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水野参考人 御
紹介いただきました
水野でございます。
エイズの問題というのは、だれが何とおっしゃられようと、やはり現代では極めて重要な問題であるということについては間違いがないと私は思うのです。幾ら日本人の
患者数がアメリカに比べて少ないといいましても今後ふえないという絶対的保証はないわけでございますし、どういうことが起きるかというのはわからない。したがって、
エイズの蔓延防止
対策ということをおやりになる、例えば
厚生省がやるとか
国会で法案をつくられるということについては、私は基本的には賛成でございます。
ただし、現代にとって
エイズ問題で今何が一番重要かというのは、やはり
エイズについての情報提供と申しますか、俗に言うPR、これが一番必要なのではないかと私は思うのです。これは先ほど来も御指摘になっておられますように、必ずしも現在のところ非常にうまくいっているとは私も思っておりません。むしろこの法律を、私は法律そのものは必要だと思うのですけれ
ども、どうやって国民に
エイズの問題を知ってもらうかということに重点を置いた法律というふうなぐあいにすることはできないだろうか。それが今一番必要ではないかと僕は思うわけであります。これは最初
厚生省が提案されてから若干修正もありまして大分ニュアンスは変わってきてはおりますけれ
ども、例えば依然として罰則規定というのが残っているわけでございます。私は、いかなる場合も喜んで
エイズになった
患者というのはだれもいないと思いますので、それにさらに罰則を加えるということはいかがなものか。今残っている罰則というのは、知事の命令を聞かなかったときに罰則があるわけでございますが、ただ私が罰則の中で残しておかれた方がいいだろうと思うのは、
医師の守秘義務でございます。
こういうようなことが私の基本的な
考え方でございまして、法律を出すこと自体が国民にある種の啓蒙を与えるということは事実であると思いますし、しかもその法律全体が国民に
エイズの問題を知ってもらう、そういう角度からの法律というふうなものが重要なのではないか、これが第一点でございます。
それから第二点は、分けて考えるというと言い過ぎかもわかりませんけれ
ども、今日、日本の
エイズのキャリア並びに
患者というのは二
種類あるのではないかと私は思うのです。
一つは、これはまことにお気の毒であるわけでありますけれ
ども、ヘモフィリア、つまり血友病の
方々が
感染された。これについてはいろいろな
議論があるわけでございますけれ
ども、私はやはりこの
方々は国が何らかの形で救われるということがまず第一に必要だと思うのです。私はこれについては、非常に個人的な見解かもしれませんけれ
ども、裁判によって決着をつけるというふうなことをやりましても、
患者はいずれその間に死ぬわけであります。だからそういうことではなくて、今かかっていられる
方々に即刻手を差し伸べる、これは現に
厚生省はやり始めておられるわけでございますけれ
ども、そういうことがやはり法律をおつくりになることと同様に必要である。
もう
一つは、これは内閣法制局の見解を聞かなければならないという面はございますけれ
ども、今度お出しになるというか、現在出ているものからヘモフィリアの
患者を対象から外すということは考えられないかという気持ちを私は持っております。それは同じ
エイズではないかという
意見もあると思うのです。しかし、それは
行政というのは血も涙もあるものでございまして、同じ
エイズでも若干違うのではないか。僕は決して差別するつもりで言うておるわけではございませんで、片側のヘモフィリアの
方々は余りにもお気の毒であるということから申し上げておるわけでございまして、この辺は僕は法律的には余りつまびらかにしませんけれ
ども、それは検討の余地があるのではないだろうかと思うわけでございます。
それから、巷間一部の方がおっしゃる、大体これを法律として出してきたから問題が起きるんだ、伝染病
予防法で解決すればいいではないかという
意見がありますけれ
ども、私はそれには賛成ではありません。なぜなれば、今の伝染病
予防法というのは明治三十年にできた
先生方御存じの片仮名の法律でございまして、これは発想の原点も相当違いますし、隔離してほかの人に、つまり
社会的防衛と
厚生省では言うわけですけれ
ども、その
社会的防衛論の上にしか成り立っていない、そういう厳しいというか、ごく大ざっぱな日本語で言えば、きつい法律というものの対象にするよりはむしろ私は、今回の
エイズ法案のような形で
エイズだけ特別にお考えになる方がいいのではないかと思います。
それから、よく言われるもう
一つの
意見は、そうは言うけれ
どもエイズというのをやるのならほかにもいろいろあるではないかという
意見があると思うのです。しかし私は、確かに
エイズに似たような
感染経路をたどっている疾病というのは
幾つかあるわけでございますけれ
ども、それを一緒くたに初めからやるということではなくて、まず一番
社会的に関心の強い
エイズのPRを中心とした法案をおつくりいただいた上で、もしその後いろいう言われているような
病気、つまり
感染経路が似ている
病気がまたさらに問題になってきたときには再度
議論するというふうな形でよろしいのではなかろうかと思います。
それともう
一つ、私はぜひとも
先生方に考えていただきたいと思いますのは、ほかの
参考人がおっしゃったけれ
ども全く同感なのは、非常に
エイズについて国民に誤解があるということでございます。その誤解の最たる例を私が実際に見聞しましたので御
紹介したいのですが、どこの大学とかということはちょっと申し上げるわけにまいりませんが、ある大学病院へ
エイズの
患者が来たわけです。それで、とにかく病院長以下が非常に慎重に診断をした結果、間違いなしに
エイズだということになった。ところがその
患者は、余り詳しく言うとわかったらまた困るわけでございますが、アメリカにいたわけなのです。アメリカで
感染した。それでアメリカの病院へ行ったところ、アメリカの病院で、おまえは
エイズだから日本へ帰れと言われた。それで帰ってきてその大学病院に行ったわけです。大学病院側では、絶対にあなたの秘密が漏れないように別の部屋でちゃんと
治療するから安んじてうちの病院へ入院しなさい、こう院長が言ったわけです。この院長というのは大変人間味の豊かな先生で私の尊敬する方なのですが、じゃあ先生、ちょっと三、四日考えさせてくれと言ってその日は帰ったというのです。
三、四日したら院長室へ大きなかばんを持ってやってきまして、先生、いろいろ考えました、しかしまことに残念ですが、私がここへ入院したら必ず私の住んでいるところに知れるであろうということはもうほとんど疑う余地はない、知れたら必ずこれは村八分になる、したがって、もともと
自分はアメリカで
感染したのだからこれからアメリカへ帰る。帰るという表現をされたそうです。先生に非常に好意的にいろいろとおっしゃっていただいたことは一生感謝していますと言って、入院しないと言ってやってきたわけです。それで院長先生はもちろん医者ですから、君、そういうこと言わずにもう一遍考え直したらどうかとか、うちでは漏れぬようにするよとかいろいろおっしゃったのですけれ
ども、それは先生が大学のプロフェッサーだから世の中の細かいことは
御存じないし、また田舎の状態というのはおわかりいただけないのです、したがって、
自分はこのままアメリカへ行ってそのうち死んだということになるでしょう、これが最後のお別れになると思いますが、先生には非常に感謝しています、そう強く言って実はアメリカへ帰ったそうであります。
その
患者がその後アメリカへ帰ってどういう転帰をたどったかについてはよくわからないらしいですけれ
ども、私はこの一例は大変重要だと思うのです。これはだれが悪いのかと言えば、私は国民が悪いのだと思います。そういうことが日本の
現状で起これば、マスコミが書くとか書かぬとかという話とは別で、必ずやはり村八分みたいになるわけなのです。そういうことになってはいけないという
意味でこの法律を私は出していただきたいということを申し述べたいと思います。
それからなお、法律に直接的な関係はないかもわかりませんけれ
ども、私がぜひこの機会をちょうだいして申し上げたいことの
一つは、これは
厚生省でやれることであるのかもしれませんけれ
ども、法律に盛れと言っているのではないのです。つまり、
エイズの問題というのは確かにウイルス学者にとっては大変な関心があるし、
臨床医にとっても重大な問題であるし、公衆衛生にとっても重大な問題であることは間違いありません。しかし、この問題は、私はもう少しマクロ的に見る必要もあると思うのです。先ほど来おっしゃっておられますように、
社会とか経済とかあるいは精神医療とか、そういうふうなものを含めて非常に重要だろうと思うのです。したがいまして、何か
エイズを中心にした研究所のようなものがつくられるということは、私は
エイズをむだにしないことにもなると思うのです。
エイズの問題というのは、単なる
エイズの問題ではなくて、やはり人類自体の文明論でも、文明論というと軽いもののように思われても困りますが、要するに文明とのかかわりというのも非常にあるわけです。あるいは家庭というものがどういうものかというふうなところにも関連するのではないかと私は思うのです。そういう
意味においてぜひこれを機会に、災いを転じて福となす、そういう感覚でそういうものをおつくりいただきたいと思います。
それから最後にもう一点だけ申し添えたいのは、私は
厚生省ではどういう方法でどういうPRをするのが一番国民にいいかという問題について検討を直ちに始めていただきたいと思うわけです。何もこれは社労でやってくれと言っているのとは違うのですが、
厚生省でおやりいただきたい。それはなぜかといいますと、PRというのは元来、大体記者クラブに頼んで原稿を書いてもらうという格好が多かったわけでございますけれ
ども、これからの時代はそういう時代ではないと私は思うのです。本当にやろうと思えばいろいろな方法があると思うのです。
先般私はスウェーデンへ行きまして、スウェーデンの薬局はどこの薬局でも
エイズのパンフレットを必ずちゃんと台に置いておりますし、表を通ると、要するにショーウインドーみたいなところにちゃんと
エイズのPRをしてあるわけなんです。そういうようなことは日本の薬剤師会にちょっと話をされれば直ちに御
協力いただけることだと私は思うし、それから病院にしても家庭医の先生のところにしてもそういうポスターを張っていただけるということは十分にできると私は思うのです。ポスターを張ったから直ちに国民の意識が変わるかどうかは別ですけれ
ども、やはりそういうことを繰り返してやっていく、それ以外にないんだということをスウェーデンの保健省でも言っておりましたけれ
ども。それで、薬局側はそれによってコンドームが売れるというメリットもあるということはもちろん言っておるわけですけれ
ども、私はそれでいいのではないかと思うのです。
したがって、本当に
エイズというものが国民に理解されて、これは単なる心筋梗塞とか糖尿病とかいうふうな
病気と何ら変わるところがないんだ、しかも伝染力はB型肝炎なんかに比べればはるかに低いわけですから、そんなに恐れることはありませんよということも言ってやるべきです。ただし、私は、アメリカなんかでも非常に問題があると思うのは、アメリカでさえ
エイズの子供が学校へ行くというと父兄がとめるというふうな事態が起きているわけです。こういう点から見て、僕は別にアメリカをよくも悪くも言うつもりはありませんけれ
ども、どこの国だってやはり基本的にはそういう偏見みたいなものがある。これは偏見を打破するためにも、しばしば偏見で
国会で問題になることがありますが、この
エイズというものと本気で取り組む必要があるのではないか、私はそんなふうに思います。
どうもありがとうございました。(拍手)