○
田尻参考人 私
どもの
反省を申し上げますと、
東京湾の問題といいますと、従来ややもすると汚れの問題を中心にしてまいりました。しかしながら、
東京湾の海の安全という問題が最近非常に大きく叫ばれるようになりましたが、
東京湾の海の安全といいますのは、何といいましても、
タンカーが一たび
事故を起こしたならば油で覆われて
爆発火災に至るおそれがある、そういうことを考えますと、
東京湾のもう
一つの問題がほとんど見忘れられていたのではないかという
反省をしております。
東京湾は世界的にも最高の過密の海になったと言っても
過言ではないと思います。例えば、
日本における
工業出荷額の約三割を占める、あるいは
巨大タンカーと
外国船が多いことでは
全国一位であります。
海上保安庁の
昭和五十四年の
海上保安白書でも次のように述べております。「著しくふくそうした
東京湾などに出入港する
巨大タンカーは増加の一途をたどり、
衝突による危険を増大させている。もし
大型タンカーなどの
事故が発生し、
海上火災が
陸岸に及んだ場合や油が
港湾全域を覆い尽くした場合の被害はまさにはかり知れないものとなった。」このように言っております。ところが、
東京湾では
船舶の
乗組員やあるいは
パイロット、また
海上保安庁などの
努力にもかかわらず、
東京湾の海の安全は海の
関係者の
努力だけではもはや守れないというのが端的な言い方ではないかと思います。つまり、
陸側からの政策的な
協力がなければ到底守れないということであります。例えば、
東京湾内では
海難が五十九年でも九十七件起きております。つまり、
東京湾の中で今一番重要な問題は過密であります。
水面が足りないということであります。しかしながら、一方において
人工島の
埋め立てが予定されているのは八カ所あります。
湾岸まで含めますと、
開発プロジェクトが約四十ひしめき合っているというのが実情でございます。
そこで、私はただいまから直接的な
海上交通対策について九つの
提案をしたいと思います。
第一は、
台風や暴風雨が来たときの
船舶の
避難錨地の
対策であります。
過密であり
水面が足りないということは、まず第一に、船にとって一番大事な
駐車場とも言うべき
避難錨地が足りないということに象徴されております。例えば、現在二百三十五隻分の
錨地が必要でございますけれ
ども、百二十六隻分しかございません。
横断道路の
人工島ができますと、これが約百三隻に減るということが言われております。そうすれば半分以下であります。このはみ出した船の
錨地をどうするかということは、これは焦眉の急であります。特に
横浜と
中ノ瀬の間やあるいは
川崎、
扇島沖の
状態は
錨泊船で満杯という
状況であります。したがって、私は、まずこれ以上の
埋め立てというものは抑制をしなければならぬ、そうして二番目に、直接的にはこの
錨泊水面を早い
者勝ちということではなくて、大小別あるいは
船種別にきちんと整理をする必要がある、そして何よりもこのはみ出した船をどうするかということの
対策を総力を挙げて考えなければいかぬと思います。
二番目は、
検疫錨地の
確保であります。
外国から帰ってきた船が
検疫を受けるその
錨地がないというのは、言語道断であります。
横浜港の
検疫錨地に至っては、もはや陸地になっております。このようなことでは
船舶関係者にとっては
事故を防止する手だてはございません。
三番目に、
台風がやってきたときの
避難体制であります。もう少し
全国的に考える必要があるんじゃないだろうか。
例えば、沖縄の
金武湾を出港した船あるいは
鹿児島の
喜入を出港した船が、暴風がやってきた、
台風が発生したというときには、もう
東京湾に向けることをやめて、途中の宿毛であるとか佐伯湾であるとかというところに
避難をする、あるいは
金武湾や
鹿児島の
喜入から出港しない、そういうような
全国的な
連携体制が必要じゃなかろうか、そう思います。あるいは、とにかく
定員オーバーでございますから、各
港湾別に受け入れ
適正隻数の歯どめを一応
設定する必要がある。そして
異常気象がやってくるときには、各港でぎりぎりの限界は何隻なんだというような
隻数の歯どめを一応
設定しておいて、それに見合うような
行政指導がなされるべきじゃないかと思います。
四番目は、
環状航路の
設定であります。
これはただいま
野呂さんから申し上げられましたので重複を避けますけれ
ども、
東京湾ではほとんどの
水面が
国際海上衝突予防法によって
衝突を防止されておりますけれ
ども、いかんせん、これは一船と一船との
関係だけを律するのでありますから、
東京湾のように
湾岸がすべて港で、
南北東西に
航路が入り乱れているような
状況では複数の船が向かい合う、その場合にはこの法律は役に立たないわけでありますから、何としても
環状航路、そういうものを
設定しなければならない。現在は、端的に言えば船長が互いにそのときの
経験と勘で、法律的な根拠に頼ることができなくて、何とか
衝突を防止しているというのが偽らざる
実態であります。
次は、せっかく
全国的に
国家石油備蓄基地、つまり
CTSをつくったのであります。あるいはつくっている最中であります。例えば志布志であるとか五島列島の上五島であるとか、福岡県の白島であるとか、
むつ小川原であるとか福井、
全国的なこのような
石油備蓄基地というものをもっと活用する必要があるんじゃないか。
例えば、
喜入におきます日石は、
鹿児島県の
喜入まで
外航船で持ってくる、それから
国内には今度は
国内タンカーに切りかえて、そしてもう少し
中型の船で運んでいるというような
状況であります。このような
CTS、つまり
中継基地を活用して
国内では
中型タンカーで運ぶというような発想が
全国の
石油備蓄基地を総合的に運用することによってとられないだろうかということが感じられるわけであります。これは
昭和四十五年の四月二十四日の六十三国会で
橋本運輸大臣が同じようなことを
答弁されておりますけれ
ども、私はこの
答弁には賛成であります。
次は、
中ノ瀬航路の北口における
航法の改善でございます。
かつて
昭和四十九年十一月九日に
LPGタンカーの第十
雄洋丸がここで
衝突をいたしました。このときの
衝突の
原因は、はっきりした
法的根処が、
中ノ瀬航路に入ってきた船とそれから
木更津航路を出てきた船との直角に交わる交差点で直接的な法的な
整備がなかったということが
原因として言われております。しかしながら、これはいまだになかなか
解決されておりません。これにはいろいろな
方法があると思います。困難ですが、中には
中ノ瀬航路をもっと延長したらどうかという説もあるようですけれ
ども、何としてもこの
状態は官民の英知を挙げて
解決をしなければ再びこのような事件が起こるおそれは十分にある。現在は
パイロットが互いに話し合って何とか
事故を防止しているような
状況でありますけれ
ども、このような
状態は早急に法的に
解決しなければ、言葉の通じない
外国船なんかに対しては非常に
危険性が大きいことを指摘しておきたいと思います。
それから次は、
扇島の
LNGタンカー基地であります。
私
どもは極めて大胆に誤解を恐れずに申し上げるとするならば、次に
東京湾で
事故が起こるおそれの最も大きいところはここではないかと思います。つまり、
LNGタンカーは御存じのように大変な
爆発力を持っております。同時に、一万五千トンの船が横合いから直角に
衝突した場合に、六ノット以上のスピードであれば
タンクに穴があく、そうして場合によっては六分間で全量流出する、そしてその
爆発ガスが
状況によっては四千メートルに広がる。これは
京浜コンビナートの千三百の
タンクが全部含まれます。そして
東京湾で通常
航行している
船舶の
発電機あるいはエンジンのスパークも火種になるわけでありますから、猛烈な
爆発が起こることは決して
過言ではございません。しかしながら、
東京湾海難防止協会の
報告書を見ますと、ここに入ってくる
LNGタンカーは非常に困難な
条件の中で
航行せざるを得ない。端的に言いますと、
東京、
千葉から出港してくる一日二百七十五隻の船に対してことごとく
LNGタンカーの方が避けなければいけない法的な
義務船になるということであります。その第一の壁を突破しましたならば、第二の壁はその前に五つの
危険物船舶の
錨地が並んでいる。その第二の壁を突破しても、第三の壁は二十万トンを含む
大型タンカーのシーバースが四つ並んでいる。しかも、
東京湾で最も
船舶の過密な
川崎、
扇島沖につくられたこのような
LNGタンカー基地というものは、常に大きな危険を内包していると思います。もしこれが
爆発したならば大変な
災害になることは
海上保安白書も指摘しております。
だとするならば、何とかこれを防ぐことはできないだろうか。私は、理想的には将来これ以上
LNG基地が増設されるならば、かつて運輸省が館山に
中継基地をつくろうということを
検討したことがございますけれ
ども、それに類する
東京湾岸に集約基地をつくるべきである、そうしてパイプで運ぶべきである、こう思います。しかし、とりあえずは
扇島の
LNGタンカーについては特別の
航行安全対策が講じられるべきである。特に出入港に対するラッシュを避ける厳重な
ルールを確立すべきであると思います。
それから、便宜置籍船
対策であります。
世界でもこの潜り船は大変嫌われておりまして、
全国で油を流し大変な劣悪な船が、税金を安くしあるいは検査を逃れるためにリベリア、パナマに籍を移して非常に劣悪な
状態で
航行しているためにEC八カ国では入港の禁止を申し合わせたほどで、国際的にも条約は徐々に
整備されておりますけれ
ども、何と
東京湾ではこのような便宜置籍船が
全国で一番多いのであります。
全国の二八%、七千八百七十八隻が入港しております。このような本当に設備の劣悪な船が
東京湾で一番多いということを考えますと、特に
東京湾では世界的にも問題化しているこの便宜置籍船
対策、EC八カ国では港の外でまず
整備点検をやりますけれ
ども、このようなチェックをさらに強化する必要があるのじゃないか、こう思います。
以上が直接的な交通
対策でありますが、あとはしょって二つつけ加えます。
二番目は、コンビナート
防災対策であります。
残念ながら海上に消防法がございません。私たちも
海上保安庁時代これで大変苦労いたしました。ということは、どういうことかといいますと、石油桟橋でも極端に言えば消火器がなくても法的には合格するわけであります。消防法は岸壁から内側だけであります。したがって、シーバースはもとよ
タンカーの危険物の免状も要らないというような
状況ですから、特に石油企業が消防船を持つ義務すらないということでありまして、このような
状態ではあの
京浜港の過密の中で一たび
タンカーの
事故があったならば
湾岸のコンビナートにそれが延焼することを防げないと思う。したがって、何よりも海上消防法をつくることによって企業に法的に海上の消防体制、海上
防災体制を義務づけるべきであると私は思っております。
それから、次はシーバースの設置規制であります。現在、
東京湾では十一のシーバースがございますけれ
ども、何といってもこれは多過ぎるという感じがしてなりませんので、これにもやはり
海上保安庁の重要なシーバースに対する設置規制権限を与えて、そして
海上交通の立場からその位置やそれ以上のシーバースを許可するかどうかということを許可制にすべきだと思います。
それから、大きな三番目としましては、現在、岸壁と防波堤をつくれば港ができる、そういうような安易な
港湾造成に対する
システムが、
東京湾全部を、ほとんど九割を
港湾造成をしてしまった。私は、やはり
港湾造成は乱開発のそしりを免れないと思います。そういうような
港湾造成の場合にもし欠陥港がつくられますと、後で
船舶乗組員の力だけでは
事故を防げないということでありますから、
海上保安庁にこのような場合の安全審査
委員会を設置して
船舶運航の立場から
港湾造成に歯どめをかける、あるいはそれに対して十分な安全審査をやらせるという制度が必要ではないか。
港湾土木と
船舶運航には大きな隔たりがあるのが今日の
日本の特徴であります。そのためにも
タンカーアセスメントが必要ではないか。つまり、
巨大タンカーについては特別な
安全対策を必要とする以上、
港湾造成に際して、その水深は幾ら必要であるか、
航路幅は幾ら必要であるか、
錨地はこんな
錨地が必要なのだというような基本をベースにしたアセスメント制度というものをまさにつくるべきではないかと思います。
最後に、今回起こった潜水艦の
衝突事件の関連でありますけれ
ども、大変不幸な事件が起こったと思います。私たち海の同じ仲間としては本当に同情にたえないといいますか、人ごとではないという感じがします。しかしながら、このような
事故を二度と起こさないためには、何としても
浦賀水道の中における軍用艦船が複数で横切ることに対する抜本的な制度の確立が必要ではないだろうか。今日の
事故を単に二人の艦長と船長の不始末で片づけてはならないと私は思っております。そのためには、
浦賀水道を並んで事実上多くの軍用艦船が横須賀に向けて横切っていく、そのことに対する
ルールをこの際確立しなければ、今度起こるときは
浦賀水道の中で
大型タンカーと
衝突するのではないだろうか。例えば、
大型タンカーが南下中とします。そうして一番艦が横切ったときにはたまたま南下船が余り見えなかったとしても、今回のように十隻も並んで通った場合に、十番艦あたりが通るときにはもう
大型タンカーが南下してきた。
大型タンカーはブレーキをかけても、つまり後進エンジンをかけましても三千メーターぐらいはとまりません。あるいはかじを切っても千メーターの旋回径が要るので
航路からはみ出してしまう。とするならば、物理的に並んで走っている軍艦をよける
方法はないわけであります。こういうような危険が急迫した場合には人力をもってはこの
衝突を防げない以上、やはり制度として、このような横切りの場合には極度にこういう軍用艦船のスピードを落とさせる、あるいは複数の南下船がある場合には一たん
浦賀水道を通り過ぎる、そのようなことをきちんと
ルール化すべきではないかと思います。
昭和六十年にアメリカのロックウッドというフリゲート艦とサントニノ・Rというフィリピンの貨物船が
衝突をいたしました。同じような事例が起こっているのであります。次に第十
雄洋丸のような事件がここで起こりましたならば、
海上保安白書が言っているように、
東京湾は油で覆われ、大
爆発に至るというような歴史的な
災害が起こらないとはだれも保証できないと思います。私は強くこのことを求めたいと思います。
一言最後に申し上げます。
このようなことは現行法ではほとんどできないと思います。残念ながら
東京湾に対する安全行政はばらばら行政であります。このことをもっと総合化して、そして
東京湾全体に二度と
災害が起こらないような海の安全を確立するためには、
東京湾保全法が必要ではないか。瀬戸内保全法というものがかつて議員立法でできました。あの法律は非常に画期的な法律でした。しかしながら、あの法律にさらに海の安全
防災をつけ加えた
東京湾保全法というスケールの大きな法律が求められている。
日本の玄関口である
東京湾を守るためにこれが二十一世紀の展望ではないか、生意気ですがそのように考えます。