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公述人(谷山治雄君)
税制経営研究所の谷山でございます。
良識の府とされております
参議院で
意見を述べさせていただきますことを、大変光栄に存じております。
私は、一民間の研究者でございますので、時間の関係もございますし、
消費税の問題を中心に
意見を述べさせていただきたいと存じます。
先生方も御承知のように、
国民の
世論の過半数、三分の二は
消費税に
反対をしているわけでございまして、その
理由につきましては、既に国会でも
議論をされておりますので、ここで繰り返す必要はないかもしれませんが、一応
三つの問題があると考えます。
一つは、プロセスの問題でございまして、いわゆる
公約違反の問題、国会決議違反の問題、それからさらに
リクルート疑惑との関連の問題、そういうプロセスの問題が
一つあると存じます。
第二は、
内容の問題でございまして、これは言うまでもございませんが、
竹下総理がみずからおっしゃいました八つの懸念なるものが全く解消されていないという中身の問題が第二でございます。
第三は、
消費税導入の
理由の問題でございまして、何のために今、
消費税を導入するのか大変
国民は疑惑に思っているところでございます。
まず第一に、もし仮にこれを減税
財源として考えますと、自然増収があることももちろんでございますけれ
ども、中身が大変不思議でございまして、今回
消費税を導入いたしましても、
消費譲与税あるいは交付税の交付あるいは諸
間接税の改廃を含めますと、国の純収入は六千六百億円足らずしかございませんので、到底これは減税
財源とは言えないと考える次第でございます。
それから、地方交付税につきましても、これは
所得税、
法人税の減税に伴います交付税の減収を補てんするだけでございますから、これも減税
財源とは言えない。何のために一体それでは
消費税を導入するのか、大変不思議な感じがすると言わざるを得ないわけでございます。
次に、第二に将来の展望でございますけれ
ども、
高齢化社会ということが盛んに言われますけれ
ども、
国民の見るところでは確実にふえるというのは防衛費その他でございまして、
高齢化社会その他につきましては、最近でも年金のいわゆる改悪プランが
審議をされている最中でございますので、一体どういうビジョンを描かれて
高齢化社会に備えての
消費税ということが
議論されるのか大変不思議に思うところでございます。
以上の三点が私は
国民の
反対の
理由であろうと感ずるわけでございます。
ここで、
消費税の中身に入ります前に、
リクルート問題についてとやかく言う余裕はございませんけれ
ども、一言だけ述べさせていただきますと、私はこの問題は
課税問題が発生するのではないかというふうに考えております。
昨日の朝日新聞の中山興業銀行特別顧問の談話、本日の鉄鋼連盟の山城副
会長の談話にもございますように、これは株の形をかりた贈与である、金銭の授受である、こういう談話が発表されております。それから、税法の実質主義の
原則から申しますと、贈与税なりあるいは雑
所得としての
所得税課税なり両方の併合なり、そういう問題が起こってくる、こういう問題であると私は考える次第でございますので、ひとつ御検討を願いたいというふうに存じます。
さて、
消費税の問題でございますけれ
ども、今
回の
消費税は、
課税範囲の広いことにおきましてはまさに世界無類と言ってもよろしいわけでございまして、言いかえますと、
非課税が極力圧縮をされております。あえて比較しますと、ニュージーランドがこれに近いと言えますけれ
ども、ニュージーランドは住宅や公共活動には
非課税にしておりますので、その点から考えましても、今回の
消費税ほど
課税範囲、
課税対象の広いものはない、私はこういうふうに考えてよろしいと思います。
なぜそういうふうになったかという問題でございますけれ
ども、もちろん広く薄くという租税哲学がございますけれ
ども、いわゆる
売上税の反省から帳簿方式というものを採用された結果、いわゆる
非課税が余り多いと簡素化に反するという、そういう問題があるわけでございまして、帳簿方式というのが
一つのてこになって実は
非課税を極力圧縮した、こういうような構造になってきたのではないかと私は考える次第でございます。
したがいまして
消費税は、もともと
竹下総理みずからおっしゃっておりますように、逆進性の懸念が濃厚でございますので、このように
課税範囲を広くいたしますと、逆進的な
負担という性格はますます強まらざるを得ないと考えるわけでございます。この逆進性を緩和するための
一つの方法としましては、要するに
非課税を多くすること、
税率を複数にすること、さらに、カナダでやっておりますように、税額控除を設けて一定の
税金を
所得から控除する、つまり
消費税相当分を控除する、このような救済
措置を講じませんと逆進性はなかなか緩和できない、こういう問題でありますけれ
ども、そういう配慮は何らなされていないようにお見受けいたします。
次に、広く薄くということなんで、
税率は三%で低いからいいのではないかという、こういう御
意見もあるようでございますけれ
ども、なるほどEC諸国と比べますと確かに低い
税率でございまして、そこからまた安易に
税率が
引き上げられるのではないかという、こういう懸念もあるわけでございます。もっとも
竹下総理は、
竹下内閣としては
税率の改定を提案しないというお話でございますので、これは竹下さんが二十世紀じゅう全部政権を担当しておりますと、
税率が上がらないという大変結構なことになるかもしれませんが、とにかく
税率引き上げの問題があるわけでございます。
この三%という
税率でございますけれ
ども、これは低くないということを実は申し上げたいのでありまして、どこの国でも
大型間接税を導入しますときには、〇・一%とか一%とかでそれぞれ出発しておりますし、また現に、税の効果からいいますと、同じ性質を持ちます小売
売上税の例をアメリカに見てみますと、アメリカは現在四十五の州で小売
売上税を実施しておりますけれ
ども、そのうち九つの州が三%台の
税率であります。十五の州が四%台の
税率、十四の州が五%台の
税率でございまして、大体
税率は低いところであるわけで、この三%の
税率が決して低くはないということを申し上げておきたいと存じます。
さて次に、この問題をまず
消費者のサイドから見ますと、もちろんこの
税金の最大の
経済効果は物価騰貴でございますが、これは残念ながら
政府側は一・一%と言い、いろんな民間の
団体が一・三%、一・八%、さらにまた二・二%、いろんな数字を出しておりますので、これは方法論の違いによるものであろうと存じますけれ
ども、私は一・一%は余りにも低過ぎる、もっと高い二%近くになるのではないかと思っておりますけれ
ども、さらに大事なことは、一般的な物価騰貴率だけではなくて、生計費の上昇率が実は問題になります。
私のところはごくささやかな研究所でございますので、とても統計を詳細につくることはできませんけれ
ども、ごく単純な仮説を申し上げますと、いわゆる一般の
消費しかしない家庭は三%、あるいは便乗値上げ等があれば三%以上の支出増加になるわけでございますし、一方でいわゆるリッチな世帯がございまして、例えば車それから家電、宝石、毛皮、ゴルフ用具、そういったものを絶えず買う、買えるといたしますと、むしろ
消費税負担は現在よりも減少するということもあり得るわけでございまして、一般的な物価騰貴率ももちろん重要でございますけれ
ども、いわゆる
消費支出の形によって非常にばらつきがあって、どちらかといいますと、いわゆるリッチな世帯ほど
負担が軽くなるということが、私は今回の
消費税の持ちます大きな問題であると存じます。
さてそこで、次の問題でございますけれ
ども、
消費者の立場に立ちますと、今回いわゆる便乗値上げ等に対する
措置は非常にあいまいでございまして、JRの運賃等に見られますように、ある区間は据え置きになる、ある区間は
税率より上がると、こういうことはもう既に歴然としているわけでございまして、そういった、悪質であれ、悪質でなくても、いわゆる便乗値上げの危険性が多分にあるということを申し上げざるを得ないわけでございます。
それから次に問題は、今回の
消費税は、いわゆる事業者の協力を取りつけることに懸命になる余り、いわゆる
消費者無視と申しますか、事業者にこびを売っているとは申しませんが、大変これは妙なところがございまして、既に国会でも指摘されておると存じますけれ
ども、
消費者が
消費税の
負担として払っているものが国庫に納まっていかないという、そういう問題があるわけでございまして、これは免税事業者の問題、簡易
課税の問題、限界控除の問題、そういう
制度によってそういう結果が出てくるわけでございます。
もちろんこれにつきましては、簡易
課税適用の業者の売り上げは大体一六%ぐらいではないか、それからまた
非課税、免税事業者の売り上げが三%ぐらいだから大したことないという御
意見もあるようでございますけれ
ども、全体の
経済の機構からいいますと、私は大きな問題であると存じます。時間の関係上、詳しい計算は述べることはできませんけれ
ども、簡単に言いますと、
非課税事業者から仕入れますと、
非課税であってもやはり税額控除はできるわけでございますから、その差額は結局国庫補助金をもらうのと同じことになるわけなんで、そこがまた
一つ大きな問題になると存じます。
そこで、諸先生方の注意を喚起する、大変おこがましいことを申し上げて恐縮でございますけれ
ども、この免税事業者とか簡易
課税というのは、何か中小零細業者のための対策のように見えますけれ
ども、実はそうとは限らないわけでございまして、いわゆる免税事業者の基準とか簡易
課税の基準は前々年という基準をとりますので、新規に法人をつくりまして、それで何億、何十億売り上げても免税事業者になる、あるいはまた、やり方によっては簡易
課税の適用をされる、こういうことになりますので、そういういわゆるループホールがあることが非常に大きな問題になってくるわけで、この問題は、私は単に中小零細
企業に対するリリーフ、救済としては考えることはできないんではないかというふうに考えるわけでございます。
さて、少し急ぎますけれ
ども、次に事業者の立場でございますけれ
ども、これも転嫁の問題がいろいろ
議論されておりますので簡単に述べさしていただきたいと思いますけれ
ども、私も
中小企業のコンサルティングをやっておりますので、実はけさも二、三の会社から電話がかかってまいりましたけれ
ども、四月一日からの実施はまず無理だという、こういう
一つの結論でございます。それはまず、簡単に言いますとプライシング、価格づけがあと三カ月では到底できないという問題。それにコンピューターの入れかえといいますか、プログラミング、これもとてもできない。時間もないのに脱線して申しわけございませんけれ
ども、そういうことでコンピューター会社にうんと値上げを要求されるという心配もしたようでございまして、四月一日はまず無理だということでございます。
そこで、弾力的条項なるものがございますけれ
ども、これも既に御存じのように、
納税を猶予す
ることはないわけでございますから、一番早いところは、四月決算の法人は六月に
納税しなきゃいけません。一体これが間に合うのかどうかというのが私は業者の偽らざる気持ちであろうかと存じます。
そこで、この
消費税は、事業者にとりましては明暗いろいろございますけれ
ども、まず得をする方から申しますと、
消費者からお金を預かるわけでありますから、いわゆる金利の運用ができるという問題が
一つメリットとしてあると存じます。それからその次に、
非課税売り上げが五%以下ですと税額控除がききますので、一種のゼロ
税率と同じことが働きまして、これも得するという問題もございます。さらに、簡易
課税その他先ほど申し上げました
制度を通じて国庫補助金をもらったり、
消費者の
所得が事業者の
所得に転化をしたり、そういう得のところもございます。
しかし、同時にマイナス面もたくさんあるわけでございまして、最大の問題は私は転嫁の問題であろうと存じます。
今までの
議論をお聞きしておりますと、転嫁の問題と申しますと、前転、つまり買い手に転嫁をすることが盛んに
議論をされておりますけれ
ども、現実には百円の物を百三円で売れない、百円に据え置く、九十七円にする、これは後転せざるを得ないわけでありまして、そういう後転の保証というのは一体あるのかどうか。実はこの点は御
議論としてどうも私はないようにお見受けいたしますので、転嫁には
三つの転嫁があることはこれは教科書にも書いてあることでございますので、前転、後転、排転、あるいは消転と申しますが、特にどのように一体なるのか、この辺の検討を十分いたしませんと、私は事業者の不安は消えないだろうと存じます。
もう時間もあと二分しかございませんので急ぎますけれ
ども、あとの問題は、いわゆる転嫁困難な場合にこれは非常に事業に危機をもたらすという大きな問題がございます。それから事務
負担の問題、税務行政上の
負担の問題、いろいろあると存じます。
そういうわけでございまして、私もヨーロッパその他へしばしば行きまして税務行政等も見ておりますけれ
ども、これは日本で言われているほど税務行政はうまくいっておりませんで、最後にイギリスの例をごく簡単に申しますけれ
ども、イギリスは
人口が半分の国でございますけれ
ども、いわゆる付加価値税に従事している職員がちょうど一万三千人おるわけでございまして、現在日本の
間接税職員は四千人強でございますから、一体これで税務行政をどういうふうにやっていくのか。少なくともイギリスの場合には大変異議の申し立てやそういうことが非常に多いわけでございまして、私は税務行政上の問題につきましても大きな問題を残さざるを得ないと存じます。
税制改革全体につきましては時間の関係上省略させていただきまして、一番最後でございますけれ
ども、私の考えでは、仮に
消費税に
賛成という立場に立ちましても、余りにも時間がなさ過ぎる。しかも、
リクルート問題等もございまして、いわゆる
消費税に
賛成する方でも、渇しても盗泉の水は飲まずというお気持ちがあるんじゃないかというふうに私は考えるわけでございます。
そういうわけで私は、提案でございますけれ
ども、
税制調査会等の枠を超えて五つの分科会をつくっていただきたい。
一つは
消費者の影響。もう
一つは事業者の影響。
三つ目は
高齢化社会あるいは国際協力、防衛費の問題を含めます財政に関するいわゆるビジョンの問題。第四にマクロ
経済との関係の問題。それから最後に税務行政の問題。そういうふうな分野について少なくとも一年はじっくり
審議をして、それで案を
国民に示して総
選挙で問うていただく、こういった筋道が今一番大切なことじゃないかと思いますので、
参議院は良識の府でございますので、ひとつこの公聴会が
法案通過のパスポートにならないようにくれぐれもお願いいたしまして、私の公述を終わりたいと思います。
どうも長い間ありがとうございました。