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参考人(
島津正君) ただいま御紹介をいただきました
日本大学農獣医学部の教授の
島津でございます。
私は、
畜産経営学を専門に研究しております
立場から二点について申し上げたいと思います。
まず第一点は、牛肉の
自由化に対応し得る、十分に対抗し得る
肉用牛経営の育成というものをどうしていくか、これがまず第一点でございます。
第二点は、当然のことでございますけれ
ども、
酪農も現在はホルスタインを中心とした牛肉
生産を行っております関係で、どちらかといえば私の
考え方では
酪農の方がより大きな影響を受けるであろうというふうに考えておりますので、
酪農の
自由化に対抗する
酪農経営はどうあるべきかというような問題についてお話させていただきたいと思います。
まず第一に、
肉用牛の
経営でございますけれ
ども、これはもう御承知のように、外国の
価格とそれから
国内の
価格との格差というものの要因というものがどこにあるか、もうこれを考えます場合に一番大きな問題は肥育素牛である
子牛の値段が高いというところにあるかと存じます。したがって、まず最初に
日本におきます
繁殖肉用牛経営というものがどうあるべきかというような点について、ちょっとお話し申し上げたいと思います。
それも二つの形があるというふうに私は考えております。まず
一つの形は、酪肉
基本方針に即しまして
繁殖経営の
規模拡大、特に
経営能力にすぐれた意欲的な
経営者をつくり上げていくというような問題でございます。そういたしましてある程度の
規模の大きな
経営をつくっていきませんと、とても国際競争力のある低コストの
生産というものは難しいであろうというふうに考えております。
現実に、今年度の農林水産祭の総理大臣杯をお受けになりました沖縄県の石垣の、さらに南の黒島で
経営をやっていらっしゃいます方の実態を申し上げますと、現在農林水産省が発表していらっしゃいます
子牛一頭当たりの
生産費は四十七万円ということに対しまして、何とわずかの七万六千円で上がっているというすばらしい
経営をやっていらっしゃいます。また、それに準ずる
経営といたしまして、鹿児島県の大隅町の
経営者は、これも
子牛一頭当たり約十五万というすばらしい
経営も生まれております。さらに東北関係でも、秋田県の鳥海町あたりでの事例でも見てまいりましたけれ
ども、ここでも大体十五、六万ないし二十万弱という形でやっていらっしゃいます。
ただ問題は、そういった
経営というのは御承知だと思いますけれ
ども、現在の
繁殖経営の中では、
日本の中では全く局部的な一部の存在としか言えないでしょう。すなわち
一つの村の中においても数軒あるということであると思います。そこで、問題になりますのは、そういった今申しましたようなすばらしい
経営というものをひとつしっかりと紹介いたしまして、これから後を継いでいく若い青年層が、こういう魅力ある
経営というものに追いつき追い越していこうというようなことをひとつ考えていくということが、まず今後の
自由化に対応する
一つのポイントであろうというふうに考えます。
そこで問題になりますのは、今度の
法案との関連で申し上げますと、
肉用牛の場合はたまたま今
子牛が非常に値が高うございます。私は、こういった
経営学の
立場から申し上げますならば、やはり
肉用牛経営の場合も、
価格が平準化している段階でも経常所得、言うならば我々の毎月の月給的な経常所得というものを維持するための
価格保証というものがひとつ必要だろう。そして、非常に好況になり
価格が高くなった段階におきまして、あるいは技術が向上した段階においてボーナス所得が入る、ここにやっぱり
生産意欲を増していく
一つのポイントがあるだろうというふうに考えております。そういった面で、これからの
肉用牛経営というものは酪近法で出しましたように、やはり最低十五頭から二十頭、三十頭ぐらいの
規模というものを考えていくということで、しかしそれも決して
肉用牛を単一
経営で行うのではなくて、私は
肉用牛プラス米あるいは
肉用牛プラス蔬菜と、こういった複合
経営をしっかり
確立することによって本当に足腰の強い
経営というものが生まれるであろうというふうに考えます。
ただ問題は、現在五、六頭ぐらいから今私が申しました十五頭あるいは二十頭に
拡大化していく過程というのが非常に難しいのでございます。
酪農の場合には乳代金というものが入ってまいりますから、いい
子牛を自分の
経営の中に残すということが可能でございますけれ
ども、
繁殖経営の場合に五、六頭段階でやはり
子牛を売ってしまったら
経営には牛が残らない、売らなければ金が入らない、こういった問題が
一つあるわけでございます。そこに、
一つの今の
価格保証もしていただくと同時に、こういった
経営を、もう三年後には
自由化でございますから、この五、六頭段階のものをいかにして早く十頭段階に引き上げていくかというこの
施策を、貸付金
制度その他の問題をひとつお考えいただきたいというのが私の
一つの提案でございます。
さて問題は、そうは申しましても今申しますように、
肉用牛経営というのは非常に
規模の小さい
経営がたくさんございます。現実に一、二頭ないし三、四頭という
経営がもう大半を占めていることは御承知のとおりだと思います。私は、その連中を無理やりにさらに一頭伸ばしなさい、二頭伸ばしなさいということは賛成いたしません。なぜならば、こうしたような
方々の中心は、
日本で今
一つの問題になっております高齢者
対策ないし婦人
対策の
一つといたしまして、非常にこれが立派な
位置づけを持っていると。この
方々が現在の三、四頭ぐらいまでですから、あぜ草から野草を取ってくるということに対しても、労働的にもそう矛盾がなくて非常にコストも安く上がっています。
具体的に申しますと、先ほどの労働費から減価償却費から全部加算してまいりますと四十何万という
生産費になりますけれ
ども、私なりに
生産費の中を、計算を洗い直しまして現金的な
生産費だけを計算出してみますと、大体十五万から二十万弱ぐらいで上がっております。したがって、この
経営というものも現在の子
牛生産については極めて大事な戦力であるというようなことで、この人たちがやっぱり生き残っていくような
保証価格というものは最低限保証していくことを考えていただきたい。また、この地域というものが大体山村におきます過疎地域でもございます。そういった過疎地域におきまして、この人たちが頑張っていくことによって過疎
対策にも大きな貢献をしているということも御承知のとおりだと思います。そういう意味からいきまして、こういった人たちも考えていただきたい。
特に、
肉用牛生産の場合には改良をアメリカやカナダから求めることはできなくて、
日本の
国内で改良しなきゃいけない。こういった経験を持った高齢者の中に立派なブリーダー的な方がおられまして、この
方々が改良にも努力しておられる。それで、さらにいい肉質の牛をつくり上げていくというようなことが
一つの大事な問題だと思いまして、その辺の問題から考えましてそうした
経営も立派に、これはもう
日本の国土、
資源から考えまして、すべてがそんなに
規模拡大というものがこれは不可能なことは
先生方も御承知のとおりだと思いますので、そういう
経営も成り立つような
保証価格というものをひとつお考えいただきたいと思いますし、また
規模拡大化をしていこうという若い青年層、後継者が魅力ある
経営に到達するための
施策をどう進めていくかということが大事だと思います。
さて、肥育
経営につきましては、現在もうこういった
生産の方が幾らされましても、御承知のとおり流通の過程での手数料というものが非常に大きいという問題が
一つございます。したがって、
繁殖と肥育の一貫
経営というような問題を今後育成していくことが非常に大事だと。たまたま現在
子牛が高うございますから、ちょっと今すぐに一貫
経営を進めるということは難しいかと存じますけれ
ども、こういった問題をやはり考えていかなきゃいけないと思います。新
制度では、現
制度でこれを除外しております
経営内一貫
経営についても
制度の対象となるというお話でございますので、これを契機に関連いたします
施策を充実していただきたいというのが
お願いでございます。
以上、
肉用牛について申し上げましたけれ
ども、もう時間がございませんが、簡単に
酪農について申し上げたいと思います。
現在、御承知のように
酪農の場合には、もう先ほ
どもお話ございましたように、
国内の牛肉
生産の約七割近くが
乳用種から出ているということでございますし、また肉質から考えまして、輸入されています牛肉と一番競合するのは乳肉、
酪農からの肉であるということが言われております。
さて、そこで現在のところ牛乳もちょっと現在はもう緩んでおりますけれ
ども、やはり
生産調整というものは厳しい状態にある。したがって、乳価につきましてはここ三年約十二、三万値下げされました。ストレートにこれを計算いたしますと、三十頭
規模ぐらいのものを対象に計算いたしますと約百五十万の収入ダウンでございます。しかしながら、幸いにしてと申しますか、現在雄
子牛が十万、十四万というような非常に高値でございますし、また搾り終わった老廃牛と申しますか、乳廃牛も比較的高値に売れております。これが輸入牛肉の影響を受けますのが、三産、四産、五産以上の老廃牛はストレートに輸入牛肉の影響を受けるであろうということを私なりに予想しております。
そしてまた、雄
子牛も枝肉
価格が下がることによって、これも今の十万、十四万なんという値段はとても維持できないと思います。昔のように三万—七万円ぐらいに落ちるという問題が予想されます。今のような
子牛の
価格の低落、あるいは老廃牛を肥育してやっていくという乳肉複合で何とかこの乳価の値下がりというものをカバーいたしまして十分に
経営が成り立っておりますが、もし今申しますような
子牛の
価格の低落あるいは老廃牛の
価格の低落というものがありますと、やはり三十頭
規模を想定いたしまして私なりの
経営的な面で計算いたしますと、百五十万から約二百万ぐらいの収入ダウンということがさらに予想されるということでございます。
したがって、今回乳雄につきましても保証という枠を広げていただいたということは、非常にありがたいことでございまして、
現行では十万—十四万している段階では、これに
加入するというのはないのは当たり前だと思います。やはりこれが下がってきた段階におきまして、そうしたものをどう進めていくかというような問題を
一つの
課題として考えていただかなければいけない問題だと思います。
日本の
酪農家は一番多いときは約三十五万戸もあったものが、現在わずか七万戸を割ってしまいました。現在生き残っている
酪農家は、私が回ってみます限り非常にこれはしっかりした
経営者でございます。
日本人の優秀性と申しますか、厳しい条件に置かれれば、置かれるほど
経営技術の改善、発展は目覚ましい。すなわち、私がちょうど
生産調整の段階で調査さしていただいた
経営と、今年あたり調査さしていただいた優秀
経営とでは格段の差がございます。
平均乳量
一つとってみましても六千キロから八千キロに上がっておりますし、牛乳の
生産コストも、その当時では一キロ当たり八十円していた
生産コストが約六十円—六十五円というふうにすばらしい
経営も生まれているということで、十分に
酪農も乗り切ってくれるものと思います。
今
酪農で与えられました
課題と申しますと、やはり牛乳の
生産コストの低減ということと良質牛乳の
生産、それからもう
一つ大事な問題は、需要期の
生産というようなことにおきましてそれを行うことによって、幸いにして昨年、ことしは牛乳の伸びが順調にいっておりますが、そういった消費の増大がいくことによりまして、牛乳の
生産もふやすことができるということが問題であると思います。
いずれにいたしましても、
酪農という牛乳
生産本来の問題も十分考えなければいけませんけれ
ども、同時にやはり
乳肉複合経営というものをいかにうまく育てていくか、こういうヨーロッパスタイルと申しますか、そういった
乳肉複合経営というものをいかに進めていくかということのためにも、今回上程されました
法案に対して私は全面的に賛成の意を表する次第でございます。
以上、ちょっと時間もございませんので、簡単に申し上げましたが、あと御質問でお答えしたいと思います。
どうもありがとうございました。