○河上民雄君 私は、
日本社会党・
護憲共同を代表して、ただいま
趣旨説明のございました日米
原子力協定について、総理大臣並びに関係大臣に質問いたします。
第一に指摘すべきことは、この日米
原子力協定に対するアメリカ議会における審議に見られる根強い反対であります。
アメリカ議会では、さきに本協定に対する不承認の決議案が出され、同決議案は少差で否決されたものの、九十日後のいわば自然成立の期限はまだ来ていないのであります。もしこの間にアメリカ議会で新しい意思表示がなされた場合は、再交渉という事態もあり得るわけであります。何ゆえにそのような不安定な段階で政府は本協定を本院に急いで提出したのか。また、アメリカ国内における本協定反対の声を、そして、アメリカ議会において本協定の審議が紛糾した経緯を政府はどのように受けとめておられるのか伺いたいのでございます。
第二に、日米
原子力新協定では、包括同意に基づくプルトニウムなど
核物質の移送はすべて空輸に限定されるよう定められておりますが、空輸に伴う危険、また、その危険に対する住民の不安を政府はどのように考えているのか。
米国核管理研究所がレーガン大統領に提出した
報告書によりますと、一個六・八一キログラムのプルトニウムを入れた容器四十個をボーイング747に積載し、少なくとも年間四十回
日本に空輸される予定と言われております。これがもし事実とすれば、年間を通してほぼ毎週一回空輸されることになるのであります。万一、その
輸送機が墜落した場合、それは決して絶無とは言えないのでありますが、もし墜落事故でも起きたら、それによる放射能汚染の影響ははかり知れず、それこそチェルノブイリ原発事故の比ではない大惨事が全世界を襲う危険性が極めて高く、この空輸には大きな危険が伴っていることを指摘しなければなりません。移送中の
核物質の安全はどのようにして確保できるのか、政府の
説明を求めます。
アメリカ議会では、上空を通過すると見られていたアラスカ州の住民と知事並びに選出議員の強い反対から、アラスカ州の上空を飛ぶ案を撤回し、空輸のルートを海上のみに限定する苦心の策を提示することによってのみ、ようやく不承認案を否決に持ち込んだのであります。それでは、我が国の場合、空輸による移送のルートはどうなるのか、その到着点はどこになるのか、何としても我々は知らなくてはなりません。
日本の空港は、諸条件から見て青森県の三沢空港しか考えられないのであります。青森県の下北半島の六ケ所村では、現在、
日本の核燃料サイクル三施設の
計画が進められております。もし、この空輸
計画と六ケ所村施設
建設計画が結合する場合の付近の住民の不安は、まことに深刻であります。そのほか米軍基地も存在する青森県に、本協定に対する強い不安と反対運動が起こっているのは当然と言わなくてはなりません。もちろん、政府は、
条約は締結されただけでまだ何一つ具体的な案は決まっていない、全く白紙であると言うに違いありません。しかし、
日本政府は、この新協定の批准を本院に求めるに当たって、少なくともアメリカ並みに具体的なルートを
日本国民に示す責任があると思います。もし政府が三沢ではないと言うならば、東海村に近い成田空港であるのか、明らかにしていただきたいと思います。
第三に、新協定は、これまでの個別同意方式にかえて包括同意方式を取り入れ、我が国の核燃料サイクルについて長期的、安定的運用に道を開いたというのでありますが、他方、アメリカの安全保障の面から一方的停止権を認めており、果たして双務的協定と言えるのか疑問とするところであります。
そもそも
日本政府は、
現行協定を
改正することなく、
現行協定のままで包括同意方式を導入したかったのに、アメリカ政府に押し切られたのではないでしょうか。その上、またしてもアメリカの協定の傘の下にしっかりと縛りつけられていると言わざるを得ないと思うのですが、
説明を求めます。(
拍手)
第四に、再処理によってつくり出される大量のプルトニウムは、現在イギリス、フランスに預けてあるのでありますが、いずれ
日本はこれを引き取る義務があります。一般には二十五、六トンとも言われておりますが、その量は何年までにどのくらいに達するのか。我が国で再処理が開始されれば、その量はさらにどのくらいになるのか。我が国の電力事情からして、そんなに大量のプルトニウムは断じて不必要であります。ごく微量で巨大な爆発力を持ち、かつ原子爆弾に比較的簡単に転用できるプルトニウムを将来どのように
位置づけるか、明確にしていただきたいのであります。(
拍手)
第五に、本協定では、
核物質の
防護の必要上、秘密保護、従事者の信頼性の確認が強く求められておりますが、そのことが
原子力基本法の三原則、自主、民主、公開の原則を損なうことになりはしないか、我々の深く憂慮するところであります。
また、プルトニウムがいかに危険なものか、国民に知らせる責任が政府にあると思います。周知のとおり、一九四五年の広島型はウラン爆弾であり、長崎型がプルトニウム爆弾であることは御承知のとおりであります。少量のプルトニウムがあのような惨害をもたらすことを人類最初に経験した
日本国民こそ、最も正確な情報を知る権利があると思うのでありますが、いかがでしょうか。
第六に、一九七九年のスリーマイル島事故、特に二年前のチェルノブイリ事故以降、世界的にこれまでの原発
推進政策に対する反省、また、原発そのものに反対する世論が強まっていることは御承知のとおりであります。既にデンマーク、オーストリア、イタリア、西ドイツなどで原発中止、また、一定の時期を示してそれに向けて原発からの撤退の方針が示されておりますが、
日本政府の原発
推進政策はこの世界的潮流に逆行するものではないのか。伊藤科学技術庁長官は、
日本原子力産業
会議の年次大会で、OECD
原子力機関で原発
推進のために
日本政府として正式に提案すると述べておられるのでありますが、何を具体的に提案しようとしているのか伺いたいのであります。ヨーロッパで反原発のうねりが高まっているこのとき、
日本が原発
推進の旗振りをすることは、世界の反発を買うだけに終わるおそれがあります。
この際、以上の観点に立ちまして、今後の
原子力政策について政府の基本的な考えをただしておきたいと思います。
一、将来の電力需給の見通しからしても、原発をこれ以上ふやす段階は既に過ぎているのではないか。二、
日本の原発の安全性について、政府並びに関係者から、ソ連やアメリカと違って
日本は大丈夫だと自信にあふれる
説明がしばしばなされるのでありますが、果たしてそうでしょうか。これは傲慢というべきではないでしょうか。三、万一事故が起きたとき、その補償について政府や企業にその用意はあるのか。また、事故の際、これを鎮静化し被害の
拡大を防止するなど、的確に処理するマニュアルは確立しているのか。チェルノブイリ事故のような大事故が不幸にして発生したとき、国際的にも国内的にもその補償を行う基準はまだ確立していないのであります。四、原発
推進にはこれまで多額の
開発費が投入されておりますが、それに比して核廃棄物の処理、また一九九〇年代には現実課題となることは間違いない
原子炉の廃炉対策など、事後処理については余りにも無策、無方針と言わざるを得ないのであります。政府のお考えを伺いたいのでございます。
勝海舟は、明治時代の足尾銅山鉱毒事件につきまして、足尾鉱毒反対を国会で叫び続けた田中正造代議士を支持して、次のように述べております。「徳川の世でも鉱山はあった。文明開化はすべて大仕掛だ。だが、後始末がそうなっていない」。今、核エネルギー巨大産業の本格的開始を前にして、この勝海舟の鋭い指摘に謙虚に耳を傾けてほしいものであります。
以上のことをお伺いいたしまして、本協定に対する私の質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
内閣総理大臣竹下登君
登壇〕