○保田
参考人 全国ヘモフィリア友の会会長代行の保田でございます。
私は、
全国ヘモフィリア友の会を
代表いたしまして、
エイズ予防法案に関する
参考人としての
意見を述べさせていただきます。
御存じのとおり、我が国の
血友病患者約五千名の四割、二千人が、その
治療に用いた
血液製剤から
エイズに感染をいたしました。他の感染原因で感染した人たちが数十名にとどまっている
日本でこれだけの
犠牲者が
血友病患者から出たということは、いかに
血友病患者の
エイズ禍が悲惨な深刻な実情にあるかを物語っていると思います。とりわけ、昨年九月厚生省の研究班の報告にもありましたけれ
ども、
感染者の約
半数が未成年者であります。これは私たち
血友病患者を襲った
エイズ禍の極めて深刻な悲劇性を物語るものであります。私たち
血友病の
患者、家族そしてきょうここにはまだ来られない幼い
血友病の子供たちの将来は、まさに我が国の
エイズ政策が本当に正しく遂行されるかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。その意味で、私たちは現在
政府が
国会に提案をしています
後天性免疫不全症候群の
予防に関する
法律案、いわゆる
エイズ予防法案に強い懸念を持っております。そして、できるだけ速やかにこれを
廃案にしていただきたいというふうに願っております。
その
理由について若干述べます。私たちがこの
法案に
反対する最も大きい
理由は、この
法案のよって立つ
エイズに対する基本的な考え方が間違っているのではないかということです。
エイズは、一九八一年に報告をされました新しい疾病です。そして、感染症です。しかし当初、この感染症としての特徴がわかる極めて短い期間を別にすれば、アメリカにおける旺盛な科学的な調査によって、この感染症としての特徴、とりわけ感染経路、感染力等については極めて早期に解明をされました。当初原因がわからなかった時期においては、現代のペストであるというふうに恐れられ、そしてその致死率が高いことから極めて恐怖感を持って
社会に受け入れられました。しかし、その後の研究は、輸血や周産期における母子感染を除けば、これは新しい性行為感染症の
一つです。人から不特定に拡散をするということはなくて、大人の
責任ある
理解と行動によって回避できる病気であるということがはっきりしてきました。このことはWHOを問わず、
世界の趨勢であります。また、それが科学的な見解であると私は考えております。
しかし、
日本ではまだこの疾病の特徴が正確に
理解されてないように思われてなりません。感染力は極めて強く、そして不特定であって、極めて恐ろしい病気であるというふうに
社会に印象づけようとしているというふうに
理解されてなりません。私たちは、
エイズ予防法案がこのように
世界での研究や対策の動静とは別に、極めて恐ろしい病気として考えて立案されたというふうに考えております。この
法案を中心的に推進をしているある参議院の議員さんが「
日本の
エイズ」という本を書いておられます。最近出た本です。その中で
エイズの疾病としての特徴を明らかにしておられますが、このように書いておられます。
まず、表題は「
エイズはペストをしのぐ」というタイトルの中で、「
エイズはかつて人類が遭遇した疾病の中で最も恐ろしいものと言えよう。致死率が極めて高いこと、性行為による感染率が高いので拡散しやすいこと、また
治療が困難なことからペストに例えられる。この恐ろしい
エイズを「現代のペスト」にすることは、何としてでも防がなくてはならない。」そしてまたさらには、「
エイズはある面ではペスト以上に恐ろしい。ペストはペスト菌によって起こる感染症で、ネズミからノミを媒介して感染する。しかし、
エイズウイルスは人間の体液や血液に潜んでいるために人間を媒介として感染する。恐らく
エイズウイルス、はペストが流行したときのスピードの何倍もの速さで運ばれるに違いない。」だから、知事が健診命令や調査権あるいは生活指導権を持つ今度の
法案が必要であるということを力説しておられます。しかし、このような見解は誤りであると私たちは断言できると思います。
エイズは、極めて恐ろしい病気であるということを強調し、あたかも人を介して不特定の感染が起こるかのように描かれております。
感染者は中世のネズミ以上に危険な存在だとされております。だがしかし、
エイズが報告されて既に六、七年がたちますが、その中でも
血友病の
患者の
エイズ感染は
世界的なもので、恐らく全
世界に数千人が感染をしていると思われます。そしてその感染は既に終わってから数年はたっております。しかし、
血友病の家庭に
配偶者を除く家族に感染した例は報告されていないのです。家族内でおっても親と子、兄弟同士の感染というのはあり得ないのです。いわんや
社会生活において学校や職場で感染が起こるということはあり得ないことなのです。それでは、
エイズは極めて
予防しなければいけない疾病であるから、
社会に過剰でもいいから
エイズに対する恐怖感を植えつけて
予防しようという考えに出ているのでしょうか。そうであるとしたならば、その考え方は
感染者の
人権や生活、とりわけ
日本においては国の過誤によって二千もの
血友病患者の
感染者を出してしまったこの実態を全く見ない非情なやり方、非道な考え方だと言わなければなりません。感染に加えて、さらに
予防法案による締めつけによって
社会を防衛する、さらに二重に犠牲を強いるということなど許されるものではないと私たちは考えています。
国がまずやるべきだったことは、
法案をつくるのではなく、このような
エイズに対する無
理解と
偏見をたしなめ、正すことだったのです。
予防に関する正しい認識がされるよう努力し、
感染者や
血友病患者に対する
偏見や
差別をなくすことが必要だったのです。ところが、
政府が行ってきたことは、神戸や高知の例のパニック騒動でも御存じのとおり、その中での
法案作成だったのです。したがいまして、いまだ私たち
全国の
血友病患者には、
感染者に対するあるいは
血友病患者であるということでのさまざまな
差別や
偏見があります。これらを具体的に、就業や教育、
社会生活の場面で
感染者であるということであっても
差別されるいわれはないのだということを正しく
社会に伝えることが必要だったのです。
私たちは、
エイズの
予防が必要でないと言って
いるのではありません。私たちは当初より、
エイズは新しい性行為感染症であり、感染の
予防は性に対する新しい考え方に立脚をして現実的になされるべきことを主張してまいりました。また、それが一番の対策であるということも主張してまいりました。だから
法案が作成、提案されました段階で、私たちは、
エイズは
一つの新しい性行為感染症である、公衆衛生学上はそうであるということをはっきりさせて、欧米でとられているような
感染者あるいは疑わしい人たちの匿名の検査・
治療施設の創設、その他
感染者の徹底した
人権を守る等性病
予防法を抜本的に改正をして、これを活用して対策を立てるならば立てられるべきであるということを主張してまいりました。しかし、
政府でとられた方針は
エイズ法案という単独立法です。これはやはり
エイズを特別視し、際立たせ、あたかも
感染者が何か危険なように植えつけてしまう、そういう役割を果たすのではないでしょうか。
私たちは、この点で
法案は
エイズという病気に対する基本的な
理解が間違っていると思います。したがいまして、
法案については速やかに
廃案として、公衆衛生学、性教育その他専門家の協議で
日本における
エイズ対策として間違いのない方策を早急に打ち立てられることを願っております。
次に、
救済問題です。
私たちは、ことしの二月東京で開いた総会におきまして、
血友病患者の
エイズ感染は
薬害であって、国、メーカーはその
責任を認めて
被害の完全
救済をすべきことを決議いたしました。それは、私たちが
エイズが騒がれた時期の
血液製剤の
治療を受けた者の一人一人の体験として、
エイズに感染することなど全く予想しないでこの薬は安全であると信じて使用してきたからであります。しかも、アメリカでは八二年、
昭和五十七年ですけれ
ども、
血友病からの
エイズ症例は報告をされております。
血液製剤からの感染で発症をした八二年でも、既にアメリカでは子供が発病をしております。そして、
血液製剤についての対策がとられていったのです。私たちが一九八三年、
昭和五十八年に厚生省に
要望書を出しました。そのときに資料を作成していて私たちも鮮明に覚えていることは、
日本の
血液製剤がそのルーツをたどれば、原料という面から見れば、国内のメーカーが国内で生産をしているものであっても、アメリカ、いわば
エイズの流行地域であるアメリカから血漿を輸入してつくっている。したがって、ほとんどがアメリカの
血液製剤、いわばアメリカの
血友病患者と同じ感染のリスクにあるということを発見したことでした。それが国に対する
要望をする動機だったのです。
私たちが素人で調べても、当時そういう認識に達していました。それがメーカーや薬事
行政、血液の安全をつかさどる国にわからなかったはずはありません。そして、
日本の血液は当時は
エイズからは完壁に安全だったのです。
日本に生まれ、
日本で
治療をする
日本の
血友病患者が、どうして安全な国内の血液を使わずにむざむざと四割までが感染をしなければならなかったのか。私たちは、これをやむを得なかったということは到底納得がいきません。その当時でさえも、私たちは安全な国内の血液から緊急に
製剤がつくられることを
要望いたしました。しかし、それは一本もつくられませんでした。それで安全な対策、必要な措置はすべてとられたと言えるのでしょうか。
私たちが一応
エイズの感染から免れている
加熱製剤を手に入れたのは六十年です。もう
加熱製剤はどこでも手に入れられる時期と同じだったのです。そこまで何ら具体的な対策はありませんでした。だから、
日本では
血友病Aよりも軽い
血友病Bの人たち、輸血等も十分
治療できる人たち、あるいは軽症や中軽症の人たち、私たちの
全国会のアンケートでも、
血液製剤を月五回以上
注射をする人たちというのは三〇%ぐらいです。年に数回という人たちもいます。そういう人たちも含めて
エイズに感染をしていったのです。どうしてそういう危ない
製剤を使わせたのですか。そのことに国は答える義務があると思います。
日本において危険な非
加熱製剤は一度も回収されませんでした。私たちが話し合うときによく出る話ですが、不凍液の入ったワインは回収されました。私たちが
治療として血液の中に入れる
製剤について重大な副作用が考えられるのに、どうして回収されなかったのでしょうか。だから私たちは、国がその
責任を認めて、
被害をすべて完全に
補償すべきことを要求しているのです。
国は一応
救済案なるものを発表しております。発病
予防、
治療や研修やその他については、私たちが従前から要求してきたものです。しかし、
エイズの
法案との駆け引き的に用いられてきた新規のものとしては、発病
患者に対する
医療費の一万円の差額の
負担、あるいは医療関連経費、交通費等の
感染者に対する支給だけです。これらは
感染者や
患者であればいかなる感染原因であっても、
日本の国、福祉国家としては当然なすべき施策です。
血友病患者の
エイズ感染の
被害を償うという意味ではなくて、
感染者や
患者であれば、みんなが大変です。
血友病患者であろうがなかろうが、これぐらいのことは本当に国が
責任を持って、緊急であれば速やかにすべきことです。しかし、
血友病患者の
エイズに感染していった経緯を考えると、それで
救済がなされたとか一歩前進だとかいうことは到底私たちは言うことはできません。このことを強く主張したいと思います。
もう
一つは、
血液製剤の国内自給の実現です。私たちはいまだ日赤から安全な
血液製剤を受けていません。イギリスでは国内自給を実現したと新聞報道がなされました。この開きがどうしてできたのか。私たちは、我が国の安全な献血から
血液製剤が早急につくられることを望みたいと思います。
最後に、
全国の家族や
患者、あるいは自分の感染も知らずに今元気に過ごしている子供たちを含めて、本当に自分たちのガラスのような生活を自分たち家族で今
血友病患者は守っていると言えます。耐え忍び、じっと我慢をしているというのが本当に実情ではないでしょうか。この
血友病の
患者と家族に、
エイズ禍の悲劇、重荷に加えて、さらに
社会的な重荷になることを課してはならないと思います。
法案をつくることは、本当に家族がぎりぎりのところで生活をしているところに決定的な一撃を加えることを意味します。私たちは、仮にも
法案ができるということになれば、
エイズに感染させられ、そして
社会生活をも奪われるということで二重に悲劇を負うことになり、また、国や
国会に対する信頼を失ったまま生涯を終わらねばならないと思います。そういう悲しい体験をさせないでいただきたいと思います。一誤りを繰り返してはいただきたくないのです。私たちは、
日本における
エイズ対策が前進することを願っています。そして、私たちの
エイズに対する対策、いろいろな考え方は間違っていないと思います。エゴではないと思います。そういう意味で、私たちの今申し上げた三つの点をぜひ念頭に置いて、今後の
エイズ予防法案については
皆さんで十分御議論をいただきたいと思います。一刻も早く
廃案として、
全国の
患者、家族からその
社会的な重荷を解いてください。それはすぐにでもできることだと思っています。
ありがとうございました。