○本間
公述人 税の専門家の
立場から、今提案されております
政府の
税制改革案について問題点を指摘したいと思います。
税制改革の必要性は、各種世論
調査を見ましても、これは非常に高い形になっておりますし、私自身も非常に
税制改革の必要性は認めておるわけでございます。シャウプ勧告以来四十年近く、
我が国の
税制は、場当たり的に導入されました租税特別
措置等によりまして非常にゆがめられておりますし、時代の進展という
観点からいっても、
国際化にふさわしくない
税制になっているということも事実でありましょうし、それから、
高齢化社会に対する
対応としての
税制という
観点からも、不十分な点は十分にあろうかという感じがいたしております。
しかし、
現状では、今提案されております
政府の
税制改革案が
国民の大多数の支持を得ているかと申しますと、必ずしもそうではないのではないかという感じを受けております。その理由は恐らく
幾つかの理由が考えられるのだろうと思います。一つは、
日本国民の知的
水準が低いから
理解できないという考え方もございましょうし、あるいは情報不足、どういうような道筋で
税制改革が行われるかという情報不足が不安を生むという形で
国民の
理解が得られていないということが第二番目に挙げられましょうし、あるいは第三番目には、これは
国民が考える
税制改革の理想像と現実の提案との間にギャップがあるという
ぐあいに感じ、それが不満を生み出しているということも考えられようかという感じがいたします。
私は、第一に、やはり情報不足が非常に大きいのではないかという感じを受けております。昨年までは、
財政再建ということで
財政は大変だ大変だということを言いながら、ことしになりますと、
政府の発表で二兆四千億円の
減税の
税制改革案を出してくる。
税制改革と
財政改革の間にはどういう
関係があるのかということが一つ出てこようかと思いますし、あるいは
高齢化社会に
対応するのだということで
税源拡充論を強調しながら今なぜ
減税をするのだという、そういうロジカルな面での説明というものも必ずしも明らかにされていないような感じを受けております。
そういう意味で私は、
税制の専門家といたしまして、短期的な
税制と
財政のかかわり方、これは
財政計画というようなものを含めて、例えば特例国債の脱却と
税制改革はどういう
ぐあいにつながっているのか、そういう
内容をもう少し具体的に提示する必要がありはしないかという感じを受けております。
それからもう一つは、
高齢化社会に
対応するということが言われておりますが、具体的にそれが
国民所得比でどの程度になるのかということは、ことしの三月に大蔵省と厚生省が一緒になりまして発表いたしましたものを見てみますと、二〇一五年には大体四五・六%で、
財源的にも調達できるというような形になっております。そうしますと、これは量的な問題というよりも、むしろ
税制改革の必要性は質的なひずみの
是正につながってこなければならないのではないかという感じを受けております。そういう
観点から申し上げますと、
税制改革は
税制の持つひずみをどういう
ぐあいに克服していくかということにつながるのだろうと思います。
今
政府の提案されておりますのは、
課税ベースの組みかえ、これは
所得、
消費、
資産の組み合わせを変えていくということによって
税制改革を実現しよう、こういう構図をとっておるわけでございますが、この
課税ベースのひずみ
是正論にはこれまで
幾つかの論拠というものが示されてきたのだろうと思います。
一つは、これはいわば能力説から受益説的な考え方の発想の転換、つまり広く薄く受益する者が、これだけ
所得の不平等化が改善されてきた
状況では、低
所得者の人もその受益に応じて
負担しても構わないのではないかという考え方。
それからもう一つは、
高齢化社会の中へ参りますと、これまでもそうでありましたように、
勤労所得者のウエートが非常に高くなっていく。そして、それを
所得と
消費を入れかえることによって、
勤労所得者への過重の税
負担というものを、これを阻止していくような
制度を組み込んでいくべきだ、こういう考え方が第二番目にございます。これは一つは活力という
観点あるいは効率という
観点からの
直間比率の
是正論につながっていくわけであります。
それから第三番目は、これはいわゆる水平的公平論からの
税制改革の効果を強調する点でございまして、この部分につきましては、クロヨンというような問題に対して、
消費税のウエートを高めるということがかなり効果があるということが事実
認識としてあるのだろうという感じを受けております。
それから第四番目は、これは高額
所得者へのインセンティブという
観点から、活力ある社会を維持していくためには、それなりに働いた者が報われるというような、そういう
税制というものを
確立すべきだ、こういう論拠が出てきたかと思います。恐らくこれに対する反論というのは、そうは言っても高額
所得者優遇で、そして低額
所得者が逆進的な
税制改革になり割を食うのではないか、こういう租税
原則上の目標額の対立をどういう
ぐあいに克服すべきかということが、今、
国会で
議論を求められているところであろうかという感じを受けております。
こういう目的あるいは理念から申し上げまして、今提案されている具体的な
税制改革案がどの程度効果的なものかどうかということが、これが
内容の
検討としては問われる必要があるわけでございます。
税制改革を推進いたしますときに手段は
三つございます。
課税ベースの組みかえ、
所得、
消費、
資産を組みかえることによって
税制というものを動かしていく。それからもう一つは、税率構造を変えることによって税
負担構造を変え、そしてそれが社会に対する、あり得べき社会の実現へ向けて役立つ。それからもう一つは、一つ一つの
課税ベースの中の捕捉の程度をどういう
ぐあいに考えるかということが問われる必要があるわけでございまして、この
三つをどういう
ぐあいに組みかえるかによって、
税制改革の仕上がりというものがかなり大きな差を生み出していくというのが現実であろうかと思います。
そういう意味で、今提案されております
税制改革を見てみますと、
幾つかの点で私は不十分な点があるのではないかという感じを受けております。
一つは、これは
制度上認められております租税特別
措置、特殊な職業を持った人々が特別な
税制上のメリットを受ける
制度が温存をされている
状況。これは
税制がすべての
国民にとって平等に与えられている
機会均等性を損なう、まさに次善の意味での公平さというものを税がいかに確保していくかということが
税制の
信頼にとって非常に重要なわけでございますけれ
ども、これがほとんど手をつけられていないというのは、少なくとも
勤労所得者を中心にしては非常に不満があるのではないかという感じを受けております。この問題は、恐らく、金額が極めて少ないとか、これは瑣末的な事柄だというようなとらえ方があろうかと思いますが、
税制の持っているシンボリックな意味での公平さという
観点からいいますと、極めて大きな意義を持つということを了解していただきたいという
ぐあいに考えております。
それからもう一つの
改革の方向といたしましては、税率構造をこのたびは十二段階から五段階にするということでございまして、この
簡素化はアメリカの一五%と二八%に比較するにはまだ及びませんけれ
ども、
簡素化をするということは、
勤労所得者のライフステージの税
負担の均衡化という
観点から申し上げますと極めていい効果を及ぼします。しかし、この
簡素化は、
課税ベースをいじらないということになりますと、どうしても縦の再分配の点で問題を生み出してしまう。現存の税
負担構造に比べて、どうしても低額
所得者にしわがいき、高額
所得者にメリットが出てくる。これをどういう
ぐあいに解決をするかということになりますと、
課税ベースの拡大ということが必要になってくるわけでございまして、この
課税ベースの拡大という点に関して今回の
税制改革案は極めて私は不十分であろうという
ぐあいに判断をいたしております。
アメリカの場合には、二段階にして、
所得階層間の税
負担の中立性を満たしますために、
課税ベース、例えばキャピタルゲインにつきましては、それまで六〇%非
課税であったのを全額普通の
所得と同じように
課税をするという形でそれを相殺する
措置をとって、見事に活力と公平というものの目標を両立させているということが言われておりまして、ハードヘッドとソフトハートを両立させた見事な
改革だということが言われております。
それに対して
日本のこの
課税ベースの取り組みというのはいかにも不十分でございます。これは一つは株式あるいは
土地に対する
税制の取り組み方というのが極めて不徹底であるということが私は指摘できようかと思います。株式に対する
課税につきましては、
原則非
課税から
課税に転向したという
ぐあいに言われておりますけれ
ども、実際は有価証券取引税が万分の五十五ございましたから、実質的にはほとんど変わっていない、ただ率が変わったということでございますし、それプラス申告・源泉分離を認めたことによって相殺
措置を導入したということが、極めて税
負担の公正な
負担という
観点からいうと問題を生み出してしまったということでございまして、この
所得捕捉、株式の譲渡益についての確かな手だてを講ずるためには、我々はこれから
納税者番号を含めて適正な捕捉をしていくかどうかということを徹底的に
議論をしていただきたいと思いますし、私自身は、この
納税者番号というのは、単に
所得の捕捉という
観点からだけではなくて、
高齢化社会の行政機構の効率的な運用という
観点からいっても必要になってこようかという感じを受けております。
それから、最後に、
消費税の問題でございます。
これは
消費に対する
課税というものが、例えば
昭和三十三
年度を例にとりましても五四%ぐらいございまして、
日本の国も
間接税の比重が極めて多かったわけでございますが、それが現在二七まで下がってきているというような
状況は、中堅
所得者層に結果的に税
負担をしわ寄せしているという意味では極めて大きな問題を生み出すということが言えるかと思いますし、
消費税の
課税のウエートを高めていくということは必要であろうかと思いますが、しかし今提案されている
消費税に設けられましたタイプあるいは特例
措置というものが、いかに経済に対して非中立的な効果を生み出すかということは強調しておくべき点であろうかと思います。
つまり我々
給与所得者が
間接税の
強化をサポートした大きな理由は、一つには
所得捕捉に役立つのではないかということが言われておりましたけれ
ども、帳簿型が選ばれたことによってこの面のメリットが減殺されてしまったということ。それからもう一つは、帳簿型に加えて五億円以下の事業者に対して簡易課
税制度を設けてしまった、そして卸で一〇%、小売で二〇%を
零細企業の保護という名目のもとに導入したということは、産業構造、産業組織に対して極めて大きなインパクトをもたらすと思います。それと同時に、果たしてこれが零細な企業に対して救済
措置になり得るかどうかということになりますと、これも極めて疑問を持っております。小売のマージン率あるいは卸のマージン率の平均値というのは今設定されておりますものよりも低い
状況になりますから、大多数の人々がこの簡易課
税制度のメリットを受けられないという感じが出てこようかと思いますし、そういう意味では、税で
零細企業を救済するというようなものは税理論からいっても極めて非効率的な手段である。そうするのであれば、ほかの資源
配分に対して影響を起こさないような形でのそういう中小企業対策というものが考えられるべきであって、税それ自身は一般的な形での仕組みを入れておくということが肝要で長続きする、必要だと私は思っております。
最後に、私は、この
税制改革が、
高齢化社会の中でどういう社会構造を是とし、どういう社会の連帯を生み出していくかという、そういう
ビジョンが必ずしも明確な形で
国民に呼びかけられていないのは問題がありはしないかという感じを持っております。新保守主義的な形で高額
所得者が今以上に幅をきかせるような
状況を是とするのか、あるいは今まで我々が
日本経済の繁栄を支えてきた平等主義的な考え方を維持していくのがいいのか、そういう問題についての詰めのある
議論を今後
国会で慎重に
議論をしていただきたいと思います。
私の
公述人としての
意見発表はこれでとどめさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)