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秦野参考人 秦野でございます。
私は、一九七二年から
プライバシーを守る運動を続けてまいりまして、その中で
プライバシー保護法制の
必要性というものを非常に痛感いたしまして、再三
政府にも要請をしてまいりましたし、自治体に対しましても条例の制定を訴え続けてまいりました。
昨今の
プライバシーに対する
国民の意識というのは、私どもが運動を始めました当初から比べますと比べものにならないくらい大変高まっておりまして、私たちに対しましても、年金の振り込み通知がはがきで来るのは
プライバシー上問題があるのではないかといったような御
意見が多数寄せられておりますし、また、電話帳に電話番号を載せたくないという方も年々ふえております。
ちょっとデータが古くなるかと思いますけれども、二年ほど前のデータですと、東京二十三区の加入者の方の中で、電話帳に電話番号を載せないという方は平均しますと大体一五%、区によりましては二〇%を超えているという実態もございます。また地方でも、私が
調査をいたしました新潟、長野の場合は平均八%程度の方が電話帳に載せないということになっております。
このような実態がございますので、私たちとしては、早く
法律を制定していただきたいという
立場から、本当はこの
法案に対しまして非常に多くの期待をかけてまいりました。けれども、
内容を見ますと、私どもの期待とは余りにかけ離れていいるということで、実は大変幻滅を感じているわけでございます。
私は、先生方がいろいろ問題点につきまして法文的におっしゃいましたので、少し実例的に、時間がございませんので特徴的な問題だけを挙げまして、問題点について申し上げたいと存じます。
郵便局に郵便配達のための台帳といいますか、原簿があると思います。その中で、一軒ごとのかなり細かいデータが記録されているというふうに言われておりますけれども、私たちは知らされたことも見たこともないわけでございます。間違っているかもしれないわけでございますけれども、わからないわけです。それが、今回の
法案を見ますと、
法案の中で、物品であるとか金銭を送付するような、あるいは業務上の連絡のための住所、氏名程度のものはファイルについて
事前通知をしなくていいということに
適用除外になっているわけです。そういたしますと、住所、氏名程度はしなくていいとおっしゃいますけれども、住所、氏名はその
本人を確定するわけですから、非常に重要ではないかと私どもは思いますが、それはわからない。まして、そういうことを
政府が言われると、現在民間で非常に乱発と言ってはなにかもしれませんけれども、出されておりますダイレクトメールなどというものは、大半がいいということになってしまうのではないか。私たちは、そのことによって
個人情報の商品化がさらに拍車をかけられたらどうなるんだろうかという懸念を大変いたしております。
また、郵便局だけを取り上げるのは大変問題だと思うのですけれども、実際に保険の勧誘のために、出生届であるとか選挙人名簿であるとかあるいは住民台帳が使われているというケースを私どもは再三取り上げてまいりました。このようなことは
目的外
利用ということになりまして、これを
政府が率先されるということにも非常に問題を感じております。
また、昨今郵便貯金のキャッシュカードと民間のクレジットカードなどとの共用カードが非常にたくさんできておりまして、一月現在で約四十種近くあるように聞いておりますが、その場合に、民間ですと銀行協会のセンターであるとか信用
情報センターであるとか、サラ金でもそうですし、クレジット
関係でもそれぞれセンターがありまして、
自分の
情報の
開示を求めますと、そこに行けば
開示されるということになっているわけですけれども、今度の
法案で郵便貯金に関するその種のデータの
開示が求められるのかどうか。私は、
法案を拝見する限りではそれはなかなか難しいのではないか。そうしますと、共用カードの中で民間だけに厳しい義務が課せられるようなことになりはしないのかなといったような、これは不安でもあるし、不公正でもあるかというふうに思っております。
警察でよく通報
制度ということがされるわけですけれども、通報ということになりますと、第三者からの
情報提供ということで、これは非常に不確実な
情報になるわけでございます。
皆様御
承知だと思いますけれども、先般グリコ・森永事件のときに、キツネ目の男ということでモンタージュの公開がございました。そうしますと、何千という方がそのキツネ目の男ということで通報しているわけです。ところが、今日に至るまでその犯人といいますか容疑者は明らかになっていないわけですから、いわゆるシロだったということになると思いますけれども、キツネ目だというだけで通報されたり、あるいは身辺が徹底的に
調査されるということは非常に重大な人権侵害だと存じますけれども、その何でもなかったキツネ目の人たちというののリストは一体どうなっているのでしょうか。これは私どもはわからないわけです。もしその
情報が残っていてひとり歩きをしていったらどうなるんだろうか、非常に心配が多いところでございます。
また、警察
関係で申しますと、私どものところに非常に訴えられるケースとしまして、警察が世帯の
調査を事細かくされる。一応理由は緊急時の連絡だというようなことをおっしゃっているようですけれども、皆さんは非常に嫌な思いをされておりますが、警察だから断れない、断った場合に何か報復されるのではないかといったような
意見が私どもに寄せられてくるわけです。そうしますと、民衆のための警察といったようなことからは非常にほど遠いような状況が、
国民の間ではそういう受けとめられ方になっております。これが世帯の場合ですと、まあ世帯の方がわかるわけですけれども、企業などの場合ですと、会社側が社員のリストをそのまま提供しているということになっておりまして、社員の方は御存じないということになるわけです。
こうしたような問題というのはどうなるのでしょうか。今回の
法案を見ますと、犯罪の捜査であるとかあるいは予防するということの理由になればあながちそのリストは公開しなくていいんだということになっておりますから、私たちは全くそういった不安な
情報の成り行きについて、あるいは間違っていたら大変なことになるのじゃないかと思いますけれども、わからなくなってしまう、全くブラックボックスに入れられてしまうのではないかという心配を非常にたくさん持っております。
また、先ほどもお話がございましたけれども、学業成績ですとか病院やお医者さんのカルテ、診療記録は
本人に
開示をしないということが前提になって
法案ができておりますが、現在学校というところを見てみますといろいろな
調査が行われまして、生徒や
保護者、父兄の細かい
情報が
収集されているわけです。その中では、そのこと自体の中に非常に問題のあるケースもございまして、私どもは何回か問題にしてまいりましたけれども、非常にたくさん集められている。私たちが現在やっております
調査の中で、学校における性格テスト、子供たちの性格をテストするといったような問題がどのように行われているかということで集めておりますけれども、その中には、一回に生徒に対して四十項目から多いところは二百項目までマル・バツ式で回答を出させまして、それを民間の企業によるコンピューターで
処理をいたしまして、問題の性格があるとか問題児の可能性があるといったような判定を下しているわけです。そのことについて、生徒
本人はもちろんのこと父兄にも知らせないから
プライバシーの
保護になっているんだというような理解があるようでございますけれども、仮に
皆様の御子弟がそのように、どのように判定されているかわからないということになりますと非常に問題ではないだろうか。私たちは大変心配をいたしております。
学業成績というようなものあるいは評価というものが全く
本人に知らされないとすれば、むしろ不信感というものが募っていくのではないか。私はかつて教師の経験がございますけれども、そういうものを全部公開をして、まあ余計な
調査はやる必要はないと思いますけれども、学業の成績などにつきましては、よく話し合ってコミュニケーションをとっていくということが信頼
関係をつくり上げる一番重要な点ではないかというふうに考えております。
診療記録にいたしましても、実は私はこれは非常に不公平だしおかしいと思っておりますのは、
本人に対しては非常に厳密にこれは知らされないということになるわけですけれども、実際にそのカルテがどのように現在
処理をされているか。
医療情報システムといったようなものを見ますと、カルテは集中管理をされまして、それを扱っていらっしゃる方はお医者さんでも看護婦さんでもなくて技術屋さんである、あるいはインプットをする場合にはアルバイトを使っているというケースが非常に多うございます。そういうところから
情報が流れるのではないかと思いますけれども、私どものところに訴えられましたケースとしては、これはある国立大学の有名な附属病院なんですけれども、そこに入院をされた方が退院をされましたら、その途端に
自分の病名に対する薬のカタログがどさっといろいろなところから送り込まれてきた。これは
自分の病名が流れているのであるということで、その方は非常にショックを受けたということで私たちのところに問題を持ってこられたわけですけれども、こういったようなことがある反面、
自分の命にもかかわるような
内容について見せられない。コンピューターで
処理する場合、あるいは最近ですとICカード化などということもありますけれども、絶対にその
内容が間違っていないという保証はないわけで、仮に血液型が一つ間違って登録されていたとすれば、輸血などでは死に至るかもしれないというようなことがあるわけでございます。
事例はたくさん挙げたいわけですけれども、特徴的なものにとどめさせていただきますが、このように見てまいりますと、私たちの
生活ですとか命ですとか、あるいは一生を左右するような重要な
自分に関する
情報が知らされないということが今回の
法案の中身ではないのかなというふうに私どもは受けとめているわけでございます。ぜひこういう点は御留意をいただきまして、修正をしていただきたいというのが私たちでございます。
さらに、
統計法の問題につきまして修正案が出されておりますが、これは確かに守秘義務の範囲の拡大ですとか管理の適正化であるとか罰則の強化であるということで、従来よりは多少いいのかなというふうに思いますけれども、私ども先般国勢
調査一一〇番ということでやりましたときに、朝から電話が鳴りっ放しという状況の中でいろいろ訴えられたわけでございますが、私たちとして一番多く件数を扱いました問題というのは、顔見知りの
調査員に
内容を知られたくないということなんです。
調査員には確かに守秘義務がありますけれども、知られたくないという私たちの願いといいますか、
権利とも言えると思います、それと守秘義務では全くすれ違っている。そういう
意味では、少しよくなるかなということはありましても、今回の修正案というのは
国民の
立場には立っていないというふうに私は思うわけでございます。
私たちはこのような状況を見ますと、現在
政府が十三億八千万件程度の
個人情報を保有されているということなんですが、そのうちのどのくらいに私たちがアクセクできるのか、非常に問題があるのではないか。私たちの税金で集められた私たちの
情報がもしほとんど見られないようなことになるのでしたら、非常にこれは不公正な話ではないか、おかしいのではないかといったような疑問も起きるわけでございます。私たちとしてはこの
法案がどのような性格のものであれ
個人情報として扱われる以上、
プライバシーの
権利が保障されなければならないと思っておりますが、
プライバシーの
権利を
政府がどのように保障をされるかということは、一国の民主主義あるいは文化水準のバロメーターかと存じます。ぜひ私どもの
意見を取り入れていただきまして、
国民の
立場に立って人権を守るという
立場からぜひ抜本的な修正をお願いしたいと存じます。
どうもありがとうございました。(拍手)