○沓掛哲男君 大変御苦労さまです。
さて、自国民の税金で行う
公共事業の発注については、それぞれの国の事情を背景として異なった制度となっております。米国、特にその議員さんは最初、
日本の
建設業者は米国から年間三千数百億円の
公共事業を受注しているのに米国側はほとんど受注できない、
日本は
建設市場を開放せよと要求していましたが、一昨年の実態は、
公共事業の受注額はわずか九十八億円にすぎません。しかし、米国進出の
日本企業等から三千数百億円
程度の
建設事業は受注しております。
その後、
日本の指名競争入札はけしからぬと言っておりますが、米国で
公共事業を受注するために
日本を初め外国の
建設業者が受ける制約と申しますか、入りにくくなっているのがどんなことかを私なりに調べてみました。大別して五つあります。
一つは、多くの州では
建設業者に許可制をしいておりますので、まず
建設業者としての許可を受けなければなりません。
二つ目に、多くの州では入札参加のために事前資格審査制度、プリクォリフィケーション、PQ制と言っておりますが、事前資格審査制度があり、これを受けてレーティング、格付をしてもらわなければなりません。
次に、悪名高いバイアメリカン法、バイステート法がございまして、このバイアメリカン、バイステート法に基づくきついハンディを受忍しなければなりません。バイアメリカン法には、連邦
政府で制定したものと州
政府で制定したものがありますが、アメリカで生産したものを使えという法律であります。
バイアメリカン法の例では、一九八二年制定の陸上輸送援助法ではバイアメリカン規定をセメントにも拡大し、米国の入札者のオファーが外国の入札者のオファーよりも二五%を上回って高い場合にのみ米国の入札者が契約を得られない、まあ英語を訳した文章ですからちょっとわかりにくいんですが、要するに二五%高いものを買わされる、こういうことになるわけでございます。州が設けておりますバイステート法では、州外で生産された製品を、国産品も外国製品もともに差別いたしております。例えば、自分の州で三年間税金を納めた企業とそうでないものでは入札価格に、特恵マージンと言っておりますが、ハンディをつける。その上、これらの法の運用は、舞台裏でのロビイストの活動、外国との二国間協定、全般的な政治情勢などによって影響を受けるという、大変恣意的に行われるようになっております。
さらに四番目は、これは大変難しいことなんですが、ボンド制が適用されております。
日本の業者が行くと、まずここでもう大変難しくなるわけでございますが、これはまず入札には入札保証金として入札額の五%がビッドボンドとして必要です。これはそう難しいことではありません。しかし、受注には工事完成保証書と労務、資材の支払い保証書が必要でございます。工事完成保証書は全額について保証してもらわなければなりません。この保証書は連邦
政府の公認の保険会社発行のものでなければなりません。連邦
政府、財務省公認の保険会社発行のものでなければなりません。そういう保険会社が、
日本の
建設業者が行ったからといって全額の保証を簡単にしてくれるものでは決してありません。これはもう大変なことでございます。
それから五番目には、これは落札者は最低価格者ではなくて、ロー・レスポンシブル・ビダーとなっております。値段が低くてそして責任を持ってきちんとやれる入札者だということでございまして、この辺にもいろいろな恣意的な問題が入っております。
そこで、ではアメリカ以外はどうかと申しますと、指名競争入札はけしからぬとアメリカは
日本に対して言っておりますが、英国でも指名競争入札が行われております。仕組みはどうなっているかと申しますと、まず業種別にアプルーブドリスト、すなわち登録リストをつくっております。各業種ごとに四、五千社集めております。そして、入札をしようと思うとき発注者はアプルーブドリストから二十から三十社を拾ってリストをつくります。これをロングリストと言っております。発注者はこのリストの会社に電話をいたしましてこの事業への参加意欲等を聞き、五社から八社
程度に絞り込みます。これをショートリストと言っております。そしてこの五社から八社の会社が指名競争入札をするわけでございます。落札者はまた価格が最低というわけではなくて、ローイスト・アクセプタブル・オファーに受注させる。ローイスト・アクセプタブルなオファーに受注させるというふうになっております。
どこの国でも、税金でやる仕事は国内の産業界、すなわち国民に還元することを原則としております。自国の業者が不得意とするものだけを外国の業者にさせております。聞いたところ、ドイツの人や英国のそういう大手業界の方々でも、私らの記憶ではちょっと
外国人が入ってきた例はほとんどない、昔オランダの方にいろいろ海洋の
関係でやってもらったことがあったかなと、こういう感じでございました。
さて、我が国の
公共事業の開放を強く求めている米側の背景としては、
一つには、日米間の貿易不均衡の是正を求めるものがあるというふうに思います。このために、まず為替レートの調整や我が国の国内需要の増大といったマクロ経済が問題となったわけでありますが、今や米国はミクロ経済へと問題の焦点を移しております。ミクロ経済として彼らが問題にしようとしているのは二つある。その第一が、農産物、
公共事業の開放であり、第二が、円高なのに
日本国内の輸入品値段が下がらず、逆に米国での
日本製品の値段が上がらないことであります。
二番目に、円高により我が国の
公共事業を含む
建設市場が国際的に見て非常に大きな市場になっているということが挙げられると思います。
三番目には、国際的に見て先進国の
建設業生産力が合理化とか機械化等によりまして過剰時代に入ろうとしているのではないか。農産物で言えば食糧生産過剰時代にも入ろうとしているのではないかというふうに思います。
いずれもこれらは筋論というよりも利害の問題としてとらえられるものだというふうに思います。
日米間の現下の逼迫した
公共事業開放の争いを鎮静化させるため、私なりの考えを申し上げてみたいと思います。
紛争を解決する手段としては一般的に三つあります。
一つは筋道を話し合う筋論であります。二つ目は力で解決することであります。三つ目は利害の調整であります。
一つ目の筋論は、今皆様が米国と一生懸命やっておられることです。米国の通商法三〇一条の発動等をちらつかせての執拗かつ高圧的な要求に
大臣初め
関係者が的確に対応しておられることに敬意を表しております。高圧的という言葉を設けましたけれ
ども、これはペリーやハリスが
日本に来る際に彼らなりに
日本をいろいろ調べてきました。その際に彼らが得たことは、
日本人との対応は高圧的にすることが一番まとまりやすいんだということを彼らなりに学んできておりました。それは長崎に出入りしている
外国人等から得た情報だ。そういうものを通じてハリスやペリーは、
日本人と交渉してそれをまとめるには高圧的にやるのが一番いいんだということで彼らは
日本に来たということでありました。何となくそれを受け継いでいるのではないかというふうに思えてなりません。
さて、木に例えれば、葉や枝は国際化時代に適した多少の剪定は必要だと思いますが、幹は曲げることがあってはならないと思います。筋論で米国だけに特恵を提供するという考えは危険だと思います。今までの日米の協議を見ていて、筋論では我が国に利があるとは思いますが、だからといって現状でまとまるかについては私は悲観的であります。それは、昨年一年間農産物の自由化問題を党の農林部会で見ておりました体験からでありますが、
昭和三十年にウエーバー、いわゆるガット上の義務免除をもらったからといって、農産物十四品目について保護しながら、
日本の農産物はすべて自由化しろとガットの場を使いながらこわ談判する国でありますから、なかなか筋論では容易でないというふうに思います。
もちろん米側にも言い分はあります。しかし、ここまでくると両国民の物の見方、
考え方、行動原理の違いかなというふうにも思います。義理人情をたっとび、本音と建前をうまく使いながら相手とうまく話をまとめる
日本人と、合理的でノー・オア・イエスがはっきりしている契約社会の米国人の違いが集約されて出てきているのかなとも思います。
この筋論でおさまらなければ次の力でありますが、日米間の紛争を力で解決することは不可能ですから、これは省略させていただきます。
私は、
残りの利害調整がこのたびの紛争解決にはキーポイントだと思っております。
このたびの
公共事業開放の紛争は両国の経済的な利害から出ていることであります。この面の解決に重点を置き、かつ即効性のある施策が必要であります。このために、日米の
建設業協会等が話し合い協力し合える交流の場をつくるなどにより、民間レベルで太いパイプを築くことが大切だと思います。日建連会長の佐古さんがこの面でいろいろ御努力されておりますが、なお一層の促進をお願いいたします。例えば、今すぐ米国
建設業者の
日本視察団派遣を要請して、そして百人か二百人米国
建設業界のトップクラスの方に来ていただき、
日本で提示しているプロジェクトを見せながら我が国の
公共事業の発注の仕組みや制度を勉強してもらう。その一方で、我が国
建設業界のトップクラスの人が百人か二百人訪米して
建設機械等の資機材を購入する。円高ですから損はしないはずです。
米国の
建設業者が我が国で希望している業務はコンサルティング、マネジメント、資機材の供給が主なものですが、米国業者の言うコンサルティング、マネジメントは我が国では主として発注者が行うもので、我が国の
建設業者が実施している工事の施行は余り米国業者は希望しておりません。そこで、日米の
建設業者間で相互理解を深めれば、相手国の市場を混乱させるようなことは起こらないというふうに思います。
ただ、ここは
建設委員会でございますから申し上げてはおきませんでしたけれ
ども、アメリカはいろいろ制度的に空港に関してだけは大変他国へ進出していくためのいろんなことをなしております。そういうこともあってだと思いますが、米国で三年前に改正いたしました空港の
建設にかかわる空路法では一切のバイアメリカン法等を排除いたしております。
さて、日米
建設摩擦について、
日本に進出している米国の
建設会社ピー・エー・イー・インターナショナルのユリ副社長が三月十七日付の日経新聞に記者との一問一答を行っていますが、傾聴に値することを言っておると思います。
一つは、米国業者が
日本で仕事をしたいのなら、まず
日本で支店を開く努力をすべきだ。二番目には、米国企業が本当に
日本に来たくて
政府を動かしているというより、商務省がしかけた交渉じゃないかということを米人のユリ副社長が申しております。
確かに、ずっと歴史を見てみると、米国がこういう問題を他国にしかけるやり方というのはルールがございます。そのやり方を見ていますと、ビッグビジネスなり大きな団体が騒ぎます。利害団体が騒ぎます。そしてそれを議会が受けます。そして強烈に相手国を攻撃いたします。そしてそれを
政府が中へ入って、議会が大変だから何とかしなければおまえの国は損をするぞということを言います。そしてその三者の間をロビイストがうまく取り持りてやっていくというのが今までのやり方ではないかというふうに思います。しかし、この
建設業に関しては、余り
建設業界とそういう政界との間、国会議員との間はそんなに今言ったようなかかわりではないのではないか。そういうことをユリ副社長が、今申しました二番目の、米国企業が本当に
日本に来たくて
政府を動かしているというより商務省がしかけた交渉じゃないかというところに出てきているのではないかというふうに思います。
今後、日米交渉は困難なものがあると思いますが、
建設大臣初め
関係者の皆様には粘り強く頑張っていただきたい。特に、さきに述べました日米
建設業界の速やかな交流を進めていただきたいと思います。
これについて
建設大臣の御見解を賜りたいと思います。