○田井
参考人 ただいま御紹介をいただきました私は、トラックの運送を中心といたします貨物輸送に従事する労働者約十二万五千人で
組織しております略称運輸労連と申しますが、そこの代表であります田井と申します。よろしくお願いいたします。
本日、出席いたしましたのは、
交通安全対策に関する件につきまして、トラック運送に携わる労働者として、営業用トラックの立場からこの問題についていろいろと申し上げたいと思っておるわけであります。
営業用と申しますか、
事業用トラックの
事故の
特徴を申しますと、最近つとにトラックの
事故がふえておりますが、その中でも営業用のナンバー、いわゆる緑のナンバーをつけた車の
事故がふえております。新しい公表されました数字は知りませんが、手元にある六十年の発表されました数字によりますと、営業用トラックが二千六百九十四件の
事故を起こし、その中で死亡しましたとうとい人命は千百四十二人だというふうに書いてあります。二回に一回は必ずトラックの
事故は人を殺すというようなまことに悲惨な事実、しかもこれは営業車でありまして、プロと称する
運転者がこういう
事故を起こしておるわけであります。私ども、同じ仕事をしている者としまして、心から残念に思えてならないわけであります。また、このトラックの
事故というものは単独で
事故を起こしておりません。例えば、山の中で
居眠り運転でがけにぶつかったとか谷底に転落したなんという話はありますけれども、その数字はまことに少ないわけであります。ほとんどが都心に入る、いわゆる大都市であるとか中都市であるとか消費活動が大変盛んなところに進入をしてまいりますその都市周辺の路上で、前方を走る車あるいは停車をしている車に追突をするという、いわゆる複数以上の車に大きな被害を与えるような
事故を起こしておるわけであります。
先ほどから多くの
参考人の方から
お話がございましたように、
事故は必ずしも
一つの要件で起きるわけではありません。ある条件下にありまして幾つかの要件が重なり合って発生されるものでありますけれども、私どもが職場に参りまして、
事故を起こした
運転手あるいはそういう
環境等についていろいろ
調査をいたしますと、その最大の
原因は、過労
運転、過積み
運転に尽きると私は思います。このことにつきましては、私ども、この
交通安全対策特別委員会で今まで幾つかの御討議をいただいておりますのを議事録等において見させていただいておりますけれども、
先生方から御指摘がありますように、私は、まさしくトラックの
事故の最大の要因は過労、過積み
運転であると思っておるわけであります。
トラック
運転労働者の労働時間は一体どのぐらいなんだということになりますが、
昭和六十一年のトラック
運転者の労働時間は、年間で、路線大型、これはバスで言えば路線バスみたいな
対象を考えていただけばよろしいと思いますが、これが三千百七十時間であります。そして区域大型、これは貸し切り車です。バスで言えば観光バスのように貸し切って行くという車でありますが、これが二千九百十時間であります。これは決して労働組合が
調査した数字ではありません。業界の全ト協という
事業者団体が
調査いたしました数字でございます。同年におきます全産業平均の年間の労働時間は二千二百八十時間でありますから、これは路線で八百九十時間、区域で六百三十時間いわゆる全産業労働者の平均労働時間よりも多いわけであります。しかも、年間の総出勤日数は、全産業は二百七十五日でありますけれども、トラックに従事します労働者は二百九十二日でありまして、これも全産業から見れば十七日、そして非常に労働時間の少ない電気、ガス供給
事業に働く労働者に比べますと、三十四日間多く出勤をしておるわけであります。言葉をかえれば、他の労働者よりも一カ月余計に働いているということであります。
長時間労働の問題についてはそれにしましても、一日の労働内容が問題になってくるわけであります。
昭和四十七年より私どもは、全国の主要
幹線道路を通過しますトラックを
対象にいたしまして
調査を続けてまいりました。毎年同じ時期、十一月九日というふうに設定をしておりますが、秋冬繁忙期で忙しくなる時期をねらって実態
調査をやっておるわけであります。大体一万一千枚のアンケートを集約することができるということは、一万一千人の
運転労働者に
意見を聞いたわけでありまして、北海道から鹿児島に至るまですべての
幹線道路を
調査しておるわけです。
昨年度の
調査の中で、九時間を超えて
運転をしている
運転者が何人おるかということでありますが、一万五百十九人の
対象の中で三七・一%と申しますから三千八百九十五人、約四千人近いトラックの
運転手は九時間を超えて
運転をしておる。
運転ということはそれだけが労働ではありません。トラックを走らすためには運行の指示も受けますし、
車両の点検もいたしますし、また大きな問題は荷物を積むということであります。これは大変な時間と労力を必要とするわけであります。それに当然に食事をする時間もあるわけでありまして、こういうことから考えると
運転時間九時間ということは、この
運転者の労働時間、いわゆる拘束時間というのは恐らく十六時間を超えておるだろうと私どもは見ておるわけであります。それならまだいいのですが、その中で十二時間を超えて
運転をしている者が一五・八%、千六百五十九人おるわけでありまして、これが毎年毎年ふえておるわけであります。五十八年の
調査では九・九%、約一〇%だったのですが、六十一年には十三・三%、そうして昨年度には一五・八%というふうに、いわゆる長時間労働が非常にふえておるわけであります。昨年度の場合には十二時間以上というものが余りにもふえておりましたから、十二時間を超えてもっと上を調べてみようじゃないかといって十四時間まで調べましたところ、十四時間
運転をしておるのは七百四人おりました。六・七%であります。この
運転手は、恐らく二十四時間中、食事をとるかトイレに行くかその他以外にはほとんど休んでいなかったのではなかろうかというふうに私どもは見ざるを得ないわけであります。
殊にこういうトラックの
運転が目立つのは、農漁産物を送る白トラの大型トラックに見られる状況であります。例えば、石巻であるとか八戸の方から魚介類を積んで走っている車は、東京方面に向かって走っておりますけれども、
運転手にはどこへ行くかはわかっていないのです。これは逐一公衆電話から自分の出荷をするところに問い合わせをしまして、漁業組合の命令によって、横浜に入るかあるいは東京に入るかはその直前までわからないのです。そのときの相場いかんによっては横浜に入れ、あるいは引き返して東松山に入れ、こういう指令が出て走るわけでありますから、
運転手はとにかく西の方に向かって走っていく、こういう状況で走っているわけであります。これが今の長時間労働を生む
一つの大きな問題であろうと私は思うわけであります。
そのように、今のトラック
運転者の
特徴的な勤務態様というものは単なる長時間労働ばかりじゃなくて、今言いましたように目的がはっきりしていない、あるいは慢性的な長期の出勤
状態であるわけです。二百九十二日といいますから恐らく日曜日もろくに休んでいないのです。こういう状況で働かされているわけであります。それに出勤、退社時間が明確じゃありません。そして、自分がどこに行くかというのは出勤してからでなければわからないわけであります。きょう出かけるのだけれども、自分の奥さんにどちらに行くのかと聞かれてもわからない。会社に行ってみないことには、おれは大阪に行くんだか仙台に行くんだかわからないというのが実態であるわけであります。そして夜間運行がほとんどでありまして、その途中において食事をとる場所などは皆無であります。こういう状況の中で働かされておりますので、私どもはよく言うのでありますけれども、
事故、けが、弁当自分持ち、こういうのがトラック労働者の実態であります。
最近の
特徴的なことを申し上げますと、
交通渋滞それから出荷時間のおくれ、そういう中でも到着時間だけは厳格に言われております。かつての東京は、隅田川の清洲橋あたりには営業倉庫が乱立をしておったわけでありますけれども、今その
地域はすべてしょうしゃなマンションかあるいはビジネスのビルディングに変わっております。
昭和の初期にあれほど必要であったあの営業倉庫が、今日その百倍に近い経済活動があるにもかかわらずなぜないのだろうかといいますと、これこそ現在の日本のコンピューター情報によりますところのいわゆる無在庫営業活動といいますか、経済活動が徹底をされておるということであります。そして一方では、デパートにしろスーパーにしろ、夜の営業時間を延長しております。私は決してそのことが悪いと言っているのじゃありません。多くの方々が共稼ぎをし、働く時間も非常に不規則になっておりますから、できる限りお店を開いて利用しやすくすることはいいことでありますけれども、それは同時に、そこで売られる商品を翌日注文する時間が遅くなるということであります。したがって、そこで集約をしまして問屋に行く、問屋で荷づくりをする、出るというのは、かつては営業
車両は七時にはもう各方面に向かって出発をしておりましたが、今は十時であります。東京から大阪に向けて出ていくとすれば十時、十時半であります。しかし、到着する時間は間違いなく朝の何時までということでありますと、どこでアジャストされるかというと、走っている時間でアジャストせざるを得ないわけであります。
かつて、私はチャップリンの「モダン・タイムス」という映画を見ました。労働者が機械に振り回されているということであります。今様に申し上げますと、トラックの
運転手はまさしくコンピューターに振り回されておるわけでありまして、その情報によって自分たちが荷物を取りに行ってもまだできていない、しかし到着する時間は間違いなく決められる。そうすると、その到着時間にもし行き先で
交通渋滞があると大変なことになって、もうおまえのところは使わないというふうに言われるので無理をしてその町の近場まで走っていく。途中には適当な休養
施設もない、車を駐車する場所もない、そうすると何でも近くまで行こうということになって、それが今日の都心周辺におきますトラック
事故の最大の
理由だと私は思っております。
今、若い者はトラックの職場に職業を求めようとしておりません。先ほどから申し上げておりますように、四十七年の
調査では、トラックの職場というのは五三・七%が若者だったのです。二十代のもう本当にエネルギーにあふれた、多少一日ぐらい寝なくたって平気で走っていけるような若者がトラック
運転をしておりました。しかし、六十一年の
調査では、この五三・七%の率は二六・八%に下がっているわけであります。そして四十歳台が二五・二%、五十一歳以上のトラックの
運転手が五・六%、足しますと三〇・八%、今はもう
高齢者の
運転手でトラックが
運転をされているというわけであります。私どもの
調査の数値でありますから、これでもってすべてがそうだと言うわけではありませんが、大ざっぱに言って、私どもが
調査をするごとに年齢が高くなっていくわけであります。
昭和四十七年ごろは約三十六万人の営業用トラック
運転手がおりました。仮にこの五三%といいますとその半数以上、約十九万五千人が若者の職場であったわけですけれども、今七十万人と言われている営業用トラック
運転手の中で若者は十八万八千人ですから、かつての絶対数すら割っておるわけであります。そして、四十一歳以上のトラックの
運転手は今三〇・八%を占めておるわけでありまして、現在では二十一万六千人。この階層はかつてはわずか二万人ぐらいしかいなかったのです。約十倍にふえておる。現状ではこの人たちが日本の経済を支えているのだということであるわけでございます。一日に十二時間も
運転をさせられる、あるいは休みもとれない、こういう中で若者がどうしてデートができましょう、こんな職場をなぜ選びましょうか。今やこの職場は、人生を達観した高年齢者がこの仕事をやっているということであります。
この間も新聞を読みましたら
事故を起こした記事が載っておりましたが、それは、予定した
運転手が出勤をしない、ポカ休みだ、だからおまえ行ってくれと言われたその
運転手が
事故を起こした。確かにポカ休みは悪いと思います。しかし、二百九十二日も出勤をさせておいてポカ休みもないだろうと思うのです。
運転手も一般の常識のある社会人でありますから、冠婚葬祭にも出ましょう、あるいは
子供の
学校の参観日にも出なければならないと思いますけれども、そういうような休みさえとれないままに出勤命令を出して、たまたま休んだらポカ休みだと言う。言うならば通常の社会人と同じような休みを与えておいてのポカ休みなら別でありますけれども、私は、そういう新聞を読みますといささか憤りを感ぜざるを得ないわけであります。ドイツの組合でアンケートをしましたのを見ましたけれども、トラックの
運転手が退職する最大の
理由は、
地域のいろいろな行事に参加できないからだ。例えば
子供の運動会であるとか、
地域で何かいろいろと催し物があってもそれに参加できない、そうすると
地域の人からけげんな目で見られる、だから私はもうトラックの
運転手はやめるんだというようなことが出ておりまして、私はなるほどなと思って感心した次第であります。
したがって、私はここでトラックの
運転手の立場から、もしこの
事故を減らすということならば、冒頭申しましたように、過労と過積み
運転をなくすことだと思います。そのためには、諸
先生方にお願いをいたしまして、ぜひともそういうような規制をつくっていただきたいと思います。どんなに口で言っても、どんなに業者を集めて、あるいは関係します行政機関がそれぞれお集まりになって
お話しになっても、
運転をする労働者に長時間労働をやめさすことはできないのです。過積み
運転をなくすことはできないのです。殊に、数年前に過積み
運転に対します両罰規定が強化された際に、過積みが一時激減をしたことがありました。まさしくそのことが実態をあらわしているのじゃないでしょうか。過積みをしようとしたのは
運転手じゃなかったんだ、両罰規定が強化されて、安全管理者や荷主がびっくりしてもうやめようと言ったから一時過積みがなくなったんだということから見ましても、そういうような規制をぜひともひとつつくっていただきたいと私は思っておるわけであります。
ことしの四月から
基準法が改正をされました。そして、ことしから四十六時間、一九九〇年代のある年に参りましたら週間の労働時間は四十時間だと言われておりますが、残念なことに、一番
事故を起こし、世間に御迷惑をかけております私どものトラック
運転手の労働時間は、三年間四十八時間で据え置かれておるわけであります。一方において
事故をなくせ、あるいは
交通の労働者は非常に社会悪を生み出しているのじゃないかと言いつつも、ほかの労働者が四十六時間、四十四時間の労働時間を受けておるときにいまだに長時間労働の中で働かされているというこの実態の中で、その労働者におまえ
交通事故を起こすなと言って、それがどのように聞こえるでしょうか。もちろん、私たちは真剣にこの問題を取り上げてやっております。しかし、そのことは耳にうつろに聞こえると言っても言い過ぎではないのじゃないかと私は思っております。どうか諸
先生方にお願いするのは、この
交通の労働者の労働時間をぜひとも少なくしてもらう。そのことがもしできれば、私はここで、少なくとも営業トラックの
事故の激減はお約束できると考えておる次第であります。
時間が参りましたのでこの辺でやめますが、どうかひとつよろしくお願いをしたいと思います。