○山田
委員 その点は大変私もよく
理解できます。それで国民のコンセンサス、それから具体的に言えば
登記原因証書を強制するということに見合って、例えばそうすることによって中間省略
登記というようなものが要するに絶滅されていくということになるのであれば、それはむしろ国民のコンセンサスが得られたと見ていいだろう、あるいは
登記原因証書の提出強制ということもあり得るだろう、極めてわかりやすいわけでございます。
実は、私も中間省略
登記が水面下でかなり増加しているというふうに推察ができる。それから、実際は
売買による
所有権移転
登記であろうはずなのに、真正な
登記名義の回復を
登記原因として申請されてくる。それは、甲から乙へ移転したのが実は丙だったんだ、ここでとどまればいいのですが、丁だ、その先だ、こういく場合も極端な例としてはあるようでございます。要するに、そういうことが絶滅されていく
方向ではっきりとした効果が期待できるということになれば、例えばこの原因証書の提出強制ということも十分
意味を持つ。これは非常にわかりやすい。そのためにまた中間省略
登記あるいは真正な
登記名義回復、それは不登法上真正な
登記名義の回復を
登記原因とする
登記申請は認められているわけですから、要するにこれを悪用したといいますか、利用して、本当は
売買による移転なのにこれを何度も利用する。いずれにしてもこれはいけないわけですよ。ですから、そういうものをなくしていくために、一方において
不動産公示
制度を支えている職能集団、司法書士のサイドにおいても懸命な努力が必要であるということは当然言えるわけでございます。
そこで、これは鶏が先か卵が先かというようなことにもなるわけですが、今の中間省略
登記も、いろいろ考えてみますと、田舎の方の人口が余り多くない地方における
登記申請の実態と、それから大都市部における
登記申請の現場の実態というのはかなり違うようでございます。特に中間省略
登記あるいは真正名義の回復を原因とする
登記等は、主に大都市部等で隣の人の顔もわからないというようなところでの
登記事案において起こりがちである、これもまた事実であろうと私は思います。
そうなってきますと、私も現実に取材をしてそれなりに確認をして発言をさせていただいているわけですが、例えばA
不動産会社が
売買による
所有権移転
登記の申請書を、
登記義務者の必要書類も
権利者の必要書類も全部A事業者が持ってまいりまして司法書士の事務所を訪ねた。そのときに、これがAからBという移転の形になっていますけれ
ども、司法書士としても、これが
登記法が全く予定していない中間省略
登記なのか、あるいはそうじゃない、本当にAからBへの債権契約、そして
物権契約があって、代金の決済が済んで
登記申請手続を委任したということなのかというのは、その段階ではわからないわけです。
そうなると、司法書士はどうするかというと、要するにその
売り主、
買い主をここに呼んできてください、こうやるわけです。いや、
買い主はいつでも連れてこられますが、
売り主は病気しておりまして病院に入っておりますので連れてこられませんとなった場合に、大都市部における司法書士はどうするかというと、本人を確認するために、あるいは意思を確認するために病院に行くわけですね。本人と面接するわけです。こういうことで来ておりますけれ
ども、あなた、本当にこの物件について
所有権移転して構わないのですねという確認をとるわけです。それで要するにこれは真正だなということで確信をして受ける、これが通常の姿でございます。これがほとんどの姿でございます。
ただ、その場合に、
登記権利者と義務者を連れていらっしゃいと言った場合に、承知しましたと連れてくる場合があるのです。連れてきたのが実はA事業者と意を通じた、そういう
登記義務者本人じゃないのを
登記義務者ですというふうに連れてくる場合がある。その場合には確認の
手段が、やればいろいろな
方法があるのでしょうけれ
ども、そこに例えば
登記原因証書というものを出さなければ
所有権移転できないのですよ、こういうことになっていた場合に、ではここに署名、捺印をしてください、そこに自分で署名した、そして判こを押そうと思ったけれ
ども、そこで実印を、通常持っていないわけですから、見破ることができるという、例えば真正担保
機能というものも果たすことができるわけでございます。
そうなってまいりますと、これは中間省略
登記だなとわかる。A事業者に、どうなんですか、AからBという形ですが、実はこの中に甲さんが間に入っているのじゃないですか、これはAから甲、甲からBへと、中間省略しないでちゃんと実体に即した
登記の手続を、あなた、しなければだめですよ、そうしないと我々は八条で、要するに嘱託拒否ですよ、こうできるわけでございます。
ですから、鶏が先か卵が先かと私申し上げましたけれ
ども、これはやはり例えばそういう司法書士の側からいえば、原因証書というものが要するに強制されていないから、詰めて詰めていくと、ここのところがなかなかネックなんですねという言い分がある。主張がある。いや、しかしそう簡単に強制はできませんよ、三十五条、四十条との関係からいって、そう簡単にできませんよ。では、やるためには、中間省略の
登記がほぼ抑止された、減少させることができたという実績あるいは見通しというものが、少なくとも心証が得られなければ法改正なんかとてもできませんよ。これではどうにもぎすぎすして行き詰まってしまうわけでございます。
そこで、もう時間がありませんが、真正名義の回復を原因とする、ちょっといかがわしい、おかしいなというような感じの
登記もふえる傾向にあると言われておりますけれ
ども、それについても全く同じことが言えると私は思っております。
登記官の皆さんは、
我が国の公示
制度というものを本当に迅速に、しかも他の国の
システムに比して全く遜色のない、あるいは、確かに公信力は与えられていないけれ
ども、
世界一の正確な
我が国の
登記システムなんだというところを理想として目指して、誇りを持ち、あるいはまた使命感を感じて、そしてまた情熱を燃やして頑張っておられる、これは事実でございます。いわゆる提出された書面の審査の範囲内といいますか、権限内でもってそういう理想に燃えてやっておられる。とともに、しかし、その
登記申請に至るまでの実体面における調査というものは、いろいろ議論してきて、司法書士はやはり善良な管理者の注意義務をもってできるだけ正確を期すために最大限の努力をするという、この両々が相まって国民の信頼に一層たえ得る公示
システムというのができ上がるわけですから、そこのところはやはり司法書士と民事局がというか、
登記官が本当に力を合わせていかなければならない。ですから、責任だけは非常に重い。しかし、司法書士としても責任の重さというものを十分考えて、そこにまた使命感を燃やして頑張るわけです。
ですから、司法書士が間違うであろうときでも間違えないで済むような例えば
システムというものも、御信頼をいただいてつくってあげることも非常に大事なことなのだと私は思うわけでございます。司法書士も何も意識して中間省略
登記あるいは真正名義、そんなことはあり得ないわけでございまして、司法書士の
登記実務家の目をもってしても、対処をもってしても要するに見破れない、
システム上そういうことであるとすれば、この
システムは変えなければならないでしょう。それは司法書士に特段の何かをしてあげるということではなくて、そういう真正担保のチャンス、
システムというものを、その条件を整備してあげることによって、
登記官の努力と両々相まって
世界一の公示
制度が
我が国に確立をし、そして発展をしていく、こういうことになろうかと思うわけでございます。中間省略
登記がなくなるということがわかれば、あるいは真正名義の回復を原因とする
登記申請、いかがわしいのがなくなる、実際にそうなれば初めて原因証書提出の強制をやりましょう、法改正をやりましょう、まさにそこのシチュエーションからだけではこれはなかなか解決しない、なかなか前に出ない、この原因証書というのはそういう極めてデリケートな問題でもあろうかと私は思うのです。
それで、時間が参りましたので、私はこれをぜひ確認をいただきたいと思っておりますが、民事局局付の検事さんで浦野雄幸さんが
昭和四十二年五月五日に司法書士の研修会で講演をなされた「公信の原則と
登記制度」というのが出ております。大変わかりやすく、また、示唆に富んだお話になっているわけでございますが、大事なところでございますので、一部読ませていただいて、私の
質問を終わらせていただきます。
これは立法論となって恐縮なのでありますが、原因証書を簡易に公証する
方法がとれないだろうかとすら考えるのです。現行法上原因証書は必要添付書面になっておりますけれ
ども、原因証書が初めからない場合や提出できない場合申請書副本でよろしいということになっておるわけです。しかし、申請書副本が出された場合、
登記官がその実体関係が有効に成立していることを形式的に審査しているのだということは全くナンセンスなのでありまして、原因証書とりわけ申請書副本というのは
登記済証をつくる以外には実質的に何の役割りも果たしていない。しかし、
登記済証をつくるためにのみ原因証書を出させるというのは
登記所側から申せば筋のとおらないことなのであります。つまり、
登記済証は
登記所でつくってやったらいいのであって、原因証書を出させることはないと思うのです。何のために原因証書を出させるかと申しますと、やはりこれはその原因証書によって形式的にでも
物権変動が正しく行なわれているかどうかということをチェックし、正しい
登記がなされることを保証するからこそ出させる実益があるはずなのです。ところがいつのまにかそれがそういう
制度でなくなってしまっているわけです。と申しましても、実体的
権利関係を
登記官が審査しろといっても、これはできないことであります。これは裁判所手続を経なければできないことでありまして、
登記所がそんなことをやっておったのでは、ますます
登記がおくれてしまう。それよりもむしろ皆さん方が現実に双方の申請人から依頼を受けて間違いのない原因証書をつくる、あるいはすでに
作成されているそれを簡易公証する、そしてその公証された原因証書でなければ(申請書副本は認めないことにして)
登記ができないというようにしたら、私はわが国において公信力をあえて認めなくとも、
登記がこれを信頼する人を保護するという役割りを十分に果たし得るだろうと思うのであります。また、現にそれだけのことを実質的にはしておられるのでありまして、そういう
制度を設けることは決して思い上がった
意見ではないというぐあいに考えられるのであります。私はそういう
制度こそまさに
登記への信頼を実効あらしめる一つの大きな母体になるだろうと考えるのであります。
引用が長くなりましたけれ
ども、
昭和四十二年の時点で
問題点を非常に明確に指摘をされていると私は
理解をいたしたものですから、あえて読み上げさせていただいたわけでございます。
それで、
最後に林田法務大臣に、今までの議論、やりとりをお聞きになられて、そして今申し上げました法務省民事局付の、しかも
登記第三課付の検事さんが司法書士の皆さんの前でこういう講演をなさっておられた、既に四十二年の段階で法務省にはこういう御
意見が間違いなく存在をしているということを踏まえまして、法務大臣から一言御所見を伺いまして、私の
質問を終わらせていただきます。