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参考人(
太田賢助君) 私は、
日航ジャンボ機で
御巣鷹山で激突してとうとい生命をなくした五百二十人の遺族の一人でございます。私は娘夫婦一家四人、また同席しております事務
局長の美谷島さんは九歳の次男を亡くされ、さらに傍聴の席には遺族の方々も数名来ておられます。私
たち遺族で
組織しております八・一二
連絡会を
代表して意見を申し上げます。
まず、かかる機会を与えてくださいました
梶原先生初め
関係各位の皆様方に厚くお礼を申し上げます。私
たち遺族が何よりも切望することは、墜落の真の原因を明らかにし、二度と同じ惨事を繰り返してはならないという
立場から申し上げることを理解していただきたい。
群馬県警が日航
関係者十二名、運輸省
関係四名、それにボーイング社四名を氏名不詳で書類送検をされました。今日までの努力には感謝いたしておりますが、最も責任の重いボーイング
関係者が、日本と米国の国情の違いがあるとはいえ、被疑者不詳のままで送検されるということは、何と片手落ちなことではないでしょうか。私どもはボーイングに対して非常な憤りを持っています。米国では、航空事故の際、刑事責任を追及すると
関係者は真実を隠すおそれがあり、事故解明のためにはかえってマイナスになるから免責をするのだと言われておりますが、原因の究明と刑事責任の解明には全く
協力しないボーイングのこの態度
には、
世界最大の航空事故の重大さからいって到底容認できるものではありません。
次に、群馬県警が、しりもち事故で破損した後部圧力隔壁の修理において、所定の幅を有しないスプライスプレートを用い、また二列リベットで結合すべきところを一列リベットで結合したなどの修理ミスと、その後の整備、点検ミスに終始し、その根本原因である設計ミス、構造ミスなどの根本問題に深く入らなかったことが非常に残念です。これは事故調査
委員会の基本方針がそうさせたのだと判断をしております。
事故調査
委員会は公正かつ厳正な調査を
目的として事故原因を明らかにしなければなりません。しかるに、事故調査
委員会は運輸省に所属しております。
今回のように、運輸省が被疑者になる場合に、果たして公正な徹底した調査がなされたかどうかに疑問を抱かざるを得ないのです。そのためか、原因究明に絶対必要な破壊された尾翼が相模湾付近に落ちていることが明らかであるにかかわらず、尾翼の大半は回収されず、また実際の飛行機を使った破壊の実験も行われなかったのです。
さらに基本的なことは、運輸省の調査によりますと、事故機の被労試験が、他の航空会社の
一般旅客機の被労試験の約三分の一以下の二万回しか行われていないということです。この試験は、旅客を乗せるための安全性を保証する最重要なテストで、他の航空会社では設計目標の三ないし五倍の時間と膨大な費用をかけて被労試験を実施しています。しかるに、ボーイング747型機のみは設計経済寿命が二万回と低く、その上磯体被労試験も二万回と最低です。そこから判断されることは、ボーイングは極端な営利追求からくる人命軽視を犯していると言わざるを得ないのです。
そういった意味で事故機の設計、製造、修理などに関する科学的な検討が不可欠であると思われます。しかるに、墜落の原因としては、隔壁破裂以外の要素である設計、製造、修理、点検のあり方などの最も重要な要素は十分に検討されておりません。さらに、隔壁の手抜き修理から破壊に至るまでの過程もきちんと解明されたわけでもなく、事故原因の全容が明らかにされていません。これでは再発防止の保証にはつながらないと思います。
事故調査
委員会がなぜこのような中途半端なことしかできなかったかの原因はいろいろあると思いますが、その最大の原因は、ボーイング社が設計、製造、修理、点検、整備に関する重要
資料を一切開示しなかった秘密主義をとったからであります。
なぜ秘密主義をとったか。
ボーイングの設計、製造、点検、修理はすべて多重安全装置で、一部に問題や故障が起きても他の装置でカバーして安全航行ができると自慢をしておりました。しかるに、今回の
墜落事故でその多重安全神話が根底から崩れてきました。したがって、事故後数週間にして油圧配管へのフューズ弁の装着とか、さらには垂直尾翼の点検孔にカバーを装置するなど、私のごとき素人が知っているだけでも相当にあります。それは設計ミス、製造ミスをみずからが認めたことになり、それを隠したいからでございます。
経営者の社会的責任について申し上げます。
国連の国際民間航空機構の事故防止マニュアルによれば、いかなる
組織体においても、安全と事故防止の最終責任は経営者にある。経営者だけが人的物的資材の配分をコントロールするからであります。さらに、経営者が事故防止に関与する度合いと、彼が配分する人員と機材によって、
組織の事故防止プログラムの質は著しく影響を受けると書いてあります。まさにその通りですが、事故調査
委員会は経営者の問題については具体的に触れていないのが寂しい限りに思います。
このような災害についての現在の刑法は、直接修理に携わった人に限定しております。
個人の刑事責任を追及しているわけでございますが、その基本になる刑法は、日本に旅客機の一台もなかった明治四十年につくられたものであるということを特に申し上げます。
惨事の再発を防止するためには、第一番目、ボーイング社は、今後検察当局の捜査に対し、拒否の姿勢を改めるよう特に強く要望をいたします。
二番目、アメリカ司法当局も、事情聴取への
協力を改めて要請をいたします。
そして、何よりも、
国会がその国政調査権を行使して、ボーイングに対して、事故機の設計、製造、修理に関する
資料を
提出することを強く要望します。そうすることによって初めて事故がなぜ起きたかの原因が明らかになり、事故の再発を防止することができると確信をしております。
終わります。