○山田
委員 司法書士登記代理人の
法制化の問題と裏腹なんですけれ
ども、
登記代理ということの概念が不明確であります、不登法上に何ら
代理権に関する規定がないわけですから。したがって、実体法たる民法の
代理権のところで処理せざるを得ないわけでございます。
これをどういうふうに思われますか。こういうことがありますよ。
甲が売り主、乙が買い主。甲乙間で
不動産について所有権の移転がなされました。そして、契約に基づいて
司法書士Aのところに
登記手続の
代理を委任してまいりました。それが本日、四月十五日だとします。そして、A
司法書士がそれを当然実体審査をきちっとやった上で受けました。そしてその午後から夕方書類を調製をして、明日朝一番で出そう、こう決意をしていた。ところが十五日の深夜、この
登記義務者の甲が何らかの事由によりまして亡くなってしまいました。こういう
事例があり得ます。しかし
司法書士はそれを知らされていなかったとすれば、当然先ほど
事務所に来た人がその夜死んだなんということは夢想だにできないことですから、予定どおり朝
登記所に所有権移転
登記の
申請書を提出をしました。
そうなった場合に、これは御
案内のとおり民法百十一条の
代理権の消滅事由、
本人の死亡によって
代理権はもう消滅しているわけですね。そこで、そのなされた
登記については後にその
相続人から訴えが起こされまして、
代理権が消滅してなされた所有権移転
登記というのは要するに無効である。私の父親は、被
相続人は不利な
取引条件のもとで乙との間に契約を結んだのだ。しかも
登記申請の
段階では
本人はもう死んでいる、
代理権はなくなっている、したがってこれは無効だという争いを起こした。しかし判決はその
登記申請が実体にかなっていたということで、これは有効であるという判決が出されております。
ところが、これはどういうことかといいますと、要するに
登記代理についての概念が不明確だから、不登法上に
代理権限に関する規定が何ら置かれていないものですから、こういう
取引の混乱あるいはまた乙の、いわゆる
権利者の
権利が害されそうになる、あるいは害されるという事態を引き起こしてくるわけでございます。判決でそう出たからといって、同種の類似の事件が今後起きないとは限りません。起きたその都度、これは訴訟になるでしょう。その都度またこれは裁判
関係の大きな
負担にもなるし、そしてそうじゃなくても、司法試験の合格者数を基準を緩めて、もうちょっと大きくして検事、判事、弁護士の皆さんをふやそうというようなその一つの有力な根拠が、裁判
事務あるいはこういう訴訟の滞留といいますか、なかなか迅速に処理できないというようなところにも置かれている。こういうことを考えてみますと、この
事例はまさに
登記代理人制度の
法制化と裏腹の
関係で、
登記代理権が極めて概念が不明確なところからよって起こる一つの例でございます。
もう一つあります。これは、現実に数年前に九州で起きた事件でございます。
登記事件の場合にはよく住所とかあるいは姓名が婚姻等で変わったということで、名義変更というのが前提である場合が多いです。いわゆる現在の所有者の実態に合わせるという意味で、住所変更とか名称の変更とか。この名義変更
登記、それから引き続いて抵当権等の抹消
登記、その次に、きれいになったところで所有権の移転
登記、それから所有権の移転を受けるために新たに銀行から借り入れを起こすことを
原因として担保権の設定。したがって、名変、抹消、移転、設定、こういう連件事件というふうに言っておりますけれ
ども、これを受ける場合があるのです。これがよくあるのです。
それで、名義変更をする人が甲、したがってA銀行から金を借りていた、抵当権をつけていた。そのA銀行と甲の間で担保権の抹消
登記。それからこの甲と今度は
権利者、買い主の乙、甲と乙との所有権移転。そして乙はB銀行からかあるいはあわせてC公庫からお金を借りて、この所有権移転
登記を受ける物件の代金の支払いに充てた。したがって、設定
登記を銀行や公庫のためにしなければならないという義務が発生する。この一連の連件事件の中で、こういう
事例が現実に起こりました。
それは、この連件事件に
関係する当事者は、甲、乙、A、B、C、この五者がそれぞれ
司法書士にそれぞれの
登記の委任をいたしました。それで、
司法書士はその実体
関係をよく把握をして、
登記所に連件事件として提出をした。その後、A銀行に対しては抹消しなければならない甲が二百万円A銀行に支払って、そうして担保権を抹消してもらいたいと言った。ところが、実際に乙から入ったお金が百五十万で、五十万足りなかった。しかし、すぐお持ちしますからということで、実はA銀行の担当者は委任状を交付してしまった。ところが、すぐ五十万持っていきますと言ったのだけれ
ども、その甲が来なかった。したがって、A銀行では待って、ある一定のタイミングで判断をして、これは我がA銀行の利益が害されるということで、甲を呼んで二人でもって
登記所へ行った。そうして、我々はA
司法書士にはもう委任の終了を告げてきた。したがって我々は当事者だ。A
司法書士から提出された委任状に実印を押してあるけれ
ども、A銀行は実印を持ってきた。その場合には実印は要らないかな、担保権の抹消だから要らないかもしれません。いずれにしても、A
司法書士には委任の終了を告げてきた。したがって、我々はこの抹消
登記については
本人が二人で出頭したのだから取り下げてもらいたいと言った。
登記所の判断では、それは取り下げたのです。
そうなりますと、この
取引というのは物すごく混乱します。特に、所有権移転を受けるべき買い主の乙は、担保権が抹消されたものを所有権移転を受けるというふうに当然理解していたものが、結果的に
登記が済んでみて
登記簿を確認してみたら、あるいは
権利証の裏に担保権設定という印が押捺されていた。こういうことになると、特に乙の
権利が害される。乙に金を出したB銀行、C公庫の
権利も脅かされる。これはどこから来るかといえば、同じように不登法上
登記代理権に関する規定が全く整備されてないものですから、結局民法百十一条の第二項、要するに法定
代理人あるいはまた会社の代表取締役の代表権、いわゆるこういう
代理権とは違って委任による
代理権ですから、この場合でいえば甲とA銀行が
司法書士に対して、委任による
代理権だからもう委任による
代理権はこれで終了しました、このように一方的に通告すれば、通告される方の
司法書士は、いやそれは困る、委任はまだ終了していないことにしてくれとは言えない。これは要するに、そういうことから来る
取引の混乱の典型的な
事例です。それからもう一つは、これは
権利者の
権利が害されるという典型的な
事例でございます。
私の
承知しているのは九州の数年前の事件でございますけれ
ども、全国的にはこういう事件が皆無だとは言い切れません。それはもっとあるかもしれません。
民事局長さん、それから審
議官、これも要するに
登記代理権をいつまでも不明確なままに、ということはすなわち
不動産登記法上にいつまでも
登記代理権の明定をためらっていたり、それを避けようとしていたりすれば、これは年月がたてばたつほど、
時代が進展すればするほど高度、複雑そして多岐にわたる
不動産登記の実態になっていくわけですから、激増するわけですから、手おくれになりかねませんよ。あるいはまた、そういう経済
取引社会の秩序というものを根底から脅かすことになるんじゃないでしょうか。
したがって、こういう観点からも、
不動産登記法をブックレスシステムへ百年ぶりに大変革の時期を迎えて、
移行させるためのいわば第一次の不登法の
改正法案が今出されたのですから、この機会に
登記代理権の明確化と、それからそれと密接に
関係する、あるいは表裏の
関係にある
登記代理人の
法制化ということも、余り等閑視するとは言いませんけれ
ども、要するに我が国の
不動産公示システムを主管をする、所管をする
法務省、そして民事局という立場において、もうちょっと問題意識を厳しく持たれるべきではないのでしょうか。私は、このことを強く申し上げたいと思うわけでございます。したがいまして、
局長から、そして審
議官から先ほど御
答弁をいただきましたけれ
ども、私はこういう観点から我が国の公示
制度というものを一層発展をさせ、充実させ、そして
国民の皆さんから
登記というものは、あるいは
登記制度というものは本当に、それは確かに
公信力は与えてないけれ
ども、ただ単なる第三者対抗要件しか付与されていないけれ
ども、
登記をすれば安心なんだという
国民の強い信頼感というものをこの我が国の公示
制度がかち得ていかなければならないという観点から、私は
林田大臣に、この
登記代理権、
司法書士、そしてまたこの
登記代理概念の明確化というものを
法務省の一つの重要な
検討課題と
位置づけられて前向きに御
検討いただければ大変ありがたい、よいことではないだろうか、こう存じてお伺いするわけでございますが、ぜひ
大臣から前向きな御
答弁をいただければと存じます。