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参考人(
龍澤邦彦君) この
宇宙基地協定及び
宇宙基地計画等を参照しますと、法律上問題になる点というのは二つの点がございます。
一つは、
宇宙ステーションの
合法性という問題であります。
もう
一つは、
宇宙ステーションに対する
管轄権、
管理権及び
登録ということに関連する問題であります。
本題に入ります前に一言申し上げたいと思いますのは、この
宇宙基地協定自体は
枠組み協定でありまして、この中で大筋、大綱を定めて、具体的な詳細なことはほとんど、例えば
宇宙ステーションの乗員の
行動規則などは後日の問題として残されていると思われます。
まず、
宇宙ステーションの
合法性ということに関しまして、
最初に問題になる点は、この
宇宙ステーションのような
宇宙構築物が恒常的に
宇宙空間に
位置させられているということが、
宇宙空間の
占有禁止の
原則ということが
宇宙条約の中にありまして、この
原則に違反しないかどうかという問題が
一つあります。この問題につきましては、次のように答えられると思います。
宇宙条約は、
宇宙空間での
活動の自由を認めており、この
活動の自由の
原則という中には、
宇宙空間を自由に
利用する
権利、自由に
探査する
権利、自由にアクセスする
権利というのが含まれております。したがって、この
原則の
適用において
合法性が保障されるのではないかということであります。
ただし、先ほど申しましたように、この
原則は、
占有禁止、
宇宙空間を
占有してはならないという
原則とつり合いをとらされております。したがって、こういった形で
一定の
軌道にあり続けることが
占有禁止の
原則に違反するかということが問題となりますが、このことについては次のように答えられると思います。
占有禁止といいます場合のその
占有の意味は、永続的で排他的に
宇宙空間のある
一定の
位置を占めるという場合にこれを
占有していると言うことができるのであって、このどちらかが欠ける場合には、
占有に当たらないのではないかということであります。
宇宙ステーションの場合に、
国際協力という形でその
計画への参加が公開されており、そして後のユーザーの
利用ということにつきましても一応考慮がなされているということで、この点について排他的ではないということになると思います。したがって、確かに永続的に
一定の
空間を占め続けるのではありますが、
排他性を持たないために、これは
占有禁止の
原則には当たらないということで
宇宙空間自由の
原則のみが考慮され、これ
自体は
宇宙空間の
利用としまして
合法性を有すると考えられます。
それからもう
一つの点は、
宇宙ステーションが
宇宙物体であるかどうかという点でございまして、これは
宇宙物体というものの
定義にもかかわってくる問題でございますが、現在のところ
宇宙物体の明瞭な
定義がございません。
宇宙物体の明瞭な
定義というのは
宇宙空間の
定義に連動するものでありまして、
宇宙空間の
定義が存在しない以上、
宇宙物体の
定義というのはなかなか
定義づけが難しいということであります。
ただし、
学説及び
各国での
討議の
状況を見ますと、
一つのことが言えると思います。
それはつまり、
宇宙物体というのは、
軌道上にあって、人工的ではなくて自然な形で
地球を周回できるものであるということが
一つ言えると思います。あるいはその
軌道のかなたに行くものであるということがもう
一つ挙げられます。そうしますと、この
宇宙ステーションは自然の力によって、つまり人工的な力によってではなくて自然の力によって
地球を周回するのでありますから、これは明らかに
宇宙物体と考えて問題はないという結論に達すると思います。そういたしますと、ど
ういった問題が出ますかといいますと、
宇宙物体である以上、
宇宙物体登録条約の
適用が問題になるわけでありまして、その
登録につきましては、次の
管轄権と
登録の
分野で説明いたしたいと思います。
それからもう
一つは、
合法性の重要な問題としましては、
平和利用の問題があると考えられます。
この
平和利用につきましても、
国際レベルでの
学説上の定説がございません。また、
国内レベルでの議論におきましても、確かに
日本では
宇宙空間の
平和利用に関する
国会決議等が採択され、
会議においてさまざまの
討議がなされているにもかかわらず、
平和利用に関する明瞭な
定義が見当たりません。現在、主要な説としましては、非
軍事説と非
侵略説というのがございます。非
軍事説といいますのは、
軍事的な
利用を排除する説であります。
宇宙空間の
平和利用を
軍事を排した
利用ということと考えるということであります。もう
一つの説としましては、非
侵略的利用という説がありまして、これは
軍事的な
活動であっても
侵略的な
活動、つまり
国連総会の
侵略に関する
決議の中で
定義されているようなものに当たらなければ、
軍事活動であっても
平和活動と認められるという説であります。これは政策的には、非
侵略説は
アメリカが主として主張し、非
軍事説はソビエトが主張しております。
日本の場合は、
宇宙開発事業団法の作成の際に、非
軍事説であると
科学技術庁長官が述べております。
ただ、この非
軍事説ということに関しましては、若干のニュアンスを加えて考えざるを得ないと思います。つまり、
宇宙開発の歴史の中において
軍事要因というものが関与してきたという事実が
一つあります。あるいは
軍事機器が使用されてきたという事実があります。こうした事実のほかに平和的な
利用、つまりそういったものを
利用しない形の
利用であっても決して平和とは言えない
利用があったということが言われております。この点に関しましては、スティフェン・ゴローブ教授という
アメリカの代表的な
宇宙法学者でありますが、このような単純な二元論というものを排除して、より機能的な考え方に基づいて
定義をしていこうではないかという考え方がございます。したがって、このピースフルユース、つまり平和的な
利用ということは非常に問題となりますが、ただ、いろいろな要素を加味しますと、
平和利用とは申しましても、必ずしも
軍事的な
利用、つまり軍が関与した
利用を排除するものではないのではないかという見解に達すると思います。
このことは例えば非
軍事説を唱えるソビエトにおいても同じでありまして、ソビエトの見解と申しますのは、天体に関しては完全に
軍事的なものを排除するということであります。ただし、天体以外の
宇宙空間につきましては、
軍事利用を非
侵略的
軍事利用とそれから
侵略的
軍事利用とに分けまして、この
侵略的
軍事利用というものの内容、それから非
侵略的
軍事利用というものの内容を明瞭にした上で、
宇宙空間においては
侵略的
軍事利用は禁止されているが、非
侵略的
軍事利用は禁止されていないという見解を出しております。つまり、
宇宙空間の
利用からは
軍事利用――
軍事利用というよりも
軍事的な勢力が関与した
利用というものが完全に排除されていないというのが実定法上あるいは
学説上の
状況であると考えられます。
ただ、ピースフルユース(平和的
利用)で必ずしも軍に関係する
利用が排除されていないとは申しましても、この
宇宙基地協定の中にシビル・スペース・ステーション(民生用
宇宙ステーション)という言葉が入っておりますが、このあたりがピースフルユースという言葉とつり合わされて解釈されるべきであると僕は考えております。つまり、たとえ軍関係の
利用が排除されていないとしても、まず民生を優先させるということで解釈されるのではないかと思われます。
それからもう
一つの点は、
管轄権と
登録の問題になります。
管轄権と
登録の問題に関しましては、
宇宙基地協定の第五条「
登録、
管轄権及び管理の権限」という中で、各モジュールがそれぞれを生産した国によって
登録されるということが出ておりまして、そしてその当然の結果としまして、
宇宙条約第八条というものが
適用されます。これは
宇宙空間にある
宇宙物体及び乗員に対する
管轄権及び
管理権の
登録国による保持を認めているものでありまして、それに従って
宇宙ステーションのモジュールを
登録した
登録国が
管轄権、
管理権を保持するということになります。
ただし、これは例外の規定がありまして、第二十二条に「刑事裁判権」の規定があります。刑事裁判権と申しますのは、不法なオーダーあるいは身体的な暴行その他が加えられたとき――そういったたぐいの刑事犯罪が行われました場合に、それに対する刑事裁判権をどこが持つかということに関する規定でありますが、この規定によりますと合衆国が刑事裁判権を持つことになります。
ただし、合衆国がその刑事裁判権を行使する場合の条件としましては二つございまして、
一つは、容疑者が自国民である参加国と訴追に対して訴追を行う双方の国がまず了解に達しなければならないということで、協議しなければならないという
原則が
一つ入れられております。
それからもう
一つは、訴追の継続について当該参加国の同意を得ているかどうかということであります。このことに関しましては、(2)に、その「同意が得られない場合には、合衆国による訴追の犯罪事実に相当する犯罪事実であって証拠に基づいたものによる当該自国民の訴追を意図するとの保証を当該参加国から得ることに失敗していなければならない。」ということであります。つまり、そういった同意が得られない場合において初めて
アメリカが刑事裁判権を行使することになります。
これは具体的に
アメリカがどのような形でこの刑事裁判権を行使していくかは問題ですが、考えられますことは、既に
アメリカは
スペースシャトル計画を実施に移した際に、国内法の改正を行いまして刑法を
宇宙物体に
適用できるようにしております。それから、
スペースシャトルの場合ですと、
スペースシャトルの船長がこういった場合の
管理権、船体及び乗員の安全を保障するための処置をとることができることになっておりますので、そうした手続が準用される可能性があると思います。
それからもう
一つの問題点としまして、この
管轄権という言葉の意味でありますが、
管轄権といいますのは主権ということとほぼ似た意味に通常とられておりまして、ただ主権と異なりますところは、
管轄権というのは法律によって限定された権限であるということであります。法律によって限定された枠内で立法、司法、行政の
活動を行うことができる権限であるとされております。そうしまして、
管理権と申しますのはこの
管轄権に附属の一部でありまして、実際のオペレーショナル、
運用段階でのいろいろな、例えば
スペースシャトルの場合ですと
スペースシャトルをコントロールする
権利とかそういったものを含むとされております。
この
管轄権、
管理権に関しまして、この
協定の中にはございませんが、現在
学説上で問題になっているものとしましては、こういった
宇宙構築物に伴ってその周囲に安全区域を設定することが可能であるかどうかということであります。これは結論から申しますと可能であります。こういった例は、例えば海洋法の人工島の例などに見られますが、ただしその際にも条件がございまして、安全区域の幅の設定に当たって
適用可能な国際基準が考慮されているということと、それからもう
一つは、海洋法の場合ですと安全区域が人工島、そういった設備及び構築物の性質と機能に合理的な関連性を有しているということでありまして、
宇宙ステーションにこれが準用できると思います。つまり、
宇宙ステーションの性質と機能に合理的な関連性を有しているということがこういった安全区域設定の条件として挙げられるのではないかと考えられます。
管轄権の問題に関しましてもう
一つ問題となりますのは、パテントの
権利であります。パテントの
権利につきましては、当初
ヨーロッパの国籍に
基づいた規制の方法と、
アメリカの疑似領土
管轄権と申しますが、疑似領土性の
原則と申しておりますが、船舶などに
適用された
原則でありまして、そういったものを自国の領土と考えて、その船舶あるいは航空機において行われたことを自国の領土上で行われたものとみなすという
原則がございます。こういった形のものが
アメリカが唱えました
原則で、最終的にはこの
宇宙基地協定の中では疑似領土性の
原則がとられております。つまり、それぞれの国に
登録されたモジュールの中では、そのモジュールがそれぞれの国の所有権法の
適用上同一視されて領土とみなされまして、そしてその上でその領土に対して主権を持っている国が、つまりこの場合ですと
管轄権を持っている国が自国の法律を
適用するということになります。これに関しまして、
アメリカでは既に一九八六年来パテント法の改正及びNASAアクトにこの
宇宙物体を領土とみなして
アメリカのパテント法を
適用しようとする法案が何回か提出されております。
このパテントに関しましてもう
一つの問題となりますのは、パテントが
登録された国がそのパテントを他の国に
登録することを差し控えさせるという
原則がありまして、この
原則が多分この中には
適用されていくと思います。この点は重要な点になっていくのではないかと思います。いろいろな点で法的な複雑性を含んでいる
原則でありますので、この点は問題になる可能性が十分あると思われます。
最終的に
管轄権と
管理権そして
登録の問題に関しまして言えることは、これは
宇宙ステーションは
一つの統一的な
宇宙物体と考えられているかという点であります。これは、こういった分割
登録方式と言われるものを採用している以上、
一つの
宇宙物体として認識するというのではなくて、幾つかの
宇宙物体の集まりとして考えられていると思われます。この点は重要なことだと思います。
それからもう
一つ、
登録の
効果、それと並んで重要なものとしまして所有権ということがあります。この所有権は、結局どういう形で
宇宙基地協定の中に採用されているかといいますと、
登録を行う国が
管轄権を有するわけですが、同時にそのモジュールを
製作した国が所有権を有するということであります。これは
日本については
余り問題となりませんが、
ヨーロッパの国は特にESAという形で参加しておりますので、ESAについて問題となります。これは、ESAの中ではモジュールの
登録はESAが結局
登録する。そしてその
管轄権は、ESAのこの
宇宙ステーション参加国の中の一国を選んでその
管轄権、
管理権を行使させるという方式になっているように思われます。ただし、その所有権につきましてはESAが所有するという形になると思われます。
それからもう
一つ重要な点としましては、要素と装置の所有権ということがございまして、この
宇宙基地協定の中では、要素やさまざまな機器が結局ある国に
登録されたモジュールの中にあるというそういうことによって、
利用者がそれらの装置やまたは物質に対しての所有権ということに対しまして「当該装置又は物質が単に
宇宙基地上にあることによっては影響を受けない」とされております。
大体法律的に問題となる点を手短に申し上げますと、以上のようなことになるかと思われます。
一応、以上のような形で終わります。