○
上田耕一郎君 私は、
我が国経済協力の歴史を大まかに振り返り、現在の特徴がどのように形成されてきたのか見た上で、先日示されました小
委員長メモにできるだけ沿って、
現状と
問題点を述べ、前回
委員会で行いました
政府開発援助の抜本的転換提案についての補充
意見といたしたいと思います。
周知のとおり、
我が国の
経済協力は、一九五〇年代の半ばから東南アジア諸国への賠償及び賠償支払い請求権を放棄した諸国への
無償援助供与として開始され、日米安保条約第二条に規定された日米
経済協力の具体化としての一九六一年の
海外経済協力基金の設立、六五年以降の本格的な
発展を迎えました。そして、
我が国経済協力の
基本的性格は、この出発点から形成されました。財界の
調査機関である
日本経済調査協議会が一九六五年に出した
報告書はこう述べております。
「
日本の
経済協力は
援助ではなく輸出振興策にすぎない」との批判が強い事実にも窺われるとおり、わが国の
経済協力は資本財輸出の促進のために大きな
役割を果たしてきた。
賠償によって
供与される生産物の大部分は資本財であるので、一部の重工業、例えば自動車工業、電気機械工業等の育成伸長に効果が比較的大きい。また国内滞貨となった商品が賠償によってはけ口を見出し、不況産業がこれを足場にして立ち直りをはかることもありうる。
また、わが国が
平和憲法の下、その安全
保障を主としてアメリカとの安全
保障条約に委ね、巨額の軍備支出にわずらわされることなく財政
資金を
経済目的に利用しつつ急速な
経済発展をとげたことを考えれば、一九五〇年代末以来
国際収支の悪化に悩みつつ自由諸国の
援助の過半を担ってきたアメリカが、せめて
援助問題についてはわが国の
努力の
強化を望みたいと考えるのも、またその他の自由
先進国がわが国の
援助努力の
強化を期待するのも、それなりに
理解に難くない。(「南北問題と
日本経済」)
これに対しては何の説明も不要でしょう。
経済協力を大企業の海外進出の地ならし役及びアメリカ
世界戦略の補完役にしようという財界の考えがあけすけに述べられていますが、このような主張が公然となされる背景に、アメリカのベトナム侵略を柱とするアジア戦略とこれに追随する自民党
政府の政策がありました。
一九六四年、アメリカは史上悪名高いトンキン湾事件をでっち上げて北ベトナムへの全面的侵略を開始する一方、
日本に対し南ベトナムへの
援助を
要請しました。当時の佐藤首相はこれに加担する姿勢を鮮明にし、六五年の日米首脳会談で
発展途上国の政治的安定のための
援助の増大を約束しました。こうして、六〇年代後半から、サイゴン政権はもちろんのことベトナム参戦国の韓国やタイ、反共独裁国のインドネシアやフィリピンへの
援助が急速に強められたのであります。
七〇年代後半、パックス・アメリカーナの崩壊に直面し先進資本主義諸国はアメリカ
中心の
協調を
基礎にした
国際政治
経済秩序の形成に移行しますが、自民党
政府は、この中で国力、国情に見合った
役割を果たすいわゆる
総合安全保障路線をとり、
経済協力費を急増させました。一九七八年以降、三年倍増、五年倍増、七年倍増の三次にわたる
中期目標の
計画、
実施がそれであります。そして、この時点から
我が国経済協力の二つの性格は、より意識的に
強化されたのであります。
第一の特徴、大企業奉仕の面ではどうだったでしょうか。一九七七年、時の福田首相は日米首脳会談でASEANへの
経済協力強化を約束し、
実施しました。いわゆるASEANドクトリンであります。これは、
我が国の原材料輸入・工業製品輸出型
貿易政策を
推進する上で最大限利用されました。つまり、天然ゴム、植物性油脂、ニッケル、銅、ボーキサイト、原油などの重要な
資源保有国であるASEAN諸国への
経済協力によって、原材料を確保する一方、これら諸国への工業製品輸出、資本進出を強めたのであります。
こうして、ASEAN五カ国向け
ODAは八五年で約三〇%のシェアを占めるに至っておりますが、最も
援助を必要としている後発
発展途上国、
LLDC四十カ国への
ODAはわずか一三%にすぎず、そのGNPに占める割合は〇・〇六%にすぎず、
DAC加盟十八カ国の中で十六位というありさまであります。
資源もなく工業製品輸入の力も弱い
LLDCへの
援助はこのように冷淡です。大企業の利益本位の
経済協力の実態はこのように赤裸々であります。
第二の特徴、アメリカの
世界戦略の補完の面はどうでしょうか。先日の小
委員会で指摘したとおり、一九七九年のソ連のアフガニスタン侵略に際し、
日本政府はアメリカの
要請に応じて、紛争周辺国、パキスタンなどへの
援助を増大させました。一九八一年、時の鈴木首相は日米共同声明で「
世界の平和と安定の維持のために重要な地域に
対する
援助を
強化していく」と約束しましたが、これ以後、アメリカの肩がわり要求は露骨となり、アメリカが戦略
重点国とするジャマイカ、タイ、パキスタン、トルコ、スーダン、エジプト、ペルシャ湾岸諸国など国名を挙げて
援助をふやすよう要求するに至ったのであります。
政府は、これに唯々諾々と従ったのであります。八一年春、アメリカからジャマイカを
援助してほしいと
要請され、どこにあるのその国、と戸惑いながらも約六十億円の有償
援助を内定した事実はその典型であります。その後、ジャマイカがアメリカのグレナダ侵略に参画したことは周知のとおりです。こうして、今や
我が国の
援助の半分がアメリカの戦略
重点国に注ぎ込まれる異常な実態となっているのであります。一九八四年の日米諮問
委員会がこの状態を高く
評価したことは前回述べたとおりでありますが、本日の新聞報道によりますと、アーミテージ米国防次官補は、過大な防衛負担増を要求するよりも海外
経済協力の増額を求めるべきだとして次のように述べています。「ひも付きでない
日本の戦略
援助増は、日米間に何の政治的な摩擦もひき起こさずに、
世界の安定に絶大な効果をもたらすだろう」。
日本の
ODAのかなりの部分がアメリカの肩がわりとなっていることは、極めて重大であると言わなければなりません。
しばしば指摘されている
我が国の
ODAの低い
グラントエレメント、
LLDCへの
援助の低さなど、
我が国経済協力の質の低さはまさにこの二つの特徴の集中的あらわれにほかなりません。
来
年度予算に計上された
経済協力費がアメリカを抜いて
世界一となった今日、このようなゆがみを放置するならば、そのもたらす悪影響もそれだけ増大します。また、マルコス疑惑で明らかとなった汚職、腐敗の輸出も、関心の外に置かれ規制
措置の見出せないまま放置されることとなるでしょう。七千億円を超える巨額な国の
予算が、これを規制する
法律もなく、
国会の監視も受けることなく
政府によって勝手に使われ、その結果今述べたような事態を招いたことは重大であります。まさに
経済協力政策の抜本的転換は急務となっております。この
立場から、以下、小
委員長メモの
項目に沿って発言いたします。
ア
経済協力の
理念、
目的及び諸
原則について
まず、
経済協力の
理念についてであります。
私は、前回、
経済協力基本法の制定を提案し、その中に盛り込むべき五
原則の第一に
経済協力の
目的の明記を挙げ、
経済協力は、
発展途上国が自主的に
飢餓、
貧困などの
経済的困難を克服し、
国民生活向上、自立的
経済発展を図るのを
援助することである。
経済協力の
理念や
目的をあいまいにしたまま戦略
援助や大企業利益優先の
援助を進めてきた自民党・中曽根内閣の路線は抜本的に転換しなければならない。
と述べました。
参考人の室教授も指摘されたように、十年前まで
政府は公式に
経済協力の
理念を述べたことはありませんでした。八〇年十一月、
対外経済協力審議会は
理念の定式化に取り組み、
国際的一般
理念としての①人道的・道義的考慮、②南と北の
相互依存関係の認識、
我が国独自の
理念としての①平和国家としての
責務、②高い対外
経済依存度、③
経済大国としての自覚、④非西欧国家としての近代化の歴史からの期待の四点を考慮した広い
意味での安全
保障の確保を挙げました。これを受けた外務省
経済協力局は、
政府の正式の見解ではないと断りながら、「
経済協力の
理念」の中で、
ODAは「
日本の総合的な安全
保障を確保するための
国際秩序構築のコスト」であると位置づけました。その後今日に至るまで
政府はこれを肯定も否定もしていないのでありますが、実際の行動ではこれを是認してきました。前に述べた八一年の日米共同声明以後の動きがこれを証明しております。
八四年六月、安倍外務大臣も出席して開かれたアフリカ大使
会議の概要
報告は、「近年、従来東寄りとされてきた国の中にも、
経済困難克服のためには西側の
援助が必要との認識から西側寄りの姿勢をとり始めている国が散見されるところ、かかる動きを助長すべきであるとの議論とともに、さらに事態の推移を客観的に見極める必要があるとの
意見もあった。また、東側寄りの国であっても
最貧国である場合や国と国とのコレクトな
関係を保つためにはミニマムな
援助は行う等
関係はつないでいくべきであるとの
意見もだされた」と、至極当然のごとく議論している様子を明らかにしています。外務省においては、既に
経済協力は南北の論理ではなく、東西の論理を優先して考えるものに変質しているのであります。
そして、これがどういう事態を招いたか。
政府は、七八年の衆議院
外務委員会で行われた
主権の
尊重、互恵平等、
内政不干渉の
原則の確立、
国際紛争を助長するごとき
経済協力は行わないとする
決議に違反し、グレナダ侵略に加担したジャマイカやニカラグア侵略の拠点となっているホンジュラスへの
援助をふやすという反
国民的政策を進めてきたのであります。
もはや、これ以上
政府の勝手な解釈に任せておくような仕組みは放置してはなりません。
イ国の
責任と
実施体制について
現在十五
省庁に上っている
援助担当
機関の
一元化は、
経済協力を
効率的に進める上から必要なことであります。ただ、これは
我が国経済協力の正しい
理念の確立、さらに、後で述べます民主的公開の
原則の確立と切り離しては考えられない問題であります。
国会決議にまで違反した実態を放置したまま
一元化を図ることは、
我が国経済協力のゆがみを一層強めることとなるでしょう。
一元化の問題は、この
意味で
基本法制定と同時に進められるべき課題であります。
ウ
経済協力の
現状と
実施方法等問題点、
改善事項
まず、二国間
援助について述べます。
この点について、本日は、公開の
原則のもとでの
ODA案件実施の
事前調査、
実施段階、事後
評価すべての段階におけるチェックの
必要性について発言します。
事前調査における
問題点については、一昨年のJICA汚職事件でその一端が明らかになりました。
事前調査を請け負った企業はその後の本格
調査には
参加できない建前になっているにもかかわらず、
事前調査に
参加したコンサルタント会社社員がJICA職員にわいろを贈って本格
調査にも
参加していたことが判明した事件であります。当時の新聞は、「いわば、
民間の建設業者が、官庁の入札予定価格作りと入札双方に
参加したような形」と書きました。まさにそのとおりであります。
プロジェクト借款
案件におけるフィージビリティースタディーについて、多くの問題があることはこの
委員会でたびたび指摘したとおりであります。
実施段階ではどうでしょうか。プロジェクト借款であれ、
無償援助案件であれ、
相手国での入札に対しては
日本の
承認制がとられておりますが、実際はフリーパスとならざるを得ません。
政府は、入札制度そのものが公正さを担保していると言いますが、それが当てにならないことはマルコス疑惑で証明済みであります。
事前調査、
実施段階を通じて行わなければならないことは、
関係機関の運営の民主化であり
専門家の
養成であります。
最も問題の大きいのは事後
評価であります。周知のとおり、
政府は最近まで事後
評価をやりませんでした。その理由として
政府は、
途上国への内政干渉になるおそれがあるとか、
案件に携わった企業秘密に抵触するなどを挙げてきました。しかし、本当の理由がここにないことは、八〇年当時、
海外経済協力基金の管理職の一人が学術雑誌に個人の資格で発表した論文で次のように暴露しているのであります。
我が国の
援助行政においては、一部に事後
評価の
実績はみられるものの、むしろ
国会での対外
援助に関する国政
調査に対する防衛手段という配慮から、
行政府および
実施機関の双方で
援助案件の事後
評価を積極的に
推進しようとする傾向は概して少ないように見受けられる。
国会における
調査、すなわち
国民の監視を逃れ
るために事後
評価をやらないなどとんでもないことであります。最近になって
政府はやっと事後
評価を行うようになったのでありますが、長年の
国民の監視を忌避する姿勢は依然として残っております。外務省の
経済協力評価報告書が、とても
援助の教訓を引き出せるようなものではなく、全くおざなりなものであることもそのあらわれの
一つですが、昨年十二月、外務省がまたもや
相手国主権の抵触を理由にして
会計検査院の検査を空振りに終わらせたことはその典型であります。
スウェーデンでは、
国際開発庁が
調査員を派遣し、
援助プロジェクトでつくられた工場について原料供給から労働
条件までつぶさに
調査し、
国民に
報告しております。これに比べ、
我が国がいかにおくれているか明らかであります。
途上国の
主権尊重は当然であります。同時に
日本国民の
主権も守られなければなりません。
途上国主権尊重を理由に
日本国民の目をふさいだ結果が
途上国の一部の支配者と
日本の大企業を太らせている。この実態は
日本と
途上国両
国民にとって絶対に許せないことであります。
民主的公開の
原則を確立し、必要な
調査と結果の公表を制度化することは、先日指摘した「
要請主義」の悪用規制を進めるためにも重要であることを改めて強調するものであります。
次に、
国際機関を通じての
援助について述べます。
国際機関を通じての
援助は、特定国の影響を受けず、
途上国にとって中立性が確保される利点があると宣伝され、
我が国においてもほぼ無批判の状態に置かれています。
しかし、
途上国にとってこれはいささかもよい状態を
意味するものではありません。それどころか、最近の
世界銀行やIMFの行動は
途上国に一層困難をもたらしています。確かに、
世界銀行やIMFは特定国の意向を押しつけることはないけれども、アメリカを先頭とする日米欧出資国の大銀行のために借金取り立ての
条件づくりをしているのであります。巨額の累積債務を抱えた
途上国に対して融資するに当たり、IMFや
世界銀行はコンディショナリティーという
経済運営上の厳しい
条件をつけておりますが、それらはほとんど
福祉予算と補助金の削減、賃上げ抑制、物価統制の解除と金利の自由化など
途上国国民に犠牲を押しつけるものとなっております。このようなコンディショナリティーは
途上国の自主的な
経済政策に対する乱暴な干渉であります。
このような緊縮政策を
実施したらどうなるか。IMF
支援による
経済改革の実験場とみなされてきたアフリカのザンビアがその好例であります。ザンビアは八三年以来IMF、
世界銀行のコンディショナリティーを忠実に
実施し、
国民にインフレ、低賃金、
福祉削減を押しつけてきたわけですが、八六年に補助金を打ち切って主食のトウモロコシ消費価格を一気に一二〇%も引き上げ、実質賃金が六〇%も切り下げられるに至り、ついに
国民の怒りが爆発しました。昨年五月カウンダ大統領は、IMFとの
協調による
経済再建策と決別することを宣言し、自主的政策に転換しました。現在、タンザニア、シエラレオネ、ナイジェリア、スーダンなどの国々でもIMF戦略に抵抗する動きが強まっていると伝えられておりますが、至極当然のことであります。この中で、
日本政府がIMF、
世界銀行の有力メンバーでありながらその戦略を無
条件に支持していることは、重大であります。
途上国の
国民生活よりも対外債務返済額の
保障を優先するIMFや
世界銀行のやり方をやめさせ、
途上国の自立的
経済発展を助けるという
経済協力本来の方向に転換させるため、必要な行動を起こすべきであります。
エ国会と
行政府との
関係
従来、ほとんど非公開、秘密主義で
政府が勝手に行ってきた
ODAについて民主的、公開の
原則を貫くことは極めて重要であります。第一回の
意見表明で述べたように、
計画及び
予算の
国会審議実施と
国会承認制の導入、
実施状況の
国会への
報告の義務づけは、
国民に対する
責任上当然行わなければなりません。
オ
NGOに対する
評価について
援助国政府や多国籍企業から独立し、草の根レベルで真剣に
途上国との交流、
経済協力を進める
団体が
我が国においても増加し始めたことは心強いことであります。
我が国の
NGO活動の歴史の浅さも反映し、中には安易かつ無
責任な行動で迷惑をかけているようなものも出ているようではありますが、これらは
NGOの正しい
活動を
発展させていく中で
社会的に正されていくべきものでありましょう。当
委員会でも参考人から、乏しい
資金で困難な
活動を続けておられる
状況が
報告されましたが、このような
NGOに対する補助金の制度を確立する必要があるでしょう。言うまでもないことではありますが、それはあくまで
NGOとしての
活動を
支援するものでなければなりません。補助金をえさに
政府の
援助政策を補完させるようなことのないよう、そこにはしっかりとした仕組みが求められるわけでありますが、さしあたっては欧米で
実施されているコファイナンシングシステムなどについて
検討を急ぐべきであります。
カ
基本法制定について
最後に、
基本法制定問題について、前回提案したことではありますが、少なくとも
基本法に当たっては、公開の
原則、
海外経済協力基金や
国際協力事業団の運営の民主化、大企業の不当な
行為の規制、軍事政権てこ入れや紛争介入的
援助の禁止の五点を盛り込むべきことを改めて強調したいと思います。
なお、我が党におきましては、この
立場からの
法案を準備中であることを申し添え、補充
意見を終わらせていただきます。