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末木政府委員 第一点の詐欺との関係でございますが、詐欺罪は刑法の二百四十六条でございますが「人ヲ欺罔シテ財物ヲ騙取シタル者ハ十年以下ノ懲役ニ処ス」と、これでございまして、人をだまして、そしてたまされた人がその結果錯誤に陥りまして、その錯誤のゆえに財産的な処分行為をする。相手の悪い人の方は、その結果財物を取得したり、あるいは財産上の不法の利益を得ることによって成立する犯罪でございます。
つまり、相手方が財物を取得したり利益を得るということに構成要件がなっている。これに対しまして、今回のこの五条の二の「禁止行為」でございますけれ
ども、今のようにだました人が積極的にといいますか、結果的に財物を取得したりあるいは財産上不法の利得を得るかどうかにかかわらず、このような行為があれば、不実告知があるとかということに基づきまして
契約が締結されあるいは代金が支払われたという行為があれば、その結果、今たまたま代金が支払われたと申し上げましたけれ
ども、支払われなくても、
契約が締結されただけでも、その行為自体に着眼しまして違反が成立すると思います。
微妙なところでございますけれ
ども、もうちょっと常識的に申し上げますと、刑法上の詐欺の成立を立証するのはなかなか容易ではございません。
現実には警察庁が非常に取り締まりをしてくださっておりますけれ
ども、いろいろ具体的な事例に即しますと、なかなかその立証のために、
消費者もそれだけの立証の能力が必ずしもない。もっとも、その立証のための材料を収集しておくくらいの
消費者であれば、そもそもそういうのに引っかからないわけでございますから、そこはイタチごっこになってしまって、
消費者が立証のための協力が十分できないので挙げることができない、検挙できないとまた同じようなことを繰り返すということになるわけでございますが、こちらの方はそれに比べれば、程度の差ではございますけれ
ども、その構成要件の緩やかさといいますか厳しさといいますか、あるいは立証の難しさといいますか、その点が少し緩くなっていると思います。なおかつ、今のような差がございますし、直罰のほかに
行政的な処分の対象にもなりますので、そういう意味ではずっと発動しやすい性質のものだと思います。
それから第二点の、今のは不実のことを告げた場合の例でございますけれ
ども、今度は事実を告げない場合についてはどうなのかということでございます。これは、研究会でこの禁止行為の議論をしていただきましたときには、不実のことを告げる行為と事実を告げない不作為と、いずれも問題ではないかという議論がございました。重要なことであればうそをついてはいけないし、重要なことであれば知らせなければいけないんじゃないかということでございます。しかしその後、いろいろ
法律的な観点から詰めて検討をしてみますと、重要な事項について不実のことを告げる、積極的にうそをつく方につきましては、これはいろいろあり得る。
先ほど例に挙げましたように、法的な設置義務がないのに設置義務があるように言い抜けるとか、大いにあり得るわけでございます。
しかし、重要な事項かもしれないけれ
どもそれを告げない場合に問題が起きる、そういうものはあるだろうかということになりますと、実は重要なものというのは、これは
訪問販売という特性にかんがみてもちろん議論をした場合のことでございますけれ
ども、必ずしも、店舗で売買をする場合と比較をして
訪問販売の場合には、これは重要だというものはそうはないんじゃないだろうか。まあ共通の問題としまして、これは店舗の場合でももちろんありますけれ
ども、書面交付の義務を課せられております。その書面の交付の記載事項としての、例えば価格とか支払いの時期、
方法とか、それから権利の移転時期とかサービスの提供の時期とか、こういう本当に基本的なことについては実は書面の方に書かせることになっておりますから、それ以外のものについては黙っていることによって可罰性がある、それだけで可罰性がある重要な事項はないのではないだろうか、こういうことで、結局最終的に規定をいたしましたのは、積極的にうそをつくというものを
法律に規定した、そういう経緯でございます。