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参考人(
浪本勝年君) 立正
大学の
浪本勝年でございます。研究
分野といたしましては、
教育法、
教育政策を専攻しております。現在、
教育法の専門学会である日本
教育法学会の理事及び
教員養成問題の研究団体である全国
教員養成問題連絡会の事務局長をやっております。
今回の
教育職員免許法等の一部を改正する
法律案については、問題点が余りに多いと思いますので、良識の府と言われるこの参議院で
審議未了、廃案としていただきたいという
立場、すなわち
反対の
立場からこの教免
法改正法案の問題について
参考人としての
意見を述べさせていただきます。
まず、大きく二つに分けまして
意見を述べたいと考えます。
初めに、この法案の基本的な特徴及び問題点について、次にこの法案の個別具体的な問題点について
意見を申し述べます。
まず、この法案の基本的な特徴及び問題点について次の三点を指摘したいと考えます。
第一は、この法案には、
臨教審答申が「今次
教育改革で最も重視されなければならないものとして、他のすべてを通ずる基本的な
原則」として取り上げた「個性重視の
原則」が全く反映していないという点であります。逆に
教師に関しては
国家統制が目立ち、結果として個性無視の
原則で貫かれているといってもよいものとなっております。
第二は、現行
教育職員
免許法は、第一条で「
教育職員の
資質の保持と
向上を図ることを目的とする。」とうたい、第三条では「
教育職員は、この
法律により
授与する各相当の
免許状を有する者でなければならない。」と規定していますが、今回の法案の
内容は、
教員の
資質の
向上に名をかりて、
教育及び
教員の統制を企図すると同時に、無
免許教員をも公認するという点で、
免許法の秩序、教免法の
理念をみずから内部崩壊させていくという基本的
矛盾を犯している、すなわち墓穴を掘ることになっているという点であります。
第三は、この法案の
内容が
教師や
大学の行っている自主的
努力を評価し、奨励するといった
方向ではなく、逆に基本的には
教師不信、
大学不信の上にでき上がっているという点であります。
次に、大きな二番目の問題、すなわちこの法案の個別具体的な問題について述べさせていただきます。
まず第一は、普通
免許状の
学歴別三
段階化に関する問題についてであります。
現行免許法は普通
免許状に一級及び二級を設けています。今回の法案はこの普通
免許状の種類を
修士課程終了
程度を基礎
資格とする
専修免許状、学部卒業を基礎
資格とする
一種免許状、短期
大学卒業
程度を基礎
資格とする二種
免許状の
三つに
階層化すること、すなわち
学歴別の三
段階免許状制度を
採用する点や、新たに
特別免許状の
創設をうたっています。この点がこの法案における最大の問題点であると考えます。
周知のとおり、現行
教育職員
免許法では普通
免許状に一級及び二級を設けているとはいうものの、二級
免許状の保持者の在職年数が十五年を超えるときは
現職経験が尊重され、上進のための
教育職員検定の際に新たな
単位の
取得は必要としないことになっております。ところが、今回の法案ではこの
制度を廃止し、
一種から
専修への上進に際しては最低六
単位、二種から
一種または臨時から二種への上進に際しては最低十
単位の
取得がそれぞれ義務づけられることになっております。この点が法案の重要な大きな問題点であります。その
理由をこれから申し述べます。
現行
学校教育法施行規則は、校長及び教頭の
資格として一級普通
免許状を有することとされています。しかし、教頭となる年齢が四十歳代であるとすれば、二級
免許状保持者であっても通常四十歳前後には在職年数が十五年を超え
一級免許状を
取得できますので、現行
免許状制度は
管理職登用という
観点から見ても実質的に差別がないと言ってよいものであります。
ところで、この法案が成立すれば、それに伴って必然的に
学校教育法施行規則は改正され、校長及び教頭の
資格として
専修免許状を有することとされます。そうなるとどうなるでしょう。
教育現場は
専修免許状の
取得をめぐって出世競争が起こることは必然であります。このとき絶大な威力を発揮するのが、
さきに触れた上進に当たっての十五年ゼロ
単位の廃止
措置、すなわち最低修得
単位の義務づけであります。
今回の法案には、上進の際の
単位取得の
方法として
文部大臣の認定する講習が挙げられていますが、
教育職員養成審議会の
答申によれば、その中に「
任命権者等が実施する
研修」「を含めることができるものとする。」とされています。したがって、
さきの通常
国会で成立した初任者
研修法の言う
教員の経験に応じて実施する体系的な
研修とセットとなり、
教師にとっては
大学が実施する
現職研修にかわって、絶えず行政
研修を受けることが実質的に義務づけられることとなります。このことは
教育公務員特例法の基本的精神であります
教師の自主
研修権を根底からゆがめるおそれがあるばかりでなく、
教師の
現職研修に際しての行政当局の推薦、承認権が絶大な威力を発揮し、日常的な
教師管理の仕組みを打ち立てていくことになるのであります。こうした
制度は
子供の方よりも行政当局の方を向いた
教師を増加させることとなり、大きな問題だと言わなければなりません。
今回の法案は、このような
学歴別の三
段階免許状制度を設けていますが、
文部省によれば、これによって
教員の
資質向上を図ると言っています。先ほど
嶺井先生もお触れになりましたが、広辞苑などの辞書を引きますと、
資質というのは「うまれつき。資性。天性。」という意味の
言葉でありますから、そもそもこうした
言葉遣いがおかしいと思いますし、
学歴別三
段階免許状制度は真に
教師の
教育専門的
力量を
向上させることにつながっていくでしょうか。答えは否であります。
もしこの
学歴別三
段階免許状制度が強引に持ち込まれ、さらに
給与面での格差がもたらされることとなるならば、政策的なねらいがどのようなものであれ、客観的にはさまざまな弊害を
学校に持ち込むこととなり、その結果、現在問題となっている
学校の荒廃現象は解消するどころか、逆にそれに拍車をかけることとなることが予想されるのであります。
本来、
学校という
教育組織においては、
教師相互間は対等、平等の関係であるべきですが、この法案は無用の上下関係や
学歴という名の
学校歴を絶えず意識させることになります。したがって、こうした
制度が強引に持ち込まれるならば、
教職員相互の協力、信頼関係は大きく損なわれ、
教育効果が
低下することは避けられないのであります。同時に、
子供、父母への悪影響も見逃せません。
学歴別三
段階免許状構想が実現すれば、
子供や父母はあの先生は
専修、あの先生は
一種、あの先生は二種などといった見方で
教師を眺め、正当な根拠もないまま
専修の先生の担任や指導を希望し、二種の先生を敬遠することにつながっていきます。その結果、
教師は誤った優越感を持ったり逆に劣等感を抱いたりすることになりかねません。
第二は、
免許基準の
強化に関する問題についてであります。
私もその一員であります
私立大学における多くの
教職課程は、中等
学校教員の
養成を担っていますので、その点から今回の法案と現行の普通
免許状にかかわる最低修得
単位数の比較を一覧表にしてみたいと思います。お手元に表が配付されていると思いますので、それをごらんいただきたいと思います。
まず、
一つとしまして、現行の
教科による甲、乙の区分が廃止される結果、乙
教科の
教科専門
教育科目の必修
単位数が八増加することになります。
二つ目として、
教職専門教育科目の必修
単位数が五増加することになります。この場合、
教養審
答申の別紙
参考案によりますと、「
教育課程に関する
科目」のうち「特別活動に関する
科目」や、「
生徒指導に関する
科目」などの四
科目が新たに必修となります。しかし、多くの
私立大学では、こうした
科目を
設置していないのが現状でありますから、実質的には
かなりの新設
科目が必要となるとともに、
単位数も大幅増となり、
開放制免許状制度が危機に立たされることになるのであります。
新たに
専修免許状が
創設されることになっていますが、その修得のための
単位は
大学院修士課程等において修得するものとされています。したがって、各
大学においても
大学院における
教職課程の
課程認定申請の問題が新たに登場してくることになります。
大学院を
設置していない
大学が自然に排除される結果となるのであります。
さらに、次のような問題も指摘しなければなりません。四つとしまして、現行
教育職員
免許法施行規則に倣って、
教職専門教育科目の例示が行われるとすれば、その例示
科目は
大学における
教育内容を実質的に強く拘束することとなるという点であります。今回の法案では「
教育の本質と目標に関する
科目」等々と、
科目の名称を特定していないようであります。しかし、そうした表現の中で、「地歴」、「公民」を初め、
学習指導要領の伝達講習会を思わせる「
教育課程に関する
科目」や「
生徒指導に関する
科目」など、
大学における
教育内容を規則する
科目を羅列している点は、厳しく
批判されなければならないと思います。
五つ目としまして、
教養審
答申の別紙
参考案によれば、
教育実習は三
単位に増加することになっています。こうした
単位増の
措置よりも、むしろ現在の
教育実習についての
学校現場における
教員の加配
措置など
条件整備こそ早急に望まれるところであると思います。
第三は、
教員養成、
免許制度の弾力化に関する問題についてであります。
今回の法案は、
教員養成、
免許制度の弾力化をねらっていますが、ここには次のような問題があります。
一つ、
免許教科が弾力化されますと、
文部省令で
免許教科及び
特別免許状が決定されることとなり、
免許教科法定主義の
原則が形骸化します。
二つ、
教職特別課程を
設置して一年間で
免許の
取得を可能にするといいますが、このような
課程を
設置できるのは事実上目的
大学に限られてくるのであります。また、この
課程は
運用次第によっては
教師予備校化するおそれがあります。むしろ、現行の
聴講生制度の
活用を図り、それを
大学院にまで拡大することなどの
措置を図るべきだろうと思います。
三つ、
特別免許状の
創設については、
都道府県教育委員会に
教育職員検定の権限を付与するのでありますから、その
運用に情実が入る余地があり
ます。したがって、
単位認定を
大学で行った上で
都道府県教育委員会が
免許状の
授与を行うようにすべきであります。
四つ、
特別非常勤講師制度においては、その講師が
教科にせよ
クラブ活動にせよ、責任が不明確なままで実質的に
学校の
教育活動にかかわることになります。したがって、
免許状保持者から委嘱すべきであります。
第四は、
社会人の
活用に関する問題についてであります。
今回の法案は
社会人活用に重要なねらいを置いています。しかし、
社会人活用の
観点から
特別免許状、
免許状を必要としない
特別非常勤講師や、一年間の
教職特別課程の
制度を
創設することは、その乱用の危険性及び
教職の
専門性とのかかわりで大きな問題を含むものであり、その導入には賛成しがたいのであります。特に、
都道府県教育委員会が具体的な
採用候補者について
教育職員検定を実施し、その合格者に
授与する
特別免許状の
創設は、
大学において
教員養成を行うという
原則を否定するものであります。また、特定の
大学——国立
教員養成系
大学になるでしょうか、特定の
大学に
設置することになるであろう一年間の
教職特別課程は、通常の
教職課程に大きなゆがみをもたらしかねないものであります。
第五は、
法律事項としての
免許教科の意義についてであります。
中学校及び
高等学校の
教員の
免許状は、各
教科について
授与することとなっており、その
教科の名称が
法律で定められています。ところが、今回の法案では、新しい
教科が設けられる場合には
免許教科を
法律事項から外し、省令で決められるようにしようとしているのであります。
しかし、政策当局の主張するこのような例外的
措置は、とかくエスカレートする傾向が強く、しかもそれが恣意的になされる場合が多いのであります。したがって、少なくとも
国会のチェックを受けることが必要で、
免許教科を
法律事項の枠から外すことは将来に大きな禍根を残すこととなるでしょう。もし
免許教科の省令事項化が可能となれば、昨年の
教育課程審議会の
答申以来、大問題となっています
高等学校における新しい
教科、すなわち
社会科にかわってその登場が予定されている地歴科及び公民科がその適用を受けることは間違いないところであります。
最後に、
教員養成に関する政府、
教育行政機関の基本的
役割は、憲法、
教育基本法の精神からして、あくまでもその外的
条件整備が基本であることに思いをいたし、その責務の遂行にこそ全力を尽くすことによって
子供、
生徒、
学生、父母、
教職員、さらには国民の期待にこたえられるよう切望し、私の
意見陳述を終わります。