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渡部(一)
委員 先ほどから提案の多い話ばかりしておりますのですが、私は
竹下内閣の
大筋について伺うものですから、どうしても提案が多くなり、言葉が多くなり、恐縮であります。
先ほどテレビを見ておりましたら、いいニュースがございました。アメリカ
大統領選挙に出ておられましたゲッパートさんのゲッパート条項が、アメリカの議会におきまして、ゲッパートさんの
大統領候補になるかどうか関係なく、これは取りやめるよという
お話があったそうであります。私はこの場をかり、米国議会の好意に対して感謝の念をあらわしたいと思います。
私は一人の庶民として、日米間のこの紛争の処理というのは恐らく当
竹下内閣の
最大の難問であろうかと思います。この日米間の紛争は、今や
経済、貿易、金融など拡大中でございますし、貿易戦争とか日米
経済戦争などという用語を用いている方もあるわけであり、私はこういう用語はつらくてとても用いる気にはなれませんけれども、長くますます深刻な
状況であります。
第二次大戦まで先進産業諸国間では、よく銑鉄の出銑量が二つの国家で入れかわるたびに両国間に戦争が起こったとヨーロッパ各国で指摘する例があるわけであります。時代が変わりまして、今、日米間を眺めてみますと、そんな鉄鋼の生産量が変わったどころではない。一九八一年に千四百十一億ドルという
世界最大の金持ち国だったアメリカが、今、一九八六年の末ですからわずか五年目に二千六百三十六億ドルという
世界最大の債務国になってしまった。八七年末はおよそ四千億ドルだろうと言われているわけであります。それに対して我が方は、在外資産がほぼそれに見合うぐらい、三千億ドルぐらいそろそろたまっているのではないかと思われるわけであります。
こういう第二次大戦の敗戦国
日本が大金持ちになる、そのときの勝利者が劇的な形で債務国になってしまう、これは私たちの想像以上に感情を刺激し、そして紛争の種になる基本的
状況があるのではないか。一つずつの交渉をしておられると、恐らくそういうテーマでいっぱいになってしまわれるとは思いますけれども、この舞台背景がある以上は、あらゆる彩りが陰惨な彩りになってくるということは、先方の
立場になればわかるのではないか。
しかも、依然として
世界最大の
経済国家であり、軍事国家であり、ある種の文化大国であるアメリカとの関係を
日本は第一義的に顧慮する以外に、
日本の生存を安定たちしめることはできないのではないかと思うわけであります。したがって、私は、原則がなければいけない、必ず紛争は処理しなければいけない、紛争はむしろその背景を含めて予防しなければいけない、そして第三番目に、いかに両国間に紛争が起きても常に適切な処置で解決されるぞという認識が両国民の中に行き渡るようにしておかなければいけないと思うわけであります。
誤解を解き、挑発を避け、双方の文化的伝統を尊敬するところまで至らなければいけない。今や文化的伝統は軽べつとののしりの種になるようではいけないと思うわけでございますし、こういうときこそ、私どもはやけくそぎみの投げやりな発言を交渉者としては慎んでいかなければならないと深刻に思っているわけであります。
そこで、その
立場から、私はあえて大胆不敵にばらばらな話を固めて提案するのでございますが、いかがでございましょうか。
一つは、私は、こういうふうにお金が急激にがあっと入れかわってなくなった場合の向こうの雰囲気からいうと、頭を下げて
日本にお金をくれとか、ギブ・ミー・マネーなどと言うことは、それはもうとてもできるものじゃございませんでしょう、腐ってもタイという言葉だってあるのですから。やはりこれは適切な口実のつく
立場に置いて、私どもはアメリカ
経済について一定の好意を示さざるを得ないのだろうと思います。
そうすると第一番目に、日米摩擦、あらゆる摩擦をまず包括処理する。包括という言葉をわざわざ使いますのは、包括貿易法案でさんざん苦しめられたので包括とわざわざ言うのでありますが、包括処理するプランを
日本がアメリカと相談してつくり上げるという提案をされたらいかがかなと思っているわけであります。その包括とは、私どもの
立場からいえば、全面解決を目指す包括案というのをお互いに合議する必要があるのではなかろうかと思っているわけであります。
第二番目には、商品ごと、事件ことのMOSS協議というものは決して悪くはありませんけれども、この交渉のときにしばしば大紛糾いたしますのは、先方の意見でございますよ、責任者が出てこないで官僚が出てくる、その官僚がいいかげんなことを言う、そういうふうに猛烈な反発を招いているわけであります。
我が国の官僚は優秀ですから、交渉者が官僚を帯同するのは当たり前でありますけれども、その官僚だけに責任を負わせておきますと、権限のない人が交渉するという、外交では一番嫌われる交渉だと錯覚される可能性があると私は言わざるを得ないのであります。権限のある担当者が官僚も引き連れて交渉に行く、このルールをひとつおつくりになることが要るのではないかと思います。
次は、三番目は、急速に起こる集中豪雨的な輸出に対してコントロールをするシステムをつくり上げなければいけないと思います。ドイツ式でいけば輸出超過税でありましょう。しかし、
我が国では輸出超過税というのをつくろうとしたら、とてもではないけれども時間がかかり過ぎて討議の対象にならないものと存じます。したがって私は、こういう集中豪雨的にがあっと来たときに対抗するこちらのシステムを持っておく、持っているということを先方にも明示しておくことが要るのではないかと思うのであります。
第四番目に、円建て取引を強化したらどうか、私はそう思います。
世界の国際通貨はドルです。弱いドルが
世界の国際通貨としてたった一つ頑張っているわけであります。これは
日本の方からいえば、ドル建てで輸出しておけば何かと安全です、ドルは今まで下落し続けてきたのですから。そうするとドルの使用額はふえます。その責任と重圧はアメリカの財政当局を襲撃しているということを考えなければいけない。これはアメリカの財政当局とも相談しつつやる必要はありますけれども、少しは
日本が国際
経済の中で円建て取引というものをかばう
立場があってもいいのではないだろうか、こう思います。
五番目。今ハワイとニューヨークで
日本の不動産業者が軒並み大きな建物を全部買ったのは皆さん御承知のとおりであります。地元の新聞には、円がニューヨークを支配したというので見開きページに写真が載っておりました。そんな目立つところを一発買っていただくということは、いいのか悪いのかは存じませんが、ナショナリズムを刺激するというような商売のやり方というのは
我が国の国益に合致しないと私は大声で言わなければならぬと思います。それは私が言うのではなくて、与党が言う、
政府が言わなければならぬことであります。商売は自由です。しかし、それはやり過ぎであります、そんなことは。ハワイのワイキキの浜を歩いたら全部のビルディングが
日本の所有であり、ゴルフ場は一つ残して全部
日本の所有だ、これはちょっとやり過ぎです。どう考えてもいい感じがするはずがない。人の痛みを感じるのが
日本文化の特色であったなら、その文化の特色に敬意を表して我々は判断というか仕事が行われていいのではないか、そんなときだけ自由貿易などと言うのは当たらないのではないかと私は思いますが、いかがでしょうか。
また私は、ここのところで、どうしても我が方の持っている許認可権あるいは行政指導、レギュレーション、官僚の持ついろいろなルール、そうしたものに対して先方の目が大きく攻撃の眼を向けようとしていることを心配しております。私が心配という文字を言いますのは、全部行政指導というものを取っ払ってしまったら、それは混乱するからであります。多年にわたって積み上げてまいりました
日本国の伝統的なシステムというのを一発で外していいはずはない。しかし、それがアメリカの要求を抑えるためだけに行政のレギュレーションが発揮されていて、こうしたいというアメリカの希望を抑えつけるときだけ発揮していると思われるようだったら、私はマイナスではないかと思います。したがって、当然このレギュレーション、規則、法律、法令等を、先方の言い分、いいものもあるし悪いものもあるのを含めて、デレギュレーションを
検討するシステムをつくるということもまた先方に意思表示をしておくということが大事なのではなかろうかと私は思います。
その次。両国にとって公平な紛争処理機関があってしかるべきだと思います。欧米の間では、両国関係が非常に微妙な関係でございますと、紛争処理機関を必ず設けて両国関係を調整していくというのはしばしば行われることであります。ドイツとソビエト、ドイツとフランス、フランスとイギリス、こうしたところにおける紛争処理は各種類の紛争処理機関が現存しておりますし、社会的にも機能を発揮した例があります。我々もそういう例に倣うべきではないかと存じます。対日強硬路線を生んだ
大統領選挙のときのある候補者の主題、テーマになるような失敗を招いてはなりませんし、また、今アメリカ
政府が一番心配しているアメリカの株価、むしろ為替より株価を心配しているアメリカの財政当局のこの気分というものを我々は理解しなければならない。株価は操作できるような簡単な代物ではありませんけれども、これについて十分な配慮を払う必要があるのではないか。
私は、レーガン・ボンドを円建てで出せというふうに
日本のある方が言っておられるのを伺いましたけれども、そういうことは非常につけつけとした嫌な言い方でありまして、その前に
日本側がこういう調整するために話し合いをしよう、全面解決しようという姿勢を示すことが、
竹下内閣にとってひどく大事なのではなかろうか。公共事業の開放は不十分だとこの新聞の切り抜きには書いてあります。
竹下さんが御訪米になった直後なのに、もうこういう批判が出てきました。何かいいことを言ったって向こうはまた批判するぞというふうに受け取ることは簡単ですが、従来型のやり方でやりますとこういうことばかりになり、そのたびに
日本に対する不信感が増強するとなれば、我々は先方も立ちこちらも立つ
立場から物事を考える必要があるのではないかと思いますが、いかがでございましょうか。
これは一つずつの問題についての御
答弁は要りません。なぜかと言うと、一つずつ
答弁する前にたくさんの
検討が要るからだと思います。そして、私の今の提案は全部いいなどとは私は言っておりません。ある素人の思いつきと思っていただいて結構です。笑っていただいて結構です。しかし、そういう何かのポイントをお酌み取りいただいたら、日米関係の紛争を処理するための何かの施策を
政府にぜひともお考えいただきたいと思いますが、
総理、いかがでございましょうか。