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1988-05-09 第112回国会 参議院 社会労働委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十三年五月九日(月曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  四月二十八日     辞任         補欠選任      宮崎 秀樹君     土屋 義彦君  四月三十日     辞任         補欠選任      安恒 良一君     渡辺 四郎君  五月六日     辞任         補欠選任      土屋 義彦君     宮崎 秀樹君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         関口 恵造君     理 事                 佐々木 満君                 曽根田郁夫君                 山本 正和君                 中西 珠子君     委 員                 石井 道子君                 石本  茂君                 岩崎 純三君                 遠藤 政夫君                 斎藤 十朗君                 田代由紀男君                 田中 正巳君                 前島英三郎君                 宮崎 秀樹君                 対馬 孝且君                 浜本 万三君                 渡辺 四郎君                 沓脱タケ子君                 内藤  功君                 藤井 恒男君    事務局側        常任委員会専門        員        此村 友一君    参考人        全国町村会行政        部会長兵庫県        社町長      石古  勲君        日本大学法学部        助教授      石本 忠義君        日本女子大学教        授        佐藤  進君        全国保険医団体        連合会会長    桐島 正義君        中央大学教授   丸尾 直美君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国民健康保険法の一部を改正する法律案内閣提出衆議院送付)     ─────────────
  2. 関口恵造

    委員長関口恵造君) ただいまから社会労働委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  去る四月三十日、安恒良一君が委員辞任され、その補欠として渡辺四郎君が選任されました。     ─────────────
  3. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 国民健康保険法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本案審査のため、本日、参考人としてお手元に配付の名簿の方々に御出席をいただいております。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。参考人方々から忌憚のない御意見を承りまして、法案審査参考にいたしたいと存じます。  これより参考人方々から御意見をお述べ願うわけでございますが、議事の進行上、最初に参考人方々からお一人十五分ずつ御意見をお述べいただきまして、その後委員の質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じますので、よろしく御協力をお願いいたします。  それでは、まず石古参考人からお願いいたします。石古参考人
  4. 石古勲

    参考人石古勲君) ただいま御紹介をいただきました全国町村会政務調査会行政部会長をいたしております兵庫社町長石古でございます。  社会労働委員会の諸先生方におかれましては、平素社会福祉充実向上のため格別の御尽力を賜っておりますことに対して心から敬意を表する次第でございます。  本日は、当委員会におきまして御審議をいただいております国民健康保険法の一部を改正する法律案につきまして意見を申し述べる機会を与えていただきましたので、国保運営に携わる者として保険者立場から、また、同改正案の趣旨に賛同をいたしておる町長の一人として、率直な意見を述べさせていただきたいと思います。  まず初めに、国保財政の大きな問題の一つでありました退職者医療制度創設などに伴う影響額の未補てん相当額一千八億円につきましては、補正予算におきまして昭和六十二年度国民健康保険特別交付金として先般交付を受けたところでございます。これはひとえに諸先生方の御高配のたまものであると厚くお礼を申し上げる次第でございます。  さて、国保現状につきましては諸先生方には十分御理解をいただき、御承知のこととは存じますが、若干の説明をさせていただきます。  国民健康保険は、国民保険という我が国医療面における福祉政策の一環として昭和三十六年に現在の制度が発足してから、本年は二十八年目に当たります。  この間、私ども町村長保険者として国保の育成に努力を払い、国保は住民の健康の保持、医療福祉向上に大きく貢献し、我が国医療保険制度における地域保険としてその役割を果たしてきたところでございます。  しかしながら、国保は、他の医療保険制度対象とならない農林漁業者自営業者等で構成されておりますために、高齢者や低所得者の占める割合が高いという構造的な要因を抱え、保険料の賦課・徴収、医療費支払い等、その財政運営には苦慮の上に苦慮を重ね、多くの町村は、毎年一般会計からの繰り入れでしのぐ等、厳しい対応を迫られてきたのでございます。  また、高齢化の進展に伴うお年寄りの増加被用者保険退職者の増、五人未満事業所健康保険組合への流出者増加等国保の被保険者はますます老人と低所得者になりつつございます。  国保のこのような問題を解消し、あわせて各医療保険制度間の調整を図り、一元化への道筋を立てる意味から老人保健制度創設退職者医療制度創設等改革が行われてきたのでありますが、国保財政は、一向に好転せず、昭和六十一年度の決算によりますと三百三十七の保険者赤字団体となっております。  老健法改正による加入者按分率が漸次引き上げられ、六十五年度からは一〇〇%にしていただけること及び昭和六十二年度の補正予算により一千八億円を交付いただいたことでその財政効果を大いに期待しているところでございますが、年々赤字額増加一般会計からの繰り入れを余儀なくされることはまことに憂慮にたえないところでございます。  特に近年における医療費伸びには驚くばかりでございます。  先般、厚生省は六十三年度の国民医療費を十八兆九千六百億円と推計をされておりますが、制度改正により伸び率が鈍化した五十八年、五十九年の両年度を除けば、国民医療費は毎年一兆円ほど増加し、三年連続して国民所得伸び率を上回ることになります。  このような医療費伸びは、国保においてはさらに増幅し、昭和六十年、六十一年とも一〇%前後の伸びを示しております。これに伴い、国保保険料も年々引き上げざるを得ない現状にございますが、保険料負担は限界に達し、かつまた国庫負担の増額も容易でない状況等から判断すれば、医療費抑制といいますか適正化が急務であるという感じを持っておるものでございます。  したがいまして、これ以上医療費負担増加しないように、医療制度全般にわたって抜本的な制度改革が必要であると思う次第であります。  前置きはこの程度にいたしまして、ただいま御審議をいただいております国民健康保険法の一部改正につきまして所見を申させていただきます。  申し上げるまでもなく、本法案が提案されるに至った経緯といたしましては、昭和六十三年度の予算編成過程で、一昨年の暮れでございますが、大蔵省から提案された国保に対する都道府県負担の導入が問題になったとき、「国保の安定した運営が確保されるよう医療保険制度全体の中における制度のあり方について、国と地方役割分担等を含め、速やかに幅広く基本的な検討を行う場を設置する。」という大蔵厚生自治の三大臣合意がなされたのでございます。  これを受けまして、昨年の五月設置された国保問題懇談会においていろいろと厳しい論議がなされ、予算編成直前の十二月十九日に報告書が提出されたのでありますが、その間、私ども町村長を初め地方団体が強力な運動を展開いたしましたことは、諸先生方も御承知のところでございます。  これらの状況を踏まえ、私ども地方団体要望もお酌み取りをいただきました上で、大蔵厚生自治の三大臣合意のもとに提案をされました今回の改正法案につきましては、医療保険制度一元化を目指した当面の措置として一歩前進したものであると認識をし、賛意を表するものでございます。  今回の改正の柱でございます低所得者対策につきましては、昨年の国保懇においてもいろいろと論議が交わされ、国保の中に別会計制度として福祉医療制度なるものが検討されましたが、とめどもなく上がっていく医療費負担地方団体が参加することは将来にわたって歯どめのない財政支出を強いられるということで、地方団体はこぞって反対いたしたのであります。  改正案による保険基盤安定化措置は、負担能力の低い被保険者保険料軽減相当額について国と地方がそれぞれ負担するということでありますので、妥当な措置であると存じております。  次に、医療費適正化の問題であります医療費地域差対策についてであります。地域によって医療費に差異が出てくることは、別に国保に限ったことではないのでありますが、このまま放置すべきものではないと存じます。  したがいまして、改正案におきましては、当面、医療費の高い指定市町村についてその原因を解明しながら、国、都道府県指定市町村の三者共同是正計画に基づいた医療費適正化を図っていこうということでありますので、これも妥当な方策であろうと存じます。  なお、老人保健医療費拠出金国庫負担見直しの問題でありますが、老健拠出金国庫負担率は、国保の体質を勘案して特に高い水準に設定されたものであります。今回の措置は、国保に対する国の原則負担は五〇%であること、他の改革事項及び国庫財政状況等を総合的に考える必要があったこと等によるものであると理解いたしております。  このほか、高額医療費共同事業強化充実等改正案につきましては、それぞれ当を得たものと考えておる次第でございます。  また、全国町村会におきましては、去る四月十二日に「国民健康保険法改正案早期成立に関する要望」を決議し、諸先生方を初め関係方面に御要望を申し上げているところでございます。  最後に、せっかくの機会でありますので、今後の問題について若干申し述べさせていただきたいと思います。  今回の制度改正のうち、保険財政基盤安定化措置等は、六十三、六十四年度における暫定措置であると承知いたしておりますが、国保を長期的に安定させるためには抜本的な制度改正が必要であると考えます。すなわち、大局的見地からすれば、現在の国保制度は行き詰まりの状態にありますので、今後ますます進行する高齢化社会に備え、保健医療福祉の各制度相互に連携し合う一貫したルールが必要であると考えます。  その際大事なことは、各制度を簡単明瞭なものとし、その運用につきましても、国、地方役割分担を明確なものとして、各事業実施主体との連携が容易に行われるような仕組みでなければならないと存じます。  厚生省は、六十年代後半、できるだけ早い時期に医療保険制度一元化を実施するとし、このたびの改正はそのワンステップであると説明しておられますが、国民医療における国保の果たすべき役割を抜本的に見直し制度が確立されるまでは、毎年毎年、いかなる制度あるいはまたいかなる方策をとろうといたしましても、これはあくまで暫定にしかすぎないと思います。  その場しのぎ保険料を上げたり医療費負担ツケ回しをやったりして医療費抑制しようとしてみても、病気になった人に病院に行くことをやめさせるわけにはいかないのでございます。  したがいまして、今回の改正のようないわば中継ぎ的な制度改正が今後も行われるとするならば、国は、その間の財政問題に十分な責任を持って対処していただきたいと考えておる次第でございます。  本日、私の申し上げたいことは以上でございますが、昭和六十三年度も既に五月でございます。国保運営に支障を来さないように、この改正法案早期成立につきまして格別の御配慮を賜りますとともに、今後とも国保の安定的な運営に格段の御支援をお願い申し上げまして、私の意見陳述を終わらせていただきます。  長時間にわたり、まことにありがとうございました。
  5. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 次に、石本参考人にお願いいたします。石本参考人
  6. 石本忠義

    参考人石本忠義君) 御紹介いただきました日大の石本でございます。  本日は、日本医療保険制度、そしてまた皆保険制度の中核をなしております国保の問題を、諸外国との比較参考意見として述べさせていただきたいと思っております。  今回の改正法案に関しましては、従来から課題となっておりました国保財政改革の第一歩と見ることができると思います。ただし、今回の財政措置によって長期的かつ安定的な国保財政が確保されたわけではないと思います。今後、医療保険の構造的な改革と絡めて、国保充実と安定的な運営を行うことが重要ではなかろうかと思うわけであります。  このために財政方式医療費支払い方式運営方式医療費適正化対策等改善を図ることが肝要であろうと思います。そのための参考として、本日は、諸外国現状及び日本と諸外国比較について意見を述べさせていただきたいと思います。  国民健康保険国民保険制度の最も重要な柱となっていることは、これは周知のとおりでございます。国民健康保険は、諸外国にはその類例を見ない制度でございます。日本のように医療保険方式をとっている国で国民保険制度を導入している国は日本オーストラリアの二カ国でございまして、他にはそうした皆保険制度を導入している国はございません。ただ、皆保険制度に近い制度を導入している国としましてカナダ、それからフランスの二カ国がございます。ちなみにカナダ医療保険適用率は総人口に対しまして九九%、フランスは九八%でございます。ただし、いわゆる皆保険制度のもとでの適用ということではございません。その他の国の例を申し上げますと、西ドイツは総人口の九二%、オランダは六五%、アメリカは一二%でございます。  また、医療保険に多額の国庫負担地方負担を導入している例は少なく、オーストラリアの全国民対象とする国民健康保険アメリカ老人障害者健康保険ぐらいでございます。その意味で、国民健康保険に対する国庫負担及び地方負担は特異なものと言えると思います。これによって国民保険制度が維持されてきたのではないかと言えるわけですが、これが逆に、国民健康保険充実発展をおくらせているという事実もあるんではないかと思います。  その意味で、私は、従来の国民健康保険に対する発想の転換を図って、国民健康保険をやむを得ない制度という考え方ではなくて、充実発展をさしていくという考え方に変えるべきではないかというふうに思う次第であります。  そのためにも、次に申し上げるような諸外国の例を参考にして思い切った改革を行う必要があるんではないかと思います。  一つは、まず、医療費支払い方式でございますが、医療保険方式をとる国では、通常、出来高払い方式でありますけれども、オランダのように家庭医制度を導入して家庭医に対して人頭払い方式を導入している国もございます。  また、出来高払い方式にも種々のものがありまして、日本のような完全出来高払い方式もあれば、西ドイツのような総枠を決めてその範囲内での出来高払い方式をとっている国もございます。欧米諸国では、通常病院医療費は一日当たりの定額で定められますが、西ドイツでは一九八六年一月一日以降、一般治療に対するものと一定の高額医療に対するものに分けて保険者病院が契約することになりました。  医療費支払い方式改善各国共通課題でありまして、その合理化というものが図られているわけでありますけれども、大きな流れは、一方で出来高払い方式見直し、他方で人頭払い方式定額払い方式の改良が行われているということであります。この場合、医療供給サイドのインセンティブを失わせないで医療費の増大を抑制することに最も意が注がれております。一般的な傾向としましては、プライマリーケアの費用や入院料あるいはナーシングホーム等入所料定額の方向にありますけれども、その他の医療費は新しい出来高払い方式というものの模索が行われております。  これに関連いたしまして、薬価対策各国にとって大きな課題となっております。  医療費抑制のために薬価対策が行われておりますけれども、外国には日本のような薬価基準が定められている例は少なく、現在では日本制度参考にした韓国の例があるだけであります。薬価対策は、製薬企業や問屋の利潤の規制、医師等にわかりやすい価格や効能の比較表の作成、薬品税引き下げなどによって行われております。日本のように薬価基準の操作による薬価対策というのは欧米では例を見ないわけであります。  それから、医療費審査方式は、国によって異なりますが、日本のように第三者による審査の例は少ないと言えます。通常保険者主導型をとる国も多いわけなんですが、西ドイツのように医師主導型をとる国もございます。また、審査は、経済面だけでなく医療内容もチェックする必要がありますが、それを医療過程で行うために、アメリカオーストラリアカナダなどで医師相互評価システムが導入されております。最近、このシステムはイギリスでも検討されております。  次に、運営方式は、ヨーロッパでは労使の自主管理原則となっておりますけれども、アメリカカナダでは州管理運営となっております。しかし、いずれも直接間接に被保険者参加方式が導入されております。  諸外国では、財政医療費運営のあらゆる点について地域差というものが考慮されております。しかし、その地域差というのは、あくまでも公平原則というものを実現するためのファクターとして考えられているということでございます。  日本のように老人医療制度別建てになっているのは、ほかにはアメリカがあるぐらいでございます。最近までオランダも別制度になっておりましたが、一九八六年の四月から老人健康保険制度一般健康保険制度に吸収されてしまっております。要するに、成り立たなくなってきたということであります。  最後に、医療費適正化は、一九七〇年代の後半からの各国共通政策でございまして、医療保険制度の維持、発展のためには避けて通れないものであります。欧米では医療費対策国民的な課題となっておりまして、保険者医師、患者のいずれも高い関心を持っておりまして、いろいろな政策が行われております。その医療費適正化の終局的な目標は、一時的に医療費抑制するということではなくていかにして効果的な医療費を使うかということでありまして、そしてまた終局的には多くの健康な国民をつくるということであります。  以上申し上げましたような点を参考にいたしまして、国保充実発展を図っていくということが必要ではないかと思います。そのためには、やはり諸外国の例、長所短所を実際に見聞、調査して、最もいい方法というものを取り入れていく必要があるのではないかと思います。これは今後の課題として強くお願いする次第でございます。  以上でございます。
  7. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 次に、佐藤参考人にお願いいたします。佐藤参考人
  8. 佐藤進

    参考人佐藤進君) ただいま御紹介をいただきました日本女子大の佐藤でございます。社会保障法学を専攻いたしております。  時間的制約がございますので、医療保障並びに法案内容について私見を申し述べさせていただきます。  本法の改正目的については理解できるところがございますけれども、批判的な点を多く含む点で給付率入・通院八割による一元化を前に、依然として医療適正化のための財源対策の域にとどまっているというふうに考えることができます。この点がまず第一番目に問題となります。  次に第二に、医療保障とかかわりまして、国保のあるべき姿が問題になりますけれども、我が国では、医療保障を実現する制度として、国民健康保険並びに健康保険、これら二本立ての制度が軸残念ながら反対の立場に立たざるを得ないということを最初申し述べさせていただきます。  まず、今次の国民健康保険法改正法案が、保険料負担能力の低い被保険者加入、とりわけ疾病率受診率入院率の高い高齢者が多数加入をしている国保財政構造的改革保険財政的な見地からのみ試みたものであると推察をいたします。これは、従来の改正のパターンの延長以上には何ら出ていないんではなかろうかということを危惧するものでございます。  まず第一に、医療保障観点から私見を申し述べさせていただきますけれども、国民は、だれでも、それこそどこにおいても、いつでも、健康権保障の理念に基づきまして、差別なく、健康の保全を前提に、予防とあわせまして疾病治療、広くリハビリテーションを含む包括的医療もしくは医療費給付を、国の責任のもとで、どのような政策制度のもとにおいても、無償もしくは経済的苦痛を受けることなく国民が受けることが医療保障観点だというふうに考えます。  この点から見まして、今次の改正につきましては、目的理解をいたしますけれども、従来の改正の歩みから見て、将来の動向あるいはその内容等について国保の基本的問題をそのまま持ち込んだままで今度の改正が試みられているというふうに考えざるを得ないところでございます。  殊に、戦前国民健康保険法制定がされまして、本年がちょうど五十年になります。とりわけ今次の改革が、行財政合理化政策のもとで政府の医療保険一元化政策、多分になって医療現物給付をベースに医療が給付されてまいりました。  ただ、国民健康保険法は、保険原理を貫くと申しましてもその拠出能力が弱く、社会的に収支相等原則を貫くということは至難でございまして、この点からずっと公費負担医療に近い制度構造を持っていたわけでございます。このため、医療給付費事務費への国の財政のウエートが高かったことはもう先生方御存じのとおりで、ますます今後、高齢社会の急速な到来に伴いまして、制度分立のもとで、高齢者が多く加入をし、その医療給付費が多くなる国民健康保険制度にとっては当然このことは予想されていたことであり、また必然的な動向でございました。  この改革のために、とりわけ国庫財政負担の削減を目指しまして、一九八〇年代に入りまして第二次臨時行政調査会並びにその後の臨時行政改革審議会とその答申の政策実現が、総医療費抑制医療費適正化の名前でとられ、その結果、老人保健法制定昭和五十九年健康保険法改正による給付率八割への引き下げ、それから国保改正による退職者医療制度創設が打ち出されました。さらに、昭和六十一年厚生省高齢者対策推進本部報告書厚生省国民医療総合対策本部中間報告に基づきまして老人保健法改正が行われ、さらにそれと深いかかわりを持ちまして今次のいわば国保改正法案が、国保問題懇談会報告に根差しまして提出されました。  これらの一連の法の動向を見る限り、高齢社会到来に伴う医療(費)対策という点で常に一貫しているところでございます。  しかし、この一連の動きを見るときに、先ほど申しました医療保障実現政策一体と言えるんだろうかという疑問を感じます。  もちろん、医療にはお金がかかります。これもよくわかります。しかし、政策の時代の動きを見るときに、お金の面の対策しかとれなくて、その医療の効率化等々が阻まれてきたのはなぜなのかという疑問が今次の改革を見ても吹っ切れないところでございます。  先ほど申しましたいずれの対策も、国民健康保険の構造的な問題にかかわってきたものでございますけれども、とりわけ低所得層、なかんずく高齢者増加とその医療給付費抑制に焦点を合わせてきたものであるというふうに考えます。医療受給者であります高齢者医療需要の抑制によって医療費増加抑制するということが政策の中心でございます。しかし、このことが先ほど申しました医療保障の実現に何ほどかかわってきているのかということは、今日人権保障の点から見て問題が非常に多くございます。このことは今次の改正法案でも見られましたけれども、低所得層に対する福祉医療制度の導入構想というのもその一つではなかったかと考えます。  なるほど、イギリスの社会福祉政策学者として著名な故ティトマスという学者がおりますけれども、彼は積極的選別という考え方を出しました。この考え方は、弱い層には十分にして手厚い給付を積極的に試みるということでした。しかし、我が国現状を見ますときに、単に所得だけを問題にして、高い層と低い層、拠出能力のある層とない層とを分け、低い層にスティグマ、恥を与えるような政策発想をとったということは、我が国とイギリスとの間で根本的な違いがあったというふうに考えます。私は、差別と選別とは厳に区別さるべきものだ、こういうふうに考えます。まして、ここから見て、今次の改正法案保険基盤安定制度によって高齢者、そして低所得層の医療費の公費負担という考えの導入、そしてそれを国、市町村に加えて、都道府県負担させるという点はともかく評価に値するにしましても、差別を生む政策は絶対に許されてはならないと考えます。  先ほど申しましたように、国保構造にかかわるのでありますけれども、拠出能力の弱い層を保険対象とすることが妥当なのか、これを社会援護的な公費負担医療的なものとして積極的に位置づけるかということは、政策の問題であるかもしれませんけれども、今日の財政の対応を見ている限り、この構造をどう将来位置づけるかということを明らかにしていないという点では非常に問題があり、ここで抜本的な改正をこの社会援護的な公費負担医療的なものとして位置づけるかあるいは保険原理を貫くのか、この辺積極的に考えざるを得ないと思います。  ただ、構造的な面から見て受益者を不安に陥れないよう、しかも国の財政責任制度の安定化を維持するということは望ましいところと考えます。これをいかに実現をするかということは今次の改正法には見られないところでございます。  第三番目に、改正法の政策発想に見る高齢者医療給付費増加への対応でございます。  高齢者を取り巻く生活環境の急激な変化のもとでの対応は、保健医療福祉サービスとを総合的有機的な結びつきの上で解決をするべきものであって、ただ単に保健医療だけで処理をするわけにはいかないというふうに考えます。  とりわけ高齢者医療給付費増加をする理由は、先生方御存じのように、在宅保健医療福祉サービス体制の結合の不十分さが病院の入院費の増加などによる社会的入院を促進するものでございまして、この点につきましては西欧諸国、アメリカなどでも既にGNP対比の国民医療費増加とその比率の高さ、しかも施設よりも在宅ケアにウエートをかけているところでもその抑制が大変なことは、先ほどの石本参考人の指摘をまつまでもないところでございます。  これらの国々におきましては、家庭医によるプライマリーケア、訪問看護制度、ホームヘルプ制度などの在宅ケアシステムにつきましては量的にも質的にもこれを充実をし、なおそれでも医療保険費の増加が招来をされております。  この点、我が国の場合、社会的入院の防止にかかわる各種の今申しましたような制度の対応は、極めて不十分でございます。このようなところで社会的入院が見られて、医療費増加が見られているこの根本的な問題を回避をしているということにつきまして、私はいささか疑問を感ぜざるを得ないところでございます。  急がば回れとよく言われます。治療よりは予防、施設入所よりは在宅など、長い間問題にされてきているところでございますけれども、この辺の基本的な対応、政策の認識が十分読み取れずに今日の改正法が登場してきているところに、先ほど申しましたように非常に気がかりなことを感じます。  続きまして、法案内容についての問題点でございますが、第一は、今次改正地域格差是正のための基準医療給付費の設定と、これを超える多額の医療給付費の市町村への安定化計画策定による医療費対策でございます。  この制度は、二年間の試行実施を経て見直されることになっております。  我が国におきまして、先ほども御指摘ございましたように、地域別、都道府県別、市町村別または年齢別に見て医療費の格差現象のあることは、何も国保に限ったことではございません。ただ、高齢者一人当たりの医療費につきまして昭和六十一年、全国平均五十三万円、低額の長野県三十八万円、高額の北海道七十九万円と格差が見られ、市町村でも格差が見られていることはもう周知の事実でございます。  これらの是正のために施策を考えることは、私は望ましいことと考えます。ただ、何を基準医療給付費として設定をするのか。この基準医療給付費を超える市町村に対して、安定化計画の策定はともかく、これを超えたことを理由に行政指導のもとでどのようなペナルティーが科せられるのか、この市町村へのペナルティー賦課が市町村をして医療機関、ひいては受益者である高齢者に対して今後どのような措置をとらせることにあるのかについては、私は極めて疑問を感じます。ただでさえ今日弱い高齢者医療保障が、ますます弱くなっていくんではなかろうかという感じを持つところでございます。  第二番目に、保険料拠出能力の弱い、低い層の保険料減免相当額の公費負担につきまして、国と市町村に加え、都道府県負担による保険基盤安定制度創設の点でございます。  それ自体評価に値します。  ただしかし、先ほど申し述べましたように、本案の素案でございました福祉医療制度に結びつけられる可能性のあることは今もって否定できないところでございます。  既に、拠出能力のない層に対しまして、法の改正に基づきまして特別の事情のない層の拠出不履行に対しまして現行法でも被保険者証の取り上げやそれにかわって被保険者資格証の発行によって不利益が発生をしている現実がございます。  保険原理を貫く以上、保険料拠出は当然でございます。ただ、保険料減免の取り扱いの適正化の名において保険基盤安定制度運営がどのようになるのか、これも先ほどの第一番目の内容の問題と同じように検討に値する問題でございます。  医療費適正化政策が、医療供給側の病院や診療所の医療行為とそのレセプトの厳格な点検とあわせまして、高齢者を初めとする受益者の医療需要抑制に結びつく今次の改正案には、検討すべき課題が多くございます。  最後に、高額医療費の財政対応として都道府県を加えた負担役割を持たせる高額医療費共同事業の具体化。これも評価に値します。  いずれにいたしましても、改正法案が国の都道府県などへの財政措置によって対応したにしましても、今日、小規模単位の国民健康保険の経営管理規模の抱える問題への対応として、広域的な医療制度実現のために都道府県にその役割を担わせたことは評価をいたします。ただ、都道府県役割を担わせることによって国の行財政責任を軽減化するということは、極めて許されない問題だと考えます。  最後になりますが、今次の改正によりまして医療費適正化が実現されるか、その基本問題をそのまま残して財政面からのみ問題とした点については、なお依然として医療費適正化だけでは対応ができない。最初申しましたように、医療保障という観点から見てこの法をどう位置づけるのかという点で抜本的な法改正が望まれるところでございます。  いずれにいたしましても、医療費が仮に問題になるにしましても、ヒューマンな、しかも安心できる医療体制ができている場合の医療費増加をもたらしている場合とそうでない場合の増加で問題になっている点は、ぜひ先生方、篤と認識をされて、適切な対応をお願いをいたしたいと思うところでございます。  非常に長時間、お聞き苦しい早口の公述をお許しいただきましたことを心から感謝して終わりにいたしたいと思います。  以上でございます。
  9. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 次に、桐島参考人にお願いいたします。桐島参考人
  10. 桐島正義

    参考人(桐島正義君) 御紹介いただきました全国保険医団体連合会の桐島でございます。  本日社会労働委員会国民健康保険法の一部を改正する法律案に対する意見を述べる機会を与えていただきまして、厚く御礼申し上げます。  国保は、組合健保を除きまして千六百万世帯、四千二百万人が加入する我が国最大の医療保険制度でありまして、昭和三十六年発足いたしました強制皆保険制度の中核をなすものであります。  国保には、他の保険制度と異なりまして雇用主負担がありません。そこで、発足以来、国と加入者の負担によって運営されてきた歴史がございます。  国保加入者の大きな特徴は、低所得者が多いということ、それから高齢者が多いということであります。  さて、昭和五十九年に健保本人一割負担ができて退職者医療制度ができましたときに、国庫負担が今までありました四五%から三八・五%に切り下げられましてから、国保料・税とも言いますが、の引き上げが全国の市町村で行われました。これは事実であります。昭和五十九年から六十一年の三年間で全国平均三六%の値上げが行われたと言われております。  厚生大臣は、今回の改正保険料は全国で二百四十億下がるから被保険者一人当たり千七百円の値下げになると何回も言明されております。ところが、一方で保険局長は、全国市町村保険料の値下げを行わないようにという非常に厳しい通達を出しております。どちらが正しいのかわかりません。  それで、ただいま資料を配りましたとおり、私の地元、神戸市と尼崎市の例を資料(1)に出しております。両市とも、六十三年度の保険料は六十二年度に比べまして値上げになっております。市県民税ゼロ世帯でも、年間保険料は神戸市で六万一千六百八十円、月五千円、尼崎市でも六万四百八十円であります。それから、給与収入が三百三十万円の人は、神戸市、尼崎市ともその最高限度額の三十九万円及び三十八万円、大変高い保険料になっております。給与収入が同額の場合でも、社会保険の被保険者保険料と比べますと、国保保険料は大体二・五ないし三倍になっておるのは事実でございます。  したがって、保険料の滞納者は、この三年間は増加し続けまして、兵庫県では昨年十二月一日、被保険者証の更新を行いましたが、その時点で国保世帯数の約六・二%、四万世帯が未更新でありました。その後、各市町村の努力によりまして本年三月末で神戸市で、資料(2)のように、未更新世帯は五千九百五十七世帯、国保世帯の三・二%に減少いたしました。しかし、更新世帯でも三カ月ないし六カ月の短期保険証しか持たない人が四千三百四十四世帯、二・四%もあります。  次に、今回の国保改正法案で大変目立つのが国庫負担の削減で、合計四百五十億円に達しております。そして、都道府が四百四十億円、市町村が二百五十億円を新たに負担することになっております。既に市町村一般会計から国保会計繰り入れている額は、昭和六十一年度で総額二千二百六十七億円に達すると言われております。自治体がそう簡単に新しい負担に耐えられるとは思いません。ただ、今回決まった昭和六十三年及び六十四年度で地方交付税の特例加算措置で切り抜けていくということであろうと思いますが、昭和六十五年以降はどうするのか大変不安定で、今後それがまた加入者の負担に転嫁されるのではないかとおそれております。本年の保険料の値上げを見ましても、保険料滞納者の増加は必ず起こります。それで、国保証書を持たない国民がふえてきて、皆保険制度が事実上崩壊していくのではないか、こんなふうに思います。  次に、医療を担当しております者といたしまして黙過いたし得ないものが医療費適正化プログラムでございます。  これが実施されると必ず国保基金におけるレセプトの点検、審査減点の強化が起こります。既に、本年度厚生省予算でもレセプト審査援助の事務職員の十六人の増員が予定されております。この適正化対策は、国保だけにとどまらず、政管健保でも同様のことを行うと厚生省は明らかにしております。  この審査の強化というのはもう既に前から行われておりますので、昨年十二月、兵庫国保審査委員会で次のような事例があったことを報告します。  これは国保の大きなある病院ですが、四千五百六万八千七百八十六円請求いたしましたところ、そのうちの六百五十万四千九百九十三円が査定減点になっております。驚いた病院の方はすぐ異議申請いたしましたら、国保審査委員長もさすがに驚かれまして、これは異常だというので一カ月後の再審査で五百八十万九千六十四円、すなわち査定額の九〇%が復活されてきたんです。この例は、審査委員会の規定を逸脱した勝手気ままな審査が行われたということを示しております。  このような理不尽な審査減点を行う審査委員がおる限り、今回の適正化プログラムがこの人たちを大変勇気づけるのではないか、そして医学を逸脱した、専ら経済だけを主眼にした経済的審査が横行することになると思い、危惧いたしております。  このようなことが日常的になれば、保険医は安心して診療を行うことができなくなり、必然的に萎縮した診療になり、したがって医療内容の低下は免れないであろうと思います。しかも、国保組合では、民間業者にこの審査を委託しているところが出ております。これによってプライバシーの侵害が起こる可能性も多分に出ております。  また、基準医療費を超える市町村では、既に長期入院患者の退院推進が進められており、北海道国保連合会での老人在宅医療にかかわる被保険者教育事業は全国でも有名で、いわゆる社会的入院をねらい撃ちにして、在宅療養の受け皿のないまま老人患者の強制退院が行われ始めています。同様のことが岡山、高知、広島、静岡でも始まっております。  また、最近、鳥取県では、これまでにない医療費通知が行われ始めております。  それは、次のようなものです。   あなたの○○病院で受けられた治療内容に就て、国保連合会で審査をした結果、下記の通り減点になりましたので、減点点数の三割に相当する金額をかかられた医療機関から、払戻ししてもらわれるようお知らせします。 こういう通知です。  医療で最も基本的な、大切なことは、医師と患者の信頼関係であります。地域医療に従事する我々は、この患者と医師の信頼関係の確立に日夜真剣に取り組んでおります。それは、また、再審査があるとか未決定である減点数学をいかにも正しい審査結果であるというふうに思い込ませて、医師と患者の間にすき間風を吹き込んでまで、自治体が医療費適正化を図ろうとしている一例であります。  社保、国保審査委員会審査現状は、医療機関の異議申請に対する復活率はまことに少なくて、問答無用に近い診療報酬のカットが行われているのが現実であります。そのような審査減点の結果を患者に知らせ、減点分は不当な診療費だから取り戻せと通知することが、いかに医師への不信をあおるかを考えていられるのでしょうかと思います。国保本来の、国民に漏れなく医療を行うという医療の根底を破壊するもので、幾ら金のためとはいえ、国や自治体がそういうことを行ってよいのでしょうか。政治家の先生方に考えていただきたいと思います。  我が国は、今や世界第一級の経済大国になったと自他ともに胸を張っておりますが、政府は、なぜこれほどまでに低所得者の集団である国保加入者を苦しめるのでありましょうか。  先日、警察庁が発表した昨年の自殺者数は二万四千四百六十四人で、そのうち六十五歳以上の老人が四分の一おります。そして、自殺の原因の半数近い一万一千百二十五人が病苦によるものと発表されております。また、最近、法医学者の話によりますと、我が国の死亡数は昭和六十年で七十五万人ぐらいなのですが、そのうち七万人近い人が変死体扱いになって処理されております。昭和五十年代はその変死体は五万人ぐらいでありました。昭和六十一年には七万体近くになっております。そのうち、病死が半数近くあると言われております。医療が、国民保険制度一般国民に漏れなく行われているはずであるのに、最近医師の診療を受けずに死亡している人が増加しているのは大変注目されるべきことだと思います。  国民健康保険法の第一条は「この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健向上に寄与することを目的とする。」となっています。今回の国保改正案は、国保目的充実する方向とは逆の改革としか理解できません。  私は、今回の法改正に反対の意見を明らかにいたしまして陳述を終わります。  ありがとうございました。
  11. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 次に、丸尾参考人にお願いいたします。丸尾参考人
  12. 丸尾直美

    参考人(丸尾直美君) 私は、経済政策福祉の経済学を専攻している者です。  経済学的な観点から話しますととかく誤解を招きますが、医療目的は、言うまでもなく傷病の予防・治療、健康の増進維持であるわけです。それを効果的に、公正に、かつ安定的に行うというのが経済学であるわけでして、決して効率化するということが医療目的を軽視するということではなく、それをよりよく達成するというのが経済学の趣旨であるということをまず申し上げておきます。  そういう観点から今回の改正を検討しますと、種々の問題点を残しております。最後に述べますように、より長期的、基本的な観点から検討すべき問題がいろいろありますけれども、そういう問題を十分御検討され、改革されるという条件つきのもとで、今回の改正を好ましい方向への当面の措置として評価したいと思います。  まず、国保事業の安定化計画ですが、この計画は、まず年齢構成などの客観的理由による医療費地域格差を分離した上で、広い意味の経営努力とも言うべきことによる医療費格差を分離し、経営努力を促すことによって医療費の格差を縮小していこう、そしてより効果的な医療を実現しようとするそういう観点。そしてまた、不当に、客観的理由がなく高い医療費を使っているところは間接的に他の国民にも迷惑をかけているわけですから、分配の観点から見ましても、そういう点について調整をするということは好ましいわけです。そして、経営努力を促すというためには、そうでない要因、高齢者の比重が多いとかあるいは貧困で傷病にかかる人が多いとか高額医療の関係者が多いとか、そういう要因を分離した上で責任を明確にして、その分について一部負担をさせ、経営努力を促すということは十分考えられることであり、今回計画されたシステムは、その点でかなり上手に工夫されていると私は考えます。  ただ、医療給付費が大きくなる理由は、その法案で明示されていること以外にも考え得ますので、超過費用の責任自治体に負わす場合には、医療給付格差の要因分析をもう少し計量的に明確に確認する必要があるように思われます。  さらに、言うまでもないことですけれども、医療給付費の格差を生じさせる医療供給システムの問題点についても検討することが必要であります。さらに、経営努力ということで、今桐島参考人のお話がありましたように、病院を追い出されたり、いろいろ医療上の障害を生じさせることがないようなそういう点につきましては、特に高齢者の場合、老人福祉サービス等々の充実とあわせて総合システム的な観点から対処していくというなとが望まれます。  さらに、経営努力としましては、支出を抑制するとともに、収入を確保するための経営努力のインセンティブシステムが必要でありますけれども、その点をどうするかという問題も残されております。ただ、これは次の保険基盤安定制度に意図されているのか、その辺が少し私にははっきりしないところであります。  次に、保険基盤安定制度でございますが、これは保険料支払い滞納問題の対応として当面必要な措置であると思います。低所得層の保険料支払い問題に対処する分配上の政策としても評価されます。  この制度としましては、福祉医療として分離するというような考えもありましたけれども、これは佐藤参考人が指摘されましたように、分離して一種の医療の二重構造を生み、低所得医療にスティグマを感じさせあるいは医療の質に差を生じさせるおそれがあるというようなそういうおそれのあるやり方は断固避けるべきであり、そういう意味では分離しないで今回のような形で制度に包括したことは妥当であると思います。それでもなお佐藤参考人の言われるようなおそれがあるとしますれば、そういう点についての十分な配慮は必要であると思います。  また、この場合には、先ほどの安定化計画の場合に比べて市町村に費用を分担させる根拠が必ずしも明確でないわけですが、これが収納率や所得捕捉率、そういう点での経営努力を促すという趣旨であるんでしたら、そういう点はもう少し明確にしてそれに適したシステムにする方がより妥当ではないかと思います。  三番目に、高額医療費共同事業に関しましてです。  現在の国保事業単位は、保険機能を十分に生かす規模としては不十分なところが多いわけでして、そういうことから保険機能を補完するために何らかの共同事業が必要であり、特に高額医療に関してこの事業が必要であるのでこれを充実さしていくということは極めて好ましいことであるわけです。もちろん規模自体をもう少し大きくするということもありますが、経営努力というものは規模が余りに大きくなり過ぎますと損なわれる。そこで、経営努力を生かす規模とそれから保険機能や規模の利益を生かす規模、これを両立させるためには、独立的な単位で事業を行い、保険機能を生かす部分に関して共同事業で一種の保険的な調整をしていくというのは妥当な方向であり、そういう意味で今回の措置は適正適切ではないかと思います。  ただ、より長期的観点から見ますと、医療事業の単位をいろんな観点からより適正にするような医療圏再編成とそれからまた特に高齢者の場合には福祉圏とを総合化して、適切なそういう福祉医療が行われるようなそういう政策をあわせて進めていくことを期待したいと思います。  最後に、今回の国保改正は、先ほど述べましたように、当面の改革としてあるいは措置として評価できるとしましても、他の医療保障との関係、社会保障財政計画の中での位置づけ、長期財源問題、長期改革、殊に医療保険一元化との関連等でまだまだ不十分な点が多いわけでして、そういう点についてできる限り明確にし、方向を示していくことが望まれます。  第一に、社会保障財政計画、これは三月二十日に二十一世紀初頭の社会保障負担として出されましたけれども、これは、私も検討しましたけれども非常にラフなものであり、計画の与件の数字等に非常に疑問な点が多い。私も「週刊社会保障」に少し書いたりしましたけれども、こういう計画をもう少し緻密なものを出して、国民も専門家も納得いくようなものを示していくことが必要じゃないかと思います。  第二に、今回の国保改正医療保険一元化へのステップであるとすれば、それがどのような意味においてそうであるか、国保一元化の方向との関連をより明確にすることが望まれます。  第三に、老人保健医療への拠出は国保でも健保でも大きな問題になっておりまして、これが医療保険財政の将来の大きな問題になることは当然予想されますが、この問題に対する対策を速やかに考えることが必要です。健保連は老人保健医療費を間接税で賄うことを提言しておりますが、少なくとも老人保健医療費の全額でないとしても、保険料負担比七〇%の現在老人医療のものを縮小して、その分を将来間接税等で賄っていく、そういうことによって間接的に保険料、両方の保険機関の負担を軽減していくということは望ましい方向ではないかと思います。  三番目に、社会保障の地方分権化は、それが自治体への財政負担の分権化だけじゃなくて、決定権の分権化や財源の措置の分権化等を伴うものであれば、分権化の方向というものに関しましては私は好ましいことではあると思います。しかし、今回の政策としましても、近年行われております政府の社会保障関係の政策は、一見分権化でありながら実は財政負担の面だけの分権化の性格が強く、権限の分権化、財源の面での分権化、真の分権的産業民主主義の方向から見ますと問題点が多々あります。真の分権化とあわせて分権化を進めていくということを期待したいと思います。  最後に、企業でも何でも国でもそうですけれども、やはり客観的な資料を明示され、そしてそれをどうするかということが国民や住民の目標とされるそういうことが経営努力や住民の参加意識を促すものであります。  そういう観点から、国保の一人当たり医療費、給付費、収納率、保険料等々の地域ごとの格差等々を機会あるごとに国も自治体も明示して住民に周知させる、住民に政策へも参加さして、そして参加協力意識さらには責任意識を持たせる、そういうことによって医療福祉サービスへの国民の協力を促していくということが好ましいのではないかと思います。  実は、私、非常に長い資料を持ってきましたけれども要点だけ申しました。資料を置いておきますから、もし必要な方がありましたら見ていただきたいと思います。
  13. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 以上で参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  14. 石井道子

    ○石井道子君 きょうは、参考人の皆様方におかれましては大変御多忙の中をわざわざお出かけをいただきまして、また貴重な御意見を拝聴させていただきまして本当にありがとうございます。  まず、石古参考人にお伺いしたいと思うのでございますけれども、国民健康保険制度昭和十三年に創設をされましてから五十周年を迎えるということしは記念すべき年ではないかと思います。この国民健康保険制度が、国民の四割の方が加入をされまして国民保険制度の基盤をつくってきたと受けとめているわけでございますけれども、現在の高齢化が進行いたしまして低所得者がますます多くなってくるという現状で、国保財政が大変圧迫をされているわけでございまして、先ほども参考人のお話にありましたように、いろんな法律改正を行いましても一向に国保財政が好転をしないとおっしゃられているわけでございます。  また、最近は、五人未満の事業所で健康保険組合加入をするようになりましたりあるいは退職者増加したりするということでございまして、ますますそのような状況は進んでまいると思いますし、困難な財政運営を迫られてくるのではないかと思います。  このような国民健康保険の果たすべき役割について、先ほども抜本的に見直し制度を確立する必要があるとおっしゃられておりますけれども、どのような点についてこのようなことを具体的に進められたらよろしいか、その点についてお伺いをしたいと思うわけでございます。  国民健康保険制度は今後どのようにあるべきかということと、それからまた抜本的な制度改正についてはどのようなお考えをお持ちでございましょうか、お伺いをしたいと思います。
  15. 石古勲

    参考人石古勲君) お答えを申し上げます。  前段で概要を申し上げたところでございますが、現在の地方におけるところの国民健康保険運営そのものにつきましては、このままの現状では、今回の改正が通過され、改正をされましても、悪化していく、経営は非常に苦しい情勢にございます。このことは変わらない現状でございます。  そこで、国民健康保険は、保険者が寄りまして相助け合うというのが目的であります。したがいまして、相互扶助の関係を、現在の組織あるいは形態でいかない場合はそれをやはり改めていかなければならない。発足以来の国民保険という考え方が、やはり国におかれましても我々地方におきましても変わりませんけれども、医療内容の変化、国民生活の内容の変化あるいはまた高齢化の促進、このようなことが大きく影響をいたしまして、我々の現状からいたしますと国民健康保険は抜本改正をせざるを得ないという考え方であります。それがためには今回の法律は当然通していただかなきゃならぬということで、成立に対する要望決議を町村会ではいたしたところでございます。  これからの問題につきましては、あくまでも日本国民が安心をして国民健康保険によりまして医療を受けられる、このようなことを確立することをやはり大きな国の立場あるいは地方立場でやらなければなりませんが、我々地方の側からいたしますと、これはやはり国においてひとつ決断をつけていただかなければ仕方がない問題である。その決定においての手法あるいはやり方は、国と地方がどのようにそれを分担し合うか、役割分担等につきましてはやはりよく協議をして、国における方針に我々は従っていかざるを得ないであろう。一地方だけが腕を組んでおりまして、すべて国におんぶをしていただくという考え方ではございません。現在においても国民健康保険に対する国の援助あるいは施策は財政的にも相当な負担となっておりますが、このままでは国においても地方においてもだめなことははっきりしておるわけでありますから、一年でも早くいわば国において決断をつけていただく必要があろう。その一元化方法ということにつきましては、いろいろと複雑さがありあるいはまた職域における現状等がございますから、やはり十二分の検討をしなければなりません。  それからまた、今いろいろと意見が出ておりましたが、医療の問題あるいは保険との関連の問題につきましても、我が国高齢化社会の将来に対してある程度安定したものをつくっていかないといけません。したがって、この抜本的な問題につきましては、特に先生方のひとつ決断と御努力をお願いを申し上げたいと、このように考える次第であります。  我々地方といたしましては、国民が安定をした考え方あるいは状態で医療を受けられ、そしてまた医療を受ける前に、健康というものは自分自身がつくり出すものでございますから、我々地方においては、行政上、健康を自分がつくり出す運動なり施策を今講じておるところでございますが、やはり医学の進歩というものは健診とかあるいはいろいろな検査をいたしますと早期に発見をする、そしてそれによって治療することにおいて医療費はかさみますけれども長生きすることができる、こういう現象が今生じておるわけでございますので、我々日本国民全体が、国保という問題のみによらず、自分の健康あるいは医療の問題あるいはそういう福祉の問題を含めました一貫をしたところの施策をお互いの国民も持たなければなりませんしあるいは国の政治においてもその方針を打ち立てていただきたいと、このように考える次第でございます。  余り時間がありませんので具体的に申し上げておりましたらどうかと思いますが、実は、私自身の町におきましても町立の二百床の病院を持っております。住民は非常に幸せでありますが、その利用が多くなるほど病院はありがたいわけでありますが、国保は大変でございます。外国においては公的病院というのはございません。みんな民間でございます。その辺に我が国の特殊性もございますし、今前段で申し上げた医療とそれから保険の関係、結局はもっともっとこれらを単純化してお互いが安心して助け合える制度であるというように方向づけていただきたい、我々もそれに御協力を申し上げたい、このように考える次第でございます。
  16. 石井道子

    ○石井道子君 時間があと一分ぐらいしかございませんので、あと丸尾参考人石本参考人にお伺いしたいと思ったのでございますけれども、以上で終わらしていただきます。  どうも失礼いたしました。
  17. 山本正和

    ○山本正和君 私も三十分というふうに時間が、質疑応答、両方含めて規制されてございますので、ひとつ参考人の皆様方、きょうは大変お世話いただいておりますが、本当に短時間で御意見をいただくということになろうかと思います。大変申しわけございませんけれども、よろしくお願いしたいと思います。  冒頭、石古参考人に、結論だけで結構でございますが、ちょっと御意見を伺いたいわけです。  といいますのは、本来、この国民健康保険制度あるいは国民健康保険が生まれたいきさつから言って、市町村保険者であって、そして国が、被保険者保険料とそれから国の国庫負担でもって賄っていく、こういうことにしなければこの国民健康保険は成り立たないだろうと、こういうことで出発した。というのは、市町村はそれぞれ財政規模も人口も違いますから。  ところが、今度は、後で交付税で面倒を見るとはいってもとにかく自治体が負担するということが導入されておる。これは二年間というふうには言っておりますけれども、もし、これが本来そういうふうにしていくんだと、こうなった場合には、市町村といいましょうか自治体の立場から、そういうことのやり方については御賛成でございましょうか、御反対でございましょうか。また、国民健康保険制度のあり方からいいまして今度のは当面の緊急避難、こういうふうな発想で御賛成なのか、それともこれはいいことだ、こういう意味で御賛成なのか、その点をまずお伺いしておきたい。
  18. 石古勲

    参考人石古勲君) 前段で申し上げましたように、一応暫定的なものであるということで賛成をいたしております。
  19. 山本正和

    ○山本正和君 どうもありがとうございました。  石古参考人から抜本改正の必要性等もお聞きしておりまして、今後ともひとつぜひ自治体の長の立場でいろいろと国に対してもまた私どもに対しても御意見をいただきたい、このことを要望しておきたいと思います。  それから、石本参考人にお伺いしたいんでございますが、現在の我が国国民健康保険の中にさまざまな問題点がある、これを解決するということをしなきゃいけない、それの幾つかの例をお挙げになりました。  私も、多くの医療機関や多くのお医者さんは本当に患者のためにまさに二十四時間、場合によっては私の時間を犠牲にしてもお取り組みいただいている多くのお医者さんあるいは医療機関に対して大変敬意を払っておるわけです。しかし、実はこの医療制度の仕組みの中にある利潤追求が可能な手段、これを悪用しておられる医療機関が時々新聞紙上に載るあるいは医師として果たしてこれでいいのか、こういうふうな問題が新聞紙上等に載る。これはやっぱり現在の国民健康保険制度の仕組みの中にある矛盾から生まれているもの、こういうふうなことを思うんでございますけれども、その点については石本参考人、またお医者さんでいらっしゃいますからこれはお伺いするのは恐縮でございますけれども桐島参考人から、一言ずつまずお伺いしたいと思います。
  20. 石本忠義

    参考人石本忠義君) ただいま山本先生からの御質問でございますが、結論から言いまして、現在の医療保険制度の構造的な問題からそうした問題が生じるとは考えておりません。  こうしたいわゆる不正請求あるいは過剰診療による不当な請求、これらの問題は国のいかんを問わずございまして、例えば支払い方式に問題があるからそういうような問題が生じるというわけではございません。特に、資本主義社会におきましては、医療の公共性というのはある程度国民の間で認められているわけでございますけれども、しかしその公共性も時としていわゆる営利性に変わることがございます。したがいまして、結論から言いまして、いわゆる制度のいかんを問わず、こうした問題は世界の共通の問題でございまして、それを防ぐ方法というのはある程度あるようでございますけれども、やはりできるだけ少なくしていくという方法を考えていかざるを得ないのではないか。  ただ、私は、その一面だけを取り上げて大きな基本的な問題にすりかえていくということはやはり避けなければならないというふうに考えている次第でございます。
  21. 桐島正義

    参考人(桐島正義君) 医道審議会で毎年出ますのに、ふらちな医者がたくさんおる——たくさんもいないんですけれども、挙がってきておるのを見ますと、人間としてやったらいかぬことをやっているというふうに思います。殺人だとか麻薬だとか大きな脱税だとか、こんなのは本当に許せないと私たち思います。大部分の医者は一生懸命やっておるのはさっきおっしゃったとおりだと思います。  ただ、やっぱり、資本主義社会の中で設備投資もやる、土地が高い、家も建てにゃいかぬ、特に患者さんのためには新しい設備もやっていかにゃいかぬとなると今の医療機械は大変高いんです。とんでもなく高いんです。こんなものがなぜこんなに高いのかと思われるほど高いのです。そういうものは最初どなたもただでいただけませんから、どうしてもやはり利潤の追求をせざるを得ない。特に最近の若いお医者さんは、今開業するお医者さんは借金に追われているというのが現状でございますから、どうしても幾ら医療のために必死になる人でもそこに追い込まれざるを得ないと思います。  今度、私たちの会では開業医宣言を出しまして、私たちは、医師は本当に患者さんのために働いてほしいということをはっきり宣言の形で出しております。これは、医者が常に警告して、みずからが戒めていかねばならぬことだと、こんなふうに思っております。
  22. 山本正和

    ○山本正和君 大変どうもありがとうございました。  今度の国民健康保険法改正をめぐりましてさまざまな議論がございます。そういう中で、高齢者問題ということが大変よく言われるわけでございます。これは、当委員会の中でもいろんな議論がございまして、むしろ高齢者に対してはもっと温かい対策を講ずべきだという観点から、国民健康保険制度の中でももう一遍十分な議論をすべきじゃないか、こういうことを私どもも思っているところでございます。  先ほど石本参考人から、老人医療制度について我が国アメリカでございますかがちょっと別建てになっておって、他は一本化されているというようなお話がございました。ひとつこの辺の状況はどういうふうになっておるのかあるいは参考人御自身としてこの老人医療の問題を国民健保と絡めてどういうふうにしたらいいとお考えでございましょうか、もしお考えがございましたら承りたいと思います。
  23. 石本忠義

    参考人石本忠義君) ただいまの問題は非常に重要な問題だと思いますので、まず外国の例から申し上げまして、最後に私の考えを申し上げたいと思います。  先ほど申し上げましたように、我が国と同じように老人保険制度別建てになっておる国は、完全なものとしては我が国アメリカと言うことができますが、西ドイツ別建てという見方もすることができます。  ただ、その財政のあり方というのは違っております。これは、老人医療費というのは御存じのように大変一般の人よりも一人当たりあるいは一件当たりの医療費が高いわけでございまして、いわゆる保険原理によってこれを行うということが非常に難しいわけでございます。アメリカの場合には、六十五歳未満の者に対しましていわゆる目的税的な社会保障税を課しておりまして、これによって老人障害者健康保険運営しております。西ドイツは、約六〇%を一般の被保険者による連帯保険料で賄っておりまして、あとの四〇%を年金保険財政から支出しております。国庫負担という制度原則として西ドイツでは導入しておりませんのでこういう方式がとられているわけでありますが、この方式でないとこの制度が成り立っていかないという状況にあるわけでございます。その他の国では、老人一般制度の中に包括されておりますが、先ほどちょっと申し上げましたオランダが、一九八六年四月一日から老人保険制度を廃止しまして一般制度に吸収したというのは、長い間老人健康保険制度に対しまして国庫負担が導入されてきましたけれども、財政的な理由からこれを一般制度の中に吸収せざるを得ないという状況になったわけであります。したがいまして、老人保険制度というものは、独立採算的な形でこれを行うあるいは保険原理によってこれを行うということが難しいわけでありまして、別建てになっておりましてもこれは何らかの形で財政的な援助を行わなければならないわけであります。  私の意見といたしましては、これを国民健康保険だけで行っていくということは大変難しいと思いますし、将来への展望も開けてこないというふうに考える次第であります。もし国民健康保険がいわゆる低所得者とかあるいは老人のための制度ということであれば、現在のような保険原理というものを廃止して、いわゆる公的な保健サービス的なものにした方がむしろすっきりするのではないかと思います。もし医療保険制度というものを導入する、このまま維持していくということであるならば、むしろ国民健康保険制度というものをこの名のとおり国民の基本的な保険として国民すべてがまず国民健康保険加入して、その上に国民年金制度と同じように付加的な保険というものをつくっていくという形にすべきではないかと思います。  ただ、この運営方式は、現在、職域の保険もございますのでいろんな方途があると思いますので、すべて市町村方式で行うということではなくて、やはりあくまでも現在の制度の長所を生かしながら運営というものは考えていかなければならないのではないかと思います。  結論的には、老人保健制度のあり方というものが将来の我が国医療保険制度の方向を決めるんではないかというふうにさえも考えている次第であります。
  24. 山本正和

    ○山本正和君 それから、医療保険制度のいろいろな運営あるいはそれぞれの健保組合について見ましても、いろいろまちまちな状況になっております。政府管掌健保の場合は大変な数になってまいります。あるいは今の国民健康保険、それからさらにそれぞれ共済組合の保険、いろいろな形態がございます。ところが、いろんな形態の中でしかも国民健康保険に矛盾が今一番象徴的にあらわれてきている、そのしわ寄せが場合によっては被保険者であるお年寄りだとか低所得者の方にいくあるいは医療の最前線で大変御苦労いただいている医療機関やお医者さんのところへいく、こういうふうな問題が生まれておろうかと思うんでございますけれども、そういうことを含めまして、今のお話の中に若干あったんですけれども、こういう単位あるいは運営の形態について現在の状況をどういうふうにお考えでございましょうか、もう少し補足していただけたらと思います。
  25. 石本忠義

    参考人石本忠義君) 現在の運営形態は非常に我が国の場合には複雑になっております。これにはいろんな歴史的な理由があると思うんですけれども、まず形式的には何らかの形で被保険者の参加ということが考慮されております。しかし、現在の状況からいきますと形骸化されているという感じがいたします。  我が国健康保険法は西ドイツ健康保険関係法規をモデルにしてつくられたものでありまして、この法律の中は、御承知のとおり、労使の自主的な運営ということが基本になっております。しかし、西ドイツにあるいはフランスに見られるような完全な労使の自主的な管理ということにはなっていないわけであります。それは、ある一面では労働者にとってプラスの面もあるわけであります。要するに、雇い主のかなりの責任において財政的にもいろいろな面でも医療保険制度の利益を受けるということもできるわけであります。しかし反面では、いわば形式的な参加でございますので十分な意見の反映ができないということであります。  今後の課題といたしましては、できるだけ被保険者の参加意識の高揚、実際の被保険者の参加ができるような運営方式というものを考えていくべきではないかと思います。特に国民健康保険の場合には、市町村財政負担をしているということもありまして市町村意見、いわば全責任的な立場に立っての考え方というものが貫かれておりますので、このあたりでそれらも修正をしていくということが大事ではないかというふうに考えております。
  26. 山本正和

    ○山本正和君 石古参考人に、ちょっとまた戻って大変恐縮でございますけれども、今度の法改正によりまして著しく高いと思われる出費といいましょうかそういう市町村に対しては安定化計画を求める、こういうふうなことになってまいります。その安定化計画をつくるときに、また市町村がそれぞれいろんな責任を持たれるということになってまいります。  私どもも大変心配しますのは、平均化いたしますと、その平均化したのより高ければこれをおろす、そうするとまた平均というのは下に下がりますから、今の薬価基準と一緒でだんだん下へ下がる、いつも高いところへ並ばれて、しまいにはこれは医療費のとめどもない低水準化になってしまうという危険性があるじゃないか、こういうふうな指摘があるわけであります。したがいまして、恐らく保険者である市町村役割というのは大変重たくなってくるんじゃないか。  それと、この安定化計画をつくるときには、当然、現在協議会か何かございますがそういうふうなものあるいは地域医療で大変御苦労いただいている保険医の皆さん方といろんな形で協議されながらの議論があろうと思うんですけれども、その辺の問題について参考人からの御意見がありましたらぜひ承っておきたいと思います。
  27. 石古勲

    参考人石古勲君) その問題につきましては、我々市町としてはこれまでからいろいろな施策あるいは手段をとっておるわけでありますが、あくまでも国民健康保険の問題については市町村でできる分野、範囲とできない分野がございます。今回の内容におきましても、やはり各個人のそれぞれの自覚というものが必要であります。したがいまして、我々首長の行政におけるところの国保を取り巻く問題については、できるだけ医療費を高めないような施策をとりたい、こう思いますが、なかなかその辺は難しさがございますし、なおかつ地域によってまた環境によって違います。  結論は、前段で申し上げましたように、あくまでも今回の場合は暫定的なものであると考えておりまして、長期的な展望に立ち、高齢化社会を迎える我が国における国民健康保険なりあるいは医療に対する問題についてはやはり抜本的なものがなければならぬ、このように考えておりまして、我々の分野では限度があることを申し上げます。
  28. 山本正和

    ○山本正和君 そこで、実は、これは大変難しい問題でございまして、私も当常任委員会でいろいろと質問するときに自分でも大変矛盾を感じながら質問をするわけでございますが、医療というものの基本からいったらこれは信頼以外にはあり得ない、お医者さんあるいは医療機関を信頼する、その信頼の上に国民健康保険制度があるとするならば、これは、国がどんなにほかの予算を犠牲にしても果たさなきゃいけない役割があると思うのでございます。ところが一方で、医療に対する不信の問題が現実にある。この辺が大変難しい問題になってきておりまして、そこで私どもいろいろ考えていろんな方からも御意見を伺う中でこういうことをお聞きするわけです。  お医者さんに対する本来の社会的位置づけあるいはお医者さんのさまざまな技術あるいは学識、人格、そういうものに対する処遇というものが実は間違っているんじゃないか、本来の、お医者さんに対する人間の命を預かるということに対する補償の問題が、今の国民健康保険制度の中にある仕組みのために、例えば、やむを得ず、薬価基準の差額のあるものをつい使わざるを得なくなったりあるいは検査づけ薬づけと言われるところにやむを得ずいってしまうというようなことが言われたりすることがございます。  その辺の問題を、これは私どもちょっとこんなことをうっかり言いますと誤解を招いて、地元のかなり有力な者から、おまえつまらぬことを言うな、こういっておしかりを受けるようなことがございます。  そういう一番根っこにある部分について特に全国保険医団体連合会という立場で大変難しいいろんな問題をお抱えたと思うんでございますけれども、先ほど、どなたでございましたか、医師相互評価という言葉でございましたかそんなようなお話がございましたけれども、そういうような問題につきましてはいかがお考えでございましょうか、桐島参考人から御意見を承りたいと思います。
  29. 桐島正義

    参考人(桐島正義君) 医療不信というものの一番の問題にマスコミが取り上げますのは、検査づけと薬づけということです。これは、私ら、古い、戦後すぐ開業した者は、調剤をいろいろ粉をまぜ合わしてつくっておった時代と今と考えましても、薬の数は変わっていないですね。ただ一服になっているか物すごい錠剤にかわっているかだけの話で、製薬技術ですぬ、丸薬になっている方が確かに安全性が高いと思います。しかし、内容は、たくさん出しておるからたくさん薬効があるんだというふうなことはない。ただ、戦後の医学教育が、もうデータによる教育、診断ということしか教えていないですね。大学の先生に実際に救急医療に来ていただきますと、助教授級の人で大学では非常に偉いんですけれども、救急医療の現場に行ったら本当に参ってしまっておるんですね。一晩やらしたらふらふらになる、えらいところへ出てきたと。データが何にもないところでやらなきゃならない。それで間違ったらいかぬ。検査のデータがなければ診断がつかないという医師教育がずっとやられておる。だから、我々は、こう肝臓をさわる、触れますね。それが今は、超音波で診て、実際に写真を撮って診てみないと、そればかりに頼るから、触診の技術が全くもう衰えている。  そこらあたり反省せにゃいかぬのですけれども、我々、今の開業医の立場からして、医学教育を否定するなんということはとてもできやしません。確かに医学が進歩しておるんですから、それを否定することはできません。だから、教育そのものにあると思います。  それから、薬づけもそういうことです。  そして、アメリカ制度がちょっと今御質問がございましたけれども、ピュアレビューとかあるいはPSROですか、プロフェショナル・スタンダード・レビュー・オーガナイゼーションというやつですぬ、互いにやる。これは、あの富士見産婦人科事件が起きたときに、アメリカに住んでおる二世のお医者さんたちが日本へ来て、日本の医者はなっておらぬ、PSROというのがアメリカにあるんだ、こんなことを一つやれないのはというふうなお話だったんですが、その後じっと聞いておりますと、これは医療費を抑えるためにつくったんです、はっきり言って。それでその経費が、アメリカの医者の報酬は高いですから、たくさん寄せて会議していたら、その医療費削減の効果よりPSROの組織を維持する費用の方が高くついてしまったのでやめだといって政府はやめてしまったんですね。何も医者の中でできたんじゃなしに、メディケードだとかああいうものの政府がおやりになったんです。それで、今あるのはもっとひどい。ピュアレビューというのは、これは余り金がかからぬようにやっておりますけれども、決して道徳的な意味からこれは出ておりません。やっぱり医療費削減から出ております。  アメリカ医療は、今全く経済一辺倒になっておりますので、DRGができましてからというものはもう計算の速い医療産業がずっとばっこしまして、マルチホスピタルが、ほかの慈善病院なんかもう全くなくなりました。それから、ソロフィジシャン、我々のような単独で開業しておる者ももう開業できない。それほど、どういう診断をつけたらどうもうかるかというふうな計算の方が速くて、それが勝っちゃうんですね。本当に患者をじっくり診て親切にやろうなんて思っておる人は、もう排除されていくような状況が今アメリカに生まれております。だから、余りアメリカのは参考にならないだろうと私は思っております。
  30. 中西珠子

    ○中西珠子君 本日は、お忙しい中、参考人先生方、ここにおいでいただきまして貴重な御意見を賜りまして本当にありがとうございます。心から御礼申し上げます。  私の時間は大変限られておりまして、先生方にほんの一つずつぐらいお聞ききしたいと思っておるのでございますけれども、すべての先生にお聞きすることが果たしてできるかどうか。  まず、石古参考人にお伺いしたいと思います。  国民が、だれでも、どこででも、いつでも、差別なく、安心してリハビリテーションを含む医療を受けられる医療保障制度医療供給体制を確立することは、原則的には憲法二十五条に基づいた国の責任であると私は思っておるのでございます。  今回の国保改正案は、国と地方が一体となって取り組んでいく仕組みを導入するということでございまして、もちろん、暫定措置だということで、地方負担増加は全額補てんをしているから地方への責任の転嫁にはならない、こう厚生省は言っているわけでございます。六十五年にいわゆる抜本改正というものが行われまして、恒常的に地方負担というものが入ってきて、それがまた年々増加するというふうなことになった場合、地方の現在の三割自治という状態の中では大変お困りになるのではないかと私は思うのですね。  で、地方への大幅な権限移譲が必要でありましょうし、もっともっと地方自治の裁量権のまた決定権の及ぶ範囲を広げていかなければいけない。それで、地方分権というものをもっと推し進めていかなければどうにもならないのではないかと思うのでございますが、いかがでございますか。
  31. 石古勲

    参考人石古勲君) お話しのように、我々地方公共団体が持つ行政の役割は分野が随分と広うございまして、国民健康保険が赤字を出しまして我々の一般会計からそれを補わざるを得ない、こういうことは我々の本来の姿ではございません。あくまでも、国民健康保険創設されました国民保険の意図に沿ったやり方でなければならない、このように考えておることは変わりません。  今回は、したがって暫定でやると申しておりますが、抜本的な改正がどのようにされるかは我々のまだ及ばないところでありますが、抜本的改正においては地方が仮に幾らかの負担をせざるを得ない、こういう格好になりましても、それは無理なものであれば長続きはできませんし、我々公共団体の規模というのは大小さまざまでありまして、地方によって社会環境すべてが異なります。そのような状態で一つのルールあるいは一定基準というものは大変難しいものがあろうと思います。したがいまして、国民医療を守り安定した医療という格好の助け合いの保険制度というのは、やはり主体は国でなければならない、これは変わらないところでございます。  したがって、一定の基準以下で補わなければならぬという部分は、これはいたし方がなかろう、このように感じております。
  32. 中西珠子

    ○中西珠子君 佐藤参考人にお聞きしたいわけでございますが、厚生省は、今回の改正保険基盤安定制度を導入しているわけですね。これによって一世帯当たり千七百円、保険料負担が軽くなる、こう申しているわけでございます。一方で、地方自治体に対しては保険料を下げるなという指導をしているそうでございます。  私は、今回の改正案暫定的な財政措置と考えておりますからそれはそれなりに一応評価はできても、これから先、長期的にどうしていくのかということを考えますと大変心配になるわけでございます。長期的には、私は、国保の構造的な問題である低所得者問題は高齢者がどんどん増加していくに伴いまして保険原理ではどうしても対応ができなくなってしまうのではないか、このように思っておるわけでございます。  先生が、拠出能力の弱い者への対策というものは保険料滞納者に対する被保険者資格証明書発行をも含めて別途考えなければならないのではないかとおっしゃいましたが、私も全くそのような同じ考え方を持っているわけでございますけれども、先ほど積極的な選別で差別をなくすという方向に将来考えていかなくちゃならないということをちょっとお漏らしになりましたが、これをもう少し敷衍して御説明いただけますでございましょうか。
  33. 佐藤進

    参考人佐藤進君) 先ほど御説明申しましたけれども、積極的選別と差別とは違う。  と申しますのは、今度の法案の素案に出ておりますような福祉医療制度という考え方は、まさに差別だ。しかし、積極的な差別というイギリスのティトマスが言っているような考え方は、社会的に弱い層というのはたくさんいるわけで、これは障害者であり高齢者であり、場合によると稼得能力のない母子であり、等々の人たちについては、拠出能力のある層に比してむしろよりいい医療給付をするということを考えることは当然だと思います。  とりわけ今度の本案に関係しておりますのは、高齢者対策だ、こう言うといけないのかもしれませんけれども高齢者医療費増加に対する財政対策だということになってきますと、高齢者医療制度をどうするのかということがやはり基本的な問題でございます。これは、先ほど石本参考人も指摘申しましたように、一体、拠出能力のない人に保険原理適用することが妥当なのかというところまで来ている。だとすれば、構造的に抜本的な対策というのは、どういうふうにこれから考えるのか。これは一元化でもなし得ないだろう。その場合に、当然のことながら、被用者保険とそれから地域住民対象の二本立てはともかく、政策サイドがそうおっしゃっているわけですからそうですけれども、これはガラガラ計算の一本化は、高齢者を含む地域住民とそれから被用者とは違う。だとすれば、どうしても高齢者を別枠にする。これは、いい意味で別枠にする。  そこで、高齢者について——私も、実は、もう高齢に入りつつあるわけでございますけれども、自分が居住地にいて病気になったらだれが一体面倒を見るのか、例えば自分の家内が年をとれば私が面倒を見ると言っておっても、現役でいる間はいいですけれどもそうでなければだれが面倒を見るのかということになってくると、やはり、訪問医から、訪問看護制度から、あるいは、病院福祉施設、そういうものを総合化した別枠の、これを老人保健制度と呼ぶか、今は老人保健法と呼ばれていますけれども、老人保健の法と呼ぶかあるいは老人何と呼ぶかは知りませんけれども、総合的な対策で、別枠の財政費用でもって考えなければならなくなるだろうと思います。  私は、保険にはおのずから限界がある。これも、実は大体六十歳以上ぐらいを軸にしないと、今の七十歳を対象にしているような老人保健ではもう困るというふうな感じ方を持っております。  以上です。
  34. 中西珠子

    ○中西珠子君 どうもありがとうございました。  医療保険一元化ということでも先生のお考えをお聞きしようと思ったんでございますが、今既にお触れになりましたので、どうもありがとうございました。  結局私の考えておりますような医療保障体制と医療供給体制の実現は夢のような遠いかなたのことと考えられるかもしれませんけれども、私は、現在の国保改正案が医療保険一元化に向かってのいろんな条件の整備であると言われることがどうもぴんとこないし、そしてやはりすべての国民が基本的な人権として生存権を持ち、また病気になったときったとき、けがをしたときには、どこででも、だれでも、医療というものにかかれるようなそういう制度を国の責任においてやっていかなくちゃいけないし、また地方自治団体がかかわってくるのであればそれに相応するだけのやはり地方分権がなければならないと考えるわけでございます。  丸尾参考人もその地方分権というふうなことをおっしゃっておりましたけれども、もし医療保障制度地方責任も交えてやるとすれば、どういうふうな形で地方分権をやっていけばいいとお思いになるのか、もう少し御説明をいただけますでしょうか。
  35. 丸尾直美

    参考人(丸尾直美君) 今回の改正に限らず、財源的には社会保障費用の中に占める地方自治体の負担費は高まってきておりますね。  その機会に権限を自治体等も要求していくということでしょうけれども、さしあたり特に老人医療の場合、福祉サービスとの関連が非常に強いわけです。社会福祉サービスは自治体が地元で密着してやるのが非常に適しているわけです。例えば、スウェーデンのような国でも、末端の自治体が老人福祉サービスの費用のほとんどを財源調達して自分でやっているわけですね。それで、スウェーデンの場合は、医療は県という形になっています。  自治体に福祉サービスあたりから自分でやっていくノーハウとかシステムとかをだんだんとつくっていって、それと老人医療とを結びつけていく、そういうことがまず必要である。そして、どうも日本の場合は、何でも自治体の上に県がいて、その上に国がいて、上ほど偉くて上から監視するという感じですけれども、上から監視するというよりもだんだんと住民が参加し、そこにいろいろ指標等々を明示して公開し、そこで総合チェックが行われていく、そして自治体でやった方がいいようなことはその自治体で国の健康保険法の基準の範囲内で住民税等々を調達してやっていくというのが本来の姿じゃないかと思います。  何といいましても、中央集権の習慣になれた国なものですからなかなか簡単にはいきませんけれども、福祉サービスあたりから老人医療と一緒になってだんだんと陣地を広げていくのがいいのじゃないかと思います。
  36. 中西珠子

    ○中西珠子君 あと一、二分ございますので桐島先生にお伺いしたいんでございますが、今、保険料滞納者に対しては被保険者の資格証明書が出ておりますね。  そういうものを持ってお医者様のところに行ったときに、やはり現金でお払いしなければならないわけでしょう。そうすると、どこでも、だれでも、いつでも、受けられるべき医療というものがその人からは奪われてしまう。そういう医療を受ける権利が奪われてしまうということになりますね。それは本当に大きな差別ということになる。差別というものはやはり許されてはならない行き方で、国民保険制といいながら、拠出能力のない人たちが結局、悪質滞納者もいるかもしれませんけれども、しかし本当に悪質で滞納している人というのはほんの少数ではないかと思うんです。  それで、どうしても、その支払い能力がないためにそういう目に遭っている人とかまた六割軽減、四割軽減という恩恵的な措置を受けている人というのは肩身の狭い思いをしているのではないかと思うのですけれども、お医者様の立場から、いかがでございましょうか。
  37. 桐島正義

    参考人(桐島正義君) 資格証明書を発行しているところは余りありませんね、市町村でも。  実際に、ああいうものを発行されても、保険料さえ払えない人がどうして窓口で全額払えるのか。そして、払おうとしまして市役所へ行っても、行ったら途端に、滞納している保険料を全部払え、こう言われますとね。だから、今、返してくる人があるらしいですね。保険は要らぬというような人が出てきた。  無資格の人は、実際、来ています。もうそういう資格証明書なんか持たずに来るんです。そして、軽い病気をひょっと診て、これが保険の料金ですよといって見せますと、こんなに安かったのかというようなことを言って、そしてもうおれは保険なんかには入らせぬといってごっつう威張って帰る人がある。しかし、入院でもしたときにはどうなるんだというふうに思います。  さっきもちょっと私申しましたが、本当に短期保険証というのは一番私たちにはこたえるんです。ひどいのは一カ月というような分ですね。それで一カ月診ますね。患者さんは切れても来ますわね。ところが、翌月、もう切れたということがはっきりわかっておっても、それを保険で診ざるを得ない。それでずっと診ますね。それで、請求しても、あなたは保険証を確認しないから、こんなものを払う義務はないと国保の方は言います。結局、今我々の負担になっているわけです。  そういうのが今たくさん出始めておるんです。まあ少しなら何とかいたします。昔、自由診療であったときはそういう人がたくさんあったんです。私らでも、一日に五人や六人、ただの患者を平気で引き受けて診ていたんです。あるやつからはぽんと取れましたからね。だから、私が社会保障をやっていたようなもんなんです。ところが、今は全部保険証ですよ。相当な会社の大社長でも、皆、保険証を出してくるわけです。この人からはもっと取りたいなと思っても、保険証ですから取れないでしょう。そんな穴埋めをするところはどこにもないということです。  だから、その点、短期保険証を発行される場合は、よほどやはりそのことは考えて出していただきたい、こんなふうに思っております。資格証明書はおよそ意味がないでしょうと思うんです。
  38. 中西珠子

    ○中西珠子君 時間が参りましたから。  どうもありがとうございました。
  39. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 参考人先生方、どうも御苦労さまでございます。大変限られた時間でございますので、たくさんお伺いをできないことを残念に思っております。  最初に、桐島参考人にお伺いをしたいと思いますが、この医療保険医療保障をめぐる諸問題というのは、医療費をどう抑えていくかということが中心の課題になってきておるようなことになっております。  現実に、年間十九兆に及ぶという医療費の問題が論議をされ、とりわけGNPの伸び率医療費伸び率というのがよく比較をされます。そういう中で、GNPの伸びよりも医療費伸びの方が大きくなってきている、これを何とかしなくちゃならないじゃないかというような論議が起こるわけでございます。  私は、これには大分異論があるわけでございますけれども、現場で医療に携わっておられる桐島先生から、そういった点の御意見をまずお聞きをしたいと思います。
  40. 桐島正義

    参考人(桐島正義君) 医療費伸びの中で厚生省が指摘しておるのは、入院医療費が一番高くなる、老人医療が高くなる、だからこれを何とか抑えようというように言われるわけです。  しかし、これが伸びているのは、何か、病院や診療所が診療費を全部取り入れて物すごく稼いでいるからだというような理解の仕方を持っておられる方が多いんですけれども、一九八六年、おととしのこの国民医療費の流れを、どういうふうに最終的にどう流れていくのかということを私らは計算いたしましたところ、大体、人件費に四九%、医療費の半分は人件費に流れている。それから、製薬企業医療機器産業に三三%、それから建設業に五%、金融機関に四%、そしてそのほかの支払いが九%ほどあるという状況です。それで、医療従事者は大体において二百万人と言われておるんですね。それで、十八兆円としまして計算しやすいように目の子算しますと、九兆円を二百万人で割ったら医療従事者の年間の配分は一人四百五十万ぐらいになります。これは一般のサラリーマンと何も変わらないと思います。その中で非常によくもうけている医者もおりますし、非常に低賃金の労働者もおるわけです。  だけれども、製薬と医療機器へ流れておるのが、さっきも申しましたが医療機器が非常に高い。それが保険で採用されますと、非常に高い点数にならざるを得ない。そこらあたりに一つ問題があるのと、それじゃ製薬企業薬価基準がどんどん落ちていって大変困っていらっしゃるのかといったらそうではなくて、普通の新聞に出ておるのを私読ましていただきましたら、昭和六十一年度で製薬の大手十六社は経常で二六%増益しております。何でこんなにもうかるのやろと思って考えてみましたら、大体、日本製薬企業というのはアメリカから原料をバルクで輸入して製剤にかえているというのが多いんですね。この円高メリットが製薬企業にはフルにあるわけです。大手にあるんです。だから、そこらあたりはひとつ考えていただきたい。  薬価基準を落とせとかなんとかというふうには私は言いませんけれども、医療費の流れ全体から見まして、医療費が上がったら医者や病院がべらぼうにもうけているんだという誤解だけはひとつ解いておいていただきたい、これだけ申し上げておきます。
  41. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 そういう医療費伸び内容というのは、今おっしゃられた中で製薬メーカーの問題が出たんですが、私は、昨今では医療機器メーカーがやはりかなり大きなウエートを占めてきているんじゃないかというふうにも思います。  そのことと関連をいたしますが、今度の改正案一つの柱になっておりますのが、やはり全国的に見て基準医療費よりも高いところを抑えるという問題が出てきておるわけです。私も、医療担当者の一人として、医療費の全国平均を見て高いところを抑えるというのは一体どういうことをするんだろうという点で、これは委員会でも随分論議をしているわけでございます。そういう点で、これは、突出しているというか高いところの医療費を抑えるということになれば、手っ取り早くやるのは当然のこととして老人高齢者の長期入院の抑制あるいは審査、監査などをやってできるだけ点数の切り下げを強制していくというふうなことで、医療内容の低下というのが当然起こるであろうということを心配いたしております。  そういう中でよく言われております西高東低ですね。私、大阪でございますけれども、今度の指定市町村でも北海道は特別に多いんだそうですが、その次が大阪だというふうなことを言われております。そういう点で、従来から言われている西高東低などという傾向、こういうものがやはり今度の指定市町村の指定の場合に問題になってこようと思うんです。  そういう点で桐島先生の御意見を伺いたいと思いますのは、従来から西高東低などと言われておりますような医療費の水準、これは意図してできているものではないと思いますので、そういうものができている原因は一体何だろうかというあたりをちょっとお聞かせいただいておきたいと思います。
  42. 桐島正義

    参考人(桐島正義君) これも有名な西高東低論で、私らも何でだ何でだといって大変気になることです。  私は、兵庫県神戸市におります。やっぱり少し高い方に属しております。今度やられたらどうしようかなと思ったりしておるんですけれども、厚生省は、今度の医療費基準を設けるのに、年齢は確かに考慮いたしたようです。はっきり年齢による格差は、計算の中で年齢を打ち消したものを入れた、これは正しいと思う。しかし、年齢だけじゃないです。地域地域で非常に問題があります。  決して勝手に高くなっておるんじゃないです。例えば、大阪が非常に高いというんですけれども、大阪は中小企業がむちゃくちゃに多いんですね。大体十億円以上の法人が、東京では全国の五三・七%あるんですが、大阪では一三・五%しかない。それから、大阪は九五%が三十人未満の事業所だとかそれで非常に小さい。でございますので、劣悪な労働条件があります。行き届かぬ健康管理もあります。それから、社員の採用も非常にルーズ、やむを得ないから雇っておるということで、健診業者によりますと、健診して病変のない人を見るのは中小企業の従事者ではほとんどいない。全部病気持ちだ。結局、診療所を訪れたり病院を訪れるときは、何か、相当な症状が出てこないとやってこないですね。忙しいし、来れないし、それから、お金がかかることだから嫌だとか時間がかかるから嫌だとか医者にかかるぐらいだったらこのくらいだったら寝ておった方がいいとか、そういうことになるんですが、結局、来たときに、それで検査がたくさんになったり治療が濃厚になります。  それと、労働密度が非常に高いということも言われております。これは、関西に本社がある企業の一人当たりの売上高というのはダントツであります。一人当たり一千百七十三万八千円ぐらい、関東ではそれが六百二十三万ぐらい。こういうことで全国平均で七百万ぐらいです。だから、一人当たりの労働者に労働密度が相当に高くかかっておる。  それから、健診率から見ましても大阪は非常に悪いですね、老人保健の健診率は。本当にやれないんですわ。やると言うても、健診に来ないんですよ。そういうことがあります。  それから、大気汚染も、これも大阪は非常に悪い。交通事故も多い。病院も非常に少ない。大阪の悪口を言うようなことになりますが、社会的条件がそれぞれあります。  それともう一つ、関西では、古くから、もう終戦以来、保険でやろうじゃないかという医者の運動が非常にあるんです。差額徴収なんか、そんなものできるか。実際できないんです。そんなに金を持っておる人は余りおらぬのでね。だから、いい治療保険でやろうという運動がずっと進んできておりますから、勢い点数は高くなっておるだろうと思います。  西高東低の問題は、そう簡単に高いとか悪いとかというふうなことで抑えようとしても抑え切れない因子を持っておることを申し上げておきます。
  43. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 もう残された時間がわずかですので、石古参考人に一言お伺いをしたいと思っております。  私ども、国保地方への負担をどんどんかけていっている、一般会計から二千数百億も拠出をされているというふうな事態というのを大変心配してまいったものでございます。そういう中で今回の法改正を見ますと、きちんといろんな角度で府県並びに市町村負担を転嫁していくということが法制化されてきているわけですね。これは新しい試みだと思うんですね。従来は、自動的にあるいは見ておれなくて一般会計からの拠出などをやってきましたけれども、法制度地方自治体に負担を強いるというそういうことはなかったわけで、新たなことなので私ども将来の問題を大変心配しているわけですけれども、本来の法の性格からいっても私どもはもうひとつ賛成しがたいわけでございます。  暫定措置として石古参考人は御了解できるというふうにおっしゃっておられたんですけれども、これは、調整交付金等であるいは交付金等で手当てをするといいましても、私ども大阪市その他で若干予測をしてもらったんですが、依然として自治体に大きな負担が残るという点が出ておるのでございますけれども、そういった形のままで本改正案について御了解いただけるんでしょうか。私、今の自治体の実態からいうと、本来ならこれはかなわぬという中身がおありじゃないかと思いますので、率直なところをちょっとお聞かせいただきたいと思います。
  44. 石古勲

    参考人石古勲君) ただいまのお話でございますが、地方団体としては負担をしないのがいいのは当然でございます。しかし、現在の国の情勢あるいは社会傾向等を勘案いたしまして、暫定的であるということで我々全国町村会は賛成をいたしておるわけであります。  したがいまして、抜本的な改正あるいは一元化という表現を我々もいたしておりますが、それらが、将来、本当に日本医療を守りあるいは安全な生活ができる抜本改正をどのようにするか、どうかひとつ国の方もエネルギーはその方に向けていただきまして、日本の将来の高齢化に備えた方向を打ち出していただきたい。それまでは我々としてはやむを得ないであろうと考えておりますが、今言いました、これまでにも言うておりますように、我々にも限度がございます。国ばかりにお願いをして依存をして、我々は腕を組んでおるというわけではないと申したのは、その点でございます。  あくまでも、一刻も早く抜本的な改正をしないと日本医療あるいは日本福祉は安定をいたさない、この考え方には変わりありません。
  45. 藤井恒男

    ○藤井恒男君 きょうは各先生方、大変貴重な椅意見をまことにありがとうございました。もう十二時を随分回っておりますので、私、丸尾先生に二つだけ質問させていただいて終わりたいと思います。  一つは、先生お述べになっておられる中で、低所得者保険料負担問題ですが、やはり国保とい う構造体質からいって先々問題は消えないだろうと私は思っておるんです。  そういった意味で、低所得者層を対象とする福祉医療というふうに分離してしまうというのもアメリカあたりではやっておることであるし、一つ方法じゃないか。いずれにしても、公的負担をするわけですから、どっちでも出す金は一緒なんだから、だからそういうふうに思い切って切ってしまってプールするというのも一つ方法じゃないかなとも思うんだけれども、先生は、それは医療そのものの二重構造を来すことでやはり好ましくないというふうにおっしゃっているわけです。この辺のところをもうちょっと説明していただきたいと思います。  それからいま一つは、高額医療費共同事業の問題で、これは長期的な展望でございますが、医療サービスと福祉サービスを総合的にシステム化して、ある圏を構成させて、そしてそこで共同事業とあわせて行わしめることが必要だというふうにお述べになっているんですが、この圏というのは、これは規模のメリットを言っておられるんじゃないかなと私は思うんです。例えばどれぐらいのことを、圏というのはまさに県単位、都道府県単位のことを言っているのかあるいはもっと密着した形での市町村ぐらいが好ましいというふうにお考えなのか、この辺のところをちょっとお聞かせいただきたいと思うんです。
  46. 丸尾直美

    参考人(丸尾直美君) 最初の問題ですけれども、やはり、福祉をやってきた者としましては、佐藤先生もそうですけれども、低所得者を選別的に分離する、分離的な扱いをするということに対しましては、非常に抵抗があるわけですね。  日本の場合には、それほど救貧法等の歴史はありませんからそういう意識はないようですけれども、こうして分離しますと、アメリカのメディケード等でもそうですけれども、やはり、そうでない医療医療のサービスの質がかなり違ってくるみたいですね。そういうおそれもありますし、そういう差別された医療対象とされているということがありますから、やはりこれは避けた方がいいと思うんです。  しかし、基本的には保険料徴収問題が残ります。健保も国保も、特に老人拠出分がふえていきますから、その分に関しましては、先ほども言いましたような違う形で、将来いつかは間接税も導入されていくでしょうから、そういう対応をしていく、それまでの当面の措置として今回はこんなところが一つの妥協的な政策かなと私は思ったわけです。  それから、二番目の問題ですけれども、医療圏につきましては、福祉と一緒にやっていくことを考えますと、日本の県単位では私は大きいと思いますね。やはり経営努力を生かす、それに特に福祉の場合、もう少し目の届く細かい配慮をするという観点から見ますと、数万から十万ぐらいの範囲内ではないかと思っています。そうしますと保険機能としてはまだ過小ですから、大きなところに関しましては共同事業あるいは一種の保険機能を行う、そういうのは県単位で行うのがいいんじゃないかというような感じです。  つまり、きめ細かさと経営努力の長所を生かすためには過大な規模ではいけない、しかしそのきめ細かさと経営努力を生かすに最適な規模は、保険機能を生かすには過小である。ですから、この二つのジレンマを解決するには、一方で、市町村を中心にちょっと小さ過ぎるところは統合して医療福祉圏をつくっていく、それをしながら、より保険機能を生かす必要のある高額医療問題等については県単位ぐらいで共同事業をやっていく、そういうのがいいんじゃないかと思っているわけです。
  47. 藤井恒男

    ○藤井恒男君 どうもありがとうございました。
  48. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人方々には、長時間にわたり御出席を願い、貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時二十八分散会