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国務大臣(田村元君) 大変重要な問題でございますが、御質問はこの
予算委員会で実は初めてでございますので、少し私から今までの経過等も含めて御説明を申し上げたいと思います。
従来、この包括貿易法案、いろんな経緯があったわけでございますけれ
ども、一度拒否権発動ということでまた新しいものが出てきたわけです。
日本政府がどういうような今まで努力を、つまりアメリカに対して働きかけをしてきたかということをちょっと簡単に申しますと、八七年四月三十日に中曽根
総理からレーガン大統領に懸念を表明して、そして同じく八七年九月二十一日に中曽根
総理からレーガン大統領に再び懸念を表明した。レーガン大統領は、
保護主義的法案が出てきた場合には拒否権を行使するというふうに言明をいたしました。それから八八年四月七日に
竹下総理からレーガン大統領に、この法案に対して懸念を表明する書簡を発出いたしました。
それ以外に、私は三度訪米いたしまして、随分要路の方々にもお目にかかったり、それから四極貿易大臣会合がその間に三、四回ございましたが、そのたびにクレートン・ヤイターとかマイク・スミスとかいうような人々にも強く働きかけをいたしてまいりました。また、ベリティ
長官にも、私が先般もべリティさんのお宅まで御招待いただいたものですから強くお願いもしてまいりましたが、そこでそういう努力をいたしてまいりまして、本来の包括貿易法案というものが少しやはり中身が改善されたことは事実でございます。
その改善も、簡単に申しますと、ゲファート条項というのがございまして、これは非常に恐ろしい条項でありまして、大幅な対米黒字国を特定して、ですから日本とかあるいは場合によったらアジアNIES等も入るかもしれませんし、これを特定して強制的に黒字幅を毎年一〇%削減させるというのがありましたが、これが削除されました。
それから、外国
企業制裁条項というのがございますが、ガーン修正条項と言っておりましたが、ココム違反
企業の親
会社である東芝からの二年ないし五年の輸入禁止というものが、これが改められて東芝機械からの三年間の輸入禁止となって、東芝本体については三年間の政府調達の禁止という程度でおさまったということは、これは相当な改善であったと私は思っております。
しかしながら、だからといって、こういう
法律ができたということはこれは大変なことでございます。中身が改善されたということは喜んでもいいのかもしれませんけれ
ども、それは喜びも中以下でございますから、そういう点で今後の対応というものを我々は十分に考えていかなきゃならぬわけです。この
法律の中で、最終的には外国
企業制裁条項やスーパー三〇一条などの問題条項が残されたまま成立をいたしました。まことに残念でございます。
しかしながら、アメリカの場合、ちょっと日本とは大分制度が違うんでしょうか、行政府が
保護主義に徹底して反対をいたしておりますので、先般もレーガン大統領が署名をいたしますときにこういう文言を言っておるんですね。「正直に言えば、この法案には気にいらない部分がある。本法案の下では、国際法上違法であり、世界の自由貿易を達成するという我々のゴールにも反する輸入課徴金の導入に至る
可能性がある」。つまり彼が、大統領自身が指摘しておりますが、輸入課徴金の導入に至る
可能性がある。それから、「本法案が行政府に外国と特定の貿易上の問題について交渉することを要請している点は米国憲法の原則に違反する」、こう言うんです。憲法に反するのに署名というのもちょっと制度的に私にはわかりにくい面がありますが、アメリカはそういう制度なんでございましょう。それから、「本法案は、国際貿易
委員会に議会の
一つの院の
委員会を通過した決議に対応して
調査を行うことを求めているが、これも米国憲法の原則に違反する」、大統領はこれも指摘しておるわけです。「本法案は、特定の権限をUSTRのような行政官に与えているが」、つまりヤイターさんのことですけれ
ども、「全ての行政官は大統領の支持と管理の下にあるのであり」、つまり大統領の直属の部下である、だから、最終的には自分が決断するんだという
意味だと思いますが、「私は、署名するにあたり、憲法に沿った形で運用されることを表明する」と、こう言ってここで非常に強い五寸くぎを刺しておる。
それから、ヤイターUSTR代表がプレスブリーフィングにおきましてこういうことを言っております。「新法案は、無論
保護主義的運用が可能ではあるが、それは、現行法の下でも可能である。レーガン政権は新法案を
保護主義的にならないように運用し得るし、新政権もそうであることを希望する」。アメリカ政府、つまり行政府が非常にこの法案に対して懸念を表明し、そうして後継大統領といいますか、後継内閣に対して、一種の事務引き継ぎのような形で厳しく注文をつけて通しておるということは、私は特筆に値するものと思っております。
それをもって、それだけで喜ぶわけにはいきません。アメリカの議会が非常に厳しゅうございますから簡単に安心はできませんけれ
ども、米国政府のそういう姿勢というものは
評価できるのではなかろうかと思っておりますが、今後も引き続き米国政府に対して我が方の懸念というものを強く訴えていく立場に変わりはありません。
また、仮にこの
法律が自由貿易上の問題を生ずるような運用をされた場合には、先般私は大臣談話を出したんですが、ここで読みますと時間がかかりますから、後でまたコピーを渡してもいいんですけれ
ども、そういえば
新聞に出ておりましたから、それを読んでいただいても結構なんですが、私の談話でも明らかにしましたように、いつでもガット等の場で対応するという立場を明確にしております。もしこれが妙な運用をされた場合には、我々はガットの場で争うというだけの決意を持っておる。
しかし、いずれにしても、これからもアメリカの政府、つまり行政府とは緊密に連絡をとりながら、新政椎がどっちになるか知りませんけれ
ども、新政権とも緊密に連絡をとりながらこのような
法律の発動、まあこの
法律の中にもいい面もあるんですけれ
ども、こういう反自由貿易、反自由主義的な、いわゆる
保護主義的な条項が軽々に発動されるというようなことのないように、徹底して今後も対応していきたいと考えております。