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鈴木公述人 鈴木でございます。私は、
日本経済新聞で長く論説の仕事をやっておりまして、今テレビに参りましてから役員をやっておりますけれども、解説の仕事を兼ねてやっております。専門はマクロ
経済でございますけれども、本日は、
予算審議に関連いたしまして、
内需拡大と産業
構造の調整の問題並びに貿易の問題について若干
意見を述べさせていただきたいと思います。
御承知のように、現在為替レートは小康
状態を保っておりまして、各国間の協調介入と最近発表されました
アメリカの貿易収支の改善、そういったようなことが背景になって、目下のところは為替レートは百二十円台の後半から百三十円というようなところで大体落ちついているわけでございます。国内景気も予想以上に今のところは好調で、企業の収益率も前年に比べますとかなり大幅に改善されているということで、出荷とかあるいは生産も相当順調であるということで、今のところは内需が一応軌道に乗っているという評価が一般的に大変強いわけでございます。
私はこれについて、今後これがどうなるかということは後で申し上げたいと思いますが、ここでちょっと特に先生方に私として強く指摘したいことが一つございます。それは先ほども御指摘がありましたように、前川リポートあるいは新前川リポート、この新前川リポートには私も実は審議に参加しているわけですが、こういったところで非常に強調されました
経済構造の調整の問題、これは内容的には内需主導型の
経済に持っていく、貿易の黒字をできるだけ縮小する、あるいは
NICSその他の諸国との間で水平分業型の
構造に持っていくということが基本的なねらいであるわけですけれども、今までは
円高といいますと、専らデフレ的な側面ばかりが強調されておりましたけれども、最近
経済構造の調整が物すごく急速に進んでおりまして、私どもの見るところでは、第一段階のいわば
円高への適応段階は一応通り過ぎた、いよいよ本格的にこれから二、三年かけて総仕上げの段階に入ってきているのではないかというふうに考えられます。
御承知のように、
日本の貿易の黒字も昨年の七月以降ずっとマイナスが続いておりまして、円建てベース、数量ベースではそうですし、ドルベースでも最近少しずつ黒字が減ってきているということでございますが、特に輸出関連産業、製造業、これは大企業も中小企業も含めまして、あるいは東京周辺のみならず地方も含めまして、大変な勢いでもってこの
構造調整が進んでおります。特に海外へ生産拠点を移すというのが前年に比べて倍以上のテンポで進んでおりますし、企業の合理化努力あるいは新製品の開拓とかいったようなことで高度化への志向をしたいわば合理化努力というようなものが大変進んでおるわけでございます。
特にプラザ合意で
昭和六十年の九月ごろ二百四十円であったのが一年ちょっとの間に百五十円段階まで入り、その後今日まで百二十円台というところまできたわけでございますけれども、特に企業の方々が血のにじむような努力をされたのは、二百四十円から百五十円に至る一年ちょっとの間でございます。ここではもうまさしく死に物狂いで大企業も中小企業の方々も努力されたわけでございますが、その結果としてある程度方向づけができた。その方向に従って徐々に、何といいますか、レールをさらに延ばしていくという過程において、大体数カ月単位で十円刻みというようなことで為替レートが上がってまいりましたけれども、大体企業の方で想定いたしました為替レート、採算レートの方がむしろ現実の為替レートよりも高目に設定されたということもありまして、かなりそういう面で企業の努力によって乗り切ることができたということだと思います。
率直に申し上げますと、今製造業
関係の
構造調整というものは、先生方がもちろん御承知でしょうけれども、一般に想像されている以上に大変広範に進んでおりまして、むしろ進んでいないのは何かといいますと、
政府があるいは行政面で介入度の強い、
政治の面からの発言力が相当影響しているような産業分野においては
構造調整が非常におくれておる。進んでいるのは心しろ
政府の息のかからないといいますか、余り
政府に面倒を見てもらわないような産業の方が急速に
構造転換が進んでおりまして、むしろ
政府の息のかかっている産業が逆に合理化がおくれていることによって、せっかくの製造業部門の真剣な努力に対して水を差すようなそういう傾向もないわけではない。そうだとは断定できませんけれども、そういう面があるんだということ。
それから、もう一つ強調したいことは、今仮に、そういうことはありませんけれども、円が百八十円とか二百円に仮に戻るようなことになった場合には、
日本の現在の産業界は大混乱を呈するであろう。せっかくここまで
円高を通じて一生懸命に
構造転換をやってまいりまして、その軌道にやっと乗りかかったというところで、今度は逆に円安に急激に戻るというようなことになると、かえって大変な混乱が起こって、その方がむしろ私どもは心配である。逆に言えば、もちろんあしたから円が百十円になるとかあるいは百円になるということになれば、これまた大変なことでございますけれども、少なくとも数カ月のこのタイムラグでせいぜい十円刻みぐらいのことで、長い期間をかけて円がじりじりと上がっていくということであるならば十分対応できるということでございまして、むしろ百二十円台というこの現在の為替レートというものが
構造調整の上において非常に大きな原動力になってきておるということを御理解いただきたいと思います。
それじゃどういうふうに対応しているのかということでございますけれども、言うまでもなく、最近の製品輸入の急激な増加、あるいは海外生産へのいろいろなシフトということから始まって、
日本の企業が海外でつくったものがどんどん逆輸入してくるというようなこともございます。先進国との間では、例えばヨーロッパの車、ベンツだとかあるいは
アメリカの事務機械とかいったような先進国の得意な分野のものが依然として製品輸入もふえておりますけれども、全体として
NICS関係の製品、これの輸入が激増しているわけでございます。
昨年の製品輸入の統計、これは貿易統計が出ておりますが、その中で
日本の製品輸入は四四%という
数字が出ております。ところが私どもは、これは少なくともことし五〇%はもちろん超えますけれども、場合によっては五十数%ぐらいまで行くのではなかろうかというふうに感じております。ということは、ことしから来年にかけていよいよ本格的に
日本の国内マーケットで外国の製品と
日本の製品とが今まで以上に激しい形で販売合戦を展開しなければならないということで、これは企業にとっても大変なことでございますが、しかしこれは、これから先は私の個人的見解でございますけれども、
日本の企業にとっては、これは決してマイナスではないのだ、むしろ国際的に見て非常に
NICSあるいは先進国との間で水平分業が急速に進んでいる証拠でありまして、そういう面では
日本の企業がいわばグローバリゼーションというか
国際化、そういうことを進めていく上において、どうしても生きるために必要なことであり、また同時に、今の
円高のもとにおいて
日本の企業自体が、
NICSや先進諸国からの製品輸入あるいは半製品輸入によって相当程度合理化のために役に立っているということが指摘されなければならないのではないかというふうに考えております。
最近の例でございますが、これは八七年の一月から八月までの期間をとりましても、例えば三十五ミリのカメラの製品輸入の比率が四一%、それから電卓が五二%、ポータブルラジオが六〇%、扇風機が五五%、白黒テレビ、これなんかは六七%、ラジオカセットが四五%といったぐあいに非常に製品輸入がふえておりますけれども、この大半は
NICSの製品であるかあるいは
日本が
NICSで生産した製品、いわゆる私どもはジャパニックスと申し上げておりますけれども、このジャパニックス製品というものがかなりの比重を占めているということを御理解いただきたいと思うわけです。
今までは
日本の企業が下請生産だとかサブアセンブリーの仕事を
NICSの諸国に持っていきまして、そこからでき上がったものを輸入して、そして
日本が最終製品をつくるという形をとっておりましたけれども、最近は製品そのものまで、いわゆる
日本の企業の現地での製品がどんどん入ってくるようになってきたということで、
日本の企業のブランドをつけたもの、それから現地の企業のブランドをつけたもの、双方あるわけでございますけれども、
NICS諸国のブランドをつけたものの中にも、
日本から行った半製品あるいは資材といったものが相当程度入っているということを理解しなければならないということだと思います。
そういう意味におきまして、現在の
円高は、企業にとっては製品輸入がふえているということは、もちろん競争が国内で激しくなることの反面、
日本の企業にとっても、それは非常にメリットがあることであって、例えば韓国が昨年労働争議がいろいろありましたけれども、企業がストライキを起こしますと、
日本のVTRの工場が操業停止をしなければならぬ、そういったことが現実に起こっているわけでございます。それほど依存
関係ができているということを理解しなければならないと思います。
同時に、今申し上げたように、
円高によって原材料あるいは部品、半製品が非常に安いということと関連いたしまして、原油も昨年は非常に安かった。これも今後の見通しとしては、バレル当たり十五ドルをいつまでも切るような
状態が続くということになると、
アメリカにとってもあるいは北海油田を抱えている
イギリスその他にとっても、やはりいろいろ問題があるわけでございますから、十五ドルを切るような
状態がずっと続くということは難しいかもしれませんけれども、スポットその他の面でまだしばらくもう少し弱含みの
状態が続くのではなかろうか。ただ、原油の場合は、下がればいいというものではございませんので、余り下がりますと、途上国の問題あるいは
世界経済全体に与える影響というものは、むしろ逆にマイナスの影響も出てまいりますので、その辺のことは余り楽観はできないということはございます。
それはともかくといたしまして、先ほどから御指摘がございますように、
日本の消費者物価というものが余り下がっていないというかむしろ物によっては上がっているということでございますが、このことは実はいろいろな評価があるわけでございます。
西ドイツは、マルクが上がれば卸売物価が下がり、またさらに消費者物価もそれに比例して下がるということで、よく
日本では
西ドイツに見習えということがあるわけで、私も基本的にはそれは正しい考え方だと思いますけれども、現実に今、
日本の企業の
構造転換が中小企業の末端に至るまで非常に進んで、しかもなおかつ今日、昨年に比べて製造業も流通業も大変企業収益率が高いというような
状態はなぜ続いているのかということを考えてみますと、これははっきり申し上げて、消費者物価が下がっていないために企業にそれだけの
構造転換をやるゆとりがあったのだということで、消費者に還元するのは非常におくれているけれども、まあそういう意味において、企業段階においての
構造調整を進める上では役に立ったということが言えるかもしれません。
そのことはともかくといたしまして、こういう形で
日本の産業界が急激に
円高に伴う
構造転換ということを進めてまいりました。問題は、一体このままの
状態がいつまで続くのかということと、それから、こういう
状態を
政府として一体ほっておいていいのかどうかという問題があるわけでございます。
と申しますのは、今まではともかく、
民間の側もこれまで輸出でいろいろ稼いだストックもございましたし、それから昨年は先生方の御努力によりまして七兆円という大型の財政措置というものが進められているというようなことで、いろいろな
政策要因と、それから企業努力とが絡み合いまして、どうにかこうにか今日まで急激に転換が進んでまいりましたけれども、問題は、これから先ということになりますと、やはり非常に問題が幾つかあるわけでございます。
〔野田
委員長代理退席、
奥田(敬)
委員 長代理着席〕
昨年からことしにかけて内需が伸びていることの内容を見ますと、非製造業の設備投資がかなり急激に伸びておりますけれども、これはもう最近やや息切れ
状態でございます。それにかわりまして製造業
関係の設備投資が昨年の中ごろから急激に回復してまいりました。最近、けさも新聞なんかを見ましても、製造業の設備投資が前年に比べて一二、三%ぐらいまでふえるのではないかというような予測も出ておりますが、私もそのぐらいはいくのではないかというふうに考えておりますけれども、実は問題は、
アメリカ、ヨーロッパあるいは
NICS諸国、それぞれの今後の
経済の動きというものがどういうふうに動いていくのかということについて、まだまだ企業経営者の中には不安感が非常に強いということがございますので、製造業
関係の設備投資が、もしここで何らかの格好でまた再び
アメリカで大きな変動が起こるということがありますと、また再び萎縮する可能性もないわけではないということも心配されます。
そういう面で、まず一つは、
アメリカに対していろいろな面で、ドルの安定のみならず、
経済の運営についてもいろいろ
注文をつけなければならぬということはございますけれども、私が申し上げたいのは、製造業の設備投資のみならず、昨年非常に好調であった住宅投資もことしは相当落ち込んでくるのではないかというふうな感じがしております。昨年伸びましたのは、これは
政策努力もいろいろあるかもしれませんけれども、基本的にはやはり土地価格の上昇、それに伴って東京の都心あたりに住んでいた人が家を売ってさらに郊外へ出る、郊外の人がさらにより郊外へ出るというような形で、そういう面での新築需要とか増改築需要もありましたけれども、一番大きなのは、やはりオフィスだとか貸し家というものを当て込んで、非常に貸し家住宅とかオフィス
関係のビルが急速に伸びたということが一つあるわけでございます。
時間がございませんから詳しいことははしょりますけれども、ところが、最近都心の家賃も大分下がってまいりましたし、都心の地価そのものも停滞ぎみであるということで、それがまた逆に、これからの住宅建設の面では今までのようにプラスには働かない。これはむしろ望ましいことかもしれませんけれども、特に税の面で、相続税だとか固定資産税との関連で、郊外の地主さんたちがどんどんマンションを建てるというようなことがあって、しかも建てたもののなかなか借り手がないというようなこともいろいろ起こっているようでございます。
それから、昨年からことしにかけて伸びた中のもう一つの理由は、在庫投資が非常に伸びたわけですけれども、これももう既に企業が相当生産をふやしまして在庫投資も大体一巡してきたということだと思いますし、また公共投資についても、一昨年から昨年にかけて、いよいよ
政府も思い切って大型の補正を組まれたりしたわけですけれども、ことしも公共投資はその伸びを正常に維持されながらやっておられるということは大変歓迎しておりますが、私どもが懸念しておりますのは、もし万が一今後、
アメリカの
経済の動向いかんにもかかわりますけれども、大きな変動というものが起こった場合に、財政というものが即座に機動的に対応できるような態勢というものはやはり続けておいていただきたいというふうに考えております。
個人消費につきましては、これはもう最近失業率もやや低下しておりますので、雇用者の数もややふえてまいりました。昨年は春闘で公称三・六%、ボーナスは前年より低かったというようなことがございました。これは当時の環境からいって、企業の経営も
構造転換のために必死の状況であり、
組合側もまた大変、全体の
経済情勢というものを読んで慎重に対応されたということからこういうことになったと思いますが、ことしは企業収益率が前年に比べてかなり今のところは改善しておりますから、企業の支払い能力もある程度はふえてきておる。したがって私は、これは個人的感触ですけれども、四%は超える賃上げはあり得ると思いますが、これも企業によって、支払い能力によって影響されるわけでございます。
問題は、賃金がその程度の上昇であったとしても、雇用者数もふえますから、当然
GNP統計で言う雇用者所得というものは相当大幅に伸びるのであろうと思いますけれども、ただ、そのことが個人消費全体にどれだけ強い影響を与えるか。最近は金利も下がっておりますし、
アメリカの株式市場のああいう状況、
日本の株価の最近の不安な状況ということからしても、
日本の場合は
アメリカほど一般の個人投資家の比重は高くありませんし、また、株を持っている個人投資家が比較的長く株を持つという傾向がございますけれども、いずれにしましても、金融資産の価値というものが今までに比べて若干落ちているというか、金融資産に対する
期待というものがやや弱まっているということもございます。そのことは逆に言うと、先行きについて消費者にとっても不安感もいろいろ出てきているのではないかということで、これが消費の拡大につながるのか、あるいは消費の抑制につながるのか、なかなか微妙なところでございます。
ただ問題は、先ほども申し上げましたように、これから二、三年ないし四、五年かけて、いよいよ本格的な
構造調整の段階に入ってくるわけでございます。私は産業
構造審議会の
委員をやっておりますけれども、中期の
構造調整期に入ったということなんですけれども、このためにはやはり、先ほどもほかの方からも御指摘がありましたが、海外需要をできるだけ減らして、年間一ポイントぐらいずつ比重を減らしていって、そして国内の需要をできるだけふやしていく。平均五%ポイントぐらいの内需というものは常に支えていかなきゃならないということになりますと、実質で
経済成長率はやはり四%を切るようなことは絶対あってはならない。もし四%を切るようなことになりますと、せっかくここまで進んだ
構造調整というものが後戻りする。失業あるいは
民間活力の減退、あるいは、稼働率が下がることによってコストが上昇してまいりますと収益が悪化してまいります。
地域経済にもそれは影響が出てくるということでございますので、やはり何としてもここは
政府が財政その他の支援措置を維持していかなければならないということでございます。
私は、財政が積極的に減税の面だとか公共投資だとかいろいろな面で手を打っていただきたいとは思っておりますが、ただそれについて、最後でございますけれども、一つ二つ
注文があるわけでございます。
まず、税制改革については、先ほどからほかの方からも御指摘がございましたが、私は、これはもう絶対に早急に実現していただきたい。同時に、これはあくまで直接税と間接税を、両方一体となって
国際化という視点からやはり強く実現していただきたいということでございまして、所得税累進課税をできるだけ簡素化していくということと、法人税の軽減、それも当然だと思いますし、特に、個人、法人の国家離れといいますか、最近は企業の中でも、外地でもって資金を調達し、外地でもって生産し、外地でもって物を売り、そして税金も外地で払うというような企業がだんだんこれから出てくるのではないかというふうなことがございます。そういうことをなくすためにも、やはり直接税の状況というものを国際的にも見直していく。同時に、大型間接税、これもできるだけ広く薄く、私は個人的には、例外措置はゼロにしてもいいからできるだけ広く薄くやるべきだというふうに考えておりますけれども、そういうことをやっていただきたい。
そして、公共投資もぜひやらなければいけませんけれども、ただ、今までのように各省一律の配分といったような総花的なことではなくて、やはり技術開発に関連したものとか、あるいは先ほどから御指摘のあるように本当に長期に、長い目で社会資本の充実として理屈に合うもの、あるいは
構造調整に役立つものというものに重点を置いていただきたい。特に公共投資については、これは
一種の公共財だというふうに考えていいと思いますが、公共財に準ずるものとしてやはり相当程度
政府がバックアップしていかないと、
日本の国内の
内需拡大と申しましても、要するに海外から、これから
NICS諸国の製品も
日本にどんどん入ってまいりますけれども、そういうものに対応してできるだけ
日本が高度な、より品質の高いマーケットを拡大していくことにおいては、やはりどうしてもそういうことが必要になる。
それから、最後に一言だけ申し上げたいのは、財政を拡大するのは結構ですけれども、その場合に、食糧だとか土地問題を含めて、先ほど申し上げましたように
政府がいろいろ介入している分野についての
構造調整が大変おくれている。それについての対応をぜひ真剣にやっていただきたいということで、大変抽象的な話に終わりましたけれども、後ほどまた御質問がございましたらいろいろお答えしたいと思いますので、これで失礼させていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)