月で処理されておりますけれども、これは次に異議の申し立てというのが控えておりまして、異議申し立て事件になりますと、平均いたしますと十七・三カ月かかっております。これで、命令と異議とあわせて一審で行われるわけでございますが、通算いたしますとかなりの年数になりまして、通常の民事訴訟とそれほど変わらないというような現象になっております。その辺に本案化の問題があろうかと考えております。
  160. 中村巖

    ○中村(巖)委員 通常の例えば不動産事件のようなものについては本案化は余りないのだろうというのが今聞いていても実感でありまして、ただ労働仮処分というようなものについて、これがとりたてて期間が長いということはあり得るのかもわかりませんが、そうであるとすると、本案化をなくすることを主眼とした改正だなどという言い方をしますと、労働仮処分を短期に片づけてしまうためにこの法案ができたのではないかというような誤解を招くというか、そういう印象を一般に与えるわけでありますけれども、今度はそういう観点からお伺いをするとどういうことになりますか。
  161. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 仮処分の場面に登場する事件の種類は多種多様でございますが、今お挙げになりました労働仮処分は確かに複雑困難な事件の一つでございます。しかし、裁判所にあらわれます仮処分で複雑困難なものと申しますと何も労働仮処分に限るわけではございませんで、会社関係の訴訟を本案とする仮処分あるいは特許関係の仮処分、さらには公害紛争、日照被害に係る仮処分など、複雑な類型事件は幾つもあるわけでございまして、そのようなもの全体を通じまして、仮処分は本来的に迅速になされなければならない、それが仮処分の生命であるという認識から、これら全体に通ずる通則としてこの民事保全法の整備を図るということを目的としたものでございます。特定の種類の仮処分、例えば労働仮処分といったようなものをねらい撃ちにして、これを抑制するとか制約するとかといった考えは毛頭ございません。
  162. 中村巖

    ○中村(巖)委員 仮処分命令を出す手続についても、いわば任意的口頭弁論というか、そういうことになっておりまして、今後とも口頭弁論を経てやることもできるわけですが、そういうことを逆に言うと、複雑困難な事件は結局また口頭弁論になって、やはり審理期間が長くなる。結局、審理期間を短縮するという目的が達成されないということになるのじゃないかと思いますが、その点と、先ほど来ちょっと出ております、今までいろいろなところで工夫をしてやってきたところの口頭弁論的な審尋方式による、こういうものは、法律ができたことによってできなくなるのかどうか、その二点をお伺いしたいと思います。
  163. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 これまでいろいろな工夫がなされてきておるわけではございますが、現行法のもとでは、一たん口頭弁論を開いたら、後はもとへ戻ることができない、それから先は終始口頭弁論の厳格な手続に従って最後まで行わなければならない。このことが仮処分手続を非常に重たくいたしまして、審理の硬直化をもたらす。また、そういうことがありますために、できるだけ仮処分迅速性を重んじようといたしますと、口頭弁論という方式を避けて審尋によって賄うというような実務慣行を一部で生むことになったのではないかと思われます。しかしながら、審尋と申しますと、現行法のもとでは、民事訴訟法百二十五条に当事者審尋ができるということが規定されているだけでございますので、そこから先は実務における運用の問題に帰着し、それがいいのか悪いのかといったような議論も生んでまいりました。  そういった点を全体的に見渡しました上で、今回の改正法におきましては、決定手続に統一をすると同時に、改正法の九条におきまして「釈明処分の特例」という規定を置いて、これまで実務的に行われていたことについてやや部分的ながら法律上の根拠を与えるということもねらっているわけでございまして、この新しい改正法のもとでこれに適合したような実務慣行が生まれていくであろう、これまでの実務慣行をそんなに大きく変更するものではないと思っております。
  164. 中村巖

    ○中村(巖)委員 今の点を端的にお伺いすると、要するに命令を出す手続に当たって、当事者双方審尋すると同時に証人尋問のような第三者審尋をすることが違法になるのか違法にならないのか、それはどうですか。
  165. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 第三者審尋、いわゆる参考人審尋を規定いたしておりますのは改正法案の三十条でございまして、これは異議手続でございます。そしてまた、これが保全取り消しの手続にも準用されるのでございます。  このことの反対解釈といたしまして、発令手続におきましては参考人審尋というものを認めるところまでは至っておりません。しかしながら、第九条において「釈明処分の特例」という規定を置いて、当事者の主張を明瞭にさせる必要があるときは、当事者のため事務を処理し、または補助する者に陳述をさせることができる、こういう規定を置きまして、この規定の運用によりまして、事務を処理し、または補助する者をして事実関係を明らかならしめるような主張の補充をさせる、それが結果として発令段階における証拠資料を提供することに機能し得るというように考えております。
  166. 中村巖

    ○中村(巖)委員 事務を補助する者というのは極めて狭い概念ですから、本当の純然たる第三者というようなものはこれに入らないということになって、そこに従来のやり方の工夫した実務というものが一部否定されることがあるのではないか、こういうことで伺っているわけで、これを弾力的に運用すれば、何らかの関係があれば事務を補助する者だと広く解釈すればあるいはまた新しい運用の工夫が生まれるのかもわかりませんが、その辺のところを余り厳格に解釈されると裁判官にしても当事者にしても工夫の余地がなくなってくるということになろうかと思いますので、その点注意を喚起しておきたいと思うわけでございます。  別のことを聞きますけれども、先ほどもちょっと聞かれておったのですが、仮処分解放金の規定というものが今度新しくできたわけです。仮処分解放金というのがどういうことになるのかなということを私も考えてみるに、余りよくわからないのです。これは係争物に関する仮処分に対して意味があって、仮の地位を定める仮処分については余り意味がないようなことを先ほどちょっとおっしゃっておったのですけれども、係争物に関する仮処分であっても、例えば処分禁止あるいは占有移転禁止、こういうような仮処分について仮処分解放金というのはどうやって決めるわけですか。
  167. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 改正法の第二十五条が仮の地位を定める仮処分に適用されるのではないかという御懸念からたびたび御質問をいただきましたので、二十五条は係争物に関する仮処分しか念頭に置いておりません、仮の地位を定める仮処分について二十五条が適用されることはあり得ないことですということを先ほど申し上げたわけでございます。  それでは、係争物に関する仮処分についてはすべて仮処分解放金が付されるかと申しますと、決してそういうことはございません。この条文では「保全すべき権利が金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるものであるときに限り、」こういうふうに限定いたしております。これは、この被保全権利がもともと金銭債権というものに基礎を置いていて、金銭の支払いを受けることによってその被保全権利が経済的に満足できるような権利である場合、もちろん仮処分でございますからその被保全権利自体は金銭債権ではございませんけれども、金銭の支払いを受ければ経済的に満足を受けたと同じになるというような場合に限って仮処分解放金が付せられるのであるということを明白にしたつもりでございます。  したがいまして、これが適用される典型的な例と申しますと、所有権留保売買がなされ、代金が支払われないがためにその売買契約を解除して物の返還を求める、その返還請求権を被保全権利とする場合とか、あるいは譲渡担保契約に基づいてその担保権の実行のために担保物の引き渡しを求める場合などが一番典型的な場合でありまして、さらにこの法案の六十五条に執行方法が規定されております詐害行為取り消し権に基づく逸失した受益者からの物の返還を求める場合といったような極めて限られたケースにしかこの仮処分解放金という規定は適用されないであろうと思っております。これまで、民事訴訟法におきましては仮処分の規定が極めて簡単で、仮差押えの規定を準用しておりましたがために、仮差押解放金の規定が一般的に準用されるかのごとき誤解を生んで、運用がいささか逸脱していたと思われるものをこの改正法の二十五条によってぐっと引き締めるという目的を持ったものであります。
  168. 中村巖

    ○中村(巖)委員 残念ながら時間が来ましたので、これで終わります。
  169. 戸塚進也

    戸塚委員長 安藤巖君。
  170. 安藤巖

    ○安藤委員 民事保全法案につきまして引き続きお尋ねをします。  まず、法案第十一条の「証人等の尋問の順序」というところですが、証人尋問する場合に、裁判長がその順序変更して裁判長の方から先にやるとかというようなことができるような規定になっておるわけです。これは迅速を旨として、余分なもたもたした証人尋問は許さないというまさに職権主義を振りかざしたような規定じゃないのかなと私は思うのです。この第十一条の一項に「民事訴訟法第二百九十四条第一項及び第二項の尋問の順序変更することができる。」こういうふうにあるのですが、このもとの民事訴訟法の第二百九十四条の三項には、裁判長が必要ありと認めるときは、いつにてもみずから尋問しまたは当事者の尋問を許すことができる、こういう規定がちゃんとあるのですね。だから、ちゃんとこういう規定があるにもかかわらず、わざわざこの規定を設けられた理由は何なのか。これは全く不必要な条項ではないかと思うのですが、どうですか。
  171. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 十一条という規定を設けました趣旨でございますが、保全事件についての実務運用をいろいろ聞いてみますと、これは迅速処理が要請されるということから、尋問される対象である証人等の作成した文書をあらかじめ提出してあるという場合が多いわけでございまして、そういう書面だけでは足りないという場合にさらに証人尋問をする必要があるということで証人尋問がされるという場合が多いように聞いているわけでございます。  そういう場合には、証人の申し出をいたしました当事者の側の聞きたいことというのは既に書面にあらわれている。したがって、常に申し出をした当事者の方から主尋問をしなければならないということになりますと、それだけ手続が遅延するという原因にもなりかねないわけでございます。そこで、そういう場面を主として考えまして、裁判長がそういった訴訟の状況、あるいは事件の内容、それぞれの証人の重要性等を勘案いたしまして、必ずしも民事訴訟法二百九十四条の順序によらない方法で尋問をすることができることにしよう、そういうことで証人尋問ができるだけ効率的かつ円滑に行われることにするのが適当ではないか、そういう趣旨でこの法案をつくったわけでございます。御指摘の二百九十四条三項は、裁判長が介入するということでございますので、今申しましたような趣旨からは必ずしも十分な規定であるということではない、そういうことを考慮した案でございます。  なお、この法律案は尋問の順序変更ということを取り上げているだけでございまして、これによって当事者の尋問権が奪われるということにはならないわけでございます。二百九十四条一項におきまして、その一方の当事者が尋問した後に他の当事者が尋問することができるということになっておりますが、これに特則を設けるということにはなっておらないわけでございますので、そういうことで、御指摘のような裁判所が職権的な証人尋問の進行を図るということを目的としたものではもちろんございませんし、そういう運用がされるというおそれもないと信じているところでございます。
  172. 安藤巖

    ○安藤委員 今御説明をお聞きしましたが、やはり民事訴訟法二百九十四条の三項で十分足りるんじゃないかと思うのです。ここにも「二百九十四条第一項及び第二項の尋問の順序変更することができる。」とわざわざ書いてある。そんなことは二百九十四条の第三項に書いてあるのですから、これは全く不必要だと思うのです。  そこで、これは「当事者意見を聴いて、」というふうにありますけれども、意見を聞くだけで、一応聞いたという形さえ整えばこういうことができることになるのか、賛成、それで結構ですということになってからそういうことになるのか、どういうことでしょうか。
  173. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 民事訴訟法二百九十五条におきまして、尋問の制限につきまして当事者は異議を述べることができるということになっておりまして、この規定をこの法案においても準用するということにしておりますから、その尋問の順序変更に対して異議がある場合にはその異議の申し立てをする、それで裁判所の再考を促すということができるわけでございます。
  174. 安藤巖

    ○安藤委員 いろいろ申してもなかなか前言はお翻しにならないだろうと思いますからやめますけれども、やはりここにも「二百九十五条の規定を準用する。」今までどおりでも二百九十四条、二百九十五条にちゃんとそういうことは書いてあるわけですから、これは全く屋上屋を重ねる条文ではないかと思います。これは削除してしかるべきだというふうに申し上げておきます。  そこで、法案の第十六条の関係ですが、そのただし書きのところです。「口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。」これは午前中の参考人の方々の御意見を拝聴している中でも、いろいろ複雑な事案については口頭弁論を開かないにしても口頭弁論に近い審尋手続ということも現在行われておるし、これからも大いにあり得ることだ、そういうことを要求するというお話もありました。そうなりますと、そういう口頭弁論に近い審尋というのがなされた場合でも、やはり理由の要旨を示せば足りるということになろうかと思うのですね。だから、これはまさに、こうこうこういう理由でこういう決定を出したんだということを詳細に当事者に、国民に知らせるべきが裁判所の任務だというふうに思うのですね。それがこういうことになるということは、勘ぐって申しわけありませんが、できるだけ理由の詳細は国民に知らしめず、よらしむべし知らしむべからず、何かそれに近いような話ではないかなと思って大きな懸念を持っているんですが、そういう心配はないのですか。
  175. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 十六条の規定を設けました趣旨は、現行法では民事訴訟法におきまして判決書の記載事項が規定されております。基本的には決定手続においてもそれが準用されるということでございますが、あくまでもその性質に反しない限り準用されるという考え方がとられておりますから、したがって、判決書に関します民事訴訟法の規定が決定手続におきましても文字どおりそのまま準用されるかどうかということについては必ずしもはっきりしないという点がございます。このたびの改正におきまして保全手続に関する裁判はすべて決定手続によるということにいたしました場合には、とりわけその点を明確にする必要があるであろうということから、その決定書の記載の中で最も重要でございます理由というものについてここに規定を置いたわけでございます。そして、原則としてはその理由を付さなければならないけれども、「口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。」ということにしたわけでございます。これは口頭弁論を経ないで決定する仮差押え仮処分事件の大多数は極めて密行性が高いということから簡単な審理で処理をされる。多くの事件がそういうことでございます。そういう事件についてまですべて理由を付さなければならないということにしました場合には、その保全手続の本来の使命でございます迅速処理という要請を満たすことができない、かえって必要な権利保全が全うされない場合が生ずるということから、理由の要旨で足りるという規定を置いたわけでございます。  もちろん委員御指摘のとおり、裁判には可能な限り、あるいはその裁判目的に反しない限り十分な理由を付するべきものであるという要請があることはもとよりでございます。したがいまして、口頭弁論を経ないで決定をするそういう事件でございましても、事案が複雑でございまして重大な争点について当事者双方が激しい主張、立証を行った上で決定がされるという事案につきましては、実際の運用としましては、争点となった事項について裁判所がどういう判断をしたのかということが当事者にわかる、そういう十分な理由が付せられる、そういう運用が現に行われておると承知しておりますし、この法案のもとにおいてもそういうことは確保されるのではないかというふうに確信しているところでございます。
  176. 安藤巖

    ○安藤委員 これは、先ほども判決には理由を云々というお話もありましたが、やはり裁判所国民訴えを、どういうような理由でこういう結論を出したかということを明らかにするためにはどうしても必要なことだと思うのですね、理由の詳細をきちっと示すということは。だからこれはまさにそう大げさな言い方ではなくて、国民裁判を受ける権利理由もはっきりしないで結論だけ出されて、これで私は裁判を受けたんかいなというふうに国民が疑問に思うようなことじゃ、国民裁判を受けたという実感が伴わないと思うのですよ。だから、これは十分検討していただきたい。いや、これはもう削除していただくのが至当ではないかと思うのです。  例えば一つの事例を申し上げます。これはやはり労働裁判ですが、この前、最高裁判所のいわゆる労働事件の取り扱いについてとかなんとかいう、いわゆる裁判官の協議の結果をいろいろ刊行されて云々ということで質問をさせていただきました。そして、東京地方裁判所がいち早くその影響を受けて裁判がなされておるということも指摘させていただきましたが、ごく最近こういう事例があるのです。  ことしの三月二十四日、名古屋地方裁判所の本庁において、労働事件地位保全仮処分事件があって決定が出されたのですが、これは東京地方裁判所を前任地とする裁判官の単独部での、賃金払いのうち過去分、これは八十一万三千七百十円あるのですが、全額却下、そして将来分についても、請求金額十六万二千七百四十二円を十万円に減額、こういうようになっておるのですね。ところが、担当の弁護士さんの報告ですが、審理の過程でこの仮払いの関係について全く裁判官からの釈明も何にもなかったというのですね。そして決定が出されておるわけです。釈明も何にもない、理由も何にもない。理由もそこのところに書かれないわけです。要旨だからほかのところに書いてあるのでしょう。ということになったら、これはずっと全部あるのかどうか知りませんが、今後こういう十六条のただし書きということになると、審尋の場合に十分聞かれもしない、しかしこちらの要求しておったところがすぱっと削られておる、理由は要旨しかないとなったら、これはどういうふうにして——こちらの主張を裁判所が受け入れてくれたのかどうか、どういう裁判なんだという、まさに裁判所に対する国民の不信を招きかねないじゃないかという、かえってそういう危惧の念を抱かざるを得ぬのです。そういうような心配がないのかどうか。先ほど来いろいろおっしゃったのですが、重ねて具体的な事例を申し上げてお尋ねいたします。
  177. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 お尋ねの前提となっております御指摘は、現行法のもとでの裁判書に関する運用の問題でございまして、今回の改正におきまして口頭弁論を経ないでする決定については理由の要旨で足りるという改正をしておりますが、それは、この改正趣旨といたしましては、現在の決定で行われております仮差押え仮処分裁判に実際に付されております理由、これをさらに簡略化するということを目的にして法案を作成したわけではないわけでございます。法制審議会の審議におきましても、この点については弁護士会を初めといたしましていろいろな御意見を伺い、その上で検討してこういう結論を出したわけでございますが、その中におきましても、現在の決定書で付されている理由が詳し過ぎるからもっと簡潔にするということを標榜してこういう改正を実現すべしということでは決してなかったわけでございます。ただ、一般の仮差押え事件あるいは係争物に関する仮処分事件に現実に付されている理由、これは現在の運用においても非常に簡潔なものでございます。これはこれでいいのではないか。それ以上に仮差押え事件についても詳細な理由を付するということになれば、その仮差押え制度目的を達することができないという危惧がされる、これはやはりそういう場合もある、むしろそういう事案が圧倒的に多いという状況を踏まえまして、ここは「理由」ということで硬直的な立法をするのではなくて「理由の要旨」という表現をした方が適切であろう、こういうことで、そういう審議の経過を踏まえましてこういう立法をしたわけでございます。したがいまして、今後の裁判実務運用におきましても、そういう趣旨を踏まえていただいて適切な運用がされるものというふうに考えているところでございます。
  178. 安藤巖

    ○安藤委員 次に、最高裁判所来ていただいております。これは先回もお尋ねしたのですが、いわゆる裁判官協議をやられて、その結果を刊行されて、その刊行物の中に行政局見解なるものがなされておる。そのことにつきましてはこの前いろいろお尋ねしましたから詳しいことは申し上げませんが、例えば今後の賃金の仮払いについては六カ月とか一年間という短期間に限って賃金の支払いを認める方が仮処分らしい、本案判決確定に至るまでというのは長過ぎる、こういうような行政局見解というのがくっついておるわけですね。それが早速下級裁判所裁判官に影響を与えておる。これは裁判官の独立を侵すものだということをこの前指摘をいたしましたが、私は全くけしからぬ話だと思うのですけれども、その関係について二つお尋ねしたいのです。  一つは、そういう行政局見解は訂正をする、訂正じゃないな、取り消す、そういうような措置をおとりになるべきだというふうに思うのですがどうかということと、裁判官がしっかり勉強していただくことはまことに結構なことでありますけれども、その結論として行政局見解なるものを出して、それをちゃんと印刷に付してそれをまた刊行して配付する、そういうようなことはおやめになるべきではないかというふうに思うのですが、どうですか。
  179. 泉徳治

    ○泉最高裁判所長官代理者 御指摘の行政事件裁判資料集でございますけれども、そこには行政局見解としては書いてないと思いますが、協議の結果としてまとめられた部分にそういうものがあるかと思います。これはあくまでも協議の中で出ました意見をまとめたものでございまして、決して行政局見解ではございません。  それから、先日も申し上げましたけれども、確かに行政局の課長が会同に出ておりまして、そこで課長が学説の状況でございますとか判例の状況を説明することがございますが、それはあくまでもその当時在職いたしました課長が担当の者といたしまして調べた結果を皆さんの参考のために討論の素材として提供しているものでございまして、これは決して行政局見解といったものではないわけでございます。  それからもう一つは、こういう刊行を取りやめてはどうかという御意見でございます。この点は、先ほどの御指摘のような資料にいたしましても、部内資料といいますか、取扱注意といいますか、そんな表示をしたためにかえって誤解を招いた部分があるかと思います。したがいまして、その点は反省いたしまして、刊行するものは決してそういう部内だけのものであるとかそういったものにしないような工夫を検討しなければならないというふうに考えております。
  180. 安藤巖

    ○安藤委員 時間が参りましたから、これで終わります。
  181. 戸塚進也

    戸塚委員長 滝沢幸助君。
  182. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 委員長御苦労さまです。大臣を初め政府委員の皆さん御苦労さまです。私の一身上の都合によりまして質問順序等を配慮いただきまして、委員長の処置に御礼を申し上げます。また、各党理事の皆様の御理解に御礼を申し上げます。また、安藤先生、まことに申しわけありませんでした。ありがとうございます。  さて、質問に入らせていただきますが、前回の委員会におきましては、私はこの法案改正する趣旨及びその理由等につきまして尋ねたわけでありますが、今回は裏腹と申しまするか、一部に言われておりまする論、すなわち、何も今この保全法の改正を必ずしも要するのではなかろう、今日までさしたる支障がなかったがごとく、運用の妙を得ることによって裁判は支障なく行われるのではないかということであります。このことにつきまして、つまり結論を申し上げますれば、あえて今ここにこの法の改正をいたさなくても運用をもって事足りるとする論はなおかつ存在をするわけでありまして、これについての御所見はいかがでございましょうか。
  183. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 現行法建前といたしましては、口頭弁論を経て判決裁判をするということになっております。この判決手続におきましても事柄は迅速な審理がなされなければならないということは当然でございます。しかしながら、判決の前提となる口頭弁論手続というのは大変厳格でございまして、常に当事者双方に立ち会いの機会を与えなければならないということから、裁判所当事者双方の都合が合わないとどうしても期日が先に延びていきます。そういうことがございまして、運用上の工夫が必要なことは確かでございますけれども、それにもおのずから限界があるわけでございます。それで、現在判決手続によっている事件決定手続によっている事件との審理期間、何カ月以内にどれだけの割合の事件審理されて裁判に至っているかという審理期間を比較いたしてみますと、このことが如実にあらわれてきているわけであります。これは、今申し上げましたのは発令手続段階でありますが、一たん発令されました後の不服申し立て段階におきましても、これも全く同じ現象があらわれております。  不服申し立て事件につきましては、現行法は常に口頭弁論を開いて判決手続でしなければならないということになっておりますが、そうなりますと、不服申し立て事件本裁判事件とが並行して行われる、しかも、両方は同じ手続で同じように口頭弁論を経てやるために同一の進行となってしまいまして、本来本裁判手続よりも早くやらなければいけない仮差押え仮処分不服申し立て事件本裁判と同じぐらいにしか進行しないという異常な顕著な弊害があらわれておるわけであります。  そこで、今回の改正案ではこれを全部決定手続にいたしまして制度的に区別する、しかし、このことは審理方式を多様化したにすぎないのでありまして、審理を粗略にやるということでは決してないのでございます。当事者地位を実質的に保障しながら、決定手続の中で満足のいく審理がなされるように手当てをしているつもりであります。
  184. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 今おっしゃっていただきましたように、審理を迅速にすること、これはやはり一つの要請でありましょうし、しかしまた、諸般の権利を十分に保護するということも鉄則でありますから、その両方相まって、それこそ運用の妙をやられますように希望しておきます。  そこで、利害が甚だしく対立をする事件あるいはまた特殊に困難な事情のある事件、例えば最近とみに多いわけでありますが、労働仮処分事件などにつきましては、これは一般の手続のほかに特別の手続立法化し、法定すべきだろうという意見もあるわけであります。しかしまた、考え方によりましては、一般の手続であるこの法案をもっていたしましてもこれらのことにつきまして十分に対処し得るというふうにも考えられるわけでありますが、この間の事情はいかがでございましょう。
  185. 藤井正雄

    ○藤井(正)政府委員 ただいま御指摘のありました労働仮処分事件は、確かに労使間の利害が非常に鋭く対立する場合が多いわけでございまして、複雑困難な事件の範疇に属すると思います。しかしそれ以外にも、例えば日照紛争による建築の差しとめを求めるような仮処分事件なども大変利害の対立が先鋭でありまして、複雑な内容を持っておりますし、会社の中で紛争が起こりまして取締役の職務執行停止、代行者選任の仮処分といったような事件など、あるいは特許権に基づく差しとめを求める仮処分でありますとか、債権者と債務者の利害が鋭く対立して、非常に複雑困難な事件というのは少なからず存在するわけであります。決して労働仮処分に固有のものではございません。  御意見といたしましては、労働仮処分などについて特別の手続をつくれというような御意見も確かに一部には存在するわけでございますけれども、今回の民事保全法案は、民事保全事件のいわば基本法である、非常に多種多様な事案を想定いたしまして、そのような事案全体を通じてそれぞれに応じた審理をすることを可能にするような一般法としてこれを定めておるわけであります。労働仮処分のような非常に複雑困難な事件につきましても、この法案に定めておりますいろいろな手続運用によりまして適正にかつ迅速な審理に資するように使いこなしていくということでもって、そのような複雑困難な事件に十分対処できるのではないかと思っております。
  186. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 この法案審理というものは主に保全異議の手続について規定しているものでありますが、「事情の変更による保全取消し」、三十八条であります。また、三十九条の特別事情による仮処分の取り消しなどの保全取り消しの手続もございます。また、保全異議と保全取り消しの裁判に対する不服の申し立て手続でありまする保全抗告の手続、四十一条などもございます。これらの手続におきまして、当事者に対する手続保障というものはいかがなっておりますか、ひとつ御説明を願いたいと思います。
  187. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 保全異議の手続と申しますのは、これは保全命令の発令というのは密行性を要する場合には債務者意見も聞かないで発令されるということになるのが一般でございます。そういう保全命令の発令につきまして、債務者の事情を聞いて再審査を求めるという手続でございますので、これは極めて重要な手続であるということで、双方の主張、立証が十分にできるようにといういろんな手当てを設けているわけでございますが、委員御指摘のとおり、仮処分を発令いたしましたその後の事情の変更、例えば被保全権利保全すべき権利がその後に消滅したとか、あるいは必要性が消滅したとか、その他の事情変更によって仮処分命令を取り消すという手続、あるいは仮処分につきまして債務者に償うことができない損害を生ずるおそれがある場合についてその取り消しを求める手続、これも極めて重要な手続でございます。また、保全異議の裁判とか、あるいは保全取り消しの裁判に対しまして上級審の判断を求めるための保全抗告の手続、これもまた重要な手続でございます。これらにつきましては、現行法では保全異議の場合と同じように必ず口頭弁論を開いて判決手続審理をしなければならないということになっておりまして、そのために、保全手続でありながら審理が非常に長引くという保全異議と同じような問題を招来しているわけでございます。  そこで、この法案におきましては、これらの手続につきましても、保全手続内のことでありますから、やはり保全手続として迅速な処理が要請されるということから、すべて決定手続に改めているわけでございます。しかしながら、当事者に十分な主張、立証の機会を与えなければならないということは保全異議の場合と同様でございますので、これらの手続につきましても保全異議の規定を準用するといった方法によりまして、必ず口頭弁論または当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければその申し立てについての決定をすることができないものとしております。また、審理を終結するには、原則として相当な猶予期間を置いて審理の終結の日をあらかじめ定めるということにしなければならない、そういうことによって十分に当事者が攻撃防御の方法を尽くせるという手当てをしております。また、これらの裁判については、やはり同じように判事補が単独で裁判をすることができないという手当てもしております。  このように、委員御指摘の手続につきましても当事者手続保障が十分尽くされるように配慮しておりますし、また、参考人を簡易な証人尋問という形で審尋をすることができるという規定も準用いたしまして充実した審理を行うことができるように配慮している次第でございます。
  188. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 いろいろと議論すればございますが、関係者が長きにわたって御準備された結論が今回の提案と存じますので、以上にさせていただきますが、私の質問が終わればこの法案に対する質問一切が終了いたしまして表決となるということでありますので、蛇足の嫌いがありますが、あえて申し上げさせていただくわけであります。  裁判というものは言うなれば法治国家の国民がみずからの権利を守るための最後のとりで、最後の手段ということになっているわけでありますから、先ほどから申し上げているとおり非常に慎重なるものが必要であります。しかし、また関係者の事情等を参酌するならば、速やかなる結論が出ることも一つの重要な要諦でありまするから、そういうことを考えまするときに、これは民事たると刑事たるとを問わず、一般論としましては神にかわって一つの事件についての断罪といいますか結論を出すことでありまするから、その意味においては、一〇〇%神に達することはできませんけれども、非常に限りなく神に近い状況において結論が出れば一番よろしいわけでありまして、そのことはひっきょう検察、そして弁護人、そして裁判官というこの三者がそれぞれ法以前に、いわゆる法律による法以前に天の法というものがあるというようなことに思いをいたされまして、高き識見と人格によりまして御審理されることが望ましいわけでありまして、どうかひとつ今回の法の改正によりましていやしくもかかる大原則がいささかも侵されることのないように、十分に関係者の権利というものが保障、保護されるように御配慮をお願いしたいと思うわけであります。  この法案が私の今の質問をもって終わりますので、大臣、最後に一言所感といいますか、おっしゃってちょうだいすればありがたいと存じます。
  189. 後藤正夫

    ○後藤国務大臣 お答えいたします。  ただいま滝沢委員から御指摘のございました点、法の精神の重要性ということについて、極めて重要な御意見と思って拝聴いたしました。この法案が成立いたしました上は、そういう御意見を十分に念頭に置きまして法が運用されますように私どもも心がけていかなければならないと思っております。重要な御指摘、ありがとうございました。
  190. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 順序等を差し繰っていただいて大変ありがとうございました。以上をもって質問を終わらせていただきます。  大臣を初め政府委員の皆さん御苦労さまでした。各党の先生方ありがとうございました。
  191. 戸塚進也

    戸塚委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。     ─────────────
  192. 戸塚進也

    戸塚委員長 ただいま委員長の手元に、民事保全法案に対し、井出正一君外三名から、自由民主党、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議及び民社党・民主連合の四派共同提案に係る修正案が提出されております。  提出者から趣旨の説明を求めます。井出正一君。     ─────────────  民事保全法案に対する修正案     〔本号末尾に掲載〕     ─────────────
  193. 井出正一

    ○井出委員 私は、提出者を代表して、修正案の趣旨について御説明いたします。  修正の案文については、お手元に配付のとおりでありますので、その朗読は省略させていただきます。  修正の第一点は、仮処分命令の発令手続についてであります。  原案は、仮の地位を定める仮処分命令の発令手続において、債務者意見を聴取するか否かは裁判所裁量にゆだねることとしております。しかし、この種仮処分においては、一般に、いわゆる密行性の要請がなく、かつ、債務者に与える影響が大きいことにかんがみ、その仮処分命令を発するには、原則として、債務者意見陳述の機会を与えることとしようとするものであります。  第二点は、保全執行の停止の裁判等についてであります。  原案の第二十七条及び第四十二条における保全異議の申し立て等に伴う保全執行停止裁判等については、原決定が取り消される蓋然性が高い場合に限りされるべきものであることを一層明確にしようとするものであります。  第三点は、仮処分命令の取り消しによる原状回復の制度についてであります。  原案は、仮処分命令を取り消す決定において、仮処分命令に基づいて給付した物または金銭及びその利息について返還を命ずる原状回復の制度を設けることとしております。しかし、この制度は、仮処分命令が取り消された場合に、当事者の公平を期するため必要最小限の原状回復を図ることを目的とするものであること、及び保全すべき権利の存否が必ずしも確定していない状態で行われるものであることにかんがみ、支払われた金銭の返還を命ずる場合においても返還の対象から利息を除くこととするとともに、裁判所が返還を命ずることの相当性を判断することとしようとするものであります。  以上が本修正案の趣旨であります。  何とぞ本修正案に御賛同くださいますようお願いいたします。
  194. 戸塚進也

    戸塚委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。     ─────────────
  195. 戸塚進也

    戸塚委員長 これより討論に入ります。  民事保全法案及びこれに対する修正案を一括して討論に付します。  討論の申し出がありますので、これを許します。安藤巖君。
  196. 安藤巖

    ○安藤委員 私は、日本共産党・革新共同を代表して、ただいま議題となりました民事保全法案に対する反対討論を行います。  本法案は、全体として仮処分制度の中から慎重な手続を排除し、専ら迅速、簡易な手続としての「合理性」を追求するものとなっています。その結果、いわゆる複雑な事件仮処分制度から放逐してしまうことになるおそれがあります。とりわけ労働仮処分事件では、闘う労働者、労働組合に対し、回復不能の打撃を加えるものとならざるを得ません。  今日の我が国労働事件裁判の現実のもとでは、経営者側の「経営権」と「解雇の自由」という「法的価値」が優先され、日本国憲法で保障されている労働者の人間らしく働く権利や団結権など労働者の基本的権利がないがしろにされてしまう危険性をはらんでいるのであります。  仮処分制度の中から慎重な手続を排除してしまえば、解雇事件において、不当労働行為、思想差別、権利の乱用などの主張、立証を余儀なくされる労働者側は、その機会を奪われて不利になり、単に経営権の主張さえすれば足りる使用者側がはるかに有利になることは、見やすい道理です。  保全手続の「迅速化」は、裁判内容の質の低下をもたらす法制度の導入によるのでなく、負担過重の状態にある裁判官や裁判所職員の増員など、裁判の充実強化の方向によってこそなされなければなりません。  本法案の背景を見るに、今日の政治・経済情勢や労働運動の動向、戦後政治の総決算の一環として強行され、さらに今後も強行されようとしている一連の労働諸法制の改悪などとの関連で見るならば、少なくとも労働者権利救済制度の重要な柱となっている不当労働行為制度や労働委員会制度の変質をねらう動向、労働組合法改悪の策動と相まって、労働者国民の闘いそのものに対して直接ねらいを定め抑圧せんとする資本の側の意図は明らかであります。  以上の見地から、我が党は、本民事保全法案に強く反対するものであることを、まず最初に明らかにしておきます。  さて、反対の第一の理由は、保全処分制度の適正迅速化理由に、現行民事訴訟法口頭弁論を開くのが原則とされているのを、これを逆転させて審尋原則とし、すべて判決でなく決定手続にしようとしている点であります。  一般論として、仮処分はもともと緊急の必要性が強いわけですから、審尋決定という手続で迅速に処理されるべきは当然で、現に現行法のもとでもほとんどがこれで処理されています。  しかし問題は、不当解雇など労働仮処分事件であります。使用者側がうそで塗り固めた懲戒解雇の理由や整理解雇の基準等について巧妙に形を整えている事件などでは、公開の法廷で証人調べをして、厳しく真実を追求することが必要であります。本案で争えばよいではないかとの論がありますが、数年あるいは十年、二十年と長期化するこれら不当解雇裁判を見るならば、これがいかに暴論かは明らかであります。仮処分で勝利を得るかどうかは、解雇されて生活の糧を奪われている労働者にとって死活問題であり、それだけに、迅速さより、公正で正確な結論が要請されるのであります。仮処分で慎重審理をしたところで、なお本案訴訟で争うよりはるかに早く結論が出ることは自明であります。  第二の理由は、法案証人尋問についてわざわざ尋問の順序変更し得るとしたことであります。  これは「事件によっては裁判官がみずから主尋問をやる」として、手続を職権主義化し、裁判官主導の審理を行おうとするものであり、認めるわけにはいきません。とりわけ労働裁判では、労働者側が仕組まれた解雇の手口を明らかにするために、あるいは使用者側の不当な整理解雇基準を暴くために、懸命に立証しようとして尋問しても、裁判所がむだな尋問と考えれば、労働者側の立証が極端に制限されることになります。  第三の理由は、口頭弁論を開かずに決定をする場合には、理由の要旨だけでよいとしたことであります。  裁判理由が必要とされるのは、結論の正当性、正確性を担保するためであります。理由がはっきりしていない裁判では、国民は納得できる裁判を受けたことにはならないし、しかも裁判所裁判の当否を国民から問われないことになります。これでは国民の公正な裁判を受ける権利をないがしろにするものと言わざるを得ません。  第四の理由は、債務者から保全異議の申し立てがあった場合、現行判決手続でなく、裁判所保全執行の停止または既にした執行処分の取り消しを決定で命ずることができ、これに対しては不服申し立てができないとされた点であります。  また本法案は、仮処分解放金を明文化し、債務者仮処分解放金さえ供託すれば仮処分の執行を免れることとしているのであります。  これは、権利保全を極めて不安定なものとするものであり、制度の崩壊にもつながりかねません。  不当解雇事件で、受領した仮払い賃金を返還しなければならないとすれば、労働者は、生活を根底から覆され、もはや本案訴訟を含めて、解雇撤回闘争を闘えなくなってしまうことは明らかであります。  さらに解放金の制度は、使用者が一定金額の供託で仮処分の執行を免れることになり、労働者に対し深刻な影響を与えることになります。  反対の第五の理由は、占有移転禁止仮処分効力を非継承第三者にまで拡張した点であります。  これは、その対象が土地、建物の取引に絡む暴力団や事件屋の場合なら、確かに法の正義は貫かれることになりましょう。しかし、事労働争議における資本の側からの職場明け渡しや立ち退きに絡む場合には、当該労働者、労働組合が裁判の外に置かれたまま、憲法で保障された争議権を訴訟手続によって否定されてしまうばかりか、労働者の雇用確保の手段を失わせ、労働者とその家族の生存権をも脅かすことになりかねません。  以上述べてきたように、本法案は、手続法の改正の形をとっていますが、最近の裁判の動向並びに最高裁判所が従来繰り返し行ってきた裁判官協議会における「労働訴訟のあり方」などの裁判に介入する言動と照らし合わせて見るならば、労働者の基本的権利を侵害する一方で、資本の側の要請にこたえるものであると断ぜざるを得ません。  日本共産党は、労働者の生活と権利を守り抜く立場から、断固反対し、法案の撤回を強く要求するものであります。  以上で、私の反対討論を終わります。
  197. 戸塚進也

    戸塚委員長 これにて討論は終局いたしました。     ─────────────
  198. 戸塚進也

    戸塚委員長 これより採決に入ります。  民事保全法案及びこれに対する井出正一君外三名提出の修正案について採決いたします。  まず、井出正一君外三名提出の修正案について採決いたします。  本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  199. 戸塚進也

    戸塚委員長 起立総員。よって、本修正案は可決いたしました。  次に、ただいま可決いたしました修正部分を除いて原案について採決いたします。  これに賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  200. 戸塚進也

    戸塚委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。     ─────────────
  201. 戸塚進也

    戸塚委員長 次に、ただいま議決いたしました民事保全法案に対し、井出正一君外三名から、自由民主党、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議及び民社党・民主連合の四派共同提案に係る附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  まず、提出者から趣旨の説明を求めます。中村巖君。
  202. 中村巖

    ○中村(巖)委員 ただいま議題となりました附帯決議案について、提案者を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。  まず、案文を朗読いたします。     民事保全法案に対する附帯決議(案)   本法の施行に当たっては、次の事項について配慮されたい。  一 権利関係が複雑な民事保全事件審理については、審理迅速化とともにその充実化を図る法の趣旨にかんがみ、その運用に遺憾なきを期し、当事者裁判を受ける権利を損なわないようにすること。  二 証人等の尋問順序変更制度運用に当たっては、当事者の尋問権を損なわないようにすること。  本案趣旨につきましては、当委員会における質疑の過程で既に明らかとなっておりますので、省略いたします。  何とぞ本附帯決議案に御賛同くださるようお願い申し上げます。
  203. 戸塚進也

    戸塚委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。  採決いたします。  本動議に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  204. 戸塚進也

    戸塚委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。  この際、後藤法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。後藤法務大臣。
  205. 後藤正夫

    ○後藤国務大臣 ただいま議決されました附帯決議につきましては、最高裁判所に十分その御趣旨を伝え、運用上遺憾のないように配慮をいたしたいと考えております。  なお、本法律案の審議につきまして、大変御熱心に終始御審議いただきましたことにつきまして、厚くお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。     ─────────────
  206. 戸塚進也

    戸塚委員長 お諮りいたします。  ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  207. 戸塚進也

    戸塚委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。     ─────────────     〔報告書は附録に掲載〕     ─────────────
  208. 戸塚進也

    戸塚委員長 次回は、明二十九日水曜日午後零時五十分理事会、午後一時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後四時五分散会