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参考人(
宮崎知雄君) ただいま御紹介いただきました東京
銀行の
宮崎でございます。私は、本
調査会において公述の機会を得ましたことを大変光栄に思っております。
累積債務問題の全般的な概要につきましては、先ほど
大蔵省、
外務省の
方々からお話がございましたので、私は
民間銀行の立場から次の
三つの点に焦点を絞って私見の一端を申し述べたいと思います。
第一は、
民間銀行として本問題発生の背景をどのようにとらえているか。第二は、
民間銀行は本問題にどのように取り組んできたか。第三は、
民間銀行として主要国
政府、議会並びに国際金融機関に対して今何を望むかという三点でございます。
まず第一の、本問題発生の背景でございますが、我が国ではこの問題を
累積債務問題と呼んでいるわけでございますが、欧米ではこれをデット・アンド・デベロップメント問題、略してDD問題と呼ばれることが多いようであります。
日本語に置きかえますと、これは
開発途上国の
債務と開発問題ということになろうかと思われます。
我が国のように
累積債務問題と呼びますと、この問題は
途上国の借金累積問題と単純に受け取られがちでございますが、この問題の本質は、欧米の
認識どおり
途上国の開発問題、すなわち南北問題でありまして、
累積債務問題はそれに派生した問題と広い視野からとらえることが妥当ではないかと思います。
ところで、
累積債務発生の直接的契機は、やはり二度にわたる石油ショックであったように思います。石油
価格の急騰に伴い、OPEC等の産油国の国際収支は巨額の黒字を示すように
なりましたが、その反面、非産油国の国際収支は巨額の赤字に陥ったわけであります。多くの
途上国は
経済開発のさなかにこのような石油ショックに見舞われましたから、たちまち
外貨資金繰りに支障を来したわけです。
このような異常
事態に直面して、
IMFなど国際金融機関も産油国と非産油国との間の
資金還流に努めましたが、オイル
マネーと言われる
資金量は非常に巨額に過ぎまして、これら国際金融機関だけでは十分な
資金還流を行い得なかったのが
実情でございます。このため、多くの非産油
途上国の求めに応じて米銀を
中心とする主要国の
民間銀行がオイル
マネーの還流に努めるようになったわけであります。
民間銀行によるオイル
マネーの還流を通じて
世界経済は
資金の偏在に伴う不況を逃れ得たわけでありますが、他方、非産油
途上国の対外
債務は増大し始めたのであります。
また、石油ショックは全
世界を高インフレに巻き込みました。このために一九七九年以降、主要国、特に
アメリカは強力な金融引き締め
政策を実施しましたので、一九八〇年代初めにはいわゆる
世界的な同時不況が到来したわけであります。多くの
途上国では一次産品の
輸出が減退すると同時に、米
ドル金利の高騰によって対外
債務にかかわる利払いが激増いたしました。このような
状況のもとで、一九八二年夏には
メキシコの
債務支払い危機が発生し、次いで
ブラジル、
アルゼンチンなど多くの
途上国が
債務支払い危機に陥り、いわゆる
累積債務問題が発生したわけであります。
次に、
民間銀行の
対応という点について申し上げますと、一九八二年夏に
メキシコの
債務危機が発生して以来、今日まで
民間銀行の
対応は、主として
アメリカ政府主導のもとに行われてきたと言って過言ではないと思います。
メキシコの
債務危機が発生するや、
アメリカ政府は機敏に日欧主要国
政府や
IMF、BISなどに働きかけまして緊急のつなぎ融資を取り決めましたし、また他方、
IMFは
メキシコ政府に
経済調整政策の実施を求めたわけです。
日本の
銀行も、
アメリカ政府の要請もありまして他国の
民間銀行と同様に
債務の繰り延べに応じましたし、また必要
資金を追加的に融資して国際的な金融危機の回避のために協力を惜しまなかったわけであります。
メキシコのこの危機対策が前例と
なりまして、その後
ブラジル、
アルゼンチンなどの
債務危機の発生に際しましても、
一つには
アメリカを
中心とする主要国
政府、二番目には
IMF、世銀等の国際金融機関、それから三番目にはもちろん
債務国、それに四番目に
民間銀行、この四者が協力して
事態を乗り切る体制がつくり上げられてきたわけであります。
当時、これらの
債務危機は、
外貨不足ないし流動性の危機というふうに
認識されておりましたので、
債務国の
経済調整に重点を置きながら
IMFなど国際金融機関が緊急の融資を行い、また
民間銀行は満期の到来する元本を繰り延べ、さらには利ざやを、
金利の利子の幅ですが、利ざやを一部圧縮するなどの
対応がなされたわけです。
しかしながら、
債務国の
経済調整あるいは引き締めという
対応は、国内的に不人気な
政策でありまして、国内の政治問題や社会問題のために
経済調整がなかなか思うように進展しないという国も出てまいりました。多くの
中南米諸国の場合がこれに当たるわけです。
そこで、一九八五年ごろから
経済調整、引き締めの一辺倒ではなくて、
成長資金の供給もまた必要であるという考え方が浮上してまいりました。これがベーカー構想と言われるものであります。
アメリカの
ベーカー財務長官は、先ほど
大蔵省からもお話がありましたが、一九八五年の
IMFの
総会でこの
提案をしたわけでございまして、多年度一括繰り延べを行うとともに、三
年間に新規融資を二百億
ドル行う、あるいは世銀は九十億
ドルの構造調整融資を行うということを
提案したわけです。
これに呼応しまして、主要国の
民間銀行は十六行から成るこのための
委員会を組成しまして協力体制を整えることに
なりました。そして
累積債務問題は
途上国の
成長を志向する路線へと修正が図られたわけでございます。
この路線では、
途上国の
経済構造調整が必要であると
認識された点におきまして大きな進展が見られたわけでありますが、その具体策としましては、元本については多年度の一括繰り延べ、利払い分については
民間銀行の追加融資という形でありましたから、結果的に見ると
債務国の
債務残高は累積してしまったわけであります。このために
債務国、
民間銀行ともこの路線の永続性に疑問を持つものも出てまいりました。俗に言えばうんざりした感じを持つものも出てきたわけです。これは
債務国についていえば調整疲れということでありましょうし、
民間銀行については
支援疲れと言えると思います。
それで、こうした
状況を反映してか、昨年は
債務国と
民間銀行との間で一時緊張の状態が高まりました。昨年二月には
ブラジルが
民間銀行に対する
中長期債務にかかわる利払いを一方的に停止したのを初めとしまして、エクア
ドル、ペルーなどの他の
累積債務国も相次いで一方的に利払いを停止したわけであります。
他方、このような
債務国の強硬姿勢に
対応して
民間銀行側にも新たな動きが見られました。これは、昨年の五月に大手の米銀であるシティコープは第二・四半期の決算におきまして、赤字を覚悟で
累積債務国向けの債権を対象として貸倒引当金の大幅な積み増しを行いました。他の大手
銀行、
大手の米銀、それからその後カナダ、イギリスなどの
銀行もこれに追随いたしました。これは
民間銀行が経営の健全性の維持と万一の非常
事態にも備えつつ、
債務国との交渉において場合によっては強い立場で臨もうとするものでありましたから緊張感が高まったわけです。
こうした
状況のもとで、昨年九月に
IMFの
総会が開かれまして、その
総会において
ベーカー財務長官が再び新しい
対応策の推進を提唱したわけです。これは一九八五年の
提案を一層進展させたものでありまして、
債務国並びに
民間銀行が
採用可能な選択肢として
債務の
株式化を初めとする九つの新たな
対応策を示して
債務問題解決策の多様化を促したわけであります。この具体的な内容につきましては先ほど
大蔵省の
岩崎次長から詳しく御
説明があったとおりでございます。
ところで、昨年二月に利払いの一方的停止
措置をとり
IMFの指導を拒否し続けてきた
ブラジルでございますが、これが昨年の九月に、それまでの強硬姿勢を転換いたしまして
民間銀行との交渉に応ずるように
なりました。その結果、十一月初めには
銀行団との間で暫定合意が成立しまして、昨年末から利払いが一部再開されるというようになってまいりました。昨年中、国際金融問題の焦点の
一つとなっておりましたこの
ブラジルの問題は、
銀行団との話し合いを通じて一応落ちつきを取り戻しつつあるように思われます。
昨年初めにはか
なり緊張した場面も見られましたこの
累積債務問題でありますが、最近では国際協調体制のもと、ようやく小康状態を得るに至ったと言えるのではないかと思います。しかし利払いを続けている国の
債務残高はまだまだ増加傾向にあります。それから、
銀行団との交渉も事実上棚上げの状態で大幅に
元利払いの遅延を起こしている国も多いことでありまして、こういう
状況から見ますと、この問題を真の解決に導くにはまだまだ長い歳月と道のりが必要であるように思われます。
最後に、
民間銀行の要望ということでございますが、そこで本問題の解決のためには今後何がなされなければならないのかという点につきまして、要望という形で私の考え方を申し述べたいと存じます。
まず、主要国
政府並びに議会に対する要望でありますが、これは二つございます。
その第一は、
世界経済、特に主要国の
経済につきまして、インフレのない持続的な
成長をぜひとも実現すべく、今後とも格段の
政策的配慮を賜りたいということでございます。
前述のとおり、この問題の本質は南北問題でありまして、この問題の解決のためには主要国が
成長を持続しつつ市場開放を行って、
途上国の
輸出が伸びやすい環境づくりを行うということが最も肝要でございます。さらに、インフレの発生しないということも極めて重要であります。主要国にインフレが発生いたしますと
金利水準が高騰しますので、
債務国の利払いは直ちに増加し、
債務負担がそれだけ大きくなるからであります。幸い、近年、サミット参加の主要七カ国でインフレなき持続的
成長を目指して
政策協調が実施されつつありますが、今後さらに緊密な
政策協調を願うものでございます。
第二の要望は、
IMF、世銀等の国際金融機関の
資金量の増大と機能の拡充ということでございます。主要国
政府はこれら国際金融機関のいわば大株主でありますから、その権限を行使してその実現を図っていただきたいと思うわけであります。
IMFや世銀など国際金融機関の
資金量の増大というのは、必ずしも加盟国一律の増資を図ろうというものではありません。むしろ現在の
経済力に応じて、対外的に余力のある国、例えば我が国が特別増資に応じて出資
比率を高め、これらの国際金融機関における我が国の発言力の強化を通じて国際金融機関の機能を充実させるということが必要だろうと思われます。
累積債務問題の解決は当たりまして最も重要なことは、言うまでもなく
債務国の
自助努力でありますが、その
自助努力を促進できるのは、これは
IMFとか世銀などの国際金融機関しかないと思います。
IMFは、加盟の
債務国経済につきサーベイランスを行うこともできますし、またその国の
経済運営についていろいろ注文をつけることができるわけであります。
しかしながら、前述のとおり、一時的にせよ、加盟の
債務国が
IMFの指導に従わない
事態も現実には発生しているわけです。これは、
IMFや世銀自体の融資額が少ない、あるいはこれらの国際金融機関の触媒としての機能が十分でない、
民間資金の還流の呼び水効果が少ない等のためもありますが、
IMFの指導が無視されてしまうのは困るわけです。この
意味で、
IMFや世銀の
資金量増加と融資を保証するというような、そういう機能の拡充が強く求められるわけでございます。新聞報道によりますと、先週、ワシントンにおける一連の国際金融会議におきまして、宮澤大蔵大臣は
IMFにおける我が国の出資
比率の引き上げを
提案されたところでありますが、これはまさしく適切な御
提案であると存じます。
最後に、
日本政府並びに議会の皆様方に対する要望を申し述べたいと存じます。今後の税制改革の御審議を通じまして、次の点について格別の御配慮を賜りたく思うわけでございます。
それは、
民間銀行の
債務国向け融資に関しまして、無税の貸倒引当率を早急に欧米主要国並みの水準にまで引き上げることを認めていただきたいということでございます。無税の引当率は、
現状では我が国は一%でありますが、欧州やカナダではこれが三〇から六〇%まで無税による積み立てが認められているのであります。
前述のとおり、
累積債務問題解決策の多様化が図られ始めたのは事実でありますが、
債務の
株式化あるいは
債務の
債券化等は、
債務残高と比較いたしますと残念ながら金額的にはまだまだ小さいのが
現状でありまして、この
累積債務の問題は今後とも主要国の
民間銀行の融資に依存するところが大きいわけであります。邦銀が他の主要国の
民間銀行と協力を続けていくためにも、無税の貸倒引当率を他の主要国並みに引き上げていただくことを
お願いいたしまして、私の
意見陳述を終わらせていただきたいと思います。