○
庭田参考人 御
紹介をいただきました
庭田と申します。
時間が限られておりますので、早速自分の
意見を述べたいと思います。
今回の
法改正を考えますときに、先般の
昭和五十九年度の
改正と言われておりますあの
健康保険法の
改正の基本原則というものをもう一度見直してみるべきではないかと思います。
一つには
医療費の適正化ということでありまして、これは予防の問題も込めて考える。それから
地域医療というような
地域という問題の中で
医療の費用節減を図る、こういうことであったろうと思います。
二番目は、
給付内容の見直しということでございまして、その根底には、
保険料のこれ以上の
引き上げというのはなかなか困難である、そういう見通しのもとで
被用者保険、被
保険者本人の十割
給付を九割に一割削った、こういうことになろうかと思います。
三番目が
負担の公平ということでございまして、
一つにはライフサイクルに応じた
医療体制というようなものを考えながら、同時に
高齢者を多量に抱えております
国保の財政を救わなければならぬ。つまり
負担と
給付の公平に向けて
努力をいたそう、こういうわけでございまして、
国保を救済しなければならぬ、このようなことが当時言われたのではないかと思います。この健保
法改正の原則というものを踏まえまして、今回の
国保改革の問題が提案されたのではないか、私はそのように
理解をいたしております。
事の順序といたしまして、今回の
国保改正のごく
概要といいますか、
問題点を、私なりにはこの
三つであるというふうに把握した、その
三つをひとつお聞きいただきたいと思います。
一つは、高
医療費市町村における経営の安定化ということでございまして、
医療費の高い
地域というのがございますけれどもこれを何とかしなければならぬ。今までは国の
負担と
市町村の
負担ということで対応してまいりましたけれども、今度は
都道府県も参画をいたしまして、国と地方、こういうものが提携をいたしまして、この高
医療費市町村における
運営の安定化の道を模索しておる、このような点が重大な一部ではないかと思います。
二番目といたしましては、
保険基盤安定制度というものでございまして、この
法案の出ます前に、実は福祉
医療制度といったような名前で素案のようなものが出ておりましたが、今回はそれが引っ込みまして、
保険基盤安定制度ということになったわけであります。結局、これは低
所得者の
保険料負担軽減措置というようなことでございまして、ここで低
所得者の問題というのが全面的に取り上げられたのではないか、このように思うわけであります。ここでも、実は事業規模一千億円というようなところで、国、
都道府県、それから
市町村というようなところ、後者二つが四分の一ずつというような分担をして何とか考えようではないか、こうなっていると見たわけでございます。
三番目は、高額
医療費共同事業の強化ということでございまして、よく世間では再保険的事業などと言われておりまして、組合健保、政管健保、そういったようなところでも、この言葉が出ておりましたが、
国保でもこれを現在の倍ぐらいに強化するといったようなことになるのではないか、このようにとらえられております。そして国が十億、
都道府県が百九十億の助成をいたしまして、高額
医療費の共同事業を強化する中で、ひとつ全体としての財政の安定を図りたい。
たくさんございますけれども、恐らくこの
三つが今回の
国保改革の最も重要な点ではないかと私は見たわけであります。
このような認識に立ちまして、今回の
国保改革の
内容をとらえてみるとどういうことになろうかということでございますが、小規模
保険者では、保険の原則、
給付と反対
給付ですが、これをバランスをとりながら永続を図るということでございますが、保険財政というのはどうも一定以下の小規模の
保険者のもとでは成り立たないのではないか、この認識がどうしても必要かと思います。各
保険者ごとに財政をやりくるということでは、もう
国保の
改革はできない。そしてここで、保険機関相互間におきまして資金を融通し合って全体として財政の安定を図る、こういうふうに一歩前進したのではないか、このように考えるわけであります。そのような見方をいたしてみますと、例えば高額
医療費共同事業の強化というのは、まさにその
一つの代表になろうか、こう考えるわけであります。
それから、
市町村という規模では保険はもう成り立たない。小規模ですから、なかなか成り立たないと言っては語弊がございますが、成り立たせるのに大変な困難が伴うであろう、このことはどうも事実のようであります。そこで
都道府県というやや大きな基盤というものを考えまして、
地域規模というような
立場から財政
対策を今回は考えているのではないか、こう把握したわけであります。これは高
医療費市町村における
運営の安定化というところで、
市町村六分の一、
都道府県六分の一を出す、こういったようなわけでありまして、
都道府県というものの大きな
役割分担を願っているのではないか。そのように思いまして
法案を見ますと、
都道府県は百九十億円の助成をする、こういうことになっておりますので、このような小規模の保険では成り立たないものをやや大きな規模に拡大して財政の安定化を求めているのではないか、こう把握したわけであります。
そして、このように
財政面でやや規模を大きくして考える。同時に、
給付面では
地域医療の見直しあるいは
地域医療の強化というようなことで、一方におきましては
地域医療体制、一方におきましては
財政面の
都道府県も取り込んだ大きな規模への拡大的対応、こういうようなことが今回の
法案の中にはありまして、大変な
考え方の進歩ではないか、そのように拝見いたしております。
各
健康保険制度の財政事情というものをこのたび考えてみますと、その
地域の
老人の含まれている率、これが財政事情を動かすことは事実でありまして、これが老健法ということになりまして、
加入者按分率の見直しというようなことになろうかと思います。もう
一つは、その
地域の特殊事情ということでございまして、これが
医療費が異常に高くかかるところもあるし低いところもある。俗世間的には西高東低と言われますけれども、これに対応するのが本来ですと
医療費按分率ということでありましたが、これは
加入者按分率ということで、老健法の中ではこちらの見方はやや後退をした、こう考えます。
もう
一つ、
保険者の財政を動かすのが低
所得者層がどれだけいるかいないか、こういったようなわけでありまして、これに対します
対策というのが、先ほど述べた今回の
法案の中に
一つあるのではないか、このように思ったわけであります。
経営の安定化
努力というものを引き出す、これにも今回の
法案は
市町村それから
都道府県が財政的に参画するということで、
努力をすればこの
負担が減るというようなこともありまして、とにかく
地域医療の適正化を引き出すといったような効用もここには見ることができるのではないか、こう思うわけであります。
共同事業の強化とか基盤安定
制度といったようなものも、これまた
医療費適正化にはつながっていくだろう、こう考えられます。
医療費の
地域差につきましては、これはどうも
国保の
努力だけでは不可能ではないか、何か
一つの慣行といいますか傾向というようなものがありまして、西高東低が悪いからといいまして、あすからそれが直るというものではありませんで、長年の
一つの傾向のようなものでございますから、そう簡単にはなかなか直らないだろう、こういうような感じもいたします。そうしますと、この問題も直す、あるいはもろもろのしがらみを持っております保険財政を根本的に
改革するといいますと、これが
医療保険の一元化計画というようなことになるのではなかろうか、こう考えます。
このことの
一つといたしまして、例えば五人未満の事業所というようなものを組合健保の方に取り込む、こういったようなことになってまいりますと、だんだんと国民を被用者という
立場でとらえていきまして、そして
被用者保険というものを拡大していく。これは職域保険になります。それから
国保の健全化を図る、これは
地域保険の健全化。両方を強化いたしていきまして、そして根本のところで一元化をして、あとのところでは、例えば職域の事情、それから付加
給付といったような
地域の事情、そういったようなもので上に足していって一元化を達成する。このようなラインというのが今回の
改革案の中には見えるのではないか、そしてこのラインに対しましては、世間では大いに賛成をするのではないか、こう考えられます。
ただ、言うような抜本
改正といったような問題が、問題の
一つ一つを
解決して、それを全部足すと抜本
改正になるというものなのか、あるいは抜本
改正というのはそういうのじゃなくて、もっと大英断を必要とするようなことを言うのか、この辺の認識というのが大変微妙なところではないかと思います。どちらをとるかといいますと、
法案の
内容からいきますと、恐らく
一つ一つを丹念に
改革していって、全部足したら
改正の抜本的な結果が出たというような方ではないかと思いますが、いかんせん六十五年あるいは七十年、この辺のところで
医療保険の一元化を図るというときに、
一つ一つをつぶしていく方法が抜本
改革というものにつながるのかどうかという点はひとつ
検討を要するのではなかろうか、こう考えられます。
そして、ここでどうしても問題になりますのは、今回は地方の分担を大いに期待する、こういうふうにはありますけれども、その費用は完全
補てんなんていう言葉を使われておりまして、結局地方が全部負うというようなものでもなさそうである。どうも国を通じて
補てんされるような、そのようにとれるわけであります。そうなりますと、それは結局は国民の税金ということになりまして、税金で一番割を食っているのはサラリーマンということになりまして、そしてサラリーマンの方の持ち出し分がふえて、サラリーマンがまた一肌脱ぎながら
国保の
改革に向かう、このようなことになるのではなかろうか。それも結構であります。
と申しますのは、確かに
費用負担の点ではそう言えます。
地域医療ということになりますと、サラリーマンも
地域住民ということで、そういう面では結構受益をするわけでありますから、
費用負担に異議を唱えるわけではありませんが、同時にこの辺の
被用者保険側の
負担強化という点を十分に認識し、かつ評価されまして、
国保側においてもひとつ自助
努力といいますか自浄
努力といいますか、例えば
保険料の悪質な滞納といったものを整理していくとか、正確に被
保険者の数を把握してきちんと
運営をしてもらいたいとか、
医療費適正化には一段と
努力をしてもらいたいとか、そういうわけで、
国保側の
努力というものがあっての上のサラリーマン側の、つまり
被用者保険側の協力になるのではなかろうか。といいますのは、老健法その他の
負担強化で組合健保、政管健保もだんだんと経営が悪化してきておる。さらにそれに対して協力を求めるのであるならば、どうしても
国保側の思い切った経営
努力の実が示されなければ、これはなかなかコンセンサスは得られないのではなかろうか、こういうふうに考えるわけであります。
とは申しながら、弱者の切り捨てとか落ちこぼれの無視とか、そういう形で
改革がなされては大変でございます。まして
国保の側には、所得の低いお方というようなものも多いというわけでありますので、どうしてもこういう点は慎重に願いたいということは、国民共通の願いになるのではなかろうか、こう考えるわけであります。
地域全体の中での弱者の抱え上げといったようなことになるのかと思います。その限りにおきましては、国の応分の協力、助成というものは、今後も欠かせないであろう、こう考えられます。
同時に、
医療の量から質への転換ということでありまして、ただ薬をたくさん飲むとか検査をたくさんされるとかという量の
医療の進歩でなくて、質の
医療の進歩というようなことも大切ではなかろうか。そしてこれがなされるためにはどうしてもマンパワーの拡充強化ということが必要なんでありますが、どうも今回の案の中にはそういう点が必ずしも明確でない、こういうふうに言えるのではないかと思います。
そのほか、
厚生省その他政府で出しましたいろいろな案の中には、例えば
病院とか診療所の諸機関の適正配分というようなこともちゃんと出てはおるのですけれども、財政の問題を考えるときには、やはりこういった幅の広い
医療政策の中で今回の
法案の位置づけというようなものが明確にされることが特に大切であろう、このように考えるわけであります。
そして、最終的なねらいである一元化というものの
内容、これはなかなか正確につかまえにくいのですけれども、例えば
給付と
負担の結局は公平ではないか。そうなりますと、標準
保険料とか標準
給付とかいろいろ標準という言葉が出ますが、どうもこの標準というものの概念が私たちにははっきりいたしません。この辺のところもひとつ何らかの方法で御明示をいただきたい、こう思うわけであります。
そのほか、いろいろの計画というのは、これことごとく一元化に向けての一歩一歩であろう、そういうことでありまして、今回の
改正案というのも、結局は一元化に向けてのワンステップである、このように私たちは位置づけて把握してよろしいのではなかろうか、こう思うわけであります。
ところで、そろそろ時間でございますのでまとめたいと思いますけれども、やはりどのような案でありましても、いろいろ
問題点とか
意見というものは出るわけでありまして、それが一朝一夕に
解決がつくとも思いませんけれども、なお耳をかしていただきたいと
お願いするわけであります。
一つは、今回のは、一元化に向けての大筋においては随分評価も高いのではないか、そして賛成
意見が大方ではないのだろうか、こう考えますけれども、いかんせん細部におきましては不明な点、それから少しずつ
立場の相違に基づきまして反対
意見もあろうか、こういうように考えられるわけであります。結局、地方の分担、こう申しましても、その割に地方の分担ではなくて、とにかく見たところではどうもそうでないというような感じがいたします。やはり
地域医療時代には、
財政面でも地方の大いなる活躍ということが期待されますので、本当の
意味で地方の分担になるような、そういう点が
一つ望まれるのではなかろうか、こう思います。
それから、今回の案の
一つ前に出ました福祉
医療制度というのでありますが、これは低
所得者というものの
医療費を別勘定にして処理しようというわけであります。これは一種の差別になるというようなことで反対
意見もありましたけれども、これですと三千億ぐらいのところが何とか別途処理がきくわけでありますが、今回は
保険料だけの
負担で低
所得者の
医療を賄うということでありますと千億ぐらいというわけで、何かどうも三千から千に減ってしまったような、前の案の方がこの点はよかったのではないかというような見方もできるわけであります。
それからもう
一つは、
国保に応能性、応益性という二つの方法で費用分担がありまして、現在では応能性が盛んであります。もし応能性をとるなら、これは所得把握というものがしっかりとなされなければならない。仮に所得把握が、俗世間で言うクロヨンとかトーゴーサンとかというようなことが早急に
解決できないのですと、今度は応益性ということを考えざるを得ないのではないか。そしてこういうことが考えられるところに、
国保には
国保なりの犠牲をがえんじてほしいといったような願いも出てくるんではなかろうか、このように考えられてまいります。
とにかく大きな問題でございまして、まだたくさん
幾つも
問題点はございます。例えば今回は経営主体論というのが出ておりまして、
市町村が経営主体がいいのか、あるいは
都道府県、県の
役割、こういうのが経営主体にだんだんなっていくのか。その場合には実務はそれじゃ今までどおり
市町村がやるのか。そうなりますと、
市町村は実務の出先機関のような
役割に落ちてしまいますが、この辺のところはどう考えたらよろしいのであろうか、こういうことにもなります。
また、調整交付金というようなものの出し方を見ますと、どうも
医療費の高いところに
国庫負担のようなものがたくさん出そうでありまして、もしそのようなことが世間に知れ渡ったり印象として出ますと、
努力をして下げるよりは、じっとしている方が事によると
国庫負担がもらえて楽かもしれない、そのような風潮につながったら大変ではなかろうか。つまり
国保の経営
努力のようなものをもっと正確に反映して、
努力をすればするほどやはりいいことがあるんだ、そういったような
仕組みのところをひとつ手をつけていただいたら、さらに
皆さんが賛成しやすくなるのではなかろうか、こういったような問題も出てまいります。
いずれにしろ、
国保サイドの
努力、それから
国保を周囲から支えて
医療問題を
地域全体で考える、そしてそうやっていく中で一元化への道をさらに推し進めていく、こう考えるべきでありましょう。このような見解から見ますと、間違いなしに、これは一元化への一里塚という点では大変評価ができます。さらに細部の点で細かく調整がつきましたならば結構なのではなかろうか。しかし、細かい点を無視いたしますと、それはそれで後日の問題につながりますので、必ずしも手放しで賛成し切れるというものでもあるまい、このような見解を持っております。
失礼しました。(
拍手)