○
参考人(
田中啓一君)
日本大学の
田中でございます。このような
機会を与えていただきましたことを、まず感謝申し上げたいと思います。これまで既に三
参考人から
お話がございましたので、その重複する部分をできるだけ避けながら
お話をさしていただけたらと思っております。
〔
委員長退席、理事梶原清君着席〕
まず、今回の狂乱
地価と言われるものでございますが、まさに
土地無策、人災と言ってもいいんではないかと考えております。この狭い東京の
地価がアメリカの全国土の総
地価に匹敵するというようなことは、まさに異常であろうかと思います。東京の面積とアメリカの国土を比べますと、多分千分の一近くになるかと思いますが、それがほぼ一緒というのは、この一事でもって異常であるということがわかるわけでございます。
今回の狂乱
地価というのは
前回の列島改造論のときのこととよく比較されますが、そうではなくして、明治四十年に
我が国で、
日本列島がやはり狂乱
地価によく似たような現象が起きたわけでございます。今申し上げましたとおり、明治、そして十五、六年前の過剰流動性のとき、そして今回という、今世紀に三回異常な
地価の
高騰が起きたのは先進国の中では
日本だけじゃないかと考えているところであります。
経済の変動期には必ずこういうことが起こるというようなことが言われております。一八四〇年ごろのイギリス、そして一八八〇年、一九二〇年のアメリカがそうでございます。金余り、
土地税制の緩やかさ、こういうのがほとんど狂乱
地価の背景にあるわけでございます。今回の場合、予測できた金余り、そして
土地税制が適正でないということが今回の本当の狂乱
地価を招いた最大の
原因であるというような感じがいたすわけでございます。こういう点は終戦後の
高度成長期のラテン系の国でも
我が国と同様な傾向が起きましたけれ
ども、やはり同じように金余りと
土地税制の緩やかさがあったわけでございます。こういうような視点から考えてまいりますと、
我が国の場合は非常に
地価の
高騰しやすい政治、経済体質にあるということでございます。それだけにこそ、
税制を含めましてそういうチェック、歯どめということが必要なことをまず考えなければならないと思うわけでございます。
このような視点から、今回の
改正案でございますが、もう既に三
参考人からるる
お話がございましたので簡単に述べさしていただきたいと思いますが、まず個別的には、応急
措置的な
措置としては遅過ぎるというような感じはありますけれ
ども、一応
評価できるということを考えております。しかし、大局的、長期的にはかなり問題がある
税制改正であるような気がいたします。
まず、優良
宅地のものでございますが、理論的には
供給促進面から一応の
評価はできるように考えられます。しかし、現実的にはこれくらいの優遇
措置では余り
効果がないというような感じがいたすわけでございます。
土地所有者に対するあめばかりではもはやもう
供給促進は不可能だというような感じすらいたしているところであります。むしろ
保有課税の強化などによる、そういういわゆるむち的な
効果があって初めてこの
制度が生かされるような気がいたすわけであります。こういう点から考えますと、どうも片手落ちだという感じがいたすわけでございます。
次に、
居住用財産を
譲渡した場合の
課税の
特例でございます。
今回の狂乱
地価の一因になっているのが、この居住用
資産の
買いかえ
特例であるということがほとんど通説であるわけでありますので、これに対しましては一応の歯どめが必要であるという感じがいたすわけでございます。しかし、長期的、大局的にはかなりの疑問であるという感じがいたすわけであります。
まず第一番目に、フィルタリング
効果といいますか、これからの
我が国の
住宅を考えるときに質的レベルの
向上が必要でございますが、欧米先進国ではほとんどの国がこの
制度を適用しているわけでございます。こういうことからいくと逆行するというような感じもいたすわけでございます。
そして第二番目に、地区の詳細計画とかいうようなそういう
都市計画がないままで
税制だけがこのような
買いかえをある程度制限しても余り
効果がないというような感じがいたすわけでございます。
次に、
住宅税制でございますが、これは私はかなりの
評価をしたいと考えているところであります。こういう視点から今度は大局的なことから三点ほど御指摘をさしていただけたらと考えております。
我が国は、最近の円高のこともありますが、統計上のうそということも学者から
批判されておりますが、とりあえずアメリカよりも
所得が高い、そして、今みたいな百二十五円前後ですと完全にスイスを追い越して多分世界一であろうと思います。不労
所得では世界一豊かな国と言われながらその実感がほとんど我々
国民にはないわけでありまして、これもやはり社会的なインフラが非常におくれている、とりわけ
住宅がおくれているという感じがいたすわけでございます。これから労働時間も短縮ということになりますと、亭主元気で外がいい、うちに余りいない方がいいと言いながら、これからそういう時代じゃなくなるわけでございますから、
住宅に対する
国民のニーズ、不満というものもかなり高まってくるんじゃないかというような感じがいたすわけであります。
住宅の整備、そしてそれに伴います社会資本整備の
拡充がこれからの最大の
課題である、政治
課題であるというような感じがいたすわけでございます。
こういう視点から、これまでの
住宅政策は、まず第一番に基本理念を変えていく必要があるのではないかと考えるわけでございます。
これまでは福祉政策という形で平等主義というのをとってこられたような感じがいたすわけでありますが、私は欧米と同じようにやはり経済政策型へ変更すべきだというような感じがいたすわけでございます。
住宅の質的レベルの
拡充というのが
我が国に課せられた最大の
課題であるわけでありまして、欧米先進国もほとんど今は
住宅問題を
解決したと言われる国々がかなりあるわけでありますが、そういう中でも今でも
住宅レベルの質的
向上の
ためにはいろんな
措置をしているわけでございます。できる人には
税制、金融面でサポートする、それがフィルタリング
効果になってくるわけでありまして、
住宅の
拡充と質のいい、レベルのいいところへいくという形から、それを次の人が売って、そしてまた次の人が買っていくというような形で全体のレベルが上がるわけであります。そして、そういう質的レベルが自力ではできない人については公営
住宅の
拡充とか農住組合法をさらに使うというような形でできるのではないかと思います。こういう点からは今回の
住宅税制の
改正案は非常に
評価したいと思っております。
とりわけ、
増改築を含んだというようなことは時代のニーズに合致しているということ、あるいはまた
床面積の制限撤廃、
所得制限を三千万円に上げたということは、金持ち優遇という一面はございますけれ
ども、フィルタリング
効果ということからかなりの
効果が
期待できるというような感じがいたすわけでございます。
しかし、先ほど申し上げましたように、居住用
資産の
買いかえというのは長期的には問題があるわけでございまして、これを
都市計画とかあるいは
税制でうまくチェックできたならば、できるだけ早くもとの本則に戻した方がいいんではないかというような感じがいたすわけでございます。
第二番目に
資産課税の抜本的な
見直しでございます。
この点につきましては名
井参考人から既に御報告のとおりでございますが、私は
所得と
消費のアン
バランスの
是正というのが今
国会でも問題となっております大型間接税の問題であろうと思いますけれ
ども、それ以前に私は
所得と
資産とのアン
バランスが起きているような感じがいたします。この方が
解決が先ではないかというような感じがいたすわけであります。欧米先進国も
資産の拡大ということが非常に大きく問題となっております。イギリス、フランス、アメリカが特にそうでございますが、こういうところから、逆に言えば、余りにもアン
バランスの
ために景気がおかしくなる、恐慌論も出てくるのは先生方御
承知のとおりであろうと思います。
特に
我が国の場合、株と
土地にこの点がきたわけでございまして、公平さということがどうしても税の
負担には要求されるわけでございます。水平的な公平というのは、確かにクロヨンがございますけれ
ども、それ以上にバーティカルエクイティーといいますか、垂直的な不公平さが
我が国の場合とりわけ大きいような感じがいたすわけでございます。これはまさに
政府機能が低下しているということのあらわれであろうと思います。これらの点は特に不労
所得的な側面が強いわけでございまして、今、今日の
地価の
高騰の
ために三億円以上の
土地資産を持っている方が一説には三十万とか五十万ともいると言われております。これを考えてみますと、我々、大学出てから約四十年間働いた生涯賃金が二億円前後と比較しますと、いながらにしてこの三倍、四倍になったということもこの辺の
負担の不公平ということからやはり
見直していく必要があろうかと思います。
こういう視点から、海外へ出ていく、この含み益を
利用して企業のみならず個人でも出ていくという動きが出てきているわけでございまして、既に大体一兆円というぐらいの投資を海外にしているわけでございます。五年前までは
我が国は海外不動産投資が第五位であったわけですが、今はダントツになっているわけでございます。これは円高だけでは説明できない問題のような気がいたします。貿易摩擦以上に、そういう
土地摩擦といいますか、不動産摩擦がこれから起こる懸念がされるわけでございます。
我が国の場合、本来の
土地税制というのが機能しなかった。
土地税制は、
地価の安定機能、
供給促進機能、
所得の再分配機能あるいは資源の最適配分機能、そして
都市整備財源機能の五つがあるわけでございますが、
我が国の場合はこれがほとんど機能してこなかったわけでございます。
土地は借金して買え、そして持っておってもほとんど
保有税が安い、そして絶対に売るな、
譲渡税が高いというわけでございます。固定
資産税
一つとりましても、アメリカのニューヨークは大体、ほぼ九%でございます。実効
税率が五、六%となるわけでありますが、
日本では一・四%、そして
住宅と非
住宅とが区別されていないというような不思議な
税制が残っているわけでございます。これが
ため、フーペイ、フーレシーブ、だれが
負担して、だれがその便益を得ているのかというのは、とりわけ地方
政府というのは利益説から考えましても非常に便益がはっきりわかるのが住民参加意識にもなろうかと思います。この点が
我が国の場合、地方税
一つとりましても、県税が大体十五種類ぐらい、そして地方税は住民税、固定
資産税を初め十八種類、トータル三十以上の
税制によって成り立っておりますので、だれがそれを払って、だれがその
負担をしているのかというのが非常にわからないわけでございます。
東京の固定
資産税収入が自主財源のうち約一六%、ニューヨークは財産税で八〇%、ロンドンではレートで一〇〇%と言われているわけでございます。この辺の住民税と
資産課税である固定
資産税的なものとの
負担の
是正というのもある程度必要であるような感じがいたすわけでございます。こういうところから納税者意識がだんだん希薄になってくるという点もあろうかと思います。ラテン系の国はとりわけこういう点が、納税者意識がないということも言われておりますが、だんだん
日本人の感覚もこのような方向に行っている
一つの趨勢がこの辺にもあるような感じがいたすわけであります。
三番目といたしまして、町づくりとの整合性が
税制に欠けているという点でございます。
都心の商業地の
地価、これは経済原則で動いた今回のものでございますけれ
ども、それは需要過多、見積もり過多ということもございましたけれ
ども、それが高級
住宅地に波及をしていく、そして
一般住宅地へ波及したという、まさに
税制の不備でございます。こんなようなことは
我が国ぐらいしか先進国の中ではないような感じもいたすわけでございます。
こういう点は
都市計画、地区詳細計画とか用途指定というのも非常になかったわけでございます。あいまいもことしたわけでございまして、国公有地の払い下げの問題でもそういうような形で、本来なら
住宅地が御
承知のとおり商業
用地として買われ、それに
利用されるということですから当然高値になっていくわけでございます。
日本
といいますか、東京の用途指定は約八分類にされていると思いますが、ニューヨークでは二十一分類になっているわけでございます。建築物を
日本の場合では一応禁止ということを列挙しているわけでありますが、欧米先進国ではほとんど建てられるものを列挙しているわけでございます。この辺の違いがやはりこの
土地税制と
都市計画とのアン
バランスといいますか、不整合が貧弱な町づくりになってしまったのではないかと思います。きめ細かい用途地域を指定し、そしてそれで
税制面で誘導していくということがこれから最大の
課題であるという感じがいたすわけでございます。
当面の
地価対策について簡単に述べさしていただきたいと思いますが、農地の
宅地並み
課税というのはやはり抜本的に私は市街化区域に農地が必要かという原点から考える必要があるような感じがいたします。どうしても必要ならば、密室的な超優遇
税制でなくて住民の
意見が少しでも反映できる財政支出でやるべきだと考えているところでございます。そして、監視区域はできるだけ早目に対応するんだということが必要であろうと思います。現在でも地方圏あるいは東京圏の七、八十キロ圏がまだ
地価が上昇ぎみでございます。こういう点は早目に監視区域を指定していくということであろうと思います。
しかし、指導価格については再考の余地がある。今、高値安定になっているわけでございまして、実勢価格は指導価格の一割、二割低いところで動いているという全くナンセンスな
状況が出てきているわけでございます。さらに、不動産金融の規制ということも継続していただきたいと思いますし、
土地税制の今申し上げましたような抜本的な考え方ということも必要であろうと思います。必要ならば、欧米先進国がやって
地価の安定に寄与したと言われる
土地増価税、一八九六年にドイツで初めてできた税金でございますが、
日本とともにイタリアは
高度成長期の前半期に物すごい
地価高騰がありましたけれ
ども、一九六三年にこの
土地増価税が合憲であるという形で
地価がその後ぴたっととまったわけでございます。あるいはまた、
資産再
評価税ということも考える必要があるかもしれません。
さらに、できましたら
土地登録
制度ということを御提案申し上げたいと思います。これはドイツでも既に成功したことでありますが、
土地を買った売買価格を必ず登記簿に登録していくというようなことは、少なくとも監視区域のところとはセットして考える必要があるんじゃないかというような、これはアナウンスメント
効果としても重要である、
効果があると考えるわけでございます。
ロンドン・エコノミストかと思いますが、
日本人というのは計画性がない、計画性がないけれ
ども、いざ一番困難のきわみになったときには、
日本人というのは知恵を出す
国民であるということを、今回の狂乱
地価について
批判的な論調の中でも、最後の結論として述べているところでございます。我々はこういうところは、もはや経済原則ではなくして、政治が
解決する段階に入ったと考えているところであります。
以上で、簡単でございますが、時間が参りましたので終わらせていただきます。
ありがとうございました。