○中村巖君 私は、公明党・
国民会議を代表して、ただいま
議題となっております
刑事施設法案を初めとするいわゆる拘禁四法について、
総理並びに関係大臣に対し質問をいたすものであります。
拘禁四
法案は、現在の
監獄法にかわるべき
刑事施設法案、その
施行法案、
代用監獄たる
警察の
留置場に関する
留置施設法案及び
海上保安庁の
留置施設法案の四つを指しておりますが、中心は
刑事施設法案であり、他の三つはこれに関連してつくられております。したがって、最も重要なのは
刑事施設法案と言うべきであります。
そこでまず、
監獄法にかわるべき
刑事施設法案を取り上げたいと思います。
現行の
監獄法は、
明治四十一年に
制定を見、自来今日まで、日本国
憲法の
施行によっても改変されずに生き長らえてきております。
施行以来八十余年、その間に、我が国における
人権についての考え方はもとより、世界の刑事拘禁に関する思潮も明らかに変わっているのであります。それゆえ、何人が考えても、
監獄法をなお存続せしめておくことは当を得ないものとなっております。その意味で、
監獄法を
廃止して、刑事拘禁について新しい
法律を
制定することは当然であると言うべきであり、
法律関係者のほとんどが強くこれを望んできたのであります。
しかしながら、問題は、新しい刑事拘禁法をどうつくるか、その中身であります。
刑事施設法案は、
自由刑受刑者の
処遇を中心に、ほかに未決拘禁、
死刑確定者の
処遇等を定めるものであり、いわゆる刑務所入所者の
処遇に関する部分が重要な位置を占めております。
刑事施設法案の立法に当たってスローガンとして言われてきたのは、行刑の近代化、国際化、
法律化ということ、あるいは
施設管理法から
受刑者処遇法へということでありました。刑を受けて刑務所に服役する者も
人権を
保障さるべき人間であります。かつて我が国においては、
受刑者と国家との関係について特別権力関係であるとされ、かかる関係のもとでは、
憲法上の基本的
人権、法治主義が否定されるとともに、司法的救済も排除されると解されていたのであります。しかし、現在では、特別権力関係論は否定され、あわせて
受刑者の
社会復帰が重視されなければならないとされるに至っております。今日の行刑思想においては、
受刑者にも
法律によって
人権を
保障すべきこと、さらに、刑執行の
目的を
社会復帰のための矯正に置くことが明白に要求されていると言うべきであります。
一九五七年の国連経済社会理事会で採択された国連被
拘禁者処遇最低基準規則においても、これを
改正した一九七三年のヨーロッパ理事会によるヨーロッパ被
拘禁者処遇最低基準規則においても、このことは明らかにされているのであります。行刑の近代化とは、
受刑者を管理、
保安、
規律の
対象から
社会復帰処遇の
対象に変えることであり、国際化とは、
処遇の水準を
人権尊重を基本とする国際的
処遇水準に高めることであり、
法律化とは、国家と
受刑者との関係を
権利義務関係に変ずることにほかならないのであります。そして
法案評価の基準は、まさにこの近代化、国際化、
法律化、さらに
処遇法化の達成度にあります。
法務省は立法に先立って
法制審議会に諮問をしましたが、その答申である「
監獄法改正の骨子となる
要綱」の
内容は、
受刑者と未決
拘禁者の
規定を別々にすることをも含めて、不十分ながらこの面で努力の跡が見られるものでありました。ところが、でき上がった
法案は、後に言及する未決拘禁にかかわる部分を含めてこの
要綱から大きく後退するものとなり、
規律秩序的視点が過剰なものとなっているのであります。
そこで質問でありますが、まず第一に、
刑事施設法が真に行刑の近代化、国際化、
法律化の要請にこたえているものになっているか、なかんずく国連被
拘禁者処遇最低基準規則、国際
人権規約等に示された被
拘禁者処遇の国際水準をクリアしているのかどうかお尋ねをいたします。
第二の質問は、行刑の
目的をどう考えるかであり、
法案は
規律秩序維持に重点を置き過ぎているのではないかということであります。
そして第三は、
法案と
法制審議会の「
監獄法改正の骨子となる
要綱」との関係でありますが、
法案が、後に述べる
代用監獄の漸減条項を初め、物品の給貸与、
作業報奨金等多くの点について
要綱に従った立法化をせず、
要綱から大きく後退しているのはなぜか、この点についてお尋ねをしたいのであります。
総理並びに
法務大臣の答弁を求めます。
次に、
刑事施設法案、
留置施設法案両
法案に関して最大の問題になっている二点について、以下お尋ねをいたしてまいります。それは
代用監獄の恒久化の問題と弁護人の接見交通権の
保障の問題であります。
監獄法は「
警察官署ニ附属スル
留置場ハ之ヲ
監獄ニ代用スルコトヲ得」と定めていたことから、いわゆる
留置場は今日まで起訴前取り調べ中の
被疑者の
勾留場所として使われてきたのであります。
刑事訴訟法によれば、逮捕、
勾留者の
留置場所は
監獄であり、
監獄とは法務省の所管で、法務省職員によって監守されている刑務所の一部たる
拘置所が
原則であるはずであります。しかし実情は、取り調べ中は身柄を
監獄の代用である
留置場に置かれている場合がほとんどなのであります。そして、ここでの勾留は、身柄が終始
警察の支配下に置かれているのでありますから、深夜に及ぶ長時間の取り調べ、強制や拷問まがいの
行為、心理的圧迫等による
自白の強要を可能にし、虚偽の
自白をすら生むものとなっております。その結果いわゆる
誤判、
冤罪事件をつくり出したのであって、我々は数々の
再審無罪事件を通じてこのことを十分承知しております。それゆえに、弁護士会等はかねてから逮捕、勾留された
被疑者は
原則的に法務省
施設たる
拘置所に
留置すべきであると主張してきており、今回、法
改正に当たってこの声は極めて強くなっているのであります。これを受けて
法制審議会はその答申の中で、
留置場を「被
勾留者を
収容するため、
刑事施設に代えて用いることができること。」としたものの、被
勾留者の
留置場所は法務省所管の
刑事施設であるべきだとし、ただし現時点での
収容能力を考慮して「関係当局は、将来、できる限り被
勾留者の
収容の必要に応じることができるよう、
刑事施設の増設及び
収容能力の増強に努めて、被
勾留者を刑事
留置場に
収容する例を漸次少なくすること。」としておりました。ところが、
刑事施設法案は答申のこの部分を全く無視し、同時に
警察庁は、従来
警察の
留置場を
規律する
法律が存在しなかったにかかわらず、今回新たに
留置施設法案を提出してきたのであります。かくては、
監獄法改正を機に
留置場留置をやめる方向を明らかにし、不当な
自白追及をなからしめる方途を講ずべきだとする良識論は無視され、取り調べ段階での
代用監獄中心主義が恒久的に存続することになると言わざるを得ません。
そこで
法務大臣、
国家公安委員長にお尋ねをいたしたい。今直ちに
代用監獄を
廃止することは当然できないとしても、それが非恒久的、例外的なものであり、将来に向かって
廃止さるべきものであるとする考え方を認めるのかどうか、
法案の中でこの方向性を明示することができないのか、この点について明確な答弁をいただきたいのであります。(
拍手)
次に、弁護人の接見交通権の問題でありますが、日本国
憲法、
刑事訴訟法は
被疑者と弁護人との接見交通権を
保障しており、弁護人に選任され、またはされようとしている者は、
被疑者が身柄を拘束されれば
原則としていつでも接見ができなければならないはずであります。確かに、深夜等の非常識な時間については管理体制上から接見を不可とする余地はありましょうが、それを超えて、
刑事施設、
留置施設両
法案が
規定するように、「日曜日その他政令で定める日以外の日の
施設の執務時間に限る」とし、そのほかの日時については「
施設の
管理運営上支障がないとき」にのみ接見させるとすることは不当としか言いようがないのであります。特に逮捕直後、勾留以前においては早急の接見の必要性が高いと言うべきでありますが、この
規定のままでは、例えば五月の三連休の前夜に逮捕されれば、
被疑者は
原則として三日半以上も弁護人と会うことができずに取り調べを受けることとなります。これでは弁護人の接見交通権は画餅に帰すると言うべきでありましょう。そこで
法務大臣、
国家公安委員長に対し、弁護人の接見交通権をどう考えているのか、このような
法案を改め、弁護人の接見交通権をより
保障する
措置は考えられないのかをお尋ねするものであります。
最後に、再び
刑事施設法案の
受刑者処遇の問題に戻り、以下二、三点について
法務大臣にお
伺いをいたします。
第一に、
受刑者の
作業報奨金の問題でありますが、これは従来余りに低過ぎた、そのため、法制審の
要綱は、
作業報奨金の額は「
作業の種類及び
内容により同種
作業に対する一般社会における賃金額等を考慮して定める金額を基準と」するとしていたにもかかわらず、
法案は
要綱のこの条項を全く立法化していないのであります。これはなぜか。
受刑者の
作業報奨金についてどう考えているのかをお尋ねをいたします。
第二に、懲罰でありますが、
法案第百三十五条は「
受刑者にあつては、正当な
理由がなく、
作業を行わず、又は
教科指導等を受けないこと。」を懲罰事由とし、
教科指導はもちろん、
生活指導に従わなかった場合にも懲罰できることとしております。しかしながら、
作業をしないことを懲罰の
対象とすることは当然としても、
施設内における
受刑者の全
生活時間について
施設側の指示、命令を強制しようとすることは行き過ぎではないのか、
作業時間以外では可能な限り
受刑者の自由な
生活時間を認めるべきではないか、この点をお尋ねをいたします。
第三に、法制審の
要綱は、
刑事施設の職員に関して、
医療、衛生、人格調査、
作業、
教科指導等
処遇に関する専門的知識と技能を有する職員の確保、
処遇を適正かつ効果的に行うために必要な知識と技能を習得、向上させるための研修、その他の教養訓練についても立法化すべきであるとしていましたが、
法案においてはこれらの
規定は設けられなかったのであります。なぜ
規定を設けなかったのか、これらの施策について今後どのような
措置をとるつもりなのかについてお
伺いをいたしたい。
以上、何点かについてお尋ねをいたしましたが、
総理、関係大臣の真摯な御答弁を期待して、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣竹下登君
登壇〕