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秋田参考人 御紹介いただきました
運輸労連の
中央執行委員長を仰せつかっております
秋田哲也と申します。
簡単に自己紹介させていただきますが、私
どもの
組織であります
運輸労連は、主に
トラック運輸産業で働く
労働者で結集しておりまして、本年十一月で結成後満二十一年になります。
傘下加盟組合数は五百二十八
組合、約十三万人の
組合員を擁しておりまして、
上部団体は
連合に加盟しており、本日午後に発足いたします新
連合にも引き続き参加することにしております。また、陸海空の大
産別組織であります
交運労協にも現在参加しておるところでございます。
さて、本
運輸委員会におきまして
貨物運送二
法案に関しまして、
参考人として
意見を申し述べる
機会を得ましたことに心から
お礼を申し上げる次第でございます。また、現場で汗している
労働者の
立場から、またそれを
組織している
責任者として御
意見を申し上げさせていただきます。
私
たちは、原則的に
規制緩和には反対であります。しかし、全面的に反対しているのではなくて、今日の
社会情勢や
貨物輸送を取り巻く
情勢からしまして、
経済的規制についてはある程度の
緩和はやむを得ないのではないかと思っておるところでございます。しかし、
社会的規制についてはもっと厳しく
規制すべきであるとの
立場でございます。
これまでの
道路運送法は、言葉は悪うございますが、
ざる法と言っても過言ではないと思います。既に御承知のように、三万八千を超す
トラック事業者と今日の
過当競争を生み出してきてしまっているところにあります。それを
トラックに関する
単独法によって
安全確保等に関する規定が盛り込まれていることにつきましては一歩前進とは考えておりますが、まだ不十分であると言わなければなりません。
以下、
具体的事例を挟みながら、特に
安全面と
労働条件面を
中心に
意見を述べさせていただきます。
私
たちトラック運輸労働者は、
道路が主な職場でございます。そして預かった荷物を届けて初めて
商品価値が生まれるところであります。最近
一般的に知れ渡りました
宅配便は
利用者に大変喜ばれています。
全国翌日
配達、九州、北海道でも翌々日には
配達されるぐらいスピード化されました。早く、安く、確実そして親切、丁寧にを守りながら
輸送しなければなりませんが、しかし、そこに従事している
労働者は、そのために
過労運転や過積載が
日常茶飯事となっているところであります。特に、好景気の波に乗りまして、最近の
トラック輸送は
荷主ニーズの
多様化に伴いまして、
輸送の
長距離化、
高速化が進行しまして、かつ
荷主の時間
指定輸送が増大する中で、
トラック運転者の
長期連続勤務、深夜
勤務、
拘束時間の
延長等が拡大しておりまして、そのことが
過労運転、
交通事故に結びついているのが
実態でございます。
そこで
労働時間の
実態を見てみますと、
労働省の毎
勤統計調査によりますと、八八年の
年間総
労働時間は、全
産業平均が二千百十一時間であるのに対しまして、
道路貨物運送業は二千六百八十七時間、五百八十時間も長くなっており、八九年六月
実績でも、
月間で全
産業が百九十時間、
道路貨物運送業は二百三十三時間となっておるところであります。
さらに、我が
運輸労連は、毎年十一月九日に
全国の
主要道路で一万人を超える
トラック運転者の
アンケート調査を
実施してことしで十四年目になります。本年分はまだ集計されておりませんので、昨年の
調査結果から一部を抜粋してみますと
次のような
実態が明らかになっております。
一日の
運転時間九時間の
基準を超えるものが三六%、一回の
連続運転時間四時間の
基準を超えるものが一六%、八八年十月にありました休日六日のうち、休みなしが五%、三日以下が三二%に及んでいます。
月間の
残業時間が八十時間以上が一四%、自分の
残業時間がわからないというのは二四%。このように長時間
労働であることは間違いない事実ですが、実際には出勤から退社までの
拘束時間はさらに長時間に及んでいると思います。
また一面、
賃金の
実態を見ますと、一時間当たりの
賃金は、全
産業が千六百八十三円であるのに対しまして
道路貨物運送は千三百六円の単価でございます。一時金を含めた
年間総収入では、全
産業平均が四百七十九万六千円に対しまして
道路貨物運送は三百七十二万七千円と約百万円の差がございます。
このような
現状も影響しまして、最近の
トラック運送事業では
人手不足が顕著となっておりまして、
労働集約型産業であるところから
労務倒産にもなりかねない深刻な問題となっておるところでございます。
最近、危険、きつい、汚いという三
K産業を若者が敬遠すると言われていますが、
トラック運送事業はその上に
あと二つ、暗い、いわゆる深夜
労働、帰れない。
長期、長時間
労働が加わって、三
K産業から五
K産業となってしまって、したがって人が全く集まらないというのが
現状であります。そして、人が集まらないから
現有勢力で仕事を消化しなければなりませんから、さらに長時間
労働となるという悪循環となっておるところでございます。不景気なときでも年末は
繁忙期で猫の手も借りたいところですから、最近では
労働者が
勤続疲労で
ダウン寸前にございます。各
企業労使でその
対策に頭を痛めておるのが実際のところでございます。
次に安全問題であります。
私
たち労働者は
労働力が資本でありますから、
労働寿命はできるだけ大事に長もちさせなければならないと思っています。
交通事故は、被害者はもちろん事故の加害者も被害者となります。絶対に事故を起こしてはならないとして、安全衛生問題につきましては労使を挙げて取り組んでいるところでございます。
交通事故には原因があり背景があるわけですが、最近の
トラックによる事故が増加している中で目立ちますのは追突、衝突でありまして、
車両相互間事故の六〇%を占めております。しかも、この二つの事故は人身傷害を併発することが多く、
運輸労連の
調査でも併発の割合は六〇%にも及んでおります。では、どうしてこんなに追突、衝突事故が多いのか、その事情を考えてみますと、第一に速度の出し過ぎ、第二に
道路交通事情の悪化、第三に居眠り、わき見、漫然
運転、第四に過積載によるブレーキ等の
車両機能の低下などが挙げられております。
そして、こうした問題が起こってくる背景として考えられまするのは、長時間
連続運転、長時間
労働などによる過労からくる居眠り、覚低
運転、前方不確認、錯覚
運転、注意力減退、こういったことがあることも否定できない事実であります。また、さきに述べましたように
人手不足のもとでの無理な運行計画、物流の
多様化によりセールスを伴う
運転業務等の
多様化とニーズへの
対応の複雑化、さらに、製品の無
在庫管理、時間指定納品
システム採用など、
物流サービスの二十四時間
体制とスピード化の進行によりまして、運輸
労働の質的
変化と長時間
労働が恒常化しまして、精神的、肉体的疲労の蓄積となっていることも否定できないところでございます。
一方、
トラック事故の原因には、これら
過労運転と並んで過積載運行があります。七八年の
道路交通法の
改正によりまして、背後
責任に対する罰則適用が
実施された直後はかなり違反が減少しましたが、その後はまた増加しております。特に、十トン車に二十トン以上積む、いわゆる一〇〇%過積載がふえる
傾向を今日はたどっているところでございます。
以上のような
実態の推移を踏まえながら、私
たちはこれまで
トラック事業の適正な運営と公正競争の
確保、
輸送の安全を
確保する
観点に立ちまして、各種の
対策と具体的措置を講ずるよう政府に要求してまいりました。その
過程で、一九八三年四月二十一日の参議院
運輸委員会におきまして貨物自動車に係る
道路運送
秩序の
確立に関する決議が全会一致で採択されましたので、それを重視しながら運動を進めてまいりました。残念ながら実効が上がっていないのが
現状であります。
そのような中で今般の
法案提出となったわけでありますが、これに至る
過程の論議は、
規制緩和論が先行し、今日の
貨物輸送分野における
輸送秩序の
確立と
輸送の安全
確保という重要課題を解決する視点が欠落していることは否めない事実である。また、参入
規制と
運賃規制の許
認可制の
緩和のみが先行しまして、
免許制が
許可制に、
認可制が
届け出制に段落としされたことにつきましては、到底容認されるわけにはいかないと思います。
今必要なことは、
過労運転、過積載を防止し、
交通事故をなくし、安全を
確保するための
社会的規制をいかに強化するかということでありまして、それなくして安全、確実な
輸送の提供は不可能であると言えます。経済的側面からのみの
規制緩和は、
労働基準法も
道路交通法も守れないような
事業者の参入を許し、
トラック運送事業の
過当競争の激化や
輸送サービスの低下、
労働条件の悪化につながることは明白であります。
事業者資格の厳正な審査や安全を
確保するための
労働基準の遵守義務など、
社会的規制の強化を図られることを強く望むものであります。
法案の内容に対する問題点は数多くありますが、最低限次の内容について具体的に措置されるよう
意見として申し上げます。
一つは、貨物自動車運送
事業者の資格についてでありますが、五年程度の有効期間制とその更新制を導入することにし、所要の法令整備を行っていただきたい。
二つ目は、
輸送安全を
確保するために「自動車
運転者の
労働時間等の
改善のための
基準」、一九八九年二月九日
労働省告示第七号でありますが、大臣告示と通称言っておりますけれ
ども、
事業者の遵守義務事項として定めるとともに、貨物自動車運送
事業に従事する
労働者の
労働時間等
労働条件の
改善を図るための各種の
施策を強力に推進していただきたいと思います。
三つ目が、過積載、
過労運転の防止に資するために、自重計や
運転者の
勤務時間を記録する運行記録計の装着義務化と、
車両構造の
改善のための関係法令の見直し整備を可及的速やかに行うとともに、
運転者の
休憩施設、重量計の設置等の整備を促進する措置を講じていただきたい。
四つ目が、貨物自動車運送
適正化事業実施機関につきましては、地方に財団法人を、中央にその
連合会を設置し、それを
実施機関として指定するよう定めていただきたい。
最後になりますが、
五つ目に、本法の趣旨、目的を達成させるために必要な事項を
審議すること、及び貨物自動車運送
適正化事業実施機関の
事業活動指針を
審議することを目的として、関係行政機関、貨物自動車運送
事業者団体、
労働団体その他関係団体及び学識経験者から成る
審議会を設置することを定めて必要な措置を講じられることをお願い申し上げます。
以上、御
意見を申し上げまして、今後の
法案審議に当たって十分参酌されることをお願い申し上げ、
意見陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(
拍手)