○袋田正明君 本日は、このような会場で
意見を述べさせていただくことを心より御礼申し上げます。
私は、税理士として常日ごろより
中小企業の経営と税務に携わっている実務家でございます。したがいまして、私は、今回の
税制改正につきましては実務家としての
立場から
意見を申し述べさせていただきます。
まず第一点は
所得税の
改正について、それから第二点、
相続税について、そして第三点を
消費税の
導入に関して進めてまいりたいと思います。
まず
所得税につきましては、さきの
改正により預金利子についてマル優が廃止されるとともに二○%の分離
課税となりました。また、今回の
改正案を見てみますと、有価証券の譲渡についても
原則課税となっているようであります。有価証券
課税につきましては早くから
課税の公平を図れという声が高かったわけでありますが、今回の
改正案によって一歩前進した思いがいたしております。
そこで、時間の
関係上端的に申し上げますと、
課税の対象とするということは必要条件ではございますが十分条件ではございません。といいますのは、分離
課税では
所得階層間に違った不公平をつくり出します。すなわち、同じ一千万なら一千万という預金でございましても、一億持っている方の一千万ととらの子の一千万の預金を持っている方とは当然
経済的に差が出てまいります。そういう
意味で、そういう不公平をなくすためにはやはり応能
負担を考えなければならないと思うわけでございます。応能
負担をどうやって実現するかといいましたら、これはもう
総合課税しかございません。したがいまして、現在の預金利子及び有価証券
課税についても速やかに
総合課税の
方向に組み入れていただくように提案をいたす次第でございます。
次に、
相続税の方に参ります。私は先ほど申しますとおりに実務家でございますから、具体的な例でもって申し述べさせていただきます。
相続税につきましても、今回の
改正ではかなり抜本的な
改正もあっておりますし、私どもも税の専門家としまして喜んでおる次第でございますが、実は、昭和五十六年の三月に通産省
中小企業庁の諮問結果として
中小企業事業承継
税制に関する
報告書というのが発表されております。その中で数多くの提言がなされているわけでございますが、今回の
改正でそのうち何点かはほぼまあまあいい線に来ているというふうに感じております。
その一つの例は、まず遺産にかかわる基礎控除の
引き上げでございまして、従来二千万円プラスの四百万円掛ける相続人の数であるという計算をしておったのが、これがちょうど今回の
改正で倍になりまして、四千万円に八百万円掛ける人数というふうな
改正になっております。ですから、ちょうど倍額になるわけでございます。これは私事で恐縮でございますが、実は七日の日、二日前ですが、一件
相続税の申告をいたしまして、税法が早く年内に通ってくれないと困るのですが、
消費税の絡みがございまして、実に困っておる次第でございます。
次に、
税率の緩和につきましては、現在最高七五%の
税率が今回の
改正で七〇ということで、幾分緩和をしていただいておるということでございます。
それから、第三番目に小規模宅地、つまり自分の事業用に使っている宅地であるとかあるいは住まいに使っている宅地について減額割合が大きくなっております。事業用については四〇から六〇にダウンした、居住用につきましても三〇から五〇にダウンしたということで、これは
納税者にとってはいい
改正になっていると思います。しかし、先ほど申し上げました
中小企業の事業承継
税制に関する
報告書という
報告書の中で申しておりますのは実はこれは二つでございまして、あと二つ残っているわけでございます。したがって、今
国会でだめであれば近い将来においてぜひとも実現していただきたいというふうに要望いたしたいと思います。
その第一点は、まず
中小企業につきましては、そこの事業者であるとか経営者の死亡に伴いまして、例えば、
熊本あたりでは余りございませんが、東京あたりの地価が高騰している地域におきましては、その相続した財産に対しての
相続税が過重になりまして払えない、しかも売ることもできないというようなジレンマに陥ります。六十一年それから六十年もたしかその問題が引き金となって実は自殺した方がいらっしゃいます。そういう深刻な事態が出ておるわけでございますが、いわゆる潜在化していた
相続税が、ある日死亡という、相続の開始という時点を境にいたしまして金額を伴って具体化してまいるわけでございます。したがいまして、
中小企業の事業を円滑に後継者の方にバトンタッチできる、そういう制度をひとつお考えいただきたいということでございます。それについては何よりまず、人的な問題もございますが、こちらは
税制改正の問題でございますので、やはり税金をそれ相応に安くしていただきたい、事業続行ができるような形までに下げていただきたいということでございます。
具体的に申し上げますと、専門的になりますからはしょりますけれども、いわゆる同族会社あるいは
中小企業につきましては自社株の評価については三つほど方法がございまして、そのうち小
企業、まあ小会社と言っておりますが、それから中会社の小
企業といったものについては純
資産価額方式と類似業種の比準価額の平均に評価するようになっておるわけです。これも前回の
相続税の
改正で取り入れられたものでございまして、その前までは純
資産価額方式だけでいっていたわけです。そうしますと物すごい株価になりまして、それに対する
相続税も多額なものになってくるという結果であったわけです。それが前回の
相続税法の
改正によりまして幾分緩和されたということでございます。しかし、私どもから言わせますとまだ足りないし、それから先ほどの
報告書からいきますと、もう一歩踏み込んで、できれば収益還元方式といったものをお考えいただきたいということでございます。これは、配当還元方式というのは現在ございます。それは大
企業が
中心でございまして、これは配当をしている会社について対象になるわけでございますが、
中小企業で、しかも同族会社である、そういった場合は強いて配当する必要はございません。内部留保をいたします。そういった場合、配当がございませんものですから、勢い配当還元方式ではできないということになります。したがいまして、事業の続行あるいは
企業そのものを考えた場合においては
企業の収益力ということについて焦点を当てていただきまして、例えば過去三年間の税引き後の利益を資本還元率で割っていただくというような形で評価していただければ、
中小企業者についてはかなり助かるのではないかというふうに思います。
これは法人の場合でございますが、次に個人の場合におきましては、農業経営者に認められております農業相続という制度がございます。これは、いわゆる生前の一括贈与あるいは相続時の農業相続という形が出てまいります。
中小企業の個人事業についてもこれに準じて、かなり難しい面もあるとは思いますが、いわゆる事業用
資産、特に
土地に関しまして農業に準じたような、二十年なら二十年の納税猶予をするというような制度をお考えいただければ幸いかと思います。
相続税の方については今の二点がさきの
報告書にもございましたし、私もかねがねそう感じておりました。
次に、
消費税の方に入らせていただきます。
消費税につきましては、私としましては、次の理由から
導入に対しては
反対の
意見を申し述べさせていただきます。
まず、
消費税の
中立性の問題がございます。もともと税法の中で
所得税、
法人税といったものは、これは
中立でないわけでございまして、累進
課税の適用もございますし、そういう
意味では違うのでございますが、間接の場合であれば、これはいわゆる普遍的それから網羅的にかかってまいりますので、これが
中立性を失いますと、
経済活動あるいは
消費活動の中に
影響を与えるようなことになりましたら問題になろうかと思うわけでございます。
今回の
消費税の場合は、
売上税と異なって非
課税品目もかなり絞られておりまして、また
物品税の廃止に伴う買い控えあるいは売り急ぎなどの事態が一時的には出るにしても、長期的には安定するとのことでありますけれども、同じ
消費税の対象になります耐久財と
消費財の
関係が一つございます。耐久財は、例えばたんすであるとか車であるとか、要するに何年も耐用年数がある品物でございます。
消費財は、名のとおり、いわゆる米からみそ、しょうゆに至るまで日々
消費する部分が入ろうかと思います。それからまた、生活の必需品と奢侈品、この
関係もございます。必需品は、これは上がったからといってそれを減らすことはできない支出なわけです。それに対しまして奢侈品につきましては、これは必ずしも購入しなくてもよろしい、今でなくてもいい、先でもよろしい、こういう商品でございますけれども、こういったものに一律に三%でも、低い
税率ではございますが
課税されますと、
逆進性が生ずることはどうしようもないことであろうと思われます。さらに、これは
所得の分配という
意味からいきましても公平性が壊される危険性があるというふうに考えます。
次に、
企業に与える
影響といたしましては、一つは、
サービス業などの人件費割合が高い
企業と、装置、いわゆる設備を使って設備投資の割合が多い
企業との間には、明らかに新たな不公平が生ずると思います。これは
消費税が人件費についてはアウト・オブ・スコープ、
課税範囲外ということで、人件費は除外してございます。したがいまして、
サービス業などにおいては人件費が八〇、九〇となるケースも多いわけでございますが、その場合は、仕入れ控除の余地がほとんどありません。その反面、設備を使って営業をやるような
企業になりますと、設備を購入した年度で一時に
消費税を仕入れ控除ということで控除できるわけでございまして、この面からいいましても、
労働集約的
企業には不利に働き、装置
企業、いわゆる資本集約型の
企業にとっては有利に働くのではないか、このように考えます。
次に、
簡易課税制度の問題について一言申し上げたいのでございますが、年商五億円以下の事業者については売上高の二〇%、卸売業の場合は一〇%でございますが、これをマージンとみなして、
税率三%を掛けて税額を算定する制度が選択できることになっております。これはもともと仕入れ税額の計算の煩雑さからくる事務の煩雑さを省略するための制度と聞いておりますが、売り上げ五億円以下といいますと、全事業者の九六・七%が対象になるというふうに試算されております。
消費税の場合は、
売上税と異なってインボイス、いわゆる税額票を今回の場合発行いたしません。
帳簿方式のアカウント方式をとっておりますが、売り上げの中から
消費税を納める格好になる
可能性があります。そういたしますと、事業者の方は納税分をあらかじめ売り上げの中に取り込んでおく危険性が出るものと思われます。そういたしますと、ちょうど昭和二十四年、もうちょっと前でございますか、旧取引高税が一年とちょっとぐらいですかございましてすぐ廃止になりましたけれども、その取引高税と同じように、累積して
消費者物価に
影響を与える
可能性があるということを指摘しておきたいと思います。
以上、
消費税の
産業、
経済に与える
影響と弊害について申し述べてまいりましたが、私の率直な感想といたしましては、なぜ今
消費税なのかという
必然性を考えてみる必要があると思うのであります。
法案の提案理由におきましては、「
政府は、今次の
税制改革の一環として、
物品税等の
現行個別間接税制度が直面している諸問題を根本的に解決し、
税体系全体を通ずる
税負担の公平を図るとともに、
国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化に資するため、
消費に広く薄く
負担を求める
消費税を創設することとし、本
法律案を提出した次第であります。」このように書かれているわけでございますが、私の
意見といたしましては、まず「
税負担の公平」ということでございますけれども、これはむしろ
消費税の前にやることがあるのではないかというふうに考えます。
まず、
中小企業と大
企業との格差がございますが、これは、一つには税法の規定によるところも原因しておると思います。したがって、大
企業向けの優遇あるいは特例等、
措置法の見直しをお願いをしたいし、引当金等の縮減等も、これを検討の余地があろうかと思います。
それから、先ほど冒頭に申し上げました利子
所得、有価証券
課税、これは
総合課税にして応能
負担の原則を貫いていただきたいと希望するものでございます。
次に、同じく提案理由の中に「
国民福祉の充実等に必要な歳入構造の安定化」とありますが、先ほども陳述人より出ましたとおり、最近の六十一、六十二、六十三年、
自然増収は大幅な増収でございます。現在、今時点で
消費税をすぐ
導入しなければならないとする
必要性はないように思われます。
最後に、シャウプ博士はその勧告書の中で「一般
国民が
政府のためどれ程の寄与をしているか、その量をあいまいにし、寄与していることさえ気付かないようにしてしまう重い間接税の制度に帰えることである。そうなると、
政府は、これら
国民にとつて縁遠い存在となり、
国民は、時折
政府の恩恵にあずかる以外、全くこれと
関係のないものとなる。」このように述べておられます。
どうか、一般
国民が税金の重さに泣く税痛を御
理解いただきまして、
行財政改革等の苦痛にも勇断をもって臨まれますよう切にお願い申し上げ、私の公述を終わらせていただきます。