○関本公述人
税経新人会全国協議会の
理事長をしております関本でございます。
私は、
昭和六十三年度の総
予算案に反対の
立場から
意見を述べさせていただきたいと思います。
現在、
政府税調及び自民党税調におきまして税制の抜本的
改革についての御議論が行われているわけでございますけれども、
政府税調は今月の八日から全国各地で
公聴会を開催しておられます。しかし、
昭和六十三年度の
予算案並びにその基礎となっております
昭和六十三年度の税制
改革に関する法案には、この税制の抜本的改正に関する問題は全く含まれておりません。現在、国民各層が切実に求めておりますのは、課税最低限の大幅引き上げを中心としました勤労者に対する大規模な所得減税でございます。
ところが、
昭和六十三年度の税制改正に関する法律案の中には、この切実な国民の要望にこたえるものは全くございません。減税は来るべき税制の抜本的
改革、これによる大型間接税導入のためのいわば人質とされてすべて先送りされております。この点をまず御指摘しておきたいと思います。
昭和六十三年度
予算案の特徴の
一つは、アメリカの要望に沿いまして軍事費を
総額三兆七千三億円と大幅に増額させた点にございます。これは昨年に続きましてGNP比一%枠を突破するものでありまして、六十二年度の一・〇〇四%を大幅に上回り一・〇一三%に達しております。前年度比の
伸び率で言いますと五・二%増ということになっておりますけれども、六十三年度は売上税の上乗せ分がございませんし、為替レートも六十二年度に比べまして大幅に
円高となっている、こういうことを考え合わせますと実質六%を上回る
伸び率となることは確実でございます。また、新規発注に伴う後年度負担も約二兆六千億円と実質七・六%の増加となっております。
この中にはアメリカの空母を護衛すること、これだけが目的でありますイージス艦、同じくアメリカのレーダー網を補完するものとしてのOTHレーダー、これらの導入などが含まれております。これらはいずれも専守防衛という
立場からも説明のつかないものでございまして、米
極東戦略の一翼を担う軍拡であることは一見して明らかでございます。
さらに、発展途上国への経済援助である
政府開発援助、いわゆるODAも七千十億円となっており、
財政投融資を含めた
事業規模では一兆三千四百八十七億円に上っております。これをドルに換算しますと実に百億ドルに達するわけでありまして、アメリカの八十八億ドルを超えて
世界一の援助国、こういうことになろうとしております。これはドルベースで換算しますと前年度比三〇%以上の増加率となります。ここにも竹下総理の対米公約であります「
世界に貢献する
日本」、この面目躍如たるものがございます。これもアメリカ戦略を支える重要な一環でありまして、国民には何ら利益をもたらさないものでありまして、逆に大企業の海外進出を促進し、産業の空洞化をもたらす一因となるものでございます。
これに対して
社会保障
関係費は大幅に抑制されております。年金受給者数の増加などによります当然増七千億円も認められないで、四千億円以上がカットされ、
社会保障給付の水準を一層低下させるということになります。また、国民健康保険制度についての改悪が図られております。国庫負担を四百五十億円削減して、新たに
都道府県、市町村に対して六百九十億円の負担増が押しつけられようとしております。さらに、生活保護費、児童扶養手当なども純減となります。生活苦で餓死者や自殺者が続出しているというのに、最後のよりどころであります生活保護費までも削減するということは、憲法二十五条が保障する生存権を奪うことになるのではないかと考えるわけでございます。
昭和六十三年度
予算がこのような重大な
状況を生み出すことになろうとしているにもかかわらず、
政府は、
我が国の
社会保障などの公共サービスが
充実して、福祉水準は
世界のトップレベルに達しているかのような宣伝をしております。これは全く事実に反するものでありまして、従来でさえ劣悪であると言われておりました福祉の水準が、最近の健康保険や年金制度の改悪、老人医療の有料化、昨年の百九国会における公害健康被害補償法改悪、
国立病院の統廃合、労働基準法の改悪などによって一段と低下しまして、今回の
昭和六十三年度
予算案並びに関連法案によりましてさらに一層改悪されようとしているのが実情でございます。
教育についても例外ではございません。
臨時教育審議会答申に基づきます
教育改革の一環としまして教員の統制強化、
初任者研修試行、奉仕等体験
学習研究推進、産業
教育の
振興、産業界等との
研究協力の
推進等々に関する
予算が大幅に増額している反面、四十人
学級推進は遅々として進んでおりません。そのために欠かせない公立学校施設
整備関係費は九・七%も削減されております。
国立大学の
授業料が大幅に値上げされることになるとともに、
私学助成も不十分な状態が続いているために入学金や
授業料の値上げが相次いております。
我が国の
教育環境がいかにひどいものであるかの例といたしまして、先進諸国の
学級編制基準と比較してみますと、次のとおりでございます。初等
教育で、
日本が一
学級四十五人、これに対しまして、アメリカ、カナダ、フランス、西ドイツなどがいずれも二十五人、
イギリス二十五人ないし三十人でございます。中等
教育で見ましても、
日本の四十五人に対しまして、アメリカ、フランス二十五人、カナダが八人ないし三十一人、西ドイツは三十人、
イギリス二十五人ないし三十人となっておりまして、
我が国のすし詰め
学級ぶりは一目瞭然でございます。
いわゆる内需
拡大の対米公約の実行と財界の要求にこたえるための公共
事業関係費は、NTT株売却益が繰り入れられます産業投資特別会計からの一兆二千億円を加えまして約七兆三千億円と
昭和六十二年度の
予算に比べまして一九・七%の
伸びとなっているほか、大企業向けにはいわゆる構造調整や新技術開発のための特殊法人設立の費用が増額あるいは新設されておりまして、産業の空洞化を
財政面から支えるための助成金、特定業種雇用安定助成金制度の創設などが提案されております。これに対しまして、
円高、消費不況に悩む中小企業に対する対策費は、六年連続の削減で、
一般会計予算に占める
割合はわずか〇・三四%と史上最低に落ち込んでおります。
このように、
昭和六十三年度
予算は、歳入面では、昨年の税制
改革によりますマル優原則廃止、一律二〇%の分離課税の導入、課税最低限の据え置き、最高税率の引き下げを中心としました税率の改定、
措置法の期限切れによります法人税率の一・三%の引き下げなど、大企業、大資産家に対する減税によりまして負担の不公平を一層
拡大しているものでありますとともに、歳出面では、軍事費、
政府開発援助などの異常突出、大企業中心の公共投資などの大幅増、
社会保障、
教育関係支出の削減など、歳入歳出の両面から勤労国民の生活を破壊して、大企業、大資産家に対する優遇を
拡大するものとなっております。これは同時に、
日本のアメリカへの従属をますます深めさせるとともに、産業の空洞化を促進し、
円高、消費不況のもとで呻吟する勤労者、中小零細企業など、勤労国民の生活を破壊する
予算案であるというふうに考えざるを得ません。
そもそも、
財政は、税の徴収と歳出の両面を通じまして所得の再分配を図る、これが本来の機能でありますけれども、近年の不公平税制の
拡大、歳出面における福祉の切り捨てなどによりまして、その本来の
任務に反する方向へ変質させられつつあるという点を強調しておきたいと考える次第でございます。
現在、
政府税調では、竹下総理の諮問を受けまして、税制の抜本的
改革についての審議を進めておられるわけでありますが、そこでは、先ほどから申し上げておりますような実態がほとんど顧慮されておりません。
なぜそうなのかと申しますと、
政府税調の
委員の選任、審議のあり方、ここに根本的な問題があるわけでございます。建前上は
民間、国民の各層の
意見を聞くということになっておりますけれども、実際には
政府の意向に同調する人々が圧倒的な多数を占めておられるわけでありますし、その審議は全く非公開、密室審議でございます。大蔵省の用意した資料に基づいて
政府の方針に承認を与えるだけの儀式にすぎない、こういうことでございますので、これでは、開かれた議論を通じてというふうに言われましても、本当に国民的な税制
改革論議というものは不可能でございます。
現在進められております地方
公聴会についても全く同様でございまして、
政府が選んだ公述人の方々が大蔵省や自治省の用意された資料に基づきまして一方的な
意見を述べておられるにすぎないわけでありまして、結論は初めから決まっているようなものでございます。
政府は、税制の抜本的
改革の背景としまして、
日本の所得水準は
世界のトップクラスになったとか
日本は
世界一貧富の差の少ない国であるとか、こういうことを挙げております。だから、高齢化
社会に備えて薄く広くの考え方を持つ税が必要であり、それが現代的な公平を実現するための最も適切な選択であるという趣旨のことを盛んに宣伝しておられます。また、
日本の課税最低限も
世界で最も高い水準になっていると言っておられます。これらはいずれも事実に反するものでございます。所得水準や課税最低限の数値というのはつくり出されました異常
円高によって計算上押し上げられているということにすぎませんし、貧富の格差も最近の財テクだとか土地転がしなどによりましてますます
拡大しているのが実情でございます。
我が国におきましては、住居費や
教育費が異常に高くて、これが生活を著しく圧迫しているということを度外視することは公正ではないと思います。
世界のトップレベルの所得水準にある
日本人の大
部分がなぜウサギ小屋にしか住めないのか、この一事だけを見ても、所得水準が
世界一流であるというのは単なる神話にすぎないということが容易に理解されるはずでございます。特に、薄く広く負担を求める間接税というものが導入されましてこれによって福祉財源が賄われるとしますと、この税は
社会的弱者に、より重い負担を強いるものでございますから、
社会的弱者同士を助け合わせる結果になりまして、憲法が
予定しております福祉国家とは似ても似つかない状態が出現することにならざるを得ません。
薄く広く負担を求める大型間接税は
昭和六十三年度
予算並びに関連法律案には直接
関係がないということになっておりますので、これ以上申し上げることは差し控えたいと思いますが、ただ、今国会における質疑や
政府答弁、総理の演説などを承っておりますと、ことしの秋を目途としまして新大型間接税の導入を含む税制の抜本的
改革を断行することを
予定しておられる模様でございますので、もしそのようなことになりましたら、これは、一昨年七月の衆参同日選挙における大型間接税は導入しないという公約に違反するものであるということだけは明確に申し上げておきたいと思うわけであります。
次に、本
委員会においても御議論になりました外国為替資金特別会計に関連して
意見を述べさせていただきたいと思います。
昭和六十三年度
特別会計予算案総則第十条によりまして、外国為替資金の融通証券発行の最高額を二十八兆円に増額することが
予定されております。
昭和六十二年度当初
予算では十六兆円でありましたけれども、二度の補正によりまして現在二十一兆円になっております。これ自体大変な大きなものでございますけれども、二十八兆円ということになりますと、これは
昭和六十三年度
一般会計予算のほぼ半額に匹敵する額でございます。これが外為市場でドル買い、円売りの介入をするための資金源でありまして、竹下総理が先般訪米された際の手土産でもあったわけであります。先月十三日の日米首脳会談で合意しましたアメリカのSDRを
日本が買い受けることによって、アメリカがドル買い、円売りの介入資金を調達する、このためにも使われることになります。アメリカ経済が
財政と貿易の双子の赤字によりまして大変な危機に直面しておりますが、最近のドルの著しい下落によりまして
民間の資金がアメリカからどんどん逃避しております。そのために危機を一層深めているというのが実情でございまして、その肩がわりをしているのが
日本、
ヨーロッパ、カナダなどの
政府資金でございます。このようないわゆる経済協力は日米安全保障条約第二条によるものであることは明らかでございます。
アメリカは、レーガン政権による急激な軍拡政策と無謀ともいえるような大企業、大資産家に対する減税によりまして、
財政赤字を急速に
拡大し、今日の危機をつくり出してきました。しかし、
日本政府を初めとする西側諸国が、米短期財務省証券、いわゆるTBでありますが、これを購入することによって赤字の穴埋めをしているために、アメリカ
財政の自律的な改善が先延ばしされまして、危機はますます深刻なものとなりつつあります。
大蔵省は、このアメリカの
財政赤字の穴埋めとドル買い介入によるドルの下落防止のために、外国為替資金証券いわゆる為券を発行しまして、これを日銀が引き受けるということによって資金の調達をしております。そのために円が国内に大量にばらまかれまして、マネーサプライを引き上げ、過剰流動性を生み出す結果になっているわけであります。これは、効果としては、
財政法が禁止しております国債の日銀引き受けと同一ではないかというふうに考えられまして、これが
我が国にインフレの危険性を生み出すであろうということは容易に推測できるわけであります。
さらに、外為特会は、下落する一方のドルを盛んに買い支えているわけでありますから、ドルの下落に伴って為替差損を
拡大していくわけであります。この為替差損は、一ドル百四十四円で換算しまして、
昭和六十二年度末
予定額が六兆円を超えております。
昭和六十三年度
予算では、為替差損は見込んでおりませんけれども、二十八兆円規模の介入を行うわけでありますから、その差損はさらに数兆円増加することは避けられないというふうに考えられます。しかも、外国為替資金特別会計法は、その八条の二項で、この為替差損を、損益計算書には計上しないで、貸借対照表の資産の部に計上することとしております。損益計算書上ではしたがって数千億円の利益を計上する、こういうことになっております。
昭和六十三年度
予算では、そのうちから外為特会受入金として一千四百億円を
一般会計予算の歳入に計上しております。本来ならば評価損は利益と通算されまして、外為特会は積立金を取り崩しましてもなお
昭和六十二年度末の
予定額で一兆一千六百七十五億円強の損失となっているはずであります。しかも、最近の数年間は兆単位の損失を計上し続けているわけでありますから、今後ともこの損失が雪だるま式に累増することは避けられないのではないかと考えられます。
このように、
我が国の
財政はアメリカの
財政にリンクされておりまして、為替介入の強化というさきの日米首脳会談の合意によりまして、ますますアメリカへの従属を強めて、アメリカと一蓮托生の
関係に追い込まれているといわなければなりません。
以上のとおり、
昭和六十三年度総
予算は、
我が国の将来を破滅に導きかねないような重大な問題を含んでいると考えますので、以上申し上げまして、私の公述を終わらせていただきたいと思います。