○
国務大臣(
竹下登君) 第百十四回
通常国会の再開に当たり、
内外の
情勢を展望して
施政の
方針を明らかにし、
国民の
皆様の御
理解と御
協力をお願いしたいと存じます。
まず最初に、
昭和天皇の
崩御に対し、衷心より
哀悼の意を表する次第であります。
私
たちは、この
悲しみを乗り越え、心と力を合わせて、国運の一層の
進展と
世界の平和、
人類福祉の増進に努め、新しい
平成時代を築いていかなければなりません。
「
平成」には、その名の示すごとく、平和が
我が国の
内外に達成されることを願う
意味が込められております。私は、
人類が希求する平和を恒久的に
確保し、かけがえのない美しい
地球を守り、育て、後世に残していくことこそ、新しい
時代に生きる私
たちに与えられた最大の
使命であると確信をいたしております。
顧みれば、
昭和の
時代は、
世界的な大恐慌に始まり、悲しむべき大戦の惨禍、混乱と窮乏きわまりない廃墟からの
復興と真の
独立、比類なき
経済成長と
国際国家への
発展に至るまさに激動の
時代でありました。これらの
時代を通じ、
我が国は、多くの困難と試練に遭遇したわけでありますが、これを克服し、今や
経済的な
繁栄を達成するとともに、平和を目指す
国家として
国際社会の中で名誉ある
地位を占めるに至りました。私は、今日の豊かな
日本を建設された
国民の
努力と
英知に改めて深い敬意と感謝の意を表し、さらに新しい
時代への力強い前進を
決意する次第であります。
また、戦後の
我が国の
繁栄は、
米国を中心とする
自由主義諸国の
努力と
協調に支えられた
国際秩序に大きく負っていたことを忘れてはなりません。今日、
国境という枠を超えて
活動と
交流が深まり、国と国の
相互依存や多極化の傾向が強まる中で、
国際秩序の担い手として
我が国が果たすべき
責務はかつてないほど大きなものとなっております。
人類と
地球の
未来のために、
米国や欧州、
アジア諸国を初め多くの
国々と力を合わせ
世界の平和と
繁栄を支えていくとともに、一層主体的に
世界の
期待と要請にこたえていかなければならない
時代を迎えていることも確かであります。
私は、このたび
米国を訪問し、就任直後の
ブッシュ米大統領と会談して忌憚のない
意見の交換を行ってまいりました。私
たちは、かたい友情と
相互の
信頼を確認するとともに、今後とも、
日米両国が
協力し合うことにより、
地球的な視野に立っておのおのの
責任を果たし、
世界に貢献していくことを誓い合った次第であります。
平成時代を迎えて、私
たちは、これまで以上に斬新な発想とたくましい気力を持って、活力に満ち、しかも
文化豊かな
国づくり、
世界に開かれた
国づくりを着実に進めていくべきだと存じます。
日本には長い
歴史と伝統があります。これを誤りなく継承しつつ、しかも必要に応じて
時代に先駆けた挑戦を繰り返すことにより、時には痛みを分かち合いながら、
人類共通の願いにこたえることこそ、私
たちにとって大事な
課題ではないでしょうか。
時代の
転換点とも言うべき今、もう一度初心に立ち返り、来るべき
時代への洞察と
未来を切り開く勇気ある実践が強く私
たちに求められていることをひしひしと感じてなりません。
来る二月二十四日に
昭和天皇の大喪の礼を挙行することといたしておりますが、
国民の代表や
世界の
国々から弔問のため来日される多くの首脳や要人を迎えて、厳粛にしかも滞りなくとり行うよう万全の準備を進めてまいります。
今日、
リクルート問題等を契機として
国民の間に
政治に対する不信が広がっております。このことは、
我が国の
議会制民主主義にとって極めて憂慮される事態であると認識いたしております。
政治改革は、
竹下内閣にとって最優先の
課題であります。私は、各方面からの厳しい御批判を真剣に受けとめ、
皆様と力を合わせて、必ずや
政治への
信頼の回復をなし遂げなければならないとかたく心に誓っておる次第であります。
政治は、それを動かす
精神や
文化を抜きにしては
考えられず、また、
政治倫理については、第一義的には
政治にかかわる者一人一人のモラルに帰着する問題であることも確かだと思います。私を初め
政治に
責任を負う
立場にある者は、率先して自粛自戒し、みずからの
姿勢を正すことが求められております。私は、
政治家みずからが自己
改革し、
衆参両院で決められた
政治倫理綱領を守り、
国会の
自浄能力を高めるための
環境づくりを急ぐことによって
国民の負託にこたえていくしか道はないと思うのであります。
このため、
政治資金における公私の区別の
明確化と
透明性の
確保を図り、金のかからない
政治活動を確立するとともに、さらにその基礎をなす
選挙そのものの
あり方について
検討を進め、思い切った
改革をしなければなりません。
このような
考えの
もとに、当面の問題だけでなく中長期的な
課題を含め、多方面の
方々から御
意見や御
提言をいただくこととし、先般、有識者による
政治改革に関する
会議の場を設けました。これらの
改革は、
政府のみにて達成できるものではなく、
国会、各党各会派の
皆様の御
理解と御
努力によって初めてなし遂げられるものであります。私は、みずからのすべてをかけて、
皆様とともにその実現に取り組む
決意であります。
また、全体の
奉仕者である
公務員についても、その
職務を行うに当たって、いやしくも疑惑を招くことのないよう一段と綱紀の粛正を図ってまいる
所存であります。
私は、もう
一つの大きな
目標として、「
ふるさと創生」を
国づくりのテーマに、いよいよその
具体化に向かって前進してまいる
所存であります。これからの
我が国に必要なことは、その
経済的豊かさにふさわしい
日本を築いていくことにあると
考えております。
私はかねてより「
ふるさと創生」を唱えてまいりましたが、それは、
日本人一人一人がみずからの住む
地域を「
ふるさと」と感じることができるような充実した
生活と
活動の基盤をつくり、真の豊かさを目指すものであります。同時に、一層開かれた
社会を築き上げ、
世界の
人々に敬愛される
日本を創造していくことにほかなりません。
豊かな自然や住みよい
都市環境、
地域における人と人との心の通い合い、住民の
創意工夫を生かした
町づくり、
村づくり、
地域づくりを進め、そして何よりも
家族の団らん、温かい家庭を大切にしながら、国内は
もとより、
世界と
交流し貢献していくという新しい
社会をダイナミックに創造いたしたいと存じます。
このように、「
ふるさと創生」には輝かしい
未来をつくる夢と
ロマンがあります。しかし、自主的で地道な
努力の積み重ねと忍耐強い継続なしにはこれを実現することはできません。多くの
人々が「
ふるさと創生」という
一つの大きな
目標に向かって知恵や
努力を結集していけば、やがて壮大な運動となり、心豊かな
人々によってさらにすばらしい
日本、美しい
地球がつくられていくことを私は大いに
期待しておるところであります。
以上の
考え方に立って、
国政の各
分野にわたり基本的な
方針を申し述べたいと存じます。
最近の
国際情勢には新たな潮流が見られます。特にソ連の
対外姿勢の
変化を背景に、
米ソ間の対話を初め中
ソ関係正常化の
進展、
世界各地の
地域紛争における
解決への
具体的努力などが見られ、今後の展開が注目されます。このような
変化はいまだ緒についたばかりであり、楽観は許されませんが、歓迎すべき
変化については、これを定着、
発展させるため、
我が国としても新たな
創意を持ち、
体制を
整備しつつ積極的な
外交を展開していくことが必要であります。
国際社会において
相互依存関係が深まる中で、
我が国は
経済のみならず
国際関係全般にわたってこれまでにない大きな
責任と役割を有しております。私は、政権を担当して以来、「
世界に貢献する
日本」の推進を最
重要課題としてまいりました。今後とも
平和憲法の
もと、他国に脅威を与えるような
軍事大国にはならないという不変の
方針を堅持し、
世界の平和と
繁栄のために
最善を尽くす
決意であります。
我が国が
国際的貢献を果たすに当たっては、まず自国の平和と安全を守る
努力がその前提となります。私は、
日米安全保障体制を堅持し、その円滑かつ
効果的運用を図り、また非核三原則と
文民統制を
確保しつつ、
中期防衛力整備計画に従い、節度ある
防衛力の
整備に努めてまいります。なお、
平成三年度以降の
防衛力整備については、現行のような中期的な
計画を策定する必要があると
考えており、今後
検討を進めてまいります。
また、
世界有数の
経済規模を有する
我が国には、
世界経済の
持続的成長のため、さらに多くの
努力が求められていることも確かであります。
主要先進国との
政策協調を促進し、
為替レートの安定を図りつつ、
内需主導型の
経済構造を定着させ、
規制緩和を含む
構造調整を一段と推進するとともに、輸入の拡大、
市場アクセスの一層の改善に努めていかなければなりません。さらに、
多角的自由貿易体制の
維持強化を目的としたウルグアイ・ラウンドの
交渉についても、最大限の
努力を行ってまいります。特に、
農産物貿易については、食糧の
安全保障等に十分配慮しつつ
交渉の
進展に向けて積極的に対応していきたいと存じます。
世界の平和と
繁栄に一層貢献していくため、私は昨年、平和のための
協力、
政府開発援助の
拡充、
国際文化交流の
強化を三つの柱とする「
国際協力構想」を打ち出しましたが、今年はこの三本柱の一層の
具体化を図りたいと存じます。
まず、平和のための
協力では、
国連の
平和維持活動に対する
各国の
期待の高まりにこたえて、
資金面での
協力はもちろんのこと、
要員派遣についても
我が国にふさわしい
分野において
強化し、そのための
体制の
整備に努めてまいります。さきの訪米の機会に
デクエヤル国連事務総長と会談した際、私はこの平和のための
協力について説明し、賛同を得たほか、昨年私が提唱した
核実験検証を含む核軍縮問題に関する
国連会議を本年四月京都で開くことについても合意したところであります。
また、本年は、
アフガン難民の
支援を
強化するほか、四月
開始予定の
国連の
ナミビア独立支援活動に対し、
資金面並びに
選挙監視等の
要員派遣面での
協力を行ってまいります。カンボジア問題においても、国際的な枠組みの中での
紛争解決とその後の
復興に向け積極的に
協力していく
考えであります。
次に、ODAの
拡充では、昨年策定した第四次
中期目標の着実な達成に向け
努力するとともに、一層効果的、効率的な
援助の実施に努めてまいります。このような
努力に加え、
開発途上国の累積債務問題が
世界経済の
発展のためにも克服しなければならない問題であることにかんがみ、
資金還流などを図り、その
解決に向け積極的に取り組まなければならないと思います。
そして、
国際文化交流の
強化では、
海外での対
日関心の急激な増大に対応していくとともに、留学生、
研究者などを含む
人的知的交流等を進め、また
人類共通の財産としての
世界の諸
文化の
維持発展に寄与していくことといたしております。さらに、
地方においてもさまざまなレベルでの
海外との
交流を推進するなど、
草の根外交や
地方の
国際化のための
施策を
強化してまいりたいと存じます。
青く美しい
地球は
人類共通の
ふるさとであります。これを末長く後の世に残すことは私
たちの
責務であり、
人類の
英知を結集していかなければならない
課題であります。そのため、
地球温暖化を初めとする
地球規模での環境問題の
解決に積極的に取り組む
考えであり、
国連及び
各国との
協力の
もと、本年秋には
地球環境保全に関する
国際会議を東京で開催する
予定であります。また、地震などの
自然災害や麻薬問題など
国境を越える
課題に対しても、引き続き
国際協力を進めていきたいと存じます。
我が国が積極的な
外交を推進するに当たっての基本的な
立場は、
先進民主主義諸国の主要な一員として
西側諸国との
協調を図りつつ、アジア・太平洋
地域の一国としてその
地域の安定と
発展に貢献していくことであります。
特に、東西関係を初めとする
国際情勢が一層好ましい展開を示すように、日米欧を中心とする
西側諸国相互間の連帯と
協調が重要であります。私は、本年七月フランスで開催される主要国首脳
会議などの国際的な場において、
世界が直面する諸問題の
解決に向け日米欧の
協力関係をさらに
強化してまいる
所存であります。
中でも日米関係は
我が国外交の基軸であります。私とブッシュ大統領は、今後とも二国間の
課題を静かな対話と地道な
努力を通じて
解決していくとともに、両国が相携えて
世界の平和と
繁栄のために貢献すべく
政策協調と共同作業を一層進めることを確認したところであります。
また、西欧諸国との関係
強化も重要であります。昨年の二度にわたる訪問を踏まえ、西欧諸国の首脳との
信頼関係を一層強固なものとすることにより、
世界的視野に立った
協力を
強化してまいります。
ソ連との関係では、最近の二度にわたる外相会談で、日ソ間に横たわる諸問題や緊要な国際問題について率直な
意見交換が行われました。
我が国としては、北方領土問題を
解決して平和条約を締結することにより、真の
相互理解に基づく安定的な関係を確立することが一貫した
方針であります。ゴルバチョフ書記長の「新しい思考」に基づく政策転換が対日関係に反映されることを
期待しつつ、昨年十二月の外相会談で合意された
最高首脳レベルをも含む対話の拡大
強化を通じ、さらに粘り強い
外交努力を続ける
所存であります。
アジア・太平洋近隣諸国との関係を
強化し、
発展させることは極めて枢要であります。中でも、民主化の進む韓国との友好
協力関係を一層
発展させるとともに、朝鮮半島の緊張緩和のための
環境づくりに
努力し、また近代化を目指して力を尽くしている中国との間に良好で安定した関係を
維持発展させることは
我が国外交の重要な柱であります。さらに、私は、朝鮮半島をめぐる動きを注視しつつ、日朝関係の改善に
努力いたします。また、ASEAN諸国や大洋州諸国等との関係
強化に意欲を持って取り組んでまいります。
このほか、
外交の幅を
地域的にも広げることを目指して、中南米、インド亜大陸、中近東、アフリカなどの
地域との間で首脳レベルの
交流を精力的に展開し、関係
強化を図ってまいりたいと
考えております。
さきの
国会において
税制改革関連六法が成立し、長年の
課題であった
税制改革が実現をいたしました。私は、この
改革が
我が国経済社会の活力を維持し、豊かな長寿・福祉
社会をつくる礎となるものと確信いたしております。
国会における
審議やつじ立ちを通じて、
国民の間に消費税の導入について種々の懸念や不安があることは十分承知いたしております。それを解消し、新しい
税制に対する
国民の
信頼を得るためには、この制度を円滑に実施に移していくことが不可欠であり、最大限の
努力をしてまいりたいと
決意をいたしておるものであります。
政府としては、先般新
税制実施円滑化推進本部を設けたところでありますが、今後とも私みずから陣頭に立って、新
税制について
理解を得るための広報や相談等を積極的に実施し、また、消費税が円滑かつ適正に転嫁されるようきめ細かな対策をとるとともに、便乗値上げの防止にも配慮してまいります。消費税が実施に移され、身近なものとなれば、必ずや大幅減税とあわせて、
税制を
改革してよかったと感じていただけるようになるものと私は確信をいたしております。いわゆる税率の歯どめについては、
竹下内閣として税率の引き上げを提案いたす
考えのないことをつけ加えておきます。
行財政
改革と
税制改革は
日本が新しい
時代に向かって歩むためにともに必要なものであり、私は車の両輪に例えられると思っております。
税制改革が実現しその円滑な実施が求められている今日、行財政が効率的に運営されることは一層重要であります。
平成元年度予算においては、歳出の徹底した合理化に取り組み、
平成二年度に特例公債依存体質から脱却するという
目標に向け前進するとともに、
平成元年度に実施する事項を中心に行政
改革の
方針を取りまとめたところであります。多額の公債残高を抱えるなど行財政をめぐる厳しい状況を踏まえ、これからも行政の各面にわたり制度や歳出を見直し、手綱を緩めることなく行財政
改革を進めてまいる
決意であります。
また、
地方財政については、今回の補助率などの見直しに際し所要の措置を講ずるなど、その円滑な運営を期することといたしております。
国土の均衡ある
発展と
地方の活性化のため、国、
地方にわたる行政
改革を行い、真の
意味での自主的、自立的な
地方自治の
体制を築き上げることが今強く求められております。昨年十二月臨時行政
改革推進
審議会に対し、国と
地方の行政の役割や機能分担、費用負担など幅広い問題について掘り下げた
検討をお願いしたところであります。その答申を待って
改革に一層積極的に取り組む
所存であります。
全国各地にはそれぞれの個性があります。新しい「
ふるさと」づくりは、みずからの
地域に根づいた
歴史、伝統、
文化や産業を見直し、その中から
地域の特性を引き出し、大きく伸ばし育てることに尽きます。
そのためには、これまでの発想を転換して、
地域が
自主性と
責任を持って、おのおのの知恵と情熱を生かし、小さな村も大きな町もこぞって、
地域づくりをみずから
考え、みずから実践していくことが極めて重要であります。この自立の
精神により、私は、誇りと活力に満ち、しかも
文化の薫り豊かな「
ふるさと」を築くことができると信じております。各
地域で青写真をつくり、人間味あふれた「
ふるさと像」を描いて、その実現に向けて
努力していただきたいと思います。
政府におきましては、全国各地で動きの見られる自主的、主体的な
村づくり、
町づくりにおこたえすることができるよう、
地域の活性化の
具体化に向けて積極的な
支援を図ってまいります。
一方、東京への過度な集中や依存から脱却し、多極分散型の均衡ある国土づくりを強力に推進いたします。このため、第四次全国総合開発
計画に基づき、
ふるさとづくりの基盤となる都市・産業機能などの
地方分散、
地域の振興拠点の開発
整備及び大都市
地域の秩序ある
整備を図るとともに、高規格幹線道路、空港、
整備新幹線などの交通網及び情報・通信体系の
整備やイベント開催などソフト面の
施策の充実による
交流ネットワーク構想を進めてまいります。さらに、今後とも国の行政機関等の移転の推進に全力を挙げて取り組んでまいります。
また、北海道の総合開発と沖縄の振興開発のための諸
施策を引き続き積極的に推進していくことは
もとよりのことであります。
平成二年に開催される国際花と緑の博覧会については、その成功に向けて諸般の準備を進めているところであります。
今や土地問題は、早急にその
解決を図らなければなりません。東京圏では地価の鎮静化傾向が見られるものの、依然として高水準で推移する一方、大阪圏などにおいても地価上昇が見られ、引き続き地価の抑制に努めていく必要があります。
政府一体となって、需給両面にわたる土地対策を強力に推進するとともに、土地の公共性についての共通の
国民意識を確立していくことが必要であり、本
国会に土地基本法案を提出いたしたいと存じております。
我が国は、今や
世界最長寿国となり、まさに人生八十年
時代を迎えております。四人に一人が六十五歳以上という本格的な長寿
社会の到来を間近に控え、高齢者が
社会を支える重要な一員としてその豊かな経験や知恵を生かせるよう、雇用、
社会保障を初め
経済、
社会のシステム全体をこれからの
時代にふさわしいものとしていく必要があります。
このため、各人が生涯を通じてその能力や創造性を発揮できるよう、六十五歳程度までの継続雇用を初め多様な就業機会の
確保、
社会への参加を促進し、その条件
整備を図りつつ公的年金を中心とした老後所得の
確保に意を用いたいと存じます。
国民のだれもが、長い人生の中で、
家族とつながりを持ち、長生きをしてよかったと感じられることが長寿・福祉
社会の目指すところであります。この
目標の
もとに、生涯を通じた健康づくりを一層推進し、
地域における保健・医療・福祉サービスの総合的展開を図り、在宅サービスの
拡充を中心とする一方で、老人保健施設等の施設サービスの
拡充に努めてまいります。また、高齢者を含む三世代が生き生きと
生活できる住みよい
町づくりを進めていきたいと
考えております。
国民の
生活を支える公的年金については、給付の改善を行うとともに、厚生年金について、世代間の給付と負担の均衡を
確保するため
平成十年度から支給開始年齢を段階的に引き上げ、さらに、制度の一元化に向けて被用者年金制度間の負担調整を実施することをお願いしたいと存じます。医療保険についても、制度間の給付と負担の公平化などの
改革に取り組みたいと思います。
寝たきり老人や障害者、母子家庭など
経済的、
社会的に弱い
立場にある
方々へのきめ細かな配慮を行うことはもちろんのことであります。このほか、長寿を支える科学技術研究の推進や、がん対策、エイズ対策を初め難病の克服に全力を尽くしてまいります。
教育は
我が国が創造的で活力ある
文化国家として
発展し、
世界に貢献していく基礎を築くものであり、このため教育
改革に全力で取り組まなければなりません。私は、
日本人としての自覚に立って
国際社会の中でたくましく
活動できる個性豊かな青少年を育成するため、道徳教育の充実など教育内容の改善、教員の資質の
向上、高等教育の個性化、活性化等を積極的に推進するとともに、
国民のさまざまな学習意欲にこたえる生涯学習
社会を築くことが必要であると確信いたしております。さらに、
国民の
文化、スポーツに対する関心の高まりにこたえるため、
文化施設の
整備、生涯スポーツ、競技スポーツの振興を図ってまいります。
豊かで多様な
国民生活の実現、
国際社会への貢献、
地域社会の均衡ある
発展などの
課題に取り組んで
未来を開くためには、
我が国経済社会の
発展基盤を確かなものとしておくことが必要であります。
我が国経済は堅調な拡大局面にありますが、インフレなき持続的
経済成長と対外不均衡の一層の是正を図るため、引き続き適切かつ機動的な
経済運営に努めるとともに、新しい
経済計画すなわち「
世界とともに生きる
日本」に沿って
経済構造調整を進め、
内需主導型
経済構造への転換と定着を実現してまいります。
他方、
我が国経済社会が成熟しつつある今日、高い
経済力を
国民一人一人の
生活に生かすことによって真に豊かさが実感できる
社会を築き上げることが急務であると存じます。
国民の多様化したニーズに対応して供給構造を変革し、国際的に均衡のとれた物価水準を
確保して消費
生活の充実を実現してまいらなければなりません。しかも、民間の活力や
創意を生かすことを基本に、生産・流通・サービス機能や価格形成にかかわる規制の緩和、制度等の改善を積極的に進めることが肝要であると
考えます。このため、昨年十二月には規則緩和推進要綱を決定したところであり、その着実な実行を図ってまいります。
農業については、
内外の厳しい状況に対応して足腰の強い、産業として自立し得る農業を確立するとともに、生産性の
向上を図り、
国民の
皆様の納得を得られる価格水準で食糧の安定供給が行われることが重要であります。活力ある
地域社会の維持、国土・自然環境の保全、さらには生きがいの充足など農業の持つ多面的な役割も重視していかなければなりません。これらの観点から、農業の長期展望の確立、構造の改善、農山漁村の活性化などの
施策を一層強力に推進してまいります。また、牛肉・かんきつ等については必要な国内措置の実施に万全を期す
考えであります。
厳しい環境
変化に直面している中小企業につきましては、健全な
発展が可能となり、
地域経済の活性化に資するよう、構造転換対策等を強力に実施してまいります。また、
資源エネルギーの安定的供給の
確保に努めてまいります。
完全週休二日制の普及など労働時間の短縮は、
我が国全体として取り組むべき
課題であります。広く労使との対話を深め、
地域雇用開発の推進、健康で豊かな勤労者
生活の実現などに努めてまいります。
今日、
国民生活にゆとりと潤いが求められており、このため住みよい住宅供給の促進、安全で良好な居住環境、
都市環境の形成など相対的におくれている
社会資本の
整備、
生活面での情報化、大規模地震対策、十勝岳などにおける防災対策、水資源対策など多面的な対策を講ずるとともに、
地方の芸術、伝統産業、スポーツの振興など特色ある
地方文化の創造を図ってまいります。また、
社会資本
整備を円滑に進めるため、大深度地下の利用について
検討を行うとともに、リニアモーターカーなど新しい交通システムの実用化に向けて研究を進めてまいります。
さらに、
国民の安全を脅かすテロ・ゲリラ事件などの犯罪や事故の防止に力を尽くしてまいります。
時代を切り開くかぎの
一つは、学術研究及び科学技術の振興であります。創造的、基礎的な研究開発を総合的に進めるとともに、ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの推進などの国際
交流を促進いたします。
私
たちは、過去と
未来をつなぐ今を生きながら大きな
使命を担っております。世代から世代へ先人の意志を引き継ぎ、力を合わせて新しい文明を創造していくこと、それこそが
時代の大きな節目を越えようとしている私
たちに課せられた命題にほかなりません。
もとより、争いや対立に進歩はなく、この地上から過度の競争や
相互不信を取り除く賢明で地道な
努力が必要であります。私は、調和と
信頼、そしてとうとい命やかけがえのない自然を大切にする心優しい
政治を勇敢に実行することによっていかなる困難も克服することができると確信し、ひたすら歩み続けてまいります。
何事かをなさんとするとき、あらゆることが忍耐によってなし遂げられるということは、洋の東西を問わず
人々を導く指針であります。いつの
時代にも、謙虚にしかも誠実に、学びつつ実践し、反省しつつ前進する心構えを忘れてはならないと思うのであります。
私
たちが進む道の遠く険しきを思い、私はみずからに与えられた
責任の重大さを改めて痛感いたします。これから後も、一日一日の歩みを怠ることなく、不動の信念を貫き、平和で豊かな
世界と
日本を築くため全力を尽くす
決意であります。
国民の
皆様の一層の御
理解と御
協力をお願いいたします。
ありがとうございました。(拍手)
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