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森参考人 御
紹介いただきました
森巖夫でござ
います。早速愚見を申し述べさせていただきたいと思います。
御
承知のように、この十数年来、特に一九八〇年代に入りましてからの最も際立った
社会現象の
一つに、
森林というものに対する世間の関心が著しく高まってきていることが挙げられるかと思います。すなわち、まず地球的な規模の問題としては、
熱帯林の減少とか
砂漠化の進行、さらに
酸性雨による
森林枯損など、つまり、今日国際的にも極めて緊要な問題となっております
地球温暖化現象などとの関連において、ある種の
危機感を持って
森林問題が提起されております。また、国内に限って見ましても、一方では急速な
工業化や
都市化の進展に伴う
生活環境の悪化のもとで、いわゆる余暇時間の増大や
所得水準の
向上などを背景に、緑、とりわけ量的にも質的にもその
中核となるべき
森林に対して、
国民一般は熱い
期待を寄せております。そういう
期待が、例えば、時には
森林浴や
自然体験学習を初めとして、
林内におけるスポーツや
レクリエーションなどを含むさまざまな
活動となってあらわれておりますし、また時には、その
方向性が異なり、あるいはその
内容に
程度の差はありますけれ
ども、いわゆる
自然保護運動として展開されているものと考えられるわけであります。
他方、
森林への関心の高まりは、近年における
林業活動をめぐる厳しい
状況にも向けられております。すなわち、長く続いております
木材需要及び
木材価格の低迷、
山村の
過疎化のもとでの
林業従事者の減少や
高齢化などによって、人工林の除間伐や保育作業のおくれが、最近幾分緩和されつつあるとはいえ目立っておりまして、
産業としての
林業の
振興の視点からも
森林問題が取り上げられております。ここで今日の
林業状況についてるる申し上げる必要はありませんが、このような今日の
林業活動の不振は、結局のところ健全な
森林の
造成を困難にし、
林業者がひとしく
期待しております国産材時代の到来を不可能にするばかりではなく、それはまた
国土管理上にもゆゆしき事態を引き起こしかねないと憂慮されるわけであります。
このように、今日の
森林問題の
内容は、実に多面的であると同時に、いずれの局面もそれぞれ相互に関連を持ちながら、極めて深刻であります。さしあたりここでは地球環境問題とのかかわりにつきましては割愛しますが、そして専ら国内の
森林問題に目を向けることといたしますが、これまでのところ率直な印象としては、ただいま申しましたような
森林への関心の高まりの中で、
都市住民サイドの
森林に対する
期待ないし関心と
林業及び
山村サイドからの要望とが必ずしもうまくマッチしていなかったのではないか、もっと両者をうまくドッキングさせる仕組みをつくる必要があるのではないかと感じられるのであります。
若干具体的に申しますと、
都市サイドの緑の欲求の高まりは、
森林を
対象として営まれる経済
活動、すなわち
林業を初めとして
森林利用の一切を否定するような極端な
自然保護運動に走ってしまったり、反面では全く反対に、緑を求めながらも結局のところ大事な緑
資源を破壊してしまうような、いわば乱開発と呼ばれるような事態を引き起こしたりしていることを目にすることがあります。前者は、
林業や
山村というものに対する認識不足と言わざるを得ませんし、後者はまた、自然とか緑の象徴としての
森林の重要な意義についての理解の不足と言わざるを得ないと思うわけであります。ともに誤りであることは言うまでもありません。やはり、一口で言うならば、
我が国の風土の条件と経済社会の成熟度に調和した、あるいはそれに対応した、いわば日本型の
自然保護なり
森林利用なりが求められるべきであると言うべきでありましょう。
私はかねがね、
森林には大きく分けて四つの顔があるなどと申しておりました。その
一つは、経済
資源としての顔であります。
木材等の林産物を供給する
役割であります。第二は、環境
資源としての顔であり、
国土と人間
生活の安全や快適さを保障する
役割であります。三つ目には、文化
資源と申しましょうか、歴史的、文化的な遺産を継承し、また健全な人間の育成、青少年の
教育などに役立つ
役割であります。そして四つ目は、生物
資源としての顔であり、多種多様な動植物の生息と遺伝子の貯蔵庫としての
役割であります。
いずれの分野についても細分すれば多種多様な働きが挙げられますが、従来、例えば
森林計画制度や保安林
制度などによってそれぞれの
機能が
確保されるよう特別の
措置が講じられているわけでありますけれ
ども、これまでのところ、どちらかといえば
木材生産や
国土保全等の
機能が重視されているのに比べて、最近著しく高まってきておりますところの
森林の
保健機能への対応が必ずしも十分であったとは言えないのではないかと考えられます。そして、この
森林の
保健機能の重視は、今日、
都市住民サイドからの要請と
山村、
林業サイドからの要請とを結びつける重要なきずなになる分野であると考えるのであります。
しかし、御存じのように、
森林整備の
基本でありますところの
森林法に基づく
森林計画制度においては、
森林の
保健機能の
増進に関する事項は取り上げられていませんでした。そのため、多数の
所有者を含む一団の
森林の
保健休養的
利用を統合し、これを誘導することはできなかったわけであります。また、
林地開発
許可制度はありますものの、それに基づいて設置された
施設敷等はいわば
森林法の傘の外に出てしまうことになり、それへの監督ができなくなるといった不都合が生ずるおそれがあったのであります。加えて、
施設と周辺
森林の施業との関連も必ずしも調和がとれているとは言えない
状況でありました。少なくとも
制度上、一体的関係は保障されていなかったと言わざるを得ません。
今回上程されております
森林の
保健機能の
増進に関する
特別措置法案は、このような問題点に着目して、まず
都市住民の自然への触れ合いの欲求にこたえつつその
活力を
山村に導入し、
都市と
山村の
交流を図るために
森林保健施設とその周辺の
森林の施業とが一体的かつ
計画的に行われるよう
措置するという考えに基づくものであると理解するわけでありますが、そのような方策は今日広く望まれているところであり、適切なものであると考えます。
なお、ここで特に強調したいことは、
森林の
保健機能に対する欲求が高まっているからといって、開発
許可を得たからといって、むやみやたらに
森林保健施設を設置してよいというわけではありません。恐らくそれは
都市住民の真の
森林への
期待にも沿わないことになるでありましょう。ところが従来、
施設整備についての
技術的基準は必ずしも明確ではありませんでしたし、中にはひんしゅくを買うような例があると指摘されております。先ほ
ども申しましたように、
森林は多種多様な働きを有しているのでありますから、いかなる
森林についても
保健機能以外の諸
機能が破壊されるようなことがないように留意する必要があります。言いかえますと、
保健休養以外の諸
機能に著しい支障を及ぼさないと認められるときに限って
森林保健施設の
整備が求められるべきであります。法律案にはそのような規定が明確に与えられていることをも評価したいと思います。
なお、このことと関連いたしまして、専門家によって
森林の
保健機能の
増進に関する
技術基準が科学的に検討され、それに基づいて省令が定められるとのことでありますけれ
ども、蛇足ではありますが、その
技術基準が厳しく守られることを関係者に強く
期待したいと思います。
私は自分の専門領域との関連もあって、比較的多くの農
山村に出かける
機会に恵まれております。そこで耳にすることの大きな問題の
一つは、農
山村における後継者の
確保難であります。つまり、若者層が喜んで住みつくような農
山村を築くことの緊要性、必要性であります。そのための
一つの手段として、
森林の
保健機能の
増進によって
都市ないし民間の持つ
活力が導入されるならば、若者層ももう少しは
山村に定着するようになるのではないかと
期待しております。実際そのような成功例を見聞することは少なくなくあります。
一方、
都市住民もまた、緑への渇望の中で、健全に
管理された
森林の中で営まれる野外
レクリエーション活動こそ正しい
意味での
保健休養であり、それを求めていると考えます。そのためには適切な
森林施業が不可欠でありまして、
施設の
整備と一体的にかつ技術的にも高度な
森林施業が推進されるならば、この
法案が目的として掲げておりますところの
林業地域の
振興と
国民の福祉の
向上が実現できるのではないかと確信しているところであります。
今回の
森林の
保健機能の
増進に関する
特別措置法案に関連して、以上、愚見を開陳して終わりたいと思います。ありがとうございました。(
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