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中村(正三郎)
委員 本日、税制に関する
調査特別
委員会が開かれまして、朝から審議が始まっているわけでございますが、今
国会、去る七月の十九日に召集されましてから、抜本的税制改正を行うためという目的で召集され、私
ども自民党といたしましては、
税制改革法案の審議を一刻も早くするようにということで与野党協議その他で働きかけてまいりましたが、いろいろな経緯がございまして、六十三年分の所得減税について異例の冒頭処理ということをするようになりまして、六十三年の減税が今
国会冒頭に処理されたわけでございます。
七十日という会期が決まり、その後
総理の所信表明演説が七月二十九日に行われ、
総理はその中で
税制改革の必要性を説かれたのでございます。そして八月に入りまして、この
総理の所信に対する質疑が行われ、そしてその後に、補正予算が出てない
国会といたしましては異例の
予算委員会を衆議院五日、参議院四日という予定でこなしまして、主に
リクルート問題の審議を行ったわけでございます。その後、先日この税制に関する
調査特別
委員会が設置されまして、そしてきょう九月十四日から初めて税制に関する
調査が始められるということになったわけでございます。
この間大変長い時間がかかりまして、五十八日間という期間をかけてきたわけでございまして、これも民主主義の手続きということからかもしれませんが、私
どもといたしましては、
国民注視の課題であり喫緊の課題である
税制改革について、早急な審議入りが望まれたと
考えるわけでございます。何はともあれ審議が始まるということは大変好ましいことでございまして、この
国会審議を通じて、
国会の中の税制に関する
調査特別
委員会において税制に関する論議が深められますことを心から切望しているものでございます。
そういう観点から、私は、ただいま
国会に提出されております
政府提出になる
税制改革関連六法案、また、今大変
国民注視の的になっております不公平税制の問題、こうしたことにつきまして質疑を進めてまいりたいと思うわけでございます。
戦後の
日本の税制はシャウプ税制に始まったと言っても過言ではないと思うわけでございます。そうして、シャウプ税制が決めた税制のストラクチャーを今までずっと守り続けて、その中のいろいろな変化はございますが、シャウプ税制の決めた形を守りな
がら今まで来たというのが
日本の税制の形だと思います。
そして、そのシャウプ税制を行いますときに、占領下におきまして、シャウプ博士がアメリカの專門家四名の博士クラスの方を連れてきて、
日本の隅々まで
調査をされて大変立派な税制をつくられた。確かにこれは
日本の戦後の
経済運営を支える上で大変大きな働きをし、それなりの役目は果たしてきたわけでございますが、今、大変時間がたって、社会
経済情勢の変化のもとで
考え直されるべきではないかという時期に来たのではないかと思うわけでございます。
シャウプ博士が大変熱心に
日本の実情を
調査したという話がございますが、当時の新聞を見ますと、シャウプ博士は大蔵省の提出した
資料は大体無視すると言っていいぐらい見ないで、自分で調べるんだといって、この四人の部下の方たちと
日本国じゅう歩き回ったそうでございます。
そのときの記録によりますと、シャウプ氏がある日、銀座の喫茶店にあらわれて、一杯のコーヒー、六十円だったそうでございますが、飲みな
がら、そこの妙齢のマダムに税制のことを聞いた。博士が、一番困っていることは何ですかと聞いたら、マダムは、税率が高くてきちきち持っていかれると何にもなくなりますという話をされたそうです。博士は、帳簿を見せてください。そうしたら、帳簿などつけておりません、つけても仕方がない。それは困りましたね、あなた方がきちんと帳簿をつけるようにしてください、税務署には帳簿を信用するように言いましょう。それから、何か不満はございませんか、不公平に
考えることはございませんかと言ったら、
日本人でありな
がら第三国人の看板をかけて税を免れている店がある、これは非常にしゃくにさわるということを言ったそうでありまして、博士も、そう、それは悪いことですね、早速
調査しよう。このような末端の
調査から博士はいろいろ酌み取られて
日本の税制に対して答申をしたということだそうでございます。
また、あるときは千葉県の農家に行ったそうでありますが、農家に行って、申告書は自分で書きますかと言ったら、半分は自分で書き、残り三割は役場が、あとは農業組合の人が書きますと答えた。所得の帳簿をつけることがどこまでできますか、また、課税標準はどんなふうに伝えられていますか。農家の方は、自分の所得がどれくらいになるかわかりません。税が高いことは全く高い高いと言うのだけれ
ども、それがどれくらいだかわからない、幾ら納めたかわからないという返事だった。全く税について
国民の理解も薄いし、大変な戦後の
経済の混乱期にこうした
調査を行ってつくり上げたのがシャウプ税制であったわけでございます。
しかしな
がら、それから今まで約三十八年たちまして、いろいろな変化が起こってまいりました。シャウプ税制が
昭和二十五年でございますから、そのときの
日本のGNPが三兆九千億円、今三百三十一兆円、そして産業構造も非常に変化いたしてまいりまして、第一次産業が二十五年当時は二六%のシェアであったのが、今は第一次産業はたったの二・八%のシェアしかない。第三次産業は当時四二%あったのが今六一%のシェアになっている。そして、そういうところに就労する人口も、当時第三次産業に就労する人口は二六・六%だった。今第三次産業に従事する方が五八・一%。一人当たりの可処分所得は、当時アメリカの十四分の一で四万一千円、今は二百十七万二千円、これは六十一年の統計でございますが、アメリカの三分の二、為替レートによってはアメリカをしのぐというようなふうになってまいりました。
そして、よく言われることですが、この所得構造を見ますときに五分位で比較する方法がございます。第一分位の所得と第五分位の所得の比較が当時は
日本で五・八倍、一番下の人と上の人で五・八倍であったそうでございます。それが今は二・九倍になっている。アメリカは当時第一分位、第五分位のお金持ちとお金の稼ぎの悪い人との差が九・五倍だった。今も九・五倍で変わっていない。そして、ユーゴスラビアに行ったとき聞いたきのでございますが、社会主義国ですがどうですかと言ったら、やはり労働者の平均給与の六倍の給与を
社長はもらうのだということをユーゴスラビアの人から聞きました。それらの外国に比べて
日本は極めて所得の平準化された国になってきたということが言えると思うのでございます。
また、消費の面についても大変な変化がございました。当時、シャウプ税制時代には三種の神器と言われた白黒テレビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫、それが
昭和四十年には今度は三種の神器は力ラーテレビ、カー、クーラー等に変わってきた。現在はカラーテレビの普及率が九九%、電気洗濯機の普及率が九九%、電気冷蔵庫九八・三、ルームエアコン五九・三、乗用車七一・九の普及率に変わってまいりました。この変わってきた消費の内容にもかかわらず、シャウプ税制の時代に大変嗜好品、ぜいたく品、奢侈品と
考えられたものに課せられた高額の物品税が、いまだにこうしたものにかけられているというひずみも起こっているわけでございます。
家計支出に対するエンゲル係数も、当時の五一・七から二四になった。そして、家計支出の中のサービスに対する支出の割合が、当時は統計がないぐらい少なかった。
昭和四十二年には支出の中の四二・四%がサービスに対する支出であった。それが現在は五二・九%もがサービスに対する支出であるというふうに変わってきたわけでございます。
そして、財政の支出の構造も大変変わってまいりました。例えば社会保障
関係費でございますが、一般会計歳出に占める割合が
昭和三十年には社会保障
関係費は一〇・五%にすぎなかった。千四十三億円であった。それが六十三年には一八・三%、十兆三千八百四十五億円というように、社会保障
関係費が非常にふえてきた。これは我が国が高齢化社会に急速に進みつつあるということも反映されているわけでございますが、また社会保障
関係のいろいろな事業が充実されてきたということによるものだと思われるわけでございます。
また、その間に人口構成も大変変わってまいりました。昔は二十歳から六十四歳までの人が十人ぐらいで六十五歳以上の高齢者一人を支えていたのが、現在は約六人で一人。二十一世紀には二、三人で一人を支えなければならなくなる。よく言われることでございますが、こうした大変な変化が起こってきたわけでございます。
そして、当時のこうした支出だとか消費性向だとか所得の状態からいたしまして、シャウプ税制がつくられたときにおきましても、直接税、間接税の比率というのは直接税五五に対して間接税四五であったわけでございます。そのシャウプ税制のストラクチャーを守りな
がら来た今現在、直間比率は七二対二八というふうに、極端に直接税に
負担がかかっているというのが
現状でございます。シャウプ税制をつくったときの
最高税率、所得税の
最高税率が五五%、法人税は三五%。所得税はその後上がって七五%の
最高税率になり、今は前回の改正で六〇%となり、法人税は今四二%まで上がり、
政府の御提出になった案では三七・五を目指しておられるということでございます。
事ほどさように、こうした
経済の変化、
経済の大きさの変化のみでなく構造的変化、質的変化、そう言ったものを当時の
経済に合わせたシャウプ税制の骨格において何とかやってきたというのが今までの税制の状態でありまして、いろいろやってきたけれ
ども、そこにいろいろな無理が出てきた。この変化に
対応しなければいけない。このままでいくと、今現在起こっていることでありますが、大変いろいろな不満が起きてくる。
所得の非常に確実に把握される給与所得者、そういう方たちがだんだん給与所得が上がってくる。上がっていくと、シャウプ税制のころは垂直的公平ということでお金をいっぱい稼いでいる方から取ろうという税制でありますから、累進構造があった。今でもあるわけでございますが、それがたんだんきつくされてきた。それで、自分がちょっと余計な給与をもらうと上の税率区分に入りますから、急激に税で取られるお金が多くなっていくという不満もございます。今まで消費支出の中では主に物品にのみ税をかけていたのだけれ
ども、今はサービスに対する支出が非常にふえていますが、そのサービスに対する支出にはシャウプ税制のシステムでは税金がかかっておりませんから、そこでもってカラーテレビだとか自動車だとか、今ぜいたく品でなくなっているものに高率の税金をかけなければならない、しかも十分な税収が上
がらない。さまざまなひずみが出てきていると思うわけでございます。
そうした今の社会
経済情勢に合わない基本的なストラクチャーのもとにやってきた税制だから、不平不満、不公正感が出てくる、重税感を
感じる方がいるわけでありまして、その税制を抜本的に改正することこそが私は不公平税制の是正であると思うわけでございます。
そういう意味で今度
政府の御提出になっている法律案について伺いたいわけでございますが、このような不公平税制の是正というものは、いろいろな今言われている不公平税制の個々の問題を追及することも大切でございましょうが、やはり根本的には抜本的な
税制改革をやらなければなし得ないものだと
考えますが、
総理のお
考えと伺いたいと思います。