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参考人(
小泉博君) 私は
芸団協の
小泉でございます。
芸団協といいますのはあらゆるジャンルの
芸能人の
団体五十八
団体が集まりました
集合体でございまして、したがいまして、きょうは
職業芸能人としての
立場から今回の
法律改正についての
意見を述べさせていただきます。
今回の
改正案では、まず私
どもと最も
関係の深い
著作隣接権の
延長という問題がございまして、実はこれは私
どもが
昭和四十五年の
新法が
成立したとき以来常に言い続けてきたことでございます。といいますのは、
旧法の
時代には
演奏、
歌唱というのは
著作権がございまして、その
実演には死後三十年という
保護が与えられていたわけでございます。それが
隣接権制度が取り入れられて
隣接権者となった途端に、
実演を行ったときから二十年の
保護ということで、非常に大幅な
権利の
後退があったわけでございます。そのために私
どもの先輩が大変驚きまして、なぜこのような
権利の
後退があるのか、非常に不都合であるということで何度も何度も陳情したのでございますけれ
ども、そのまま押し切られて決まってしまったという経緯がございます。
ですから、十八年間私
どもが言い続けてきた
悲願であると言ってよろしいかと思うんですけれ
ども、この十八年間の
機械の
発達、
普及というのは、
皆様御
承知のように非常に目覚ましいものがございまして、
録音、
録画機器の
普及率は世界一でございます。また一方、
日本人の
平均寿命は伸び続けて世界一という大変にうれしいことにはなったんでございますけれ
ども、この
二つを結びつけますと、私
ども芸能人といたしましては、余りありがたくない
事態が生ずるわけでございます。
自分の芸が
録音、録画された場合に、たった二十年で
保護が切れてしまいますと、二十年前に
自分の演じた
芸能と
仕事場を取り
合いっこをしなければならないというまことに不思議な問題が生ずるわけでございます。これは特に
伝統芸能の世界におきまして、その芸に従事している方にとりましては、
伝統芸能というのは昔のものをできるだけ正確に伝えていこうという使命がございますために、特に二十年前の芸とそれほどの差があるというわけではございません。
機械の
発達によりまして正確にそれが伝達されるということになりますと、二十年前の芸とまさに
仕事場でぶつかってしまうということが起きるわけでございます。
よく
著作権とそれから
著作隣接権の
対比ということが私
どもの間で話されるのでございますけれ
ども、この
二つの
権利には
階級性とか、それから
従属性といいますか、簡単に言ってしまえば上下の
関係があるということではございません。全く自立的な
二つの
権利の組み合わせであるというふうに私
どもは
理解をしております。したがって、
著作権の死後五十年という
保護に比べまして、
著作隣接権の
行為後二十年という
保護は余りにも差があり過ぎるということが私
どもの持論でございました。
ちょっと問題が違うかもしれませんけれ
ども、私
ども芸能人の芸というものは、
自分の体がその芸を演ずるような場を確保し続けなければならないという
宿命がございまして、ですから、
芸能の振興に役立つような公正な
利用というものを妨げるつもりはございませんけれ
ども、その公正な
利用を超えて無制限に
自分の
仕事場を奪うような、あるいは
自分だけではございません。他の
芸能人の
仕事場を同時に奪ってしまうような際限のない
レコードとか
映画の
利用というものは絶対に避けなければならないというのでございますが、そういう
状況にあるにもかかわらず、現実はどんどん広がっていくということでございます。こういうことはぜひ
先生方に、すぐれた
創造活動を守り育てるという文化的な視点から、私
ども著作隣接権制度というものの中で
芸能人の
権利を守ろうという場合にぜひ御
理解をいただきたいことでございます。
以上のような
理由から、
著作者との
対比上、
実演家の場合は
実演後五十年でもいいのではないかというのが正直な気持ちでございますけれ
ども、今回はこの三十年ということで、そのワンステッブと考えて一日も早く
成立をさせていただきたいと望んでおります。
実は、
実演家の場合には
旧法時代のその死後三十年という、失礼いたしました。先ほど五十年と申し上げたかもしれません。
旧法時代は死後三十年の
保護でございましたけれ
ども、
旧法時代の
保護が
経過措置としてそのまま生かされておりまして、
昭和六十五年までは
権利の切れるものがほとんどなかったんでございますけれ
ども、六十五年になったら一斉に
権利の切れたものが出されるのではないかというので、実ははらはらしておりました。しかし、この
隣接権の
延長が第一小
委員会で
議題になりましてから非常に遠いテンポで進められまして、
改正案というものが出されたのでほっとしていたのでございますけれ
ども、前回の
国会でまたなぜか
スローダウンをいたしましたので、私
どもは一喜一憂していたわけでございます。今回の
国会ではぜひひとつ
成立をするように
先生方にお願いをしたいと思います。
次にもう
一つ、百十三条
関係、
頒布を
目的として所持する
行為、この
取り締まりでございますけれ
ども、これは後ほど
ビデオ協会の
大橋さんの方から詳しく御
説明があることと思いますが、これはもう私
どもも
日本ではいわゆる
ビデオの
海賊版の横行が余りにも甚だしくて、その
取り締まりには非常に手をやいている、しかし不法につくられたものが我が物顔に横行しているということで、これは
法治国家としてはまことに情けない
状況である、ぜひ改善してほしいものだというふうに考えておりました。御
承知のように、
日本の
ビデオ海賊版の
取り締まりが甘
遇ぎるということでアメリカの方からも非常に厳しい非難がございました。また、最近はせっかく国民の間に
著作権を大事にしようという思想が徐々に広まりつつあるその風潮に対して、この
ビデオの
海賊版というものは水を差すような非常に困った
現象でございます。そういう
意味で、今回の
改正というのは極めて歓迎すべきことでありまして、また
文化国家へのワンステップという
意味でも非常に大事な
意味を持つものであろうというふうに
理解をしております。
今回の
改正は以上申し上げましたように、極めて時宜を得た私
どもにとりましてはまことにうれしい
改正でございますので、どうぞ一日も早い
実現をお願いしたいと思います。
せっかく
発言の
機会をいただきましたので、今回の
改正とは別に、この
機会に
実演家の
立場から
著作権法に関連して二、三の
お話をさせていただきたいと思うのでございますけれ
ども、まずその第一は
ローマ隣接権条約への
加盟という問題でございます。これはもう御
承知のように、何回も
文教委員会で
附帯決議のつけられた問題でございまして、そもそも我が国の
新法制定に当たってはこの
隣接権制度というものを取り入れるということが非常に大きな眼目でございました。私
どもも
隣接権者として位置づけられまして、もう十八年ですか、たつのですが、いつまでたっても、そのもとになる
条約の
隣接権条約に
加入をしないということでは何とも居心地の悪い話でございまして、この間十八年の間にはこの
隣接権制度に従って
放送業者との間とかにきちんとした契約の慣行がちゃんと取り決められて守られている、もう定着しているというふうに考えてよろしいかと思っているんですが、いまだに
条約に
加入しないというのは非常に不思議なことだと私
どもは考えております。
もちろん、
加盟のためのいろいろな
条件整備ということが必要であるというのがその
理由でございまして、要するにこれは、
条件整備というのは
外国との間の
お金の
やりとりということになるわけでございますけれ
ども、私
ども芸団協としましては既にそういう場合を想定いたしまして、
ヨーロッパの各国で
ロンドン原則ということでお互いの
お金の
やりとりを整理しようという
原則がございます。その
原則に従って既に
ヨーロッパとか南米の十三カ国と早くから
互恵の
協定を結んでおります。また、この九月にもスペインそれから
イタリーと
芸団協との間に
協定が
成立いたしました。十五カ国ということになります。
また、新たに
貸与権というのが設けられておりまして、これは我が国独特の
一つの
現象でございますので、
貸しレコードに伴う
報酬と、それからこの
貸与権の
処理というような問題が発生しましたので、その方面の
追加の
協定もまた結ぶように
努力をしているところでございます。既にこの点につきましては
スウェーデンとか、
西ドイツ、スイスなどとの間で
追加の
協定も終わっているという
状況でございます。あとは
日本の
放送事業者が大量に使用している
外国盤の
レコードに対する二次
使用料の額がどのぐらい一気にふえてしまうのかという問題がございます。
まあそれもおくれている
理由の
一つでございますけれ
ども、これは私
どもが
外国の
権利者との間で代表としてかわりに交渉をするということがこの
互恵の
協定の中で決められておりますし、その
処理も大体その国の
やり方に従うということになっておりますので、その辺の話し合いは大きな打撃を与えないような
やり方で可能であろうというふうに考えておりますし、また、今の
日本の経済的な地位というものを考えますと、この経済の
理由というのは余りもう通用しなくなっているのではないかということが考えられます。ですから
条約加盟の方向ということがぴしっと決まりましたならば、それを妨げる要因を解消する
努力を私
どもがすれば自然にそれは解消されていくであろうし、また、私
ども実演家の
団体が
国内でも国際的にもその
実現にできるだけ
協力しようという姿勢でございます。ぜひとも次のスケジュールにこれを最優先で取り上げていただきたいというふうに考えております。
それからもう
一つ。
実演家にとって
映画的著作物における
権利の
保護の問題がございます。これは
現行法では、
劇場で上映される
映画と、それから
テレビ局が
自分でつくる
テレビ映画とを想定して
映画の
著作物の
権利が決められているのですけれ
ども、その後の
録画手段とか、
機械などの
発達で
事態は大きく変わっております。今ではその
映画が
劇場どころか、まるで
レコードと同じように流通いたしまして、各家庭で手軽に録画できるというような
状況でございます。私
どもが
劇場用の
映画に出演したときにはまるで予想もしなかったような
ビデオカセットとか、
ビデオディスクとかいうようなもので流通をしているということで、この
ビデオグラムといいますけれ
ども、総体的に全部を総称して
ビデオグラムの
著作権につきましては、実は
昭和四十七年と四十八年の
著作権審議会の第三小
委員会におきまして、今の時点では
映画と考えてよかろうではないかというような結論が出ておりまして、そのままになっているわけでございますけれ
ども、先ほど申しましたようにこの十五年間の
録画技術、それからテープレコーダーの進歩、
普及というのは驚異的でございます。
また、
映画の
権利の
見直しは、
テレビ局の
テレビ映画というものが現在
番組制作の実態が八〇%が下請に出されているという
状況がございまして、そのためにこれは
映画であるという
主張を、我々が
放送番組だと思っているものが
映画であるという
主張が通るというような解釈の違いが生まれてまいりました。あるときには
映画扱いになったり、あるときには
放送番組扱いになったりということで、
実演家の
権利の
処理の上で大きな混乱が生じております。大体において、結果としては
実演家にとって不利なケースに終わるということでございました。このことは今後のCATVの
普及とか、それから
放送衛星などのニューメディアの
発達によって多様な
映画の
利用が想定されるときに、
実演家の
権利が全く欠落していくというおそれが多分にございます。この点をぜひ今後の重要な
問題点として御
理解を願いたいと思います。
それから、最後にもう
一つ。既に
新法成立時にこの参議院の
文教委員会で
附帯決議としてつけていただいた
実演家の
人格権の
保護という問題がございます。
実演家の場合には、
著作者と同じように創造的な
活動を行っておりまして、ただ
機械的に
著作物をそのまま大衆に伝達するという役目を果たしているわけではございません。ですから、その
人格権というのは
著作者と同様に尊重されてしかるべきであろうというふうに考えております。その
著作者が第六十条によりまして、死んだまでも
人格的利益が守られているのに比べまして、
実演家の
人格権が全く無視されているというのは余りにも公平を欠いているというのが私
どもの
主張でございます。
実演家にとりまして、その名誉、声望というのは
職業的生命そのものでございまして、
著作権法上でその
侵害行為を禁ずるようにぜひ配慮をしていただきたい。これは
西ドイツでは極めて明確にそのことを決めております、
著作権法上で。また
イタリー、オーストリア、デンマーク、
スウェーデンなどでも
実演家の
人格権について規定がございます。
どうぞそういうようなことを踏まえまして、以上申し上げました
ローマ条約の
早期加入、
映画における
実演家の
権利の
見直し、それから
実演家の
人格権の
保護、以上の三つを今回の
改正後の次の
問題点として提起をさせていただきまして、私の陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。