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公述人(
富岡幸雄君) 山本
先生から大変たくさんな、かつ重要な問題をお尋ねいただいたわけですが、逐次お答え申し上げてまいります。
不公平税制というのは、税のあるべき理念、原理原則から見てそれが外れている、こういう場合ですね、これを
不公平税制というふうに言うと思います。その場合、間接税にも確かに
不公平税制がございますが、今、問題になっておるのは
所得税、
法人税、つまり直接税における
不公平税制の
是正が十分であったかどうかということでございますね。直接税の場合には、この場合主として個人の
所得にかかる
税金、
所得課税、法人の
所得にかかる
法人税でございます。もし御
質問があれば相続税についても述べますが、その場合、問題は
課税ベースですね。
課税所得に対して
税率を掛けたものが
税金なんですから、
課税ベース、
課税所得が適正であるかどうか、
課税所得の概念と
課税所得の計測方法というか計算方法がより妥当なものであるかどうか、これが問題なんですね。
私は、先ほども冒頭に
税務会計学という学問を
研究しているんだ、こう申しましたが、私は、
課税べス、
課税所得の
研究、これを長いこと、三十何年、もう四十年近くやってきた人間なんです。そして、会計原則とか税務会計原理とか、そういうものを明らかにして、法人、個人を通じてあるべき
課税所得とは何かということをやってきたつもりです。
資料を使ってよろしゅうございますか。――(
資料を示す)
こんな絵をあるところで使ったんですが、丸がございますね。この丸は十五夜お月さんです。真ん丸ですね。これは満月形。この満月形が我々の学問、
税務会計学の原理によって算定されたあるべき
課税所得です。理念的ですね。ゾルレンです。ところが、現行の税法は特別措置であるとか優遇措置であるとか益金除外であるとか、いろんな複雑怪奇なシステムがあります。これは税務会計のメカニズムです。かなり技術的専門的です。そのためにエロージョンといって、たまたま黄色い
部分でございますが、
課税ベースが浸食されているわけですね。虫食い現象。海の水がひたひたと浸って岩を削っていくという現象がエロージョンですね。あのように
課税ベースが削られているわけですね。庭の桜の葉っぱが毛虫に食われてすかんすかんになっているような
状態、これが
課税ベースの現状なんです。こういうぐあいにへこんでいる
部分があるわけです。中には若干、引当金の設定が不十分であるとか、必要経費の認識に問題があるとかいう形で
課税してはならないものにも
課税しています。出っ張っている
部分があります。拡張化現象。圧倒的にへこんでいる
部分が多いわけですね。この
課税べースの
是正が必要なんです。
先般の
税制抜本改革で
所得税、住民税の
税率の引き下げをやっていただいたことは大変いいと思います。大変結構で
国民は喜んでいると思います。
消費税ばかり
議論して
所得税、住民税の減税が余り認識されていないんじゃないかということを
政府がおっしゃっていますが、全く同感です。そのことも正しく評価して、トータルで
税制がよかったかどうかを
議論しなきゃならないことは私も同感なんです。考え方は私は皆さんと違わないと思っているんです。
問題は、
税率を下げたが
課税べスの
是正が必ずしも十分でなかったということですね。ですから
財源がなくなりましたね。その
財源を
消費税という新たな大型間接税に持っていったというところに基本的な問題があるわけです。ですから、
税率を下げるときは特別措置とか優遇措置とかそういうもので必要がなくなったものをやめていただくと。
課税ベースの正常化ですね、それをやることがよかったんです。アメリカの
税制改革やよその国ではそれをやっています。ですから、
所得税の
税率を下げるときは、
法人税の
税率を下げるときは、それぞれの
課税べスのゆがみとひずみと欠落を直すことが大事なんです。
消費税を入れることじゃないんです。
もう一つ
資料がございます。(
資料を示す)
日本の
税金で高いのは
税率なんです。世界的に見ても決して
所得税も
法人税も高くありません。高いのは
所得税の
税率であり
法人税の
税率だったんです。こんなに高い
法人税ですと日本の
企業は海外に進出しちゃう、おれたちはアメリカに本店を移すと言って経団連や財界が
政府を脅迫しているということが新聞に出ておりましたが、これはおかしいんです。
これはあくまで例え話ですよ、これは講義の材料ですが、あるべき
所得、満月形を一〇〇〇としますと、特定の大
企業などの
課税べスは三分の一ぐらいですね。三〇〇ぐらいしか把握されていないんです。把握されていないという問題は、
税制上の
欠陥と税務執行の
欠陥ですね。
二つあります。税務執行の問題は、また御
質問があればぜひ答えたいと思っています。この辺で税務行政を立て直さなかったらえらいことになります。その
二つの面から、制度と執行の両面から三〇〇ぐらいしか
課税対象として把握されていないんじゃないか、浮かび上がっていないんじゃないか。
ですから、
税率は比喩的に言って五〇%ぐらいで高いわけですね。三〇〇掛ける五〇%イコール一五〇。国家
財政は赤字、火の車。
福祉の
財源も十分得られない。
福祉についてビジョンも示されない。先ほど
丸尾先生御指摘の問題がございましたね。そういうことです。これを私は、月にかかった雲を払う。そうすると満月になります。明るくなります。タックスエロージョンをやめることです。戻す。戻せば
税率がうんと下がります。
税率がうんと下がっても税収がうんと入ります。これが私の
提案です。下の理想が、一〇〇〇に戻します、一〇〇〇に戻すと
税率は三分の二ぐらいに下げていいんです、三分の二ぐらいに。仮に三〇、そうしても税収は三〇〇、倍入ります。これをやってほしいんです。これをやるのが
税制抜本改革だったんですね。これをやらない。一部やっていますよ、一部やっていますが、キャピタルゲインだってそうじゃないですか。たくさんの取引ですね、三十回以上で十二万株以上の人は総合
課税でたくさんの
税金を取られましたが、四月一日から源泉分離と申告分離の選択ですね。恐らくもうけた人は源泉分離をとりますね。源泉分離というと取引額の一%ですよ。一千万、株を売って仮に三百万もうけても、十万円の
所得税だけ払えば済むわけですね。これでは有価証券取引税の変形でして、入場料払うだけですよ。
先ほど
資産課税の
是正ができた、
キャピタルゲイン課税の
是正ができたというような
議論もございましたが、できたが
中身が問題なんだと。早くプライバシーの保護を十分にしながら納税者番号制度とか、つまり脱税ができないような
仕組みをきちっとつくって
所得のあるところには必ず
課税してもらう。応能
負担原理によってきちんと
課税するというやり方をすれば、
消費税は要らないのじゃないか。土地の問題もそうですね。そういうような問題があります。そういう
是正をしていただくわけですね。
先生の御
質問の一つ目の後半に、
企業のありようですね、一体
企業というのはどうなんだ、
企業が国にどのような貢献をしているのかということですが、残念ながら、多
国籍企業と言われる日本の
巨大企業は世界を舞台に大変な仕事をしています。もちろん大きな貢献をしています。昔は、多少
企業が問題を起こしてももうけがあれば半分近いものを国に納めましたから、その金が
福祉や教育や文化や治安維持に回ったんです。ところが今の大
企業は、世界で仕事をしていますから、日本の大
企業の稼いだ金が日本の
国民の
福祉に回らない、こういう
状態ですね。多
国籍企業といっていますが、
言葉は大変失礼ですが無
国籍企業である、国籍不明の
企業である。それらがカリブ海のイギリス領のバハマ、バーミューダ、オランダ領アンティルとか、
税金のない夢の島々にいろんなペーパーカンパニーをつくって巧妙な手段で
税金逃れをしているわけです。
国税庁も一生懸命やってくれています。
大蔵省もやってくれていますが、人手不足ですよ。終戦直後と同じ人間でやらしているんですよ、あなた方は。
国会の責任ですよ、これは。ちゃんともっと国税庁の職員をふやして、待遇も優遇して、
現場の職員もやる気が起きるようにしていただけば相当メリットがあります。
行政改革で役人の数を減らすことは必要ですが、余り忙しくないところの人を回して一生懸命勉強していただいて、三年か五年やれば少しはわかるんですから、そしてやはり国税庁の職員を
充実させてやっていただきたい。
海外問題。日本の
企業はボーダレスエコノミーですから、国境を越えて活動していますから、日本の税務行政も国境を越えて世界じゅうに調査の網を張るような形でやっていく必要がありますね。
今、
タックスヘーブン税制の話をしたわけです。
タックスヘーブンというのは
税金天国なんですよ。夢の島々。
税金のない島々、国がいっぱいあるわけですね。例えば一番多いのはバーミューダあたりです。カリブ海にいっぱいありますが、実際は世界じゅう至るところにあるんです。
税制改革前までは
税金天国として
大蔵省が規制する、そこにペーパーカンパニーをつくっても、ペーパーカンパニーならば親会社の
所得に合算して
課税する合算
課税という
タックスヘーブン対策規制
税制があったんですね。その適用対象は三十三地域でした。ところが私の調査によると、それ以外にアジア・太平洋地域には十三、カリブ海、中南米にも五カ所、ヨーロッパにも十二カ所ぐらい、アフリカ、中近東にも相当ケース、合計三十六の地域があったんです。これは地図があります。見えないでしょうが、この赤いところは
大蔵省が野放しにしているところです。
タックスヘーブン税制の規制のないところです。
つまり、
税金天国が三十三、
大蔵省の網にかかっておったわけです。
大蔵省令で規定しておりました。野放しのところが三十六あったんです。今回の
税制改革で確かに省令を改正しましたが、九カ所追加しただけです。私は三十六カ所あるよと言うのに、
大蔵省は、
大蔵省というか
政府は九カ所しかやってくれなかった。まあ、やったことだけは評価されます。大いに努力に尊敬敬意を表しますが、もっと我々学者の
意見をばかにしないで、新聞やいろんな雑誌に書いているんですからもっとよく調べて、十分に抜け穴のないような制度をつくること、抜け穴のない制度をつくり、そして職員も
充実さして、しっかり気持ちよく働けるような
仕組みにしてやっていただいたらどうでしょう。
それから、この前、一昨年でしたか、ある総合雑誌に「
税金を払わない大
企業リスト」という論文を書いたんです。中曽根さんが売上税を
提案して列島騒然になりかかったときですね、三月号、二月十日発売でしたから。「
税金を払わない大
企業リスト」という論文を書いて、日本の
巨大企業の固有名詞を出しながら、この会社は世界をまたにかけて売り上げが十六兆円ある、
利益が五百億円もありながら日本という国に
税金を一銭も払ってないということを固有名詞を挙げてやったわけですよ。さすがに
大蔵省も驚いて、
外国税額控除制度について若干の
手直しをしてくれました。しかし、不十分です。どういう点が不十分か。これは昨年の
予算委員会で詳しくやりましたから、それと今回の改正と比べてください。つまり、土地とか株の問題もありますが、もっと大きいのは、世界をまたにかけていろんな仕事をしていただいておる多
国籍企業、こういうものに対する
課税が非常に不十分である。つまり、日本
税制は国際化におくれているわけですね。
企業の海外進出を促進した時代につくったわけです。この
タックスヘーブンは、
大蔵省が調べただけでも三十三カ所に二千七百十一社あるんですよ。膨大な数で毎年毎年ふえているんですよ。五十七年三月には千五百二十四社あった。それが六十三年三月には二千七百十一社にふえているわけです。ふえるということはメリットがあるからですよ。やはり制度的に
欠陥が、大変失礼な言い方で申しわけありませんが、不十分さがある。それらを
是正していただくことが大事だ。
何も私は、
企業を
いじめて
税金を取れと言っていませんよ。
企業は金の卵を産む鶏ですから、まじめな
国民の勤労の場所ですから、
企業は健全に発展していただいていいんです。
法人税の
税率は今四二ですね。これが四〇になりましたね。
税制改革後は三七です。アメリカが三四、イギリスが三五ですから、日本の
法人税の
税率は三〇に下げてください。三〇に下げることができます。私の言うタックスエロージョンをなくせば三〇に下がるんです。日本の
法人税は先進国の中で一番低い
税率にしてください。そのかわりにタックスエロージョンをやめて抜け穴のない国、もうかったら
税金をちゃんと払う、
企業が国家に対して帰属意識を持つ、国家も
企業に対してきちんとやるべきことをやってやる。そして、全体の
国民が、みんな納めているんだよ、おれもつらいけれども、みんな納めているんだな、大
企業もまじめに納めているんだな、ありがたいな、じゃ、ということで、直接税で一生懸命やってください。直接税であと十五年ぐらいもちます。やがて
丸尾先生のお出ましを願って、
高齢化社会になったときは間接税も必要ですよ。私は間接税反対じゃないんですよ。賛成なんですよ。
中身が悪いと言うんです、今の。やるべきことをやらないんだよ。直接税で巨大な六兆円も七兆円もの不公平を残しておきながら、わけのわからないことを言いながら、それで強引に
国民の嫌がることをやったからまずいんですね。
税金というのは、まず褒められる
税金はないですよ。私も十五年税務署にいたから知っています。憎まれました。その中で苦労してやっているんですよ。だから、曲がりなりにも
国民が我慢して
納得できるものをつくってやらなかったら、
国会は通っても税務署の
現場がもちません。いいですか、このことが大事です。このことはぜひひとつ、私は昔国税におりましたから、後輩のためにも国税庁長官のためにも言っておきます。いいですね。その
意見もあります。
それから
二つ目は、税は公正で明確でなきゃならぬ。憲法に違反するおそれがあるんじゃないか。憲法に違反するかどうかは法律の問題です。私は
中央大学では法学部も出ておりますが、商学部で会計学、
租税学の
教授ですから、学者は自分の専攻学問につき
権威ある見解を述べることがならわしでありまして、
国会に呼ばれた以上、法律の専門家でないくせに憲法違反云々を述べることは差し控えたいと思いますが、その疑い濃厚であるというふうに一市民として感じます。
なぜかというと、今回の
税金は非常にわかりにくい
税金です。まず第一が、今回の
消費税は非常にわかりにくい
税金です。生活それ自体が
課税の原因となる生活税です。
消費税では、借金をして物を買っても
税金がかかります。しかも、
食料品など基礎的な
生活必需品までかかりますね。一方、土地や
株式を買ってもこれには
消費税はかかりませんね。貯金してもかかりませんね。理屈はわかりますが、庶民感覚からすればぴんとこない感じですね。頭にきますよ。
税金というものは、
税金を
負担し拠出する根拠が
負担能力があるかどうかではないんです。
負担能力、担税能力があるかどうかじゃなくして、人間が生きている、息をしているということ自身が
課税の原因になっちゃった。これは大変な
税金ですね。これが問題です。
二つ目は、
税金を物価にしちゃった。
税金が物価に変身しちゃった。物価税です。本来、転嫁と値上げとは別問題ですよ。独禁法学者も言っています。
政府は値上げの方法についてのカルテル、転嫁の方法についてのカルテルを認めておりますが、これは大変な間違いです。税を、
消費者が逃れることができない物価に置きかえてしまった。強力なタックスマシン、増税マシンを導入したということですね。
三つ目は、
消費者と
商店街を争わせている不信税。
欠陥税制で、
消費者が納めた
税金が国に入らないと冒頭問題になりましたね。そういうことが今盛んで、それで奥様方と
商店街とが今ちょっと不和の仲ですね。ショッピングというのは楽しいものなんですよ。市民の文化なんですよ。その市民が
商店街に行って、
便乗値上げがされているんじゃないか、外税か内税か何かわけのわからない形で取られていますから、しゃくにさわってしようがないんですよ。そのしゃくにさわっているのがリクルート問題と絡んで
国会に対する不信になって、
先生方は非常に損しているんですよ。
消費税という
税金はかわいそうですよ。この
税金は大事な
税金なんだが、不幸な出生の経路をたどったということですね。これは民族の悲劇です。この
税金を将来五十年も百年もやられたら、
恨みつらみがずっとつながっぢやって、
国会とそれから
政府に対する
恨みがつながっていくんじゃないか。これが
政治不信で大変なことなんだ。よし、では一回出直した方がいいというのはそういうことなんですよ。
それから四つ目は、
事業者を
代理徴収入に仕立て上げているんです。嫌がっていますよ、みんな。
事業者は
代理徴収入。
政府広報の文書によると、
消費税は
消費者が
負担し、
事業者が納める
税金ですと。あんなビラをつくってもったいないですよ、
税金が。
税金のむだ遣いですよ。やめた方がいいと思いますが、一生懸命やっている。御苦労さまな話だ。
事業者は、
納税義務者の名のもとに税務署にかわって
税金を徴収する徴税代理人になったんだ。四月一日から税務署がふえたわけだな。税務官吏が足りないから、全部日本の
業者を徴税代理人にしちゃった。これは問題ですよね。
そういう点で、非常に問題がある
税金である、こういうことですね。この辺で、ひとつ根本的に見直していただければありがたいと思っております。
時間が超過して恐縮でした。御清聴ありがとうございました。