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参考人(原司郎君) 横浜市立大学の原でございます。
日ごろ金融論を勉強しておる者の一人といたしまして、二つの法案につきまして
意見を述べさせていただきます。
諸先生方に初めにお断りをしておきたいことは、私ども金融の問題を勉強しておる者から見ますと、今回の二法案というのは、私どもが通常言っておりますホールセール業務といいますか、大口投資家であるとかあるいは
機関投資家であるとかあるいは金融
機関相互の取引であるとか、そういういわばプロの
世界での取引という問題でございまして、きょうの私の
考え方も、そういった
意味ではホールセール業務についての私の
考え方を述べるわけでございまして、小口、個人のようなリテールの分野についてはこの場では
意見を留保する、こういうことでございます。
私の申し述べたい点は大きく四つございます。
第一は、金融自由化、金融革新あるいは金融国際化というようなことがもう叫ばれて久しいわけでございますが、こうしたことに伴いまして、金融システムにおける諸現象の変化がもたらされておるわけでございます。金融自由化、金融革新、金融の国際化、いずれもそれぞれが相乗作用を引き起こし、新しいサービスを伴った新商品の開発を
国内だけでなくて国際的な分野で生み出す、そうした動きといいますか、働きを示すわけでございます。この結果、新しい金
融資産が登場してくるわけでございます。新しい金
融資産が登場してくれば当然新しい市場が形成されることになるわけでございます。特に近年におきます短期金融市場の規模の拡大と多様化は目覚ましいものがあるわけでございまして、きょうの主題ではございませんけれども、今後CP市場の育成であるとか、短期国債市場の
拡充を通じてオープンマーケットの充実を進めていくことが必要であるというふうに、若干横道にそれますけれども、一言申し述べておきたいと思います。
こうして新しい市場が生まれ、市場規模が拡大してまいりますと、自由競争を通じまして、金融システムの効率化と市場と市場との間、この市場と市場との間には国際的な側面も含まれておるわけでございますが、金利裁定等による市場間の調整が行われるわけでございます。そして、この調整を通じて金融システムの
安定性が図られるということになるわけでございます。従来、
日本の金融システムは、競争制限的な規制というものによって、主として信用秩序の維持なり金融システムの
安定性を図ってきたわけでございますが、今後は自由競争を前提とした市場の規模の
拡充と多様化を通じて、金融システムの効率化と
安定性の両者を達成していくということが望ましいわけでございまして、金融先物市場あるいは証券先物市場の創設もこのような金融システムの
流れの中で位置づけることができるわけでございます。
すなわち、リスクの分散や金融の証券化の促進といった要因からさまざまな市場をつくり出すということが最近の金融システムにあらわれた変化でございまして、このさまざまな市場をつくり出すことによりまして、その市場機能の活用を通じて、金融システムの効率性と
安定性を図ることができるということを重ねて強調しておきたいわけでございます。そういった
意味で、金融制度という観点から見ましても、できるだけ各種の市場が創設され、自由競争が行われるような制度をつくることが望ましいというふうに
考える次第でございます。以上が第一点でございます。
第二に、こうした見地から金融制度というものを眺めてみた場合に、私個人は、現在のような業法を基本とした形をとった金融制度というのは間違っているのではないか、証券会社を含めまして各種金融
機関の業務範囲を業態別に規定する、あるいはある種の業務というものがある業態の金融
機関に付着した形で定められているというのは、金融
機関間の自由競争を阻害し、金融
機関の経営上の創意と工夫による比較優位のポイント発揮とリスクの分散ないし回避を妨げてきたのではないかというふうに
考える次第でございます。むしろ、市場の機能の活用を十分に行うため、取引法というものを中心とした金融制度に改めることの方がよいのではないかということでございます。もちろん、金融制度は長い歴史を通じて形成されてきたものでございますから、これを一朝一夕に変えるということは困難であるということはよくわかるわけでございますけれども、基本的には、そうした視点に立って
考えていくべきではないかというのが私の主張でございます。
その
意味で、金融システムにおける取引というものを
考えてみますと大きく四つに分けることができるのではないか。第一は、決済システムでございます。ペイメントシステムといいますか、決済に伴う取引、決済取引というようなものでございます。第二は、金融
機関が間に媒体として入ります金融仲介取引というものでございます。第三番目は、有価証券の発行であるとかあるいは売買の仲介であるとかいうふうなことに見られる証券取引でございます。そして第四番目は、信託取引でございます。これは金融仲介とは私は違うのではないかというふうに区別しておるところでございます。
こうしたそれぞれの取引の健全性の上に立った活性化を促すために、必要な最小限の規制を法制度上加えておく、加えるといいますか、法制度上の規制を付しておくということで、つまり取引法というものがあることによってだけで十分ではないか、各業界はそれぞれの取引法に従って自分の得意とする分野というものの取引のどれに
重点を置くかというのをお決めになればよいわけでございまして、そこに経営上の創意と工夫が生かされる余地があり、またリスク回避の手段というものを発揮する道が通じてくるのではないか、こういうことでございます。今回の金融先物法とそれから
証券取引法の
改正につきましては、つまり金融仲介取引の中に金融先物取引というものを入れる、それから証券取引の中に証券先物取引というものを入れるということでございまして、それぞれの取引の場である市場の健全な発展を目指しているという
意味で、私は二つの法案の成立に対しまして賛成できるわけでございます。
例えば、金融先物について見ますと、通貨先物であれ、あるいはCDのような預金先物であれ、金利先物であれ、そうした金融先物取引というものが成立することによって、各種の金融仲介的な
意味での金
融資産に投資をしている
機関投資家であれ、あるいは法人企業であれ、投資家のリスク分散に役立つわけでございます。その上、今回の
金融先物取引法案を拝見いたしますと、金融先物取引所あるいは金融先物取引業に携わる者を規制しており、一定の資格があれば認可を得てだれでも参入することができるといういわば金融先物取引業法でないという
意味で評価するものでございます。
証券取引法の
改正についても同じでございまして、証券先物取引について特に
証券取引法の中で規制を加えることを通じて、有価証券指数等、先物取引、有価証券オプション取引または外国市場証券先物取引について、先物取引業者、取引所についての投資家保護のための最低限の規制をしているという点で、私は異議を差し挟むところはないわけでございます。
ただ、若干ここで私なりのコメントをお許しいただくならば、先ほども申し述べましたとおり、自由競争を通じて投資家にその収益を還元していくということが本来望ましいわけでございます。そういう
意味では、金融先物取引所をつくる、あるいは証券取引所で先物取引を行うという二つの取引所の区別はあったとしても、それに参加できる者に明確な垣根を設定するということについては私は疑問があるわけでございます。そういう
意味では、今すぐということでありませんけれども、将来について証取法六十五条についても
見直しが行われるということの方が望ましいのではないか。ただその際、証券業務と銀行業務との利益相反の問題であるとか、あるいは寡占の弊害であるとかいうふうな問題については十分に留意しなければならないということになるわけでございますけれども、いずれにせよ、取引を規制する
法律というものと業法とは違うんだという観点から、私は今回二つの形で先物取引の
法律が整備されるということに対して賛意を表したい、こういうことでございます。
第三点は、金融先物あるいは証券先物市場、先物市場そのものについての私なりの
考え方を述べさせていただきたいと思います。
第一は、先物取引というものが経済に与える影響、特に現物市場に与える影響について触れておきたいと思います。
理論的に
考えましても、仮にもし現物市場しか存在しないということでありますと、現物の需給のみならず、あらゆる相場観といいますか、期待感というものに基づく将来の取引ニーズがすべて
一つの市場に集中されることになるわけでございまして、どうしても形成される価格というものは不安定になりがちでございます。
他方、先物市場が導入された場合には、将来の価格に対する相場観はまず先物市場で形成されることになり、さらに先物市場での取引商品が規格化、標準化されたものであると需給の統合がされやすく、約定された先物価格は人々の最大公約数的な価格予想値と見ることができ、将来の価格情報としても精度の高い値決めがなされることとなるわけでございます。そして、この分離された市場の価格との裁定により現物の需給を反映した現物市場の価格
決定が行われるため、その値決めはよりスムーズに、かつ、より安定的に行われることになると
考えられるわけでございます。
先般の
アメリカにおける株価の暴落に際しまして、先物市場の果たした
役割についてさまざまな調査がなされておるわけでございますが、先物市場が暴落の主要因であるといった
報告は特にありませんで、逆に先物市場が暴落の歯どめになったというものもあったほどでありまして、そういった
意味では私は、現物市場における健全な価格形成に先物市場の存在が
貢献するのではないか、こういうふうに評価したいと思うわけでございます。
もう
一つ、先物取引につきまして過度の投機性が出てくるのではないかという懸念が生ずるわけでございます。やはり過度の投機性というものは抑制されなければならないわけでございまして、そういった
意味から
考えますと、これを何らかの形で制度的に保障しておかなければならないというふうに
考えるわけでございます。
投機的な取引を抑制するという場合には二つの見方がございまして、
一つはマクロ経済的な見方、もう
一つはミクロ経済的な見方でございます。ミクロ経済的に見ますと、受託業者の詐欺的行為等により、一般投資家が被害を受けることがないようにするといった観点から論ぜられる場合が多いわけでございますし、マクロ的な観点からは、投機的な取引が価格
決定に際し攪乱的な影響を与えることは好ましいことではないということになるわけでございます。
そこで、この点について両法案を見てみますと、マクロ的には、相場操縦等の禁止あるいは取引所が値幅制限等を設けられる旨の規定が設けられている、ミクロ的には、委託者の保護のため各種行為規制等が定められているということでございまして、私なりに一応の評価ができるというふうに
考える次第であります。したがって、この両法案が成立した後、運用に当たりましてこうした先物市場が過度の投機性を持つことなく、健全に発展するように最小限の公的な規制というものが適切に行われることはやむを得ないことではないかというふうに
考える次第でございます。
第四点は、証取法
改正のその他の二点についてでございます。
その
一つは、内部者取引の規制についてでございます。私個人、従来からその整備が
我が国証券市場の健全な発展にとって不可欠であるというふうに
考えてきたところでありますが、今回新たに明確な構成要件のもとに、違法な内部者取引に対して刑罰を科することを
内容とする立法が行われることは、まことに結構なことではないかというふうに
考える次第であります。
最後に、今回の企業の
内容開示制度の
見直しに当たりましては、機動的な
資金調達を可能にする発行登録制度の導入等、発行開示手続の簡素化が図られる一方、簡素化
措置により投資者保護を損なうことのないよう、開示
内容の充実にも十分配慮がなされておるというふうに
考えるわけでございまして、バランスのとれた望ましい
改正ではないかというふうに評価する次第でございます。
以上で
意見の発表を終わります。