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参考人(
佐藤進君) ただいま御
紹介をいただきました
日本女子大の
佐藤でございます。
社会保障法学を専攻いたしております。
時間的制約がございますので、
医療保障並びに
法案の
内容について
私見を申し述べさせていただきます。
本法の
改正目的については
理解できるところがございますけれども、批判的な点を多く含む点で
給付率入・通院八割による
一元化を前に、依然として
医療適正化のための
財源対策の域にとどまっているというふうに考えることができます。この点がまず第一番目に問題となります。
次に第二に、
医療保障とかかわりまして、
国保のあるべき姿が問題になりますけれども、
我が国では、
医療保障を実現する
制度として、
国民健康保険並びに
健康保険、これら二本立ての
制度が軸残念ながら反対の
立場に立たざるを得ないということを最初申し述べさせていただきます。
まず、今次の
国民健康保険法改正法案が、
保険料負担能力の低い被
保険者の
加入、とりわけ
疾病率、
受診率、
入院率の高い
高齢者が多数
加入をしている
国保財政の
構造的改革を
保険財政的な
見地からのみ試みたものであると推察をいたします。これは、従来の
改正のパターンの延長以上には何ら出ていないんではなかろうかということを危惧するものでございます。
まず第一に、
医療保障の
観点から
私見を申し述べさせていただきますけれども、
国民は、だれでも、それこそどこにおいても、いつでも、
健康権保障の理念に基づきまして、差別なく、健康の保全を前提に、予防とあわせまして
疾病の
治療、広くリハビリテーションを含む
包括的医療もしくは
医療費給付を、国の
責任のもとで、どのような
政策制度のもとにおいても、無償もしくは
経済的苦痛を受けることなく
国民が受けることが
医療保障の
観点だというふうに考えます。
この点から見まして、今次の
改正につきましては、
目的は
理解をいたしますけれども、従来の
改正の歩みから見て、将来の
動向あるいはその
内容等について
国保の基本的問題をそのまま持ち込んだままで今度の
改正が試みられているというふうに考えざるを得ないところでございます。
殊に、
戦前国民健康保険法制定がされまして、本年がちょうど五十年になります。とりわけ今次の
改革が、
行財政合理化政策のもとで政府の
医療保険の
一元化政策、多分になって
医療現物給付をベースに
医療が給付されてまいりました。
ただ、
国民健康保険法は、
保険原理を貫くと申しましてもその
拠出能力が弱く、社会的に
収支相等原則を貫くということは至難でございまして、この点からずっと
公費負担医療に近い
制度構造を持っていたわけでございます。このため、
医療給付費や
事務費への国の
財政のウエートが高かったことはもう
先生方御存じのとおりで、ますます今後、
高齢社会の急速な
到来に伴いまして、
制度分立のもとで、
高齢者が多く
加入をし、その
医療給付費が多くなる
国民健康保険制度にとっては当然このことは予想されていたことであり、また必然的な
動向でございました。
この
改革のために、とりわけ
国庫の
財政負担の削減を目指しまして、一九八〇年代に入りまして第二次
臨時行政調査会並びにその後の
臨時行政改革審議会とその答申の
政策実現が、総
医療費抑制、
医療費適正化の名前でとられ、その結果、
老人保健法の制定、
昭和五十九年
健康保険法改正による
給付率八割への
引き下げ、それから
国保改正による
退職者医療制度の
創設が打ち出されました。さらに、
昭和六十一年
厚生省高齢者対策推進本部報告書、
厚生省国民医療総合対策本部中間報告に基づきまして
老人保健法改正が行われ、さらにそれと深いかかわりを持ちまして今次のいわば
国保改正法案が、
国保問題懇談会報告に根差しまして提出されました。
これらの
一連の法の
動向を見る限り、
高齢社会の
到来に伴う
医療(費)
対策という点で常に一貫しているところでございます。
しかし、この
一連の動きを見るときに、先ほど申しました
医療保障実現の
政策一体と言えるんだろうかという疑問を感じます。
もちろん、
医療にはお金がかかります。これもよくわかります。しかし、
政策の時代の動きを見るときに、お金の面の
対策しかとれなくて、その
医療の効率化等々が阻まれてきたのはなぜなのかという疑問が今次の
改革を見ても吹っ切れないところでございます。
先ほど申しましたいずれの
対策も、
国民健康保険の構造的な問題にかかわってきたものでございますけれども、とりわけ低所得層、なかんずく
高齢者の
増加とその
医療給付費の
抑制に焦点を合わせてきたものであるというふうに考えます。
医療受給者であります
高齢者の
医療需要の
抑制によって
医療費増加を
抑制するということが
政策の中心でございます。しかし、このことが先ほど申しました
医療保障の実現に何ほどかかわってきているのかということは、今日人権保障の点から見て問題が非常に多くございます。このことは今次の
改正法案でも見られましたけれども、低所得層に対する
福祉・
医療制度の導入構想というのもその
一つではなかったかと考えます。
なるほど、イギリスの社会
福祉政策学者として著名な故ティトマスという学者がおりますけれども、彼は積極的選別という
考え方を出しました。この
考え方は、弱い層には十分にして手厚い給付を積極的に試みるということでした。しかし、
我が国の
現状を見ますときに、単に所得だけを問題にして、高い層と低い層、
拠出能力のある層とない層とを分け、低い層にスティグマ、恥を与えるような
政策発想をとったということは、
我が国とイギリスとの間で根本的な違いがあったというふうに考えます。私は、差別と選別とは厳に区別さるべきものだ、こういうふうに考えます。まして、ここから見て、今次の
改正法案が
保険基盤安定
制度によって
高齢者、そして低所得層の
医療費の公費
負担という考えの導入、そしてそれを国、市
町村に加えて、
都道府県に
負担させるという点はともかく評価に値するにしましても、差別を生む
政策は絶対に許されてはならないと考えます。
先ほど申しましたように、
国保構造にかかわるのでありますけれども、
拠出能力の弱い層を
保険の
対象とすることが妥当なのか、これを社会援護的な
公費負担医療的なものとして積極的に位置づけるかということは、
政策の問題であるかもしれませんけれども、今日の
財政の対応を見ている限り、この構造をどう将来位置づけるかということを明らかにしていないという点では非常に問題があり、ここで抜本的な
改正をこの社会援護的な
公費負担医療的なものとして位置づけるかあるいは
保険原理を貫くのか、この辺積極的に考えざるを得ないと思います。
ただ、構造的な面から見て受益者を不安に陥れないよう、しかも国の
財政的
責任で
制度の安定化を維持するということは望ましいところと考えます。これをいかに実現をするかということは今次の
改正法には見られないところでございます。
第三番目に、
改正法の
政策発想に見る
高齢者の
医療給付費増加への対応でございます。
高齢者を取り巻く生活環境の急激な変化のもとでの対応は、
保健医療と
福祉サービスとを総合的有機的な結びつきの上で解決をするべきものであって、ただ単に
保健医療だけで処理をするわけにはいかないというふうに考えます。
とりわけ
高齢者の
医療給付費が
増加をする理由は、
先生方御存じのように、在宅
保健医療、
福祉サービス体制の結合の不十分さが
病院の入院費の
増加などによる社会的入院を促進するものでございまして、この点につきましては西欧諸国、
アメリカなどでも既にGNP対比の
国民医療費の
増加とその比率の高さ、しかも施設よりも在宅ケアにウエートをかけているところでもその
抑制が大変なことは、先ほどの
石本参考人の指摘をまつまでもないところでございます。
これらの国々におきましては、
家庭医によるプライマリーケア、訪問看護
制度、ホームヘルプ
制度などの在宅ケア
システムにつきましては量的にも質的にもこれを
充実をし、なおそれでも
医療保険費の
増加が招来をされております。
この点、
我が国の場合、社会的入院の防止にかかわる各種の今申しましたような
制度の対応は、極めて不十分でございます。このようなところで社会的入院が見られて、
医療費の
増加が見られているこの根本的な問題を回避をしているということにつきまして、私はいささか疑問を感ぜざるを得ないところでございます。
急がば回れとよく言われます。
治療よりは予防、施設入所よりは在宅など、長い間問題にされてきているところでございますけれども、この辺の基本的な対応、
政策の認識が十分読み取れずに今日の
改正法が登場してきているところに、先ほど申しましたように非常に気がかりなことを感じます。
続きまして、
法案の
内容についての問題点でございますが、第一は、今次
改正の
地域格差是正のための基準
医療給付費の設定と、これを超える多額の
医療給付費の市
町村への安定化計画策定による
医療費対策でございます。
この
制度は、二年間の試行実施を経て見直されることになっております。
我が国におきまして、先ほども御指摘ございましたように、
地域別、
都道府県別、市
町村別または年齢別に見て
医療費の格差現象のあることは、何も
国保に限ったことではございません。ただ、
高齢者一人当たりの
医療費につきまして
昭和六十一年、全国平均五十三万円、低額の長野県三十八万円、高額の北海道七十九万円と格差が見られ、市
町村でも格差が見られていることはもう周知の事実でございます。
これらの是正のために施策を考えることは、私は望ましいことと考えます。ただ、何を基準
医療給付費として設定をするのか。この基準
医療給付費を超える市
町村に対して、安定化計画の策定はともかく、これを超えたことを理由に行政指導のもとでどのようなペナルティーが科せられるのか、この市
町村へのペナルティー賦課が市
町村をして
医療機関、ひいては受益者である
高齢者に対して今後どのような
措置をとらせることにあるのかについては、私は極めて疑問を感じます。ただでさえ今日弱い
高齢者の
医療保障が、ますます弱くなっていくんではなかろうかという感じを持つところでございます。
第二番目に、
保険料拠出能力の弱い、低い層の
保険料減免相当額の公費
負担につきまして、国と市
町村に加え、
都道府県の
負担による
保険基盤安定
制度の
創設の点でございます。
それ自体評価に値します。
ただしかし、先ほど申し述べましたように、本案の素案でございました
福祉・
医療制度に結びつけられる可能性のあることは今もって否定できないところでございます。
既に、
拠出能力のない層に対しまして、法の
改正に基づきまして特別の事情のない層の拠出不履行に対しまして現行法でも被
保険者証の取り上げやそれにかわって被
保険者資格証の発行によって不利益が発生をしている現実がございます。
保険原理を貫く以上、
保険料拠出は当然でございます。ただ、
保険料減免の取り扱いの
適正化の名において
保険基盤安定
制度の
運営がどのようになるのか、これも先ほどの第一番目の
内容の問題と同じように検討に値する問題でございます。
医療費適正化政策が、
医療供給側の
病院や診療所の
医療行為とそのレセプトの厳格な点検とあわせまして、
高齢者を初めとする受益者の
医療需要
抑制に結びつく今次の
改正案には、検討すべき
課題が多くございます。
最後に、
高額医療費の
財政対応として
都道府県を加えた
負担の
役割を持たせる
高額医療費共同事業の具体化。これも評価に値します。
いずれにいたしましても、
改正法案が国の
都道府県などへの
財政措置によって対応したにしましても、今日、小規模単位の
国民健康保険の経営管理規模の抱える問題への対応として、広域的な
医療制度実現のために
都道府県にその
役割を担わせたことは評価をいたします。ただ、
都道府県に
役割を担わせることによって国の行
財政的
責任を軽減化するということは、極めて許されない問題だと考えます。
最後になりますが、今次の
改正によりまして
医療費の
適正化が実現されるか、その基本問題をそのまま残して
財政面からのみ問題とした点については、なお依然として
医療費の
適正化だけでは対応ができない。最初申しましたように、
医療保障という
観点から見てこの法をどう位置づけるのかという点で抜本的な法
改正が望まれるところでございます。
いずれにいたしましても、
医療費が仮に問題になるにしましても、ヒューマンな、しかも安心できる
医療体制ができている場合の
医療費増加をもたらしている場合とそうでない場合の
増加で問題になっている点は、ぜひ
先生方、篤と認識をされて、適切な対応をお願いをいたしたいと思うところでございます。
非常に長時間、お聞き苦しい早口の公述をお許しいただきましたことを心から感謝して終わりにいたしたいと思います。
以上でございます。