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兵藤参考人 おはようございます。本日は、
意見表明の機会を与えていただきましてまことにありがとうございます。
私は、
日本弁護士連合会の
消費者問題対策
委員会の
委員長を仰せつかっておる者でございます。これまでの日弁連及び全国各地の弁護士のいわゆる訪問
取引被害救済の取り組みを踏まえまして、この大変貴重な場所をおかりしまして
意見を述べさせていただきたいというふうに考えるわけでございます。なお、時間の関係がございますので、お手元の私の
意見要旨を適宜はしょりまして述べさせていただくことをお許しいただきたいというふうに思います。
まず最初に、いわゆる訪問
取引の
被害の実態について、二つほど例を挙げて御説明を申し上げておきたいというふうに思うわけでございます。
まずその第一は、いわゆる輸入ステンレスなべパーティー商法でございます。本日の赤い資料でございますが、そこにもちょっと出ておるかと思いますが、本年一月八日に名古屋におきまして、いわゆるなべパーティー商法の摘発が行われたわけでございます。テレホンレディーが電話で、成人病予防のための料理講習会を開かせてくださいなどと持ちかけまして、
家庭へ上がり込んだ
販売員が、アルミなべはがんになる、あるいはほうろうなべも有害というようなセールストークと、いわゆる重曹でございますが、それを使ったもっともらしい実験で
消費者の不安をあおりまして、六点ないしは七点セットで約四十万円という非常な高値で輸入ステンレスなべを押し売りしていたものでございます。輸入ステンレスなべパーティー商法は全国各地で
被害が発生しておりまして、名古屋では四百人の
被害者が
被害者の会をつくりまして、集団訴訟を進めているところでございます。
販売目的を隠して
家庭訪問をいたしまして、
消費者の不安をあおり立てる、いわゆるがんになるとかあるいは体に毒だといったようなことを申しまして、欺瞞的
勧誘あるいは悪質な
訪問販売をしておるわけでございます。こういった悪質な
行為に対する
規制の
強化の必要性はつとに指摘されておるところでございまして、その
規制の
強化が痛感されるところでございます。
次に、もう
一つ例といたしまして霊感商法を取り上げてみたいと思うのでございます。霊感商法と呼ばれますのは、いわゆる顧客を心理的不安に陥れまして、印鑑、念珠、つぼ、多宝塔などの
商品を市価の数十倍もの高価な代価で売りつける悪質商法であります。これまで日弁連も、各地で
被害救済の取り組みを強めてまいりました。社会的批判の高まりの結果、最近では
被害申告がやや減少してきておりますが、
業者はまず宗教的人間関係を形成した上で
販売活動を実行いたして、次々と新しい
販売会社を設立するなどして手口を変容させてきておるのでございます。霊感商法の特徴は、このような悪質な
勧誘行為だけではなくて、末端の
販売員が委託
販売員と呼ばれるような、いわゆるあたかも独立の営
業者であるというような仕組みになっていることでございます。
アルミなべ商法にしろ、いわゆる霊感商法にいたしましても、いわゆる心理的不安、がんになるとかあるいはたたりがあるといったようなところから
消費者に対して非常な
被害を与えるところが共通しておるわけでございます。特に霊感商法問題は、
訪問販売におきまして
開業規制や
行為規制の導入、あるいは氏名の公表、業務停止などの
行政規制がぜひ必要であるというふうに考えざるを得ない商法でございます。
訪問
取引被害というのがいかに大きいかということについて、御説明をしておきたいと思います。国民生活センターへの訪問
取引の苦情
相談が、
昭和六十一年度では十一万件に上っております。また、警察庁の六十二年中における生活経済事犯についての
報告書によりますと、
昭和六十二年一月から十月、これは一年間に満たないわけでございますが、その一月から十月までに、訪問
勧誘が大半を占めるいわゆる利殖商法の摘発は五十三件でございました。
被害者数一万七千三百人、
被害金額は実に四百五十一億ということでございます。そして、いわゆる利殖
勧誘以外の訪問
取引の摘発は八十六件でございまして、
被害者が十一万五千二百人、
被害金額が実に百三十五億ということに上っているわけでございます。
これだけ見ましても、極めて多数の
被害が生じていることが推測されるのでございますけれ
ども、さらに驚くべきことは、いわゆる公的資料によりますと、
被害の顕在化率というのは一%にすぎないと言われておるわけでございまして、
被害実数は少なくとも右に申し上げました数字の数十倍に達すると考えられるわけでございます。まことに巨大な
被害であると言わざるを得ないと思います。
訪問
取引被害の深刻さということにつきまして申し上げます。訪問
取引の
被害者は、高齢者、若年者、
家庭の主婦という、いわゆる
取引の知識、経験に疎い者、社会的弱者と言われる層の
消費者に集中して発生しております。特に、現在のごとく六十五歳以上の高齢者が総人口の一割を超す高齢化社会の中で、高齢者の深刻な
消費者被害の多発は、重大な社会問題となっているのであります。
一体、国民は訪問
取引をどのように見ておるのでございましょうか。訪問
取引業者の悪質な
行為によって深刻で広範な
消費者被害が生じている現在、国民の多数は訪問
取引に対する拒否反応を持っているのではないかと思われます。総理府の
昭和六十年二月の
消費者問題に関する世論調査によりますと、回答者の実に八四・二%の人が、
訪問販売は利用したくない、必要ないと考えております。また、
訪問販売を利用した人の過半数に当たる五八・九%もの人が、
被害を受けたと考えているのでございます。これらの事情のもとで、訪問
取引における
消費者被害を防止するために今回の
改正が検討されてきたことは、改めて申すまでもないところでございます。
そこで、これから、現在審議中の
訪問販売法の一部
改正法案、いわゆる
政府案につきまして、特にその訪問
取引部分に限りまして私の
意見を申し述べたいと思うわけでございます。
政府案の特徴は、大きく二つに要約できるのではないかと思います。まず第一は、
現行法が
規制対象を
商品に限定しているのに対しまして、これを
役務、
施設利用権などに拡大したことでございます。いわゆる
規制対象の拡大でございます。第二は、悪質な
勧誘行為に関しまして禁止
行為を
規定し、遵守事項を設けるとともに、その違反に
罰則と
行政命令を発動することであります。いわゆる
行為規制を導入したことでございます。
第一につきましては、いわゆる適用
対象を拡大しはしましたものの、引き続き政令
指定制に固執しているところに問題があります。いわゆる、これまで言われておりました
商品指定制を依然として維持しているということでございます。
政府案が
指定役務、
指定権利としていかなる
役務、
施設利用権などを構想しているのかは、本
委員会の審議でこれから明らかになる事柄でありましょうが、私は、改めてこの政令
指定制自体が全く不合理な
制度であり、速やかに撤廃されるべきであるであることを指摘しておきたいのでございます。
第二の禁止
行為につきましては、
政府案は
五条の二におきまして、いわゆる
契約の重要事項について
消費者に不実のことを告げる、あるいは
消費者を威迫し困惑させるということを禁止事項としております。禁止事項はこの二つでございます。さらに
五条の三におきまして、
業者の遵守事項といったものを定めております。禁止事項あるいは遵守事項を定めまして、刑罰と
行政命令によって訪問
取引における悪質
行為の防止を図ろうとしておるわけでございます。
政府が、
現行法を大きく改善した箇所でございまして、悪質
行為防止の最も適切にして有効な
方法と強調するところでありますが、しかし、刑罰
規制と
行政規制による
政府案では、悪質
行為を防止することは不可能であると考えるのでございます。
まず、刑罰
規制でございます。現在求められておりますのは、頻発しております詐欺まがい、恐喝まがいに対する適切かつ有効な
規制であります。この場合、本来謙抑的であります刑罰
規制には余り多くを期待できません。刑事告訴をいたしましても、警察の方でなかなか捜査を進行していただけない例が多うございます。告訴いたしましても、告訴状の預かりといった形でその進展が期待できない場合が多うございます。
政府案も、悪質
行為防止策として、重点は
行政規制に置いていると言ってよいのではないかと思います。
しかし、
政府案の
行政規制には二つの欠陥があると思うのでございます。その第一は、遵守事項が具体的に明示されていないことでございます。
政府案五条の三は、遵守事項のほとんどを
通産省令で定めるということを言っておりまして、
産業構造審議会の
答申にも、長時間にわたる執拗な
勧誘、強引な
勧誘、虚偽のセールストークを用いる
勧誘、
クーリングオフの行使を妨げる不当な
行為などを挙げて、これらを抑止しなくてはならないという内容になっておるのに、その期待に十分こたえているとは言えないのでございます。
第二は、
開業規制を採用していないことでございます。
開業規制を
前提としない
行政命令がいかに
実効性がないかということは、同様の
行政規制を採用しております海外先物
取引規制法の施行
状況が如実に示しているところでございます。逆に
開業規制を採用し、これと連動させることによって悪質な
行為を減少させる効果を発揮しておりますのが、いわゆる貸金業
規制法でございます。また宅地建物
取引業法、旅行業法あるいは投資顧問業法な
ども、いずれも
開業規制を採用しておるわけでございます。
さらに関連して申し上げますと、刑罰
規制あるいは
行政規制のほかに、さらに
契約の解除権というものを採用してこの禁止
行為の
実効性を担保していかなくてはならないという要請があるにもかかわらず、この点も
政府案では欠けておるわけでございます。いわゆる
クーリングオフ期間は、
先ほど来お話に出ておりますように七日間でございますが、その
期間を経過してしまった後で初めて
業者の悪質
行為が明らかとなる事例も非常に多いのでございまして、現在は民法の詐欺、強迫、公序良俗違反、こういったようなことを根拠に
被害者救済を我々としては図っておるわけでございますが、十分な効果を上げているとは到底言えないわけでございます。
契約解除権を新しく創設することによりまして
消費者に救済の道が開かれるのでありまして、
消費者が悪質な
行為に対して
契約解除権を積極的に行使すれば、
業者は不当、不正な利得は掌中におさめておけなくなるのであります。
契約解除権は
消費者みずからが行使できる
権利でありますから、周知
徹底すれば大いに
活用されることは間違いないところでありますし、悪質
業者は悪質な
行為をすれば必ず反撃を受けることとなりまして、悪質
行為の抑止に大きな効果が期待されるのでございます。
開業規制と
契約解除権を採用しないで到底悪質
行為規制の
実効性は期待し得ないのであります。
政府案は
訪問販売の「
取引の公正及び購入者等の利益の保護をさらに図るため、」との
提案理由を掲げながら、その最大の眼目である
行為規制の
実効性を期し得ないという致命的欠陥を有するものであると考えております。
次に、悪質
行為に対する
規制を真に実効あらしめるためには、次の三点が必要不可欠であると考えます。
まず第一に禁止事項、
先ほど申し上げましたいわゆる
消費者を威迫して困惑させる、あるいはうそをつくといったようなことをしてはいけないという禁止事項とか、あるいは守らなくてはいけないその他のことを具体的にもっと書く必要がある。
日本弁護士連合会ではそれらを約二十二にまとめておるわけでございますが、この二十二類型は、最近全国各地の地方自治体で進んでおる内容と同じでございます。いわゆる
消費者保護条例
改正作業の中で制定された不当な
取引方法を整理したものでございます。これらはいずれも、
取引業者の注意義務として既に定着するに至っておりまして、これらを
訪問販売法中に明示することは十分可能なはずでございます。
産業構造審議会答申のいろいろな、長時間にわたる、あるいは執物な
勧誘、早朝深夜にわたる
勧誘といったものも、具体的にある程度枠を広げて書く必要があるのではないかというふうに考えるわけでございます。
第二に、悪質
行為に対する民事効果を導入することでございます。とりわけ
契約解除権を採用することが必要であると思います。
契約解除権といいますのは、一
たん契約いたしましたけれ
ども、
クーリングオフ期間経過後に、いわゆる悪質
行為によって
契約が締結されたという場合に、その悪質
行為を原因として
契約を離脱するようにできないかということでございます。いわゆる
契約解除の
権利でございます。これは新しい提唱でございますから、法体系上の整合性を有するかという疑問を呈する向きもございまして、その内容につきましては検討する必要があるのでございますが、私はこれは全く採用することに問題はないというふうに考えるのでございます。まず実質面からいいますと、その
前提となりますいわゆる禁止事項が、
契約締結上の信義則に反する事項でございましたり、
契約締結上の過失と言われる事項でありますから、債務不履行の一種と理解してよいのでございます。
さらに、そういう例があるかということでございますが、民法の五百四十条は、
契約解除に関する基本条文として、
契約または
法律の
規定により解除権が認められるというふうに
規定しておるわけでございます。
訪問販売法の
クーリングオフも、この
法律の
規定によって初めて認められた
権利でございます。したがいまして、何ら法体系上の整合性に欠けるところはこの解除権にはないというふうに考えるのでございます。ついででございますが、
割賦販売法ではその二十七条におきまして、いわゆる許可を受けた割賦
販売業者がその許可を取り消された場合には、
消費者は
契約を解除することができるというような
規定がございまして、いわゆる純然たる
行政法規の違反にも
契約解除権が認められているという例が現にあるのでございます。したがいまして、この
契約解除権をぜひ採用すべきであるというふうに考えるわけでございます。
第三に、
開業規制をやはり採用すべきであろうかと思います。
開業規制には
業者を具体的に把握できる、いわゆる
行政当局が
業者を具体的に把握できるというメリットと、悪質
業者が参入しないように防ぐことができるという二つのメリットがあるのではないかというふうに考えておるわけでございます。
さらに、
開業規制は法技術的に十分可能でございまして、法技術上のポイントはいわゆる例外
規定の設け方、すべての
業者、すべての
セールスマン、そういう人にことごとく網をかけるのではなく、ある程度の例外
規定を設けていくやり方をとっていく。それから、末端
業者を支配する卸元
業者の捕捉を十分にしていく。あるいは委託
販売員の取り扱いを、通常
消費者の利益を害さないと思われるものは除外していく。末端の訪問
取引業者を支配統轄する
業者は、支配関係
業者として登録させる。委託
販売員は、その実質に着目いたしまして
勧誘員として取り扱うというようなことをいろいろ検討していけば、十分
実効性のある
制度であるというふうに考えるわけでございます。
訪問販売は、これまでいろいろお話の出ておりますように攻撃的、密室的でございまして、
消費者被害を誘発しやすい
取引形態でございます。したがいまして、責任をとることのできない
業者にはなるべく遠慮してもらいたいという
立場に立って、今回の法
改正ではぜひ
開業規制を採用していただきたいのでございます。
終わりに当たりまして、本
委員会審議を経まして、
訪問販売法が私のただいま申し上げました内容を含んで速やかに
改正された上、
業者の自主的努力が一層
強化されまして、
消費者啓発などの推進が図られますならば、悪質な
業者が排除されまして公正な訪問
取引の基礎的条件が整います。
消費者の
権利が確保された訪問
取引が実現するものと確信しておるのでございます。
以上で、私の
意見表明を終わらせていただきます。ありがとうございました。