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参考人(
木村晋介君) 今度の
改正案でございますが、幾つかの点で改善がなされることになるという点は一応の評価をするわけでございますけれ
ども、しかし、やり残された仕事もかなり多いわけでございまして、その点について幾つか不足を言わしていただいて、将来さらに
訪問販売に関する
被害の予防や回復がスムーズにいくような世の中が来ることを進めるために幾つかの点をお話ししたいと思います。
第一は、
開業規制が採用されなかったことでございます。
これについてはいろいろな理由があろうかと思いますが、やはり私
どもが一番頭を痛めておりますのは、
訪問販売業界がすべて悪いというわけではないんですけれ
ども、中にいる悪質な
業者をどういうふうに排除していくかという点にあるわけです。
開業規制を入れないで、今回の
改正では
一定の
行為規制について刑事罰ないし行政的な
指示ないし
業務停止、そういう行政処分を
規定したわけですけれ
ども、
開業規制をしないで業務
規制をしようとしましても、なかなか難しいことになってくるわけです。
同じようなケースとしましては、皆さんのお手元にお配りしました「
昭和六十二年中における生活経済事犯」という資料があります。その二枚目をめくっていただきますと、悪質な
被害が最近でもなお多発しております海外先物
取引についての相談の状況ですとか、検挙の実情ですとか、行政処分の状況などが表になっております。かなり多額の
被害が出ている、たくさん相談が来ているという状況が御理解いただけると思うんですが、それに比べまして、発せられました行政処分、これは五十八年中に四件、それから六十二年中に三件となっております。
例えばこの中で、五十八年の四月二十八日にプラングッドインベストメントジャパンという会社が、香港の大豆、砂糖などの海外先物
取引で悪質な
勧誘行為をしまして、一カ月の
業務停止になったということが記されているわけでございますが、この会社はその後も決して業態が改善されたわけではありませんで、六十二年の十月八日に同じ会社がさらに一カ月の
業務停止になっております。この間大いに悪質な
勧誘行為を継続していたわけでございます。こういうわけで、
開業規制と結びつかない行政処分というものが、無力というわけではないんですけれ
ども、十分な
効果を発揮し得ないという点は、海外先物
取引関連の状況で理解できるところではないかと思うんです。
そういうことで、
開業規制を入れない、いろいろな事情があるにせよ今回はどうも入れないでいくということになりますと、
悪質業者をどうやって有効に排除するかという点でかなり困難な状況が生まれてくるんじゃないか。そこをどうカバーしていくのかということを考えていく必要があろうかと思います。
悪質業者を排除するためには
開業規制が最も抜本的な方法であることは間違いないんですが、今回それが回避されるとすれば、
業務停止が一年ということになっているんですが、これなんかも近い将来もう少し長い
業務停止ができるように持っていくべきではないかというようなことが感じられますし、それから
業務停止の権限、これをどういうふうに
消費者相談の最先端におろしていくのかということも十分考慮する必要があるだろうと思います。
海外先物
取引の行政処分の発令された状況などを見ますと、一件は大阪のものがあるようですけれ
ども、それ以外ほとんど東京のものでございまして、そういう
意味では、中央に行政処分の権限を集中しますと、なかなか地方までそういう監督の目が行き届かないということになりやすいのではないか。今回の行政処分では
指示と
業務停止ということが
法律に定められているわけでございますけれ
ども、この
指示及び
業務停止の権限をそれぞれやはり地方の最先端の部署におろしていただいて、地方行政と結びついた
業界の
規制ができるようにしていただきたい。いろいろ報じられているところによりますと、
業務停止の権限までは地方におろさないというふうなことも検討されているように聞いておりますので、そうではなくて、すべてやはり最先端の部署におろしていただけるように
お願いをしたいと思います。
それから、これは私の
意見でございますけれ
ども、悪質な前歴を持ったセールスマンがある
企業で悪質な
勧誘行為をします、それでその会社が仮に
業務停止になったとしても、そのセールスマンは生き続けるわけですね。ほかの会社に入ったりあるいは会社の名前を変えたりして生き続けていく。まあ会社の名前を変えるといいますか新しい会社をつくったりして生き続けていくわけですね。これをどうするかという点では、今回の
改正には入らなかったわけですけれ
ども、私は、そういう法令に違反するような訪問行為、
勧誘行為をするおそれのあるセールスマンについては、これがこの
業界に生き残っていけないようにする方法というものをとる必要があるんではないかというふうに思っております。
参考になりますのは、貸金業法の二十四条の三項に、法令に違反するような取り立て行為を犯すおそれが明らかな者については取り立てを委託してはいけないということで、雇用することもできない、雇用した者が行政処分を受けるというような形で
規制がなされております。これなどを
参考にして、そうした悪質な前歴のあるセールスマンが再び雇用されないようにしていくというようなことも、もし
開業規制をとらないとすれば、補足的な方法として考えられるんではないだろうか。近い将来そういうこともお考えいただきたいというふうに思っております。
それから、もう
一つは
指定商品制度がとられなかったという点であります。この点は先ほど
本田参考人からもお話がありましたので、私の考え方は述べないことにいたしますけれ
ども、ただ、今度の
法律の
関係でいきますと、
指定商品制度、これは本来は、やってはいけない行為というのは、
商品が違うからこちらでは許されて、ある
商品については許されないという性質のものではないと思うんですね。ですから、全体について
指定商品制度が維持されたということは、そうなってしまったことは残念ではありますけれ
ども、やむを得ないとして、少なくとも業務
規制についてだけは
指定商品制度というものを外すことができなかったんだろうかということについて私はかなり残念に思っているわけでございます。
この
禁止行為、今度の
改正法の五条の二などを見ますと、要するに
訪問販売で
勧誘をするときに重要なことについて不実のことを告げてはいけない、あるいは威迫したり困惑さしてはいけない、こういうわけですけれ
ども、不実のことを告げてはいけない、あるいは人を威迫したり困惑さしてはいけないということは、何もこれは
商品の種類によって決まることではないはずでして、少なくともこの
禁止行為についてだけでも
指定制度というものを外してよかったんではないか。この
法律ではまず
訪問販売の定義のところで
指定商品の販売というふうに入れてしまっていますので、この
指定商品制度が全部にかぶってしまっているわけなんですが、そうせずに実際にいろいろな
規定が置かれているわけですので、その
規定の種類で本当に
指定商品制度をとる必要があるのか、ここは外してもいいんじゃないかという、そういうフレキシブルな検討がなされていてもよかったんではないだろうか。もし今回全面的に
指定商品制度が維持されるとすれば、近い将来そういうこともお考えいただきたいというふうに考えております。
それからもう
一つは、私
ども弁護士でございまして、
消費者被害がありますと、その
被害回復のために払ったものを取り戻せというような裁判ですとか交渉ですとかいろいろやるわけなんですが、私
ども、例えば豊田商事なら豊田商事、そこと話し合いをしまして五百万円のお金を返すという約束をしますと、それを分割払いにしてくれ、こう言われるわけですね。じゃ五十万ずつ十回払いということで仮にまとまったとしましょう。なぜそれが分割払いになるのかといいますと、これは、その悪質な
業者が五十万円を毎月払うためにこれからいろいろな人をだますわけですね。ですから、私
どもが個別の
被害を回復するということは、逆に言うと
業者にとってはさらにもう少しだまして取ろうじゃないかという行為を刺激するような結果になってしまうという、非常に私
どもとしてはむなしさを感じているわけです。これは、今の
制度がやっぱり悪質な行為がやり得になってしまうという結果を認容するような
制度になっている点に大きな問題があるわけです。
今回、
日本弁護士連合会の出しました
意見などでは、単に
被害を受けた分だけが回復されるということではなくて、そういう悪質な
被害を与えたところに対しては懲罰的な
損害賠償ができるようにしようではないかというような提案がなされております。これは、今までそういう
制度が日本では余りとられていないという点もあって、なかなか難しい点はあろうかと思うんですが、要するに、やり得ではなくて、やっぱりやったら損をする、やり損ということを悪質な
業者にわからせていくという点ではかなり有効な手段ではないか、なかなか考えられた提案ではないかというふうに自画自賛しているわけでございます。
今回は直ちにそういう
制度を新設するということはできなかったわけですけれ
ども、単に刑罰とか
業務停止とか、そういうことだけではなくて、民事的な不利益を課していくという方向ですね、これはいわばお上が取り締まるということだけではなくて、
被害を受けた人が自分の力で
業者を懲らしめていく、いわば悪質な
業者を排除するために
被害者の民間活力を導入する、こういうことでございますので、ぜひ将来の方向としてそんなことも考えていただきたいというふうに思う次第でございます。
それから、最後になりましたけれ
ども、
開業規制ですとか
指定商品制度などの点で私
どもとしては不足が残ったわけですが、これは
法律としては通産省の管轄になるわけでございます。そういう
開業規制をとる、あるいは
指定商品制度を外すということになりますと、どうも非常に包括的で網羅的な
規制になっていく。
訪問販売というのはいろんな
サービスや
商品を扱う業種ですので、それを一通産省だけで全部握ってしまうということになると困るというようなことも私は政策的な配慮として働いているんではないか、そういう面からいきますと、今の
消費者行政がいろいろなところで縦割りの行政になっているという点が
一つの障害になっているようにも思われますので、将来のこれも方向となりますが、公害問題で環境庁ができたように、
消費者行政を一本化して
消費者庁のようなものをつくって、網羅的で包括的な
消費者保護のための
規制、
法律というものができるような、
制度ができるような工夫というものを基本的な行政の仕組みとして検討していく必要が出てきているんじゃないだろうか、今回の
改正で不足が残りましたところをつらつら見ますとそういう気がしてならないわけでございます。
そういう点で、この立法だけで終わるわけではありませんので、今後の法
改正ですとか行政の仕組みの改善に生かしていただきたいというふうに思っております。