○
参考人(
高良和武君)
高良でございます。皆様の前で御
説明する機会を与えられましたことを大変光栄に思います。
私は
上坪さんの後を受けまして、どういうことに使われるか、また現在どういうふうな使い方をしているかということを主として私どもの経験を例にして
お話ししたいと思います。(OHP映写)
放射光の
特徴は、今
上坪さんがおっしゃったとおりでございまして、特に申し上げることもございませんが、もう少し補足させていただきますと、
資料2にございますように、
放射光の明るさがどんどん明るくなってきているということがあります。私どもが一九七二、三年にこの
計算をしたときは、一オングストロームの
波長のところで在来の
エックス線管の一万倍ぐらいの明るさでびっくりしたわけでございますが、それが現在はさらに一万倍、全体として一億倍ぐらい強くなっております。今
計画されています大型
放射光になりますとさらに一万倍、全体として一兆倍になりまして、さらにいろいろ新しい
技術を使いますとまた千倍ぐらい強くなるという、まことに驚くほど強くなる可能性を持っているわけでございます。科学
技術の社会で、ある手段の性能が千倍ぐらい変わりますと世の中が革命的に変わると言われておりますが、例えば我々の歩くスピードは四キロぐらいだとしまして、それに対して光は三十万キロぐらいでございまして、一億倍にもならないわけでございます。新幹線が速くなったといっても、在来線の二、三倍にすぎませんが、それでも大騒ぎです。
放射光の場合けた違いに強くなるわけで、このような例はほかにちょっと例がないと思います。
このようなけた違いの明るさの向上のために、後でいろいろ
お話ししますけれども、
最初想像もつかなかったようなことがいろいろできるようになりましたが、それと同時に、
先ほども
お話しありましたけれども、これを使いこなすための検出器とか記録
装置などがまた非常に大きな問題になってきております。それから、後で時間があったら
お話ししますけれども、
研究体制とか運営体制とか、そういうことも大きな問題になってきております。
あとは
先ほどお話があったとおりでございますが、もう少し強調させていただきますと、我々が
筑波でつくったフォトンファクトリーは、七八年にスタートして八三年にでき上がったものでございますが、七二、三年ごろから、こういう
計画をぜひつくりたいというので、学術会議で勧告をしていただいたわけでございますが、これは伏見先生に大変興味を持っていただき、御助言や御援助をいただきました。学術会議で勧告していただいてから数年たってようやく建設が始まり、ここまで来たわけでございます。このころ、核研に小さいリングがございました。これは七二年ごろからつくり始め、七六年ぐらいにできました。
放射光は光あるいは
電磁波ですが、非常に広い
波長領域にわたっております。
資料12で御
説明いたしたいと思いますが、この辺のところが目に見える光です。この辺が
紫外線で、この辺は
真空中でなければ通らないというので
真空紫外線と言います。それからこの辺が
軟エックス線、それから
エックス線です。この辺は在来の線源では飛び飛びに強いところがありますけれども、この辺は今までほとんど線源がなかったところです。それが
放射光により一挙に強い光が出てきたわけで、ゼロからいきなり飛んだわけです。
エックス線の領域では、一九〇〇年ぐらいから現在まで、いろいろな方面で使われてきました。お医者さん
たちが診断用に使う
エックス線管では、タングステンのターゲットから出るこのような
連続エックス線が使われておりまして、それから工業用あるいは
研究用では特性
エックス線を用います。このようにところどころ強いところがあるわけでございます。
在来の
エックス線では、よく銅に
電子をぶっつけて出てくる特性
エックス線を使いますが、強力
エックス線管としては普通二百ミリぐらいですが、一アンペアぐらいが最高です。二百ミリの発生
装置は二千万円ぐらいしますが、一アンペアだったら一億円近くすると思います。フォトンファクトリーの
放射光を在来の
エックス線管と比較しますと、特性
エックス線の場合、二百アンペアぐらい、
連続エックス線の場合、二万アンペアぐらいに相当します。
先ほど上坪さんの話されました
偏向磁石からの
放射光でもこれだけの強さになるわけです。初めて
計算したときは、余り強いので
計算を間違えているのではないかとさえ思ったぐらいですが、もちろん間違いではなく、我々はこれを確信して
計画の推進を始めたわけですが、しばらくの間、七二年から七三、四年は、本当にそんなに強いのかなという
意見が多かった時代でございます。
資料2にございますように、
放射光の強さはどんどん強くなり、今はこのあたりまで来ておりますが、さらに強くなるわけです。それから、この辺の
波長のもっと短いところがもっと強くなればというのが、最近の
研究者皆さんの願いであります。フォトンファクトリーなどでは、この辺の
波長になると強度がすとんと落ちるものですから、どうしても
蓄積リングの
電子の
エネルギーを上げたいわけです。それから、この辺の
波長の長い、
真空紫外と呼ばれるところが、一方では非常に大事なところでございます。我々日常の生活では赤い光がものを暖めるのによいということになっていますが、このごろはさらに
波長の長い
赤外線がよいというので、暖房や調理などいろいろに使われるようになってきました。一方、
紫外線のように
波長が短くなりますと、いろいろな化学作用を起こしまして皮膚がやけたり色があせたりするなど、いろんな反応が起こるわけです。もう少し
波長が短くなると物質との相互作用がさらに強くなり、物質との相互作用が大きいということは、物質にすぐ吸収されるということで、この辺の光は皮膚に当たりますと、皮膚の表面で全部吸収されてしまいますから、障害も大きいわけです。宇宙から、特に太陽から多量に来ておりますけれども、幸いに、このあたりの光は酸素と窒素で全部吸収されますのでほとんど地上には到達しないわけです。ただし、宇宙ロケットや衛星などで成層圏の外へ出ますと、
真空紫外や
軟エックス線がじゃんじゃん降ってきているわけで、これをもろに浴びたら、もちろん
真空ですから実際にはできませんけれども、そういう放射線の対策も非常に重要になるわけです。
この辺の光が、物質の表面ではなく、内部の
電子との相互作用が一番大きいところです。物質は原子からできていますが、原子はさらに
原子核とその周りを取り巻く
電子からできております。この原子を取り巻いております
電子との相互作用、それを高い
エネルギー状態にたたき上げたり外へたたき出したりするような作用は、ほとんどこの領域で起こります。それでこの辺を調べますと、物質の中の
電子の振る舞いがわかり、また
電子の状態を変えることにより、物質の
性質を変えたり物質の微妙な
性質を使うというようなことができるわけです。もうちょっと
波長が短くなりますと、原子の大きさと同じぐらいになり、このあたりの光、
エックス線を用いますと物質の中の原子の配列がわかります。原子レベルで物質の内部を見ることができるわけです。こういうわけで、
放射光で用いられる光は材料あるいは物質を分子レベルあるいは原子レベルで見たり処理したりするのに一番大事なところになります。
温度で申しますと、太陽の表面の温度が六千度ぐらいというのはこの辺になりまして我々の目に見えるわけですが、実際の太陽の内部だとこの辺になります。それから、宇宙で爆発を起こしたりいろいろするというのはもっと
波長の短いところになるわけです。それから核融合炉で起こっている温度というのは大体この辺でして、何千万度とか何億度ぐらいになりますが、核融合とかあるいは太陽の内部や宇宙の果てで起こっているいろいろな
現象、このごろ天文学では
エックス線天文学などと呼びますが、この辺のところになります。こういうわけで、
放射光はこういう領域の強度をはかるための標準の線源として非常に大事だと言われております。これが
資料12です。
これは
先ほど出てきたとおりでございまして、強度が十倍か数十倍上がるのに数十年かかったわけですが、
原理的に新しい
放射光ができて、一挙に十の八乗から十の十二乗ぐらいまで飛んだわけです。
偏向磁石で一万倍に飛びまして、それから
アンジュレーターができましてさらにまた一万倍飛んで、それから今度は
エネルギーを上げることによってここまで飛ぶというわけです。第三
世代の
施設は、九二、三年から九四、五年にできて、この辺で大体一兆倍ぐらい強くなって、その後さらに千倍ぐらいは確実にいくだろうと思われます。こういうふうにちょっと想像がつかないぐらい、私どももこんなに強くなるとは初めは思わなかったのですが、そういうふうな非常にスリリングな時代に来ていると思います。
それから、今度はそれをどういうふうに使うかということをここに少しまとめてみました。
目で物を見るときにはその形とか色とか言うわけですが、形というのは、
エックス線で見る場合には、原子レベルですから、原子の並び方とかあるいは
電子が原子の大きさよりもっと小さいところでどういうふうに分布しているかとか、それから
電子の
運動状態を調べるわけです。
運動状態というのは、我々の目に見えるところで言えば色みたいなものでございまして、白色光が来た場合物が赤くなったり青くなったり見えるのは、光が
電子の適当な状態に共鳴してそういう光を出したり吸収したりしますので起こるわけです。それをもっと短い
波長のところでやりますと、物質に固有ないわゆるスペクトルがございまして、こういうものによって物質の中で一
電子の
エネルギー状態、あるいはそれが動き回っている状態などを調べることができます。ここにそういう例といたしましてスペクトルでこういうものが書いてございます。
それから、吸収されたりするだけじゃなくて、
電子をたたき上げますと、そのお返しに中から光が出てくるとか、あるいは
電子自体が飛び出すというようなことがございまして、こういう情報をいろいろ調べまして材料の定量分析とか、あるいは結合状態を調べるとか、
電子の詰まりぐあいを見るとか、表面や界面がどうなっているかとか、そういうことをいろいろ調べるわけです。
もう一つ、後になりましたが、回折・散乱という作用があります。
エックス線領域の
放射光がやってきますと、
原子核の周りの
電子及び
原子核ではじき飛ばされるわけですが、そのとき適当な
方向では息をそろえて強い光が出てきます。そういうときを回折と申します。その状態を調べますと、後でも少し
お話しいたしますが、物質の中での原子の配列の模様がわかります。このような
研究は、一九一五年ごろからアルミとか鉄とか食塩とか簡単なものから始まったのですが、現在ではウイルスぐらいの大きさまで、分子量が何万から何十万という大きさまでのものが調べられるようになりました。このような複雑なものは
放射光じゃないとちょっとやれないわけです。
それからもう一つ、
波長が短くなりますと、
先ほど申しましたように、
紫外線などは我々の皮膚をやいたり、染色の物質の色をあせさせたりしますが、これは、
放射光が中の
電子をたたき上げますと、原子と原子の結びつきが変わるわけです。この
性質はいろんな
方向に使うことができるわけで、材料の
性質を変えたり、新しいものをつくり出したり、特に半導体の最近の超LSIの微細加工の焼きつけなどにはよく使うわけです。一方、原子炉などでは材料をもろくしたり、それから生体ですと死んでしまったり、あるいは突然変異を起こしたり、いろいろなことが起こるわけです。こういうものの
性質をよく知った上で制御して使うというのも一つの役割になります。これが
資料13です。
今言ったことを、どのような作用がどのような
波長のところで起こるか、それからそれでどういうような情報が得られるか、またどういうことに使えるかというようなことが
資料14に書いてございます。
今まで申し上げたことでございますが、放射線の効果というのは、この辺ではほとんどないわけですが、
紫外線あたりからだんだん起こってきます。これを光化学反応と呼びますが、さらに短くなれば、これは
名前だけですけれども、放射線効果と呼んで、生体の場合には損傷ということになります。
それから光電吸収というのは、光が物質の中の
電子と相互作用して吸収されたり反射したり、あるいは蛍光が出てきたり、それから光
電子が出てきたりするわけです。
それから散乱というのは、
先ほど申しましたような回折を起こして、これで原子の配列の模様とか構造の欠陥とか、いろいろ見るわけです。
それから最近問題になってきたのは、イメージング、像を撮るということで、
エックス線は内部までよく入っていきますから、後でも申し上げますが、心臓の血管の像などを割に手軽に撮るとか、それから
電子顕微鏡と光の顕微鏡の間ぐらいのもの、細胞レベルの像を見るのに用います。特に水を含んだものには
エックス線顕微鏡がよろしい。それから一九九五年ぐらいに市場に出る超LSIの素子の焼きつけには、もうこのあたりは十オングストロームぐらいの
エックス線が使われるだろうということで、企業の人
たちが今非常に真剣にリングをつくり始めているところです。
それからもう一つ、CTといいまして、脳の写真などを撮るコンピュータートモグラフィーでございますが、最近は材料の内部を見るために
放射光を使ったコンピューター・トモグラフィーの
研究が精力的に始まっております。
この辺が一オングストロームで、原子の大きさですが、これから、この辺のもっと
波長の短いところが非常におもしろくなるわけです。しかし、今までのリングでは強度がすとんと落ちて使えないものですから、この辺をできるだけ強くするためにいろいろな努力が行われているわけです。
アンジュレーターでこの辺のところを今の一万倍とか百万倍ぐらいにしたい。この辺はベンディングマグネットかウイグラーを使っても、出てまいります。
資料15は、
上坪さんが前にお使いになったものですが、どういうふうに
利用するかということを別な立場から見ますとこのようになります。新しい材料や物質をつくるということがあります。ニューマテリアルズとかニューセラミックス、ファインセラミックスとかいろいろ申しますが、そういうようなものは原子がどういう配列をしているかとか、温度を上げたら、非常に低温にしたら、超高圧でどうなるかとか、いろいろ
研究するわけです。特に、多くの材料では全部をつくる必要はなくて、表面だけが非常にきくので表面だけ変えればよいというようなことが多いわけです。触媒とか半導体などでは表面の効果が非常に大きいわけですが、そういう状態を調べるのには
放射光は非常にいいというわけです。特に少し長い方の
波長がいいこともあります。
微量分析について申しますと、普通、微量分析をするときは化学分析や放射化分析などいろいろ用いられますけれども、
放射光を使いますと、ほとんどあらゆる元素が非破壊法でやれるという
特徴がございまして、今後スタンダードになるだろうと言われております。例えば、髪の毛の中のわずかな物質を調べることができ、これにより環境汚染などの問題もわかるとか、最近はがんなどとも関係があるとか言われております。
それから半導体などでは、一億分の一とか十億分の一、百億分の一ぐらいの不純物が問題になりますが、そういう分析もこういう方法でやります。それから最近は、
放射光を使いまして、
筑波のフォトンファクトリーでも行われておりますが、光を当てておいて半導体の表面に膜をつけますと非常に性能のよいものができるなど、新しい材料をつくる
研究も行われています。
このようにいろんな分野に使えるわけでございまして、特にこのあたりの
利用は半導体の人
たちが興味を持ってやっているところで、後でまた少しお見せします。
何にでも使えるものですから、本当かなと言いたくなるぐらいですが、バイオサイエンスあるいはバイオテクノロジーなども今後重要になってきます。最近は生体物質でも、分子量が百万ぐらいの巨大たんぱくの原子配列が問題になってき始めたわけでございますけれども、これもまた後でスライドを使って
お話しします。この辺はいろんな応用があるわけです。
こういうようにいろいろな応用がありますが、別な立場、相互作用あるいは測定法で分類をしました。一つのテーマだけでも実際にはすぐ三十とか五十ぐらいの具体的なテーマが上がるわけですが、その小さいテーマ自体についても、また物質を変えますとすぐ十や二十のテーマが出てくるわけで、すぐ百や千ぐらいのテーマが出てくるわけです。そういうテーマで皆が使いたいときにどういう
装置をつくったらいいかということが問題でありまして、私どももフォトンファクトリーをつくるときには、そういう観点から、物理とか化学とかの学科別ではなく、また文部省所属だとか電総研、工技院、民間関係だとか、そういう組織の違いを抜きにいたしまして、どういう情報を得たいのか、それにはどういうような方法があるか、どういう
装置を何台つくったらいいか、またどういう特色の
装置をつくったらいいかというような立場から
計画を進めました。そういう戦略を立てるときには今
お話ししたような方法論による分類が必要でございまして、こういうものをいろいろ眺めたり、皆さんと議論してやってきたわけでございます。
特に、明るいということが
放射光の非常に大きな特色で、これにはいろんな御利益があるわけです。ともかく測定時間が非常に短くなるわけで、このラウエ写真というのは、
先ほど申しましたように、白色
エックス線、いろいろな
波長のまざった
エックス線を物質に当てますと、物質の中の原子の配列に応じていろいろなパターンが出てきます。昔は十時間ぐらいかかったのですが、今では一秒ぐらいで写真で簡単に撮れるのですが、最近の方法ではマイクロ秒にまでなってきたわけです。
それから原子の配列を調べる構造解析では、ごく簡単な無機材料ですと昔は一日ぐらいでデータがとれたのですが、最近はミリ秒かマイクロ秒という非常に早く変わる
現象がつかまえられるようになりました。
それから、たんぱく質の方は、昔は一年ぐらいとか数カ月かかっていたのですが、最近は一時間ぐらい、それからごく最近は二十分ぐらいで撮れるようになりました。後の解析にむしろ時間がかかります。ともかく、
原理的にはそういうことができるようになったわけです。
それから、テレビなどで動的な観察ができまして、テレビで見ておりますとシリコンが溶けていくところとかまた再結晶するところがわかりまして、欠陥のないものをつくるにはどういうふうにしたらいいかというようなことがわかるようになりました。
それから、原子の
単位で物質が動くというようなことを見るときに、時間が一日も二日もかかりますと、温度を一定にしたり、機械的に安定にすることは難しいのですが、一、二秒か十秒ぐらいとかでしたら割に簡単ですので、原子レベルの超精密測定にも非常にいいわけです。
それから、測定にいろいろな種類の分解能、精度の画期的な向上が可能になるわけですけれども、時間についていいますと、刻々変わる
現象も今では一億分の一秒ぐらいはできる。ビームパルスがそのくらいで来ますから、それをうまく細工をしますともっと短いことまでわかる。これは、実際化学反応が起こる前に
電子がどう移動するかということに使われます。
それから場所的にも、一ミリが百ミクロン、今では一ミクロンあるいは一ミクロン以下ぐらいの領域のことを調べるということもできるようになってきているのです。
先ほどの回折は結晶を使わなければできませんが、それには昔は大きい結晶が少なくとも〇・一ミリぐらいは必要だったのですけれども、今では〇・五ミクロンぐらいあればできるというので、ちょっと材料を純粋にしたら大抵そういうものになっているということになっています。
それから、
エネルギー幅あるいは
波長の
広がりを小さくしたいということもありますが、昔は我々が
研究室なんかで使うカッパーの特性
エックス線というのは単色で、
波長は一色だと思っていたのですが、実際には
波長の
広がりがあり、
広がりの割合は十のマイナス四乗ぐらいでして、強度が強ければ、
波長の
広がりをどんどん狭めることができるわけで、今私どもは十のマイナス八乗の辺のところを使っています。
メスバウアーという
原子核の中での反応を使いますと、これはまた一挙に上がるわけで、これを用いますと非常に微妙な
原子核の状態がわかるわけですが、
放射光を当てて、人工的にこのメスバウアーの
光源をつくろうということをこの数年ドイツ、
アメリカ、
日本で競争してやっているわけですが、我々の方はお金がいただけなかったというのは言いわけになるかもしれませんけれども、お金がなかったために試料がつくれなくて切歯扼腕していたような状態があります。それともう一つ、このためには
電子の
エネルギーは八
GeVぐらいが非常に使いいいところで、こういうものを使うためにも、
蓄積リングの
エネルギーはその辺にぜひしていただきたいわけです。このくらいの幅は〇・一ミリエレクトロンボルトですが、この辺が原子のいろいろ
振動しているときの
エネルギーです。それで、この辺の原子の
振動のモードを調べることは今までの
エックス線では到底できなかったのですが、ここまで来ればできる。ニュートロンはこの辺が得意だったのですが、
エックス線は非常に小さい物質でも、表面でも可能になり、それからこの辺もまたおもしろいことがたくさんありまして、今後基礎的な学問として非常におもしろいところです。
それから、強度が強いと平行性も非常によくできるわけで、
先ほど上坪さんから
放射光は非常に
指向性がいいと言われたのですが、あれは千分の一度、何十秒ぐらいですけれども、大体レーザーもそのくらいです。しかし、
エックス線は
波長が短いのでもっともっと平行度を上げることができます。我々が昔考えた方法で、今ではもうみんな使っておりますが、例えばこれが原子面で、これを斜めに切ってやりますと、十秒が一秒と、一回やるたびに十分の一ずつ角度
広がりが減っていって、千分の一秒ぐらいができるわけです。ここで特に〇・二秒にしたのは、十のマイナス六乗ラジアンというのが〇・二秒になるわけです。今我々はこのくらいのビーム、最近はもう一けた下までつくっておりますけれども、これは地球から月へ行くときにこれだと四百メートルぐらい広がって、この辺ですと四メートルになります。今は一メートルぐらいのビームもできるようになったわけです。今、人工的につくれる一番いい、あるいは宇宙で一番いい結晶というようなものでも、格子間隔がちょっぴり違うとかちょっと傾いているというようなことがわかるようになってきております。そういう微小な変化が実際の材料の機能や性能に非常にきくわけです。
これも大分細かい話ですが、強度が強くなりますといろんな情報が非常に確かになるわけで、光が弱いと光の粒子がぱらぱらと来てデータがばらつき、雑音と本物の信号が区別つかなくなります。それから全体にバックグラウンドがあるわけですが、非常に強度が強くなってデータが例えば一万倍になると百倍ぐらいの精度でこのシグナルとノイズの比を改善できまして、こういうピークがよくわかるようになる。それからこういうところでも非常にわずかな、なだらかな起伏があって、これが非常に
意味があるというようなことが自然
現象でたくさんあるわけですが、こういうようなばらつきがあるときには、よくわからないわけです。
それから、光というのは大体
電子やイオンに比べましたら物質の相互作用が非常に穏やかで、それだけに物質を破壊しないわけですが、そのかわりその相互作用の確率が非常に小さいわけです。それが
放射光で強くなったので随分よくなってきたわけです。さらに物質の中の
電子に当たってそれをはじき飛ばしてそれから
電子が出てくるとか、それからまたその
電子が物質の
電子と作用して回折を起こすとか、こういう二次効果はさらに非常に弱くなるわけですが、そのインプットの
放射光が強くなりましたのでこういう二次効果の
研究がやりやすくなってきたというわけです。
特に、この光
電子分光というのは表面を調べるために非常によく使いまして、どのくらいの
エネルギーでどの
方向に、いつ、どこから、また最近はこのスピン、
電子の回転の
向きなどを調べますと、いろんな
性質、特にマグネティックな
性質、特にごく表面の
研究がやれるようになってきたわけで、またいろんなことがやりたくなってきているわけです。
表面を調べるのに非常に向いていますが、ガスのように希薄な物質の回折というのはこれまでは
電子線でしかできなかったのですが、
放射光でできるようになりました。
エックス線でやりますと、
電子ではわからないようないろんな情報が得られます。
それからもう一つ、非常に強いというと、十年ぐらい前には、たんぱく質なんかはそんな強いのが来たら結晶が崩れて測定できないだろうという悲観的な
意見が強かったのですが、壊れる前に実験が終わるという非常にうまいことになりました。大体十時間ぐらいで結晶の構造は壊れるのですが、
放射光だと壊れる前に実験が終わる。昔ですと、せっかく一トンぐらいから一ミリグラムぐらいのヘモグロビンを取り出しまして、ようやく結晶ができたといってそれで測定をやりますと一日ぐらいで壊れ、使えなくなりまして、結晶を十個ぐらいつくらなきゃならないというようなことがあったのですが、今一つありますと大体すべてやれるというわけです。
それから普通、外から何か物質に
エネルギーを与えますとその周りも温まるわけです。その
エネルギーが熱になって拡散していくわけですけれども、非常に強い光をちょっと当てますと、拡散する前に反応が全部終わってしまうので、その素過程、エレメンタリーな構造を調べるのにも非常にいい。まあいいことだらけなわけです。
産業界の応用ということで特に最近注目されていますのはマイクロリソグラフィーで、これは
波長の割に長いところ、十オングストロームぐらいがよいと言われております。
資料17をごらんください。これは四分の一ミクロンぐらい。これが多分九二年から九五年ぐらい。今は四メガビットとか十六メガビットと言っておりますが、四メガビットから十六メガビットになりますと、
日本はもう
アメリカの
技術は要らず、
日本が最先端に立っているはずです。この辺になりますと
放射光でなければだめだというので、
日本では六社か七社が
放射光による
装置をつくり始めておりまして、この分野の人
たちの予測では、九五年ぐらいには六十台から百台ぐらいそういう
装置が要るだろうと言われております。そういう話を
日本でことしの初め、
アメリカの学者にしましたら
アメリカでもぜひ話せということになり、
日本ではこういうこともやっているよ、それから大型
施設もつくり出しますよというようなことを大いに宣伝してくれということで、この四月に
アメリカで話してきました。超LSI用の
放射光利用の
計画は、
日本の後を
アメリカが追っかけてきて、
ヨーロッパは今のところはお手上げというような状態です。
それから、こういう分析、評価の方法がいろいろあるわけですが、特に医用の方はさっき申しましたアンジオグラフィー、血管造影など。それからいわゆる薬の分子量の千程度のものはたくさん出てきても構造解析が簡単にできて、今度はどういうふうなものをつくって副作用を減らすかとか、本当の効果だけを起こすのにはどういうふうにしたらいいかなど、いわゆる分子設計ができるようになってきております。最近は制がん剤とかビールスなどの構造がわかり出しており、これから数年、十年の間にがん細胞の構造や、治療のメカニズムの解明などに進むと思われます。それから遺伝子の構造なども、やはり
エックス線による構造解析がなければ本当のことはわからない場合が多いわけです。
これは
筑波にあるフォトンファクトリーですが、これは二十四個の
軌道を曲げるベンディングマグネットがあって、そのうちで二十ぐらいのマグネットから出る
放射光が使える。それから直線部は、ここに六メートルと三メートルのものが四、五カ所ありまして、それをウイグラーや
アンジュレーターに使っているわけです。一九七八年から八二年ごろは、主ビームラインとして三つの窓だけが、それからしばらくして六つだけしか使えなかったのですが、この数年の間に約二十個の窓が使えるようになりました。もう文部省のお金では足らなくなり、
方々の方がもっとつくりたいとおっしゃるものですから、そういう方に予算を出してつくっていただきました。現在ではこういうような調子になっております。まずNTTそれから日立、NEC、富士通、こういう半導体の会社の方
たちがこの数年来ここへステーションをつくられまして、それぞれ数億から十億かけてつくっておられます。それから東大の理学部、物性研もそれぞれ持っております。
それから、この二、三年前から準備しまして大体ことしででき上がるものとして、科学
技術庁の方の
研究振興調整費で無機材研、理研あるいは工技院の電総研、計量研、化技研の
研究者
たちがいろいろ議論いたしまして、それぞれ手分けして
装置をつくりました。これらの
装置は、この十三番の窓に今年の末ぐらいまでに設置されるわけです。それからオーストラリアでもビームラインステーションが欲しいとか、あるいは東大生産研、東北大、新日鉄、NKK、
日本鋼管なども言っているわけですが、残念ながらもうこれはいっぱいになったわけです。全体として
装置は現在五十台ぐらいありまして、千四、五百人ぐらいの人がユーザーとして登録をしており、そのうち三、四百人が民間の方だと思います。それから外国から何十人か来ております。大体、毎日二百人ぐらいは来ているのじゃないかと思います。
これはそういうデータを高エネ研の人
たちがまとめたものです。マシンタイム、あるいは一人当たりの時間とか、実験をやりたいというプロポーザーの数とか、それから一人当たりに時間をどのくらい与えるとか、人はどのくらい要るかというようなデータが示されているわけですが、今、時間としては二千時間から三千時間ぐらいしか使えないわけで、これは毎日八時間使えば一年じゅう使えるわけですけれども、実際に運転を始めますと二十四時間ぶっ通しで使うわけで、こういうふうにしますと五千時間から六千時間ぐらいまで使えるのですが、いろいろなことを考えると五千時間ぐらいがリミットになると思いますが、これは大体九二年ぐらいになると思われます。
それで今、一つの実験に対して大体六十時間とか七十時間ぐらいしかもらえないのですが、全くルーチンの
研究ならいいですけれども、ちょっと新しいことをやろうとしますとどうしてももっと時間が欲しくなります。少しでもよいから使いたいという人もたくさん待っているわけですが、一方では、特に野心的な新しい仕事をやるためにはどうしても時間が必要になります。幾ら努力しても一九九二年ぐらいで頭打ちになることがわかっております。こういうわけで、新しいリングを一九九二年ごろまでにぜひつくっていただきたいと思うわけです。
それでは、どういうものに使うかということを少しやらせていただきますと、さっき申しました構造解析ですが、これは七三年ごろに
アメリカの人が言ったのを僕が受け売りで使いましたら、専門家の人
たちがにやにやしていたのですが、そのころ大体たんぱくの構造解析と言えば、分子量は七千とか一万以下ぐらいだったわけです。
アメリカの
研究者
たちは
放射光が
利用できるころは一万以上のたんぱく質がたくさんあるということを言っていたわけです。たんぱく質の構造解析のためには、回折のスポットは、もし一オングストローム程度で調べようと思うと、分子量が七千のたんぱく質の解析には十四万個ぐらいの回折のスポットを測定しなければならない。十四万個の強度を一つずつ正確にはかることになると時間が物すごく要るわけで、このためにはテレビとか二次元の検出器などいろいろな方法が
開発されているわけですが、それから得られるデータを早く処理することが現在非常に重要な問題になっているわけです。
それで、ビタミンのB12の分子量は大体七百ぐらいで、これは十四、五年ぐらい前に解析されました。こういう構造の決定が行われるたびにノーベル賞をもらったわけですが、核酸の分子量が十の四乗ぐらいで、今の遺伝子の二重構造などがこの辺になるわけです。ことしノーベル賞をもらった生化学反応のたんぱく質も多分この辺、分子量が十の五乗か六乗ぐらいだと思います。最近、
アメリカの
放射光で風邪のビールスの構造解析ができました。これは高
エネルギー研の坂部教授が撮ったものですが、大体分子量が十七万ぐらい。ここに小さい点がぽつぽつにアーク状に並んでいますが、結晶を少し動かしてこういう写真を撮ります。こういう写真を四、五枚撮ると構造解析ができるわけですが、今までのフィルム法ですと、
放射光を使っても一枚撮るのに数時間かかっていたのですが、最近、富士で
開発したイメージングプレートを使うと四分ぐらいで撮れます。今までの方法だとこういうのを四、五枚撮るのに一日ぐらい、それから普通の
エックス線を使えば半年とか一年かかりますが、
放射光でイメージングプレートを用いると、二、三十分でできるようになったわけです。
それから、筋肉の収縮機構というのが生体物理学では大きな問題になっています。ものが目に見える大きさで伸び縮みするものとしては、ゴムとかばね以外には無機物ではないのですが、筋肉はこう伸び縮みをやっているわけです。このメカニズムは普通の無機物の
世界のものとは全く違っています。このメカニズムの解明については、岡崎の生理学
研究所長をしておられる江橋先生が大きな
研究をなさったわけですが、先生
たちは、こういうものの分子構造、原子レベルでのメカニズムを調べるためにぜひ
放射光を使いたいとフォトンファクトリーの
最初から応援してくださったのですが、以前はこういうところしか撮れず、しかも二時間ぐらいかかりました。それが
放射光を使うようになってから十分のオーダーでできるようになりまして、最近はイメージングプレートを使って二十秒で撮れるようになった。しかも、イメージングプレートを使うと、この一本の線だけじゃなくて、上下のたくさんの線もこんなにきれいに撮れるようになりました。このような写真は今のところ外国では撮れなくて、指をくわえて見ているという状態です。このような写真が撮れたために、今までの説が全く間違っていたということまではわかっております。
それから、幾つかの例をお見せします。これは非常に高圧で温度を上げたときの状態を調べる
装置ですが、この
装置も
世界でフォトンファクトリーにしかないのですが、二十万気圧で二千度ぐらいの状態が
研究されます。ここにカーボン、ダイヤモンドをボロンの中に入れてあるものですが、これでやりますと大体地下の三百キロメートルぐらいのことがわかるのです。そうすると、いろんな地球上に出てくる鉱物などでは、地球の中でなければできないものが、カオリンとかいろいろあるようですが、今度科学
技術庁の金でつくってことしの末に入れようというのは、三十万気圧でやっぱり二千度ぐらいまでいくのですが、少なくとも千五百度というのはつくっておりますが、これだと九百キロぐらい下までわかるのだそうです。九百キロというところは、地球の向こう側から来た地震波がこの辺で反射されるのだそうで、何か九百キロあたりで非常に物質の構造が変わっているらしいというのでそれを調べたい。こういう
装置は外国にはないものですから、外国が使いに来たりしています。おもしろいことには、同じものをつくってくれと言って
日本の会社に頼むというようなことを
アメリカもするようになりまして、ちょっと様相も変わってきたようです。
あと半導体の応用を少し話しますと、これはNECのグループが東大のグループと一緒にやったのですが、普通のシリコン結晶は、ちょっと普通の光なんかで見たら欠陥は何も見えなくて、非常にきれいなぴかぴかした面ですが、これを
エックス線で見ますと、内部の原子の配列はちょっと乱れていてもこういう線がたくさん出てきます。もちろんこういうものは使い物にならないで、今はこの線がほとんど見えないものを使うわけですが、こういうものをさっき言いました非常に平面なビームで見ますとこういう写真が撮れまして、この中で格子面がどういうふうに曲がっているかとか、格子定数が十のマイナス七乗のけたでどう変わるかというようなことがいろいろわかるわけです。
もう一つ、これは私はこの実用的な重要さは余りわからないのですけれども、きのうNECの人に最新のデータをもらったのですが、今ではシリコンの単結晶がだんだん大きくなりまして、十センチ以上、最近は大体二十センチぐらいになろうとしているわけですが、これに超LSIのパターンをたくさんつくるわけです。一遍に千個とかもっとたくさんつくるのだと思いますが、どうも歩どまりが悪い。それで、こういうものを普通の方法で見ますと非常に完全な結晶のように見えるのですが、平行な
放射光を非常にすれすれの角度で当ててやりますと、こういうしま模様が出てきました。これが欠陥で、こういうものが歩どまりを悪くしているということがわかってきたようです。いろんな機能に欠陥がある場合、それをどう解決しようかというためには、こういう評価をまず行って、その正体がわかったら対策を立て、次へ進めるということが行われるのだと思うのです。
それから、これはさっき言ったマイクロリソグラフィーによる超LSIの素子の焼きつけですが、今大体〇・二五ミクロンから〇・二ミクロンぐらいにこの幅がなっていまして、大事なのはこの切れ味が非常にいいことで、幅の十倍ぐらいの深さまで切れ味がよくなければいけないわけです。今までの光でやりますと、この辺のところがぼけてきまして使えないわけです。
紫外線では〇・七ミクロンとか〇・五ミクロンぐらいです。しかし、どうやってもこんなに切れ味はよくなりません。大体十六メガから六十四メガになったらもう
放射光しかないだろうと言われております。
大分時間が超過いたしましたけれども、この後、スライドを十分ぐらいやってよろしいでしょうか。